UNSUNG EVOLUTIONS   作:B.O.A.

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Break-06

・見滝原市内。

 

 

 

「......これが、昨日の魔女の痕跡」

 

 フード店を後にしたマミ率いる「魔女退治見学ツアー一行」は、昨日のショッピングモール改装エリアへとやって来ていた。

 黄色いソウルジェムから放たれる光に照らされる、中に浮かぶ黒いモヤのような物体を見詰めるマミが話した。

 

「基本的に、こういった気配を辿って魔女が隠れる結界を見付けるの。地道だけど、魔女捜しは足頼みよ」

「それだけ隠れるのが上手い、という事ですか。まるで警察犬を使った捜査ですね」

「あ、何かミラさんの言葉で地味さが減った気がする。探偵みたいで面白そう」

「......それは、私の説明が面白くない、と......?」

 

 傷付いたらしいマミが笑顔で凹んでいるのを、失言をしたさやかがまどかと共にフォローしていると、不意にミラが手に持っていた刀袋に目を落とす。

 袋から刀を取りだし、鞘から少しだけ刃を抜いてみると。

 

「これは......!?」

「えっ?」

 

 傍にいたマミ達にも聞こえる程の、刃鳴りの様な甲高い音が響いていた。

 心なしか、緑の発光も強まっている気がする。

 

「まさか、この刃に探知機能(ダウジング)が?」

 

 四人の目が、まどかの肩に乗る生き物に集中する。

 それは、何処か困った様な声色で答えた。

 

『僕に意見を求められても。初めて見た素材だし、ハッキリとした事は言えないよ』

「......ですよね」

『ただ仮説を言わさせてもらうなら、恐らくは魔女の気配に共鳴しているのだろう。マミのソウルジェムによる探索には及ばない筈だ』

「そうですか、では行きましょう」

 

 四人はマミを先頭、殿を年配のミラに移動を始める。

 最初はマミの手元の光の強弱に導かれる様にしていたが、だいたいモールを出て商店街に差し掛かった辺りで突然立ち止まった。

 怪訝に感じたさやかが、肩からマミの手元を覗き込んで言う。

 

「あれ、光が......?」

「取り逃がして一晩経っちゃったからね。痕跡も薄くなっているわ」

 

 先までは光を放っていたソウルジェムが、パタリと発光を止めていた。

 それでも、手掛かりがない訳じゃないから心配しないで、とマミは微笑んで付け加える。

 

「彼処の魔力は記憶したし、あの魔女の分だけならまだある程度なら追跡できるのよ」

「ふむ。此方はすっかり大人しいですし、そちらの方が優秀なのには違いない様です」

 

 人目につかないようにこっそり刃を抜いて確認するミラを尻目に、まどかは少し伏せ目がちに口を開いた。

 

「でも、あの時すぐに追いかけていたら......」

「確かに、簡単に追撃できたわ。でもあの場に貴方達を置いていってまでやる事ではなかったのよ。気にしないで」

 

 柔らかに笑うマミに、まどかは感動した様に瞳を輝かせる。

 それはさやかも同じだった様で、ややオーバーに思える頷きと一緒に叫んだ。

 

「うん、やっぱマミさんは正義の味方だ!」

「「正義」かどうかはさておき、人助けと言う目的に責任を持っているのですね。素晴らしい」

「......ええ」

 

 この時、ミラの言葉への返答の際に一瞬、マミの表情が陰った気がした。

 気付いたミラが怪訝に思っていると、視線を感じてそちらに目を向ける。

 そこには、横目で此方を見上げるまどかの姿があった。

 表情からも、言わんとしている事は一目瞭然だ。

 互いの感じた物に視線で確認していると、全く空気を読めてないさやかが突然叫んだ。

 

「それに引き換え、あの転校生と来たら。ホンっと、ニクッたらしいな! ストーカー! 性悪女!!」

「......何かあったので?」

「色々と......」

 

