・見滝原市
さて、様々な要因から、見滝原から大きく移動する事になったほむら一行。
そうすると、立ちふさがるのが東西南北に張られた大きな「包囲網」である。
ほむら自身の証言も考慮されたのか、上空にも常に本物の「
上空を移動するのはほぼ不可能と言っても良いし、低空で移動すれば地上のレーダーや人間の視界から逃れられない。
地下から移動するにも、罠か何かで対策されている可能性もある、特に動けるとはいえ本調子とは言い切れないほむらを移動させるにはリスクがあるし、何より此処で綱渡りするようでは、より
故に彼女が、「エフエー」が選んだ行動は、
<東部拠点より
<詳細は!?>
<此方からの通信に応答しない……ッ何だ!? 信号もレーダーも全部消えたぞ!?>
<大規模通信障害……! 「奴等」か!!>
「……幾らなんでも、あっさりと引っかかり過ぎじゃない?」
『
実は、「エフエー」に
「
よって、別のアプローチを用意する必要があった。
『
「だけど、その分だけより
『
単純に電子攻撃を仕掛けながら基地を攻撃しても、救難信号を優先されてしまえば瞬く間に他の基地から応援がやって来てしまう。
包囲網が完成し、少なくとも彼女等二人ではあっという間に鎮圧されてしまうだろう。
だから、更にその裏を掻く必要がある。
<生きているレーダーは!?>
<東以外は正常に稼働しています! どれを動かしますか!!?>
<3つとも一気には流石に出力が足りないか。 一番距離の離れた「西」を使うぞ!>
<了解――、送電網の切り替え、完了しました!>
「……4つの基地はそれぞれ独立しているようで、実は
『
4つの対角に並んだ基地配備は、何処か一箇所でも通信設備を狂わされないようにする為のもの。
「EMP」とは謂わば通常の電波を強力な電磁波で跳ね除ける攻撃法であり、逆に言えば、
単独では、流石に都市部を挟んだ対角まで影響を及ぼせる程「エーワックス」の出力はないし、仮に同時攻撃を仕掛けても、更に
「……だけどその出力源は、流石に
『
「この辺で大きな変電施設は……、」
『計 三箇所。
「北東の、「一箇所」だけ――ッ!!」
よって彼女達が取った行動は、大体こんなものだった。
先ず東部の拠点に侵入し、通信とレーダーを遮断する。
態々其処に「EMP」なんざ用意する必要はない。
『「
「ええ。で、仕掛けるのは?」
『「アンテナ」。
「
先に、拠点付近に停めてあった車に積んだ爆弾を起爆させ、緊急信号を送らせてから破壊する。
基地の連中が通信障害だと勘違いした「攻撃」の実態は、
さて時限装置を作動させた後に、彼女等は急いで北東部の変電所に向かう。
「後は変電所を破壊すれば――」
『
「じゃ、どうすれば?」
『
眉を顰めたほむらの眉間を軽く人差し指で小突いた「エフエー」は、小さく笑って続けた。
『
<うわッ!?>
<今度はどうした!?>
<西部のレーダーが故障! 機能していません!!>
<まだ東部や北部が残っているだろう? 直ぐにそっちに切り替えろ!>
<切り替え――ッ!!? 馬鹿な!?>
<落ち着け、どうしたと言うんだ!>
<東部、北部のレーダー、
<――ッち! 変電所を襲われたのか!! 奴等、
「……あの」
『
「此処、どう見ても変電所じゃないんだけど」
二人が来ていたのは、変電所とは明らかに違う高いビルに挟まれた、何もない道端だった。
其処でアスファルトの地面に屈んで何かを探っていた「エフエー」は、ほむらの発言に何故か酷く肩を落としていた。
『
「っ、それは……。貴方だから、てっきり乗り込むのかと――」
『……
そうしている間に、何かを探り当てたらしい。
「エフエー」がアスファルトの地面の一角を軽く片手で叩きながら、ほむらを呼び寄せて言う。
『
「そっか、何も変電所を直接攻撃しなくても、この線を切ってしまえば止められるのね」
『
そう言うや、「エフエー」の身体の周囲に
離れているように、とほむらに手で指示を出し、彼女が数m距離を置いたのを確認すると「エフエー」の身体がフワリと空中に浮き上がる。
『
バチンッ、とその身体から音が響く。
長い白髪の間から、青い閃光のような放電が発生する。
そして、ゆっくりと持ち上げた右足が、
アスファルトさえ砕く、あの「破壊の一撃」が。
『
「
