「そもそも、我々の目的は「復讐」であり、下剋上である。既存の社会の中に潜む「闇」に不当に虐げられた我々には、その歪みを矯正する責務がある」
「まぁ、詭弁だけど。でも実際、
「――自称「世界の警察」、アメリカの奥深くには、イギリスの移民時代から続く「
「自由の国、「人種のサラダボウル」とは良い例えだ。要は、
「その「封建制度」――通称:「ファミリー」の失墜と根絶。これこそが、我々の共通の目的です」
Breaker's-03 「すれ違う不可知の
・午前中、見滝原市、駅前通りの喫茶店。
平日の街中、まだ昼休みにもなってない時間帯は、駅前でも人通りは少ない方だ。
居るとしたら、休暇の都合でお昼の買い出しをする母親や、旅行中の観光客、年金生活のお年寄りと言った辺りだろうか。
そんな訳で、ビジネススーツを着こなした女性が喫茶店で一服しているというのは、実は少し浮いた状態であるのかもしれない。
まぁ、勤務の手法は人其々だし、だからと言って何か問題になる訳ではないが。
そんな彼女の姿を、新たに喫茶店にやって来た「人物」が目に止めた。
「はぁ、疲れた疲れた」
そんな風に呟くのは、小学生にも見紛う背丈の「メイド服」の女の子だ。
この場で一番浮いている「彼女」は、だがそんな事をまるで気にする様子もなく、断りなく女性の対面に座り、律儀にやって来た店員にモカを注文する。
暫くして、店員が運んできたモカを受け取って、彼女がゆったりとそれを飲み始めた頃に、やっと女性は口を開いた。
「手筈は?」
「言われた事をちゃんと伝えたよ。後は当人次第」
「左様ですか」
「まぁ二度ドツかれたけど、あれはとんでもないね。私じゃ無かったら多分、「事故って」たんじゃないかな。相性もあるけど」
「貴方が応じてくれて良かったと心から思います。正直、かなり「利己主義」な人だと聞いてましたから」
「私は
モカの甘い臭いを味わう少女は、微かに口元を歪めて告げる。
その言葉の「裏にある物」を、その表情が暗に示していた。
彼女は、殺人鬼ではない。
人を殺す、命を奪う事を楽しむ輩ではない。
寧ろ、彼女程「命の掛け替えの無さ」、「命の重さ」を知る人を女性は知らない。
女性の敬愛し、仕える「主人」ですら、自覚という点ではこの目の前の「彼女」には及ばない。
だが、だからこそ。
彼女程、
「まぁ、でも今はそんな気は余りしないかな」
モカのカップを傾けながら、彼女は呟く。
肘をついて掌に顔を乗せる、その仕草には見た目不相応な、奇妙な年季が入っている。
大人顔負けの、不思議な色気すらも漂わせていた。
「あの子、何だかちょっと面白い。何というか、猫が一匹狼を気取るような、ちょっとニアミスしている雰囲気がそそられるね」
「......と言うと?」
「私の感想だけど、あの子は「進んではいる」んだけど、
「蛇の道は蛇、ですか」
「まぁね、私だから思う事もあるさ」
喫茶店に流れる
丁度、お昼の時間帯の曲に変わる頃合いだったようだ。
彼女は、胸を落ち着かせる様に目を詰むる。
「数奇な物だ、まさかこの場でこの曲を聴けるとは」
「......、」
「言っておくが、私のこの趣味は君の「主人」の趣味とは違う。何かの憧れでこうなったのではない。寧ろ逆だ、
静かで柔らかい、だが何処か激しさを持つ旋律に彼女は心を委ねているらしい。
頬杖を突く、その頭が軽く左右に振れていた。
「あの子も、薄々は分かってるんだろう。だから恐れる。私を「気味が悪い」と感じているだけ、まだまともだ。最も、私自身まだ「本気」になった事はないが」
「本気になれば、どうなると?」
「曲がりなりにも、私は
彼女の顔が手から離れ、肘をついたままの掌を軽く握って、また開く。
二度、三度、と開いたり握ったりを繰り返して、彼女は女性の顔を覗き込んだ。
したりげなその仕草に「何か」を察した女性が急に目を逸らし、声色が困った様な物に変化する。
白い頬が微かに紅潮している様にも見えた。
「......流石に、困ります。私には――」
「
一度強く手を握った彼女は、女性の反応に対し小さく微笑む。
その笑みに差す陰りは、彼女にしか分からない「物語」がもたらす物か。
それは、きっと「劇薬」。
