UNSUNG EVOLUTIONS   作:B.O.A.

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Ch-8-Act-02

・見滝原南端、仮設司令部。

 

 

 

 時刻は既に日が落ちた後、劇場での一件以来、国によって非常事態宣言が出されていた。

 市内全体は当然隔離地域となり、更に今では関東地方全体に外出を控えるよう宣言が成されている。

 無用な混乱を招かぬように明かしてはいないが、飛び去ったという「怪物」の影響だった。

 

 

 夕方頃になって、漸く上下が逆になった(・・・・・・・・)劇場が地下に埋まっているとの確証が出来たのだ。

 

 

 方角的には東、つまり「太平洋」を目掛けて飛んでいったようだが、今頃海上に展開されているだろう巡視船やイージス艦のレーダーに引っかかったという報告は受けていない。

 レーダーを攪乱しているのか、または海底に潜って身を潜めているのか。

 何れにせよ、そちらは海上部隊に任せるべきだろう。

 

 クリス等地上部隊は現在、南端の仮設の拠点にやって来ていた。

 装甲車両が所狭しと止められるここは本来は高速道路のサービスエリアだったらしく、座席とテーブルを並べたフードコートが一時的な司令室と化していた。

 自衛隊、そして更に奥に米軍の駐屯部隊の車両が並んでいる。

 3つの勢力が肩を並べる、まるで多国籍軍の様な状況だった。

 当然、BSAAの応援も来ている。

 極東支部から派遣されてきたらしい数多くの車両とヘリから多くの隊員が降りて、それぞれ作業を進めていた。

 土嚢を積んだバリケード、強力なサーチライトと多数の機甲部隊の配置。

 カメラやセンサーの設置と司令室への中継準備。

 そう、「エフエ―」の監視体制を作っているのである。

 一切の前例の無い能力を持った「彼女達」の、その由来を知る為の唯一の手掛かり。

 非常に危険であり、現に一部には反対の声もあったが、一方で遺体だと生体活動を観察する事が出来ない。

 それ故、半ば押し切られる形で生きた状態の(・・・・・・)彼女を此処に持って来る事になったのだ。

 

 だが、何もその為にこの大がかりな戦力を持ってきた訳ではない。

 実の所、彼女の保護監視の有無問わず、この場所に軍が集うのは「必然」である。

 

「【彼女等は、良く物資の移送手段にトラック(陸路)を使っていた。当然だ、ヘリでの移送は限界があるし、列車では結局車の移送を必要とする。だからこの街に、そしてこの先に通じる「幹線道路」を片っ端から見張れば、奴等の足を潰せる】」

 

 彼女達自身は自在に姿を見せるが、他の「生物兵器」や物資の移送も全て手掛けるのは難しいのだろう。

 トラックという陸送手段を失えば、彼女にとっても打撃になる筈だ。

 

 

 

 最も、その必要が無くなってたら意味は無いが(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 一際大きなプロペラの音が響く。

 上を見上げると、五機の大型ヘリの編隊が此方に向かっていた。

 四機に四方を囲まれる中央の一機の胴体の下には、ワイヤーで繋がれたコンテナが吊るされている。

 宛ら大型兵器のヘリ輸送の様だが、実際運搬されているのは「生物兵器(B.O.W.)」の端くれなので間違いでもないか。

 それが幾つもの土嚢や装甲車両に、丁度何周も円形を描く様に囲まれたその中心に、慎重に降ろされていく。

 彼すらも感嘆する様な腕前で正確に降ろされると、防護服に完全に身を覆った数人の人間がそれに近付き、コンテナの表面にセンサーを張り巡らせる。

 僅かな動作でも見逃さない為だ。

 中にいる「ソレ」は様々な要因があったとは言え、戦闘ヘリを単独で落とし、戦車砲すら諸ともしない「ムーロー」を退けた「危険因子」だ。

 幸い、現代兵器が通じる印象があるとはいえ、無力化は兎も角完全に絶命し切らず、今も生命活動が続いているという時点で脅威だし、仮にコンテナから脱出してしまえば、真っ先に“範囲攻撃”で此方を一掃して来る筈だ。

