UNSUNG EVOLUTIONS   作:B.O.A.

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Ch-3-Act-03

・翌日早朝、某所。

 

 

 

 見滝原市から遠く離れた東京湾、世界有数の貿易港で知られるその湾岸には幾つもの人工島や人工浮島(メガフロート)が設置され、そこで人々は慌しく大型タンカーからの物資の出入を行っている。

 輸出の為の製品を加工する工場や物資を保存する倉庫、そしてそれらを運ぶ大型船舶などが湾岸に犇めく最中、その一角に一際目を引く巨大な建造物が存在していた。

 その外見は宛ら中世の砦の様な、だが高層ビルに匹敵する高さの壁に囲まれた横2km縦4kmの直方体状であり、そんな巨大構造物が海上に悠然と聳え立っていた。

 その壁は一見無骨なコンクリート製に見えるが、実際は幾種もの素材を重ねて作り上げられた堅牢な構造で、スペック上は空対地ミサイルなら耐え切れる程度の丈夫さで周囲には知られていた。

 更にその付近に展開される、宛ら軍事基地の様なブロック状の建造物は、実際にこの建物への出入りを厳重に監視する役割がある。

 「城下町」などと揶揄されるその構造物が故に、その一帯だけまるで異国のような物々しさが醸し出されていた。

 天気が良ければスカイツリーからも眺められるその広大な壁面には、やや小さめの広告代わりのマーキングが施されている。

 

 

 

 《O.M.F.“Gran FORT”》

 

 

 

『……ぴゃぁ~』

 

 その建造物の中心、壁の上に張り巡らされた巨大な天井を支える大黒柱でもある巨大な塔の一室で、白髪の少女が呻き声を上げていた。

 大きめのデスクの前に、対面で座れる高価そうな椅子とテーブル、さらにその向こうには本や調度品を収める棚が置かれている。

 大型企業の「社長室」の様な内装の部屋で、少女はデスクに備わる椅子に腰掛けてそのままぐったりと突っ伏している。

 

『あ~、もう。仕事ヤル気が失せてます~』

「……何かあったので?」

 

 その正面の対面座席の右側に座って紅茶を飲んでいた金髪の女性が心配そうな声色で、だが殆ど表情は変えずに尋ねる。

 対して少女はムクッと顔だけ上げると、明らかに不機嫌そうに話し出す。

 

『“レックス”の件。アレは飽くまで「実験体」だって言ってるのに、弱点が多過ぎるだとか中途半端だとか滅多矢鱈に五月蠅いの。ったく、そもそもこっちの意見をガン無視して無理やり計画(プラン)に参加させたのはお前らだっちゅーのに……』

「……当初の目的はクリアしている筈ですし、文句を言われる道理は無い筈では?」

『どうも歩兵の手榴弾程度で倒されたのが気に食わないみたいでさ、せめて対戦車ミサイル数発とかだったならまだ良かったんだと。……レックスの弱点吹っ飛ばす分には手榴弾の方が効果的なんだけどなぁ』

「まあ、過ぎた事を言っても仕方ないですし、気を取り直して行きましょう。本命はまだ控えている訳ですし」

『……だね。まだまだこれ以上の山場は幾らでも――』

 

 気を取り直すように言いかけた直後に、ユイの言葉が急に止まる。

 纏う雰囲気が変わったのを感じて、ミラの言葉も真剣さが増したものになった。

 

「また、何かあったので?」

『まぁ、うん。流石に何のトラブルも無く終わらないとは思っていたよ……“風見野”側が動いた』

「原因は?」

『分からない。ここ数日妙に町全体を動きまわっているな、とは思っていたけど、このタイミングで飛び込んでくるとは思わなかった』

「対応は?」

『先ず原因究明が先決だね――さて、丁度良い時間だし、また向かいますか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・見滝原市、アパート一室

 

 

 

 既に短針が九時を向いた頃、古いアパートの一室に竜二の姿はあった。

 彼は最低限の家具しか置いていない部屋で、椅子に座って机の上のパソコンをじっと睨んでいる。

 そのディスプレイには二日前の「騒動」の最新の捜査結果――捜査自体はBSAAに委託しているので飽くまでデータだけ――が映し出されている。

 彼が画面上の幾つかの資料をスクロールしていると、その傍に置いていたPDAに通信が入った。

 

