・数日後、見滝原市立病院周辺
まだ太陽が昇らない朝早く、秋に入った気候はそろそろ半袖では肌寒く感じる頃合い。
病院のすぐ近くにあったテナント募集中のビルに、小学生くらいの小さな少女が背丈を超える長めの荷物ケースを掲げる様に抱えていそいそと向かっていく。
飛び跳ねるようにドアのセンサーにカードをかざして電子ロックを解除し、駆け足でビルに転がり込むと、荷物ケースを一旦降ろして周囲に注意を払う。
たっぷり5分程そのまま固まって、漸く一息吐くように肩を落とした。
『……追手無し、周囲に人気無し。昨日の夕方からだっけ、結局一晩掛かったよチクショーめ』
床に降ろした荷物ケースの上に腰掛け、白いワンピースの上に巻いたポーチから水筒とベルギーワッフルの袋を取り出してそれを頬張る。
すると程なくして、携帯電話か何かのビープ音がポーチから響いた。
だが少女は気づいたのに何故かそれを取らず、面倒そうに虚空に視線を投げると不意に言葉を発した。
『何で態々電話使うのよ、貴方と私なら別に必要ないでしょ?』
『形式だよ形式。君等だけに特別扱いしていると、他の所まで無意識にそれを求めかねない。波風を立てたくない私の望みを満たすには、一様に対処できる手段は常に使っていくことが重要なのだよ』
『あっそう。でも出来る出来ないはあるだろうし、細かい所から効率を優先して接触の機会を短くするのも「それ」に含まれるんじゃないの?』
『ストイックな生き方は常に角を立たせる物だ。過度な効率重視は周囲の意識差への精神的ゆとりを無くす。適度が一番なんだ。此処ぞという時は効率を求め、余裕を持たせて良い時は遠慮なく余裕を消費する。……ま、そうしていれば平凡な成績になって目を付けられないのもあるが』
『相変わらず、悩ましい生き方ね。そんなにくたびれ儲けを出したいのか』
『そう言う性分なんだ。生憎、成功を求める人生は不要なんで』
ワッフルを平らげ、水筒のお茶で一通り喉を潤すと、少女の瞳は緊迫した光を放ち始める。
先のぐったりした様子は何処へやら、何かのスイッチでも入った様に態度が固いものへと変貌した。
『で、連絡入れたってことはそちらはもう十分なんだよね』
『当然。……なんだが、』
『どうかした?』
『本当に良いのか? ……私が今からやることは理解しているだろう』
『今更、自分の信念だ何だと拘泥している隙はない。非難も責任も後で考えること、今は「結果」だけよ』
『……口を挟む事では無かったな。ならば、手早く終わらせるだけだ』
空から響いていた声が途絶える。
恐らく次言葉を交わす時が、「作戦」の開始となるだろう。
『此方も準備するか、あとで小言言われたくないし』
「やれやれ、嫌われてしまったかな」
街の郊外、隣町の境の辺りにある住宅街の路地で立っていた「スカヴェラ」が手に持った短期契約式の安物の携帯を見て呟く。
数日前のメイド服姿からうって変わって、ジーパンと長袖シャツに薄いチョッキを羽織っただけの至って目立たない姿の彼女は、通話の切れているのを確認してからジーパンのポケットに携帯を仕舞いこむ。
傍らには先日に
その動作は何処と無く直線的で、人形じみたものだった。
「しかし、先のは依頼主である彼女のセオリーに合わせるのが正解だったか? いや、其処まで譲歩する必要は無い。この仕事は職人芸だ。私の
自問自答を終えた後、ふと彼女は男性に目線を向ける。
その途端、まるで機械のようだった男性の動作が急激に滑らかな物に変化し、自然な動きへと変わっていく。
その様を暫く眺め、満足げに小さく頷くと。
「……よし、全前段階工程完了。後は時刻を待つのみ」
時計を眺める、予定では午後になる筈だ。
付近を見渡し、近くにある小さな公園に入ってベンチに腰掛ける。
行き掛けに買っておいたサンドイッチを、一緒に持ってきた求人雑誌を広げながら頬張る。
気長に、彼女は待ち続ける。
「第一目標」が、此処を通るのを。
「末恐ろしいな、何をすれば行動パターンを其処まで知れるのか。……「これ」さえ無ければ、引き受ける筈もないというのに」
