バイブ書道   作:プリン

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バイブ書道 9

同〇七二〇 工廠 明石

 

 朝の工廠。普段だったら、工廠が稼働し始めたら味わえない落ち着の中、施設を点検したり、改修の予定を確認したり、お茶っ葉を粉末にする機械の実験なんかしてるんだけど。

 

 今日はどうしてか、提督と朧ちゃんがやって来てて。

 

 そして、こういう「珍しい」は大抵普通じゃないことで。

 

「カニさん、カニさん……」

 

 朧ちゃんは普段の落ち着きからは──まあ、演習のときの気合の入れ方を見るに、いつだって、胸の内で溶けた鉄みたく煮えたぎっているものがあるのかもしれないけど。とにかく、感情的になる印象は無いから、こんな風にうろたえてると、ただごとじゃ無いのはわかります。

 

 隣に居る提督もなんだか難しそうな顔してますし。まあ、提督、最近はいつもこういう感じだけど……。

 

「大丈夫だ、焼けても死なないんだ、甲羅が割れたくらいじゃ……」

 

「甲羅だけじゃなくて、全身くまなくぼろぼろです! 焦げようが、関係なく元気に動いてたのに、こんな風に、なんで……」

 

 え、やっぱりカニの不具合? うーん、私の所に来るしかないのは仕方ないんだろうけど……。まあ、見てあげるしか……。今回は「診て」なのかな。まあ、艤装関係だしなんとかなるでしょ! 

 

「うわぁ……何やったらこんな風になるんですか……」

 

 間近に見ると、作業台に乗った蟹はほんとうにめちゃくちゃに……小石がぶつかったガラスみたいに、ヒビだらけ。演習で弾が直撃したってところか……。

 

「カニさん……あたしの為に……」

 

 朧ちゃん、あの蟹本当に好きだったんですね。駆逐艦にしては落ち着いた子だから、生き物が好きなんて可愛いところあるじゃん、なんて思ったりしたけど……それにしても蟹ってところはやっぱり朧ちゃんらしいというか。犬を撫でまわしてるところなんて想像できないし、かといって猫に振り回されてるのもあんまり似合わないというか。鳴く生き物も、媚びる生き物も違うとなると、爬虫類とか、そういうのよね。

 

 だから、好きなんだろうな、とは思っても、そんな溺愛してる風はなくて、見てて可愛い、くらいの「好き」何だろうと思ってて。普段只事じゃあびくともしない蟹がこうもボロボロになったことも驚いたけど、朧ちゃんがあたふたしてるのが変というか。

 

「朧ちゃんのために?」

 

「バーベルの下敷きになりそうだったあたしを助けようとして、バーベルを支えたら、爆発して……」

 

「はい?」

 

 蟹が爆発? 

 

「朧が混乱するのも無理はない。俺が引き継ごう」

 

 いや、きっと本当に混乱してるんでしょう。目撃した第三者なら冷静な報告が……。

 

「ベンチプレス中、朧が手汗でバーベルを滑らせた。そのままではバーベルを取り落として潰されるところだったんだが、その蟹が受け止めて持ちこたえた。そしたら蟹が爆発した」

 

 前言撤回。全然わかりやすくない。

 

「明石さん、治りますよね、カニさん」と詰め寄ってくる朧ちゃん。いや、そんなのわからないと言いたいところですけど、こうも懸命だとそうもなかなか……ねぇ……。

 

「なんとかならないか、明石。入渠すればだいたいなんとかなってきたじゃないか」

 

 提督まで……。

 

「それはそうですけど……。ご存知ですよね? 入渠して治るのは艦娘の体だけで、艤装は妖精さんの手作業で修復してるんですよ」

 

「え、艤装も修復剤ぶっかれば治るんじゃないのか?」

 

「治りません。あれは妖精さん達の一部に持ち場を外れてもらって、修復剤の霊的なアレでなんとかしてるんです」

 

 提督、興味深げな顔してるけど、これまで知らなかったってこと? 

