バイブ書道   作:プリン

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バイブ書道 11

同〇七二七 秋雲居室 潮

 

 秋雲ちゃんの部屋。寮の一番端なうえに、一人部屋。みんな羨ましがってたけど、部屋が広く使えたり、一人の時間を過ごせたりっていうのは、そんなに大事なんでしょうか。潮はみんなと一緒に過ごすことに不満なんてありませんが。ううん。ありませんでした、というのが正しいんでしょう。バイブ書道はみんなの部屋でしちゃいけないみたいです。そういえば、七駆のみんなは部屋の使い方でいさかいを起こしたことはありませんでした。朧ちゃんも曙ちゃんも漣ちゃんも、みんなに迷惑のかかる遊びはしてきませんでしたし。うさぎさんもカニさんも、いつもお行儀よくしています。そう考えると、バイブ書道で初めて、けんかじゃないけど、何をしないで、何をして、なんて話が出てきたのかもしれません。

 

 秋雲ちゃんが一人部屋なのって、なんでなんでしょう。あの絵がよくないのでしょうか。漫画は絵の資料と言っているから、描くのをやめることになったら無理やり片付けさせられるんでしょうか。他に、何か、姉妹とうまくいかない理由でもあるのでしょうか。

 

 引き戸を叩くと、いつもの揺れのあと、「はーい」と秋雲ちゃんの声。でも、なんだか疲れてそうです。潮です。と伝えると、上がって上がって、と。

 

「はいいらっしゃーい」

 

 迎えてくれた秋雲ちゃんは、疲れているというよりは……何もしていないように見えます。というのも、いつもなんだかんだで綺麗に整えられている髪が、ところどころおでこにぺたっとくっついていて、へんな所がハネていて、少なくとも昨日はお風呂に入っていないのでしょう。しかも、下半身はパンツ一枚。そんな恰好で、座椅子の背もたれを完全に寝かせて、そこに転がってタブレットをいじっています。

 

「ごめんねぇこんな格好で」

 

「あの、どうかしたの、風邪とか?」

 

「まあ、そんな感じ? いやぁ、体調は大丈夫なんだけどさぁ……」

 

 秋雲ちゃんは、そう答えると、秋雲ちゃんは身体を起こして、一緒に背もたれも起こして、お尻を上げずに脚を組んで胡坐をかきました。秋雲ちゃんのそばに転がっていた座布団を一枚こちらに投げるので、頭を下げてそこに正座します。

 

「脚崩していいよ~。どぉせ誰も見やしないし」

 

「ううん、潮、正座が好きだから……。風邪じゃなかったら、骨折とか、そういうの」

 

「絵を描く人なら誰でもなる病気で、アイデア欠乏症ってやつでーす」

 

「あ、病気じゃなかったんですね。ほんとに病気なのかと」

 

 そう答えたとき、潮の心配が薄れてしまったのを、秋雲ちゃんは見逃さなかったようです。

 

「なあに安心してんの! 苦しいんだよ秋雲先生は! 描けない秋雲はただの秋雲! 絵は! 秋雲先生の存在証明なの! なのになのに、まるで何にも思いつかない……美しい風景も、麗しい人物も描けない……いや、描けるんだけどさ、なんか違うんだよ、なんか……。そう! 関係性が! 乏しい! いや、いくらでも口では言えるよ、先輩と後輩の両片思いとか、相手のことをすごい評価してるのに伝えられないライバルとか、頭の中ではこんなものいいな、描けたらいいな、なんて思うんだけど、その一瞬を過ぎると別に大したことないなってなったりぃ……‌あ゛‌あ゛‌あ゛‌あ゛‌あ゛‌あ゛……いっそ殺して……秋雲先生は……」

 

 なんだかよく分からないけど、秋雲ちゃん、大変そうです。

 

「あの……頑張ってください、ね……」

 

 言ってることがよく分からなくて、苦し紛れにかけた言葉ですが。

 

「う゛‌し゛‌お゛‌ち゛‌ゃ゛‌ん゛! 天使か……」

 

