暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

60 / 61
第60話 叫べ

♢姫河小雪

 

 目を開けると白い天井が飛び込んでくる。状況判断しようと体を起こすがふらつき軽く眩暈がした。ぼんやりする頭で改めて周りを確認する。

 左を向くと窓から青空と太陽と立体映像が浮かび上がり電子妖精のファルが嬉しそうに飛び跳ねている。

 

「意識が戻ったぽん!」

「うん、あと声は少し小さくして、頭に響く」

「ごめんぽん」

「ここはどこ?」

「病院ぽん」

 

 その言葉を聞き自分の様子を改めて確認する。服は病院着を着ており胴体や左腕に包帯が巻かれている。

 

 左腕?

 

 右手で左腕を掴み存在を確認する。確か殺島の攻撃で左腕は欠損したはずだ。そして気づかなかったが右目も見えている。右目も同様に欠損したはずだ。

 

「殺島君と戦った後はどうなったの?」

「そのことや、今後について色々話すことがあるので、少し待って欲しいぽん。暫くしたら説明する人が来るぽん。あと魔法少女に変身しないでぽん」

 

 ファルに言われて今の状態に気づく。今の身体はスノーホワイトではなく姫河小雪だ。そしてファルの言葉に従い何も質問せず待つ。起き抜けのせいか頭がぼんやりとしているので時間を置いた方がいい。

 頭の回転の鈍さを感じながらここに居る前の記憶を思い出す。ハイエンプレスが首都高で暴走し、それを阻止しようと首都高に行き殺島と遭遇して戦った。結果重傷を負いながら殺島に勝利して最後にスノーホワイトにメッセージと依頼を託して息絶えた。

 数分後扉が開き2人の人物が入ってくる。1人はミニの浴衣にウサギ耳の少女が鷹揚な微笑を浮かべて入室する。明らかに魔法少女だ。

 もう1人は紫髪マル眼鏡の少女、きりりとした眉から意志の強さと神経質さを感じる。容姿もそうだが雰囲気も魔法少女ではない。

 

「私は監査部所属のマナ、そして同じく監査部の下剋上羽菜だ」

 

 紫髪の少女はウサギ耳の少女に手を向けて紹介し、羽菜は「下剋上羽菜と申します」と丁寧に頭を下げる。

 監査部所属の魔法少女と関係者か、スノーホワイトも監査部所属ではないが独自の捜査権を持つ外部職員という扱いだ。

 一応は非正規と正規職員なら正規職員のほうが立場は上なので、失礼のないようにベッドから立ち上がろうとする前に、羽菜が無理に立ち上がらなくて大丈夫ですと言ったので、首を曲げて挨拶する。

 まるで未来を見たかのようにこちらの行動を予知し気遣った。恐らく動きを見て予測したのだろうが相当に速い。これだけで実力者であるのが分かる。

 

「いくつか質問がありますが構いませんか?」

「構わん」

「首都高での暴走はどうなりましたか?被害は?」

「ニュースで知る限りでは数時間程度で暴走は終わった。だが死者5万人以上、重軽傷者はその数倍、さらに暴走に関係する火災が数百件、日本、いや世界でも史上最悪のテロだ」

 

 マナは怒りを滲ませるように吐き捨てる。無関係な人間が命を落としたことに悲しみ、それを起した加害者に大きな怒りを抱いている。監査部に相応しい正義感の持ち主である。スノーホワイトの中で評価が上がる。

 

「私はどういう経緯でこの病院で治療を受けたのですか?」

「そこの電子妖精から監査部に、スノーホワイトが重傷を負ったので保護及び治療をしてくれと連絡が届いた。そして監査部の者がお前を回収し治療を施した。因みにここは監査部の息のかかった病院で身元がバレる心配はない」

「そうですか、ありがとうございます。ファルもありがとう」

 

 マナと羽菜に頭を下げ、ファルに礼を言う。ファルはどういたしましてだぽんと言うが声のトーンがいつもと違う。そしてマナは懐から紙を取り出し渡す。書面には請求書と辞令と書かれていた。

 

「請求書は治療費だ、そしてさっき言った通りここは監視部の息がかかった病院で、治療も監査部のものしか受けられない。よってお前は監査部の外部職員ではなく正式に監査部所属になった。治療費は払えなければ給与から天引きしていく」

 

 マナは事務的に報告していく。だが声色に喜びと怒りがうっすらと混じっている。

 

