◆殺島飛露鬼
殺島はバックステップで間合いを取ると苦笑いを浮かびながら叫ぶ。強化された能力を生かすために仲間達より真似すべき者はいた。それは己を殺し娘が死んだ遠因になった忍者だ。よくよく考えれば当たり前だが、感情が今現在まで思いつかせなかった。だがそんな余裕はない。花奈の為に魔法少女を殺す為ならなんだってやる。
そして先程の突きの握りを見つめる。この握りは弾丸だ、手を弾丸にして発射させる。人体で行う近距離銃撃、手で作る巨大な弾丸を忍者の身体能力で発射すると思えば、極道車を真っ二つにして、爆撃でも傷一つつかないヘルズクーポンを服用した体の首を飛ばせるのも納得だ。
拳銃を使っているせいなのか忍者の技でありながら不思議としっくりきていた。名づけるなら弾丸拳か。
殺島はスノーホワイトに駆け寄る。上段の振り下ろし、今までは回避していたがギリギリまで引き付け弾丸拳で弾く。空かさず足への斬撃がくるがこれもひきつけて柄の部分に弾丸拳を叩き弾き、その隙に素手の間合いに入る。
今までは相手の心を見透かしたような斬撃変化に対応できなかった。だが弾丸拳ならギリギリまでひきつけて迎撃すれば、斬撃変化より速く弾ける。そして威力も大きく弾いた際の硬直時間も今までのように手で弾くより長い。その結果間合いを詰められる。
殺島は心臓に向けて弾丸拳を放つ、スノーホワイトは体を半身にして避けるが完全に回避できず、血飛沫が宙に舞う。今までと違って逃げ方に余裕が無い。さらに肉を抉った感触もやけに軽い。魔法少女の肉体は独特の硬さがあったがそれを一切感じさせない。忍者はとんでもない技を使っていたものだ。
攻守は逆転し殺島が攻め立てる。スノーホワイトも何とか凌いでいるがダメージは着実に増えている。だが全く楽観できない。タイムリミットがいつ迫るか分からない、あと一秒後にきてもおかしくはない。
大技で勝負を決める。脳裏に浮かぶのは狂弾舞踏会を破ったあの忍者の技。殺島はスノーホワイトを怯ませた隙に大きくバックステップする。
「スノーホワイト、これがオレの最後の技だ。
殺島は屈むと弾丸拳で床を抉り大小の破片がスノーホワイトに向かっていく。そして即座に立ち上がると向かっていく破片を足場にして跳ねながらスノーホワイトに向かっていく。
これは自分を弾丸に見立てた
だが忍者の技をまるパクリするのは癪なのでオリジナル要素を入れる。飛んでいる小さい破片を回収し、弾丸拳の先に置いて押し出し散乱している破片に跳弾させスノーホワイトに当てる。弾丸拳で押し出された破片の威力は黄金の旋風で飛ばした日本刀の欠片以上だ。
忍者の技×狂弾舞踏会、これが
スノーホワイトは向かってくる破片を薙刀で捌く、大きくても直径2メートル程度のアスファルト、魔法少女にダメージを与えられないが、このマジカルヘルズクーポン2枚服用状態の膂力で押し出された破片の威力は無視できない。
捌いている間に狂弾舞踏会をぶち込む。狙いは急所ではなく手足、より本命の弾丸拳を当てやすくする。
スノーホワイトは跳弾を捌き切れず、被弾し表情を歪ませる。その隙を狙って首に弾丸拳をぶちこむ。辛うじて避けられるがその代わり左腕を吹き飛ばし、左腕が宙に舞う。スノーホワイトは思わず苦悶の声をあげる。
この技はそれだけで終わらない。スノーホワイトを通り過ぎるが破片を使ってUターンし弾丸拳をぶちこむ。眉間を狙うがこれも辛うじて躱されるが右目に命中しえぐり取る。
三度Uターンして弾丸拳を放つ、ぶつけ本番ではやったせいか技の精度が甘い、ここは的が小さい首や頭ではなく胴体を狙う。
破片がスノーホワイトを通り過ぎる間に3往復、合計6発の弾丸拳を放った。スノーホワイトはその場で膝をつく。命は奪えなかったが左腕を奪い、右目を奪い、両脇腹と左右のふとももを抉った。
次で決まる。殺島は勝利を確信し床に弾丸拳を放つ。その前に目の色は黒から白に戻ると同時大量の血を吐きその場に倒れ込んだ。
♢スノーホワイト
激痛でのたうちまわりたい衝動を堪え、膝をつきながら殺島を見下ろす。心の声でずっと聞こえていたタイムリミット、それを過ぎると死ぬらしいがついにきてしまったのか?