『大体理解できたか?』

「……こんがらがって来たよ。結局、今どうなっているんだ」

『一つの倉庫に向かおうとする俺達を待ち受けていたかの様なアレの布陣、完璧に足取りを消された綿密なアレの輸送経路、どう考えても俺達が奴らの罠に掛かったのは火を見るより明らかだ』

「流石にそれは分かっているよ。……俺が言いたいのは、ソレに引っ掛かった最大の原因が“彼女”に消された今、一体どんな状況になってるかなんだよ。ジョージ」

 

 若干苛立ちの篭った口調で言う彼に、飽くまで事務的に通話の声は答える。

 

『ハッキリ言って最悪だよ。向こうは幾つも罠を張ったホームグラウンドなのに対して、一方の此方は完全に情報ゼロのアウェーだ。狙いも目的も分からない今、……余り言いたくないが、現状最大の糸口は“彼女”の存在だと言っても良い』

「B.O.W.なんざまるで関係ない、だが余りに大き過ぎる力を持った余所者(イレギュラー)……態々そんな未知数すら引き込む、いや引き込まなければならないような目的か……どんな絵空事を浮かべてんのやら」

『全く。その上俺達は後手と喰らっていると来た、少しでも何か手がかりを掴まなければな……所で、当の彼女は今何処だ?』

 

 チラリと上に視線を向けた彼は、直ぐに視線を戻して淡々と言う。

 

「学校。嘘吐かせて休ませても良かったんだが、一応“約束”はしたんでな」

『お人好し、と言ってやりたい所だが、お前が彼女の傍に居てやらないのは、彼女自身の身の為にしろ“糸口”を掴むにしろ少し軽率過ぎるんじゃないか?』

「携帯に追跡出来るよう細工はしているし、下手に手元に置いた所で妙な噂を立てたくない……それに、用意周到な敵さんが態々俺達に用意した“糸口”だ、まだナリを潜めている今ではそう簡単に消そうとはしないだろうさ」

『そんな楽観的で良い物なのか……、一応此方も衛星で警戒させてもらうけどな』

 

 その言葉を最後にPDAは沈黙する。

 彼もパソコンの電源を落とすと、席を立って玄関に向かう。

 勿論、学校に行こうというのではない。

 そう、“彼女”だけではまだ手掛かりは足りない。

 「罠」の先にある本質を見抜けなければ、奴らの企みを止めるのは不可能なのだ。

 だが一回目は、向こうの完璧な先手を打たれて失敗した。

 手痛い損失をこれ以上増やさない為にも、此処からの失敗は絶対に許されない。

 その為には、“彼女”からは得られない情報も少しでも多く手に入れなければならない。

 

――この任務の後、絶対有給取ろう――

 

 一昨日から一変して緊迫した状況に突入した彼は、そんな事をボンヤリ思いながら部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・郊外、裏通り

 

 

 

 様々な企業による再開発の進むこの町は、ある意味最も“風紀の良い”町であるとも言える。

 世界各国の注目を浴び、都市の建物の一つ一つの大きさや形まで逐一計算されたこの町の中心部に、いかがわしい領分が入り込む隙は殆どない。

 国の面子の掛かった看板だからこそ、地方都市としては異常な規模の警察が組織されているのも、この状況に拍車をかけているのかもしれない。

 だが、それは飽くまでこの町の中心部における話。

 町外れの、他の都市との境まで来れば多少は荒れた一帯も見受けられる様になる。

 彼が来たのはそんな一角、“嘗ての”建物に挟まれた小さな裏通りだった。

 

「……見ない顔だな、“遠征”か」

「違う。紹介を受けて訪ねただけだ」

 

 南北に続く通りの北から6番目、4階建てのビルの3階にある事務所の入り口、そこから顔を出した40代後半の男に彼は答える。

 そして、彼は着ていたコートを徐に少しはだけてその裏地を軽く見せると、男は明らかに聞こえる様に舌打ちして恨みがましい瞳で彼を睨む。

 

「……入れ」

 

 言われるままに彼は男に事務所に通して貰って年代物らしい長椅子に座ると、男は自分の事務机に座って半ば自棄を起こしたようにタバコに火を点ける。

 キツイ臭いが充満する中、彼は不意に切り出す。

 

「“企業側”の状況が知りたい。“グランフォート”を中心とした動向をだ。お前が“敢えて残された”この裏通りと企業の橋渡しをしている事は知っている」

「だったら、尚更“企業”側の俺が喋ると思うか?」

「大した義理もないだろ、去年の分(・・・・)の三倍を出す」

「……、」

 

 暫く黙った彼だったが、首を横に振るとこう答えた。

 

