・貨物タンカー「W.H.Merritt」、船内。
船底に穴でも開けられたのか大規模な浸水の始まったエンジンルームだが、水かさが3mぐらいの位置で不意に止まっていた。
何かしらの対抗策を打っているのか、或いは気付かない間に水底に座礁したのか。
ほむらの記憶では、船は港の岸に停泊していたはずである、予想としては後者が正しいのかもしれない。
そんな事をふと考えながらも、彼女の視線は水中に向いている。
此方の警戒に気付いているのか、先程から水に潜った「エフエー」の動きが全くない。
図らずも、お互いに様子を伺う構図になっていた。
そう、
――......でも、それは彼女の「力」を思えば、不自然な選択になる――
思い返す、数日前の騒動を。
場に流される様に共闘した時とは、今の彼女の
――向こうには
彼女側の意図した「手抜き工作」の可能性はまだ捨て切れない。
それでも、そうとしても明らかに「奇妙な行動」を、ついさっきも彼女は取っていた。
――飛び上がってからの
幾らなんでも、みすみす相手の利になる行為をあからさまにやる様な性格には思えない。
ほぼ勘だが、今この時にも何処かから「監視」があるだろうし、そうでなくても、あの逃走劇にも必死の隠蔽というか、
もっと違う理由が、根本的な理由があるとした方が自然だ。
――破壊力が大き過ぎる、としても船体を沈めるのに抵抗はない様子だし、「船への被害を考えている訳ではない」と見て良い。そうすると、考えられる理由は......――
睨む視線に凄みが生まれる。
難解なパズルが埋まり始めた時に似た、奇妙な興奮を隠すことなく、ほむらは己にしか聞こえない程の声で無意識に呟いた。
「
恐らくまだ誰も知らないだろう、彼女の明確な「弱点」。
形態や思考形式ではない、純粋に生体としての「弱さ」。
浅瀬の生物が深海に放り出されたら、水圧だけで潰れるみたいな。
アザラシやアシカを、砂漠に投げ出せば瞬く間に干上がってしまうような。
生きとし生ける者が持って当然な、
――この船の何処かにあるそれを見つけ出しさえすれば、この戦いを終わらせられる筈......――
ほむらの紫の瞳が少し遠くを映し出す。
そう、早く
何も生まない、何も残さない、本当は望みもしない、だけど避けられなかった戦い。
......それを少しでも早く終わらせれば、きっと、
その思いを知ってか知らずか。
出し抜けに、視界の端に水飛沫を捉えた。
「っ!」
反射的に半身を反る様に曲げた、その脇を何かが高速で掠める。
背後で響いた甲高い金属音から察するに、恐らく細い鉄パイプを投げてきたのか。
飛沫の上がった付近を睨むが、既に彼女の影も形もない。
だけど、また一つ、手掛かりがそこに残されている。
――
息を飲んだほむらが、改めて付近を目視する。
ただ、見ているのは
――......そうだ、彼女の力は「電気」。水の中でそれを利用した攻撃は出来なくて当然! 攻撃が届かないのはお互いに一緒なんだ......――
だが、再び別の謎がほむらに付きまとう事になった。
そもそも、彼女の力を封じる浸水は
――自分で自分の強大な力を封じるなんて、幾ら私を障害物から追い出したかったとしても、余りにも採算が合わない。もっと違う理由がある筈だ――
