・劇場、ホール内。
その閃光は、瞬く間にあらゆる電気機器に干渉した。
一瞬で全ての照明が途絶え、携帯は不審な音を立てて機能を停止し、スピーカーからは耳障りな爆音が一瞬響く。
真っ暗になったホールの外では、生き残った火災報知器が誤作動したのか警報の音が聞こえていた。
そして、流石に全ての観客が異常に気付いた。
「うぉ!? パニックを起こして一斉に出口に向かおうとしてやが――ッくそ! これじゃ倒れて圧死する人間が……!」
席の端に居た事が有る種災いになったのか、通路を我先に駆ける乗客に引っ掛けられて、あっという間にその場から連れ去られてしまう。
傍らの少女たちは大丈夫か、と何とか奥の座席の端に掴まってそこから見渡して二人を探していると、突然天井の方から光が点き始めた。
先程の電磁パルスから電源が復帰したとは思えない、彼が見上げると、其処には天井の梁から黄色いリボンでぶら下がった“携帯ランタン”が幾つも並んでいた。
ひょっとしたら、数日前の一件に学んで幾つか買い揃えていたのかもしれない。
天井を見渡しても姿は見えないが、恐らく上に跳んだ事で人混みには巻き込まれていない筈だ。
これで視界を確保できる、少なくとも逃げる彼等が道を間違えてサンドイッチになる事は防げるか。
だが、そんな悠長な事は言ってられなかった。
舞台の上、電光だけが激しく光っていた「彼女達」の闘いに変化が有ったのだ。
具体的には、殴り飛ばされた「エーワックス」がこっちに突っ込んできた。
「クッ!?」
まだ避難している人間達が多く居るこの通路に突っ込まれたら大惨事だ。
意を決した彼は、座席の背もたれの上に器用に立ち、彼女の突っ込んで行くだろう空間にゴールキーパーの様に身を投げ出した。
神経が研ぎ澄まされ、視界がスローモーションに見える。
その中で、「エーワックス」が体勢を変えて身体を回転させるように捻り始めるのが見えた。
そして、肩から彼の胴体に突っ込んだ「エーワックス」は、斜めに弾かれる様にその進路を変える。
その逆の力を受けた彼は、座席の列の奥にある手すりに派手に背中をぶつけて、その下の背もたれの上に落下した。
背中と腹を強打した彼がぐったりと座席の下にずり落ちる合間に、上の方でガラスの割れる音が響く。
上に弾かれた「エーワックス」が、照明効果等を管理する上の小部屋に突っ込んだのだ。
そして、その後を追う様に舞台に居た「少女」が小部屋に突っ込み、
「最悪だ、此処のホールの避難も終わってないというのに!!」
体を起こした彼の叫びも空しく、集団パニック状態が加速する。
外に飛び出した「怪物達」から逃げようとホールに戻る人間と、ホールから出たがる人間が衝突する。
しかもその数が、ホールの外に居た人間も合わさって更に増加していた。
このままじゃ潰れる、そう思った矢先、突然集団の動きが停まった。
ぐったりとその場に倒れて、眠っているように身動きを取らない。
「最終手段だけど、これで将棋倒しは防げる」
そんなほむらの声と共に、彼の傍に二人が姿を見せた。
その身体は、およそ歌劇の衣装の様な「戦闘装束」を纏っている。
立ち上がる彼を支える、二人の表情はだがかなり険しい物だ。
「だけど、これだけの数を私達だけで移動させるのは難しい。かと言って放って置いたら、「アイツ等」の闘いに巻き込まれるかもしれない」
今なおも、何処から伴なく爆音や振動が響いてくる。
今こそはパラパラと埃が天井から降ってきているだけだが、いつ照明や、それこそ天井が落下してくるかは想像が付かない。
「エーワックス」の方にその気は無くても、「少女」の方がやらかす可能性は十分にあるのだ。
「警報が鳴ってるって事は、遅かれ早かれ「彼等」もやって来るだろう。……地道でも、それまでは市民を避難させる事が優先だ」
「「アイツ等」は? このまま放っては置けないですよね?」
「今こそ「エーワックス」が居るとは言え、元々味方と言う訳じゃない。……“今の俺”ではあの高速戦にも付いて行けないだろうし、一先ずは後回しだ」
「なら私が彼女達の後を追うわ。
「……
確かに時を止められるなら、あらゆる戦闘は“ボードゲーム”の様になるだろう。
