――代わりの「口」は、他に幾らでもあるのだから――
Chapter2:防り来よ、
Ch-2-Act-01
・見滝原市、某喫茶店個室ブース。
「ウ~~ンッ! マミさんのも良いけど、やっぱこうやってチャンとしたお店の紅茶は違うね~ッ!」
「さやかちゃん、紅茶はビールみたいに煽る物じゃないよ」
「……、」
「……マミさん? どうかしました?」
「この新作、家で再現出来るかしら」
「え」
駅近くの、余り学生の立ち寄らない小さな喫茶店。
何やら騒がしくなっていた病院からこっそり撤退した5人+αは、店の奥の方の団体用の仕切りのある席に着いていた。
只でさえ人気の無い店ではあるが、今の時間帯は客足が更に少ない時であるので彼女達以外の他の客の姿は無い。
店員も品を持ってきた後に店の奥に引っ込んでしまっていて、秘密話には持ってこいのタイミングだった。
「多分、アレをああして――でもそれじゃあ、これになっちゃうからダメだし……あっ、そうだその前にコレを――」
「……あぁ、マミさんが一人の世界に入ってしまった……」
「あー、こりゃ暫く戻って――」
「――二人共、今度から少し手伝って貰うわよ。覚悟していて」
「マジですか」
因みに適当に自己紹介し合った後に、あまり時間が無いので青髪の少女「美樹さやか」とピンクブロンドの少女「鹿目まどか」は普通に店のオススメの紅茶を、マミは新作のアレンジティーを、ほむらはブレンドコーヒーを注文し、最後に全員でシロノワールを一つ注文していた。
勿論、全て竜二持ちである。
件の彼は烏龍茶を頼んでから、静かにコーヒーを飲むほむらの左横でPDAを操作して何かを見ている。
気になったらしいほむらが、カップを皿に置いてから彼に聞く。
「貴方、さっきから何を見ているの?」
「地域系のニュースサイトを少し。病院の騒動が気になってな」
「……あの、どうなってますか? ひょっとして、あたしと同い年の男の子とかが……」
さやかが向かって右斜め向かいの竜二に聞く、その口調から先程の明るさが失せて代わりに緊張が現れていた。
そもそも、マミの後輩の二人が彼処にいたのはさやかの大切な“幼馴染”のお見舞いをする為である。
魔女との出来事から少し時間が経って、気が落ち着いて来た事で心配がぶり返したのかもしれない。
少しづつ顔にも不安が見え始めた彼女に、彼はチラリと目を向けてから少し明るめに言う。
「大丈夫だよ。入院患者には怪我人も死者もいないそうだ」
「ホントですか。……良かったぁ」
安堵の溜息を吐いてシロノワールをつつき出すさやかだったが、その右隣、彼の真正面に座るマミは食べ掛けのソレを取り皿に置いて、少し厳しい顔付きをして聞く。
「“入院患者”には、ですか」
「……ああ。看護婦の一人が足を撃たれる軽傷。そして……犯人が死亡したそうだ」
「あッ……!」
思わずといった風に、さやかの左隣のまどかが声を上げる。
周囲に重々しい空気が漂う中、ほむらが流れを断つように彼に問い掛ける。
「貴方はその看護婦を撃つ銃声を聞いた後に病院に入ろうとして、あの結界に取り込まれた。そういう事よね」
「その通りだ」
「って事は、今回も偶々取り込まれた?」
「少なくとも俺が入ろうとして入った訳ではないな。寧ろ俺はご遠慮したい方だよ」
正面のマミに答えて、二人で苦笑し合う竜二の横顔を見ながらほむらは眉を顰める。
彼の言葉には嘘がないように感じるが、仮に一連の事が偶然だとしたら少し疑問が残る。
それでは、キュウべぇ達が彼を警戒している理由が説明出来ない。
「ねぇ、そもそも貴方達って何時出会ったの? 随分と親密なようだけど」
「確か10日ぐらい前だったかな。俺が別の奴の結界に入り込んじまって、それを巴ちゃんに助けられた」
「それから一回だけお茶して、暫く会ってなくて今日になって病院前でバッタリ会ったのよ」
「……、」
明らかに納得していない雰囲気を出したほむらに、察したマミがさやか達と話し出した竜二に悟られない様にこっそり念を送る。
〈誤魔化せなかったのよ。何故か、私の魔法が通用しなかった〉
〈は……? 魔法が通用しない?〉
〈ええ、記憶操作の魔法が。それで居場所を突き止められちゃって、仕方なく〉
つい彼女の方に険しい目線を送るほむらだが、対してマミは自嘲的な苦笑いで応じる。
これで一つの謎は解けたのだが、更なる別の謎が生まれてしまっていた。