「ごめんぽんスノーホワイト、こうするしかなかったぽん」

「いいよ、生きているだけで充分、ありがとうファル」

 

 小雪はファルを慰める。恐らく事後承諾で監査部に入る条件で治療してもらったのだろう。

 スノーホワイトは監査部の外部職員であり、監査部と同等の権限を持ちながら監査部より自由に動けた。その立場はやりやすかったが同時に疎まれていたのは薄々感づいていた。 

 今回の件で丁度良いとばかりに、当人が受け答えできない状態かつ選択肢がない状態で迫ったのだろう。魔法の国らしいやり方だが責めるつもりはない。

 

「では早速職務を果たせ、後でこの件について報告書を纏めてもらうが、その前に訊いておきたい事がある。答えろ」

「分かりました」

「この暴走行為では魔法少女の関与が確認されている。そしてお前と戦った魔法少女は魔法の国に登録されていない野良魔法少女の可能性が高い、仲間や誰に魔法少女にされたか言っていなかったか?」

「私が戦った相手は魔法少女ではありません。魔法使いでもありません、人間です」

「強制的に監査部所属になったのが気に入らないのか?ちゃんと仕事をしろ」

「事実を話しています。戦った相手は人間です」

「調べはついている。お前の近くにあった男性の頭部を調べた結果魔法少女になれると判明した。現場の状況から考えてあの男性が魔法少女でお前と交戦したとしか考えられない。まさか男性と知り合いで庇っているのか?」

 

 マナは語気を荒くしながら胸倉を掴みかかろうとするが羽菜が慌てて抑える。普通に考えればそれしかあり得ない。だが事実は違う。

 殺島が言っていたことは本当で魔法少女の才能があった。それでも魔法少女ではなく殺島飛露鬼として挑んだ。合理的ではないが勝算はあったのだろう。

 いや違う。魔法少女として悪事の為に戦いたくなかった。魔法少女を愛し憧れながらなれないと悲しそうに語ったあの言葉は真実だと思っている。

 

「なら魔法使いでもない人間がお前を死ぬ寸前まで追い詰めたとでも言うのか!?」

「そうです。相手は強く助けられなければ死ぬまで追い詰められました」

「どうやってだ!?」

「推測ですがドーピングです。マジックアイテムを使っていましたがそれだけで人間にやられない自負はあります。相手の身体能力は平均の魔法少女程度はありました。さらに目が黒くなってからはさらに向上しました」

「その相手と何分間戦った?」

「少なくとも5分以上」

 

 スノーホワイトの言葉を聞きマナは沈黙思考する。これだったら可能だが、だとしても時間が長すぎると2人の存在を忘れたかのようにブツブツと呟き続ける。

 

「まあその人間についてはとりあえず置いておく。人間との戦闘については報告書で可能な限り詳細に記載しろ」

「了解しました。あと魔法少女の関与と仰っていましたが、私が戦った人間を魔法少女と認定して、魔法少女が関与したという事ですか?」

「違う。魔法少女は最低1人居て暴走に関与した。魔法少女以外にあの大規模破壊は無理だ」

「その魔法少女とリップル、隻腕隻眼の忍者風のコスチュームをした魔法少女が交戦したという情報はありませんか?」

 

 あの日暴走を止める為にリップルと別れて行動した。魔法少女が関与しているならばリップルは交戦した可能性が極めて高い。仮に逃げていれば交戦していないがそれはあり得ない。

 リップルはこの病室にいなかった。今は治っているが片腕片目を無くす重症だ、リップルなら心配でずっと見舞いに来て回復するのをずっと待っている気がする。そうでなくてもファルが報せ、この場に駆けつけてくる。だが今のところ姿を現さずファルもリップルに報せたとも言っていない。

 もしかすると交戦の際に重傷を負って未だに意識が戻っていないのかもしれない。

 

「現場を調べた結果、魔法少女同士が戦った痕跡があった」

「そうですか、それでリップルが病院に搬送されたという報せはありますか?」

「ない、そして……暴走に関与した魔法少女が大規模破壊は凄まじく、並の魔法少女ではとても防ぐことも躱す事も難しいだろう。さらにリップルという魔法少女は現時点で行方不明だ」

 

 マナは平坦なトーンで告げ羽菜は僅かに目を伏せる。その言葉を瞬間最悪の想像が強制的に浮かび上がる。

 

「リップルは……死んだのですか?」

「断定はできない、だが未だに消息を掴めていない」

 

