・見滝原市、ほむら宅。
「出掛ける?」
「ええ、野暮用があって」
時刻が下校時刻になろうとしていた頃、アパートの風呂掃除をしていた竜二の元にほむらが話し掛けてきた。
まだ泡の付いたスポンジを手に握ったまま、彼は彼女の方を向いて聞く。
「野暮用? 一体何処に行くつもりだ?」
「場所は町外れの工場よ。「例の日課」だから、伝えておこうと思って」
「あー、……分かった。何時ぐらいの帰りになる? 遅くなるか?」
「そう掛からないと思うけど、具体的には言えないわ」
「そうかい」
顔を元に戻して、彼は掃除を再開しながら続ける。
「実は俺もこの後出掛ける用があるんだ。夕食は待って貰うかもしれんな」
「……それ位自分でやれるわ」
「それ本当か? まさかレトルトで済ます訳じゃないだろうな」
「ッ! 料理ぐらい自分で出来るわ!」
「包丁にシールついたままの人間が言うと、これ程までに説得力がないとは」
呆れる様に呟く彼の傍らで、珍しく顔を真っ赤にしたほむらは抗議する様に言う。
「大体、ここで一人暮らし始めてまだ一週間も経ってないのよ。転校の準備とかで碌に料理する暇なんてなかったの」
「だからカップ麺の山が金属鍋の中まで侵食している訳か。レトルトと合わせれば一か月分は十分賄える規模だったな。あんな光景はコンビニでしか見れないと思っていたが、やはり世界は広い」
「………………うぅ」
「あ~、分かったから。忙しいのは分かったから。これから一応“監視”する代わりに家事は俺がやってやるから泣くな」
若干目が潤みだした彼女に、彼は慌てた様子でフォローを入れる。
因みに、家事云々の件は今日のお昼頃に絶望的な彼女の食生活(予定)を見た彼が、半ば無理矢理押し切る形で彼女に任させた仕事である。
彼女は勿論の事、彼からしても「獲物」が足を出すまでの暇潰しになるので特に不利益は存在しない。
……筈だったのだが、どうやら逆に彼女に要らぬ心労を齎す結果となっていたらしい。
流石にこれ以上は不味いと判断した彼は、誤魔化すように話題を変える事にした。
「ほら、野暮用あるんだろう? さっさと済ませてきなよ」
「……出来ないわけじゃない、時間がないだけよ……」
何やら物々言いながら、トボトボと去っていくほむら。
色々心配になったが、彼としてもとっとと風呂掃除を済ませて出掛けなければならない。
その為、特にその背に声を掛ける事もなく彼は元の仕事に取り掛かった。
・見滝原市、大通り。
学生や一部の社会人が学校や仕事を終えて各々の自由行動を始め出す頃、人通りの多くなった大通りに彼の姿はあった。
日時は九月後半、秋とは言えコート姿の彼は服装的にかなり浮いている方だ。
だが人の流れに順じる様にして、そこそこ目立たない様に彼は歩いていく。
とは言え専門外故の限界か、多少は通行人の人目を引いてしまっているが、それもやや混雑した通りの事なので彼等は直ぐに興味を失って通り過ぎていく。
だからこそ、“ソレ”は妙に目立っていた。
「……、」
無言で歩きながら、意識を後ろの方に向ける。
雑多な人通りで殆ど消え掛けていたが、そこに確かに先程から此方を追ける気配を感じていた。
尾行されている、そんな状態であるにも係わらず竜二は何故か手を打とうとしない。
のんびりと、ただしっかりと気配を認識しながら歩いていく。
少しずつ、だが確実に気配が大きくなるのを感じる。
だが彼は動かない。まるで、何かの機会を窺うかの様に。
そしてその時が来た。
気配がすぐ後ろに迫った瞬間に、彼は肩越しに顔を後ろに向けて口を開く。
「何してんだ? “美樹ちゃん”」
「わ――あ、……」
彼の直ぐ後ろにまで接近していた青髪の少女は、両手を顔と同じ高さまで掲げたポーズで静止する。
どうやら此方を脅かしたかったみたいだが、見事に出鼻を挫かれてしまった様だ。
そのポーズのまま、だが表情には目一杯の驚愕を浮かべて彼女は彼に問う。
「な、何で分かったの!? こっちなんて一回も見てなかったのに!」
「路上駐車されていた車のサイドミラーに髪が映ってた」
「っ……く、くそぉぉ。脅かせると思ったのにな~」
「俺の背後が取りたきゃ五年後に出直しな」
「……な、何だろう。クサイ台詞の筈なのに、変な貫禄の所為で臭みが消えてる」