〈ひょっとしたら、先天的に魔力への耐性が強い人なのかもしれない。一種の特異体質を持ってて、その所為で無自覚に魔女の結界の隠蔽を暴けてしまうのかも〉
〈……本気で言ってる?〉
〈勿論ただの憶測よ。でも、そんな憶測も否定し切れない位に何も分かってないの。一応黙っていてくれているみたいだし、それを引き合いに変な要求とかはされてないから一先ずは様子見をしてるのだけど……〉
〈彼の「職業」は予想出来てるでしょう? 仮にそうだとしたら、そんな悠長な事をやっていたら手遅れになるわよ〉
〈そんな……でも、ならどうすれば〉
〈そこで、私に提案があるのだけど――〉
まどか達との会話を横から聞きながら、彼女達は静かに議論を進める。
〈彼の件は私に預けてくれないかしら。私の方の魔力にはまだ余裕があるし、余り褒められた事じゃないけど尾行や潜入には経験がある。彼の正体を突き止められるかもしれない〉
〈確かにそうね……、でも大丈夫なの? 相手がもし――〉
〈少なくとも、貴方よりは適役の筈よ。その代わり、暫くまどかを契約させる事は控えて欲しい。仮にそうだとして、もし彼や、彼の「上の人間」がまどかの素質に気付いたとしたら――〉
〈……そうね。余り考えたくないけど、この子達の身の為にも確かに見送るべきかもしれない〉
〈飲んでくれる?〉
〈今回は一理あるから。……言いくるめられた感じはするけど〉
不信感を隠さない言い方だったが、マミは納得したようだった。
変則的ではあるが、これで一先ずまどかの即時契約の危険は過ぎ去った事になる。
後は、この男だけだ。
そう思って、彼に目を向けた時だった。
唐突に、彼の方から着信音が鳴り響く。
「あ、すまない。少し外に出てる」
そう言って、彼は席を外して外に向かう。
既に親しみを込めた目線を送る「後輩達」と対象に、「先輩達」はジッと観察する様な視線を向けていた。
「……スカウト?」
『ああ。“
ジョージからの連絡に彼は眉を顰める。
此処での「スカウト」とは勿論、「勧誘」ではなく「斥候」の意味である。
『どうも怪しい倉庫を見付けたらしい。此処最近になって頻繁にトラックの出入りが激しい上に、使ったトラックは尽くロシアに飛ばされてるってな。“
「随分と急な進展だな。既に2週間近く探って何もなかったのに」
『二つ隣の五郷の外れだとさ。ローラー作戦みたいに片っ端から探ったから順位が後ろになって此処まで掛かったんだと』
つまりは、向こうの地道な努力が漸く実を結んだという事だ。
ブラブラと動いて話しているだけの「お仕事」から、やっと馴染みのある「活動」が出来そうで彼としても調子が戻りそうな気配だった。
「……で、一応聞くが“殿様”の方はどうなってる?」
『やっぱり芳しくない。向こうとこっちはどうも時間に歪があるらしいな。“殿様”もシラを切ってるし、俺達が元を取ってやるしかないようだ』
「何か、堀の下にトンネル掘ってる気分だな。本丸の直ぐ脇からアリの様にワラワラ兵士が湧いてきそうだ」
『実際そんなもんだろ』
ぐるっと肩を回して、浮つき気味だった気分を引き締める。
「あの子達の事はどうする?」
『こんな「デタラメ」な報告書を仕立て上げても見向きもされないさ。読み物としては最高だろうが、奴らにユーモアが理解出来るとは思えん』
「それで良い。……これでお別れだな」
『どうした? カワイ子ちゃんとの別れが辛いか?』
「まさか。“潰し”そうになくて精々したよ」
一先ずあの子達の料金の精算をしてから向かう、そう伝えて彼は通信を切る。
店内に引き返そうとした彼だったが、再び着信が響いた。
「誰だ?」
『公安部外事三課の者です。極秘捜査故にミスター・ルータスの許可を得てこの回線を使わせて貰っています』
……そう言えば、公安動いてるって言ってたなぁと数時間前の事を思い出す竜二。
だが態々電話を掛けてくるとは何事だろうか。
『誠に勝手ながら、貴方がこのPDAで利用した一般ネットワークのアクセス先を追跡させて貰いました。お調べになっていた事件に付いて上層部より情報開示の指示があったので、こうして連絡させて頂いております』
「……おい」
『本事件は、犯人の死因をまだ不明として公式開示しておりません。その事についてご報告を』
地味に人の端末に何してんの、と思ったが恐らく実際の実行者は「ヤマ」の連中だろう。
この三課の奴は只のメッセンジャーだろうし言うだけ無駄だ、と彼が諦めのモードに入る中淡々と女性の声は続いていく。