だがそれに頼るだけでは「彼女達」には追い付けない、現に彼女はそれで「敗北」している。
必要なのは「情報」、「敗北」した理由を知らねば永遠に“負け組”のままだ。
あの二人の闘いから、それを掴むのだ。
彼の言葉を受けて、改めて己にそう言い聞かせた彼女は、彼等の残した穴から外へ飛び出していく。
その後ろで、残された二人は50人以上もの民間人を運び出す為の準備を開始した。
爆音や振動を聞きながら居場所を探り、何度か時を止めて移動していたほむらは、遂にその現場に辿りつく。
時を動かした瞬間に、目の前を組み合った二人が高速で横切る形で。
「うわぁッ!?」
仰天して尻もちを付いたほむらの視界の端で二人は壁に激突し、そのまま壁を粉砕して奥へと突っ込んで行く。
だが次の瞬間には、再びその穴から二人が別々に戻って来て、広々とした吹き抜けのあるロビーで対峙する。
ロビーには既に壁や天井が壊された跡があり、荷物や椅子の破片が乱雑に散らばっている。
どこぞの少年漫画のワンシーンの様な光景だが、この二人の暴れっぷりからすれば寧ろ自然だ。
『はぁー、“
そんな風に軽口を吐くエーワックスだが、何処となく消耗しているような印象がある。
身体の所々に黒い焦げ跡を作り、此処からでも分かる程に激しい放電が彼方此方で起こっていた。
一方の、正面の「少女」は先の戦闘に汗一つ流す気配が無く、肩を軽く回して調子を確かめる様な仕草を見せる。
その両肩の上に、人間一人まるまる掴めそうな巨人の如き白い腕が浮かび、サバイバルナイフの様な凶悪そうな爪を此方に向けている。
その質感は、此処から見る限りはプラスチックの様なテカテカした印象が有った。
後頭部に纏めたツインテ―ルや、前後に伸びる金のアホ毛という差異はあるが、その顔立ちはやはり「エーワックス」だった。
「アレ、貴方と同類よね。仲間割れでもしてるの?」
『「
立ち上がって聞いたほむらに、「エーワックス」は振り返らずに答える。
それを聞いてか、前方は眉間辺りまでしか伸びず、後方は大きくうなじまで伸びるアホ毛を揺らしながら、「ムーロー」は不快そうに首を鳴らした。
『裏切者とは失礼な。私を見捨てたのはお前等だろうが。違法兵器を開発しておいて、その実験を「状況鎮圧訓練」と称して国に認めさせる
『見捨てたつもりは無いんだけどなぁ。被害妄想かい? それに、別にその実験を認めさせるのも、発案させるのも“私”じゃないんだけど。八つ当たりのつもりなの?』
『……つくづく性根の腐った奴だな、お前等は』
『言葉を返すよ
一触即発スレスレの舌戦が繰り広げられる。
水滴一つ落ちれば再びあの高速戦が始まりかねない、二人はそんな激怒の感情をありありと見せていた。
その殺気に当てられて、ほむらはただ状況を追う事しか出来ない。
『あの時だってそうだ。あの若者は、あの時
『それで失敗して、
ギリ、と歯ぎしりの音が響いた。
「ムーロー」の、本当の奥底から響くような、どす黒い殺気に満ちた声が続く。
『……その腐った“正義”に吐き気がしてるから、此処に居るんだよ。「病原菌」』
直後、
世界から、音が消えた。
一方、マミと竜二はリボンを使って巨大な風呂敷状の網を作り、それに人間を押し込んで地引網の如く二人で引き摺って運んでいた。
乱暴と思えるが、一番これが単純で速かったのだから仕方ない。
進路上の危ない瓦礫は軽い風程度は起こせる彼女の手で吹き飛ばしながら突き進んでいると、遠くから地震の様な振動が伝わって来た。
同時に雷鳴の様な轟音が響いて来て、マミが窓から下の階を覗く。
一階ロビーに居るとのほむらの報告を受けて、安全に西ゲートを目指すべく敢えて5階まで登っていたのだ。
「うわぁ、ロビーから凄い煙が上がってる。暁美さん大丈夫かしら」
「流石に避難しているだろ、
「……あれ、って事は竜二さんは暁美さんの魔法を知ってるんです?」
「本人に口止めされてるから、せがまれても言わないぞ」
二人で引いて居る様に見えて、実質彼一人で殆ど賄いながら、二人は急いで西ゲートを目指す。
何十人の体重を引っ張っているのに、息切れ一つない彼の身体能力は、やはりどう見ても“異常”だった。
「此処を降りれば、あとはもう直ぐです!」
「いや、その必要は無さそうだ」