そんな風に言い合う内に、どちらが進んだ訳でもなく自然と彼等は横に並んで歩き出す。
おっとりしたお姉さん肌のマミとはベクトルの違う、余り物怖じしないが故の気さくさが彼女にはあった。
「んで、何してんだ? 脅かしにきた訳じゃないだろ?」
「あー、うん。……まぁ良いか」
「ん?」
何やら一人で納得した様子のさやかは、此方へ顔を向けて言う。
「えーと、その……実は、幼馴染がちょっと入院してて、今からそのお見舞いをしに行く所なんです」
「……ああ、それで昨日か」
「うん」
縦に一回首を振る彼女。
昨日、なぜ彼女が病院の“結界”にいたのか、そして事件があったと知るや血相を変えて飛び出したのか、その理由がこれでハッキリした。
その割には、あの時の彼女の反応は少し大袈裟だったような気もしなくはないが、きっとそれが彼女の気質なのだろう。
「竜二さんは一体何を?」
「俺か? 実は奇遇にも同じ場所で用事があるんだ」
「ホントですか? じゃあ、良ければ一緒に行きませんか?」
「道中ならな」
そんな訳で、二人は病院まで適当に話しながら向かう事に。
適当に談話しながら歩いて行く内に、ふと彼はソレに気付いて彼女に尋ねる。
「……そういや、今日は連れはいないのか?」
「まどかの事? ええと、今日はあたし一人で行こうと思ったんだ」
「そうかい」
「……あの、全然話変わりますけど、竜二さんて一応外国人なんですよね」
「“一応”は余計だがな」
「って事は、英語とか普通に出来るんですか?」
「出来ないとアメリカで暮らせんしな」
「ですよね~、……ハハ」
「苦手なのか」
「申し上げにくいのですが、全く出来ません」
恥ずかしそうに頬を掻きながら彼女は応える。
何を隠そう、この美樹さやかは英語の定期テストで赤点以上を一発で取った試しがないのだ。
「だから、竜二さんみたいに両方話せるのは凄いなーって思いまして」
「俺は半分は帰国子女みたいなもんだし、偶々そうなったから話せるだけさ。ホントに凄いのはもっと別にいる」
「もっと凄い人がいるんですか……!?」
驚愕に目を見開くさやかの横で、彼は少し思い出すような素振りをする。
「確か……英、日、仏、西、印、中の
「六ヶ国語!? か、神様ですかその人……?」
「いや化け物だよアイツは。今のは飽くまでビジネスやアカデミックを含めた完全習得の六個、単に日常会話するだけなら軽く20以上の言語を使えるぞ。しかも現地仕込みで」
「……世界って、不公平だ」
「ホント、なんであんな仕事やってんのかが分からん。もっと稼ぎの良いのが他にあるだろうに」
虚ろな目になったさやかの横で、適当に言い散らかす竜二。
ちなみに、この時に遠い異国の地で盛大にくしゃみした金髪のおっさんがいたとかいなかったとか。
「でもまあ、得手不得手があるのは当然だし、ボチボチやれば良いと思うけどな俺は」
「――! ウンウン、やっぱそ――」
「……赤点さえ取らなければ」
「うで、――!? さ、最後の最後に抉ってきた……ッ!?」
ザックリと心を折られて下を向いて肩を落とすさやかに、ふと彼は何かに気付いた様に言う。
「……ああ、所でその、一つ聞きたい事があるんだが、良いか?」
「思いっ切りスルーしましたね……、何ですか?」
「昨日の“事件”の影響で、今病院の見舞いには事前の予約が必要らしいのだが、アポは取っているのか?」
「………………え?」
「……やっぱり」
ガバッ、と顔を上げた彼女は、すぐさまそれを蒼白に染めていく。
「昨日の今日で警備が厳重になっててな、恐らくこの数日間程度だろうが今はそれが無いと門前払いを喰らうぞ」
「……嘘でしょ、そんなの聞いてないよ……」
困り切った彼女の様子に、呆れたような表情を作った彼は続ける。
「俺が何とか言っておくよ。此処まで来てトンボ帰りは嫌だろ」
「え、でも……何とか出来るんですか?」
「何とか出来る……ほら、見えてきた」
彼の声につられて見ると、確かに前方に病院の正門が見えてきていた。
普段は車や人通りの疎らな正門ではあるが、確かに彼が言うとおり今日は青い制服の大人たちが此処からでも彼方此方に見える。
予想以上の警備強化ぶりに、さやかが緊張で無意識に体を強張らせる一方で、竜二は友人の家に行くかのような気楽さで歩きながら彼女に言う。