・夕刻。
果たして、その時は訪れる。
予定時刻数分前になって、人通りの薄い路地の入り口に遂にその「人影」は現れる。
「予定通り。……さ、行け」
そう言って指で示唆すると、素早く、それでいて不自然さもない動きで男性が動き出し、路地の方へと向かっていく。
彼女もベンチを離れ、それとは真逆の方向へ歩いて行く。
携帯電話を取り出して「エーワックス」に連絡を掛けると、今度は素直に応じてくれた。
「接触、手筈通りに病院へ誘導する。そっちは」
『問題なく。自然に振る舞うことを重視して、時間は気にしないでいいから』
はいよ、と彼女は呟き、公園の土の上に立ってしゃがみ込む。
そうして、両手を地面に付けると、微かに其処から液体が泡立つような音が響いて。
『
呟くや、ズブンッと
まるで彼女の足元だけが泥になったかのように、地面の硬さを無視するような滑らかさで、あっという間にその体が地面の下へと消えた。
その直後に、風に飛ばされた雑誌が直ぐ側に落ちるが、それは少しも地に沈むような事なく、硬い地面を風に引き摺られて滑っていった。
「さてと、これで悟られる事無く追従できる。……何だか「標的」の元気がないが、多分大丈夫だろう」
「
途中、配管や送電管を避ける為に迂回しつつ、息継ぎのためにマンホールのすぐ下の空間に顔を出したりして、凡そ300m程度の移動を経て。
<「有難う御座います!」>
<「いやいや。礼を言われるまでも無いよ」>
――第一関門もほぼ突破、か。簡単に付き添ってくれる性格だったのは意外だが、それなりに向こうも暇してたのかな――
病院前で別れていく二人の真下、足元の地面に伝わる音から状況を掴んだ彼女は、そろそろ地中から顔を出そうと人気のない位置を探り始める。
此処からは直接視認しなければならない、より精密な動作になる。
程なくして彼女が適当な位置から身体を引っ張り上げるのと、別れた男性が病院内に到達したのはほぼ同時だった。
周囲を見渡すと、どうやら彼女は病院の正面入り口の向かって左脇、自転車置き場の反対に位置する中庭の茂みの中にいるらしい。
直ぐ側の窓からエントランスが覗けるし、茂みで身を隠すことも出来る、「仕事」をするにはうってつけの場所だった。
ポケットから回線を繋いだままの電話を取り出して小声で、だがハッキリと話す。
「やるぞ、「エーワックス」。それなりに大きな戦闘になると思うが、周囲の人間の管理は任せる」
あの男に持たせた「拳銃」を使えば、確実に「標的」は病院に入ってくる。
当然、大人しくやられる訳には行かず、この後は更にある程度時間を稼ぐ予定だ。
つまり彼女の影響下とは言え、生身の一般人が「彼」を相手に少なくとも5分は保たせないといけないのだ。
周囲の動向なんかを気に掛けられる余裕は、生憎彼女も持ち合わせていない。
寧ろ、その領分は当の「エーワックス」が一番向いているだろう。
相手の返事を待たずして、病院の方から乾いた銃声が響く。
既に指示は出していた、そして視界の右から人が駆けてくる足音が聞こえる。
接敵まで、後数秒。
その時、戻ってきた「エーワックス」の返答は、彼女の想定していない内容だった。
『
は、と彼女が口を開いたその瞬間、目の前を通った「彼」の身体が忽然と
虚空に溶けるような、一切の痕跡も物音も残さない、一瞬の出来事だった。
彼女はまるで事態に追いつけず、しばし呆然と正面の病院入口を眺めていると、再び「エーワックス」からの連絡が来た。
『一次工程は
「……何故黙っていた」
『
……この「私」を差し置いて、
以前から、常に伏せている事実を身に纏う様な行動の多い「彼女等」ではあるが、この分では最期まで話すつもりはないのだろう。
「スカヴェラ」自身、言及する事はしないが、正直今回の件は妙に根の深そうな仕事だと印象を受けていた。
「……「魔法」、か」
「エーワックス」等に悟られない様に呟く、その顔は何処か苦々しい物だった。
