――結局、世界を、お前を有りの儘に捉えられる者など存在しない。――
――誰もが、自己認識の中で世界を捉える。それは時間の流れさえも例外じゃない。――
――だからお前が「世界」の中で生き残りたいなら、先ず何より己の認識を確立させる事だ。――
――新たな
Chapter6:「平穏」の為の
Ch-6-Act-01
・文化センター裏、職員用駐車場。
時は、「エーワックス」による“
一人車に残されたまどかが、駐車場の入り口に人影を認めた頃に遡る。
――ど、どうしよう……ッ!?――
こんな時に頼れる人達は、今は殆どが建物の中だ。
連絡を取れるか自らの携帯をコッソリ取り出して確認するが、やや鈍い動作反応の後、相変わらず圏外のままである事を確認した。
連絡手段はない。
あの距離では、ドアを開けて逃げ出せば間違いなく物音で気付かれる。
完全に八方塞がりだった。
だが、唯一救いがあるのは、まだ彼女がパニックに陥っては無かったという事だ。
ガチガチに体は震え、今にも意識を投げ出してしまいたい衝動に駆られるが、まだ理性は保てている。
――このままジッとしてれば、気付かれないかな……?――
彼女はあずかり知らぬ事実だが、あの時、周囲の電灯の発光によって人影の居た辺りからは車その物が逆光になっていた。
このまま物音を立てずに息を潜めて居れば、見付からない可能性は十分にあった。
そもそも、幾ら壮絶な経験をしたからと言って、彼女は元々普通の女子中学生なのである。
暗がりの中で、外の音さえ殆ど聞こえないままに隠れ続ける、という芸当が長く続く訳がない。
5分も待てば、ついつい外の様子を覗きたくなってしまうのだ。
座席の上に丸くなって固まっていた彼女は、ゆっくりと慎重に体を伸ばし、窓から少しだけ頭を出して覗こうとする。
見ると、光源など殆どない外は、1m先でも見難い程の闇に包まれていた。
暗闇の中に居たとはいえ、ある程度外は照らされていたのもあって、然程夜目に慣れている訳でもない。
結果的に外の様子を把握する事は出来ず、暫く様子を見ていた後、再び丸まる事にした。
たった1~2分の、その行動。
それでも、「そいつ等」にとっては十分な時間だった。
「……居るな、子供か?」
彼女の見ていた方向とは違う、駐車場に停まったトラックの裏から彼は呟く。
全身黒色の、BSAAとも違うスリムなコンバットスーツを纏ったその男は、中東訛りの強い英語で近くの仲間に声を掛ける。
その顔には何やらごてごてとした、ゴーグルの様な機械を装着している。
暗視ゴーグル、僅かな光源や赤外線を頼りに物の輪郭を把握する装備だ。
「だな、何故此処に居るのかまでは分からん」
「“例の奴等”が連れ歩いている、としても不思議な話だ。……然も、「アレ」の支配下になって無いと来た」
「意図的だとしても、目的がまるで想像し難い」
「案外、「アレ」にとっても異例なのかもしれない。何にせよ、攫っていけば金に変わるだろうな」
背後で車を注視していた、チームの参謀担当が頷いた。
彼等は単純に言って、「雇われの傭兵」だった。
中東やアフリカの紛争地域、「違法な兵器」によるテロ発生地帯。
其処で己の身を商売道具に生きて来た、古参のベテランだった。
とは言え、少なくともこの男自身は、所謂“略奪”や“虐殺”を故意にやる様な犯罪者という訳でも無かったりする。
寧ろ「
……正義などではなく、単純にその方が安定して稼げるという理由だが、少なくとも、人攫いに加担する様な人間では無かった筈だった。
個人的な嗜好ゆえに、嘗て「BSAA」のスカウトを断った事もあるこの男は、こんな風に言葉を続けた。
「……「アレ」の企みを阻止するにも、ひょっとしたら“これ”がキーになるかも知れないしな。連れ帰って損にはならない」
結局の所、本当に「企みを阻止する」側の人間の弱みに付け込んで金を巻き上げる悪徳紛いの行動ではあるが、金さえ有れば確かな腕で重要な要因を確保する分だけまだマシなのだろう。