 最新鋭戦車の装甲ですらいとも簡単に真っ二つにしたあの攻撃を喰らえば、例え生き残る事が出来たとしても彼女への抵抗など雀の涙程も出来ないだろう。

 

 つまり、彼女が動き出す前に、何としても「彼女」への確実な対抗手段を掴み、無力化出来るようにしなければならない。

 

 彼等が見守る中、センサーを配置し終えた彼等は、速やかにコンテナから離れ土嚢の向こうへ逃げていく。

 既に必要なサンプルは最初に採取している、後はその成果から「対抗策」の有用性を彼女相手に証明するだけ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 そして、その逃げていく人間とすれ違う様に(・・・・・・)、ほむらはコンテナへ歩いて行く。

 

 

 

 

 

「……随分と厳重ね。コンテナの中で済まそうかと思ったけど、これは壁越しにやるしかないか」

 

 面と向かって問い掛けないとはぐらかされる様な気もしていたが、この様子では何かの拍子に道連れにされる可能性も否めない。

 止まった時の中、ゆったりとした歩調でコンテナの前にやって来ると、右手を伸ばしてコンテナに触れさせた。

 今頃警報や何かでも司令塔で発生しているかもしれないが、それに反応して動ける“人間”はこの世界には居ない(・・・・・・・・・)

 だから彼女は堂々とその手を触れさせたまま、左手でノックするように壁面を叩く。

 原始的だが、こうでもしないと安全性が保てないのだ。

 

「聞こえてる? 貴方の「親玉」の言ってた事で聞きたいのだけど」

 

 暫く反応を待つが、返事が無い。

 単純に通じてないのか、反応を伺っているのか。

 叩く強さを強めにして、彼女は再度呼びかける。

 

「色々あるけど、先ず聞きたいのは、貴方達は何処まで知っているの(・・・・・・・・・・)? 「魔女」の正体、私達の「運命」、「親玉」はそれを仄めかす様な事を言ってたけど、一体誰からそれを聞いた(・・・・・・・・・)?」

 

 待っても反応が無い。

 埒が明かない、そう思った彼女は、思い切ってこう言う。

 

「……貴方が何をしたいのかは分からないけど、此処で黙って死ぬのが良い訳じゃない(・・・・・・・・・・・・・・)でしょ。「あの時」の事もある、話してくれたら其処から(・・・・)――」

 

 此処まで喋って、漸く何かがおかしい事に気付いた。

 このコンテナが何処まで強固かは知らないが、少なくとも彼女用に作っているものじゃない、これだけ叩いて居れば何かしら反応がある筈だ。

 それも無いという事は、ひょっとして、彼等が思った以上に彼女は弱っている(・・・・・)のではないか。

 そして、彼女は中の様子を伺おうと、此処で初めて(・・・)壁に耳を付ける。

 

 

 

 

 

 

 間延びする様なぼんやりした音の中に、チカチカと何かを刻む様な音がしている(・・・・・・・・・・・・・)

 それは、彼女もよく耳にした「音」だった。

 

 

 

 

 

「しまった……ッ!?」

 

 慌てて身体を離そうとするが、その瞬間に中で大きな破裂音が響いた。

 コンテナを伝わった衝撃波で、破壊されていくコンテナの破片と共に彼女の身体が大きく吹き飛ばされる。

 そして、

 

 

 

 

 

「【ッ!!?】」

 

 目の前で突然(・・)爆発したコンテナの破片に、だが素早く反応してクリスは土嚢の陰に隠れた。

 多くの人間の怒声や悲鳴に被せる様に土嚢に鉄の塊が突き刺さる音が響くが、意外な事に熱波を感じない。

 衝撃波だけで相手を昏倒させる為の、意図的な調整(・・・・・)がそこには有った。

 一通り衝撃が過ぎた後、素早く立ち上がった彼は、仲間と共にコンテナのあった跡地(・・)を見る。

 ライトで照らされたそこには、炸薬で焦げたアスファルトがさらに濃い黒色に変色し、バラバラになったコンテナが放射状にまき散らされていた。

 そこに、中にいた筈の「彼女」の姿は無い。

 