小さな切っ掛けと時間だけで、他者の「生き方」を変えてしまう、彼女だけの「力」。
一度知ったら、二度と元には戻れない。
「さて、私は行くね。次の仕事があるし、折角来たからには少しでも「良い思い出」を作りたいし」
「え......えぇ」
伝票を持って、いつの間にか彼女は椅子から降りていた。
放心してた余韻から戻り切れてない女性は、間の抜けた返事をしながら、去っていく後ろ姿をただ見詰めていた。
その背中は、もう未熟な「少女」の物には見えない。
彼女の「力」、その自らでも抑えきれない「それ」が、女性の心を完全に捕らえていた。
「
その振る舞いは、寧ろ逆。
自らの「力」を、「本性」を隠す、彼女はまさに、
・昼、見滝原中学校、屋上。
何処までも青く広がる空を、同じ色の少女が恨みがましく見上げる。
曇天なら曇天で気分が悪くなるし、晴天なら晴天で自分が無視された様に感じる、最早八つ当たりだった。
「さやかちゃん?」
ぼんやりしていたのを気にしたのか、傍らにいた親友が声をかける。
二人は学校の屋上の一角に設置されたベンチに腰掛け、其々が弁当を広げていた。
声を掛けられたので、さやかは親友の方へ顔を向けた。
「どうかした?」
「いや、さっきからずっと怖い顔してたから......」
「ホント? ......ゴメン、ちょっと今日余り気分良くなくてさ」
その理由は、やはり今朝の夢だった。
ここ数日同じ悪夢ばかり見ていたら、普通の女子なら気が滅入ってくるものだ。
しかも、あの「一件」も解決している訳ではない。
まどかもまどかで、その「件」に思い至ったのだろう、それ以上の追求はしてこない。
「ねぇ、まどか。......「願い事」、考えた?」
「ううん、まだ何も。さやかちゃんは?」
「あたしも。直ぐ思い付くと思ってたんだけどな~」
確かに、やりたい事や欲しい物は幾らでもあった。
だけど、「たった一つ」の代わりに「命を懸ける」となると、未熟な彼女達でも簡単に返事は出来ない。
すると、まどかの傍らで日光浴をしていたキュゥべえが会話に参加してきた。
『意外だなぁ、君達くらいの子達は大抵は簡単に返事してくれたのに』
「そんなモンなの?」
『そうだよ。求めて止まない、奇跡にすがりたい事の一つは皆持ってるものだと思ってたけど』
不意に、脳裏に一人の顔が思い浮かぶ。
期待も才能も持ってたのに、一瞬で全てを奪われた友人。
今でも必死に戦っていて、取り戻せるかの確証もなくて。
そんな彼を支えようとする人達も、彼女は側で見てきていて。
見ていて、なのに――。
「――
「え?」
自然と、勝手に言葉は漏れていた。
無力さと自己嫌悪の混じったそれに、驚いた様子でまどかが此方を見る。
「命を「犠牲にしてでも叶えたい事」、ううん、「犠牲にしても叶わない事」、そんなのは別に珍しくない筈だよ。皆それを知ってて、それでも必死に生きてる。......でもあたし達、今そんなに
これは、己の自信の問題。
命を張って、命懸けで夢を求めて戦う人達に、顔向け出来るのかどうかの話。
知らなければ、永遠に気にしない話。
叶わない、それだけなら諦められる話。
でも、それを
「......まどか、アンタ前に「夢」がどうとか言ってたよね」
「え......うん、「ほむらちゃんみたいな子が戦う夢」の事だよね?」
「
「......へ?」
思わず聞き返していた。
実際、ここ数日同じ夢を見ているのだが、それをどうしてさやかが今更案じるのだろうか。
親友として心配している、だけには思えなかった。
「見た、けど。急にどうしたの?」
「......あの時、あたしはアンタを笑ったけど、実はあたしも人の事言えなかったんだ」
さやかは、自分の夢を打ち明けた。
何度も何度も戻ってくる「曲がり角」。
「誰かの声」、先に見える筈なのに見えない「風景」。
その全てに覚えがあるのに、何一つ思い出せない。
そんな奇妙な夢の事を、傍らの少女は真剣に聞いていた。
「......仁美が言ってた事、覚えてる?」
「うん、深層心理とかで、嘗て会った事があるのをぼんやりと覚えてるって」
「あたし......ひょっとしたら、それなのかもしれない」
両手で額を押さえて、顔を隠す様にさやかは俯く。