まだ、気付いてない事がある。
電撃を放てない環境に置かれても、手を打ちたかった「何か」がある。
それは彼女にとって苦渋の決断だった、とほむらは信じたかった。
そうと思わなければ、まだ「隠し球」があると怯える羽目になったかもしれない。
再び、今度は視界の端の更に向こう、死角の位置から飛沫の音が響く。
先に比べて
直後に、今まで足場にしていた機械が、大きく伸びた白い髪の束を叩き付けられ空き缶のように縦に潰されていた。
――そういえば、向こうはどうやって此方の様子を伺っているのだろう――
足元の水の事を一度脇にやり、ほむらの思考はひとつ前の疑問に戻る。
視界を持たず、音や匂い、その他の五感だけでは説明がつかない異様な精度を持つ感覚。
先程から全く、
音や光は屈折し、匂いも遮断されるこの状況では、やはりレーダーのような「電波」で此方を探っているとしか思えない。
なら、
遠い記憶を頼りにほむらが盾の裏から引っ張り出したのは、スプレー缶のような形状の小型の手榴弾だった。
アルミ箔をばら撒き、無線やレーダー波を乱反射させて一時的な機能障害を起こす兵器である。
......実は、何処ぞの基地に侵入した際に、兵器の種類に対しまだ不勉強だったほむらが誤って持ってきた物を、何となく捨てずに保持していたのだが、まさか陽の目を見る事になるとは。
アルミ箔まみれになった魔女の姿をふと思い出し、苦い表情になったほむらは、安全ピンを引き抜くや部屋の中央に向かって放り投げる。
直後だった。
水中から突き出した白い柱のような物が、投げられたグレネードを捉えて、素早く水中に引きずり込んだ。
くぐもった爆発音と軽い水柱が上がるが、アルミは水に阻まれ殆ど拡散しなかった。
――水中に持っていった? 電子障害を恐れたなら、やはり......!――
何かしらの効果は望めると見たほむらが再び取り出そうとするが、それを阻止しようとするかのように再び現れた髪束がほむらへと伸びていく。
足場を捨てて跳びあがったほむらに対し、途中で向きを変えた髪が空中のほむらを追い掛ける。
更に本体の「エフエー」までもが水面近くまで浮上して、ほむらの後を追跡し始めた。
その白い影がほむらの視界端の波間に揺れ、眼前には広がった髪が此方を絡め取ろうと迫る。
あと少しで追い付かれる、その直前にほむらは真横にチャフグレネードを投げた。
足に巻き付こうとした髪先が、僅かに迷う様な動きを見せる。
が、直ぐ様翻してチャフグレネードを掴み、そのまま壁へと押し付けた。
だが、勢いが有りすぎたのか、大小のパイプの張った壁を破壊して向こう側まで先が突き抜けていく。
――余程、撒かれるのが嫌みたいね――
半ば破れかぶれの陽動だったが、ひょっとしたら、彼女にはただ「目」を奪われるだけの事ではすまないのかもしれない。
別の足場に辿り着き、ほむらは破壊された壁を横目に眺めていると、引き抜かれた髪束が水中に戻り、穴の向こうが見えるようになった。
と、その向こうに、何か大きな物が置いてあるのが見える。
「何か、幾つも積んである?」
黒っぽい樽のような、液体タンクに見える物体が山のように積み上がっている。
もう一つの「疑問」がほむらの頭に浮かぶ。
ひょっとして、アレが彼女の「弱点」なのだろうか?
