暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第6話 ブレーキはずれた彼女の倫理観

 

◆殺島飛露鬼

 

「やっぱ拳銃(チャカ)はリボルバーに限る」

 

 宝島会事務所、組長が座る机の横には甲冑が置かれ明らかに高価な品だというのが見て取れる。その事務所の一角にある応接用の黒革のソファーに座りながら殺島はリボルバー型の拳銃のシリンダーをクルクルと回しながらグリップを握り宝島組員はその様子をじっと見つめる。一部の者の目線には憎しみが籠っている、だが大半の者には憎しみはなく、感謝の念すら籠っていた。

 宝島組襲撃から3か月、殺島はキムラマニュアルに基づいた振り込め詐欺や麻薬売買で宝島組に巨万の富をもたらした。それにより組員の収入は数倍にも膨れ上がり、末端の組員すらそこら辺の幹部クラスのように豪遊できるほどになっていた。そして多くの上納金を献上する宝島組はヤクザの系列内でも注目を浴び地位も向上している。

 一昔前のヤクザならどんな化け物だろうがプライドを優先してどんな犠牲を出しても殺しにきただろうが、今は良くも悪くもビジネスライクだ。金をもたらすものを優遇する。

 それに少しでも機嫌を損ねれば3ヵ月前の惨劇が再現され、キムラマニュアルが敵対組織や他の組に暴露されるというのは分かっている。他の組がキムラマニュアルを使えば宝島組の優位性は一気に無くなるのを理解している。

 

単車(マシーン)代はとりあえずこれだけあれば充分か、あとは預託(プール)しておきます。また必要になったら貰いにいきますんで」

 

 殺島が座るテーブルの目の前には宝島組の月収入1割分の札束が広がっていた。だが札束を数個ほど懐に収めると残りは全て組長に献上した。

 

「おう、分かった。しかしいいのか?少しぐらい懐に収めれば美味いもん喰って、上等な女買えるだろ」

「それはいいっす。ただ(チーム)のメンバーを増やして運営するのに金が必要なだけで、必要な分だけ貰えれば充分」

「そうか、欲がねえな」

「でも必要な時は預託(プール)から使って依頼しますよ」

「おう、その時は組員使ってやってやる」

 

 殺島は人懐っこい笑顔を浮かべながら組長に礼を言い宝島組事務所から去っていく。組長たちはその姿を黙って見送った。

 

「これで準備は整ったな」

 

 殺島は煙草を吸いながら歓楽街を歩き1人呟く。3か月前にハイエンプレスが捕まったのは力が足りなかったからだ。それは単純な暴力もそうだが、警察の動向を知る情報力や逮捕されないように警察の動きを鈍らせる圧力を与えるのに必要な財力、様々な力が足りなかった。

 だが今は違う。宝島組を利用し武器を手に入れ警察の情報も手に入れた。これで警察に逮捕される可能性はぐっと減り、万が一捕まえに来ても対抗できる。覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)はまた活動できる。花奈の願いは叶えられる。

 

 殺島はスマホを取り出し花奈に電話した。

 

「よう暴走族女神(ゾクメガミ)、待たせたな」

暴走族王(ゾクキング)待ってたぜ」

 

 

◆生島花奈

 

 23時第七港湾倉庫前、ここは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)が初めて暴走した出発地点である。そこには殺島と花奈は立っていた。殺島は煙草を吹かしながらリラックスしているが、花奈は煙草を咥えながら腕を組みつま先で何度も地面を踏み足元には吸い殻が何本も落ちていた。

 

「落ち着けよ」

「だってよ。もし皆が来てくれないと思うと」

 

 花奈はいつものような強気の態度ではなく、不安そうな心情を一切包み隠さず吐露する。ヤジの電話がきた直後にまずしたのは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のメンバーへの謝罪と暴走への参加要請だった。

 メンバー1人1人に直接会い生まれて初めて土下座をしながら、助けられなかった事や逃げた事を謝罪した。そしてもう2度と警察に捕まらないようにするから参加してくれと必死に頼み込んだ。

 

 今まで非が有っても決して謝りはしなかった。ましてや土下座など屈辱の極みだ、そんな真似は絶対にしないと思っていたが、そんな見栄やプライドは欠片も無くなっていた。

 合理的な判断と云えど仲間を見捨てたのは事実であり最低なリーダーであるのは分かっている。それでも皆と走る喜びや楽しさを一度味わってしまったからには1人で走るなんて耐えられない。もう一度皆と走りたかった。