地面を撃ち抜き、その下のケーブルへと突き刺さる。
つまり彼女達は、この一帯のレーダーを破壊し、その混乱に乗じて脱出したのである。
ただ、変電所を襲うのではなく、その
変電所へと急行する大勢の部隊を尻目に、彼女達は北側へと移動。
低空を高速で飛ぶ事で「空の監視」を避けつつ、大勢の応援を送って手薄になった警備をすり抜けて街を脱したのだった。
・福島県、会津若松市付近。
「エフエー」が飛行を止め一旦降り立った土地は、「白虎隊」の悲劇でも有名な由緒ある街だった。
路地裏に身を隠しつつ、二人は次の行動へと移る。
「完全に逆方向に来てるけど、大丈夫なの?」
『
彼女達は今や追われる身だが、まだほんの数日前の事である。
この事態の混乱や隠蔽も有るだろうし、仮に指名手配状態であっても、店に入っただけでリークされるレベルに周知はされていない筈だ。
それは「ユイ」と同じ姿を持つ「エフエー」も例外ではない、「その手」の手配は公にならない原則のようなものに救われた。
よって、二人は堂々と大手チェーンの服屋に入り、丸々服装を変えていく。
『
「……互いに服装をコーデし合う、というのは」
『GOOD』
思いつきで提案したら、親指を立てて賞賛された。
という訳で、即興で互いの服を見繕った結果、
「……変、じゃない?」
『多分?』
黒髪をポニーテールに纏め、火傷痕の残る右目付近を敢えて晒しておき、「破れたように見えるデザインの」ジーンズや腹が見える程に短いシャツ、チェーンやドクロのネックレスといった、俗にいう「パンク系」のファッションにほむらは仕上がった。
玩具のように見えて、実は
『表情』
「え?」
『
そう言われて、ほむらは何となく嫌いな相手を思い浮かべようとする。
と、彼女の脳裏に最近見ない「白い獣」の姿がチラついて、
――『……僕は長年人間を見てきたつもりだけど、やはり、人間の心境の変化にはまだ理解できない事が多いみたいだ』――
「………………………………………………………………………………………………、」
『
急に叫んだ「エフエー」の声に、我に帰ったほむらが目を向ける。
其処には、何故か自分で自分を抱くように両手をクロスさせた「エフエー」が、酷く怯えた様子で震えていた。
どうやら、無意識に凄い表情になっていたらしい。
と、此処でちょっと調子に乗ってみたほむらは、
「成る程、良いアドバイスを貰ったわ。……感謝しておくわね」
『……
「さぁあ、どうでしょうね? ……フフフッ」
此処まで散々振り回されてきたのだ。
今でこそ「恩人」で、「協力」している「エフエー」だが、此処でちょっと仕返ししても悪くは無いだろう。
そんな「エフエー」の格好は、一言で言えば「セーラー服」である。
見た目の構図からして、「不良女子の姉」と「制服の妹」という印象になるだろうか。
実態は真逆なのに、何故か此処まで見た目がしっくり来るのは不思議なものだ。
「さて、格好も変えたし、そろそろ出発……?」
言葉が途中で止まったのは、少し目を離したその間に、忽然と「エフエー」が居なくなっていたからだ。
路地から顔を出して周囲を見渡すと、まばらな歩行者の奥に制服の背の大部分を隠す白い髪が見えていた
後ろ向きになっている今なら分かるが、彼女の頭のやや後ろ、頭頂部の金色の触覚部分の後ろに黒のカチューシャが嵌っている。
言うまでもないが、ほむらがさっきまで付けていたものだ。
その背中の近くまで歩いて行って、此処で彼女が何かに視線を向けているのに気付く。
その視線の先を目で追ってみて、何かを察したほむらは視線を彼女に戻した。
「……欲しいの?」
『ッは!? べっ
ビクーンと、背筋を伸ばして跳び上がりそうになった「エフエー」は、此方を向いてフルフルと首を振る。
……だが、ほむらには既にその本心が見え透いていた。
「必死に目を背けてる割に、何故か頭の
『ピャァァァァァ!!?』
何か色々、主にキャラ性をぶっ壊しながら頭頂部の金の
その手の中で、モゾモゾと
いい加減、というか三日近く一緒に居たので何となく悟っていたが、この金の毛状の器官、彼女にとって
何かに注目している時は特に、この器官が昆虫の「触覚」の様に動いているのを見ていたのだ。
だが、最早そんな所に突っ込むつもりはない。
――……全く――