『犯人は数日前に入国した観光客で、凶器は密輸業者から入手したらしき「スプリングフィールドXD」。それをポーチに入れたまま自動ドアを潜り、先ずロビー内の看護婦の足を撃ち抜いた後に何度か威嚇射撃をしながら廊下の方に移動。目的は恐らく金銭目当てで受けた通院中の“ある人物”の殺害であるらしく、その人物の居場所を聞き出そうと別の看護婦を人質に取ろうとしたそうです』
「それで?」
『その途中で死にました』
「は?」
『人質を拘束しようと近づく最中に、突然胸を押さえて倒れてしまったそうです。直ぐに医師が応急処置に入りましたが、警察が駆けつけた時には既に事切れていました。遺体に目立った外傷は無く、直ぐに司法解剖が行われた結果、死因は血小板の異常凝固による心筋梗塞だと特定されました』
「それを何故隠す必要がある? 只の哀れな犯人のご不幸じゃないか」
『有り得ないからです』
飽くまで淡々と言い切る女性。
だが、彼はその中に凄まじい恐怖との葛藤を感じた気がした。
『血小板数に以上はなく、コレステロール値も正常。先天的な血栓症もなく、薬物乱用による血管の異常もありませんでした。つまりは心筋梗塞を起こす要素は全く無く、それは……まるで血小板が「意志を持って凝固して」犯人を殺したとしか考えられない状況だったそうです』
「ちょっと待て。自身の細胞が「意志を持って」母体を殺した、だと?」
『然もその固まり方が、心臓付近の血管中の血小板が一斉に凝固した様な異常な状態だったそうです。つまり……「心臓中の血管全てが瘡蓋で埋め尽くされていた」という訳です。これに対して、上層部は犯人は「自然死」では無いと判断しました』
「……つまり、お前達は特定人物の心筋梗塞を誘発し急速に発症させる得体の知れないテクノロジーを持った「真犯人」が居る、そう結論した訳か」
『その通りです』
いきなり奈落の淵に立った様な気分になった。
同時に、何故これを彼に伝えたかも大体理解できた。
「そんなテクノロジーを生み出せる連中は限られる……、お前等はこの事件は俺達絡みだと言いたい訳か」
『犯人が探していた人物については全く情報が入ってきていませんし、どのような因果でこの様な事態を引き起こされたのかは未だ不明ですが、何れにせよ警戒はしておくべきかと』
「忠告感謝する。其方もくれぐれも気を付けろ」
『分かっております』
今度こそPDAが完全に沈黙する。
直後に受信した事件の全容を記した極秘文書を覗きながら、彼は其処でもう一つの可能性に思い至る。
彼女達の話では、あの魔女は孵化したてで他者を誘い込む暇など無かった筈だという事だった。
きっととんでもない偶然ね、と慌てて病院に引き返そうとしていたさやかを宥めながらマミが呟いていたのを思い出す。
仮にそれが真実だとするなら、魔女が原因でないとするなら、この事件を引き起こせる「得体の知れないテクノロジー」を持った容疑者には――。
「……まさか、な」
『ヨシヨシ、結果論としてノルマは達成。これで彼等のラインが繋がるわ』
その姿をレンズ越しに捕らえた少女が呟く。
そこは彼の位置から1.3km程離れた高層ビルの、地上から40階程の一室だった。
空き部屋らしく古い蛍光灯以外は何も無い其処に、彼女はスナック菓子と折りたたみ椅子、ギターケースにその「中身」等を持ち込んでいた。
『いやー、彼女に計画を合わした時は「これだッ!」って思ったね。今日は彼女が見滝原市に来てからの最初の「定期健診」だった。それに合わせて「役者」を組むのはちょーっと大変だったけど、舞台が「病院」の方が予期せぬ死者は出にくいからね。まーそれを差し置いても元々、舞台「学校」は私は反対だったんだよな。未来の可能性のある子供達の前で「こんな事」やっちゃえばどんだけの損害を生むか計り知れないと言うのに、やっぱアイツ等には想像力が足りないんだよ』
小さな窓際に寄せた折りたたみ椅子に座る彼女は、窓枠に固定した関節のある支柱の先に取り付けた長い「棒」の幅の広がった方を右肩に押し当てて固定し、上部にくっついたかかなり大きくゴテゴテとしたスコープの近くに顔を寄せていた。
プラスチックと金属で構成された「棒」の真ん中を左手で支えてもう一方の細い筒状になった先を窓の外に数cmだけ押し出し、「棒」の後部の金属製の引き金ではなくそれよりも前に無理矢理取り付けられたレーザー照射器の様な物の引き金に右人差し指を掛けている。
