UNSUNG EVOLUTIONS   作:B.O.A.

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Ch-7-Act-03

・劇場前。

 

 

 

 絶叫、咆哮。

 だがそれは生物の放つ警告音というよりは、寧ろ命無い者、例えば「戦闘機」の発する莫大なエンジン音の様にも思えた。

 「脅威」の迫る、その否が応でも聞かねばならぬ「足音」だ。

 全てを例外なく――「ムーロー」でさえも、強がりを言ってはいたが――その場に縫い止める叫びを放つや、「エフエ―」は足場にしていた戦車の残骸を大きく揺らしながら周囲の建物よりも高く上昇。

 そしてキィーンッと、凡そあらゆる兵器に似つかわしくない甲高い音、まるで架空のビーム兵器の駆動音(・・・・・・・・・・・・)の様な音を発して、自らの周囲に青色の膜(・・・・)の様な物を張った。

 「セイクウ」の処理時に「エーワックス」の張ったバリアに似ているが、それよりもさらに色が濃く、顔の前辺りを中心に渦巻の様な模様が浮かんでいた。

 それが単なる防御行為ではない事を、何となく「ムーロー」は察した。

 

 

BOSON DRIVE(ボソン・ドライブ)

 

 

 アナウンスの様に抑揚のない、本当の意味での「警告音」。

 本能的な危機感に導かれて、地上に居る「ムーロー」が走り出す。

 攻撃したり、隠れたりする意図はない、コイツの手の内を見てやろうと態と逃げ回るつもりだった。

 そして彼女の予想通り、「エフエ―」は攻撃に討って出る。 

 渦巻の中心から、細いレーザーの様な“青い線”を発したのだ。

 それはアスファルトの表面を溶かし、縁を赤熱化させながら「ムーロー」の速度に追い縋る。

 

 

 

 予想外だったのは、その数が「6本」有ったという事だ。

 

 

 

『撃ち過ぎだろ……ッ!?』

 

 地面に円を描く様に展開された6本の光線は、高速で回転しながら少しずつその半径を縮めていく。

 地面だけじゃなく、街路樹や包囲陣のパトカー、挙句に其処に居て逃げ遅れた人間(・・・・・・・)も例外なく消し飛ばしながら、その間隔が狭まっていく。

 円の中にいる「ムーロー」を囲い込んで追い込む様なその動きを前に、だが彼女は直ぐに対処を開始する。

 その巨腕を振るってアスファルトをひっくり返し、下に潜るように逃げ込んだのだ。

 アスファルトまでは削れる光線でも、流石にその下の地面には届かない。

 

 だが、「エフエ―」もそれで悔しがるタマではない様で。

 

 

OVER DRIVE(オーバー・ドライブ)

 

 

 ビームの放出を止めて右足を軽く振り上げると、一気に真下へ急降下。

 戦車の残骸を今度こそバラバラに粉砕しながら、その右足をアスファルトに突き立てた。

 その位置には「ムーロー」が居るとは思えず、クリス等は何を行っているのか意図が読めずにいる。

 だが次の瞬間、激震と共に彼女の周囲に幾つもの巨大な“真っ白な刃”が出現した。

 槍の先にも思えるその刃は、だが一本一本が4m近くあり、彼女の周囲のアスファルトを突き破るや幾つかのパトカーを切り裂いてそびえ立つ。

 そしてその刃に突き上げられる様に一緒に地上に飛び出した「ムーロー」が、自分を貫こうと迫る刃の腹を殴ってそれを破壊しながら地上に降りる。

 

 そして気付く。

 右足を地面に突き立てる「エフエ―」が、大きく左足を持ち上げて上段蹴りのような体勢を取っていた。

 力を見てやる(・・・・・・)、そんな意図さえ吹き飛んで、「ムーロー」は必死に首を振る。

 

 

SHOTGUN DRIVE(シャットガン・ドライブ)

 

 

 その足が、大砲の様な勢いで放たれた左足での上段蹴りが、真っ直ぐ20m近く「伸びた」。

 それが首を振った「ムーロー」のツインテ―ルの片方を斬り飛ばし、背後にあった劇場の壁を撃ち抜き、その向こうにあった売店の棚にまで大きく喰い込んだ。

 そして彼女は、そのまま槍の様に伸ばした左足(・・・・・・・・・・)を大きく薙ぎ払う。

 上体を反らすようにしながらそれを避けると、「エフエ―」は建物の壁を一直線に薙いだ足を、メジャーを巻き取るように元の足の姿に素早く縮めた。

 体勢を起こし、首筋に伝わる痛みに冷たい物を感じて首を擦りながら、だがそれでも(上位個体)を畏怖させる力を前に「ムーロー」は不敵に笑う。

 最も、恐らく向こうはそんな境界(下位と上位)にさえ何も思わないだろうが。

 表情を全く変えずに青い光を放つ「エフエ―」の瞳を、笑みを浮かべながら指差す「ムーロー」が言う。

 