「あたし、ひょっとしたら、「大切な事を忘れてるのかもしれない」。ずっと覚えてない振りをして、
「
ハッとして、さやかは言葉を止める。
まどかが横から肩を抱くように手を回して、彼女を支えるように抱き寄せていた。
「
「......まどか」
「忘れたなら、きっと
その言葉はまどか自身、己にも言い聞かせている物なのかもしれない。
でも、その言葉はきっと
忘れたなら、思い出せば良い。
その言葉は、自己嫌悪に陥りかけたさやかを寸前で拾い上げた。
「......うん」
胸の内が軽くなる。
頭上では、穏やかな青空が広がっていた。
「......美樹さやかの夢、か」
昇降口付近の壁にもたれかかって、話を伺っていた暁美ほむらが呟く。
彼女は先のキュゥべえとの会合を経たまどかに一つ「忠告」するつもりでいたのだが、その前に興味深い展開に遭遇した為に、盗み聞きをしていたのだ。
「『嘗ての世界』でも、まどかが時たま私を知っている様な素振りを見せた事があったけど、「夢で私を見た」、という事だったのね」
己の魔法で彼女は時間を遡ってきた、その記憶を持つのは彼女自身だけだ。
だから不思議に思っていたのだが、そう言うカラクリだったとは。
「でも、何故だろう。時間を遡った私の記憶の一部が飛んでいる? それとも、もっと違う「何か」の影響?」
ふと、手の中の己のソウルジェムを見下ろす。
その紫の光は、本当に
「......悩んでも無駄か、私のやる事に代わりはないのだし」
そう思い、彼女は二人の元へと歩み出した。
「......っ!」
近付く足音にさやかが気づいて顔を上げると、そこには黒髪の「転校生」の姿がある。
言うまでもない、「キュゥべえ」を奇襲していたほむらである。
昨日の今日でありながら、気にした素振りもなく堂々と近付いてくる。
傍らにいたキュゥべえが、いつの間にかまどかの肩に乗っていた。
まどかを庇うように立ち上がって、向かい合う。
少なくとも、マミの様な気の置けない奴、だとはまだ思えなかった。
「昨日の続きかよ?」
「いいえ、そのつもりは無いわ」
彼女の歩みが止まる、視線がさやかから少し外れている。
目線を軽く追うと、隣りの校舎の屋上にマミらしき人影が見えた。
その手から黄色い光が放たれていて、何時でも戦える体勢だ。
「ソイツが接触する前にケリを付けたかったけど、手遅れだし......で、契約するつもり?」
「あたし達の人生の選択に、アンタにケチ付けられる筋合いは無いわよ」
「あら、「先達の忠告」は聞き入れるのが賢い者の考え方でしょう? 違う?」
くっ、と何も言い返せないでいると、キュゥべえが代わりに声を上げる。
『まだ彼女達は迷っているみたいだよ、強制はしていない』
「......そう」
ほむらは、まどかの顔をじっと見詰めながら、口を開く。
「昨日の話は覚えてるわね?」
「う、うん」
「なら、それが無駄になら無い事を祈ってる」
おずおずと頷いたまどかの様子を見ると、くるりとマミの方へ向いて、
「今夜、時間を取れるかしら」
「......「用事」を済ませたら、で良いなら」
「ならお願い」
更に向きを変えて、彼女は屋上を後にしようとする。
「......そう言えば、」
二三歩進んだ所で、初めてほむらは
先から若干蚊帳の外だったのが気に入らなかったさやかだが、改めて見られると其れはそれでむず痒い物であるらしい。
微かに身を引きながら、さやかは応じる。
「何よ」
「貴方の「夢」、
......盗み聞きしてやがったかあの野郎。
羞恥心で顔を赤らめたさやかは、今度こそ背を向けて去って行くほむらを睨んで、子供のように頬を膨らませていた。
・放課後、駅前ファストフード店付近。
学校が終わり、仁美と別れたさやかはまどかと共に待ち合わせ場所に向かっていた。
その際、妙に仁美の様子がよそよしいと言うか、何か小声で「等々禁断の蜜月の域を越えて、堂々と公然に......!?」とか何とか言ってた気がするが、余り深く考えない事にした。
「これで来年の夏コミのネタをあの方に......!」とかも言ってたが、多分某蛸の邪神みたいな深奥が広がってる気がする、触らぬ神にナンとやら、だ。