 流石に「夢」の話を勝手にする訳にもいかないと、まどかが適当に誤魔化していると、軌道修正を図る様にマミが口を開いた。

 

「まぁそれは置いといて、昨日の魔女を見付けないと。犠牲者が出てからじゃ取り返しが付かないわ」

「ねぇマミさん、魔女の居そうな所って、目星とか付けられないの?」

「交通事故や傷害事件なんかは、魔女の呪いで一番起こりやすいわね。だから、柄の悪めの繁華街や大きな交差点なんかは優先的にチェックしないと。後は、自殺に向いている場所なんかも多いわね。......それから、病院なんかに憑かれたら厄介よ。唯でさえ弱っている人達から生命力を吸われたら、目も当てられなくなる」

 

 そんなこんなしている内に、既に日が暮れ始めていた。

 一行も移動を続けている内に、人気のない廃工場跡地に入りかけていた。

 

「......街の再開発の傷痕、ですか」

「うわ、この辺全く知らないや」

 

 さやかが布でくるんでいたバットを取り出し、警戒するように肩に担ぎ上げる。

 

「人気の多い場所にずっと居ると、魔女だって私達に気付かれる事くらいは分かってるみたい。だから何度も場所を変えて、こんな人の居ない所にも現れるの」

 

 その時、一際強くマミの掌から光が放たれた。

 口を閉じたマミがそれに見入り、真剣な雰囲気を纏い出す。

 

「かなり強い魔力だわ。近いかも」

 

 マミは四方にソウルジェムをかざし、ダウジングマシンの様に丁寧に方向を探り始める。

 まどかとさやかも、それとなく緊張し出したのか肩を寄せ合う様にマミについていく。

 その後を、ミラもまた暴漢などに警戒をしながら追いかけていく。

 

「......そう言えば、マミ」

「どうしました?」

「日本で一番多い自殺方法は、「飛び降り」だと聞いたことがあります」

 

 マミが振り返えると、ミラは何処かの中空を見上げている。

 その視線の先には、この辺でも一際高い廃ビルが聳えていた。

 

 そして、

 

「......ええ、ありがとう御座います!」

 

 「それ」に気付いたマミが、突然そちらへ走り始めた。

 

「マミさん!?」

「間違いない、「あのビル」よ! 慌てなくても後からついてきてくれれば良いわ!」

 

 慌てる二人を置いて、マミは一目散に走っていく。

 置いてかれた二人が途方に暮れていると、ミラがポンとその背中を叩いて言う。

 

「私達も行きましょう。あの子は()()()()()()()()()()()()()()()()()、走っていったのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人が廃ビルの前に到着すると、マミはそこで一人の女性を介抱していた。

 背格好からしても、30台くらいのOLに見える。

 

「マミさん、その人は......?」

「丁度良い機会だわ、三人ともこれを見て」

 

 まどかが聞くと、マミは気を失っているらしい女性の首もとを見せてくる。

 其処には、普通のOLには似つかわしくない奇怪な痣が浮かんでいた。

 

「タトゥー、では無いですよね」

「これは「魔女の口付け」。魔女の呪いの影響下にある人間に出来る目印よ」

「......ってことは」

「ま、こんな廃ビルに一人で居るのが可笑しすぎますし」

 

 廃ビルの屋上を見上げながら、ミラが呟く。

 その行動で、この人が()()()()()()()()()()()()は、二人にも察しがついた。

 

「一先ず、気を失っている間は大丈夫。後は――」

 

 顔を青くする二人の前で、不意にマミの身体が眩い光に包まれる。

 果たして、其処から現れたのは、西洋人形の様な艶やかな黄色い衣装を身に纏ったマミだった。

 彼女は続けざまに目の前の空を一閃し、其処に異界じみた空間への入り口を作り出す。

 

「此処からが本番よ。二人とも、気を引き締めて」

 

 マミの声にまどかが息を飲み、さやかはバットを両手に構え、ミラは袋から刀を取り出して片手に持つ。

 マミはそのバットへと手を伸ばすと、その手から光の輪が生まれて、バットを忽ち白いステッキへと変貌させる。

 おお、と三人が驚く前で、微笑みながらも厳しい口調でマミは話す。

 