『この程度じゃないだろ。戦闘特化の「下位」が万能の「上位」に追い縋りたいなら、死力を尽くしなよ』

BOSON DRIVE(ボソン・ドライブ)

 

 最早、言葉さえ意味はないのか。

 冷酷な「宣告」と共に、青い刃は放たれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その破壊音を壁を隔てて、ほむらは背に聴いていた。

 だがその顔に力を推し量る様な冷静さは無く、有ったのは、ただ必死に己の恐怖心を抑える子供の様な感情(・・・・・・・)だった。

 だがそれも、仕方のない事ではあるのかも知れない。

 

 彼女の背にした壁、その首筋ギリギリの位置から真横に、一直線に切り裂かれた「溝」が生じていた。

 もし彼女が後半歩先に進んでしまっていたら、「エフエ―」の青い刃は彼女の首から上を消し飛ばしていただろう。

 

「何なのよ、アイツ等は……ッ!?」

 

 膝を折ってその場に座り込み、思わず首を触ってその無事を確認する。

 そして、体操座りの様に膝を折って、今なおも背後から響く戦闘音に意識を向ける。

 

 「エーワックス」と「ムーロー」の戦闘でも恐ろしいとは思ったが、今のこれを見てる内に、「エーワックス」はかなり大人しい方だったのかもしれないとさえ思えていた。

 5両の戦車を束ねて戦った「エーワックス」に対して、その砲撃を全く意に返さず、何十トンの重量を軽く支える怪力を持つ「ムーロー」、そしてその「ムーロー」よりも更に暴れ狂っている「エフエ―」。

 あの男は、自分が隙をついて介入するのではと恐れていたようだが、そんな余裕も無く、そもそもあの戦場に追い付ける気もしなかった。

 次元が違う(・・・・・)、そんな言葉が浮かぶ程であった。

 

 

 然も、最後に「エーワックス」は気になる事を言っていた。

 

 

「……「ムーロー」と同格レベルっていう、「アルファ」と「オリジン」って奴がアイツ等にはまだ居る」

 

 あの「化け物(上位個体)」と同格、またはそれ以上。

 「ムーロー」が異端中の異端であり、アイツ等と敵対している様子であるなら、逆に「アルファ」と「オリジン」は「アイツ等」と共に動いているというのは間違いない。

 つまり、何れそいつ等は姿を見せ、確実に私達とは敵対する事になる。

 頭が痛くなる事実だった。

 これは最早、何とか「ムーロー」と和解して味方に付けるべきではないか、と現実的でない案を真面に考えないといけないのかもしれない。

 だが、「ムーロ-」に人間を守る意思が無いのも先程から見て取れる。

 言葉を交わせたとしても、満足のいく内容にはならないだろう。

 

〈暁美さん、観客達の避難は粗方終わったわ。そっちはどう?〉

〈「エーワックス」が離脱して、「エフエー」って言う新手が出て来た。「ムーロー」よりもさらに凶暴で、今ソイツ等が戦ってる〉

〈分かったわ。私達もそっちに行くけど、それまでは絶対に隠れてて。こっからでも何か“スターウォーズ”みたいになってるのが見えるから〉

〈言われるまでも無いわ〉

 

 背中から響く騒乱に再び意識を向けて、自然と震え出す身体を抑え込みながらひたすら待つ。

 あの力が、あの牙が、いつ私達に向けられるかは誰にも分からないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、同じ事を思って何とか理性を保っていたのが近くにもう一人いた。

 ガンビットの荷台の方に移動し、車体の影に隠れて様子を見ていたクリスは、同じく運転席から此方にやって来ていたピアーズと共にその戦いの行方を見守っていた。

 周囲の人間は、彼等と同じように車の影に隠れながらジッとしているが、様子を見ているというよりはただ茫然と見守っているという印象がある。

 まぁ、流石のクリス等ですら最初は唖然としたレベルである、あの手の(・・・・)存在に不慣れな者では状況を追随するので手一杯だろう。

 