一方で、同じ様にゴーグルを付けた参謀の男が口を開く。
「目下の依頼は達している、長居するだけ「アレ」に勘付かれるリスクは増えるぞ」
「今は“彼方”の処理に追われてる。態々“奴等”を呼び寄せる始末だ、こっちに気を回す暇はないだろう」
参謀に振り返って彼は言う。
互いにゴーグルで表情の読めない二人だが、彼等含めチームの面子は長い付き合いだ、本気で反対している人間が居ない事は彼には分かっていた。
此処に居る総勢5名のチームは、様々な戦場を渡っていく内に自ずと集まった精鋭だ。
取り残された“哀れな少女”の確保程度、5分あれば片が付く。
念の為、車の周囲に罠が無いか確認すべく、メンバーを散開させ念入りに包囲網を築く。
車の窓ガラスからは見えない様な死角を出来るだけ使い、姿勢を低く保ち、暗闇に紛れて行動する彼等の動きは、嘗て情報入手の為にゲリラのアジトに単独潜入したり、要人確保の為にターゲットを長期間追跡したり、正にプロの工作員の様な活動を経て生まれた職人技だ。
現に、単純に外が気になった少女が1回顔を上げていたが、気付く素振りは全くなかった。
そんな訳で、彼等が容易く車のドアの直ぐ下に集まるまでに、実の所3分もかからなかった。
さて、一番の難解は実の所、このドアにある。
この車は日本車であり、鍵の構造はかなり複雑な物になっている。
彼等にもそれなりのピッキングの腕前は存在するが、現役の鍵士には流石に劣る。
だが例え匹敵する腕前があったとしても、長時間かけて鍵を開けるような余裕は無い。
だから、彼等はより手っ取り早くこじ開ける事にした。
具体的には、ハンマーでもってガラスを破りにかかったのである。
ハンマーで穴が開いたガラスの向こうから、痛々しいと感じる程の少女の絶叫が響く。
突然複数方向からハンマーでガラスを破って誰かが開けようとしているのだ、普通の慣性なら確実にパニックに陥る。
「……すまんな」
本人には何の罪も無いだろう少女に、流石の彼も同情の言葉を呟く。
だが手を止める事無く扉を開け放ち、大人三人がかりで抵抗する少女を車から引きずり出す。
暴れる少女を、だが素早く自前の結束バンドで手足を拘束し、猿ぐつわを噛ませて悲鳴を止めさせた所で、少し彼の肩の荷が下りた。
とは言え、決して気持ちの良い仕事ではないのは事実だ。
僅かに落ちているチームの士気を立て直す為、面子に向かって声を掛けた。
「彼女は「セーフハウス」に連れて行こう。「連中」と取引するにもまだ情報が整ってない」
「本当に「アレ」に対する“対抗策”になりえるか、だな。……此処まで来て無収穫ってなったら流石に気分が悪い」
「仮に
一先ず車まで運ぼう、そう言って彼は少女を担ぐ。
最早抵抗しても無意味と悟ったのか、されるがままにされている少女の酷い恐怖からの震えが肩に伝わる。
背中に冷たい何かが服に染みる感触を感じる。
ひと声かけてやりたい、と思うが、そもそも日本人だろう彼女に彼等の言葉が通じるとは思えない。
此処は一先ず心を鬼にして、「家」でじっくり説明すればいい、そう割り切って彼はくるりと反転する。
車は駐車場を出て、右に進んだ最初の路地の曲がり角にある。
慎重に背後を確認し、だが素早く駐車場を出て右の路地に向かう。
その真っ黒な全身が、突然白く染まった。
「ッ!?」
いきなり強い光を当てられて、その眩しさに思わず顔を片腕で庇う。
ひょっとして、敵は此方の足を掴んで待ち伏せしていたのか。
全身に緊張が走る彼だったが、直後に参謀の声が届いた。
「すまん、手が当たった」
「……お前な、今じゃなかったら洒落にならんぞ」
曲がり角に停まった車のハイビームライトが誤作動したのだと知って、怒り半分安堵半分で口元を歪ませる。
参謀は直ぐにライトを通常の物に変更し、彼を照らす光が弱まる。