 マナは淡々と告げる。その言葉はスノーホワイトを慰めるでもなく希望的観測を含めるでもなく事実だけを伝えていた。

 

「現場の……、その大規模破壊の跡の情報はありますか?」

「この報告書に記している。目を通せ」

 

 マナは持っていたバックから紙束を取り出し手渡す。そこにはハイエンプレスの暴走について纏められており、大規模破壊についても記されていた。

 首都高道路の一部五キロメートルが消失し、何らかの魔法による破壊である可能性が極めて高い。現場の写真も貼付され、その写真からも相当の破壊力がある魔法が使用されたのが窺える。

 心ではリップルの生存を訴え続ける。だがリップルの魔法や身体能力や性格、それらを魔法少女として培った経験と分析力とで判断し、現状に鑑みれば見る程最悪な想像が事実として確定し始める。

 

「あと、現場周辺にこれが落ちていました。鑑識の結果魔法で作成されたものだと判別されています」

 

 羽菜は懐から何かを取り出し小雪の前に置く、それは手裏剣だった。それを見た瞬間止めどなく涙が出て、人目も憚らず声をあげる。

 

 

 リップルが死んだ

 

◆FS

 

 FSはソファーに座りジュース片手にTVに映る映像をみつめる。今いる場所はFSの隠れ家で間取りや内装はごく普通の一軒家である。

 だが防犯面は普通ではなく、知り合いの魔法使いに頼み魔法によって許可した人物以外は誰もこの部屋に入れない。

 TV画面はほぼ緑一色に染まっていた。そこは秘境と呼ばれるような森林である、森林の最深部には魔法のゲートがありそこを通過すると、とある魔法使いが作ったと呼ばれる拠点があった。

 そこから進んだ最深部の一室、壁には蔦が絡まり苔も生えていた。その中心部には祭壇があり、そこには自然界ではあり得ない黒色の宝石が捧げられていた。

 その祭壇を挟むように2人の魔法少女が対峙していた。1人は金髪でピンクのワンピースを着た魔法少女で名前はヘリーマリー、もう1人は銀髪褐色でワイシャツにチノパンで黒いコートを着た魔法少女で名前はピースである。

 

「ピース……何でこうなっちゃったんだろう」

 

 ヘリーマリーが今にも泣きそうな表情を浮かべながら目の前に居るピースに問いかける。

 

「分からない……、敢えて答えるなら運命かな。こうなるって最初から決まっていた」

「親友になって、こうして殺し合うのも?」

「そう」

「神様は残酷だね」

「そうかも、でも寧ろお礼を言いたいぐらい」

「なんで?親友を殺さなきゃいけないのに」

「ヘリーマリーと会う前は何一つ楽しくなかった。でも会ってから世界に色がついた。殺さなきゃいけないのは本当に辛い。それでもそれ以上に楽しい思い出を貰った。だから実質プラス。この後の人生はヘリーマリーとの思い出を抱きながら生き続ける。この思い出は何万回思い出しても擦り切れないから」

「私も絶対に忘れない。ピースとの楽しい思い出と殺したという罪を背負い続けながら夢をかなえるから」

 

 ピースは穏やかな顔で答え、それにつられるようにヘリーマリーの表情も穏やかになっていく。そこだけ見ればまるで親友同士の何気ない日常のようで、今から殺し合いが始まるとは到底思えない。瞬間2人が距離を詰め拳を振り上げる。

 いよいよ物語は終幕を迎える。クライマックスを見届けようと画面に映る光景に意識を集中させる。

 

 ヘリーマリーとピースそれぞれ敵対する派閥に所属する魔法少女だった。ある切っ掛けで協力して任務をすることになり最初の印象は最悪だったが、協力して苦難を乗り越えたことで仲良くなり友達になった。

 ピースは誰との繋がりがない孤独な魔法少女だった。何も取り柄が無く魔法少女としての才能しかなく、魔法少女としての能力を使わなければ生きていけないので、仕方がなく魔法少女で居続ける。

 ヘリーマリーも人付き合いが上手く充実しているように見えるが、それは上辺だけの付き合いで真に心が通じ合った者は誰もおらずある意味孤独だった。

 ヘリーマリーにはある願い、いや呪いがあった。両親と妹の命を奪った魔法少女の存在自体の根絶、それにはあるマジックアイテムが必要だった。それを作る材料は祭壇にある黒色の宝石とピースの心臓だった。

 ヘリーマリーは呪いの為にピースを殺そうとしピースは拒絶した。ピースは誰よりも死を恐れた。虚無な人生であろうと生き続け、ヘリーマリーとの願いと輝かしい思い出と生きる事を天秤にかけ生を選んだ。