 それでも、例え理性を保てていても、何も無策で介入して良い物ではない事は分かっている。

 だから、彼等は只管分析をしていく。

 

「【「エーワックス」、「ムーロー」、そして「エフエ―」。他にどんな者が居るのかは分からないが、奴等は見た目以上の大きな差異を持っているようだ】」

 

 

 先ずは「エーワックス」。

 最新鋭戦車のコントロールを奪い、大規模な通信障害を引き起こす所から見ても、恐らく機械や設備(・・・・・)に対する破壊工作を得意とする存在なのだろう。

 相手の意図を分析し、必要とあらば敵ですら取引を持ち掛ける、“情報”の扱いに長けた者。

 一方で、最新式の戦車5両の兵器システムを巧みに管制する処理能力、「ムーロー」を追い込む指揮能力もあり、嘗て自分が言った通り本当に「エーワックス」の頭は「パソコン」レベルの高速演算が可能なのかもしれない。

 一方で直接的な戦闘は苦手な様で、「セイクウ」の群れと相対した際も此方を庇う意図があったとは言え力負けし、最後は「自爆攻撃」で道連れにしていた。

 戦車戦に持ち込む前も戦っていたようだが、全く「ムーロー」に傷が無かった所も彼女の非力故なのかもしれない。

 

 次に「エフエ―」。

 「エーワックス」が己の個体群を守る「憲兵」にして「殲滅者」と紹介していた個体。

 どうも彼女は「エーワックス」とは意志を違えているようで、周囲の被害を全く気にせずに大規模な攻撃を続けている。

 戦闘行動に特化しているとの事で、手足や髪を剣や槍状にして身体の何倍に伸ばしつつ、かなりの機敏さで動いている。

 腕での打撃主体の「ムーロー」と違い、彼女の場合は接近して相手を刃で切り裂き、離れてビームで焼き切ると言ったスタイルで、二人よりも機敏な空中機動で距離を自在に調整した一撃離脱の戦法を取っている。

 相手の攻撃範囲外(アウトレンジ)からビームや電撃で牽制し、隙が出来た所を急降下して指を変化させた剣ですれ違いざまに切り裂く。

 隠れたり手の届かない所に移動すれば、大規模な放電攻撃や槍状にした足で絨毯爆撃の様な範囲攻撃、草刈りでもするかのような高速反復強襲で無理矢理炙り出す。

 その高速機動からの一撃離脱(ヒットアンドアウェイ)は、実際の戦闘機の対地攻撃の手法に通じている。

 恐らくその名前の由来になっただろうアメリカ海軍の艦上戦闘攻撃機「F/A-18:ホーネット」同様、高い信頼性と幅広い戦闘行動を可能にし、特に対地攻撃においては文字通りの「大量殺戮(ジェノサイド)」を行う恐ろしい存在である事は間違いない。

 

 クリスは嘗てアメリカ空軍に所属していたからこそ、航空機による対地攻撃の恐ろしさを知っている。

 「エフエ―」に対するこの評価は決して誇張ではなく、湾岸戦争での多国籍軍の対地攻撃の実績、それを学んだ事実があるが故なのだろう。

 

 そして、最後に「ムーロー」。

 「万能(Multi Role)」の略称から取ったこの名前は、その名に偽りがないのなら恐らく、「エーワックス」、「エフエ―」、そして他の個体群の全ての「特徴」を兼任できるという意味になる。

 その能力その物も「上位個体」と称されたように、恐らくは「エーワックス」、「エフエ―」を上回る筈だ。

 だが発言からすると比較的新しく誕生した(・・・・・・・)個体らしい、経験則において二人に劣っているからこそ、今の拮抗状態があるのかも知れない。

 その戦いぶりは、肩に追従する様に浮かぶ巨人(ハルク)の様な白い腕を伸ばしたレンジ(射程)の長い打撃攻撃の他、アスファルトの板をひっくり返してぶん投げる、拳や蹴り上げで衝撃波を起こす等、他の2体に比べて肉弾戦的な攻撃が多い。

 身体に帯電を起こして放電を起こす事もあるが、どうも制御が不安定の様で「エフエ―」の様に指向性を持って飛ばす事が出来ない様子だった。

 まだ若い個体だからこそ、身体機能が未成熟なのかも知れない。

 それでも、万全の「エフエ―」と互角の戦いを繰り広げていると考えればそのポテンシャルの高さが伺える。

 

 