「済まないが話せない。他を当たってくれ」

「今更怖気づくのか。良くそれで今まで勤まったな」

「……“アレ”だけは駄目なんだ」

 

目を伏せがちにして、まるで“誰かの機嫌を伺う”かのような口調で話す。

 

「お前の知ってる通りだよ。確かに俺は情報家紛いの事をしてた。だが、“アレ”の事は一度も話した事はなし、これからも話す事もない。……格が違うんだよ」

「……、」

「お前の飼い主に話しとけ米帝の犬。今の内に手を引いた方が良い、……“アレ”は、人がどうにか出来る存在じゃないんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 と言うのが、五件ほど続いた。

 どうも相手方は飼い犬には徹底的に躾を施すタイプらしい。

 結局、情報家を訪ねるのは不振に終わった彼は、一先ず現在の拠点に戻ろうと通りを歩いていた。

 そんな時、彼が片耳に付けていたワイヤレスのインカムから声が響いてくる。

 

『……やっぱり妙だ』

「何が?」

『お前が訪ねた輩は皆相当な食わせ者だし、中には司法組織と繋がってる奴もいる。……それが軒並み口を紡ぐなんて普通は有り得ん』

「……結局、銃口見せてもまるで態度を変えなかったしな。何をやったらあそこまで反抗の芽を摘んでおけるのやら」

『いっそ、本拠地に乗り込んだ方がマシだったか……?』

 

 まるで掴めない敵の全容に、二人して頭を悩ます。

 そんな風だった所為で前方が疎かになっていたのだろう、正面から駆けてきた人影に気付かず彼はぶつかってしまう。

 

「スマン」

 

 そう謝る彼だが、ぶつかって来た当の相手は此方をチラリと一瞥するだけで、そのまま走り去ってしまう。

 一先ず頭を掻いた彼は、気を取り直して歩き出そうとした所でふと再び足を止める。

 

「……暫く会話を止めるぞ」

 

 そう言った彼は、返答を待たずにインカムのスイッチを止めて先程とは違う方向に歩き出す。

 

 

 

 

 

「……なんだこりゃ」

 

 その頃、路地裏では先程彼とぶつかった人物が、手に持った黒い財布を開いてそう呟いていた。

 財布を片手に持って、それを軽く振りながら更に口を開く。

 

「何にも入ってねぇ。小銭からカードまで、新品同然じゃねぇか」

 

 偶々歩いていたら、上の空の良い「獲物」を見つけて何の気なしに掏ってみたが、此処まですっからかんだと逆に何だか悪い事をした気分になってくる。

 少しばつの悪そうな表情を作って、ボンヤリと呟く。

 

「ッチ、無駄骨だったか」

「……それはご愁傷様だったな。草臥れ儲けを出さして悪かった」

「ッ!?」

 

 帰ってくるとは思わなかった返答に驚いて前を向くと、其処に先程の「獲物」が立ち塞がる様に立っていた。

 僅かに後ずさるのを尻目に、彼は徐に自分のズボンのポケットを裏返すと、それを目の前に晒しながら口を開く。

 

「どうも治安の悪い所に居ると対策に凝ってしまう物でな。こんな風に二重構造にして表にはデコイを入れてたんだよ。つい癖でやってたが、やはり油断はしないに限るな」

「……んだよ。自慢しに来たのか?」

「立場を理解しろよ。そんな口が利ける身分か」

「……、」

 

 黙ったのを見て溜息を一つ吐いた彼は、此方を睨む“彼女”をまじまじと見つめる。

 外見的に年齢は十台中頃、水色のパーカーにショートパンツを合わせている。

 腰まで伸びたポニーテールを靡かせながら、少女はウンザリした様子で口を開く。

 

「ケーサツに突き出すならどうぞ。早く連絡したら?」

「クソ生意気な餓鬼だ事。だが安心しろ、テメェに使ってやる電話代なんて一銭も無い」

「アン? ……弱みでも掴んだ気か?」

「生憎ロリコンの趣味も無い。此方は既に目的は達した」

 

 そう言うや、彼は踵を返して歩き去ってしまう。

 半ば呆然とその背中を見送った少女は、我に返って顔を不愉快そうに歪めて呟く。

 

「……何だアイツ、キモチワリィ」

 

 そう言った彼女が、そもそもあの時に彼が此方を追えない様に「チカラ」を行使していたので来れる筈がない事を思い出すのは、もう暫く経った後の話である。 

 

 

 

 

 