痛い苦しいという困った声が大音量で聞こえ、思わず悲痛な気持ちになる。それ以上の音量で『スノーホワイトを殺せないと困る』という心の声を出しながら殺島は立ち上がろうと懸命に藻掻き倒れこむ。気が付けば両手手首足首が無くなっていた。
スノーホワイトは痛みに堪えながら殺島を見続ける。魔法少女との戦いは何が起こるか分からない。ほぼ勝ったと思っても思わぬことで痛手を負うという経験は何度もあった。
最後の足掻きで道連れにされないように意識を張り詰め備える。たとえ友達がもだえ苦しむ姿を見続けたとしても。
すると何かがビルの中にやってくる。それはバイクだった。無人のバイクは暫く直進して殺島の近くで横転する。バイクには詳しくはないが無人であそこまで動かないはずだ、何らかのマジックアイテムの可能性がある。
意識をバイクに向いてしまったので再び殺島に向ける。その目には大粒の涙が零れ落ち、花奈が死んで困るという心の声が耳を塞ぎたくなるほどの大音量で鳴り響く。
花奈というのは殺島の友達で。戦いの最中でも魔法少女を殺せないと花奈が暴走できなくなって困るという声が聞こえていた。
この困った声を通して余程大切な人だったのか分かる。そしてスノーホワイトを殺したいという声はすっかり聞こえなくなる。
殺島は突如方向転換してビルを出ようとしているのか匍匐前進で進んでいく。その進みはあまりにも遅く、動くたびに痛みを訴える声が大きくなる。
「私が持ってくるから……そこで待っていて」
スノーホワイトは痛みに堪えながら声をかけビルの外に向かって歩き始める。殺島は予想外の行動に驚き見つめるが、構わず歩き始める。
今すぐにでも倒れ込みたい、叫んで痛みを和らげたい。だがそんな時間はない。殺島は何かを遺そうとしている。
それは切実な願いだった。死にゆく運命であり何もしなければ少しでも安らかに死ねるのに、激痛に耐えながら誰かの為に何かをしようとしている。それを手助けしなければ魔法少女ではない、いや友達ではない。
歯を食いしばりながら可能な限り速く歩き外に出ると前に向かって歩き始める。辺りは戦闘の影響で道路はひび割れ、脇の街灯は無残に破壊されている。しばらく歩くと壊された車のバリケードの残骸を見つけ、目的の物はその中に紛れていた。
スノーホワイトはバイクのシートを開け中にあるスマホを手に取り来た道を戻る。急がなければ。
ビルに戻ると殺島はまだ生きていた。だが両腕の半分は無くなり、脚もひざ下まで無くなっていた。
「小雪……どうして?」
「これが殺島君のスマホ?これで何するの」
「皆に……伝えねえと……
「分かった」
顔認証でロックを解くと言われた通りメッセージアプリを開き、ハイエンプレスと書かれたグループをタップする。
「
スノーホワイトは頷くと殺島は顔を歪めながら息を吸い込み喋り始める。
「
昔……聖華天ってどうしようもねえ暴走族が居た……そいつらもお前たちと同じで……暴走っていう人様を踏みにじる手段でしか幸福を感じられねえ、世間から理解されない孤独な者だった……ある日
そこからは大人の日々に……困難の日々に耐える日々だ、黄金時代の楽しかった日々との
お前らにも同じように
世間はお前らの弱さと苦悩を
スノーホワイトは殺島の言葉を一語一句漏らさず打ち込んでいく。死の間際まで仲間を案じ、励ましの言葉を残す。その深い仲間への愛情に心打たれていた。
「
殺島は申し訳なさそうに呟く。今の言葉は本心もあるがスノーホワイトに負けたケジメ、そして魔法少女アニメを見て、芽生えた良心が悪事である暴走をして周りの人を傷つけないようにとしたのだろう。
それでも暴走を絶対にするなと言わなかった。殺島の言う大人の日々が死ぬより辛いという事は全く理解できない。だが殺島は同年代なのにそれを十二分に分かっているようだった。
清く正しい魔法少女として暴走を推奨する最後の言葉は打つべきではない。しかし殺島の心の底から心配してメンバーに送った死ぬつもりなら暴走していいと優しさ、姫河小雪としてはその言葉を打たない訳にはいかなかった。
「
「だって私は魔法少女だから、誰かのために……、友達のために何かしたい」