 

「じゃあ蟹もなんとかしてくれよ」

 

「やってみます。やってはみますよ? でも、蟹が朧ちゃん本体の一部または付属品なのか、それとも艤装の一部なのか、よくわかりませんから、何からすればいいのやら……。朧ちゃんはとりあえずお風呂に入ってもらって、艤装と蟹さんはこっちでできることを試してみましょう」

 

 いち早く試したいのか、私が声をかけないうちから「じゃあお風呂、行きます」と、作業台を離れる朧ちゃん。工廠の扉を閉める前に一言、「カニさんを、どうか、どうかお願いします」と残して行った。数十秒時間を取ってから、提督が尋ねてくる。

 

「で、なんとかなるのか」

 

「……朧ちゃんの様子。見てて私も辛くなっちゃいます。それに、朧ちゃんにとっては物心ついてから一緒の家族みたいな存在なんでしょう。やれることは全部やりますよ」

 

 そう。私は鎮守府でたった一隻の工作艦。破損や負傷のことで彼女が頼れるのは私だけ。工作艦明石の本領、お見せします! 

 

「じゃあ早速、蟹にとりかかります」

 

 そう独り言つと、提督が大破(轟沈?)した蟹に手を伸ばすので、空かさず止める。

 

「提督は触らないで下さい!」

 

「なっ……? すまない」

 

「申し訳ありませんけど、艦娘の戦いに手出しは無用です」

 

 そう、これも艦娘の戦い。提督が介入できないのは、仕方がないことです。

 

 

 

 

 お客さんたちが居なくなって、静けさを取り戻した工廠。やっぱり、こうでないと頭が開発態勢になりませんからね。そんなことを考えつつ、手をゴム手袋に嵌めます。金属と機械油の匂いの中でも、ゴムの香りが鼻孔をくすぐります。

 

 ゴム手袋越しに甲羅をつついても、ぴくりともしない、蟹。割れた甲羅が食い込むみたいで、慌てて手を放します。

 

 さて、どうしたものか。考えるまでもなくおもいつくのは、高速修復材。蟹が紐づけされているのが朧ちゃんなら、朧ちゃんを回復させればこの子も治りそうです。でも、実際は別個の存在なのかもしれません。とりあえず、高速修復材のバケツに突っ込んで様子を見ます。

 

 ……確かに、朧ちゃんの蟹の耐久性は異常です。撃たれても、焼かれても、絶対に死にませんでしたから。そもそも、私達は深海棲艦か艦娘の武装以外では一切傷付きません。そもそも、深海棲艦に対抗するために造られたのが私達ですからね。しかも、深海棲艦から受けたダメージが許容範囲を超えて轟沈すること以外に、私達が存在を保てなくなる──人間でいう死、は確認されていません。

 

 現在確認されている蟹の不死性が私達と同様のものなら、艦娘と同じ方法、つまり艤装は補修、肉体は治療すればなんとかなるはずです。だから、これで。

 

 そんなことを考えつつも、手はピンセットだの、ニッパーだのを集めます。「修理」することにならないとも限りませんからね。にしても、建造だの開発だののときはもっと大きな道具しか使わないので、久しぶりにこれを使えるのはなんだかワクワクしますね。

 

 次の用意を済ませたら、いよいよ蟹を引き揚げます。手袋越しでも、高速修復材のひんやりとした感覚。やっぱり、蟹の甲羅は大して固くはなく、しかも軽いようで──ん? 

 

 何か動いたように見えて、大慌てで蟹を作業台に乗せます。蟹に付いていた高速修復材が床に飛び散りますが、そんな場合じゃない。

 

 蟹。どう見ても蟹。私の手のひらより少し小さいくらいだけど、磯で捕まえたらきっと大物とか思いそうな、じゃない、屈みこんで、甲羅をよく見て──

 

「ひっ?!」

 

 誰も居ないのに、つい大声を出してしまいました。いや、出さない方が居るのでしょうか。

 

 甲羅のヒビが、開いたり閉じたり……まるで拍動のように。つついても脚はぐったりしてうごかないのに、そこは音もなく動く蟹の心臓よりもその生を伝えるようで。生きています。いや、活きが良すぎます。おかしいくらいに。驚くべき生命力というか、これは、言葉をえらばなければ。そう。

 

 おぞましい。

 

 そんな言葉に思い至って、修復のときを考えてみます。

 