 この喜び方ですから、なにかストレスで心の病気になっちゃったみたいで、また心配しましたが。

 

「フゥー…… フゥー…… で、今日はぁ?」

 

 あっさり治りました。この賑やかさは、なんだか漣ちゃんと似ています。突然よくわからないことを言い出すのも、なんだか似ているような……。

 

 そうです、バイブ書道です。

 

「あの、バイブ書道。たぶん、上手になったよ」

 

「えっ」

 

 秋雲ちゃんは、一瞬困った顔になって。

 

「バイブ書道って、あの、この間バイブと合体した筆を渡した」

 

「うん。秘密って言ってたから、ちゃんと夜中に練習したんだよ」

 

「へ、へぇ~。ずっと?」

 

 こんな報告をしただけなのに、秋雲ちゃんはすごく驚いているように見えます。いや、困っているのに驚いているような。あ、みんなが赤城さんのカレーを見るときとか、そんな顔ですね。

 

「うん。毎晩五枚書いたんだよ! 最初は一杯汚しちゃったけど、今はもう、完璧です!」

 

「はえ~…………………………。あ、ああそうだ。見せてよ! せ、折角だし!」

 

 毎晩五枚って、そんなに多いのでしょうか。長くても二時間くらいしかかかりませんでしたが。でも、初めてバイブ書道を披露できます。そういえば、秋雲先生はバイブ書道の先生でもあります。潮の練習の成果、ちゃんと見せなくては……! 

 

「それじゃあ、お水、汲んでくるね!」

 

 *

 

 右側に水彩絵の具、左側に見本を置いて、いざ、発表です。

 

「あのさぁ、これ、潮ちゃんが書いたの?」

 

「はい、頑張って書きました。あ、それはバイブ書道じゃないんだけど」

 

 ずっと練習してきた字は「黒潮」です。自分の字の「潮」は絶対に書きたかったけど、一字じゃ半紙がもったいないので、一文字足しました。黒潮ちゃんに許可とったほうがよろしかったでしょうか。

 

「へぇ……普通にうまいじゃない。や、七駆のみんなから可愛い字で評判って聞いたからさぁ、てっきり丸文字なのかと。美文字じゃないの~」

 

 そんな、まだ何もしていないのに褒められるなんて、恥ずかしいよ……。

 

「いや、でも大事なのはこれから、バイブ書道、です」

 

 そう言うと、潮は制服の胸当てに手を差し入れて、隠しておいた「一八式バイブラシ」を取り出します。

 

「んっ? 今どっから出した?」

 

「内緒、です……」

 

 他の子にバイブラシが見つかると大変なので、いつも肌身離さず持ち歩いています。隠し場所はたまに変えていて、今は、胸当ての裏に縫い留めて隠してありました。でも、出撃するときに服を調べられたら、なんていつも心配ですが。あと、筆の毛が肌に直接当たるとくすぐったくて……。

 

「じゃあ、バイブ書道、始めます」

 

 緊張しますが、スイッチを入れます。バイブのお尻を、右回しに、えい! 

 

 カチ、という音がして、振動が始まります。ぶーん、とも、むーん、ともつかない唸りが響きますが、すぐにその振動に腕を合わせて、打ち消します。もう、震えはじめて一秒以内にタイミングも速さも合わせられるようになりました。ここまでは順調。

 

 これからの作業は集中の連続です。早速緊張の瞬間。墨──絵具を溶いた間に合わせですが──の中に、筆を入れます。指先でバイブの震えを感じて、しっかり合わせて……。振動する速さと揺れる大きさが完全に同期すると、震えを感じなくなります。その代わり、その振動を維持するために、最初の力加減を覚えていなくてはいけません。それを超えて力むと自分の震えでバイブの震えを飲み込んでしまって、字が書ける程度の振動に落ち着けられないからです。

 

 そう、墨を入れる瞬間には、恐れも怯えも穂先に伝えてはなりません。

 

 指先とバイブとの融和。

 

 ひと月の練習で掴んだ、潮なりの答えです。

 