が、それもつかの間、切り替えるように彼女は表情を引き締める。
先に「エーワックス」が言ったように、まだ「仕事」は終わってない、愚痴や不満をこぼす時間はないのだ。
「第二工程はどうする。静止役が空席になったようだが」
『既に潜り込んでいる。優秀な部下よ。名前くらいは聞いているでしょ』
「……3年くらい前から引き取っていた「彼女」か。顔は合わせたことがないが、お前が言うなら信じるしか無いか」
「スカヴェラ」は病院の窓から中を覗き込む。
受付を兼ねたエントランスはパニック寸前の恐慌状態にあり、中央に立つ男が一つアクションを起こせば一気に瓦解する静寂が包んでいた。
身動ぎ一つ出来ず、呆然とする来客や患者、パニックを起こして刺激しない様に彼等を宥める看護師、銃を持った男を冷静に観察しつつ、悟られないように外部に連絡を繋ごうとする職員と、三者三様に動いている。
その中で一人だけ、緊張したような硬い表情を作りながらも、男とは
緊迫した周囲の人々は気付く素振りがないが、外部から覗いていた「スカヴェラ」には割とあっさり見分けられた。
最も、数秒後には周囲の来客達と同じような仕草を始める辺り、「エーワックス」の指示で敢えてそうしていたのだろうが。
「……ちょっと距離が遠いか? 2m右に移動」
こうしている間も職員達から警察へと連絡が回りつつあるし、「エーワックス」が足止めするにも限度がある。
そういう意味でも保って「5分」だが、上手く行くかは未知数だ。
なんせ、「本来の目標」は、
「まだか、後3分だぞ。それ以上は君の部下にも危機が迫るし、撤退し辛くなる」
『……ち、高級車のキーでも探してるのか? こんな最中で裏口から出るのに態々車引っ張り出して、目立つだけだろうが』
微かに「エーワックス」の言動も、焦りを孕んだ荒っぽい物になっている。
ロビーで演技し続ける「部下」の表情も、俄に本気の緊張が滲み始めた。
こうしている間も時間は過ぎる、後2分。
「赤子が泣き始めた、時期に子供から親御へパニックが広まるぞ。マズい、静止役を動かさないと最早収拾が――」
『待て――、後1分』
冷静に努めていた職員達も血の気が引いていっているのが確認できる。
彼等だけでパニックを収められる間に終わらせなければ、副次災害も起こりかねない。
それだけは、避けねばならない。
この一件どころか、
その時だった。
『捉えた! やっぱり車で移動するつもりみたい!』
「っ!」
窓から目を離し、背後の通りを見やる。
建物の密集しつつも比較的大きい病院なだけあり、正面入り口に面した通りは片側一車線はある。
時刻は4時半前後であり、車通りもそれなりにある。
が、彼女は何も「目標の乗った車」を探すつもりなのではない。
カツン、と。
「
本来は、数種類のセラミックを使用して造形物を作る、謂わば
それを小型化、狙撃銃の弾頭設計用に精鋭化し、様々な性質を持った弾頭をその場で作り出せるようにした「弾頭生成機」。
発信機をコーティングする「マーキング弾」なら、貼り付ける対象に合わせて配合を変え、張り付いたセラミックの色や質感を対象そっくりに変えて発見しづらくしたり。
多層化、材質の変化で
拳銃や機関銃は兎も角、より高度な調整が必要になる狙撃銃に合わせて作られた、試作段階の兵装である。
最も、銃弾をその場で生成する都合上、その性能を十全に引き出すには材料工学や
セラミック弾故に本来は通常のライフル弾よりも軽い音にはなるが、「エーワックス」は意図的に特徴的な音がなるように配合を調整していた。
周囲からすれば然程気にならない程度ではあるが、街中で、しかも隠密行動であるのに、銃撃音を意図して鳴らすのはそれなりに異様な事である。
というのも、今回のような移動目標への狙撃を行うケースでは、彼女の狙撃銃に備わる多機能型センサースコープ「キャッスル・イン・エアー」は、無線受信機の役割を通じて着弾確認は可能だが、着弾した「位置」、つまり命中確認をする事は性能上かなり難しいのだ。
