――世界と言うのは、何処までも不平等に出来ている――
――天国は幻想であるのに、地獄は現実であるからだ――
Chapter5:暗鬼に追われる
Ch-5-Act-01
・見滝原市近郊、文化センター前。
街の中心から少し離れた場所、敢えて少しだけ「緑」を残して清涼感を残した地区にその建物は有った。
全体としては3階建ての建物2練と4階建ての建物が1練、数本の渡り廊下を介して繋がっている構造の文化センターは、外部の芸術作品の展覧会や成人式なんかの市の行事にも使われる多目的施設だ。
この街で行われる展覧会などは時に滅多にない展示がなされる事もある上、ほぼひっきりなしに何かの展示会が行われている事もあって、観光名所の一つとして挙げられていたりもする。
そう言う理由も有り、正面入り口から伸びた一本道の両脇には、来客に備えて広い駐車スペースが確保されていた。
そして、その駐車スペースの外れの方に止まっていた乗用車の陰に隠れる様に、一人の少女がしゃがみ込んでいた。
――……おかしい――
現代からするとやや奇抜な衣装を纏った彼女、巴マミは文化センターの上部にデカデカと付けられている時計を見る。
時刻は7時半程、日も既に落ちて街灯の明かりが夜闇を照らす状況である。
――センターが閉まるにはまだ時間がある。実際、此処にはまだ多数の車がある。それなのに……――
辺りを見渡してみるが、車や建物の明かりは目立っているものの“まるで人の気配が無い”。
此処に来るまではそれなりに人の姿を見ていたと言うのに、この一帯だけが嘘の様に静まり返っている。
人払いえでもなされているかの様な、現実離れした状況。
それはきっと、「目の前にいる彼等」にとっても同じなのだろう。
そう、彼女が此処に訪れた理由はたった一つ。
隠れている所から約40m程先に停まっている、軍用車の一団を追跡していた為である。
きちんと駐車スペースに合わせて横に並んだ車両の前に、その車に乗っていた人間達は集合していた。
流石に市の設備だけあって街灯は隈なく配置されている為、この距離でもその顔色はハッキリと伺える。
耳を澄ませば僅かに声も聞こえていたが、どうやら日本語では無いという事以上は彼女には分からなかった。
とは言え、その顔色からも相当張りつめている事は容易に分かったが。
――この状況は彼等の仕業じゃないって事かしら。だとすると、彼等は何をしているの?――
車の陰から僅かに顔を出して様子を伺う彼女がそう疑問に思っていると、リーダー格らしき大柄の男性が指で建物の方を指し、次の瞬間には全員が一斉に固まってセンターの方へ移動しだす。
彼等の姿を見失わないよう、彼女も車の陰を渡って素早く移動する。
見ていると、彼等は正面入り口に集まり、扉に貼り付く4人を囲む様に残りが集まり周囲を素早く走査し始めた。
彼女も流石に危険を感じ、顔を出すのを止めて車の窓越しに伺う事にした。
――本当に軍隊みたいな動き方だわ。自衛隊ではないって事は、ひょっとして……?――
マミの頭の中で何かが繋がりかける所であったが、その前で彼らは扉を開けて素早く中に侵入していく。
彼女は安易に後を追う事を避け、代わりに自らの考えに没頭していく。
――“あの人”も米国籍だと言っていたし、仮にその身分が想像通りだとすると、多分彼等は特殊部隊か何かなんだわ。そうすると目的は“あの人”と一緒なのかもしれない――
ほむらが襲われた「エーワックス」とやらの事を考えると、彼一人では荷が重いと判断した誰かが送ってきたのかもしれない。
そうすると、最早これは自分が首を突っ込んで良い物では無いのかもしれない。
だが一方で、彼女にはここで引き返して帰るという事に納得し切れないでいた。
――あんな人達が送られてくる程酷い状況なら、ひょっとしたら今後大勢の人が巻き込まれる事になるのかもしれない。それに背を向けて、無かった事にして、「この街を守る」だなんて私には言えない……――