惹かれる様に足を向けた、直後だった。
穴の手前の水面が大きく盛り上がり、下から「エフエー」が飛び出してきた。
本体ごと飛び出した彼女は、まるで穴を塞ぐ様に中空に浮かぶ。
長い白髪は蜥蜴の尻尾のように浮かび、背中からは骨組みの様な一対の翼から、蒼光を放つ白い煙をロケットエンジンのように真下に吹いていた。
此処に来て、本体が態々水中から出てくるという事は、最早答えが見えたものである。
あのタンクの山が、きっと彼女にとっての重要な「何か」だと、今なら確信出来る。
そうすると、一先ず彼処に辿り着くのが目標だが、問題は手前の「エフエー」である。
本体が出てきた上、恐らく「電気」に類する遠距離攻撃をやってこないとはいえ、素の身体能力や手足や髪の変形でも十分すぎる戦力差を生む。
だが、敢えてほむらは真正面から挑む事にした。
彼女の予想が正しければ、この作戦は
『......?』
心なしか、「エフエー」の眉が片方だけ少しつり上がった気がした。
此方が何かを意図しているのか、ただの向こう見ずかを判断しかねている様子である。
だが向かってくるのに対抗する為に、次には指先を刃に変形させて此方に飛び込んできた。
互いの距離が一気に狭まった事で、その手の刃が、揃えた人差し指と中指の第二関節から先が融合する様にして形作られているのがハッキリ見える。
彼女の刃の射程がほむらに届く、その直前になって、やっとほむらは
その手に握られた物に、「エフエー」の意識が向く。
それは大体15cm前後の、円筒形の機械だった。
見た目で言えば、持ち手の太いダンベルというのが近いか。
側面の小さなスイッチや、本体の隙間からはみ出た導線や基盤、点灯した小さな豆電球が無ければ、さしもの「エフエー」も困惑したかもしれない。
だがこの局面で、まさか子供のオモチャを出す訳は無く。
そしてまた、「エフエー」はある種の戦争専門家の側面もある。
その気にさえなれば
――そう。貴方の想像通り、これは手製の爆弾よ――
手榴弾よりも爆発力は強く、中に
ほむらの、ある意味
その途端、「エフエー」の顔付きがさっと強張るのが一目で分かった。
――だから、例え貴方でも、
そう、それは本の僅かな迷い。
少しでも「魔女」に対する知識があるなら、そんな無駄な事を予めする様な事はあり得ない、と看破されたかもしれない。
だから、ここで一気に畳み掛ける。
そう思い、ほむらは全力で「エフエー」に飛び掛かった。
掲げた爆弾を、しっかり握って突き出したまま。
その狙いは、
「
『――っ! あッ!?』
あれ程、感覚を奪われる事を嫌がる彼女の事だ。
頭の上で、これ見よがしに揺れる
そして、完全に不意を突いた。
「
「
だが、怯んで棒立ちにはならないのは流石だと言うべきか。
既に応戦には間に合わないと悟ったか、
まるで、糸が切れた人形の様に真下に落下する、その先は先まで彼女が頼りにした水面が待っている。
恐らく、ハッタリの威圧で動揺を誘った苦し紛れの特攻だったのか。
それとも、爆弾に無理にでも対処させる事で、「本命」を零距離でぶつける時間を稼ぎたかったのが狙いなのか。
どちらにせよ、その両者が失敗に終わる。
ほむらは自身の爆弾で自爆し、「エフエー」への被害は水の壁で軽減される。
そう思った「エフエー」だが、直後に
そもそもの話。
あの爆弾は、
数秒後、壁の「穴」の向こうの浸水していない床に、無傷でほむらは降り立った。
右手に握った
爆発しない事を除けば全く同じ、いわば
魔女相手には全くの無意味だが、逆を返せば
――いや、この世界にはもう一つ
勢いで作ったが、結局使う事自体を嫌っていたそれを盾に仕舞うと、ほむらは目的の物に目を向けた。
所狭しと並んだ黒いドラム缶の山。
その一角に近付き、表面のラベルを指でなぞる。
記載は英語で、彼女には殆んど読めない物だったが、辛うじて幾つかの単語は拾えた。
「......