 今までは紡いだ物語はお互い信念のぶつかり合いの結果戦うパターンが多かったが、今回は違う。片方は生きたいという原始的な願いの為に殺し合う。視聴者としては信念のぶつかり合いの結果殺し合う方がウケるが、敢えて生存の為に戦うという方向で脚本を作った。

 2人は願いという呪いの為、生きたいという原始的な願いの為に戦う。どのような結末を迎えるかと興奮する一方、冷めた目で見ているFSも居た。

 この作品も悪くはないがやはり信念と信念のぶつかり合いの結果親友同士が殺し合うほうがいい。それこそ忍者と極道や、暴走族と魔法少女のように。そこから思考は画面に映る魔法少女からスノーホワイトに移る。

 今は監査部に正式に所属して活動しているようだ。友達のリップルが死んだことで魔法少女を辞めかけたようだが、その悲しみを乗り越えて魔法少女として理想を目指している。

 これが終わったらスノーホワイトを主役にしてもう一度脚本を組んでみるか、一度登場させた主役級の人物は登場させなかったが、続編も今まで違った物語になって面白いかもしれない。

 すると背後から破壊音が聞こえてくる。誰かが侵入してきたのか?あり得ない!思わぬ事態に何時もよりコンマ数秒ほど遅れて後ろを振り向く。20メートル先、そこにはピンク髪で白を基調にしたセーラー服風のコスチュームを着た魔法少女が無表情で立っていた。

 

♢スノーホワイト

 

「魔法少女自称FS、未登録の魔法少女活動、人間界においての活動によって与えた悪影響などの様々な罪状により貴方を逮捕します」

 

 スノーホワイトは魔法の袋から監査部で作成した令状を取り出し掲げる。正式に監査部に所属する前は有無を言わさず無力化していたが、正式な監査部職員では形式上の手続きを取らなければ他の部門や魔法の国から糾弾されるきっかけを与えてしまう。

 

「どうやってこの場所を見つけ侵入しましたか?」

「手首をくっつけた状態でこちらに近づいてください。拒否及び抵抗するようであればこちらも制圧の為に暴力を行使します」

 

 FSの問いを無視し無表情を維持しながら形式的な通告をする。

 

「そもそもどうやって私の存在を知ったのか?……ああ、殺島からですか」

「そう、殺島君が託してくれた」

 

 その言葉に今まで無表情だったスノーホワイトの表情が崩れる。殺島が死に際に残した最後の言葉に従いスマホのロックを解除しあるフォルダにあったメモを読む。

 ヘブンズクーポンを生産工場の所在、流通ラインや流通方法、ヘブンズクーポンを改良したヘルズクーポンとマジカルドーピングを服用の効果と危険性などが可能な限り詳細に記されていた。そしてFSやその仲間達についても。

 そしてFSは自分の意志で行動していると見せかけ巧みに誘導している。また本来ならばそうなるはずはなかったのに介入し、未来を変え被害を生んでいる可能性があるで野放しにしてはならないと、あくまでも証拠はなく主観であるが追記しながら記していた。

 殺島は万が一自身と花奈が負けて死亡した場合を想定し、善良な魔法少女が見てくれる可能性を信じて託したのだ。そしてその第一候補はスノーホワイトだった。

 殺島としてはスノーホワイトではなく、暴走を阻止した2人の魔法少女のどちらかという認識だった。魔法少女の慣例を無視して暴走を止めたその行動に、アニメの魔法少女のような清く正しい心を持っていると信じたのだ。

 そのメッセージを見た瞬間に思わずスマホを叩き割りそうになった。あの暴走のせいでリップルが死んだのにぬけぬけとお願いするな!

 だが寸前のところで踏みとどまる。殺島は間違っていたがその行動の根本は優しさからだった。暴走しなければ生きていけないハイエンプレスのメンバー、そしてリーダーの花奈の為に行動した。

 もしリップルが暴走しなければ生きいけないとしたら、同じ行動を取らなかったかと問われればしないと即答できない。

 何より殺島はムシが良いと理解しながらも託した。魔法少女の善良性を信じてこれ以上犠牲が出ないようにと。それに応えるのが理想の魔法少女であるとリップルの死に対する怒りを抑えた。

 