「飽くまで気休めだから、過信はしないでね。ミラさんも無理せず、絶対に私から離れないで」

「は、はい!」

「イエス、マム」

 

 ミラはスイッチが入ったような真剣なそれで、まどか達二人は緊張の篭ったそれで返事をし、一行は進み始めた。

 

 相変わらず、其処は奇妙でおぞましい場所であった。

 捻れたビルの骨格の間にはコンクリートとも違う謎の素材の壁がくっ付き、サイケデリックな色合いを見せている。

 本来なら地面が広がる場所には底の深い大穴が空き、上にはビルの高さより高い天井が広がる。

 壁のそこら中に横穴が空いて、何処が何処に繋がるのかが全く想像できない。

 しかも、そのあちこちにクレヨンで描いた様な花が咲いていて、風もないのにグラグラと不安定に揺れていた。

 何処からともなく、人の物には思えないケタケタ笑いが聞こえる。

 何かしらの手掛かりを見出だしているらしいマミの先導がなければ、常人三人は確実に迷いながら精神を削られていくだろう。

 

 そんな時、突然前方の風景に「歪み」が生まれて、

 

「わわっ、コッチ来んな!」

 

 何処に隠れていたのか、無数の塊が群れて押し寄せてきた。

 慌てるさやかを余所に、マミは落ち着いた様子で手を交差させる。

 すると、まるで「魔法のように」彼女の前に無数の銀色の杖のような物が出現した。

 目を丸くする二人の背後で、誰にも聞こえない声でミラが呟く。

 

「......「エーワックス」が見たら狂喜しそうな光景ですね」

 

 其処からは、宛ら「一人騎兵隊」というべきか。

 銀色の単発銃が次々に火を吹き、黒い塊がボロボロと撃ち抜かれて消えていく。

 本人はまるで踊るような仕草で、ただし全く無駄のない周囲把握から、無数に近付いてくる塊を瞬く間に打ち倒している。

 身体を回転させる動作を織り混ぜるその動きは、単に見栄えが良いだけでなく、洗礼された達人の演舞その物であった。

 目を輝かせる二人だけでなくミラも、つい気を抜いて見惚れてしまう。

 

「後ろ!」

 

 マミの言葉にハッとして三人が向くと、数体の塊が近距離まで寄ってきていた。

 前方の本隊に対する遊撃隊というべきか。

 態々叫んだと言うことからして、恐らく三人その物が邪魔になって撃ち漏らしていたのだろう。

 

 または、その「前に」敢えて伝えていたのか。

 

「ッシ!」

 

 振り向き様、左手で抜き打つ居合い抜きの一閃。

 それは後方の黒い塊の一番前の三体を捉え、それを一撃で薙ぎ払う。

 続けて、返す刃で袈裟に、そして真横に振り抜き、接近する使い魔を次々に切り伏せる。

 それは本当に一瞬の事で、二人には彼女の前に生まれた緑色の刃の残したラインのような残像を見て、やっとその事実に追い付ける風であった。

 

「は、はやっ......」

「もう、何が何やら......」

 

 前方で舞うマミもまたその様を横目で見ていて、驚きで目を丸くしていた。

 比較的魔女の出やすい見滝原を拠点にする為、わりと様々な「同業者」と出会ってきたマミだが、ミラは純粋な技量だけで、その全ての「身のこなし」を超えている様に感じていた。

 足運び、重心移動、動体視力、反射神経、手首の返し、腰の捻り。

 「自らの身で培った経験」からの自分や彼女らとは違う、いわば「受け継がれた伝統」がもたらす「精巧さ」。

 「我流」にはない、一種の気品の様なものさえ浮かんでいる。

 

 それは、時に「道」とさえ言われる「錯誤」と「研磨」の積み重ね。

 「一代限り」の自分達には追い付けない高みの一つ。

 