「【爆発!? 一体どうやって!】」

「【奴が自爆したのか……? やはり、無闇に連れてくるのは間違っていたか……ッ!!】」

 

 歯ぎしりしながら呟き、彼は混乱する隊員を諌めに向かう。

 彼の部下達には大きな負傷を負った者はいないようだが、周囲の自衛隊や米軍、BSAA隊員には多少負傷者がいるらしい。

 慌てた様に救護班が動き、負傷者を建物の方へと下がらせていく。

 だが見てる限り、即死する様な攻撃ではなかった様だ。

 死者は誰一人おらず、ただ混乱だけが続いていた。

 

 

 

 結局、「それ」に気付いたのはたっぷり20分程経った後だった。

 それは、一通り混乱が落ち着き、周囲に「彼女」の痕跡が無いか探って居た時の事。

 爆心地から30m程離れた位置の地面から市内へ向けて伸びた(・・・・・・・・・)大量の血痕(・・・・・)が地面に残っていたのが発見されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、無人になった市内の中を、ボロボロになったほむらは歩いていた。

 身体中を真っ赤に染めて、右手で左の脇腹を押さえながら、足を引き摺るように歩いて行く。

 その指の間からは、血の色で染まった黒い金属片(・・・・・)が覗いていた。

 

 ……完全に、先回りされていた。

 

 そう彼女は認識する。間違いない。

 あの音は、どう考えても「エフエ―」によって齎されたものではない。

 そして、彼女の「接触」を予期して、その上彼女の「力」を考慮した罠(・・・・・・・・・)を張れる存在は「一人」しかいない。

 

「懸念すべき、だった。彼の妨害を(・・・・・)……ッ!!」

 

 頭を強く打った所為で視界がぼやける中、彼女は悔しそうに歯ぎしりする。

 「時間停止」の魔法は知っていても、彼が大きな介入をしてくるとは思えない、と勝手に評価していたが故だった。

 あの場に居た人間達の様子では、コンテナが爆弾になっていると知っていたとは思えない。

 と言うより、そんな手法で自分一人を罠に掛けようなど、「彼等」が認める訳が無い。

 

 

 

 だからこそ、予想すべきだった。

 彼が無断で、コンテナの中身をすり替えて置く可能性(・・・・・・・・・・)を。

 

 

 

「……最初の時も、上が納得しない事を承知で私を自由にさせた。「劇場」の時も、口では諌めながら裏で私達が来れる様に仕向けた。……独断で勝手に動く(・・・・・・・・)、彼はそう言う存在だった」

 

 だが、今嘆いたって仕方ない。

 問題は、すり替えられた「エフエ―」が何処へ行ったかだ。

 彼は飽くまで「話を聞く」様子ではあった、つまり「処分」されてはいない筈。

 では、一体何処に。

 どれだけ考えても、何一つも浮かばない。

 「彼」を知らなさ過ぎるから、心当たりなど全くないのだ。

 これまでか、そう思った時、

 

 唐突に、「分かりやすいヒント」が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・見滝原市内中央、見滝原中学校。

 

 

 

 無人となった、夜の学校。

 何一つ明かりの無い、警備室や職員室さえ消灯した校舎は、前面のガラスが開放感の演出の為に試験的に大きめ目のデザインになっているのもあってか、壁面と言うよりも内部の暗闇だけが浮かんでいるようで非常に薄気味が悪い。

 そしてそれを背景に、グラウンドの中央に無造作に置かれた「倉庫用コンテナ」の縁に腰掛けて、「彼」は静かに待っていた。

 堂々と、敢えて正門から無防備に入ったほむらは、コンテナに近付いて俯いたままの彼に声を掛ける。

 

「何のつもり。自分から居場所を教えるなんて(・・・・・・・・・・)

庇いきれない(・・・・・・)とは言ったが、「一般人」には会わせられない(・・・・・・・・・・・・・・)とも言ったが、意図的に調整していたとは言え「生身でコンテナが破裂する衝撃を直に浴びて死なない」様な「化け物(・・・)」に会わせないとは言った覚えはないぞ。まぁ、生き残りこそすれ昏倒すらしないのには唖然とさせて貰ったが」