殺島は意外そうに眼を見開き、いつもの人懐っこい笑みを浮かべる。日本史上最悪のテロ行為をした集団の副リーダー、罪なき人を多く殺した悪人、それでもはっきりと言える。殺島飛露鬼は姫河小雪の友達だ。
「そうか、じゃあ死ぬまで
「うん」
スノーホワイトはコクリと頷く。殺島はひどく穏やかな顔をしていた。仲間達にメッセージを遺せて満足したからか。
それでもここまで心穏やかにいられるものか、逆に殺島が死ぬという事実にスノーホワイトのほうが心乱されていた。
「スノーホワイト……いや小雪は戦っている時に何を思ってた?」
「皆の為に殺島君を倒して暴走を止める。ラ・ピュセル、ハードゴアアリス、リップル、私を理想の魔法少女だと肯定してくれた人々のために負けられない。そして殺島君のために負けられないって、殺島君が好きな魔法少女は悪人に負けて皆を守れないなんて望まないって」
「そうだな……確かにオレが
殺島は思わず自嘲するがどこか嬉しそうだった。姑息で卑劣な手を使い、時には魔法で相手の心の柔らかい部分を掘り起こし目的を達成する。それが魔法少女スノーホワイトだ。
そしてそれは殺島が望む姿ではない、今思えば魔法を使い殺島の精神を揺さぶれた。それでも実行しなかったのは友達の理想を崩したくないという気持ちが無意識に働いた。
魔法少女は想いの強さによって強さが変わる場合もある。今回はラ・ピュセル達のために負けられないという想いと殺島の理想であろうとする想い。それが生き残れた要因かもしれない。
殺島の身体は気が付けば四肢が欠損した状態になっていた。残された時間は少ない。
「小雪……
「なに言ってるの!?」
死に際なのに何を聞いているのだ!?リアクションが面白かったのか殺島は悪戯っぽい笑みを浮かべながら補足する。
「そっちじゃねえ、人を殺したことがあるかって意味だ……もしオレを殺したと思ってるなら気にすんな……途中で
殺島は笑い話のように軽い口調で語る。それは屁理屈だ、スノーホワイトが追い込んだせいでドーピングをしたのであって、手を下さなくても殺したことに変わりない。最後まで友達を気遣おうとするなんてやはり優しい。その思いを無下にしないように笑みで返答する。
そしてメンバーや花奈という友達のために残りの人生を全て捧げた。その覚悟に敬意を抱く。例えばリップルを助ける為に命を捧げられるだろうか?
「そういえば名乗りで魔法少女狩りって言ってたけど、あれは何だ?」
「あれは私が悪党魔法少女を捕まえていて、それを知って周りが勝手につけたあだ名で」
「だったら……オレの拳銃
スノーホワイトは黙って頷く。その体は胸部と首のみになっていた。何故生きているのか分からないがもう残された時間はもうない。
「小雪に
「私もだよ、ねえ知ってる?テレビの魔法少女は実在の魔法少女だって……」
「ああ……」
「あるイベントでキューティーアルタイルと写真撮ったんだ」
「うお、テレビで見たまんまだ……」
殺島は嬉しそうに笑う。違うそうではない、もっと言うことがある。こうしている間に着実に殺島の身体は崩れ落ちている。
「人間が魔法少女と対等に戦うなんて物凄い事で、皆の為に花奈さんの為にどれだけ努力して、どれだけ頑張ってきたか伝わってきた。殺島君は誰にも理解されない孤独な者を救って、その者達のために最後まで戦い抜いた。魔法少女としては絶対に認められない。でも魔法少女じゃ救えない人たちを救った。それは姫河小雪として殺島君の友達として誇りに思う。
私は忘れない。その笑顔と優しさを、世界中の人が貶しても罵倒しても私は褒めるから。そして殺島君達の幸せを奪った分だけ、理想の魔法少女として多くの正しく弱い人を守り助けるから。その姿をずっと見ていて」
スノーホワイトは涙を流しながら笑みを作る。最後は笑って送りたい。もし逆の立場であれば殺島はそうするだろう
「ああ、
「なに?」
「スマホ……フォルダFS……パスワードせいかてんとはな」
殺島は最後の言葉を伝えると沈黙する。その表情は驚くほど穏やかなで笑顔だった、エントランスには物言わぬ生首と涙を流しながらその首を抱えるスノーホワイトだけがいた。