 一方、そのまま現在の拠点へと戻ってきた竜二は、椅子に座って前のテーブルにPDAを置き、徐にその口を開いた。

 

「……終わったよな?」

『勿論。佐倉杏子、年齢は15、戸籍的に見ると風見野の郊外で暮らす牧師の娘だったようだ。が、今から約10ヶ月程前の“一家心中”以降姿を消し、そのまま「行方不明者」扱いされてるみたいだな』

 

 少女の個人情報をつらつらと話すジョージの声を聞きながら、彼はコートの襟元に付けていた1cm四方の小型カメラを外すと、そのままそれを片手で握り潰してしまう。

 彼は兎も角、彼のバックアップはその道のプロだ。顔写真から個人情報を辿るなぞ朝飯前だっただろう。

 そしてその報告が終わるや、彼は小さく鼻を鳴らすとこう言った。

 

「一年近くも行方を眩ましてたって言ったな、……流石に疑っちまうのか早計かね」

『タイミングもタイミングだしな。候補には挙げとくべきかもな……、所で、俺は兎も角お前から見てどうだった?』

 

 そう聞かれた彼は、先程の彼女の様子を一通り思い出して、少し頭を掻きながらこう答える。

 

「……まず掏りの手口が荒い。慣れてない感じがあったし、ひょっとしたらあれが初めてだったのかもしれん。それに終始、妙にご機嫌斜めの様子だった感じがした。……これは勘だが、あの掏りは単なる気晴らしだったんじゃないかと思う。俺自身、始めはそのつもりで接触してたしな」

『だとすると、関連性は低いというのがお前の意見か……ん? じゃあ何で俺に身元を特定させた?』

「接触()()の行動だよ」

『アン?』

「チョイとオイタの過ぎる小娘だと思ったんだが……その割に、此方の“間合い”が分かってたみたいだし、単なる不良娘ではない感じがしたんだよ」

 

 あの時、彼女は現れた彼に対して咄嗟に数歩後退していた。

 実はその数歩分を置く事で、彼女は彼が大股3歩で接近できる距離の外側へ丁度出ていたのだ。

 然も、その後も実は僅かに接近を試みていたのだが、その度に彼女の方も下がって行っていた。

 武道系の天童でもない限り、あの年の一般人にそんな動きが出来るとは余り考えられない。

 そんな時、ここまでの数日間に会った「奇妙な少女達」の事が彼の頭を過ぎった。

 一般人に溶け込みながらも、有事にはB.O.W.も顔負けの怪物と死闘を繰り広げる少女達。

 彼女達の一員だとするならまだ納得が出来るが、まだ確信が持てる段階ではない。

 

――どちらにせよ、ハッキリするまでは視野に入れとくべきか――

 

 そんな事を思いながら壁の時計を見やり、そろそろ“彼女”の下校時間かと思う彼であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・市内、喫茶店。

 

 市内の中学校に通う生徒達の大体の通学路から直ぐ脇に逸れた辺りにある、こじんまりとした喫茶店の一角に暁美ほむらの姿はあった。

 現在、様々な意味でかなり危うい立場にある彼女が、「監視員」に無断で寄り道をしているのにはある訳がある。

 

「……、」

 

 その訳を作ったショートツインテールの少女は、彼女の対面で黙々とサンドウィッチのセットを食べている。

 話をする為に少女の方が態々彼女を呼び出したのに、この少女、サンドウィッチを頬張る所為で実はここまでまともに彼女と会話が出来ていない。

 完全に本末転倒な、そして「見慣れた」状況だった。

 だが今の彼女には、この鬱陶しいだけだった状況が途轍もなく有難い物に感じていた。

 「彼」も、そして「彼以外」でも余りに予測できない事態が続くこの時間軸で、「見知った状況」というのは彼女にとって相当な精神的支えにもなっていたのだ。

 

 

 

 だが、残念ながら今のこの場の()()が「見知った状況」という訳ではない。

 

 

 

「……そろそろいいかしら? 話を聞かせて欲しいのだけど」

 

 この状況の唯一の「例外」であるパーマのかかったツインテールの先輩が、二人の間に割って入る様な位置の席に座って、ティーカップを皿に戻しながら切り出した。

 その態度や声色からは「後輩」の少女を気遣う感情が多分に篭められているが、一方でほむらへの牽制や警戒も怠っていない様子もあった。

 この状況を不都合と取るか、そもそも「牽制」程度で済んでいる事をマシと取るか、彼女には悩ましい話だった。

 そんな事を彼女が相変わらずの無表情で考えるのを尻目に、目の前の後輩、鹿目まどかは口の中のサンドウィッチを飲み込むと二人にこう切り出した。

 