 

 皮肉めいた言い様だが、彼女は何処か“己に言い聞かせてる”ような印象を受けた。

 そして彼は、顔を上げて彼女と目を合わせる。

 そこには、一番最初に見た“あの”冷たい「彼」が座っていた。

 

「今頃向こうは騒然としているだろう。面と向かって会わせる為に俺が仕組んだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)とはいえ、現場にはお前の血の跡も残っちまってるだろうし、確実に容疑者になるのは必須だ。だから言っただろう、庇えない(・・・・)とな」

「……どうして、そこまで」

「それが一番だと思ったからだ。俺は「彼等」の協力者だが、飽くまでそれまでだ。方針も立場も違う、だったら「彼等」の理念に従う謂れはない」

 

 ほむらが、その余りに粗暴な言い様に思わず息を呑む。

 彼は彼女が黙ったのを見て取るや、足でコンテナの縁を軽く踵で蹴る。

 一度だけではなく、2度、3度と断続的に音が続く。

 

「時間が無いな。余りノンビリしてる訳にもいかないだろう、ほら、出てこい(・・・・)

 

 すると、コンテナのスライド式の開閉ドアが内側から動き、彼女の位置からその中の様子が見える様になる。

 周囲の光源となる電灯からは距離が遠く、中まで光が通っていない様子ではあったが、それでもほのかに青い光を放つ「ソレ」の姿ははっきりと見えた。

 未だに片腕が無く、全身に抉られたような跡が残って、とても生きている様には見えないが、「エフエ―」はそれでも白い粒子(・・・・)を纏ってコンテナの中空に浮かびながらそこに有った。

 緊張感を帯びて、でも身体の傷故に拳銃を構えるのがやっとなほむらを前に、「エフエ―」は彼女を無視するように、コンテナの中で上を見上げる。

 天井の向こう側の竜二を、其処に居るのが分かっている様に瞳を向けた。

 

『――、――――』

 

 小さく何か呟いているのが見えるが、何を言っているのかは分からない。

 だが、彼はそれが聞こえているかの様にニヤリと笑った。

 

「さて、聞きたい事が有るんだろ。聞いてみろ」

 

 彼がほむらに急かすと、同時に「エフエ―」が彼女の方を向いた。

 暫く無表情でいた彼女だが、僅かに眉を下げるとこう言った。

 

 

 

 

 

I() ――(いな)。 我 意義 防衛 戦闘 (ゆえに) 我 (それ) 役目 以外 門外漢』

「……え?」

「面白いだろ。お前が来る前に少し話したが、ずっとこんな感じなんだ。大体、戦闘行為やそれに通じる系統以外の事は門外漢、「専門外」って事だとさ」

 

 

 

 

 

 少々奇抜な話し方に戸惑ったほむらだが、冷静になると少し不味い事態である。

 彼女は戦闘や防衛行動に通じる情報以外の持ち合わせがない、つまり魔法少女に関する知識まではあっても、その由来までは知らない可能性がある(・・・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

「……私達の事、何処まで知ってるの?」

『「(すべて)」。 今 発表 可。 (しかし) 其 我 主 望否(のぞまず) 故 言否(いわず)

 

 ……全て(・・)、ときた。

 大雑把で曖昧な表現を使うのは、相手に自分の底を教えずに想像で威圧感を与える為の話術だ。

 それに気付いた彼女は、少しカマを掛けてみる事にした。

 

「望まない、ね……。具体的に言えないって事は、そもそも持ってない可能性もあるわね」

『我 役目 防衛。 我 主 意志 守護 (これ) 防衛。(より) 我 主 願 防衛』

 

 どう評価されようが、飽くまで言うつもりは無い、という事らしい。

 不毛な言い争いや苦手な説得に持ち込む時間は無い、此処は話題を変える事にする。

 

「ふぅん、つまり今の話術も“防衛行為”に関係する訳なの? 随分と広い采配ね」

『厳密 「戦術行為」 (これ) (また) 我 役目』

 