「ちょっと此処で待ってな。5分で終わる」
そう言って彼は門の近くまで行くと、案の定制服の方々が彼の元に集まってくる。
少し離れて見ていると、彼は何かを説明し出して、制服たちは胸の無線で何やら連絡している様子だった。
と、本当に5分程で、急に制服たちがバラけて元の位置に戻り出し、彼もUターンして此方に戻って来る。
まさか戻って来るとは思わなかった彼女は、一層緊張した面持ちで彼に尋ねる。
「あの、何かあったんですか?」
「ん? いや、勝手口を開けて貰ったからそっから入るだけだよ」
「あ、そうですか……勝手口?」
「ああ、ここの裏手にある奴さ。そこには警備員もいないし、鍵さえ開いてりゃ自由に入れる」
「……、」
「あ、分かってると思うが、くれぐれも他言は厳禁な」
――それって、あたし不法侵入じゃ……――
そんな事を思うさやかだったが、残念ながら他に手段はない。
多少は葛藤はあったものの、結局は竜二と一緒に勝手口へと歩いて行くのだった。
「さてと……この辺りだったか」
病院に入って廊下でさやかと別れた後、竜二はある仕事の為に病院のある一角へと来ていた。
ロビーから比較的近く、だが今は全く人気のない空間。
それもその筈、この一帯は黄色いテープで厳重に封鎖されているのだ。
即ち、昨日の事件現場である。
『今囲っているのは犯人の死亡場所付近だけ、他は既に捜査済み……と言っても、殆ど手掛かりは無かったから開放が早まったそうだが』
「出し抜けに連絡有難うジョージ。つまり此処以外は見る必要は無いんだな?」
『ああ。とは言え悠長に時間は取っていられないぞ。病院って事あって、逸早く捜査を終わらせないと医療に支障が出るからな』
「そもそも俺は本来此処に居ちゃいけないしな。邪魔にならない様に手早く済ますか」
そう言うや、彼は一帯の調査を開始する。
“心筋梗塞”で殺害された可能性の高い犯人だが、その原因については全く分かっておらず、実質死因不明と言っても過言ではない。
かと言って、完全に生物兵器絡みとも言えないのでBSAA辺りが出しゃばるのも不自然だ。
だからこそ彼が態々ご指名を喰らったのであろう。
「……でもまあ、一度此処の警察が調査した後だし証拠なんて見付かるとは思えないけど」
『そりゃそうだと思うが、それでも確認したがる奴が居るから仕方がない』
「万全を期すのは良い事だが、もうちょっと人間を信じた方が良いと思うな」
そんな事を言い合いながら周辺の窓ガラスや壁や床を隈なく見ていくが、やはりと言うか目立った証拠はない。
ざっと20分程で殆ど見回ってしまった彼は、気の抜けた感じでPDAに向かって話す。
「案の定。収穫ゼロだ」
『お疲れ。これで五月蠅いのも納得するだろう』
無駄足に終わった捜査を切り上げ、彼はその場を離れて正面ロビー方向へと歩き出す。
と言っても、結局「釣り」に獲物が掛かるのを待つしかないと言う事だけはハッキリと分かっただけ少しはマシなのだろうか。
彼自身其処まで焦りは無く、暢気に今日の夕食を如何しようか考えていた。
そんな風にしてロビー近くの曲がり角まで出て来た時、慌しそうな様子の医師や看護師達が何人も其処から飛び出してきた。
彼等は道を譲った彼とすれ違って廊下の先へと駆けていく。
その方向へと目で追いながら、彼は少し眉を顰める。
「危篤患者でも出たのか? 昨日の今日で随分とバタバタしているな」
『昨日の影響とは考え難いが、一応何があったか程度は把握しといてくれ』
という訳で、彼は適当にロビー付近にいる警官に声を掛けてみる事にした。
ロビー一帯を見渡すと、あちら此方に青い制服姿の人影が幾つも見える。
が、それらを全て無視して彼はカウンター近くのベンチに座ると、その二つ隣りに居た安物スーツの男に声を掛ける。
「やあ。外にも内にも警備がいるようだが、此処まで厳重にして一体何に備えてるんだ?」
「……さあ。私も詳しくは知りませんが、どうも上層部は二度目の襲撃があると思っているみたいですね。ここで死亡したのが「雇われ」だって事は今日の朝刊にも載ってましたし」
チラリと此方を横目で見た男は、そう静かに話を始める。