 そう、互角(・・)であった。

 近距離においては「ムーロー」に分があり、地上での素早さは彼女が上だ。

 一方で「ムーロー」自身が「飛行」を行う気配が無いのもあって、制空権は完全に「エフエ―」の物であった。

 アウトレンジの牽制で「ムーロー」は迂闊に近づけず、逆に「エフエ―」は接近戦で悉く反撃にあった事から殆ど近付いてこない。

 時たま「ムーロー」が隙を見せて「エフエ―」が一撃を加える事もあるが、慎重になっている所為かその一撃の入りもかなり浅い様だ。

 「ムーロー」自身の耐久性も高いのもあって、有効的なダメージになっていない。

 

 

 だが、本人はかなり不愉快な様子だった。

 

 

『……畜生、実際こういうのは初めてだったな。「上」を抑えられるのがこんなに辛いとは』

 

 満足に自分のペースで戦えてないのだろう、当初は笑みを見せた表情も今は苛立ちが募っている。

 一方、そんな事はお構いなし、と言った風の「エフエ―」は彼女を囲う様に大きく旋回しながら、大きく靡いていた髪を広げた。

 

BUBBLE SPARK(バブル・スパーク)

 

 髪の先から帯電する白い球状の物が10個出現、それ等が背後に置かれる様に打ち出されると、弧を描きながら「ムーロー」に向かっていく。

 舌打ち混じりに逃げる「ムーロー」を、だがその球は正確に追従して飛んでいく。

 それを知ってか、「ムーロー」は走る最中で一回だけ大きく足を踏み鳴らす。

 その衝撃で後方に向かって大量の砂利やアスファルトの破片が飛び、球と衝突して強烈な閃光を放った。

 砂利から地面に通電し、小規模な落雷の様な現象が起きたのだ。

 だがそれで終わりじゃない、彼女が正面に顔を向けると、距離を離した正面に「エフエ―」が降下して両腕で×を作るように交差させる。

 その腕に、青い電光が収束していく。

 

 

CHARGE(チャージ)――――』

 

 

 一瞬だけ、「ムーロー」の表情が恐怖に引き攣る。

 今まで様々な攻撃を繰り出してきた、そのどれもが強力で完成されており、故にその攻撃に隙など見出せず、態と近接攻撃を喰らいながら相打ちで攻撃する(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)事でしか真面に戦えなかった。

 だが、そんな彼女が、タメを作る様な攻撃をするのは(・・・・・・・・・・・・・・)これが初めてだった(・・・・・・・・・)

 宣言に合わせて即時攻撃に移った彼女が、今になって隙を晒す様な攻撃を行った。

 

 つまり、これで仕留めるつもりなのだ。

 

『……ッ!』

 

 避ける様な隙を与えるとは思えない。

 咄嗟に彼女は白い腕を縦に構え、盾する様に身体の前に並べる。

 自らも腕を胸で交差させ、何とか耐え切るつもりで居た。

 

 

 実の所「ムーロー」は、「エフエ―」がクロスした腕から衝撃波を放つのだと思っていた。

 だが、彼女の予想はある意味正しく、同時にあらゆる予想の斜め上を行っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

『――――TWIST SPARK(ツイスト・スパーク)

 

 クロスした腕を開く様に広げる、同時に衝撃波が巻き起こる。

 ただし、それは「ムーロー」の足元から(・・・・)

 

 

 特大の、竜巻となって巻き起こった(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 ……コイツ、本当に「下位個体」なのか?

 視界中が青い電光で覆い尽くされ、身体中に感じる激痛に耐える彼女だったが、既にその最中で分かっていた。

 

 これは、単なる「止め」ではない。

 

 視界が晴れる、其処に広がっているのは一面の青と斑模様の白(・・・・・・・・・・)、そして、ジオラマの様な街の風景(・・・・・・・・・・・)

 100mを超える、遥か“上空”。

 

 

 

 「エフエ―」の、「Fighting Attacker(戦闘攻撃機)」の“聖域”だ。

 

 

 

UNLOCK POWER INHIBITOR(出力制御 解除)

 

 

 太陽を背に、空を駆ける、青く白い影。

 青いラインを引くその姿には、単なる白髪ではない、もう一つの“シルエット”が追加されている。

 

 

TARGET ACQUIRE COMPLETED(目標捕捉 完了)

 

 

 それは、「翼」だった。

 皮膜は無く、プラスチックの様な骨組みで、テレビのアンテナの様な真っ直ぐな形。

 そのアンテナの先から、青く煌めく真っ白な色の粒子がジェットエンジンの如く噴き出していた。

 