最後の降り階段に差し掛かった所で、竜二は窓から下を見ている。
その先には、今まさに西ゲートから突入していく警察隊の姿が見えていた。
「先に降りてこっちに人手を寄越そう。リボンを解け、何人か担いでいくぞ」
「最初みたいに、二人で全部抱える必要が無いなら何でも良いですよ」
そうして階を降りていくと、3階辺りで警察と鉢合わせる。
直ぐに事情を説明して、残りの救助者も確保する様に動いて貰う。
因みに、マミは「レッスン中の劇団員見習い」だった事にした。
「……最初はコスプレで、次は劇団員かぁ」
「なんか不満か?」
「いや、不満と言うほどじゃないです。はい」
警察の誘導で、一旦外に出ようとするマミ。
だが、階段を下りかけた所でふと後ろ見ると、彼が窓の外から何かを見ていた。
此処からだと、正面ゲートに続く大通りの一部が建物の間から見える。
「竜二さん? どうしたんです?」
「……
そして、彼が「見たもの」が劇場前に到着した。
「【……いつの間に此処まで急行させたんだ。配備されているのは確か「シズオカ」の辺りだろ】」
「【「ヤマナシ」や「カナガワ」に近い側ですから、其処まで遠い訳ではない、とも思えますけどね】」
正面ゲートを囲む警察車両に混じって停めていた「ガンビット」の天井に上がっていたクリスは、運転席から顔を出すピアーズと共にその威容を見つめていた。
彼等にとっては割と馴染のある物ではあるが、こうして
日本の自衛隊が近年開発した、「第四世代」戦車とも呼ばれる新型戦車。
アメリカの「エイブラムス」、ロシアの「Tシリーズ」、イギリスの「チャレンジャー」と各国が強力な「第三世代」戦車を量産する中、日本においては「90式戦車」の配備が遅れた為、能力の劣る「第二世代」戦車である「74式戦車」が主力と言った状態だった。
そこで、新たな戦時データや複合装甲の技術を結集し、自衛隊の原理である「本土防衛」を想定した新しい戦車開発を開始、その答えとなったのが新型国産戦車こと「10式戦車」だった。
全長約9m、全高約2m、重量約40t。
主砲は「90式」の物より更に強化された「44口径120mm滑腔砲」であり、この威力は厚さ1mの鉄板さえ貫通できる程である。
装甲は軽量化を施しつつも複合素材によって高い不貫通、衝撃分散性を有し、“己の120mm砲ですら弾く”。
その上、高いエンジン出力によってその機動力は何と「最高時速70km」、高速道路を走る乗用車と一緒に混じってドライブできると言えばその凄さが分かるだろうか。
因みに
だが、この戦車の武器は単純な機動力や火力だけではない。
「戦うコンピューター」と揶揄される程に様々な機能が自動化され、高度な最新鋭火器管制システムを備えているのだ。
筆頭となるのが、先ず「アクティブ・サスペンション」だろう。
電子制御によって調整される
砲の先に並々と注いだビールジョッキを置いても、一滴も零れない程の衝撃吸収度を誇る。
また主砲の反動を抑えるのにも役立ち、従来40t台では不可能とされた120mm砲の搭載を可能にしたのもこれの影響である。
そしてもう一つ、「主砲自動装填システム」がある。
従来の戦車では、主砲を装填するには必ず車体と砲を装填可能な角度にしなくてはならなかったが、起伏のある地形で、台風などの悪天候下での戦闘を想定された10式戦車はその角度範囲が非常に広い。
挙句、その装填時間は「約2秒」である。
例え平坦な丘でも、車体を斜面に隠し続けながら連射の如く「必殺の」砲撃が飛んでくると言えば、その戦闘力の高さが垣間見えるだろう。
まだ配備されてから1年も経つかと言うレベルの最新鋭の塊を前に、思わず息を呑んでいた。
そんなものが5台も並んでいるとなれば、此方としては途轍もなく心強い。
だが、それでも僅かに引っ掛かりがあるとすれば、
「【アイツは電子機器に影響を与える力がある。“精密機械”の塊で対抗して良い物なのか】」
「【彼等なりの考えがある事を期待しましょう】」
車両の包囲網を割る様に入って来た5台の戦車は、そこで散開して綺麗に5等分する様な角度で配置される。
真っ黒な煙を上げ、壁の一部が破壊された正面入り口にその主砲を向ける。
