・福井県、工場跡地。
「……諸刃の、剣?」
自然と、ほむらはそう聞き返していた。
視線は未だに目の前の巨大な「兵器」に向けられたまま、呆気にとられた表情で無意識にその場から半歩下がっていた。
一方、目の前の「兵器」に手を伸ばし、あたかもその表面を撫でるような格好になっている「エフエー」は、後ろのほむらに振り返る事なく答える。
『
「淘汰された、手法?」
『
首を傾げたほむらに、突然前から
不意の事に怯んだ彼女に対して、その「光源」は滑らかな声を発した。
《現在の生物兵器、もとい「B.O.W.」市場は、その市場価値を「
「……よく喋るわね、ソレ」
『
「
仮にその性能が、嘗て戦った
身近で言うなら、アウトレット品の中に最新型のパソコンが他と同じ値段でしれっと混ざっている印象か。
「でも、それと
《はい。そもそもそのような市場形態に移行した事自体、
『……
《現在の兵器開発は、最初に顧客から「要望」を募り、それを各会社が「試作」し、その上で顧客が選んだ「一品」を実際に量産します。……当然、コスト面も見られますが、それは現在の市場程の偏重な物ではない》
『
力ない者ではなく、
多少は高くても、長く使える「良い物」が買いたいという考えを標的にした製品。
「安いけど、値段の割に性能が破格」の商品と、「少し高いが、値段以上の驚異的性能」の商品の違い。
「
《これは流出したファイルのデータですが、初期の生物兵器はそれこそ、
『「
コストよりも信頼性、値段よりもスペック。
弱者と強者、その差を広げる為の「兵器」。
だが、その道には一つの大きな「問題」が浮上する筈である。
「でもそもそも、「
《はい、「普通なら」買わないでしょう。
流暢にキッパリと言い切った「ソレ」は、徐ろに「首」のように見える器官を持ち上げ、左右の部位を大きく横に伸ばす。
ほむらの位置からは、丁度左右の部位の「下面」が覗ける様になる。
見えてしまう。
生物には不釣り合いの、明らかに飛行用の「プロペラ」のような金属製の「機関」が。
それ以外にも、ほむらには名称がわからない、だが写真で見た「飛行機」の翼にあった、翼後部のせり出すように動く「可動部」が。
「羽ばたく」という
「……ねぇ「貴方」、本当に
純粋に、ほむらはそう訪ねていた。
目の前の異質な「兵器」は、感情の無い人口音声で、流暢にそれに答える。
《さぁ、どうでしょう。……「機械化
「屠龍」。
その名の由来は、旧日本陸軍の採用した「二式双発複座戦闘機」から。
単発戦闘機では追いつけない高速で、高空を飛行する当時の爆撃機を迎撃するため、或いは護衛するために、機動性を捨て速度と馬力を得る双発戦闘機の構想が産んだ、大型戦闘機の一つ。
生まれた時点で既に半ば時代遅れ、だがそれでも一つの時代に確かに喰らいついた「
そう考えると、新たに生まれたこの「屠龍」の意図も見えてくるか。
《機械化、と言うより「装甲化」した「B.O.W.」なら、実は前例があります》
そんな風な声を流す「屠龍」だが、ほむらは何も答えない。
代わりに、手元にあるメンテナンス用のタブレットに文字を入力し、それを返答にしている。
なぜなら、彼女達の居る場所では
深夜の夜空、多くの「哨戒機」が飛び交う
《その最も進んだ先には、世界に数台しかない「
《貴方はそうではないと?》
《私は謂わば「併用型」です。普段の会話インターフェイスや、情報の統括は1台のメインAIをベースに行っております。が、戦闘時や緊急時は、個々にある簡易AIと周囲の個体の「戦術ネットワーク」を利用し行動する仕組みになっています。その間のメインはネットワークの管制を担当します》
「屠龍」からの音声は、ほむらの頭に付けたヘッドホンを経由して伝わる。
画面上には「エフエー」のチャットも展開されているため、ひどい風切り音の中でも相互の会話には先ず困らない。
彼女の前方には「屠龍」が装甲の一部を開くように動かした簡易の風除けも出来ているため、画面を見ることには苦労しない。
……と言っても、一切機材に触れていないのにポンポンと表示される「エフエー」のチャットは異様に速く、その返答には結構苦労しているが。
