暴走族と魔法少女   作:ヘッズ

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第7話 暴走族を選んでしまった

◆生島花奈

 

 覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)は第七港湾倉庫から市道を抜け国道に入る、先頭を花奈が走り、最後尾をヤジが走るという陣形である。

 皆は溜まった鬱憤を晴らすかのように思うがままに暴走した。前でチンタラ走っている車やバイクはクラクションや怒号で煽りビビッて逃げるドライバーを笑い、限界ギリギリまでスピードを出し流れる風景や風の感触を楽しむ。それだけで快感が全身を駆け巡り現実の窮屈さや退屈さが吹き飛んでいく。

 これはまさに麻薬だ、この快感の為なら何だってやれる。それは仲間達も同じだ。言葉にされなくても表情と雰囲気で分かる。楽しい事は1人よりより多くの人数と体験を共有するほうが楽しい。今は30人程度だが人数が集まり数百数千となったらどうなる?気持ち良すぎて死んでしまうかもしれない。

 一団は国道を抜け側道に入る。辺りは畑ばかりで交通量は驚くほど少ない。国道で前にいる車両を煽り抜くのも楽しいが、誰も居ない道で思う存分飛ばすのも楽しい。しかしその幸せな時間に邪魔が入る。

 

 後ろから耳障りなサイレン音と喧しい声が聞こえてくる。後ろを振り向くと白バイが4台一列に並んで追走してきている。警察だ。放火で注意をひきつけたと思ったが、見つかってしまったらしい。ヤジの描いた地図にはない動きだが、所詮予想は予想であり、想定外の動きはいくらでもある

 集団に緊張や不安や恐怖などの負の感情が膨れ上がる。メンバー達は過去に警察に負けた記憶が蘇っているのだろう。

 

「後ろの奴ら!スペース開けろ!」

 

 花奈は指示を出しながら急ブレーキをかけてUターンしアスファルトにタイヤの跡を刻み込む。後ろを走っていたメンバーは左右にばらけると同時にアクセルを回す。ここで警察を倒す!誰にも暴走は邪魔させない!

 アクセルを全開に回し先頭の白バイまでの距離を20メートルまで詰める。花奈はブレーキを一切踏むつもりはない、白バイ隊員もブレーキを踏む様子が無くスピードを緩めず突っ込む。このままいけば正面衝突で両者無事にはすまない、だが両者ともブレーキを踏むよう様子はない。その様子は宛らチキンレースのようだ。

 残り5メートルで白バイが正面衝突を恐れ右に曲がる。花奈はそれを追尾するように左に曲がりすれ違い際に左足で白バイを蹴りおす。それは必要最低限の力だったが白バイは制御不能になり転倒する。

 そのまま走りながら背負っていた刀を抜き取ると左手で刀を振るう。次の白バイ隊員を斬りつけ、白バイ隊員は血飛沫をあげながら転倒、次の白バイに向かうが恐れをなしたのか左にハンドルを切る。  

 逃すつもりはない。ハンドルから右手を放しシートに立ちトラースキックで頭を蹴る。先程の白バイ隊員と同じように派手に転倒する。

 最後の白バイも3人目と同じように花奈から離れようとするが、刀を放り投げハンドルを手に取り相手に近づき、ジャックナイフターンで急停止すると同時に前輪をコンパスの支点のようにして後輪を時計回りに振り回し白バイ隊員の顔面に車体を叩き込む。白バイ隊員は吹き飛ばされバイクから落車する。

 花奈は後ろを振り向き白バイ隊員達の様子を確認すると同時に放り投げた刀をキャッチする。全員派手に落車して血まみれになりうめき声をあげている。確実に病院送りだ。ダメージを確認し皆の元に戻る。

 

「うぉ~!暴走族女神(ゾクメガミ)超絶技巧(はんぱねえ)!」

「シートに立っての蹴りとかヤバすぎだろ!」

「しかもジャックナイフターンから(けつ)振り回しとか非現実(ありえね)!」

 

 皆が次々に賞賛の言葉を投げかける。その言葉に心地よさを覚えると同時に憎き警察を倒した達成感と皆の楽しみを邪魔する者を排除した安堵感を覚える。

 花奈は警察達からおめおめと逃げたその日から皆を守りどんな敵も倒せる力を手に入れることを誓った。どうすれば無敵の力を手に入れられるか?考えに考え抜きある答えに辿り着く。

 馬に乗って戦う戦国の武将のようにバイクを手足のように動かし敵を打ち倒す戦闘法、それこそが己を必要な技だ。その技術を身に着けるためにヤジに呼ばれるまでひたすら訓練をした。