「その、さやかちゃんの事なんですけど……」

 

 そこで、対面に座るほむらの瞳がより冷たく鋭い物へと変わったのに気付いたのか、まどかは思わずその口を噤んでしまう。

 元々気の弱い性質であるまどかが、クールで大人びたほむらに怒気を向けられれば、どうなるかは火を見るより明らかだろう。

 

 

 

 

 とは言え、今回に限っては“それだけが原因ではないのだが”。

 

 

 

 

「あら、丁度良いわね。実は私もあの子の事を聞きたかったのよ」

 

 二人に別々の横顔を向ける位置にすわる先輩、巴マミがまどかに顔を向けて言う、その口調には珍しく“険が篭っている”。

 だが、この「先輩二人」が二人してさやかに怒りを覚えているのも無理は無い事なのである。

 

「隠さずに教えてくれるかしら。……“どうしてあの子は「あんな事」をしたの”?」

「その……実は、余りハッキリとは分からないんですけど……」

 

 オロオロと視線を彷徨わせていたまどかだが、意を決した様に話し始めた。

 

「ただ、あの子は凄く思い込みが激しくて、頑固な所もあって……だけど、真っ直ぐで素直な子だし、多分「あれ」は本当にさやかちゃんの意思だったんだと思うんです」

「だからって、無断で契約した挙句に「これから一人で動く」だなんて、流石に先輩として納得できないわ」

「その……御免なさい」

 

 まるで我が事の様に凹むまどかに対し、流石に少し焦った様子でマミはフォローに回る。

 

「貴方が謝る事じゃないわ。……本人とは連絡取れたの?」

「それなんですけど、ケータイも何も繋がらないんです。学校にも居なかったし、病院に行っても上条君とこは“面会謝絶”になってたし……」

「行方不明って訳ね。全く、困った後輩だわ」

 

 呆れた様な溜息を吐いたマミは、ここでチラリとほむらの方に目線を向けて、テレパシーを彼女に送る。

 

〈……どう見る?〉

〈恐らく「彼等」側と関係しているのでしょうけど……、「どちら」かはまだハッキリしないわ。どちらとも動機も可能性も十分ある訳だし〉

〈弱ったわね。……本当に貴方が昨日話した通りなのだとしたら、これは身内で争ってる場合じゃないかも知れない。少なくとも、貴方ほどの魔法少女を負かす位の実力者が私達を狙っているのでしょうから〉

 

 若干煽るようなマミの言い方に、本の僅かに、だが明らかに不服そうにピクリとほむらの眉が動いた。

 

〈……あれは少し油断していただけよ。今度は負けるつもりは無い〉

〈その意気込みを信じたい所ね。……美樹さんの事は此方で探してみるわ〉

〈くれぐれも深追いだけはしないように気を付けて。下手に刺激して何が飛び出すか分からないから〉

〈そのまま此方からも返すわ。くれぐれも気を付けて〉

 

 傍から見れば数秒間の無言の作戦会議を終えて、マミはまどかに視線を戻した。

 

「美樹さんの事はパトロールついでに探してみるわ。だから鹿目さんは今日は家に帰りなさい」

「え……。でも、」

「これはあなたが思ってる以上に深刻な問題なの。下手すれば命を落とす事になるかもしれない。だから理解して」

「……、」

 

 納得していない風のまどかだったが、二人の言葉に一応縦に頷いて肯定を示した。

 それを確認するや、ほむらは自らの財布から千円札を取り出す。

 

「先に失礼するわ。お釣りは返さなくて良い」

「あら、もう行っちゃうの。折角の機会だし、色々話をしたいと思っていたのに」

 

 札を机に置きながら発言したほむらは、マミの言葉にチラリと視線を彼女に向ける。

 その瞳を見るに、流石の彼女も少々イラついたらしい。

 

〈……嫌味?〉

〈冗談よ。貴方の立場は昨日の話で理解してる、……〉

 

 此処で彼女のテレパスが先の強気から一転、何処か後ろめたそうな声色で中途半端に止まる。

 表情の方も、よく見ると申し訳無さそうな雰囲気を作っていた。

 一瞬首を傾げかけたほむらだが、直ぐに訳を察して溜息を吐きたい気分になった。

 今更だが、彼女は昨日の時点でマミには学校内で秘密裏に現状を伝えてある。

 恐らくその事で、彼女が厳しい立場に置かれてしまった事でマミは負い目を感じているのだろう。

 自らがすべき役割の危険性を理解せずに安易に任せて、彼女に貧乏くじを引かせてしまったとすら思っているのかもしれない。

 