 すると前方が明るく照らされる。それを見て不安そうだった花奈の表情は明るくなる。これはバイクのライトの光だ、そして光量は増していき、それに比例するように花奈の表情も明るくなる。そして特攻服を着た皆を見て満面の笑みを浮かべる。

 

「久しぶり」

「時間前集合なんて暴走族らしくないな」

「ガンマ!デルタ!それに皆!」

 

 花奈はリーダーとしての外面を装うのを忘れて思わず喜びの声を挙げる。目の前には28人の仲間がいる。それは警察に捕まる前の覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)のほぼフルメンバー、つまり花奈の誘いに大半がのってくれたのだ。

 

「アタシを信じてくれたのか?逃げだしたのに?」

「別に逃げたのは恨んでない。あのまま抵抗していたら暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族王(ゾクキング)も捕まっていた」

「そして暴走族女神が信じろと言うなら信じる。それに走りたいしさ、この3ヵ月間は虚しかった。何回か走っただけだったのにこんなに魅了されているとは思わなかった」

 

 ガンマとデルタの言葉に残りのメンバーが同意するように頷く。それを見て花奈は涙が出ないように懸命に堪えた。

 

「よし出発(デッパツ)だ!…と言いたいところだが、皆1時間ぐらい待ってくれ」

「おい、出発(デッパツ)しないのか?」

警察(イヌ)に見つからないように色々やらなくちゃいけねえからさ。ちゃんと1時間ぐらいで戻ってくるから、それまで皆で駄弁って時間潰してくれ」

 

 花奈は困惑する皆をよそにバイクに乗り七港湾倉庫をあとにする。

 

 

◆殺島飛露鬼

 

「暴走族王は今まで何してた?学校にも来なかったし」

警察(イヌ)への対抗策を考えたり色々だな。デルタは何してた?」

「俺は1人でバイク乗り回してた。結構運転上手くなったぜ。今なら暴走族王にも勝てるかもな」

「じゃあ、いつか明将山で勝負(バト)るか」

「いいね。やっぱり1人で走るより2人や大人数で走るのがいいな。1人だと虚しかった」

共感(わかる)ぜ。ガンマは?」

「私はちょっとバイクとか改造したかったし、パパ活で稼いでた。あっ、本番なしのヌルイやつ。刺激はなくてつまらなかったけど必要経費だから」

「バイクを改造(カスタム)するなら良い店紹介するぜ、あとバイクの改造費とかは俺が出すから、退屈(つまら)ねえパパ活なんてしなくていいから、余った時間は好きな事をしてくれ」

「暴走族王は金持ちなの?」

「この3ヵ月で株を勉強して運用したら大儲けだ。児戯(ヌルゲー)だわ」

「マジかよ。そんな頭良かったのかよ」

「おう、こう見えても頭脳派(インテリ)だぜ」

 

 殺島はキーボードを打つ動作をしながらおどける。デルタは感心しガンマは胡散臭そうな目線で見つめる。かなり無理がある嘘だが、ヤクザのシノギを手伝って金をもらいましたと言うより信じるだろう。

 デルタは自主的にバイクに乗り、ガンマはバイクを改造しようとしている。良い傾向だ。2人とも着実にバイクで走るのに夢中になっている。

 それから殺島はメンバーと会話を交わす。そこで気づいたのが予想以上に走りたいという欲求が大きいという事だ。次捕まれば将来に確実に影響が出る。それを恐れチームから抜ける者もいると予想していた。だが蓋を開ければ脱落者はゼロだ。

 将来が影響を出る以上に走りたい欲求が抑えきれないのか、花奈の言葉を信じ警察から守ってくれるとついてきてくれたのか。どちらが分からない。しかし皆が走りたいという欲求を募らせたのも、言葉を信じたのも花奈の功績だ。

 あの走りには華と呼ばれるような何かがあり、皆を高揚させ楽しませる。それは10万人の暴走族を率いた自分にも無い才能だ。そして発する言葉の1つに人の心を動かし信じ込ませるパワーがある。こういうのをカリスマというのだろう。

 花奈は自分と比較し過小評価している傾向があるが、リーダーとしての資質は決して劣っていない。初めて会った時はそこまで資質はないと評価していたが、ここまで成長するとは思わなかった。血縁関係もないがまるで娘の成長を見ているような妙な嬉しさがあった。