独りよがりのプライドだと言われればそうなのかもしれない。
全くの素人の自分が首を突っ込めば、彼等や“あの人”の足手纏いになってしまうかもしれない。
それでも、ずっと一人で
決断が出来ないで居た、その時だった。
がしゃり、という金属音が響いた。
彼女の注意が前に向くと、正面入り口の上から防火シャッターが降りてこようとしているのが見えた。
それだけじゃなく、彼方此方の窓にもシャッターが降りていっている。
ひょっとしたら、中の彼等が無関係な他人が入らない様に降ろしているのかもしれない。
「……ッ」
あれが降り切ってしまえば、これ以上彼等を追うのが不可能になる。
マミは急かされる様に一度目を瞑って、そして開いた目はしっかりと入り口を見据えていた。
――どうせ辛い目に会うなら、自分のしたい事をしていた方がマシよ……!――
車の陰から飛び出し、街灯の明かりの下を一気に駆け抜けると、閉まりかけていたシャッターの地面との隙間に滑り込む。
ギリギリで建物に入り込んだ彼女の後ろで、外から隔絶される固い音が響いた。
明かりが点いてないのか、彼女の周りを暗い闇が包み込む。
もう引き返す事は叶わない、それでも、彼女はこれで良いと思った。
固く、今度こそ決意をして、彼女は前を見据える。
先に入った彼等が、入り口でしゃがむ彼女の周りを囲んで立っていた。
正面に立つリーダー格の男が、滑稽なほどキョトンとした顔で此方を見ていた。
彼女は恥を捨てて泣きたい思いになった。
・見滝原市、文化センター裏手、数分前。
正面と違って、裏手には職員用の最低限の駐車スペースしかないが、それでも幾つかは空きのスペースが有った。
そこに一台の乗用車が、急いでいるのかやや乱暴に入っていく。
そこに停まるや、直ぐに運転席と後部席から男性一人と少女一人が降りて来た。
少女の方は直ぐに扉を閉めず、男性は降りてきた少女に声をかける。
「お前たちは此処で待ってな。何かあったらその車を動かして逃げればいい。出来るだろう?」
「それ位なら……でも、大丈夫なの?」
「これ以上お前が危険な目に会う必要は無い。手を借りたいのは確かに山々だが、これ以上“アイツ”をお前に会わせる訳にはいかない」
『あら、それは残念。私はその子にも手伝ってほしいと思ってたのに』
「……本当に喰えない奴だお前は。何時から其処に居た」
彼が目を戻すと、いつの間にか「エーワックス」が車の助手席で前に肘をついて座っていた。
ドアを開けたまま傍にいたほむらも、まだ後ろに座っていたまどかも、不意の出現に酷く驚いたのか全く声が出せないでいた。
そんな中、当の彼女は不敵に小さく微笑みながら言葉を続けた。
『取り敢えず、逃げ出したりせずに乗ってくれたのには感謝するわ。あの場で言えなかった事の続きを伝えるわね』
「……「セイクウ」の、事?」
『ふむ、意外に立ち直りが早かったねまどかちゃん。ご名答だよ。今から戦う相手の情報は喉から手が出る程欲しいでしょう?』
「エーワックス」が後席のまどかを振り返ると、まどかは酷く怯えた表情になって逃げる様に身を反らす。
その様子が面白かったのか小さく嗤った彼女の側頭部に、真っ黒い拳銃が突きつけられた。
銃を握る手は、後席のドアの向こうから伸びていた。
「この子に手を出すなら許さない。あの時の様に行くとは思わない事ね」
『ぴゃは、コワいコワい。危害を加える気なんて毛頭ないよ。今から共闘する相手のご機嫌取りはしっかりさせて貰うからね』
そう言って、無造作に両手を上げて敵意のないアピールをする彼女。
銃を向けられる事を何とも思ってないその様子が、妙にほむらには気味悪く感じた。
すると、突然「エーワックス」の細い首に誰かの手が巻き付き、彼女を車から引きずり出した。
首根っこを握ってウサギの様に彼女を吊り下げるのは、等々痺れを切らせた竜二だ。