通常、警察の捜査内容を故意に漏らす事は「守秘義務違反」となり犯罪にあたるのだが、それでも彼がしたと言う事はつまり
向こうも向こうでかなり事態を重く見ているらしい、と彼は感想を抱く。
「フーン。つまり「雇われ」の主を捕らえて一段落着くまでは、このままの体勢で警備するって事か?」
「詳しい日程は決まってません」
「そうかい。まぁ、仮に長居するんだったらナースコールのスピーカーでも貰っておいた方が良いんじゃないか? さっきみたいなのがある度に緊張するのは疲れるだろうし」
「そうした方が良いのかもしれませんね。さっきのは幸いにもお目出度だったらしいですが、今後はどうなるか分かりませんし」
「“オメデタ”? 誰か産気付いたのか?」
「そうじゃなくて、どうも直る筈のない傷が急に治癒したらしいです。だから主治医らが慌てて確認に急いていたみたいですよ」
「癒えない傷が治ったねぇ……」
そこで竜二は僅かに間を作って視線を下に向ける。
だが直ぐに視線を男に戻すと、苦笑しながら続ける。
「……そりゃまあ、確かに“オメデタ”だな」
「ええ。……出来れば騒動の外でやって貰いたかったのですが」
「所で、「依頼主」は兎も角「目標」の方はどうなっているんだ? 何か分かったのか?」
彼が話題を変えると、今度は男が苦々しい顔付きになる。
「不明。潜伏先の書類から「依頼」って事実は分かったのですが、肝心の「目標」についてはメモ書きすら残ってないようで」
「隠滅済みか、はた又現地指示だったのか……」
「「雇われ」の携帯がまだ見付かっていないので、恐らくは隠滅済みかと」
「チッ……随分と慎重な「お客様」じゃないか。まるで失敗を見越しているような手際の良さだ」
「ええ。……お陰で彼らの目的が全く見えない」
男は溜息混じりに言って腕を組む。
一方の竜二は、本格的にてんわやんわになりつつある事務スペースの方を向いて徐に口を開く。
「……全くと言う訳ではないな」
「何?」
「いや、此方の事だ。取り敢えずまた何か分かったら上から回してくれ」
彼はそう言い残して席を立ち、そのまま正面玄関から外に出た。
『分岐確認。フェイズ4の終了を宣言。このまま5へ移行、一気に“分断”するわよ』
その間も人知れず、だが着実に
・ほむら宅
「帰ったぞ……っと、やっぱり先だったか」
夕食の買出しを終えて、食材の詰まったビニール袋(自前)を手に彼がドアを開けると、椅子に座る少女の後ろ姿が目に入った。
彼が靴を脱いで椅子ごと彼女の前へ回り込み荷物をテーブルに置く傍ら、返事が無い事が気になって前を見ると、彼女は俯いたまま身動ぎ一つ無く黙り込んでいる。
少々心配になった彼は、彼女の方へ手を伸ばしながら声を掛ける。
「おーい、大丈夫か?」
「…………えっ、あ、おかえりなさい」
視線を手で遮った辺りで漸く気付いて、慌てた様子で返事をするほむら。
そのほんの少し上ずった声に、何処と無く疲れ切ったような印象を覚えた彼は、伸ばした手を戻しながら言う。
「随分とお疲れの様子だな。そんなに今日はハードだったのか」
「……ハードというか、面倒事が増えたというか、そんな所」
「そいつは災難だったな。直ぐに用意するから、食器の準備を頼めるか」
「分かったわ」
そう言って台所に向かい、彼は手早く調理を開始する。
言われた通りにテーブルのセットを終えた彼女は、手持ち無沙汰になったのか彼の様子を横から覗き込み出した。
「どうした?」
「――いや、やっぱり結構手慣れてるなと思って」
「碌に外食も出来ない田舎町の郊外に住もうとすりゃ、嫌でも経験が積めるのさ」
「……、」
返答に困った様子のほむらを余所に、あっという間に簡素な夕食が出来上がる。
「時間が無くて半分ぐらいはお惣菜だが、今回は勘弁してくれ」
そんな事を言いながら彼は二人分を皿に取り分け、彼女の対面に座る。
どちらが先とも言えないままに食べ始める二人だが、性別も年齢も違う上、二人してかなり特殊な状況にある人間である。
彼自身も何とか話題を持って来ようと辺りを見るが、ある意味整い過ぎて生活観の無い居室では何の話題も見出せない。
挙句、彼女自身からも何処か構って欲しくない雰囲気が出ている。
「――所で、結局今日は何だったんだ? お前の用事」
だが、彼は敢えて突撃を敢行する。