極端に言えば、隣を走っていたバイクに着弾していたとしても、「エーワックス」側でそれを判別するのは困難を極める。
特に「セラミスト」で完璧にボディに張り付き、色艶が車体の塗装と完全に同化したソレを見付けるのは至近距離で高感度カメラを張り付かせてやっとの事であり、数百m離れた位置から見分けるのは彼女達でも流石に不可能だ。
一応、「キャッスル・イン・エアー」の指向性マイクで弾着音を拾うことは出来るが、一箇所の音声だけでは余りにも不十分。
その為に「現場の弾着音」を「スカヴェラ」に聞いてもらい、2箇所の着弾音のズレから三角測量法の要領で音源を特定、狙撃の成否を判断しようという魂胆だったのだ。
「弾着確認」
電話越しに伝えるだけ伝えて、「スカヴェラ」は窓へと目を移す。
最後の締め、「静止役」による事態の鎮静を実行する為に動こうとしたのだが――、
「……何か、不思議と若干卑怯に感じるな」
視界から外していた隙を突いていたのか、既に「静止役」――ミラが、模範的な体勢で男性をうつ伏せに抑え込んでいた。
此方に視線をちらりと合わせて来る辺り、自分の動きで状況を悟って動いたに違いない。
気付かれないようにしていたつもりはないが、気付いている事を悟らせなかったのには「スカヴェラ」は素直に感心していた。
『通りにパトカー確認、一先ず状況終了よ。貴方は此処を離脱して、「車両」を追って。此処の始末は私達が――』
「エーワックス」の連絡が聞こえる。
多少(「スカヴェラ」にとっての)想定外もあったが、状況その物は大きな問題もなく完了した。
彼女の任された仕事は此処では終わり、「目標」を追うためにも直ぐにも移動すべきだと理解している。
それでも、
「いや、一つ
『何?』
「個人的な処理だ。……所で」
「スカヴェラ」は窓の外から、事件の鎮静を図るミラや職員、警備員達を見つめながら続ける。
仮にその様子を旗から見る人がいれば、彼女の蒼い瞳が黒く濁っていくように見えたかもしれない。
「彼女、私の能力の説明を受けているのか? 君は良く知っている筈だろう」
『両手の「ラプソディ」なら伝えてるわ。これでも忙しくて簡潔にだけど』
「なら、ちょっと驚くかもしれないな……」
凶暴な犯人が取り抑えられた事である程度落ち着きを取り戻し始めていた、そのロビーの動きが不意に止まる。
ロビーにいる全員の視線が、ミラが抑えていた男性へと向いていた。
全員の表情が、一応に信じられない物を見るような驚愕に包まれていた。
『……まさか』
「なんせ、原理を知らねば
『待て! 下手に群衆を刺激するなと――、』
『
その瞬間、傍から見ても分かる程大きく、男性の体が不自然に痙攣を始めた。
のたうつように動く身体を抑えつつも、ミラも流石に動揺を隠せない様子で男性の容態を確かめようとする。
看護師が慌てて近付き、内数名が、騒ぎを聞きつけて奥に退避している医者達を呼びに走っていく。
野次馬が集まろうとするのを事務や警備員が止め、そして丁度その頃に正面玄関に数台のパトカーが漸く止まる。
駆け込んでくる警官に身分を証明するミラを他所に、明らかに失神した男性を数名の看護師が蘇生させるべく処置を開始する。
更に駆けつけた医師に引き継ぎ、心拍すら止まったのかその場で心臓マッサージを始める。
そんな一連の出来事を、「スカヴェラ」は
言葉を発した時点から、誰にも気付かれること無くその場を離れ、病院に背を向けて歩いていた。
一仕事を終えリラックスしたように伸びをする彼女だったが、不意にその歩みが止まる。
彼女の正面には、いつの間に出現したのか「エーワックス」が立っており、明らかに怒気を滲ませる形相で彼女を睨んでいた。
『……何故』
「痕跡を消すためだ。生憎、私の力では記憶に干渉出来なくてね。彼には
『……大層な言い様だが、
「君も私も捨て駒としか見てなかったが、実際に対峙して分かった。あれは
マイペースを貫くようにのんびりと答えた「スカヴェラ」は、先程と変わらない速度で「エーワックス」の方へ歩みよる。