『メインは戦場に出さず、ネットワークで繋ぐことでコストを抑える。敵に電波障害を起こされても、此処の簡易AIや他の「屠龍」との交信で補う。SFでよく言われる「AI兵器の弱点」ってのは、この「屠龍」には通じない』
《ま、流石に何も影響がないとは言えませんが。パワーダウンはあれ、即戦闘不能レベルの被害にはならないでしょう》
チャット上では綺麗な文章になる彼女の発言と、「屠龍」の音声がほむらに伝わる。
その何方も共通しているのが、それぞれネットワーク状の「交信能力」を持っているという点。
「エフエー」曰く、「屠龍」に対して彼女に与えられた権限を利用し、本来の任務に便乗させて、二人の移送と並行し、出来る限りの情報を「メイン」の記憶領域から引き出させているらしく、この会話はその一端なんだとか。
『一方で、同様に
「……?」
《有り体に言えば、「暴走」です。生命の
ふと、彼女は数日前の顛末を思い出す。
文化センター内で暴れ回った「セイクウ」という名のバッタの怪物、アレも確か「不正使用」による「暴走」が原因と「エーワックス」は言ってなかったか。
《言ってる事が矛盾しているように思えるのだけど。生命の機能をコントロール出来ないなら、どの道「
《ええ。だから、
言っている意味が掴めずにいるほむらの困惑した様子を知ってか知らずか、饒舌な「機械」は喩え話を始めた。
《疑問に思ったことはありませんか? 肉食動物は、何故
《いきなり何を言っているの?》
《質問を変えましょうか、人間は何故
答えないと話が進まない、とでも言っているつもりなのだろうか。
ほむらは答えを考えてみて、ふと、今までそんな事を気にしてもいなかった事に気づく。
「偏った食生活をせずに、満遍なく栄養を取れ」とは良く聞いても、それが何故か、と言うことにはまるで意識が向いたことはなかったのだ。
《人間に必要な栄養が肉だけでは補えないから、でしょう?》
《その通り。ですが、ライオンは? 猫は? 彼等は肉食です、食の殆どを肉だけで補って暮らしています。彼等と人間では、生命に必要な栄養が違うのでしょうか》
《私は学者じゃないのよ。其処までは分からないわ》
《なら、正解を挙げましょう。 答えは、
《成程ね。で、それがどう繋がるっていうの?》
《こう繋がります。……これを踏まえて、肉食動物の中では
ひんやりとした感触が背中を伝う。
それは、夜空の寒々しい空気がもたらしたもの、だけではない。
《植物の中には、種を作るために必要な受粉を蜂に行わせる生態が有名ですが、これもまた
群体生物。
草食動物や人間が生き残る確率を増やすために、複数の個体が集まって作り出す「群れ」とでは訳が違う。
同化、またはそれに近い高度な連携で、全体で一つの生命のような動きを見せる生物。
《当然、例え「生命機能」を細分化したとしても、全てを同時に制御するのは不可能です。生命として存在する限り、宛ら「奪われた機能を取り戻す」ような変化、再生、進化を遂げるのは必定でしょう。……では、――》
その時、ほむらの脳裏にフラッシュのように「何か」が降りてきた。
「発想を逆転させる」、目の前の機械の言葉が何周も何周も、思考に降りてきた「何か」を囲むように巡る。
それが「何か」を削り取り、少しずつ意味のある「形」に整えていく。
いつしか、周囲を回っている言葉が、機械のソレでは無くなっていた。
それ以前に耳にした、感情のこもった声に変わっていた。
――考え方を少し変えれば良いんだよ――
初めて「怪物」と対面した際に発した「彼の言葉」に導かれて、ほむらは思わず声に出していた。
「
《……おや、面白い発想をしますね。「お見事」です》
傍らで、小さく何かが動く感じがする。
声を聞き取ったらしい「エフエー」が驚いて、思わず身動ぎしたのだろうか、とほむらは思う。
《「命」という形で存在する限り制御が不可能であるなら、最早「命」である必要はない。神経組織、筋繊維、臓器、これら
最初の謎かけが、ここで漸く解けた気がした。
「生物兵器」は世界的に禁止されており、特に「B.O.W.」であるなら言語道断、というのがこの世界の認識であるらしい。
だが、例えその「技術」が使われていようが、「生命」であるとは思えない程切り刻まれた「機能」を組み込んみ、その能力を獲得した「機甲兵器」は、本当に「