 命からがら帰ってきた艦娘たちは、心身にどんな重傷を負っていても──厭戦気分に飲み込まれようが、戦場の恐怖に支配されていようが、全身が筋肉痛になろうが、傷だらけになろうが──これを入れた湯につかれば、即座に次の出撃が可能になります。

 

 身体の不調をあっと言う間に治癒させ、戦意をも高揚させる謎の液体。これまで疑いを持たなかった方がおかしかったのかもしれません。

 

 それ以上に、蟹のあの様子。私達も、あんなふうに破壊されても、生きているのでしょうか。腕をもがれようと、体に穴を空けられようと。あるいは、もっと……。

 

 仮定は置いておいて、蟹です。蟹の甲羅が治らないのは──甲羅は艦娘じゃない? 

 

 まさか、いま甲羅の下でうごめいているものがアレの本体で、甲羅は艤装のようなものだということでしょうか。

 

 そういうことなら、おそらく。

 

 先ほど胸をかすめた不安は置いておいて、早く次の作業をしなくちゃ。

 

同〇七三〇 船渠 朧

 

 修理は必要です。

 

 いつもなら自分のためだけど、今回はカニさんのために。でも、本当にこれでカニさんも治るのでしょうか。明石さん、あたしを落ち着かせるためか、あたしを工廠から追い払うために指示したんじゃないかな。

 

 そんな事考えられるくらいには落ち着いてきたから、明石さんの気遣いには感謝しなきゃ。だとしてもカニさんは心配だけれど。

 

 ジャージを脱ぐ間も、考えるのはさっきのことばかり。脱衣所のこの棚。いつもだったらカニさんはここで待ってたっけ。お風呂だとむしろ元気そうだったカニさん。

 

 こんなところでしんみりしてる場合じゃない。とにかく漬からないと、お風呂に。

 

 脱衣所から浴場までの引き戸は、いつも通りガタガタと揺れる。この鎮守府も設置されて大分経つからか、それとも、皆が我先にと入っていくからか。

 

 とにかく、いつも通り妙に揺れる引き戸を開いた先には先客が。

 

「ねーねー! ほんとなの? 百数えたら戦艦になれるの?」

 

 お風呂に漬かりながら、声をかけるのは清霜。ほのかに浅葱色がかった白い髪を、後ろに縛って上げている。いつもの髪型だと前髪も後ろ髪も水に着いちゃうからだろう。武蔵さんに憧れて、いつもどうやったら戦艦になれるか聞いてついて回ってる。

 

「そうだ。戦艦は大きいだけじゃない。どれだけ攻撃を受けようと戦い抜く心もまた戦艦に必要なんだ。私や大和のことは話しただろう」

 

 対する武蔵さんは髪を流している。……こんな言い方したら失礼だろうけど、いつも逆立ててるあの髪、濡れると普通に流れるんだ……。しっかり焼けた筋肉質の体。武蔵さんもたまに筋トレしてるのを見るけど、いつも百キロではすまないくらいのバーベルを上げている。さしもの清霜ちゃんでも、あんなの見たらあたしたちとはモノが違うって諦めちゃいそうだけど。

 

「うん! 魚雷や爆弾に比べれば、このくらいへっちゃらだもんね」

 

「ああ、そうとも。だが無理はするな。戦艦になる前に斃れてしまっては元も子もない。今日出来なかったなら明日やればいい。だが諦めるんじゃないぞ。焦らず続けることが肝心だ」

 

 こんな話も目をキラキラさせて聞いてるのを見ると、清霜は諦めなそう。武蔵さんも、戦艦になれるかどうか以外はいいこと言ってるし、子供騙しをしてる訳じゃなさそう。

 

 隣に腰掛けると、「朧じゃないか。鍛錬は順調か?」と武蔵さん。「順調といえば順調、でした」と返事をする。

 

「何だ、もうやめたって訳でもないだろう」

 

 頭を揉み洗いしつつ、少々驚いた顔の武蔵さん。武蔵さんの方も、あたしがいつも筋トレしてるのは知ってるからかな。あたしもシャンプーボトルのポンプを一押しし、手のひらに伸ばす。

 

「事故というか、バーベルでカニさんがケガしちゃって、甲羅が……」

 