 そう。黒々とした水面のように、心に湧き上がるものは全て飲み込んで。

 

 ……今です。

 

 これまで見たのと同じ光景。灰色の毛が、黒の水面に触れてできる、波紋の輪。器のへりまで広がって。止まる。墨が穂先を駆けあがっていく。

 

 まるで低速再生されたように、一つ一つの現象がゆっくり見えます。ここで細波が起きなければ同期は完璧。あとは、この力を保って字を書けば。

 

 手首がだんだんと固くなる。ずっと力んでいるのだから、当然です。

 

 でも、当然を超えなきゃ、バイブ書道はできません。

 

 すう、と、お腹に息を吸い込む。絵の具の匂い。秋雲ちゃんの部屋の匂い。

 

 ぱた。

 

 半紙に染み。余計なことを考えたのかもしれません。でも、余計な事を考えている自分がきちんと見えていれば、大抵うまくいきました。染み一つなんて、大した問題じゃありません。

 

 見本を見て、辿るべき線を頭に描きます。腕が痛い。いや。腕が痛い自分がいる。

 

 見るべきものは、角。曲がるべき箇所に、バイブ書道の肝があります。

 

 力の入る筋肉が切り替わるからでしょうか。この瞬間の力の入れ方を、紙の上できちんと調節すること。

 

 この字はさんざん書いたので、もう止めも跳ねも払いも、覚えました。

 

 一画目。紙面に着地した筆の穂先が、紙の大地に身を任せます。紙は無傷。第一関門、突破です。

 

 次は二画目の曲がり。一画目から離れた筆を、また紙につけます。前書いた線と重なる部分は弱いので、特に小さな揺れしか許されません。

 

 つまり、筆が付いたらすぐ、難関の曲がり角に突入しなければならないということ。

 

 ひと呼吸。目を閉じて、自分の心を見つめます。

 

 失敗が怖くてもいい。その震えも、震えで打ち消せばいい。

 

 そう。

 

 うろたえる心の震えも、瞬きの震えも、息遣いも、穂先で零になるように。

 

 線の始めと終わりは、艦載機の軽やかな発着艦。

 

 その間は、水上戦隊のように疾く、止まらず。

 

 バイブ書道の描く軌跡は、機動部隊と水上戦隊の連係です。

 

 そして、最後の止めで、穴が開かないように、でも、綺麗な止めにすることを忘れずに。

 

 力を入れ続けたせいで、額に汗がにじみます。

 

 深呼吸して、紙面から体に意識を戻しながら、その文字を見て──

 

「完成、です」

 

 うん。うれしい。すごく疲れたけど、なんだか頭がすっきりしたというか。なんか、難しいことも、心配事も、悩みも、墨と一緒に置いてきちゃったような、晴れ晴れとした気分。

 

 これ、大好きかもしれません。

 

「秋雲ちゃん、あたしにバイブ書道を教えてくれて、本当に、本当に……ありがとうございます」

 

「お、おおおう」

 

 秋雲ちゃん、びっくりしています。きっと、こんなに喜ばれるなんて思っていなかったんですね。

 

「いや……残念なこというけどさぁ……それ電池入ってる?」

 

「え? うん」

 

 疑いの目を向ける秋雲ちゃんに、筆を渡します。秋雲ちゃんは、筆を……バイブラシのバイブ部分を取ると、くるくる回しながらじっと見ています。

 

「ん~……ほいっ」

 

 カチッ。

 

「う゛えぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 一切身構えずにバイブを動かした秋雲ちゃんに、墨のしぶきが襲い掛かって。秋雲ちゃんは急いでバイブを止めましたが、ショーツも、キャミソールも、黒い点々が無数にできてしまいました。

 

「ハァ……わーった。よくわかりました……いや分からんけど……」

 

「秋雲ちゃん、何がそんなに分からない……の? 船の上で絵を描く腕があるなら、このくらいできるよね」

 