 花奈はバイクの操作技術は卓越したものがあった。どんな危険な運転をしても事故は一切せず、誰よりも速かった。操作ミスも生まれてこのかた一切ない。

 そんな花奈でも己の理想に近づくために何度も操作ミスし転びアスファルトに肌を擦りつけ血だらけになった。それでも己の理想に辿り着くために練習を続けついに理想に到達し、走行中にシートに立っての蹴りやジャックナイフターンから後輪を振り回しての攻撃など、超絶技巧を難なくこなせるようになった。

 

「どうだ見たか!これが極道技巧(ごくどうスキル)女神の夢は止められない(インシブル・チャリオット)』だ」

「何すっか極道技巧って?」

「技術を極めたって超すげえ技ってことだよ」

「確かに、あれは誰も真似できねえわ」

 

 ヤジはハンドルから手を放し拍手をする。それに反応するように皆が先ほど以上に褒める。他人にバイクの乗り方を教えると短時間で誰もが普通以上にバイクに乗れるようになる。それをヤジは極道技巧『女神の神託』と名付けた。ならばこれも極道技巧だ。

 

 憎き警察を倒したことで皆のテンションを一気に上がり、皆はハイになりながら爆走する。その様子を見ると自然と笑顔が浮かべていた。

 だがその気分に水を差すようにまたしても警察が現れる。今度は前方からパトカー2台だ。

 

 花奈はアクセルを回しいち早くパトカーに突っ込む。恐怖は全くない、白バイ隊員4人を極道技巧で倒したことで自信をつけていた。

 パトカーとの距離は50メートルあったが瞬く間に詰まっていく。パトカーは正面衝突を避けようとブレーキを踏むが花奈はスピードを一切緩めない。

 花奈は極道技巧でどのように倒そうと考えるがふと懐に忍ばせている拳銃を思い出す。折角だから拳銃を使ってみるか。

 

 パトカーまで残り10メートル、ヤジが言うには素人はかなり接近しなければ当たらないらしい。もっと接近して打つ。残り5メートル、懐にある拳銃に手を伸ばす。この距離なら流石に当たるだろう。

 拳銃を発砲しようとしたその瞬間猛烈な悪寒が走る。何かマズい。その瞬間アクセルを全開に回しパトカーの間を駆け抜けた瞬間背後から爆裂音が響く。

 思わず急ブレーキを踏み背後を振り向く。すると視界に入ってきたのは炎上し大破しているパトカー2台だった。そして何か上から落ちて足元に転がってくる。花奈はそれを見て思わず目を見開く。転がってきた物は元は人間、今では生首という物体と化したものだった。その表情は驚愕と恐怖が刻まれている。

 

「見ろ!暴走族女神(ゾクメガミ)警察(イヌ)を殺した!覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)の勝ちだ!誰にも俺達の暴走(ゆめ)は止められねえ!」

 

 ヤジが勝利宣言のように生首を掴みながら高らかに声を挙げる。メンバー達は一瞬の静寂の後に感情を爆発させるように声を出した。

 

暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族女神(ゾクメガミ)暴走族女神(ゾクメガミ)

 

 メンバー達は己のあだ名を連呼しその声は周囲に響き渡る。何が起こった?拳銃で撃とうとした瞬間にパトカーが爆発した。これは事故だ。自分がやったわけではない。だが皆は自分がやったと勘違いしている。

 

「そうだ!アタシが警官(イヌ)を殺した!」

 

 花奈の言葉に覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)はさらに熱狂する。暴走族のトップならば伝説の1つや2つは必要だ。警察殺しならば伝説に相応しい。恐らく自分の手でおこった出来事ではないが、殺す気で拳銃に手を伸ばし、恐らく殺せただろうと自身を納得させる

 生首が転がっているということは1人が確実に死んだ。殺人は放火以上の重罪だ、普通であれば罪悪感に苛まれる。それは一般人でも喧嘩ばかりする不良でも変わらない。

 だが驚くほど罪悪感が湧いてこない。皆の夢や楽しみを邪魔する者が死んだのが堪らなく嬉しかった。

 

「よし皆!警官(イヌ)は殺した!これでアタシ達の暴走(ゆめ)を邪魔する者はいない!さあ!もっと楽しもうぜ!」

 

 皆は狂ったように歓声を上げアクセルを全開にしてこの場を後にする。その後の暴走はいつも以上に楽しく皆も同様だった。

 暴走時は雑談をするが主な話題は警官を殺したことについてだった

 

「流石暴走族女神(ゾクメガミ)警官(イヌ)ぶっ殺しちまったよ!」

「だろ!もう警察(イヌ)なんて怖くも何ともねえ!」

「拳銃で警官(イヌ)の頭ぶち抜いたんだよね」

「たぶん」

「だったら何でパトカーが炎上したの?何かおかしくない?」

「んだよ!アタシが殺した。それで充分だろ」

「それもそうか」

 