 戦闘(Battle)だけでなく戦術(Tactical)をも専門にしているらしい。

 指揮関連は「エーワックス」の役目の様に思えていたが、どうも彼女も知識自体は持っているようだ。

 ならば何を聞くべきか、と思っていたら、向こうが口を開いた。

 

『故 戦術的 価値 我 全 知。 我 貴方 又 計画的行為 何共(いずれとも) (その) 意図 我 評価 可』

「……どういう事」

『我 主 計画 (すべからく) 知否(しらず)。 (しかし) 其 一部 行為 (より) 先 行為 予想 多分 可』

 

 つまり聞くなら、この先に何が起きるか(・・・・・・・・・・)にした方が良い、と言っているのか。

 彼女は飽くまで「先兵」、計画の全貌までは知らない。

 だが、将棋の棋士が盤の駒の様子から相手の次の一手を最後の「詰み」まで(・・・・・・・・)読む様に、彼女もまた計画の全容を推察できるかもしれないのだ。

 

「そう、なら聞くわ。何が起きるの」

『……主 望 社会 破壊。 然 其 全 (あらず)。 世 円環(サイクル) 破壊 (これ) 望』

「“円環(サイクル)”?」

()。 製造 使用 又 捨使(すてられる) 命 円環(サイクル) (なり)。 主 此 街

使(つかう) 其 解脱(げだつ) 演習計画(デモンストレーション) (ために)

「ハッキリ言えばいいだろ、「生物兵器」の流通経路(・・・・・・・・・・・)だと。それを壊すと」

『……是』

 

 ずっと黙って目を瞑っていた彼が目を開く。

 すると何処となく、「エフエ―」が委縮する様な雰囲気があった。

 微妙に引っ掛かるが、それよりも彼女の発言の方が重大だ。

 

 纏めればつまり、彼女達は社会の裏にある大きな「犯罪市場」を破壊する、その「流れ」の実践を此処でやるという事か。

 それだけ聞けば虫の良い話ではある。

 でも一方で、あの「怪物」は自身の目的を「新生代の終わり」とも言っていた。

 

「でも、アイツは「時代を終わらせる」的な事も言ってたけど。それはどういう事なの?」

『付随効果 也。 計画 遂行 完了 此 大量絶滅 併発 確実』

「……違法兵器のサイクルを破壊すれば、人間が滅亡しかねない絶滅が起きる。中々どうして皮肉じみてるじゃないか、其処までして「アレ」を認めたくないか。だったら、端から人間皆殺しにしていった方が早い(・・・・・・・・・・・・・・・)んじゃないか」

 

 思わず彼を見上げるほむらだが、彼は困った様に肩を竦める動作をするだけだ。

 その一方で、「エフエ―」は何かを考える様に眉を下げた。

 

『我 同意。 元々 計画 絶滅 副作用 「有否(あらず)」。 ……分否(わからず) 何故 主 計画 変更……?』

「……なぁ、ひょっとしてだが、それが「計画の意義が歪んだ」って事じゃないか?」

『分否。 調(しらべ) 必要』

 

 一通り答えると、「エフエー」は身体に力を籠める様に身震いする。

 すると、周りに纏っていた粒子が根元から無くなった腕の元に集まり、凝固し、一瞬で元の腕に再生する(・・・・・・・・)

 驚いた様に目を見開くほむらを余所に、彼女は浮遊したまま扉の前まで接近して言う。

 

『我 本懐 個体群 生存。 (しかし) 主 意志 其 本懐 (はんする) 可能性 有。 大規模破壊 其 影響 我等 生存 不都合 也。 (しかし) 主 意図的 其 (おこなう) (たとえ) 「自殺」 志願。 (もし) 其 場合 我 静止 義務 発生』

「……自分達の(おさ)に反目するって言うの?」

『否。 検証 主 意志 別視点』

 

 彼女がコンテナの扉に手を掛け、其処から出ようとすると、上から彼が跳び降りてくる。

 出ようとする彼女に掌を向けて行動を遮ると、其処に立ち尽くすほむらの方を向いた。

 先程と変わらない、何処か冷たい表情。

 

 敢えて自分を容疑者に仕立て上げた、人を玩ぶ表情だ(・・・・・・・)