「バーで? 大丈夫なのか、潰れてしまうだろう」

 

 武蔵さんが、頭を洗う手を一瞬止めた。自信ありげな顔にも、すこし驚きが見える。あたしはシャンプーを髪になじませる。

 

「一瞬受け止めて、そしたら爆発しました」

 

「爆発?」

 

 清霜ちゃんが興味津々な様子で湯舟から身を乗り出してくる。でも、急にはっとした顔になって縮こまった。肩まで浸かっていなきゃ、戦艦にはなれないって言われてるんだ。多分。一方の武蔵さんは、髪に泡を付けたまま話し始めた。

 

「中身が飛び散ったのか。がん漬けのように」

 

 いや、甲羅だけです。と言うと、武蔵さんは難しい顔をしている。がん漬けって何だろ。武蔵さんは、髪を流しきると、豪華な柄のチューブから、自前のリンスかトリートメントか、何か絞ってまた髪につけた。いい匂い。花のような香り。でも、甘ったるくない、落ち着いた感じ、和風な。

 

「もしかしたらだが、それは中破なんじゃないか」

 

 中破。

 

 艤装を装着している間、あたし達は不思議な力で霊的に守られている。一般的にはそう言われてるけど、要は妖精さんのダメージコントロール。あたし達の受ける損傷を最低限にしているってこと。具体的には、被弾したときの運動エネルギーやら熱エネルギーやらをなるべく致命傷になりにくい位置にずらすとか。艤装が使う燃料は、あたし達がただ航行するだけじゃなくて、こういう操作にも使われてる。多分。そして、妖精さんが捌ける損傷の量には限界があるし、人智を超える力があるといっても、その反応速度を超える速さの攻撃には対処できない。うまく守っていても、小さな損傷が蓄積してく。そういった理由で防御が追い付かない場合、まず服が損傷していく。身体に損傷が出ないんだから、苦し紛れでもすごいと思う。

 

 それで、服でも受け止められないときは、艤装が破損していく。艤装すら受け止められなくなったとき、あたし達は、沈む。

 

 最初聞いた時は驚いた。何にって、あたしの身体より先に艤装が破壊されることに。艤装や装備と紐づけされた──憑いたと言ったほうがいいのかもしれない──妖精さんたちは、装備や艤装が破壊されたら消滅すると言われてる。それなのに、なぜ装備をボロボロにしてまで装着者を生かそうとするのか。でも、いろんな人が轟沈について噂をするのを聞いたらわかってきた。

 

 艦娘が沈んで妖精さんや艤装が残された例が一つも無いからだ。

 

 あたし達は一蓮托生。あたしと妖精さんと艤装は、三つが一つで戦いの海を越えていく。

 

 イソギンチャクとそれを背負うヤドカリ、アナハゼの巣穴を守るエビのような関係だと思ったこともある。でも、あたしと妖精さんの関係は、きっと、もっと悲壮だ。

 

「でも、カニさんはあたし自身かあたしの艤装と一体のはずです」

 

 妖精さんに思いを馳せてる場合じゃない。カニさん。そう。カニさんには身にまとう艤装は無く、それを守る妖精さんも居ない。

 

「それが誤りで、蟹は我々とは別個の存在で、我々と同様のダメコン要員を持っているのではないかという話だ」

 

 そう言う武蔵さんの髪は、さっき髪に塗ったやつのせいで、撫でつけられたように固まっています。つけておくタイプのようです。

 

「そんなの……見たこと無いけど……」

 

 いつも一緒のあたしに知らないことがあるとは思えないけど、戦闘におけるカニさんについては何も知らない気もする。現にこうして、即答はできずにいる。

 

「まあ、そう悲観しなくていいんじゃないのか。私の勘がそう言ってるぜ。現にこれまで何があっても大丈夫だったんだ。蟹を信じようぜ」

 

 そう言うと、武蔵さんはぺたんこの髪のまま湯舟に向かった。髪、と思わず声をかけると、「これはトリートメントだ。空いているときには髪を修復しつつ寛いでいてな」と答えられた。

 

「朧ちゃん、うーん、と……」

 

 湯舟に足をつけると、湯舟のへりに腰掛けた清霜ちゃんが話しかけてきた。一瞬唸って、続ける。

 