 潮が尋ねると、秋雲ちゃんは下着を脱いで、全裸になってしまいました。うん、凄い度胸です。……そっちも茶髪なんですね。脱ぎ終わるとまた座って、近くにあったジャージの上を羽織ると、じっとこちらの目を見ています。

 

「?」

 

 秋雲ちゃんの目を見ながら首を傾げると、秋雲ちゃんは咳払いをして話し始めました。

 

「潮ちゃん、もう秋雲先生が教えることはないよ……バイブ書道六段を認定し、潮師範と名乗るのを許可する」

 

「え、そんな、急、急だよ」

 

「いや、バイブ書道人口はたった二人だからね」

 

 二人。潮と秋雲ちゃんだけですか。でも、秋雲ちゃんはそれで練習したって。

 

「秋雲先生なんて、それで字を書くなんて無理だったからね」

 

「でも、この間練習したって」

 

「この『バイブラシ』ねぇ。本当はアナログ絵に絵具を散らそうと思って作ったんだよ。でも上手くいかなくて。ならいっそ文字を書いてやろうとしたけど、扱いこなせなくて……」

 

 面白そうに話す秋雲ちゃん。ですが、あたしは全然面白くありません。

 

「じゃあ、秋雲ちゃんは、潮のこと、からかってたの……? ひどいよ……」

 

「いや、それで字の震えが治るんじゃないかっていう思いつきは本当」

 

 秋雲ちゃん。あたしが頑張ってるのを聞いて笑ってたわけじゃないんですね。安心しました。

 

「でも普通バイブと同じスピードで震えないよ、手は……」

 

「え? 思いっきり力を入れたらプルプルする、よね」

 

 そう言って、あたしが手を震わせるのを見て、また秋雲ちゃんが目を丸くしています。

 

「凄い……」

 

「え、バイブより早く震わせるのは五日で、バイブに合わせて震えるのは十日でできるようになったよ」

 

「いや普通じゃないよ。潮ちゃんバイブの天才なんじゃないの?」

 

 秋雲ちゃん、すごく潮のことを褒めてくれます。褒めて伸ばすタイプの先生なのでしょうか。

 

「そんなことないよぉ」

 

「ううん、すごいよこれ。艦娘でも滅多に……というか絶対できないって……」

 

 あぁ、顔が熱いです。そんなに潮、すごいんでしょうか。

 

「ちょっとさぁ、秋雲さんの肩、揉んでみてよ」

 

 急に何を言うかと思ったら、肩もみ、ですか。

 

「はい! 七駆のみんなとよく、揉み合いっこしてます」

 

「揉み合いっこねぇ……」

 

 普段から上がり気味の秋雲ちゃんの口角が、もっと上がりました。

 

「そんな、肩しか揉んでないよ」

 

「おぉ? なんだなんだ、自覚アリ~?」

 

「違うよぉ」

 

 ふふっ。ついつい笑っちゃう。うん。なんだか楽しいです。なんだか、こういう会話も慣れて来た気がします。

 

 じゃあ、秋雲ちゃんの肩に触って。ジャージがさらさらして気持ちいいです。真後ろだと、頭がすぐそばにあるから、うん。秋雲ちゃんの匂いがする。シャンプーとか、リンスとかと違う匂い。丁度いい言葉が見つかりませんけど、どこかで嗅いだことがあるような。嫌いじゃない、むしろ、好きかも。

 

「あぁ~癒されるぅ~これ絶対捗るやつじゃん……さする所からもう上手いわぁ」

 

「あ、七駆では誰からも好評ですね」

 

 秋雲ちゃんの肩。七駆のみんなの誰よりも固いです。

 

「次が朧、曙と漣が同列?」

 

 なにを手掛かりにかは知りませんが、上手さの順番を予測した秋雲ちゃん。

 

「みんな、得意なのがありますね。みんな、潮はなんでも上手だって。揉むのが次に上手いのが朧ちゃん。叩くのが上手いのは漣ちゃん。曙ちゃんは、撫でるのとか、さするのとか、上手い、よ」

 

「へぇ…………」

 