すると、彼女が本の少し食事の手を止めて此方を見てきた。
明らかに「自分に関わるな」と言っているその視線を向けたまま、食事の手を再開して静かに答える。
「……出掛ける前に言ったと思うけど」
「具体的にだよ。実は妙な報告を耳にしていてな」
そう言うと、彼の表情が今日の朝と同じ真剣な物へと変化する。
「“郊外の古い町工場で集団自殺未遂”だと。結局死者は居なかったみたいだが、今頃は全員検査入院しているのだろうな」
「……、」
「疑うつもりは無いが、俺としても立場があるんでな。せめて何があったか位は把握しておきたいんだよ」
彼がこの報告を受けたのは夕食の買出し中の事だ。
行動を制限しないとは宣言したものの、短時間でこの状況では流石に黙っては居られなかった。
彼女は僅かに考え込む様に間を置いたが、直ぐにその口を開いて答える。
「……確かに私はその場に居た。でも私は寧ろそれを止める側よ。集団自殺の原因は“魔女”なのだから」
「……成程。つまりこの事件は飽くまで“魔女”の仕業なのか。確かに、原因不明の集団自殺や失踪を引き起こすとは言ってたしな」
「そう。そして無事に倒されたから、死者は一人も出ずに済んだ。そういう事よ」
「OK、分かった……一応聞くが、証拠は見せられるか」
「無理」
「やっぱりか」
そう言って彼は頭を掻くと、食事の残りを掻き込んで皿を持って席を立つ。
台所に向かって食器を洗い出した彼を追い掛けるように、彼女も食事を終えて皿を持っていく。
「悪いわね」
「気に済んな。俺が言い始めた事だし」
彼女の分も皿を洗っていく傍ら、彼女は再び席に戻る。
「それよりゃ、こんなムサイのが家に上がり込んじまってる方がもっと悪いよ。まぁ、暫くこんな調子だろうが、勘弁してくれな」
「それは大丈夫よ……寧ろ助かってるし」
「何?」
「なんでもないわ。……私、お風呂行ってくるから」
小声で言ったのが聞き取れずに彼が聞き返すが、彼女は適当にはぐらかすとそのまま席を立ってしまう。
首を傾げた彼だったが、風呂場に向かう彼女に向けてこう言った。
「皿洗ったら俺は出るからな。朝になったらまた訪ねるよ」
「……え、通うの?」
てっきり泊まるものだとばかり思っていたので、彼女からすれば彼の言葉は全くの予想外だった。
思わず振り向いて彼女は問いかけるが、対して彼は背を向けたままあっさりと答える。
「ああ。と言っても、実はこのアパートの下の階の部屋を短期だけ借りただけだ。近隣にはお前の遠い親戚だって言ってあるから変な噂になる事は無いよ、多分」
「そ、そう……ってちょっと待って。何時の間に挨拶なんて済ませてたの、というか何サラリと嘘吐いてるのよ」
「さて、洗い終わったから俺は戻るわ。じゃあな」
「流そうとするな!」
帰すまいと彼に向かって行く彼女だったが、適当にあしらわれた挙句、そのまま部屋を出て行かれてしまう。
後に一人残されたほむらは暫く玄関で突っ立ったままだったが、突然頭を抱えてそのまま風呂場へと戻っていく。
「……変な人」
手早く服を脱いだ後に体も洗わずにいきなり湯船に肩まで浸かって、熱と羞恥に顔を真っ赤に染めながら彼女は呟く。
頭の中に思い描くのは、先程の自分の態度だ。
今までの“ループ”で、あんな姿を人に見せた事が一体何度あっただろうか。
もうあんな「子供っぽさ」はとうの昔に捨て切ったものだと思っていたのに。
――きっと、弱みを握られた所為で距離感が掴めてないだけだ――
そんな風に自分を納得させながら、彼女は近所の人と会った時の言い訳を考え始めるのだった。
「――クソッ、アイツめ、よりによって此処に逃げ込みやがったかッッ!!」
その間も人知れず、だが着実に「彼女」はこの町に接近していく。
どうも、今回は難産でした。
此処まで来たならお気づきでしょうが、今回の話、普通ならじっくりと描写する所を敢えて薄く書いています。
一応、飽くまでこの話は「彼視点」が中心なので、「魔法少女」じゃない彼をあんまり関わらせると不自然かなと思った次第です。
とは言え、完全にスルーした旧作よりは描写が多いとは思いますし。
……当然、「彼視点」じゃなきゃ話は別ですし。
では、また次回。
テスト期間が迫ってますが、何とか頑張って行きたいと思います。