「あたしも蟹さんは治ると思うよ! 武蔵さんが言うんだから!」

 

 清霜ちゃん。純粋というか、元気というか。夕雲型の子ってなんか世慣れたというか、大人びた子が多いイメージだけど、比較的幼いような気がする。まさか、これは武蔵さんが一緒だから可愛い子ぶってるだけなのかも。なんて考えて、やめる。お風呂の暖色の明かりの下でも、その目はきらきら輝いている。騙すとか取り入るとか、そんなことはなさそう。

 

「ありがとう。治るよね。多分」

 

「多分じゃないって! 絶対!」

 

「じゃあ、多分、絶対」

 

「絶対絶対だよ!」

 

 あんまり絶対絶対と言う清霜ちゃんに思わず笑みがこぼれる。つられてか、清霜ちゃんも笑いだした。

 

「あ、そういえばさ」

 

 清霜ちゃんはしぶきを上げないよう静かに湯舟を歩いてこちらまで寄って来て、小声で聞いてきた。

 

「武蔵さんってさ、どんなトレーニングしてるの?」

 

 武蔵さんが苦笑している。お風呂場だから響いて丸聞こえだ。それに、隠すようなことじゃない。

 

「ベンチプレスとか、ダンベルとか。いろんなマシンを使うこともある、かな」

 

「嘘だぁ、武蔵さんはなんかもっと……なんかしてる筈……そんな、それだけであんな凄い体になる訳ないよ!」

 

 そう言うと、武蔵さんは遂に笑い出した。

 

「私がこれまで変わった事をしろと言ったことがあったか? 毎日の規則正しい生活と、たゆまぬ鍛錬。それが何より確かで、何より難しい」

 

 目を輝かせる清霜ちゃん。

 

「じゃあ、毎日筋トレすれば胸もそのくらい大きくなる?」

 

「ああ。これは胸筋だからな。鍛えれば大きくなるぞ。ほら、朧を見てみろ」

 

 清霜ちゃんが、真剣なまなざしを向けてくる。胸に。お風呂だし、別に恥ずかしくなんてなかったのに、なんだか変な気持ち。大きさを推し測られるのはこう、なんか……。視線を外さずに、清霜ちゃんが話し出す。

 

「……ほんとだ! あたしより大きい! もしかして、朧ちゃんも戦艦になるの?」

 

「いや、あたしは船団護衛とか遠征とかしたいから、もうしばらくは駆逐艦かな」

 

 そう答えると、絶対戦艦のほうがいいのに、砲も大きいし、耐久力もあるし、と戦艦の魅力を語り出した清霜ちゃん。「私が髪を流したら上がるぞ、それまでに飲み物を決めておけ」と武蔵さんが言うと、清霜ちゃんは、あたし武蔵さんと一緒がいい! と言いながら、武蔵さんを追いかけていった。

 

 

 

 二人が浴室を後にしてから考える。

 

 自分でない自分を求める清霜ちゃん。明るい子だから目立たないけど、この鎮守府じゃ珍しいんじゃないかな。みんな、なんだかんだで自分に誇りを持ってて、もどかしそうにはしてないから。

 

 あたしじゃないあたし、か。頑張りたいとは思うけど、あたしじゃなくなるという対価を支払うだけの魅力がある話なんてない。

 

 でも、艦娘としての在り方が無くなったらどうなるんだろう? 提督は、戦闘がなくなったら、なんて仮定を話すけど、戦いが無くなった世界にも、あたしは変わらず居られるのだろうか? 

 

「……のぼせるなぁ、このままじゃ」

 

 不意にぼーっとする感覚に気付いて、湯舟を上がる。

 

 とりあえずお風呂っていうのはよかった。武蔵さんは素敵だった。清霜ちゃんが憧れるのも無理はない。清霜ちゃんも、こんなに可愛いなんて。

 

 とりあえず、早くカニさんを迎えに行かないと。

 

 身体を拭いても汗ばむから、しばらく扇風機の前で風に当たる。今年の夏は本当に暑い。汗が引くまで待つのは諦めて、巾着袋にしまったいつものセーラー服を着る。汗が結構吸われたけど、体がきれいだから問題ない。多分。

 

 

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