使われている生体部品をそのまま野晒しにしてしまえば、冷蔵庫に入れずに放って置いた生肉のようにあっと言う間に腐り果てる。
それを単に「物」と見るか「生物」と見るか、恐らく「屠龍」を前にした人間達は物議にふけるだろう。
「物」であるならば、これは「生物兵器」ではなくただ「有機部品」を使った「ロボット兵器」だが、「生命」と見ればこれは「
……何方とも言えない「グレーゾーン」、それを境に世論が二分されてしまえば、其処からは早い者勝ちだ。
「機械」として受け入れた陣営が、「合法的」に「生物兵器」の力を手にすることになる。
「強者」と「弱者」、その差を
永遠に付きまとう「
「……狂ってる」
《最初に大西洋を渡る気になったコロンブスだって、皆から狂ってると思われただろうな》
虚空に小さく呟いた言葉に、「エフエー」のチャットが間髪入れずに飛んできた。
どう理由をつけても間違っているとしか思えない、なのにまるで反論の根拠を見出だせない。
そもそも、反論した所でどうなる訳でもない。
現に「屠龍」は此処にあり、そして世界に売り出されるのだろう。
「ネットワーク」という言い方をするように、そもそもこの一体だけというのではない筈だ。
果たして、今何体の「屠龍」が、この世界の何処で稼働しているのか。
《フォローになるかは分かりませんが、「屠龍」は
二人を見かねたのか、「屠龍」はそんな一句を添えてきた。
だが現在、ほむらは兎も角、「エフエー」ですら彼女の「上」に、つまり「屠龍」が従う「正義」の思惑にやや離反気味の行動を取っている。
「エフエー」は「向こう」の捕虜になっていた事実を逆に利用し、意図的に「上」との間に通信遮断を行っているらしいが、この「屠龍」は今も相互のネットワーク、そして「メインAI」と繋がっている。
下手すれば自ら姿を晒す様な事にもなりかねない、そんなリスクを払ってまで彼女が「屠龍」と合流したのは、何も「屠龍」という脅威の情報を得る為だけではない。
《しかし、「機能不全」ですか。私と合流出来たのは幸いでしたね》
『今後も考えて、早急に自陣に戻って解決したい。お前の任務を邪魔するつもりはないが、出来れは
何気なく、さらりと流してきたが。
そもそも、今日本の、特に関東一帯の上空は戦時中の如き警戒態勢が敷かれているのである。
だが、この「屠龍」は
傍から見れば、明らかにおかしな状態にもかかわらず。
抜け穴を使う訳でもなく、堂々とその姿を空に晒している。
《分かりました。任務上「本社」に立ち寄るのは不可能ですが、一先ず
『そうさせてもらう。「彼女」の対応もあるからな』
「エフエー」の口元が会心の笑みに歪むのが確認できる。
チラリと此方に視線を向けた彼女に、ほむらは小さく肩を竦めて答えた。
タブレットのキーをタイプする。
《一応、
『全く、
単純に、双方から片方へと敵が少なくなるだけではない。
これは同時に、「此方側」が使っていた「裏道」を、彼女達もまた使える事を意味するのだ。
裏道が分かれば、其処から更にその道の「意図や目的」も見えてくるだろう。
更に、「寝返った」という事実を「上」が知れば、何かしらの反応も帰ってくるだろうし、反応が帰って来さえすれば其処から「上の状態」を知る手がかりを作れる。
現状殆ど情報がない「上位個体」の情報も掴めるかもしれない。
裏切りの動機についても、今彼女が「向こう」から追われる身である事を利用できる。
そもそも、彼女自身は始めから彼等の味方であると言う訳ではないし、ぶっちゃけ自身の目的さえ果たせれば何方の陣営に居てもおかしくない存在である。
例え直ぐにバレる嘘であってもこの「片道」だけでも通じれば、いや、最悪「連行」という形でも良かった。
何故なら、「屠龍」の行く先、其処が今の二人の「目的地」なのだから。
・茨城県、旧鹿島郡付近。
到着は明け方になった。
人気のない港の一角に、一体の「屠龍」が降り立つ。
背中の二人が降りるまで待ち、動かしていた装甲を畳んだソレは、相変わらず滑らかな音声で話した。
《では、私はこれで。連絡を取るのなら、此処から西にある事務所を訪れるといいでしょう》
背を向けて、建物の向こうへと消えていく「屠龍」。