それを確認し、彼も腕を下した。
だから気付いた。
彼等の車の背後、車よりも更に上に
電灯にしては明らかにその光量がおかしい、
「畜生ッ! 後ろだ!!」
咄嗟に叫びながら、彼は角に身を隠す。
参謀の方も異常に気付いたのか、金切り声の様に凄まじいエンジン音が轟く。
だが、遅すぎた。
直後に、車体を潰すような悍ましい轟音が響く。
身を竦めた彼の直ぐ傍を、トランクから後部座席にかけて「くの字」に拉げた車が凄まじい速度で飛び出し、そのまま対岸のコンビニに派手に突っ込んだ。
正面のガラスを粉砕し、中の戸棚も潰しながら奥のドリンクホルダーに突っ込んで、それを奥のスペースまで押し飛ばした所で漸く停止する。
あの速度では中に乗っていた人間の無事は絶望的だろう。
だが仲間の死を悼んでいる暇はない。
直ぐ様、地響きの様な音が連続して響いてきたからだ。
それが、「足音」だと気付いた辺りは、伊達に
舌打ちしながら片手で「
拳銃や「
あわや追い付かれる寸前、といった辺りで大きな炸裂音が「ソレ」の背後から響く。
生き残ってたらしいメンバーのグレネード弾だ。
だが直撃を受けても、「ソレ」は全く堪えた様子が無いままに振り返って後方へと向かっていく。
その隙を突いて再び駐車場まで戻ってくると、開いていたトラックの荷台に隠れた。
「……なんだったんだ、あれは」
様々な相手と戦って来た彼だが、それでも「あんなもの」を見るのは初めてだった。
単なる化け物とも違う、もっと異質な「何か」を感じ取って寒気を覚える。
そんな時、今まで放心していたらしい少女が目覚めたのか、急に身体をよじって暴れ始めた。
「くそっ、頼むからジッとしてろ……!」
恐怖でパニックに陥っている少女を何とか宥めながら、彼女を鉄板の床に降ろす。
正直、彼女を抱えたまま「アレ」と対峙するのは無謀にも程があるが、だからと言って今の状態で拘束を解けば何を起こすか分からない。
拘束したまま放置するのも不味いし、仲間の援護に行きたくても行けないもどかしさも覚えていた。
そんな時だった。
ゴォン、と聞き覚えがある轟音が聞こえて来た。
戻って来たのだ、恐らく味方を
それを直感し、短時間でそれを終わらせる相手への恐れと、それを上回る仲間を奪われた強い怒りを覚える。
それでも、事態を察して動かなくなった少女と暫く息を潜めていると、「ソレ」は二人を見失ったのか、恐らく駐車場に来た辺りで静止している様子だった。
だが、暫くして再び動き出すや、今度はより大きな音が響いてきた。
金属の塊、例えば自動車を潰す様な音だ。
此方を虱潰しに探すつもりらしい。
そう悟った彼は、暫く黙って思考を巡らしていたが、ふと床に転がった少女に目をやる。
――依頼、「奴の兵器」を
身動きの取れないまま、明らかに震えている少女の、此方を見上げる瞳には混乱と恐怖の色がゴチャゴチャに混ざっている。
――この少女にどんな価値があるのかは分からない、だが「アレ」は少女の護衛というだけなら明らかに過剰な戦力だ。……いや、ひょっとして、始めから護衛じゃなかったとすれば……――
その思考の果てに、遂に何かに思い至った彼は自嘲気味に小さく嗤う。
そして、未だに外で続く破壊音を背に、突然少女の戒めを解き始めた。
突然拘束した癖にいきなり解放されて、全く状況に追いつけてない様子の少女に、通じる訳が無いと思いつつも彼はこう言った。
「このままジッとしてな、アイツは俺が引き離すから」
キョトンと首を傾げた少女を残して、彼は一人トラックの荷台を降りると、直ぐ横に「ソレ」の巨体が佇んでいるのに気づいた。
もう少し遅かったら、トラックごと潰されていたかもしれない。
――道理で、普段とは違う予感がしていたとは思ってたんだ。最初は気の迷いと思ったが、結局、「連中」か「アレ」にまんまと