ラベル端にあからさまに「火気厳禁マーク」があるのをみても、恐らく工業用、それもこの船の
「これをあの子が嫌った? ......何かマズイ成分がある、そんな特殊なものなの?」
そんな風に考えそうになったが、直後に自ら否定する。
もっと、単純で根拠の強い理由がある。
「......ひょっとして、油その物じゃなくて「
思い返せば、ライフルの銃撃やヘリの機銃掃射を浴びても速度低下しただけで、墜落等の大きなダメージは皆、「爆発」が原因であった。
そして、その後の竜二との戦闘。
人間場馴れした怪力や、刃の付いた尻尾の攻撃を喰らった彼女だが、大して消耗した素振りは無かった。
むしろ、彼女の足を引っ張ったのは
そして、此処にある大量の
これが一気に爆発してもかなりの衝撃になるだろうが、ほむらの予測なら
衝撃で撒き散らされた油による、急速に広がるだろう
それが彼女にとって、何よりも苦手な「環境」だったのだ。
「......、」
「弱点」に至って、だが、ほむらの表情はうかないものだった。
その理由は、逆に
「結局、八方塞がりじゃない......」
とっくに先手は打たれていた。
気付いた時には、もう無意味な物だった。
寧ろ、此方の手の内を明かしただけ、損しか残ってない。
こうなれば、最早自棄だ。
「油は水に浮く。水面一帯を覆って火を付ければ、向こうは安全地帯から出られなくなる!」
実際は船体に再び穴を開ければ簡単に逃げられるのだが、もうそんな事は考えてもない。
手近なドラム缶を動かし、入ってきた「穴」から水面に投げ込もうと顔を出す。
「っ!?」
血の気が引く様な恐怖を覚えた。
「エフエー」は「穴」から30m近くも距離をとり、パイプや機械に姿を隠されながらも、その瞳はしっかりと「穴」の縁に立つほむらを捉えていた。
「穴」から離れなければ。
本能的な判断に身を委ねる直前、
それは、奇妙な「音」だった。
甲高く、それでいて妙に重苦しい、聞いてはいけないような悪寒を感じる「音」。
おおよそ、あらゆる騒音と似て付かない、聞いた事もないような「音」を、だがほむらには
『
気付くべきだった。
態々、ほむらが「穴」に注意を向けた瞬間に、
考えておくべきだったかもしれない。
安全地帯を作った今なら、
そして、結果論ではあるが。
――やられた! よりによって、
穴から離れる時間は無い。
壁の向こうに逃げても、壁越しに撃ち抜かれるばかりか、その向こうの油に引火するのは確実だ。
寧ろ、それが彼女の「狙い」なのだろう。
逃げ場は、ない。
――いや、
四の五の言っている暇は無かった。
「青い光線」が放たれる、その直前にほむらは「其処」に飛び込んだ。
そして、
ほむらの身体は、
......何度か、確実に意識を失った。
洗濯機の中の衣服のように上下左右に激しく撹拌され、その度に激しく身体を打ち付けられ、何度も昏睡と覚醒を繰り返した。
全身が鉛の様に重く、目の前の左手が有らぬ方向に曲がっているのが見える。
正直、痛覚抑制以前に感覚が麻痺していて定かではないが、多分、全身のあちこちで骨が逝った気がする。
下手すれば、内蔵さえも破裂しているだろう。
視界が何処かぼんやりと赤いのは、充血なのか、全身の出血によるのか。
そもそも、今どんな体勢なのか。
――ッぐ!?――
そんな時に、急に息苦しさを感じる。
水中に沈んでいるのだろうか、まともに呼吸が出来ない。
魔法少女なので呼吸しなくても死にはしないが、ソレと実際の生理現象とでは訳が違う。
それに、魔力を此処で消費するのも惜しい。
水面から顔を出そうと藻掻くと、右手は奇跡的に打撲だけで済んでいた事が分かる。
それと、膝までは無事の左足を使って、何とか這い上がれないかと動かす。
が、服の一部が引っ掛かっているのか、中々浮上していかない。
息苦しさと焦りが、次第に頭を埋め尽くす。
その時だった。
「......?」
ぼやけた視界に、何か「光るもの」を捉えた。
チカチカと瞬くそれは、手の動きで撹拌される程に小さく軽いようだが、一個や二個ではなく、幾つも有るように見える。
――何か、ある? 水の中に......――
思い切って、ほむらは魔力で視界を補正する事にした。
最初に視力を矯正した感覚を思い出して、一旦瞑った目を開けると、水の中の様子がはっきりと分かった。
「エフエー」の砲撃、及びその誘爆の影響で、水面から上は真っ赤に染まっているのが見える。
丁度、壁が大きく窪んだ所に身体が収まっている所為か、水面からの光で物陰の陰影が強くなっているのが見て取れた。
そして、「ソレ」はその「影」の部分で特に、
「光」、その物は非常に弱い。