もう分かるだろうが、彼女の持ち込んだ「中身」の正体は「狙撃銃」である。
正式名「L96A1」、当時“最も精度の良い銃”とまで言われた信頼性の高いイギリス製のボルトアクション式軍用狙撃銃、その改良モデルを彼女は握っていた。
その下に無理矢理オプションとして取り付けている、追加装備のグレネードランチャーより一回り大きい謎の“機材”の側面には「
『“ジーク”より“エーワックス”へ、作戦の完了を確認。少々“想定外”な経緯を辿った物の、最終的な成果は良好。“コントロール”よりお褒めの言葉を授かっております』
『あー、適当に流して。正直この程度の「おママゴト」で褒められても逆効果だし』
『了解しました』
彼女が足元に置いていた通信機から女性の声が響いてくる。
その声は、自らを「公安部外事三課」と名乗った人物と全く同じだった。
『で、そっちのセッティングは済んでるの? かなり急ピッチだった筈だけど』
『問題なく、“レックス”は既に配置済みです。最悪の場合も兼ねて“エミリー”も用意してますが、恐らくは杞憂に終わるでしょう。ですが、必要とあらば“ニック”の投入準備も整えますが』
『そっちは良いわ。“フランク”だけ準備しておいて』
『御意に』
通信機の方は見向きもせず、大きなレンズに顔を寄せたまま彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
左手を離し、円筒形の大型レンズに幾つもの小さなレンズをガトリング状に束ねた挙句に滑らかな表面のレドームすら上部に取り付けられているソレを軽く撫でながら彼女は言う。
『それにしても素晴らしい出来よね、このセンサースコープ。1キロ以上先の物が目の前に居るように感じるわ』
『貴方が提示したスペックを全て兼ね備えた、最高の開発チームが手掛けた貴方専用のハンドメイドです。一般普及にはまだまだ改良の必要がありますが、現状においてはコレを上回るスペックの物は1世紀は出ないものと予想されています』
『改良の余地があるのに?』
『常人には情報量が多過ぎて十全を発揮出来ません。貴方の処理能力があるからこその一品ですよ。今時で言えば、コンピュータ片手に弾道予測する観測手だけでなく、バックアップのレーダー設備まで全て一人で賄っている様なゲテモノですから。宛ら、「歩くレーダー基地」です』
『「キャッスル・イン・エアー」って名前も其処から? 正直縁起の悪いネーミングだと思ってたけど』
『“蒼いバラ”とニュアンスは同じです。常人には届かない実現不可能な「砂上の楼閣」。だけど貴方はその城主になれるのです』
『砂の城なんて、礫や粉末吸い込んで肺駄目にしそうだけど』
『その程度のヤワなお方ではない事を私は知っています』
彼女等が呟いている内に、一旦店内に戻った竜二が暫く間を置いて再び外に現れて、そのまま一緒に出てきた四人と別れて歩道を急ぎ足で歩いていく。その方向は五郷とは全く違う方角だ。
そのまま四人から遠ざかった後に彼は建物の影に入ってしまい、彼女の視界から完全に消失する。
『追っ手や狙撃手の存在を考えた動きね。良い感じに私達を警戒してくれている』
『彼女は動くでしょうか』
『間違いなく……ホラ、レーダーの反応が動き出した』
『もし、彼女が彼に撒かれなかった時はどうしますか?』
『その時はその時よ。さて、私も動かないと。貴方も“距離感”をもう一度確認しなさいよ。
『気を付けます……アウト』
抱えた狙撃銃の固定を素早く外し、折り畳み椅子ごとケースに突っ込んで彼女はソレを登山家の装備のように背負う。
その瞬間、室内全体に台風の様な強い突風が吹き荒れる。
空気が部屋の壁を叩く音と共に、部屋中の粉塵が舞い上がって煙幕の様に部屋に充満する。
「……ッ!? 何だ!?」
音を聞きつけたらしい警備員が廊下のドアから其処に踏み込むが、粉塵が晴れた向こうには開いた窓の前に落ちたスナック菓子の空袋以外には何も残ってはいない。
その袋も、その直後に窓から舞い込んだ風に吹き上げられて外へと飛ばされていった。
事態は急展開を迎えて、色々と動き始めました。
実際の所、このシーンから「バイオハザード」が始まると言っても良い気がします。つまりマミさんの活躍はいら(ry。
なので、ここから少しでも「バイオ」らしさを出していきたいと思っています。
さて、意外なあの子の特技を垣間見た所で、また次回。
色々と遊び的なパロディ満載な作品ですが、どうかお付き合い下さい。