 

「うん?火事か?」

 

 メンバーの1人が呟く。確かにサイレンの音が僅かに聞こえてくる。音は徐々に大きくなり何台もの消防車が出動しているのが分かる。そして消防車は近辺を通過したのか徐々に音が小さくなる。そして暫くすると花奈が帰ってきた。

 

「用事は済んだか?」

「おう」

「じゃあ、出発(デッパツ)前の挨拶たのむぜ」

 

 殺島は花奈の肩をポンと叩くがそこで花奈の変化に気付く。一時間前と今では雰囲気が違う。今の雰囲気は前世の聖華天のメンバーやヤクザに共通する何かがあった。

 

「3か月前!ハイエンプレスは警察(イヌ)襲撃(カチコミ)されて、皆は捕まり、アタシと暴走族王(ゾクキング)はオメオメと逃げた!あの時は本当に悪かった!」

 

 花奈は地面に伏せ土下座する。その姿にメンバー達は気にするな、頭を上げてくれと言うが頑なに頭を上げない。見なくても分かる。今の花奈は腸煮えくりかえり、あの日の悔しさや屈辱が込み上げているのを必死に耐えている。

 そして己の力不足で花奈に屈辱を与え土下座させている。二度と花奈にこんな思いをさせない戒めとしてその姿を網膜に刻み込む。

 

「もう負けない!警察(イヌ)にアタシ達の暴走(ユメ)絶対(ゼッテー)邪魔させない!その為にアタシと暴走族王(ゾクキング)は力を蓄えてきた!だから信じてついてこい!」

 

 花奈の言葉にメンバー達から熱狂的な声があがる。警察は強力な組織だ。平和を守るために鍛えた肉体と数十万に及ぶ所属人員、それは武力という意味でシンプルに強い。さらに法律によってこちらを逮捕し拘束し司法の手に引き渡し裁かれ社会的に抹殺する。

 前の世界の極道にとっては警察や政治家(ブタ)は上役を攫って拷問の1つや2つなどして従わせればいい楽な相手だが、一般人にとってはそうではない。日本最強の組織が警察だ。

 その強さはここにいるメンバーも大なり小なり分かっている。普通に考えれば30人程度の暴走族が勝てる相手ではない。だが花奈の言葉が正常な判断を狂わせる。言葉や身振り1つ1つが警察に勝てると信じてしまう。

 

「それでだ。警察(イヌ)には邪魔されない手筈になっているが、万が一遭遇した時のために武器を用意しておいた。好きな物使ってくれ」

 

 花奈の様子を見計らって用意しておいた物を皆に見せる。日本刀、ナイフ、閃光弾や催涙ガスやマスクなど全ては取り分を支払って宝島組に用意させたものだ。

 メンバー達は刃物などを恐る恐る手に取り感触を確かめながら怪訝な視線を向ける。一介の高校生が用意できる品物ではない。その視線に対しては多くは語らずと曖昧な笑みを浮かべておく。

 

「流石暴走族王(ゾクキング)これで警察(イヌ)に勝てる。そしてアタシはこれだな。一度使ってみたかったんだよ」

 

 花奈は嬉しそうに日本刀を手に取りブンブンと振り回す。それを見てメンバー達も次々と武器を手に取る。多少は武器を手に取るという行為に対して抵抗感があったのだろうが、まるでおもちゃを手に取るような花奈に感覚が麻痺させられたようだ。

 

「暴走族王、拳銃はないのか?」

「有るぜ。けれどあれは素人(トーシロー)だと当んねから頼らないほうがいい。使うとしたら脅しか、これぐらい近距離で打つかだな」

 

 特攻服の懐から早打ちの要領で拳銃を取り出しデルタの額に銃口を突きつける。デルタは全く反応できず突然拳銃を突きつけられ、死を想像したのか若干顔を引きつらせる。殺島はこんな感じだと笑みを浮かべながら銃を懐にしまいデルタの肩をポンポンと叩く。

 ヤクザ時代の流島という舎弟がおり、早打ちを極道技巧まで昇華させ自分は銃を構えず、相手が拳銃を構え引き金に指をつけている状態でも速く打てる程の速さを誇っていた。そこまでの速さはないが油断している一般人が反応できない程度のスピードは出せる。