影の部分でないと、はっきりと見えない程に。
だけど、まるでプランクトンのように小さい「ソレ」は肉眼で確認できるだけの光を放ちながら、水の中を漂っていた。
一個や二個ではない。
数え切れない程の数が、ふよふよと漂っている。
それは、まるでダイヤモンドダストや、宇宙に浮かぶ星のようで。
とても幻想的で、こんな状態のほむらさえも、思わず「美しい」という感想を抱く程の、現実離れした光景がそこにあった。
息苦しささえ忘れて見守っていると、その「光」に動きが生まれた。
光から更に小さな「線のような光」が生まれて、水中を飛ぶように伝わったそれが、他の光に当たったのだ。
すると、その光がまた別の光に向けて「線」を放ち、最初の光が更に違う光に「線」を放つ。
其処からは、宛ら
流星群もかくやという数の「線」が視界中で飛び交い、「火花」のように瞬く。
こんな状態でなければ、心を奪われていたとしても可笑しくなかっただろう。
考える事を忘れかけたほむらを、だが
「――っ!」
視界の奥に、ゆったりと遊泳する「影」が見える。
此方の状態を既に知っているのか、急ぐ様子もなく此方に向かってくる、「白い影」がはっきりと見えてくる。
その姿は、上の赤い光に当てられて、今は
だから、
――......え?――
見えていた。
今まで、
――...............、――
何か、とんでもない、
まるで、人間とチーターとで競争しようとするような、
―――........................あ、―
何故か、まるで走馬灯のように、今までの出来事が浮かんできた。
前のように降りるのではなく、
――“新しい世代が古い世代を支配し、それを眷属の様に操る”、「
――だから、どうか覚悟してくれ。君達が相容れるかもしれない「彼女」は、君達から
――人間はちょっと複雑なだけで、電極で神経繋いで、電流で動く昆虫の足と同じ様に所詮は
――……その腐った“正義”に吐き気がしてるから、此処に居るんだよ。「病原菌」――
――............ああ、――
それは場面も、状況も全く異なる言葉。
だけど、それらがまるで意味ある「流れ」の様に感じる。
――普通だったら、色々と言える事もあるだろう。人体実験の被検体だとか、エスパーだとか、ミュータントだとか――
――我 本懐 個体群 生存。
――当然、例え「生命機能」を細分化したとしても、全てを同時に制御するのは不可能です。生命として存在する限り、宛ら「奪われた機能を取り戻す」ような変化、再生、進化を遂げるのは必定でしょう。……では、――
「......あああああああああああっ!!!」
端から見ても動ける怪我では無かった。
それどころか、普通に致命傷になっていても可笑しくない。
なのに平然と目を開けて、腕さえ動かして藻掻いていたのには、己を忘れて「怪物だ」と評価したくなる。
『......
両手で赤子を持ち上げるように脇を掴み、壁へと軽く押し付ける。
元々、最期の抵抗も出来そうもない身体だ、一応
片目をうっすら開ける瀕死の少女は、ゆっくりと口を開いた。
「なぁに? 遺言を聞いてくれるの......?」
『
「そう......。なら、「回答」、させて? 別に「答え合わせ」は、要らないから......」
無言になった「エフエー」を放って、勝手にほむらは喋り出した。
「ずっと、貴方の「正体」を、考えてた。あんなに凄い力を出せて、生き物の意思も手玉に取れて、そして機械にすら伝えられる。そんな夢みたいな存在が、一体どんな物なのだろうって......」
息をするのもやっとで、掠れた木葉の様にか細い声。
なのに、異様な迫力が「エフエー」に纏わりついていく。
「答えは、貴方達がとっくに示していた。......貴方の言う、「
『......、』
「
顔を伏せた「エフエー」が、小さく吐息を吐いた。
それが暗に彼女の「解答」を示していた。
「「命」を紡ぐ為に必要な「役割」は、それだけを細かく切って、しかもそれを「命ある生き物」のままに、機能させる事は出来ない。......でも、例外がある。それが「群体生命体」。
ほむらの瞳は、ずっと「エフエー」に向けられていた。
その眼差しに、侮蔑や恐怖は塵一つない。
純粋な「驚き」と、「敬意」が其処にある。
「ただ群れるだけじゃない、それぞれの役割を完璧に全うして、完全に一体化する。......しかも、
少しだけ息を整えて、ほむらは続ける。
「
『......、』
「どうやって、機械に干渉するのかは分からないけど、貴方達が電波や電気を通じて、交信し合う事から来てるのかもね。例えば、「オリジン」が
『......