その直後だった。
いきなり煙を突っ切って、正面の戦車の砲塔に何かがぶつかって来た。
それは反動で前に戻ろうとする勢いを
他の戦車の機銃や、包囲陣の銃口が向けられる。
暫くそのまま動きが無いので、自衛隊の歩兵や警察隊がゆっくりと戦車に近付いて行く。
『……つぅーあー、こういう役割じゃないって言うのにチクショーめ』
呻く様に呟くそれは、体中傷だらけになってボロボロな「エーワックス」だった。
黒い火傷に痣、抉れたような跡から流れる血は途中で
ゆらりと何とか立ち上がる彼女に銃口を向けながら、クリスは叫ぶ。
「【エーワックス!? お前は此処で何をしている!?】」
『私よりも、今はあっちが優先だと思うよ。ほら』
正面の扉を粉砕し、煙の中からゆっくりと現れたのは「ムーロー」だった。
多少は衣服に汚れが見えるが、殆ど怪我を負っている様子はない。
正面に広がる包囲網の様子を認めると、中央の戦車を見て僅かにその目を細めた。
『甘い。肉弾戦なら未だしも、電子戦においてこの「
ギュイッ!! と10式戦車5両のセンサーが唸る。
恐らく5両全ての管制を確保されたのを悟った「ムーロー」は、制御を奪う事を諦めて白い腕で拳を握る。
付近に展開していた自衛隊や警察隊は事態を追えずに戸惑っていたが、やがて何かを悟ったように一目散に戦車から離れだした。
そして、「エーワックス」の乗る10式戦車の主砲が凶暴な唸りを上げる。
発射された新型徹甲弾は恐ろしく的確な狙いで空を突っ切り、奥にあった劇場の壁やホールを水泡の様に貫いて行く。
その発射衝撃も凄まじく、警察側の数人は仰天して引っくり返ってしまっていた。
だが、その射線上に「ムーロー」は居ない。
発射直前に後方に向かって飛び、3階辺りの壁面にへばり付いていたのだ。
そのまま、彼等から見て右へと目を見張る速度で
「エーワックス」は中央の戦車に乗っている、5両全ての制御を奪っている、ならば端の戦車の方が探知が鈍くなる筈だ。
5両分の火力は驚異的でも、所詮は一人の「存在」が動かしている駒に過ぎない。
死角に回り込んで各個撃破すればいい、そう「ムーロー」は考える。
と、「エーワックス」は
壁面を走る「ムーロー」の足が止まる。
鋭角に曲がり、斜めに駆け上がろうとして、またそこで切り返して真っ直ぐ上に登る。
その奇妙な行動の理由は、進路を切り返した直後に、その目の前に着弾した機関砲の弾丸だった。
10式戦車は、その砲塔上部に12.7mm重機関銃M2を装備している。
その対空射撃によって足を止めさせられたのだ。
幾ら「ムーロー」でも、重機関砲の直撃を喰らえば唯では済まない。
対空射撃を合間を縫う様に、縦横無尽に避けていく。
だが、彼女は途中で悟っただろう。
もうすでに、盤上は彼女の
下の様子に意識を向けると、其処には細かく旋回と前進後退を繰り返す5両の戦車が有った。
その激しい動きにもかかわらず、全く射撃にブレが無いのは流石「新型」と言った辺りか。
そう、機関砲での射撃は「攻撃」ではなく、侵入不可能な「柵」であった。
幾つもの柵を敷き詰め、囲い込み、獲物を追い込む為の罠であった。
だが、気付いた所でもう遅い、そう「エーワックス」は思う。
既に「ムーロー」は予想された地点に移動し、そして5両全ての主砲はそちらに向けられた。
これで終わり。
「
……
5つの主砲から放たれた
5つの砲弾は確実に「ムーロー」を直撃した。
幾ら“私達”でも、流石にあれで戦線に復帰するのは難しいだろう。
付近に己の“知覚”を向け、“奴”の反応がない事を知り、僅かに緊張がゆるむ。
だが、直後に一帯に「激震」が走った。
立っているのさえ難しい揺れに薙ぎ倒されそうになって、車両の縁に掴まるクリスは、自然と下がった視線の先に
それは「エーワックス」の乗る戦車の直ぐ後ろから始まって戦車の下へと伸びていく。
彼は叫んだ。
「【下だ!】」
ギョッとした様子で足元を見る「エーワックス」だが、最早為す術は無かった。
アスファルトを引っ繰り返す様に、その下に居た「何か」が宙に飛び出す。
それは、己の従える巨大な腕で
戦車と一緒に吹き飛ばされた「エーワックス」も黙っておらず、空中で姿勢を制御して宙に浮かぶと、残りの4両の主砲を「ソレ」に向ける。