「時間が無いんだろ。とっとと話せ」
『あらほらさっさ~』
おどけた様に右手で敬礼のポーズを取るや、いきなりその身体が真上に持ち上がった。
体ごと吊り下げられそうになって手を離した彼の上で、彼女はふわりと宙に浮かぶと、車の屋根の上に物音一つなく降り立った。
そして、黒いリストバンドを嵌めた右手をすっと前に差し出すや、その上に「何か」が飛び込んできた。
ヴヴヴヴ、と耳障りな音を立てるそれは、大体4cm程度の小さな生き物だった。
彼女は手を少し傾けて下の二人にも見える様にする。
蛍光灯に照らされたそれを目にした竜二もほむらも、理解できないかのように眉を潜める。
気になったのか、車から顔を出したまどかもそれを見て、思った事をそのまま口にした。
「……
『そ、これはトノサマバッタ。広めの草むらに居る普通のバッタだよ』
緑色の羽を持った小さなトノサマバッタを見せた彼女は満足したように頷くと、バッタはそのまま彼女の掌から跳んで闇に姿を消す。
それに手を振って呑気に別れを告げる彼女の下で、彼は不快そうに呟いた。
「意味もなくバッタを見せた訳じゃないだろう。「セイクウ」とやらは「バッタ」なのか」
『そ、「セイクウ」はバッタの“B.O.W.”。とは言え、元々は「人を殺す」兵器という訳じゃなかったの』
「……何?」
・文化センター、エントランスホール。
何とかなった。
薄闇の中、完全武装の兵士達に囲まれて座るマミは、現状についてそう評価した。
エントランスのベンチに彼女の隣に座っているのは大柄の男性、先ほど「リーダー格」と彼女が判断した人間だ。
彼の話している言語は予想通り英語だったが、そこは彼女の力でどうにか出来た。
彼女の魔法が本来「繋ぐ」という意味合いを持っていたのも、ある意味幸運だったかもしれない。
「済まないな、突然火災警報が鳴ってシャッターが降りてしまった。如何にか出してやりたいが難しそうだ」
そう言った彼は、自らを「BSAA」の者だと名乗った。
マミはその名前をテレビで聞いた事が有ったが、非人道兵器の摘発や糾弾をしている平和維持組織、といった程度のものだ。
まさかこんな私兵みたいな職員が居るとは思っておらず、最初は中々信じられなかったが、肩のワッペンを見せられた事で納得するしかなかった。
「大丈夫です。少し驚きましたが、今は落ち着いてます」
「災難だったな。「フェスタ」の忘れ物を取りに来て巻き込まれるとは」
これはマミの咄嗟の口八丁だった。
その中では、彼女は今日ここの会議室の一室を使って行われた小規模の「コスプレフェスタ」に出ていた事になっており、その忘れ物を取りに行こうとしたらシャッターが閉まりかけていて咄嗟に潜り込んでしまった、という経緯だ。
その時の服のままなのは、替えの服が「忘れ物」だという事にしておいた。
「気持ちは分からん事もないが……、本気で火災だったらどうするつもりだったんだ。“下着”程度で命を落としたい訳じゃあるまい」
「ごめんなさい……」
しょんぼりとした様な演技をしながら横の男――仮に「リーダー」と呼称する――の様子を伺うと、リーダーは本気で彼女を心配しているような表情を見せていた。
どうやら信じてくれているみたいだ。
それに満足する反面、騙しているという事実に一種の罪悪感も覚えていた。
と、二人の元に金髪の若者が一人駆け寄ってきてリーダーに声をかけた。
「どうするんです。このまま彼女を連れ回すのには賛同できません。数人を残して彼女を外に出すべきです」
「そうしたいのは山々だが、今の俺達の装備ではあのシャッターを破るのは難しい。室内で使うのは危険だと
「なら応援を呼びましょう。外からなら被害も少ない筈です」
「此処に入ってから電波が通じないんだ。妨害が入っているのかもしれん」
畜生、と上手く行かない事に毒づく若者。
先程からの観察で、彼は常にリーダーの傍にいる印象をマミは受けていた。