「ソレ」は彼の姿を認めるや、直ちに此方に向き直って奇怪な咆哮を上げる。
金属同士を擦りながら軋ませる様な音だと言えばいいだろうか。
そのまま踏み込んでくる「ソレ」に手持ちの「PDW」を向けながら、だが素早く回り込む様に走り始める。
目指すのは駐車場の出口だ。
――だが、こっちにも意地がある。そう簡単に命をくれてやるものか……!――
意外にも素直に此方を追う「ソレ」に適当に弾丸を撃ち込みつつ駐車場を出て、そこから一目散に通り沿いに走って行く。
ある程度距離を置いてから体ごと振り向くと、丁度「ソレ」が駐車場から出てきて此方に向き直った所だった。
対峙するように、暫く動かない両者。
一方は、小さな相手を見定めする様にライトを揺らすが、他方は貧相な武器片手に異様な笑みを浮かべていた。
仲間を意図も容易く屠った相手だ、たった一人で勝てる見込みは無い。
それでも尚、避けられぬ死を前にして瞳にぎらつく光を宿す彼は、果たして最期に何を思っていたのだろうか。
そして、咆哮を上げて突っ込んでくる相手を見据えながら、小さくこう吐き捨てた。
「……来なよ、『甲冑野郎』」
気が遠くなるような時間が経った気がするが、恐る恐る開いた携帯の時計は殆ど針が進んでいない。
まどかはあれからずっと、トラックの荷台で小さく蹲っていた。
けたたましい破裂音や、重い地響きはとっくに止まっている。
それでも頭を下げてジッと俯いていると、トラックに誰かが入って来る物音がした。
ゆっくりと顔を上げ、そして入って来たのが「見知った人物」だと知るや、等々今まで込み上げていたいたものが爆発した。
自分でも信じられないような素早さで、まどかは目の前の「少女」に飛びつくや幼児の様に泣き喚き始める。
「少女」も少女で、彼女を締め付ける様な勢いで抱き締め、釣られてしまったのか小さく嗚咽を漏らしていた。
二人はそのまま膝を折って荷台の中で一頻り泣いた後、少し落ち着きを取り戻した所で、互いを支え合う様に二人で荷台を降りる。
そして、目の前に広がった惨状を始めて目の当たりにしたまどかは、暫く息をするのさえ忘れていた。
駐車場の四方にあった電灯は根元からへし折られ、アスファルトの地面には大きな陥没が幾つも出来ている。
車やトラックも殆どが平らに潰されたり、くの字にへし折れたりして、辺りにガラスの破片が飛び散っていた。
更にその奥の通りも酷い有様で、見えるだけでも建物の4階辺りの壁に
それらが何処かで燃えてるらしい炎の光で照らされたこの光景は、まさに怪獣映画の世界そのものだ。
「……これは、酷いな」
二人の思いを代弁する様な声に振り向くと、施設を大きく迂回してきたらしい竜二が駐車場に入って来ていた。
その後ろにはマミも居て、彼女もまたこの光景に二人の様に絶句している様子だった。
彼は二人の顔を非常用懐中電灯で照らし、少し苦々しい表情を作って言う。
「……まどかちゃんの様子を見に行くなら先に一声かけるなり伝言を残すなりしろ、と言いたかったが、この有様では泣き面に蜂か。まぁ、言語の違う連中に伝言と言うのも無理があるし、大目に見てやる」
二人して大泣きした後だ、きっと物凄い顔になっているのだろう。
僅かに羞恥心を覚えて口を紡ぐ彼女らを余所に、彼は通りの方へとさっさと出てってしまう。
一方、我に返って二人の方に駆け寄って来たマミは、彼女達を一先ず駐車場の端の方へ連れて行き、何故かそこに単独で転がっている車の座席に二人を座らせる。
そのシートの柄にまどかは見覚えがあった、ついさっきまで自分が乗っていた車のものだ。
座らせた二人に其々ハンカチを手渡した後、二人の間に入るや、まるで母親の様に二人の肩を抱き寄せた。
どうやら、二人の余りの泣きっぷりに母性が刺激されて、ほむら辺りとのいざこざが全部飛んで仕舞っているらしい。
ほむらもほむらで、緊張から一転して泣いた事で精神的に緩んでしまったのか、されるがままになっていた。