あんなものが堂々と動いていける辺り、この一帯は「アイツ等」の私有地みたいなものなのかもしれない。
その背を見送ったほむらが視線を戻すと、「エフエー」は「屠龍」とは違う向きへと歩き始めていた。
西側に有る事務所へ向かう動きではない、寧ろ東側、海岸の方へと向かう動きである。
一々目的を聞くような真似はしない。
ほむらにも、既に見えていた。
「エフエー」の背の向う側にある、100mを超える全長の巨大タンカー。
海岸に横付けした状態で停泊したまま、だが一切の人の気配の無いソレに、彼女は向かっているのだ。
ほむらがその後を追う。
すぐ間近まで進むと、タンカーの威圧感を持った黒い船体が視界全体を埋め尽くす。
東側から登り始めた太陽も殆ど船体に隠れてしまって、今二人のいる場所は完全に影になっている。
それが合わさり、まるで幽霊船の様な不気味な印象をほむらは感じていた。
『
声に再び目を戻すと、「エフエー」は船体の一角、丁度船首の付近に目を向けていた。
そこには英語で白地のマーキングがされていて、何処の所属の船かが一目で分かるようになっている。
それだけなら、何も不審な部分はない。
「貴方達の船なの?」
『
「W.H.Merritt」と書かれたマーキングに頭部の2本の金毛も向いている。
一方で、その状態のまま「エフエー」は片手でほむらの手に残っていたタブレットを示した。
画面の表示に目を移すと、何時の間にか数件のファイルのアップロードが成されている。
彼女の仕業、という訳でなく、恐らく「屠龍」に出させたデータの一つなのだろう。
その内の一つを「エフエー」に指示されて、言葉通りに彼女が開いてみると、英字で書かれた大きな表のような物が出てきた。
彼女の理解できる範囲で辿ってみるが、どうも何かの「日程表」であるらしい。
「……船の、日程表?」
『正解。
所々に書かれている数字は日付なのだろうか。
とは言え、彼女に分かるのはその数字程度で、これ以上は単語レベルでは理解出来ても文として、情報としての形を理解できない。
それは「エフエー」にも分かる筈である。
なら何故態々見せたのか。
その答えは、最後の最後まで表を見て、漸く分かった。
「……
目の前のマーキングと表を何度も照らし合わせて、それで漸く確信する。
この表に、「W.H.Merritt」という船の項目が。
対して「エフエー」は軽く首を振って答える。
『
という事はつまり、
なのに、現実は目の前に停泊している。
エンジンの修理程大掛かりな改修であるなら、こんな風に普通の港で停泊している訳がない。
それは、「そんな風に嘘を記載してまで持ち込みたかった物があるのでは」という推論をほむらに生じさせた。
彼女の心が決まったのを悟った「エフエー」が続ける。
『
頷いたほむらは、その身を彼女の
それを見届けた「エフエー」と視線を交わし、一気に船首の甲板へと10m以上の高度へ跳び上がった。
そして直ぐに、近場にあるケーブルか何かの巻取り機の背へと隠れる。
下からでは船室に人がいるかは確認できない、故に無闇に甲板に姿を晒すのを警戒したのだ。
艦橋の方を警戒しながら、ほむらは「エフエー」に尋ねる。
「さっきの「屠龍」から船の見取り図とかは貰えなかったの?」
『
ならば、先ず目指すのは資料室、又は艦橋。
運搬物の資料があれば一番だが、航路の記録を覗き見れば、「エフエー」の知識と「屠龍」の資料とを比較して大体の検討はつく筈だ。
余裕があれば、船内見取り図から実際の「物」を見に行く事もできるが、飽くまでサブプランで良いだろう。
互いに意志が固まり、本格的に見張りの位置などを確認し始めた「エフエー」を尻目に、ふとほむらは艦橋を改めて見やる。
人気が奇妙な程にないとは言え、この船は一応赤の他人の所有物であり、「エフエー」は兎も角自分は不法侵入に近い状態だ。
一方で、この船が明らかに、「この一件」の重要な鍵を担っているのは間違いない。
確かめない事には、先には進めない。
――何でもする、確かにそのつもりだったけどね……――
『
「いや、何にも」
知らないうちに声に出ていたのだろうか、不審がる「エフエー」から目を逸らして、彼女はその続きを思う。
本当に、此処まで映画じみた事になるなんて、「場違い」にも程が有る。
・???