 そこからFSの調査が始まった。マジカルドーピングについてはマナを中心に横流していた魔法使いを探し検挙した。

 マナは非常時にマジカルドーピングを使用するために既に作成しある意味専門家だったので、材料を扱えかつそのような専門的な知識を持っている魔法使いは限られており、犯人の特定は容易であったと自慢げに語っていた。

 ヘブンズクーポンについては取り扱っているカルテルやマフィアを根こそぎ壊滅させ、世界的に流行していたが今ではすっかり流通しなくなった。

 正式に所属しているので以前のように簡単に襲撃できなかったがマナや下剋上羽菜などが清濁併せ込んだ駆け引きによって何とか実行できた。

 そしてこの住処も魔法のプロテクトが施されていたが、マナを中心とした監査部所属の魔法使いによって破った。

 最後にFSが介入して悲劇を生み出しているという推測、対面したことで推測が正しいと分かった。それは『自分のせいで殺島と殺し合いをしたと知ったら困る』『花奈を魔法少女にしたせいでリップルが死んだと知ったら困る』という自白に等しい困った声が次々と聞こえてくる。

 そしてこの魔法少女は理想の物語を作り上げるという身勝手な理由で介入し未来を変え悲劇を生み出している。クラムベリーや今まで検挙した悪党魔法少女と変わらない。

 

「私を殺さないのですか?リップルが死に、殺島が死んだ原因の一端ですよ?」

 

 スノーホワイトは唇を噛みしめながら耐える。FSの言う通り監査部の職務を無視して今すぐにでもルーラで切り刻み、柄で顔面を殴打したかった。だがそれはリップルや殺島が望む魔法少女ではない。

 リップルは殺し合いの中でも暴力を選ばなかったスノーホワイトこそが魔法少女だと肯定してくれた。

 殺島はフィクションの魔法少女達の善良さに憧れた。その善良さに感化されだからこそFSの行動が赦せず後の魔法少女の善良さを信じ託した。

 ここで怒りのままに暴行を加えれば、己の欲望のままに他人を害する悪党魔法少女と変わらない。

 

 FSは観念したかのように首を垂れる。だが次の瞬間に猛然とスノーホワイトに駆け寄る。だがスノーホワイトは困った声を通してその動きを予測し、令状を投げ捨て魔法の袋から拳銃2丁を取り出す。

 目にもとまらぬ速さで抜いて打ち出された弾丸はFSから外れ床や壁に向かっていく。その弾丸は跳ね返りFSの手足を的確に打ち抜き行動不能にする。

 

「マジカル極道スキル『ハイタイムピストルディスコ』あらゆる場所に跳弾する、変幻自在、3次元の弾道が敵を討つ。リップル、殺島君、終わったよ」

 

 スノーホワイトは床に這いつくばるFSを見下ろしながら呟く。

 

 この拳銃は殺島がスノーホワイトと戦った際に使っていたものだ。監査部が回収したが頼み込み、自分しか効果を知らず使いこなせないと虚偽報告を織り交ぜながら譲り受け、そこから使いこなすために業務や日常生活の合間を縫ってトレーニングに励んだ。

 彼我との距離は約20メートル、この距離であれば薙刀のような武器であるルーラより拳銃で攻撃したほうが速い。さらに相手の魔法は道具を通して直接作用する。斬りつけた瞬間ルーラを触り魔法を使われる可能性がある。一連の行動は合理的に判断した結果だった。

 だが別の意味も気づく、ある意味復讐なのかもしれない。この拳銃は殺島の武器であり遠距離攻撃はリップルの代名詞だ。2人の友人を死に追いやったFSには暴力を加えるのであればこれが相応しいのかもしれない。

 

「逮捕されれば刑務所に送られ封印刑が確実です。そこはある意味死ぬより辛いと聞いています。そこで反省し続けて」

 

 本来であれば今の言葉は言う必要はない。だが感情が抑えきれずつい絶望を与える言葉を投げかけてしまった。この行動は清く正しい魔法少女らしくないがこれぐらいの八つ当たりは許して欲しい。

 

「あとその極道スキル?使おうとしても無駄です。こういう類の魔法を対処する魔法少女はいますし、それが通用しなくても魔法少女の変身は絶対に解きません」

 

 最後に念を押すように呟く。相手は精神に寄生し乗っ取れるようだが困った声で欠点も言っていた。魔法少女の変身を解いた人間時でなければ精神は乗っ取れない。だったら一生魔法少女で居続ける。

 その言葉を聞いたFSは自身の終わりを悟ったのか床に伏せる。その目から完全に光が失っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。