「「あの人」、ってのがどうして彼女に武器を与えたのか、本人に聞くまでも無かったわね」

 

 ここまでの使い手、魔女相手には辛くても、其処らの使い魔になら遅れは取らない。

 後方の撃ち漏らしは彼女に任せても良いだろう、そう判断してマミは前方の相手に集中し出す。

 

 

 

 マミの判断は、彼女の実力を見ても妥当ではある。

 だが、不注意にも一つだけ「考慮し忘れた」事実があった。

 それは、

 

 

 

 

 

「さやかちゃん!!」

「......え?」

「っ!?」

「あっ、しまった!」

 

 彼女には、飽くまで「技術」()()()()と言う事だ。

 

 

 

 

 

 結果論、仮にマミが全てを網羅してても、その「奇襲」に気付けたか分からない。

 ひょっとしたら、さやかが自身のステッキで何とかできたかもしれないが、その可能性は低いと言えよう。

 

 要は、全く風景と同化した、奇妙な花に化けた使い魔が、不意にさやかのすぐ脇で動き出したのだ。

 

「横に逃げて!」

 

 マミが慌てた様子で手の中の銃を向けるが、余りにも距離が近すぎる。

 ミラもまた同じ、刀で止めるには間に合わない。

 マミがならばとリボンを伸ばし、ミラも刀を片手に走り出す。

 最早タッチの差の勝負だ。

 恐怖する事も出来ず、ただ驚きに硬直するさやかの眼前に、表情も無いのに悪意や憎悪をたぎらせる使い魔が迫る。

 喉元に、使い魔の握るハサミの刃が届く。

 

 

 

 

 

 その時、()()()()が吹いた。

 

 

 

 

 

「......ッハ!?」

 

 さやかが我に返るのと、ミラが使い魔を片手で掴んでぶん投げるのはほぼ同時だった。

 その細腕の何処にそんな力が有ったのか、結界の地面にヒビが入る衝撃で叩き付けられた使い魔が宙に舞う、その身体に黄色いリボンが何重にも巻き付き、更に何発もの弾丸が貫いて息の根を止める。

 その間僅か3秒程の、見事な連携だった。

 

「大丈夫っ!?」

 

 まどかが心配そうに見上げ、周囲の使い魔を一通り掃討した二人も寄ってくる。

 さやかは自らの身体を見下ろし、全くの無傷であることを確認する。

 

「......いやぁびっくりしたぁ、何ともないよ!」

「迂闊だった、彼処まで完璧に気配を消していたなんて......」

 

 申し訳なさそうなマミの様子に、さやかや本当に気にしてなさそうな笑顔を向ける。

 

「いやいや、ついマミさん達に気を取られてたあたしにも責任はありますよ。それより、今の凄かったですよ! こう、バシッとぶん投げてからガシッと拘束してドッと止めっ!!」

「......フフッ。本当に、大丈夫なのね」

 

 大袈裟な身振りを加えてのさやかの賛辞に、マミはつられた様に笑顔を浮かべる。 

 まどかも親友の様子に一先ず安堵した溜め息を吐く。

 

 

 

 そして、ミラだけが「違和感」に気付いていた。

 

 

 

「今、一瞬の間だけ()()()()()()()()()?」

 

 周囲に漏れない様に小声で言っているのは、使い魔の迫る直前の事。

 刃がさやかに触れる、その寸手の所で()()()()使()()()()()()()()()()様に見えたのだ。

 まるで、見えない何かに()()()()()()()様な、可笑しなバランスの崩し方をしていたのだ。

 

「......()()()()()直前だったから気付けたレベルの細かな物。これが気のせいでないなら、明らかに()()()()()()()()()()()()()()()()()()。......一体「誰が」?」

 

 周囲にそれとなく気を配ってみるが、既に何の気配も其処には無かった。

 

 

 

 

 

 ヒヤッとした事は有ったが、基本的に探索はかなり順調だった。

 大体5分ほど結界の中を歩いていると、今までの複雑な通路と雰囲気の違う一本道に行き当たる。

 