 

LOCKED AND LOADED(充填 収束)

 

 

 何者にも縛られず、自由気ままに。

 己のしたい様に、その全てを撃ち放つ。

 

 ああ、畜生。そう言う事か。

 コイツは、私の成りたいものを、とっくに体現していたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生命の「(頂点)」、(ドラゴン)を。

 

SOUL BLASTER(ソウル・ブラスター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ白な光線が、地面を穿つ。

 それはアスファルトを射抜くと、その下の地面にさえ喰い込んだ。

 その莫大な閃光と熱波で、まるで真夏日の様な暑さを感じる。

 更に、同時に発生した爆音が建物一帯のガラスを破壊する。

 咄嗟に身を隠したクリス等は無事だが、何人かは閃光と爆音を真面に喰らって意識を失っていた。

 

「【どうなっているんだ……!?】」

 

 彼等には「エフエ―」が、自らの発生させた雷の竜巻に沿う様に急上昇していく所までしか把握できていない。

 呆然と見上げていた所に、突如として光線が降って来たのだ。

 何が有ったのか、「ムーロー」はどうなったのか。

 その答えを示す様に、「それ」は降りて来た。

 

 地響きを立てて、己の穿った大地の縁に降り立つ。

 それは、片翼だけで5mを超える「翼」を生やした「エフエ―」だった。

 

 

 誰もが、それをただ見る事しか出来なかった。

 黒煙と砂塵で日の光が遮られ、それで尚も身体から薄く放たれる青い光が彼女の輪郭を浮かび上がらせる。

 白く美しい長い髪を尻尾の様に背後で立てて揺らしながら、彼女の深海の如き青い瞳が正面の人間達を睥睨する。

 その容姿は最早神がかり的な神秘性を秘めており、多くがそれに見入ってしまっていた。

 だがそれでも、長年の経験からクリスは気付いていた。

 彼等を見るその瞳は、「B.O.W.」と全く同質の、底無しの憎しみと殺意から来る光が灯っていた。

 目に映る全てを殺してやろうと、狂った様に熱望する憤怒の炎だった。

 

 

 その炎が、ぶわりと揺れ動いた。

 彼と、その部下達はその変化を逃さず、我先にと地面へ伏せる。

 車の上ではなく、直のアスファルトへと倒れ込んでいく。

 だが、こういった存在との戦闘経験の浅い自衛隊や、ましてや広義には民間である警察官ではどうしても反応に遅れる。

 彼等の動きに気付いて動いた賢明な者も居たが、それでも数秒の差は存在する。

 

 

 

 そして、それが明暗を分ける事になった。

 

 

 

 

GROUND DRIVE(グラウンド・ドライブ)

 

 

 唐突な宣言。

 その冷酷無慈悲な声と共に、彼女の全身から“青いビーム”が無差別乱射された。

 それは幾つもの車を、壁を、街路樹を焼き切り、反応の遅れた哀れな人間を細胞一つ残さず焼き尽くしていく。

 今更気付いて逃れようと動く人間も居たが、平等に塵に変わって行く。

 唯一の救いとなるのが、複数本のビームを全方位にはなった事で、ひょっとしたら先の“光線”の所為で出力が足りなかったのか、ビームその物の火力が低下していた事だ。

 姿勢を低くし、車の影に隠れたクリス等にビームが届く事は無かった。

 そして、包囲網から先の「救助民」や「野次馬」の元までは幸いにも届かなかった。

 

 だが被害は甚大だった。

 漸くビームの放出が止まったと思い――実際はほんの2~3秒程度しか出してなかったが――彼は上体を持ち上げて周囲を見る。

 その状態で、まだ上体しか上げてないのに(・・・・・・・・・・・)、彼はそのまま周囲を見る事が出来た。

 全ての車のその顔の位置より上が纏めて消え去り(・・・・・・・・・)、一切の障害物が無くなっていたのだ。

 そして、彼は知った。

 

 

 

 自分たち以外、包囲陣が全滅(・・)した事に。

 

 

 

 身の毛がよだつ様な叫び声が上がる。

 目の前の「エフエ―」の、最初に見せたあの咆哮だった。

 天を仰いで、黒煙や砂塵を綺麗に吹き飛ばして、聞く者全てに威圧を与えて、それは彼等を向いた。

 

 

 

 

 

『――DIE』

 

 どうやら“地獄”は、まだ血に飢えている様だ。

 

 

 

 

 





 次回もまた、彼等と地獄に付き合ってもらう。




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