何処かの山奥にひっそりと立つやや大きめの施設。
普段は然程人の出入りのない、のんびりとした様子の其処は、数日前から異様に慌ただしく人が動いていた。
と言っても、何も疚しい物がある訳ではない。
と言うよりは、疚しい物を
「ええ、何度も確認していたでしょう? 我々は我々に出来る事しか出来ません。そちらが持ってきた「廃棄物」を、
施設の一角、恐らく事務室に相当する部屋で、自らの机の前に座っている男性が、険しい表情を作って電話でそんなやり取りをくり広げている。
他にも幾つもの机と椅子があるが、彼以外は全て空席だった。
「はい、はい。そうです。漸く到着しました。これで「作業」は進められます。――完了予定日ですか? 確か――」
「――3日後だ、これでやっとこさ終わらせられる」
数台のトラクターが作業場へと入ってくるのを、2階に相当する通路から作業着の男性が見下ろしている。
青色の作業着はかなり色褪せていて年季が入っているのが容易に伝わるが、一方で丁寧にシミ抜きされ、濃い色の汚れが余り付いていない。
ひょっとしたら、ここ数年は着ていなかったのかもしれない。
トラクターを見送った後、通路を歩きながら、下の階で動く人影に指示を出していく。
「セットしたら直ぐに始めろ。他社から借りてきた
通路を渡り階段を降りて行くと、作業場の奥の床に直径で50mはあるだろう巨大な穴が開いており、側面に階段が螺旋状に続いている。
彼はその階段を下っていき、底へとやって来た。
そこでも数人のスタッフが何やら作業をしていたようだが、彼を見ると手を止めて此方に寄ってきた。
「爆破の準備は済んでおります、後は機材で適度に削れば終いです」
「全く厄介なものだな。
彼が忌々しそうに見るのは、空間の中央に鎮座する2つの「物体」だった。
黒い甲殻で全身が覆われ、重機のアームのような鎌や足を天へと伸ばした「物」と、亀のような甲羅からヒトデの足のように
あの街、あの付近で死亡した2体の大型「B.O.W.」、その遺骸だった。
「多重化した
上の方で物音が騒がしくなるのが耳に入る。
クレーンか何かで、さっきやってきた機材を下ろす作業に入っているのだろう。
手持ち無沙汰になった彼は、何気なく目の前の「異形」を見やる。
これまでで既に何回も「処分」の試みがされている為か、炭の様な乾いた黒色をしたソレに油か何かの焦げがこびり付いているのが分かる。
匂いも焦げ臭さだけが漂い、それ以上のものはない。
蟹か蜘蛛のような黒い死骸は、高所から落下したらしいのか、口らしき器官から「中身」がダランと飛び出していて、それが熟しすぎたバナナのような黒い房状に炭化し垂れ下がっている。
一方でヘビの頭部をしたヒトデ状の死体は、柔らかい目や口までもが真っ黒に変色し、焼き魚のようにバリバリに硬化していた。
全く生気の欠片もないビジュアルの物体、噂では「兵器」として作られた物らしいが、死体であったとしても夢に出てきそうな悍ましい姿を見るに、間違いではないかもしれないと彼は独りごちる。
そんな時だ。
「ん?」
そのヘビの頭部を見ていた時、複数ある頭の一つのすぐ近くに、何やら紐状の物体が転がっているのに気付く。
近付いて手に取ると、それは黒い30cmくらいの固く硬直化した紐のようなものだった。
片側の先が二股になっていて、内側に炭化した突起物が生えている。
間違いなく、それは焼け焦げた小さな
――「処理」に巻き込まれたのか? でも何だってこんな場所に……――
不思議そうに彼は首を傾げる。
その後姿を、