小さく溜息を吐くと、彼女は「エフエー」の元を離れて歩いて行き、数分後に戻ってきた。
その手には、今まで無かった物が一つ握られている。
「ほら、欲しかったのでしょう?」
そう言って差し出したそれは、言わば「ベルギーワッフル」という洋菓子だった。
目の前に出されて、一旦目を逸らした「エフエー」だったが、次第に視線に落ち着きが無くなり、そして遂に、
『……
両手を伸ばしてそれを受け取る。
が、ずっと胸の前で持っているだけで、今度は
流石に訳が分からなくなってきたほむらが、やや俯いた「エフエー」の顔を覗き込んで言う。
「食べたかったのでしょ? それとも違った?」
『
「どういう事?」
『
ワッフルを握った、その手が小さく震えているのが分かる。
その動きが、単純な震えというよりは
「彼女達」は大まかに、
つまり、目の前の「エフエー」にも、
と、目の前の少女は突然首を一度だけ横に強く振るや、一口にワッフルを押し込んだ。
あっ、と声を上げたほむらを片手で制して、綺麗に食べきった「エフエー」は口を開いた。
『
「……見滝原付近ならまだしも、この辺りまで来ると人の目も気になるわね」
『
「どうする。車やバイクに乗ってたら明らかに怪しまれるし」
すると、
ほむらが後を追うが、彼女は此方を全く気にせずにスタスタと歩いて行ってしまう。
右に左に、狭い路地を通ったりは序の口。
やがて砂利道や、獣道のような跡のある林の中にも入っていき、遂には道無き道を突き進む。
少しでも足を止めれば、一気に見失ってしまいそうだった。
「ちょっと、何処まで行くのよ……」
既に一時間近く歩きっぱなしである。
流石に疲れて来て、休憩を持ちかけようとしたほむらの声に反応したのか、「エフエー」の足が止まる。
首だけで振り返った彼女は、その状態で指である方向を示す。
『
指の先を辿って行くと、今いる谷の反対側に、古い工場のような廃墟が佇んでいるのが分かる。
少なくとも、後1km程は歩くだろう位置に見える。
ガックシと肩を落としたほむらを他所に、「エフエー」はさっさと歩き始めてしまう。
「あ、ちょっと待って、流石に疲れが……」
『
「いや、もう一時間も歩いてるし、途中から山道だし――」
『
「お願い、五分でm『
『
振り返らずに言った「エフエー」がそう残して歩調を速めると、最早ほむらには声を上げる事すら出来なくなった。
付いていく事だけに精一杯になったのだ。
そして、
『
「ゼー、ハァー……今日は、もう動かないわ……」
廃墟の工場、もとい作業場の様な長細い建物が目の前にそびえ立っていた。
その辺に転がっていた割れたコンクリートブロックの上に腰を下ろして座り込んだほむらに、「エフエー」は何処からかスポーツドリンクを用意して寄越してきた。
『
「……
奇妙なニュアンスを耳にして、ほむらは思わず聞き返えす。
「エフエー」は一度だけ頷いて、工場の大きなスライドドアに手を掛け、無理矢理人一人分の隙間を作ると、ほむらに手招きした後にその中に入っていく。
自分の今いる位置からでは、どれだけ体勢を変えても中の様子は伺い知れない。
一口だけスポーツドリンクを飲んで、ほむらは気力で立ち上がると、「エフエー」を追って中に入っていく。
光源らしい光源はなかった。
お昼を回って、少しだけ傾いた太陽の光が天井に空いた穴から差し込んでいる、その光だけが頼りだった。
彼方此方に放置されたのだろう机や椅子が転がり、壁や柱は塗装が禿げて錆が露出している。
だが、
「これは……」
ほむらの目に飛び込んでいたのは、建物の中央奥寄り、天井に空いた穴の中心の辺り。
其処に、見た事もない「何か」が鎮座していた。
転がっている古い資材が軒並み端に寄っているのは、「コレ」が退かしたのだろうか。
そして、「ソレ」のすぐ前に「エフエー」は立っており、小さな手を「ソレ」に向けて掲げていた。
すると、グォンと軋む音を立てて「ソレ」が動き、赤い光が彼女の掌を照らす。
そして程無くして、
《認証完了、お早うございます「ゲスト428」》
そんな、男性の人口音声が「ソレ」から響いた。
『「ニック」、 正式名『
「エフエー」が言う、「屠龍」と呼ばれた「ソレ」は、その姿は、
『「B.O.W.」、
嘗て、何処かで聞いた、「ロボット」の特徴と、瓜二つ。