よって、ここは仮に彼を「バディ」と呼称しておこう。
「落ち着け。火災警報の誤作動で閉じ込められるなんて事例は建築段階で想定している筈だ。何処かに必ずシャッターの制御盤がある」
「それもそうですが、さっきから試しているのですがどうも電源が切れているようです。ブレーカーを上げるなり替えの電源を探すなりする必要があるでしょう」
「そうか」
バディの言葉に頷いたリーダーはベンチから立ち上がると、的確に部下に指示を出していく。
全員がペンライトを点灯して準備が整ったのを確認すると、改めてマミの元に戻って来た。
「直ぐにここから出してやりたいが、その為にはあのシャッターを開ける必要がある。暫く同行して貰う事になるが、許して貰いたい」
簡潔に、だが出来る限り相手を気遣う様な口調でそう言ったリーダーに、元々異を唱えるつもりは無かったマミは頷いて答えた。
「……信じられんな」
それとほぼ同じ頃、裏口から侵入していた竜二は傍らの「エーワックス」にそう呟く。
「エーワックス」を挟む形で、その向こうにはほむらも一緒にいた。
まどかは車に一人残しているが、そうしたのは彼女が火災警報を誤作動させて中を閉め切ったから車に居る限り安全だ、という主張からだった。
それでもほむらは納得し切れていなかったが、彼だけでは恐らく抑えきれないし、不測の事態が有ったら真っ先に戻らせると喰い縋った彼女に、何故かまどかが先に折れたのもあって渋々、という感じであった。
「
『さっきも説明したでしょ? 「セイクウ」は幼虫時こそ雑食だけど、成虫になると極端に「偏食」をする様になるの。その条件は幼虫時の10分間で
「……つまり何だ、“B.O.W.”を食わせれば、“B.O.W.だけを襲う”様になるって事か?」
『その通り。しかも、特殊な食物を取ってない「セイクウ」は卵を産まない。管理さえ行き届いていれば無尽蔵のパニックにもならないの。もちろん、変種が生まれたらその限りじゃないけど、そこはそもそも何代も産ませない事で調整すれば良い』
「でもこんな事になるってのは、穴があるって事よね」
『ほむら、貴方はカッターナイフでの人殺しを見て、カッターナイフの安全性が原因だと言ったりする? 何年も置いてあって使用期限の切れた消火器が爆発して、消火器のメーカーが無能だって糾弾する?』
「……、」
『今回の件もそういう事。適切な処置を怠った人間が、誤った方法で解放してしまった、それだけなの』
会話している間も、3人は薄暗い廊下を只管歩いて行く。
窓という窓に分厚い防火シャッターが降りていて、電源の落された廊下は別系統の非常灯だけが点いている。
『誰の制止も聞かず、突然、勝手に冷凍保存していた卵を取り出した、っていうのがそこを守っていた私の部下の報告。結果、速やかに卵は孵化し、そこに有った全ての食物を喰らっていった……そう、
「無駄だと思って聞くが、当然その中に「特殊な食物」も入ってたって事だよな?」
『まあね。聡明な部下は直ぐにその部屋を閉め切って報告してくれたの。換気口を予め全部塞いでいたのも幸運で、まだ「セイクウ」はその部屋を出ていない』
「その「取り出した人間」って誰なの? 貴方の部下なら武器の一つでも持ってそうだけど」
『さぁ? 元々管理していた人間に化けていたらしくて、その彼もゴミ箱で見付かったって聞いてる』
突き当りの角を曲がり、階段を上って渡り廊下の前に出る。
構造上弱い渡り廊下を封鎖するように降りている防火扉を前にした彼女は、片手の掌を上にして何かを持ち上げる様に腕ごと上げる。
すると、ロックの掛かっていた筈の、そうでなくてもかなりの重量のあるそれが、まるで温泉の暖簾を潜るような気軽さで持ち上がり、その下を平然と彼女は通って行く。
そして扉を降ろそうと振り返った際に、ふと後ろで呆然と立っている二人を見付けて、手招きするように扉を小さく上下させた。