 それからメンバーにお守り代わりに拳銃と閃光弾や催涙ガスとマスクを渡し、あとは各々好きな得物をとっていき、其々の得物について話し騒ぎちょっとした雑談時間になる。その僅かな時間に殺島は花奈のもとに向かい1つの質問をする

 

「花奈、さっき消防車がここら辺を通ったがどこかで放火したか?」

「よく分かったな。流石暴走族王」

 

 花奈は全く悪びれることなく感心していた。

 

◆生島花奈

 

 

暴走族王(ゾクキング)待ってたぜ」

 

 ついにきた

 

 花奈は電話越しに満面の笑みを浮かび、喜びを一切隠すことなく言葉を発する。自分とヤジ以外の覇威燕無礼棲のメンバーが警察に捕まり、おめおめと逃げた時にヤジは言った。

 

 オレが警察にも暴走(ゆめ)を邪魔されない力を得るから、それまで辛抱してくれ。

 

 その言葉を信じ花奈は待った。走りたいという欲求を抑え込み、仲間を捕まえた警察に復讐したいという怒りを抑え込み耐えた。そしてヤジに全てを任せるわけにはいかない。

 花奈はヤジと2人でリーダーだと思っているが、名目上は花奈がリーダーとなっている。トップである自分が警察に邪魔されず暴走する手段を考えなくてどうする。それから花奈は学校にも行かず只管考え手段を思いついた。

 切っ掛けは燕無礼棲に所属していた時の体験だった。走り終えて皆で休憩している際にメンバーの1人が余興で手品と評して自分の財布を盗んだ。トリックは単純で注意を逸らしている隙に盗んだ。その手法をミスディレクションと呼んでいた。

 そして活動を停止している時にふとした拍子に火事場泥棒という単語を見た。いつもは何の記憶にも残らないのだが、燕無礼棲時代の思い出と火事場泥棒という単語が混じりあるアイディアが浮かぶ。それは花奈にとって世紀の大発見をしたような喜びと衝撃だった。

 

 暴走する前にそこら辺の家を燃やし、警察の注意を引き対処に当らせている間に暴走する。警察に遭遇しても負けない手段は手に入れたが、仲間達の犠牲がゼロで終わる保証はない。

 理想は仲間達に犠牲を出させず暴走する。これならばそれを実現できる。1つ問題があるとするならば、ある意味警察に恐れをなして逃げているようで非常に癪だという点だ。仲間達が安全に走るためなら己のプライドなど幾らでも捨ててやる。

 

 そして暴走当日に自身のアイディアを実行した。仲間達から離れて当日の進路から反対側に向かい、目に付いた民家に用意しておいたガソリンをぶちまけて燃やした。

 放火は重犯罪だ。以前であれば倫理観と罪の意識で実行しなかっただろう。だが今は不思議とそんな感情は一欠片もない。優先すべきは覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)でいかに暴走するかだ。それ以外はどうでもよく、家が燃えようがそれで人が何人死のうが関係ない。

 

「ちなみに放火した理由は何だと思う?」

(デコイ)、放火で警察(イヌ)の注意をひきつけている間に暴走する。そうすれば見つかる可能性はグッと下がる」

「100点満点だ暴走族王!」

 

 花奈は嬉しそうに拳で殺島の胸を叩く。この冴えた方法は誰にも思いつかないと思っていた。だが何も言わずノーヒントにもかかわらず完全に言い当てた。友でありライバルでもある男が同じレベルの考えを持っているのが堪らなく嬉しかった。

 

「それでどこを燃やした」

「ここから五キロぐらい先の家」

 

「だとしたら今日の暴走だが、こっちで放火したから警察(イヌ)は恐らくこんな感じに来るだろうから、この(ルート)でどうだ?」

 

 ヤジはスマホを取り出すと画面には地図が表示され今しがた放火した地域を丸で囲み、近場の警察署や交番地図から放火現場に向かう道順を青い線で書き、最後に赤い線を書いていく。この赤い線が今日の暴走ルートだろう。

 

「よし、それで行こう」

 

 赤い線で書かれたルートを脳内に叩き込む。N市らへんは散々走ったのでどこらへんかはすぐにわかる。

 

「よし皆武器は持ったな?改めて覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)出発(デッパツ)だ!」

 

 花奈の言葉にメンバー達は興奮が抑えきれないと声をあげた。

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