表情も「エーワックス」と対照的に、満足感と安堵を浮かべた穏やかなものだ。
「そして、そんな奴の扱い方を
すれ違いざまに小さく嗤って、「エーワックス」の背後へと歩いていく。
「エーワックス」が追ってくる気配はない、そのまま彼女は最初の角を右に曲がる。
と、
「ふぅ。なんとか、正面の連中に見付からずに済んだな」
「……でも、本当に行かなくて良かったのかなぁ」
「難しい所だけど、私達は結界の外の出来事を知らないのだから、どちらにせよ大して影響はないと思うわ」
「下手すりゃ、「知って当然の事を知らない」って在らぬ疑いを掛けられる種になるかもしれないしな。下手に掻き回す位ならこっそり離脱した方が良いさ」
「……、」
「そういう訳だから、柵の外の餌を強請る子犬みたいな目をしないで頂戴。傍から見てて、何時飛び出していくか気が気でならないから」
「ちょっ、誰が子犬だ―ッ!!」
「どうどう、さやかちゃん」
何か、此処の個性はそこまで強くないのに、異様な組み合わせすぎて全体として個性がある5人の集団が歩いてきた。
前方4人の地元の女子中学生らしい少女達も、見た目からしてタイプがバラバラで、余りつるむような面子とは思えない印象がある。
そして後方、保護者にしては若すぎる成人の青年は、話しぶりと方角からして、4人を連れて裏口側から迂回して警察の捜査を抜け出してきたらしい。
彼が4人の兄と想定しても、他の4人の態度は赤の他人と接する丁寧さが滲んでいる。
……と言っても、男の方は最初の「標的」なので「スカヴェラ」が眉を顰める事はなかったが。
「……何時の間に
代わりに、「目の前で消失した筈の男が何事もなく帰還し、何故か10台の少女4人を引き連れて歩いている」というかなり意味不明な状況に首を傾ける事にはなった。
見ていると、当の本人もそう思っているという事なのだろうか、自然に取り繕っている彼の顔から微妙に冷や汗が出ている風に感じた。
……というか、何となくだが、周囲の女子4人の配置が彼への「包囲網」を敷いている雰囲気があるのは気の所為だろうか。
少女達の彼への表情は四者四様だが、何故か目付きだけが監視者のそれの強みがあるのは気の所為だろうか。
そしてその光を悟ったのか、一段と彼の影が濃くなったと感じるのは思い過ごしか。
――何故だ? 何があったかを聞くべきでは無いと、私の直感が告げている……。くわばら、くわばら――
「仕事」が済んだ以上元々さして関わる用も無く、しかも何となく関わりたくもない気分だったので、疑念を払えない不満はあるものの、彼女はそのまま一団を素通りして街の外れへと向かう。
一団もまた、よもや側を通っていった小さな少女が病院の騒動を起こした「元凶」だとは露も思わず、特に注意を向けること無く、街の中心部へと向かっていった。
『……えと、ミラ。聞こえるかな?』
『……済みません、不意の敵襲を受けて「彼」を失ってしまいました』
――あ、そういや説明忘れてたな――
『うん、確認してる。私の想定ミスだよ、ごめん』
『その、何と言いますか……。急に彼が空を掴むように暴れ出して、あっという間に事切れてしまいまして――、』
『えーっと、その事なんだけど――、』
『間違いなく、敵にスタンド使いが居ます』
『うん。テンプレ過ぎるよねこの流れ』
『超スピードだとか、遠隔操作だとかそんな物ではないです』
『うん、序に時間も関係ないよ』
『そしてきっと、普段は平凡で清楚を気取って、周囲の嫉妬や羨望を遠ざけておく癖に、いざという時はノリノリのドヤ顔で能力名を喋って、優越感に存分に浸りながら戦うタイプの人物の仕業です。勘が告げてます』
『もう誰が殺ったか分かってるよね? それほぼ正解だよね?』
『……心当たりがあるのですか?』
『何でそこまで来て分からないのかな貴方……』
『……ひょっとして、「彼」への報告に付け加えておくべき内容ではなかったのですか?』
『あー、……。 ま、それは良いか。勝手に警戒してるだけだろうし』