『何してるの? 「セイクウ」はこの先だよ』
「……本当に、どうやってるのよそれは……」
「……まぁ良い。そう言えば聞き忘れていたが、その「場所」ってのは何処なんだ?」
『あぁ、言ってなかったね。その場所は――』
「……ここか」
リーダーに付き添う様に建物を移動してきたマミと一行は、防火シャッターを開ける為のまず一つ目の段階を達成しようとしていた。
「流石に客の入らない区画の地図は無いから一手間掛かったが、此処で間違いない筈だ」
そう言ったリーダーの視線の先にあるのは、「機関室」と書かれた扉だった。
やや大袈裟に聞こえる言葉だが、要は建物内の電源や空調機を一斉管理する部屋、という事である。
この場所なら恐らく非常電源も存在するだろう。
「此処に来るまでの範囲での捜索では見つかりませんでしたね」
「そうだな……」
リーダーとバディが小声でそんな事を話しているのをコッソリ聞いていたマミだったが、流石に彼等の探しているものが何なのかは予測がつかない。
とは言え、「BSAA」という組織上、それが愉快な代物ではない事は容易に想像できる。
今更になって、自分が本当に何も知らない事に少し恐怖を覚え始める。
その様子に気付いたらしいリーダーが、バディとの話を切り上げて此方に声を掛けて来た。
「心配するな。もう少しで帰れる」
そう本気で励ましてくるリーダーの向こうでは、数人の部下達が扉を開けようとしていた。
ドアを挟んで二人が壁に貼り付いて、一人がドアノブに手を伸ばすその様子を後ろからライフルを手に警戒する。
異常な寒気がマミを襲った。
何故かは分からなかったが、その扉を開けてはいけない気がした。
「……ッダメ!!」
「っおい!?」
居ても立ってもいられず、彼女はいきなり駆け出した。
バディが慌てて制止しようとするが、そのまま彼女は扉を開けていた一番後ろの隊員に体当たりする。
その衝撃で隊員は前に倒れかけ、その直ぐ前の隊員も巻き込まれた。
だが、それは丁度ドアノブを捻った瞬間だった。
そして最悪な事に、この扉は“押して開けるタイプ”だった
結果的に三人は倒れ込む様にしながら、その扉を
そして、中にいた「先客」が一斉に反応した。
その騒ぎは廊下の中程に居た3人にも伝わった。
ほむらが必死に制止しようとしている前で、竜二に胸倉を掴まれたままの「エーワックス」は目の前の彼に落ち着いた様子で語りかける。
『ほら、出ちゃったよ。早くしないとマズいよ?』
「何が不味いだクソッタレ。あの後に俺達にメールで態々「裏口から入って」って伝えたのはこの為なんだろうが!」
「落ち着きなさい! こんな所で争ってる場合じゃないでしょ!?」
『彼女の言う通りだよ。それに、遅かれ早かれ何方かが開ける必要があった。どれだけ急いでもあの状況じゃ向こうの方が早く着いたし、事情の知らない「BSAA」と落ち合えばそこで一悶着あるかも知れないリスクを考えると、“彼方さん”に開けて貰うのが最適だったのよ』
「だから態々電源まで落としてやがったのか。シャッターだけじゃ「管理室」に行かれる可能性があったから! 真っ先に「機関室」で電源を取り戻そうと思わせる為に!」
『まーまー、珍しく熱くならないの。さっきも言ったけど、まだ開けただけじゃ真っ先に死につながる訳じゃないから。今からでも直ぐに助けに行けば、彼等の優秀さも考えて死人は出ない可能性は大きいよ?』
怒りを隠す気もなく舌打ちすると、彼は投げ捨てる様に「エーワックス」を解放する。
一方で、どう考えても物理的におかしい軌道で体勢を立て直した彼女は綺麗に廊下に降り立つと、直ぐ傍の階段を指差して言う。
『此処を降りると一本道だよ。逆に言うと、
「畜生、急ぐぞ!」
二人は階段に飛び込み、一気に駆け下りていく。
徐々に近づいてくる、
そこに混じる、怒号と悲鳴を聞きながら。
怒涛の連続投稿(物理)
新章、開幕です。