 秋雲ちゃん、何考えてるんでしょうか。でも、肩も十分ぽかぽかしてきて、準備はよさそうです。

 

「じゃあ、揉むよ」

 

「うん……来て」

 

 秋雲ちゃん。すごく楽しみみたいです。

 

 肩の端からちょっとずつ押してみて、つぼを探して。この手ごたえ、ここですね。そう、バイブを想像して。指先。手首、腕、秋雲ちゃんの肩。

 

「えいっ」

 

 震わせます。この手を。

 

「んっ! ううううん?! あっ? ああ?」

 

「どうしたの? 秋雲ちゃん?」

 

 秋雲ちゃんが急に変な声をあげて悶え始めるので、びっくりしてしまいました。が。

 

「う゛ぇ、やめないで、ほんと、気にしないで!」

 

「秋雲ちゃん、おかしい声出てるよ、普通じゃないよ」

 

「いいから!」

 

 こんな風に続けるように言われるなんて、予想もしてなくて、ちょっと困ります。でも、気持ちよさそうだし……。

 

「あ゛‌ぁ゛凄い……凄いぃ……」

 

 あ、肩の後ろの方、すごく凝ってます。きっとここ、気持ちいいですね! 

 

「えいっ」

 

「オ゛っ?! おおっ、おあぁっあ、ホアア、ん、んっひ」

 

 この声、絶対人に聞かれたくありませんよね……。それにしても、これ、震えをバイブと同調させなくてもいいから楽ちんです。とはいえ、手はちょっと疲れます。

 

 もういいですよね。いつものように、仕上げにちょっと肩をさすってあげて、おしまい。

 

「潮フルコース、えっと、震式、です! いかがでしょうか」

 

 返事がありません。あの、秋雲ちゃん。

 

「終わったよ?」

 

 肩を揺らすと。

 

「ンッ!」

 

 あれ、寝てたんでしょうか。

 

「あ、いつの間に? 凄いよこれ、完全に失神してたわ。気持ち良すぎる。疲れが取れたというか、肩だけ付け替えたみたいな感じ? なんか、痛みとか疲れとか、つっかえとか、何もかも無くなったみたいだわ。や~捗る捗る。すごい技だよ、これ! 今度提督にもやってみなよ、絶対喜ばれるって! というか、肩のついてる生き物なら大抵喜ぶと思う! 猫とか、大抵昇天させられるって!」

 

 いや、なんだか本当にすごいみたいです。でも、文字を書くために身に着けたから、あんまり実感がありませんね。

 

「あ、そうだ。提督の肩はでかいからなるべく身体を寄せたほうが安定すると思うよ」

 

 そんな、提督にくっつくなんて、失礼です。でも、あんまり力が入ってなかったら提督くらい疲れてると気持ちよくないんでしょうし……。

 

「あ、そうだ!」

 

 秋雲さんが何か思いついたみたいです。

 

「ちょっとなんか、棒……」

 

 秋雲さん、立ち上がってうろうろ何かを探しだしました。上は裸ジャージ、下は裸って、なんかすごく……変、です。

 

「これでいっかー」

 

 放り投げてきたのは、バイブ? あ、ずっと軽い。

 

「それ、ディルドってんだけど、ま、棒だわ。バイブと違って震えないけど、似たようなもんだよ」

 

 そう言うと、秋雲ちゃんはまた潮の前に座りました。

 

「ん、でも肩は全快したから、背中お願いするわぁ」

 

 と、急に床のものたちをどかして、そこにうつ伏せになる秋雲ちゃん。

 

「それで背中のツボ押してよ」

 

 あ、ツボ押し、ですか。秋雲ちゃんのお尻の隣、に腰掛けて、ジャージの上からツボを探します。

 

「ジャージ、分厚いから滑るっしょ。脱いじゃうねー」

 

 言うが早いか、ジャージを脱いで放り投げる秋雲ちゃん。うん。つるつるできれいな肌で、腰のくびれがすごくはっきりしています。憧れちゃいます。

 