 不可解そうなガンマの肩をバシバシと叩く。そんなしょうもないことを気にしてどうする。今は暴走を楽しめ。その思いが通じたのかガンマはフッと笑った。

 

「そういえば暴走族王(ゾクキング)は?」

 

 デルタの言葉にふと周りを見ると辺りにはヤジの姿が見当たらない。何だマシーントラブルか?憎き警察が死んだ後の暴走という最高のイベントに参加できないなんて何とも間が悪い。次会ったらめいいっぱい自慢してやろう。

 景気づけとばかりにウィリーをかました。

 

◆殺島飛露鬼

 

 殺島は爆発四散したパトカーをじっと眺め、辺りに見渡し散乱しているパトカーの部品や生首を確認する。警官は確実に死亡しパトカーに備え付けられたドライブレコーダーは破壊されただろう。そして辺りには監視カメラが無いのは調査済みだ、これで証拠は残らない。思わず安堵の息を漏らす。

 今は聖華天時代と違い、監視カメラの数も増え悪事を働けば容易に足がつき捕まる。まずは監視カメラの数と位置の把握が暴走をする上で急務だった。覇威燕無礼棲(ハイエンプレス)が息を潜めている間にN市や周辺の道にある監視カメラを徹底的に調べ破壊した。

 破壊に用いた道具は宝島組から買った拳銃、普通に破壊しようとすれば銃口をカメラに向ける。そんな事をすれば破壊したのがすぐにバレる。だが殺島にはバレずに破壊が可能だった。

 

 極道技巧狂弾舞踏会(ピストルディスコ)

 

 超人的射撃能力と洞察力によって自由自在に跳弾を操る。生前の極道は己の技術を磨き超人的な力を有していた。その力は極道技巧と呼ばれている。

 殺島はカメラに映る範囲外から射撃し跳弾によって監視カメラの死角から弾丸をぶち込んだ。そして先のパトカーの爆発も殺島の狂弾舞踏会によるものだった。

 今のパトカーには生前と違いドライブレコーダーが備え付けられている。事故の瞬間まで映像が記録され、普通に銃口を向けて射殺すれば映像が残りバレる。

 花奈がパトカーに向かった際にやろうとした行動は予測できた。その瞬間懐から拳銃を取り出しパトカーに向けて銃弾を撃ち込む。

 それは監視カメラを破壊した時の応用だった。ドライブレコーダーの映る範囲を予測し、メンバーの影に隠れて死角に入り跳弾で見えないように殺す。目標は警官の頭ではなく燃料タンク、ドライブレコーダーは車両と正面衝突しても映像が残るほど頑丈だが、車両が爆発すれば壊れ映像が残らない。それを狙っていた。

 単純に弾丸を燃料タンクに打ち込んでも爆発はしない。タンク内で弾丸をぶつけ合い火花を発生させる。これで他殺ではなく整備不良による事故死だ。この方法で何人もの警察官を事故死として葬ってきた。

 他人にとって実現不可能な神業であり、理論上可能だが常識に凝り固まった警察がこの事実に辿り着くことは無い。そして殺島にとってこれぐらいの芸当は初歩レベルである。

 

 その後は花奈が警官を殺したと叫びメンバーに信じ込ませた。暴走族のトップであれば伝説と呼ばれる偉業の1つや2つ有ったほうが箔はつく。

 バレることはないが、もし花奈に警官を殺したのは自分で有り、手柄を押し付けたと知ればガチギレするだろう。実力不足なのに分不相応に祭り上げられるのを死ぬほど嫌っている。だが問い詰められればこう答える。どっちみち殺していたから問題ない。お前の手柄だ。

 

 花奈であればあの時に警官を射殺していた。失敗してもパトカーを破壊し車から引きずりだし殺していたという確信があった。花奈はこちら側の人間になった。

 

 暴走するために民家を放火して警察の注意を逸らすという方法は生前の聖華天での常套手段だった。当時は自分や聖華天のメンバーも含め当然のように実行した。それがもっとも暴走をする上で効果的だからだ。だが一般人は実行できない、倫理観が邪魔をする。

 もちろん世間から見れば異常な行動であり、悪い事なんだろうなという認識はある。それでも実行した。暴走をするのが何よりも優先され一般人が何人死のうが気にならなかった。

 一般人ができない行動を自分の欲求のために実行する。それは完全な異常者だ。その倫理観の違いは最早別種族と言っていいほどの差だ。例えるなら自分達は暴走族という種族であり、他は人間という種族である。

 警察に暴走を邪魔された憎さ、仲間達を見捨てた悔しさ、仲間達が捕まってしまったという申し訳なさ。このうちのどれかなのか、全部かそれ以外の要因かは分からないが、花奈は人間から暴走族という種族、自分と同類になった。

 

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