一斉射撃。
その直撃を確信して、だが、直後に「エーワックス」は顔を驚愕に染め上げていた。
『……確かにその得意分野においては、私はお前には劣るかも知れない。
衝撃で舞い上がっていた砂塵やほこりが、一瞬で
其処に居たのは、
彼女は盾にしていた戦車の主砲を、此方を向いている戦車の中の一両に向ける。
直後に轟音が有った。
120mm滑腔砲は容赦なく友軍だった筈の10式戦車に直撃、その主砲を歪めて使い物にならなくする。
続いて「ムーロー」は別の一両を狙う。
「エーワックス」も無抵抗とは言わずに反撃、だが何度撃っても、その体に傷が付く事は無い。
『……まさか』
彼女も「ムーロー」と同類だ、直ぐに心当たりに至る。
「エーワックス」は素早く「ムーロー」の
『まさか貴方、「アルファ」や「オリジン」クラスの
『そうでなくては、この「
勝負は決した。
今まで手出しも出来ずに居たクリス等でも、その事実は読み取れた。
片や全ての
そして片や、最後の戦車をその剛腕で躊躇なく
その場に居た、誰もが何も言えずにいた。
古い戦場で、大将同士の一騎打ちを眺める雑兵の様な思いを感じていた。
『私の機嫌が悪ければ、この場で遠慮なく消させて貰う所だけどね。実は其処まで悪くはない。今まで軽く潰してきた
「楽しかった」、
「エーワックス」の練ったあらゆる「戦術」も、此処まで必死に繋いだ「抵抗」も、全て、
そう思えてしまう、それが「
絶望的な、力の格差。
『だからさ、私の
人形の様に、「エーワックス」の首が「ムーロー」を見上げる。
彼女は手を差し伸べていた、溢れんばかりの親愛の表情を浮かべながら。
その顔に、「エーワックス」は偽りのない心を読む。
一切の曇りのない、
そして、
『……ああ、そうだね。理解できたよ』
小さく笑って、「エーワックス」は「ムーロー」に応える様に手を伸ばす。
その手と手が、固く繋がれる。
『貴方が
その直前に、「エーワックス」の手から強烈な電撃が放たれた。
驚いた「ムーロー」の手が、反射的に電撃に包まれる。
「強烈な電撃同士が発する磁力の反発」、「ムーロー」は単なる悪足掻きだと思っているだろうが、
そして、彼女が反射的にそうして身を守る事は完全に予想済みだった。
何故なら、彼女は「
人の心を読み、利用し、欺き、情報を集める「
「ムーロー」の前で、後ろにのけ反る様に吹き飛ばされる「エーワックス」が居る。
だが直後に、
『新手か……!?』
急上昇して宙返りする様に背面を見せる、その背中に彼女は
咄嗟に身を前に投げ出す、その直後に、今まで自分が立っていたその空間が
足元からとんでもない熱気を感じ取り、彼女の顔色が初めて“焦り”に彩られていく。
『ひょっとしたら、貴方は会った事が無かったかもね。紹介してあげる』
立ち上がった「ムーロー」の前、自分の足元の
見た目の印象や雰囲気は、“私”達と同じ様に思える。
だが、頭部から乱雑に伸びた白髪は身の丈の数倍近く伸び、然も
まるで爬虫類の尻尾か、蛸の足の様な印象だ。
服装は「エーワックス」と変わらず薄い青のワンピースだが、ひじや膝の関節に巻き付けて固定するプロテクターが装着されていた。
頭頂部から伸びる金髪のアホ毛は、真ん中あたりからまるで蛾の触覚の様に幾つも細い毛が枝分かれしている。
そして、何より、彼女からは
「エーワックス」の様な、話が通じる相手、と言う雰囲気がまるで皆無だった。
『――――――――。』
小さな、唸り声。
まるで獰猛な肉食獣を目の前にした様な、身がすくむ様な思いを人間達が受ける中、「ムーロー」は漸く、「何が」此処にやって来たのかを悟った。
『この子の名前は「
『RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
『やれやれ、最後の最後にとんでもない物を押し込んできやがって。良いよ、気に入ったお前の計らい通りに戦ってやるよFU○KER!!!』
※この作品は、大体2011年辺りの時間軸の「SF」です。
実在の兵器等とスペックや仕様の差異がある可能性がありますが、「この世界ではそうなんだ」と納得して頂けたらと思います。