「
もう、良いだろう。
静かに、周囲に青いバリアを張ろうとする「エフエー」。
「水の中で「ボソン・ドライブ」を撃たないのも、今の今まで
『......ッ!?』
「その青いバリアだって、きっと
顔を上げた「エフエー」の「触角」が動く。
青い目を真ん丸に見開いたその顔は、恐らく今までで初めて作った表情だっただろう。
「だから、やる事は一つだけ」
どうやって隠していたのだろう。
いつの間にか、ほむらの右手には一丁の拳銃が握られていた。
その銃口は真上を向いている。
何かをやろうとしているのは直ぐに分かった。
が、両手は塞がれ、髪の矛先は左腕を向いている。
盾が武器庫になっているのを警戒した、それが隙になってしまった形だ。
「ボソン・ドライブ」を止めようにも、貯めた電力は既に臨界ギリギリである。
ならば、
「
連続した銃声が鳴った。
それは、真上にあった非常用回線の電気ケーブルの本体と止め金に当り、火災の熱で脆くなったそれを容易に破壊した。
ぐらり、と垂れたそれは、丁度「エフエー」のバリアの頂点に触れる辺りまで降下、その先端が青い膜に軽く触れる。
直後だった。
非常用電灯を起動させるだけの電気は走っていたそれの、その電気が「エフエー」のバリアを伝ってほむらへと流れ、さらにその両脇の腕から「本体」に伝わった。
ほむらの身体が大きく痙攣し、弾かれる様に「エフエー」が手放した。
そして、ほむらの動作と「エフエー」自身の腕が大きく動いたその拍子に空いた穴から、
そして、
爆発に近い、強烈な「閃光」が走った。
宛ら、ショート回路に繋がったバッテリーのような凄まじい電力の放出が発生し、彼女自身から膨大な放射熱と光が放たれたのだ。
「ッう!!」
偶々、下が水上の足場だったのもあって、ほむらはそこに尻餅をついて落下する。
閃光の所為で視界が今度こそぼやけたが、直前に目を瞑っていなかったら最悪失明していたかもしれない。
熱波で皮膚にも焼ける様な痛みが伝わるが、その程度の物なら苦でもないと本気で思っていた。
咄嗟の思い付きだったが、これで何とかなっただろう。
閃光が弱まったのを感じて、少し安心した表情でほむらは顔をあげる。
其処には、翼を展開した、全身に黒い焦げ跡を作った「エフエー」が浮いていた。
その場を動かずに、ただ先程より少し胸を張るような動作をしている。
その胸が、
「......え?」
表情が凍りついた。
全くの想定外だった。
これで終わると、本気で思っていた。
『
無機質に響く声。
その声がほむらに再び恐怖を呼び起こす。
『
幸い、直ぐに思い出した。
これは恐らく、最後に「Mu.Ro.」に向けて放った、あの白い柱のような
『
......駄目だ、何も思い付かない。
止める手段が何一つ浮かばない。
『
胸の中心から放たれた白い閃光が、ほむらの視界を一瞬で覆い尽くす――。