――確かに今考えれば不用意だったかも知れないけど、私から志願した事を負い目に思われても……――

 

 然も現状協力関係にあるとは言え、本来は対立している筈のほむらに対して、さっきまで散々牽制してきた彼女に対してこの様子である。

 その呆れかえる程の人の良さが何時も“命取りになってた”と言うのに、と彼女は思う反面、この世界でも“変わらない”彼女に小さな安堵も覚えていた。

 無意識のうちにほむらの表情がごく僅かに緩んだが、それは此処の誰にも気付かれなかった。

 

「御免なさい。色々と用事があって忙しいの。だからまた次の機会にしましょう」

「……そうね。引き止めて御免なさい」

 

 ほむらの言葉に気を取り直したのか、小さく微笑んでマミは答える。

 その対面で状況に怖気ついていたまどかも、場が一旦落ち着いた事で緊張が解れたように息を吐いている。

 

 

 

 

 

 そして、適当に別れの挨拶を済ませた後、喫茶店の外に出てきたほむらは思わず疲弊したように息を吐いた。

 そして、何処か自嘲気味に呟く。

 

「……「次の機会」、ね」

 

 彼女の脳裏に浮かぶのは、遠い「過去」の光景。

 まだ、「奇跡」を子供の様に信じていた頃の情景。

 

 

 “三人でチームを組んでいた”頃の、もう戻らない「幸せ」。

 

 

――相当参ってるのかしら。こんな時に感傷に浸るなんて……――

 

 自分の状態をそう判断し、途端に引き締める様に顔を元の真顔に戻す。

 生憎、彼女が感傷に浸る余裕も、それを思い起こさせるあの場からまるで“逃げ出した”ような自分を嫌悪する時間も無い。

 彼女にはその「幸せ」を諦めてでも果たすべき「使命」がある。

 その為には、目下は今日の“夜”の動向に集中すべきだ。

 

 何せ、今日は美樹さやかが“彼女”と出会う予定なのだから。

 

 目の前の重大な事柄に対応すべきだ、と如何にか気を取り戻した彼女は通りを歩き出す。

 そして、ふと思い出したかの様にポケットから携帯電話を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はいはい、分かった。……ああ、特にこっちから突っ込む気はない。ま、気をつけて帰って来いよ」

 

 個別に持っていた旧式の携帯電話での通話を終えた竜二は、それを仕舞ってから気だるそうに頭を掻く。

 その時、片耳に付けていたインカムから徐に話し声が響いた。

 

『……また野暮用か?』

「その様で。今度はどこぞの裏路地だとさ。また騒ぎを起こさなきゃ良いが」

 

 そう言い返しながら、彼はボンヤリとほむらを“見下ろしていた”。

 そんな視線には気付かず、彼女は通りを真っ直ぐ歩いて行く。

 

「GPSを追って対面のビルの屋上に陣取ったは良いが、周りに特に目立った動きは無いな」

『また不振か……。これ以上の深追いは止した方が良いか、あの“結界”とやらに飲み込まれて出れなくなったら厄介だ』

 

 仕方が無い。

 手摺に寄り掛かっていた体を離して、彼は通りに背を向ける。

 そしてPDAを取り出しGPSの座標だけ確認すると、ビルの非常階段へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 結局、その姿を“無機質な単眼”が追っている事も知らず。

 また、その背後で青い髪の少女が通りを走っていったのにも気付かなかった。

 

 

 






えー、本当にお久しぶりです。一ヶ月と約二週間です。
まさか此処まで難産になるとは思わず、長い間お待たせしてすいません。
そして、その割にお気に入りが微妙に増えているのに戦々恐々としております。
じ、次話こそは早く仕上げるんだ(願望)。

んで、その割には今回も前回以上にかなり突拍子も無い展開が起こりまくりで、まあ全く訳の分からない話になっています。
が、ちゃんと抜けた穴も回収予定です。はい、きっと多分大丈夫です。まだ騒乱前の導入だもの。

さて、そんな訳でまた次回。
カオスな展開のまま、物語は容赦なく進みますよ。


三式弾が無くて夏イベ詰んだ今の私ならきっと早く仕上げられる筈……!!

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