「落ち着いた?」
「……ありがとう、ございます」
まだ僅かに涙をこぼすまどかの様子を見て、マミも瞳を潤ませている。
「こんな状況だもの、泣きたくなるのも分かるわ。……
「……っ」
マミが視線を向けると、照れ隠しか、または涙がぶり返したのか、彼女はマミの胸に押し付けるようにして顔を隠す。
その様子を見て、まどかはマミの言いたい事に気付いた。
どう言う理由かは完全に把握し切れていないものの、この黒髪の少女は何かと
その相手を待たせていた場所に向かったら車が彼方此方で潰れていた、なんて事になったら誰だってその身を心配する。
それで無事だったから思わず涙したのだ、という事をマミは言いたかったのだろう。
それだけ自分を心配してくれたのだ、そう気付いたまどかの胸に暖かな思いが満ちていく。
優しく笑顔を作った彼女は、傍らの少女に言う。
「ごめんね、心配かけちゃって」
「……貴方が気に病む事じゃ、ないわ」
そう涙声で言った彼女は相変わらず顔を隠したままだったが、その理由は最早瞭然だった。
普段からクールで強気な彼女の意外な一面を見た気がして、まどかはマミと顔を合わせて二人で小さく笑う。
「……空気を読むべき所で申し訳ないが、こっちも時間が無くてな」
三人が顔を向けると、通りから竜二が此方に歩いて来ていた。
その手には黒っぽい、プラスチックとも金属とも見える何かの破片が握られている。
その破片に強い既視感を覚えるまどかに対して、彼はすぐ前までやって来ると、視線の位置を彼女と合わせるようにしゃがんだ。
「今話せる範囲で良い、出来る限り教えてくれ」
「…………、」
彼女は一旦目を瞑る。
そうしたくなくても脳裏に思い返される、悪夢の様な記憶。
だがマミに抱かれた今なら、ちゃんと伝えられる、ちゃんと向き合える。
それこそが、この立ち直りの早さこそが彼女の他の人にない「強さ」だと気付かないまま、目を見開いて彼と向き合った。
「――――、でした」
「何だって?」
「……“ロボット”、でした。私達に襲い掛かったのは」
電灯の光で照らされる街に、少しずつ当たり前の“活気”が戻っていく。
憑き物が落ちる様に活動が始まるその街を、「ソレ」は消灯したビルの上から見下ろしていた。
その全身は鋼の装甲に覆われ、僅かに身動きするたびに軋みを上げる。
寸動の様な足には鋭いスパイクが付き、滑らかに稼働して床を掴む。
胴体には、その輪郭に沿う様に前後に付いた「穴」が開閉する。
更に、そこから横に大きく広く突き出した板状の器官にはプロペラの様な部位が組み込まれており、まるで近未来の「飛行機の翼」の様にも思える。
しなやかに動く銀色の尾の先には、見るも凶悪な機関砲の砲身が自由に稼働している。
そして長い首の先、身体に対しては小さめな頭部はその約半分を前に突き出した奇怪な砲身が占めていた。
残りの半分の頭部に備わるセンサーが軋みを上げると、バシュっと音を上げて頭部や足、胴体や尻尾などの幾つかの部位の装甲が開く。
蒸気を上げる装甲内部には、
暫くそのまま止まっている間も、頭部の筋肉を突き破る様に生えた白濁した瞳が街をきつく睨む。
そして全ての装甲を閉じて、不快そうに身震いする。
それでも収まらなかったのか、不意に甲高く、金属の軋む様な奇怪な咆哮を闇に放つ。
怨嗟さえ感じる叫びを上げた「ソレ」は、翼のプロペラを回転させるや、瞬く間に空に舞い上がって夜闇に姿を消した。
「……ところで、その懐中電灯何処から持って来たの?」
「ああ、式典ホールから持ってきた奴だ」
「あれ? じゃあ何であの時端末で光を?」
「通気口を這ってた時に落とした。肩の骨抜いてたから取るに取れなくてな。然も後退出来ないし」
「真っ暗な通気口を後退出来ないまま這うって、行き止まりだったらどうしたのよ」
「……気合?」
「(やっぱダメだこの人)」