 

「と言う訳だ。信用するかは別として、コイツ自身も奴等の行動に違和感があるらしい。色々聞いてみたい所だが、そもそも推察でしか計れないそうだ。「彼等」の手の内や、此処でどれだけ問い詰めても多分満足な情報は無いだろう。……最も、「物理的」に完全な対抗策(・・・)だけなら違うかも知れんが」

「それだけ用意しても、いざという時に役に立つか分からないと?」

「まぁな。どうも彼女には「心当たり」が幾つかあるみたいだが、実際に見てみないと推察も出来ないそうだ。……さて、仮に彼女を連れていくとして、彼等は絶対に納得しないだろう。俺が行くとしても、彼等とあらぬ反目を起こすのは「上」の意じゃない……で、だ。此処に都合良く“汚れ役”を押し付けられる、たった今彼等から追われる「容疑者」(・・・・・・・・・・・・・)が居たよな?」

 

 ギリ、と思わず歯ぎしりしてしまった。

 銃口を向けながら睨む彼女の剣幕に、だが寧ろ小さく嗤いながら彼は相対する。

 

「……全部、この為に?」

「言ってしまえば、そもそもあの「劇場」の件の時点でお前から「取引」は“破棄”してるんだ。だったら、こっちも庇ってやる必要は無いだろ。「巴ちゃん」との意図もあっただろうから見ない事にしてたが、あのコンテナに触れてしまった(・・・・・・・・・・・・・・)時点でもう言い逃れは出来ない……なら、こっちも遠慮はしない。利用出来るものは利用させて貰う」

 

 そう言って、彼女の元へと歩み寄ろうとする。

 

 

 

CRAWLER(クロウラー)

 

 その時、背後に居た「エフエ―」の指が一瞬で剣に変わった。

 

 

 

 始めから拳銃を其方に向けていたほむらだが、今この瞬間は此方に寄ってくる彼の身体が邪魔で「エフエ―」は完全に死角だ。

 叫んで注意を呼びかけようと口を開くが、其れよりも速く「剣」が動いた。

 「X字」の薙ぎ払い、それが素早く振り下ろされて、彼の身体が4つに分断される。

 目の前の惨劇を前に、出そうとした声が喉で詰まる。

 

 

 

 

 

「……ほむら、嘗てお前に俺は「やってない」と言ったな。それは真実だ」

 

 だが声が出ない「本当の」理由は、そんな声が、自分の背後から聞こえたから(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 振り向こうとする暇は無かった。

 いきなり背中から衝撃が加わって、身体がものすごい勢いで水平に射出される。

 それに目を見開いて驚愕していた(・・・・・・・・・・・・)「エフエ―」がぶつかり、一緒に纏めてコンテナの中に押し戻される。

 然もそこで終わらず、押されたコンテナごと校舎へと飛ばされ、一階の壁とガラスを突き破った辺りでようやく止まった。

 身体中に走る痛みに荒い息を吐きながら、ほむらは手足を縮める様に力を込めて、その無事を確認する。

 どういう訳か、咄嗟に「エフエ―」が彼女を庇う様に壁との間に入ってクッションになった為、壁に打ち付けられずに何とか意識を保てていたのだ。

 その「エフエ―」も、苦悶の表情を浮かべているがまだ動けそうだ。

 無意識的に、ほむらの肩を支える様に「エフエ―」が彼女の左腕を肩にかけ、彼女も体重を「エフエ―」に預けて立ち上がっていた。

 

 二人で前を向く。

 其処に、まるで幽霊の様に輪郭のぼやけた(・・・・・・・・・・・・)「彼」が立っている。

 

 

 

 

 

 

 

「だが、「出来ない」とは言ってない(・・・・・・・・・・・・・)。……だろう?」

 

 軽く肩を回し、黒い筈の瞳から血の様に赤い光(・・・・・・・)を放ち、嘲るように嗤う「(化け物)」が居る。

 

 

 

 

 







 人生は道路のようなものだ。

 一番の近道は、

 たいてい一番「悪い」道だ。



 -哲学者:フランシス・ベーコン-




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