「あとさ、秋雲先生の上乗っていいよー。もうさ、遠慮なく跨っちゃって」

 

「え、流石にそれは。潮、重いよ……?」

 

「あのねぇ、それで太かったら世の中の大抵の人太いよ? それに、潮ちゃんはどうして細くなりたいわけ? 今のままだと困るの?」

 

 困る。困る? ダイエットした方がいいって言われたけど、なんでした方がいいのかとか全然聞いたことないですね。

 

「まあ、乗って乗って。ほらほら」

 

 秋雲ちゃん。その恰好でお尻を振るのはどうなのかな。まあ、乗っていいって言うなら……。

 

「ほら、全然重くない」

 

 あたしのお尻が、秋雲ちゃんの腰に乗っています。スカート越しだけど、秋雲ちゃんの暖かさがじんわりと伝わってきて。なんだか、ドキドキしちゃいます。

 

「じゃあ、背中、いっちゃってよ」

 

 背骨をなぞって、位置を確かめて。

 

「秋雲ちゃん」

 

「ん? なになに~?」

 

「さっきみたいな声、なんだか恥ずかしいし怖いから、やめてほしいな……潮だったら絶対人には聞かれたくないかも……」

 

 秋雲ちゃんは、首だけ振り向いて、答えます。

 

「声出したほうが気持ちいーの。こういうのは」

 

「あ、そうなんですね、じゃあ、いきます」

 

 ディルドをツボに押し付けて。

 

 えい。

 

「んんっヒ! んお、んっふふ」

 

 びくびくと悶え始める秋雲ちゃん。気持ちいいだけなら大丈夫ですよね。

 

「ぉ! おっ! フッ、フゥっ! あ゛‌! ひゃば、ひゃばいい! あ! ひいっ!」

 

 潮が上に乗ったのは正解でした。秋雲ちゃんがもぞもぞ動くのをしっかり捕まえられます。

 

「おヒっ、あ! あ゛‌ん゛!」

 

 ちょっと楽しくなってきちゃいました。だって本当に気持ちよさそうで……。

 

「次、ここなんて、どうかな?」

 

「だべぇ……良すぎて死む、しむぅ」

 

「だいじょうぶ、だよ?」

 

 もうやめてほしいのか、やめてほしくないのか分からないけど、秋雲ちゃんのツボに、ディルドを押し込みます。

 

「はっ? は! はひぇつ、や、あっ、く」

 

 バン! 

 

 ──その時、ドアが開いて。

 

「秋雲? 今度陽炎型でイモでも焼 ううぅ?」

 

 陽炎ちゃんでした。陽炎型の制服。

 

 対するあたしは制服で、手にはディルドを持って、全裸の秋雲ちゃんの背中に跨っています。

 

 あ。裸の妹を見たら、それはびっくりしますよね。そういえば忘れがちだけど、陽炎ちゃんは秋雲ちゃんのお姉ちゃんでした。

 

「あ、お邪魔してます。潮です」

 

「あ、こちらこそ、お、お邪魔しました」

 

「陽炎? 違う! 誤解だって!」

 

 いや、すっぽんぽんなのを見られて誤解も何もないと思いますが……。

 

「いや、あの……声で察してあげるべきだったわね! ごめん、空気読めてなくて! あ、潮ちゃん、こんな妹ですが、よろしくねっ」

 

 そんな、かしこまらなくていいのに。

 

「ううん、秋雲ちゃん、最近知り合ったばっかりなのに仲良くしてくれて」

 

「いや進みすぎでしょ……じゃない。仲良ししてるときに邪魔しちゃって! ごめんね!」

 

 陽炎ちゃん、なんでこんなに謝るのでしょうか。もしかして、七駆の誰かとなにかあったのでしょうか。

 

「そ、そうだ、これ、日程表だから、みんな、秋雲が来るの、たの、楽しみに。じゃ、またね!」

 

 ドアを開けっ放しにしたままちょっと行った陽炎ちゃんはまた来てドアを閉めると、走っていって、足音も聞こえなくなりました。 

 

 

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