駅前の通りを歩いていると、買い物帰りの主婦や他の学校の生徒達が其々活発に行き交っている。
その途中で、
「こんにちはー!!」
「こんにちはー」
「こんにちはーっ!」
前から歩いてきた小学生らしい少女と挨拶を交わしながら進むと、目的地のファストフード店に到着する。
店内に入って回りを見ると、テーブル席の一角で金と黄色の髪が揺れているのを発見。
一先ず、まどかは平凡なバーガーセットを、さやかは量を増し増しにしたバリューセットを頼んで、受け取ってからその席に向かう。
「お待たせしました。後、こんにちは」
「どうも。お疲れ様です」
マミはオレンジジュース一つを、ミラはサイドメニューのサラダを単品で頼んでいて、同じ側の席に座っていた。
後から来た後輩組二人が並んで対面に座ると、見事にテーブルに「境界線」が生まれていた。
「ま、何も喉が通らないよりはましです」
「ええ。腹は減っては戦は出来ぬ、と言いますし」
赤面して小さくなるまどかに、年長二人がフォローするように声をかける。
微笑む二人を前に、一方でさやかはニヤリと笑っていた。
「フフフ、実はあたしはちょっと準備していたのだー」
そう言って、さやかは大きめの布で包んだ細長い物を取り出す。
その際、テーブルの角にぶつけた音からも、硬い材質であるのは分かった。
「ずっと持ってたけど、それ何?」
ハンバーガーを頬張りながらさやかが布をほどくと、中から金色の金属棒が出てくる。
年配二人が若干引いていた気がするのは気のせいじゃないだろう。
「金属、バット......?」
「こっそり体育倉庫からガメてきたんだ、無いよりもましでしょ?」
......まどかの様子からして、気合いが入りすぎて空回りする性格はどうやら昔からの物らしい。
まどかが恐る恐ると言った風に対面席を見ると、
「まぁ、意気込みがあるのは良い事だわ」
「......明日にはちゃんと返しなさいよ? 出来るだけ
マミは呆れ半分に微笑み、ミラは小さく溜め息を吐いて苦笑していた。
そんな二人の反応を(何故か)ポジティブに捉えたらしいさやかは、得意気にまどかに聞く。
「で、まどかは何か準備したの?」
「え、ええと私は......」
口半分で、何かを鞄から取り出す。
それは、一冊の大学ノートだった。
「と、取りあえず衣装だけでも、と考えて......」
そう言って開いた中には、慣れない手つきで描かれた魔法少女のイラストだった。
少女マンガの影響を多分に受けたらしい、フリルのふんだんに盛り込まれた衣装のイラストは、三面図やポーズ時の揺れ、更に細かい設定までもがその脇に記載されていた。
流石に、この不意討ちはマミも予想外だったらしく、説明半分でさやかと共に大笑いだった。
「......うん、凄く考えてくれてるのね」
マミの言葉こそ穏やかだが、肩が笑いっぱなしな上に片手で涙を拭いている。
「あー、やられたー。こりゃ敵わんわー」
腹を抱えて震えるさやかを横に、まどかはすっかり萎縮してしまっていた。
が、此処で最後までじっとノートを見ていたミラが、ポツリと呟く。
「......これ、一日借りても良いですか?」
「へ!?」
「え!?」
「え......まさか」
驚愕する二年生二人に、何かを悟った三年生が息を飲む。
まどかに向けたミラの瞳は、何か彼女のキャラ性を崩さんばかりの「熱血的な焔」が燃え上がっていた。
「次の作品のネタに使いたい」
「......ミラさん?」
「まさか、アンタ......!?」
「......貴方達が来る前、この人、身内で同人活動やってるって話してたのを、すっかり失念してたわ......」
「......ん、メールが。ええと、あぁ、「あの子」からか」
「ん、『新しい百合の究明だ』だと? 何でまたアミバなんだこの子......」
「ふむ、ええと......」
「.......................................、」
「うん、君は間違いなく天才だ。この私が認めるのだから間違いない」
「帰ったら早速作業に取り掛からねば、ミラにも助っ人を頼んでな......ククク、今回で恩を売る事が出来て良かった」
「この「スカヴェラ」。自分でつくづく思うんだが、人には恵まれている気がするよ......」