『この先が結界の最深部だよ、気を引き締めて!』

 

 キュゥべえの言葉に頷き、意を決して奥へと突き進む。

 その奥に広がっていたのは、軽く学校のグラウンド程はあるだろうドーム状の空間。

 そしてその中央には、頭部が溶けかかったカタツムリの様な奇怪な怪物が佇んでいた。

 使い魔より遥かに大きく、体高は5m以上はあるように見える。

 

『薔薇園の魔女、性質は「不信」』

「......薔薇園?」

 

 まどかの問いに、足元に降り立ったキュゥべえが答える。

 

『人目の付かない廃墟を好んで結界を張り、「造園」の使い魔を使って人間を狩り、「警戒」の使い魔によって身を守る、そんな魔女さ』

「魔女にも色々と細かな種別があるのですね」

『比較的強い部類だけど、マミの力なら問題ないだろう』

 

 三人と一匹の視線を浴びた魔法少女は、優しさに溢れた、だが自信と力に満ちた微笑みを浮かべた。

 

「ええ、負けるものですか」

 

 万が一を考えて、まどか達の周囲に黄色いリボンの壁を張り、単身で魔女に突撃する。

 其処から、大体20mほど距離を離した位置で立ち止まると、まるで昔の殺し屋が暗器を出すような感じでスカートや帽子から銀の鉄砲を生み出し、次々と手にとって撃ち放ち出した。

 

「そう言えば、キュゥべえ、でしたっけ」

『どうしたんだい?』

「何故、彼女は単発銃しか生み出さないのです? 持ち替えとエイム(標準)のし直しが面倒では?」

『覚えてる限りだと、銃の素材の関係で連発式を生み出すより魔力効率が良いとか。でも何で態々僕に聞くんだい?』

「いえ、まぁ特に」

――......「あの子」みたいに、『狙撃銃で弾幕を張るッ! これこそ精度と制圧力の共存ッ!!』とかなのかと思って、少し聞きにくかっただけなのですけどね。あの時は思わず張り倒してしまいましたし――

『......?』

 

 微妙に黄昏るミラに怪訝な表情を向ける二人と一匹。

 そんな中でも、マミの戦いは進行している。

 巨体の魔女は意外な俊敏さを見せ、カタツムリらしく壁や床を縦横無尽に逃げ回る。

 マミもまた、魔女の身体から無数に伸びた黒い蔦をかわしながら、弾丸を撃ちまくっている。

 

 が、

 

「ちょ、あれ大丈夫なの!?」

 

 素人目のさやかでも分かるくらいには、ガバガバのエイムで魔女の周囲の壁や床に弾丸がめり込みまくる。

 不安に駆られたさやかは叫び、まどかも心配を顔に浮かべる。

 ミラも、何か狙いはあるのは読めるのだが、何をしているのかは判らず、ただ神妙に経過を追っていた。

 そうしていると、やがて魔女もマミの動きを読んできたのか、等々蔦がマミを捕らえてしまった。

 足と胴を捕まえ、勢いよく壁に叩き付けられてしまう。

 衝撃でマミの身体がめり込み、衝撃で舞った煙で姿が見えなくなる。

 

「マミさぁん!?」

 

 悲鳴に近い叫びをさやかが上げる。

 

「......大丈夫。見てなさい」

 

 返ってきた声は、落ち着き払った物であった。

 煙が晴れた先には、壁にめり込んだ状態でありながら、全くの無傷のマミの姿がある。

 よく見ると、身体と壁の間にはバネの様に曲がった「リボンの束」が見えていた。

 

「未来の後輩と、その保護者に、あんまりカッコ悪いとこ見せられないものね!」

 

 それが合図だった。

 今まで作った壁や床の弾痕から一斉にリボンが伸び、魔女をがんじがらめに絡めとる。

 魔女も慌てて暴れ狂い、一帯の空間を崩さんばかりにのたうち回るが、リボンの拘束は寧ろ増していく方だ。

 その頃には、緩んだ蔦の拘束を胸のリボンを間に差し込んで、見事に脱出していた。

 

「惜しかったわね、でも、これで終わりよ」

 

 挑発じみた言葉を吐いて余裕を見せると、胸のリボンを翻し、それが発光するや――。

 

「......なんと」

 

 艦砲のごとき巨砲が出現し、その砲口を魔女へと素早く向けて。

 

 

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

 空間を震わせん程の轟音と、眩い閃光とともに、魔女へと撃ち放たれた。

 

 

 

 息を忘れる程の衝撃であった。

 ひょっとしたら、此処がドーム状であることを見越して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とミラが思うくらいである。

 そして、そんな攻撃を食らって魔女がただで済む訳もなく。

 金切り声の様な絶叫を響かせながら、周囲の風景が支えを無くした様に歪み始め、

 

「か、勝ったの......?」

「凄い......」

 

 呆然とした少女二人が呟く頃には、元の廃ビルの光景が広がっていた。

 壁もなく、ただ広い空間が広がるビルの一角に佇む三人の前に、一際明るい光を纏ったマミが降り立つ。

 いつの間にか手に紅茶のカップと皿を持つ彼女が、得意気に此方に笑顔を向ける。

 

「お疲れ様です。見事なものでした」

「ありがとうございます。でも、貴方も凄かったですよ」

 

 互いの言葉に、一切の世辞はない。

 短い間ではあったが、それぞれの「力」を理解し合えた一時は、こうして幕を下ろした。

 

 

 








※余談、ミラの閑話。



「失礼、聞きたい事があります」



『何ー? ノックも無しとは珍しいねぇ』



「......自分の胸に心当たりは?」



『......はって?』





「はって、じゃないですよ! 何で会社の資本で「L96A1」を5()0()0()0()()も無断で仕入れてるのですか!?」


※「L96A1」とは、「Ch-2-Act-01」で名前を出した「エーワックス」愛用の狙撃銃である。因みに「Ch-10」に出てきたライフルと同じ物。





『あー、それね。事務手続き省いて性急に求めたから行き届いて無かったか』



「何で貴方ご自身の趣味まがいの古典銃をそんな重要案件みたいに発注してるんですか!! しかも無駄に数が多い! 武器更新する訳でもないのに桁一つ多い!!」



『......ミラ、これはね。重要な事なんだ。私達にとって、「種族」の問題なんだ』



「き、急にそんな(かしこ)まって......どうしてなのです?」



――種族、って事は。狙撃班の役割も担った「エーワックス」の在り方? まさか、何かとんでもない試行を行おうとして......――







『ガトリングを持ち出すのと狙撃銃を大量に用意するの、弾幕を張るにはどちらが効率的かな、と。ガトリングって発熱凄いから意外と時間のプレッシャー与えられないし、狙撃銃なら連発の間隔を変えてプレッシャーをぶつけられる。意外とガトリングも精度は有るけど、威力が強すぎて後衛支援は限定されるし、重いから持ち運びしにくいしね。狙撃銃なら分散させて擬装しやすいし、精度も貫徹も良好。機甲師団相手にしない限りは充分だしね』







「..............................「雷鼓」の耐久スペル辛いですよね」



『ん? まぁあれは輝針城の裏ボスだし、音ゲー要素も相まって中々大変だよ、気合いで何とかするしかない』



「ですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、また挑戦してみます」



『.............................................、』



「................................................、」







『さ、さて。ちゃんとデータ取れてるか見に行かないと。という訳で私はこれで――――ッ!!』



「逃がすかァァァァァァアアアアア!!! 狙撃銃で東方風弾幕を再現するバカ野郎がぁぁぁぁああああ!!!」



『種族総出の挑戦だよ!? 嘗てない、人類の挑戦なんだよ!!?』



「社の資本んんんんんッッ!!!」





※その後、しっかりと折檻されました。




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