バイブ書道   作:プリン

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バイブ書道 13

同一一〇〇 初春型居室 曙

 

 同じ寮の建物といえど、他人の部屋って緊張するわよね。やっぱり、空気も部屋ごとで違うような。この部屋は、前を通る時点でいつも違うお香の香りがするけど。そのせいか、今でも戸を強く叩くのはためらってしまう。

 

「誰じゃ」

 

 ゆったりとした声。戸を隔てているのに、張り上げている風はない。それに、客が来ても出迎えに来る足音も聞こえない。

 

「曙よ」

 

 その声に答えても、迎えに来るのは声の主ではなく。

 

「ようこそいらっしゃいました。私達の部屋を気に入ってくれたようで、何よりです」

 

 いつも末妹の初霜。いつも、しゃがんで障子を開けて出てきて、上がり框で迎えてくれる。この部屋、どういう決まりで回ってるのかよくわからないのよね……。

 

「私にまでそんな腰低くしなくていいのよ。ありがとね」

 

 初霜が座っていた隣に腰掛けて、一段低い小さな土間に靴を置く。そこと彼女たちの生活空間とを隔てる障子を開けると、廊下とは比べ物にならない、強いお香の香りが漏れてくる。

 

「お邪魔するわ」

 

 挨拶して、障子を開けると、聞こえるのはあどけなさが残る声。

 

「よくぞ参った。苦しゅうない。楽にしてよいぞ」

 

 でも、その声にどこか気品を感じるのは、動揺やブレの無い話し方のせいなのかも。

 

 声の主は、長姉、初春。藤の花のような薄紫の髪。真っ白のワンピース。さらに、この振る舞い。戦場に似つかわしくない、血や汗とは無縁の、何なら潮風や塩水とすら無縁のものに感じちゃうけど、初春はこの格好で戦う。艤装は体から浮いてるし、浮世離れの極みって感じ。

 

 座ってるところは、畳の床から一段高い。ずっと本物の段だと思ってたけど、これ、床の間に布を敷いてるだけなのね。いや、この鎮守府でよくここまでそれっぽくしたと認めるべきなんだろうけどさ。

 

「嬉しいなぁ! 今日はお客さんの日!」

 

 浮世離れしてるのは、この子日もよね。幼い雰囲気だと思ってたけど、並んでみると私よりちょっと背が高いから驚く。よくよく見てみると、あの細くて長い三つ編みを毎朝やってる訳だから、人並み以上に器用なんじゃないかな。いや、見た目とか振る舞いが年齢と関係ないのは私だってわかってるつもりだけど、これで若葉と初霜の姉って言うんだからびっくりする。

 

「悪くない。やはり人数は多い方がいい」

 

「じゃあ、早速審議を始めましょう」

 

 若葉と初霜も位置について、この部屋の謎のしきたりの最たるところ、審議が始まる。なぜ始まったか聞いても誰も知らないから、自然発生したんでしょうね。

 

「ふむ、では始めるぞ」

 

 いつの間にか、初春を要とする扇形に座っている姉妹。私も、「審議」が始まるのを感じると、この隊形を作るようになった。

 

 隊形が完成して数秒の静寂が生まれた。それが開始の合図。

 

「若葉だ」

 

「よかろう」

 

 話題ごとの名乗り、承認、発言。

 

「今日こそ、この『ダイ・ハード』シリーズ完走を目指したい」

 

 相変わらず、優しげな響きの声なのに、口調には不思議と強い意気込みを感じる。

 

「子日、はんた~い! 子日、明日の夜から遠征だし。みんな若葉と違って徹夜しても平気じゃないんだよ~」

 

「私は構わないわ。ただ、完走するのは流石に疲れます。どうしても一晩でやりたいということなら、金曜の夜などいかがでしょう」

 

「ふむ。わらわも反対じゃ。まず、その表紙の男が汗臭くてたまらん」

 

 意見が止まると、初霜が対案を出す。

 

「では初霜、『プラトーン』を推薦します」

 

「よしておけ。戦場ものは我々の戦意喪失に繋がりかねないぞ。戦争を醜く描くことと戦争の現実を描くことは同義ではない」

 

「ふむ、集団戦闘の現実をこんな時まで味わわなくてものう。まあ、わらわは興味があるゆえ、それはまたいつか二人で見るでもよかろう」

 

 初春が初霜に目配せすると、初霜はそれ以上推薦しなかった。

 

「子日、『日本のいちばん長い日』~!」

 

「ふむ」

 

 あ、誰も下見してない作品みたい。初春が扇を挙げると、子日がDVD棚からケースを取り出し、初春に持っていく。

 

 暫く、「ほう……」と漏らしつつ見ていた初春が、「若葉も読んでみよ」とDVDをこちらに差し伸べて、若葉がひざで歩いて受け取りに行く。黙って目を通した若葉は、無言で初霜に渡す。初霜もしばらく目でケース裏をなぞると、「これは……」と、顔に戸惑いを浮かべた。ごく自然な流れで私にも手渡され──。うん。

 

「これ、記憶が濃いタイプの子が観たら失神するわね」

 

 私の発言を最後に、またしても沈黙が流れる。次は誰が話すのか、と周りを見てみると、なぜか誰とも目が合う。

 

「って、私?」

 

「そうじゃ。そも、客人が来たのにわらわらが観たいものを見ても仕方なかろう。なんぞ、棚から気になるものを選ぶとよいぞ」

 

 と言ってもねぇ。私は映画なんて全然何があるのか知らないし……。しゃがんで棚を見てみても、よくわからないというか。

 

「これって、誰が持ち込んだのかしら」

 

「でーぶいでー、かや? 娯楽も必要だろう、などと言って提督が持ち込んだのじゃ。わらわが管理を任された都合、ここに置いておるぞ」

 

「娯楽ってね。そんな場合かしら」

 

 クソ提督の考えていることが、本当に分からない。戦いが終わったら、なんて皮算用で手に職をつけさせようとしたかと思えば、こんなものを配るなんて。行動に一貫性がまるでない。

 

「そんなの知らなかったんだけど」

 

「そんなの、わらわの知ったことではない。わらわは、きちんと掲示板に書いておいた。現に借りに来る者もおるのだが」

 

 秩序の崩壊を実感する。やっぱり、組織の締め付けが足りないのよ、あのクソ提督。自分勝手に微妙な自由なんかくれなくていいから、むしろそのへんしっかりして欲しいわ。

 

「とりあえず、うちの部屋には周知しておくわ。どれ……」

 

 与太話は早々に、棚を物色する。やっぱり、よくわからない。若葉おすすめの「マトリックス」「ミッション・インポッシブル」は面白かったけど……なんでも翌朝まで見続けさせるのは勘弁して欲しいわ。初霜は選ぶもののジャンルがまちまちで、この間の「攻殻機動隊」はアニメだったけど、その前の「タクシードライバー」は実写だったわね。初霜、眠くなる映画が好きなのかしら。でも、実際には誰も寝てなくて驚いたわ。まあ、なんだかんだ、私も起きてたけど。

 

「──これ」

 

 不意に目に入ったのは、仁王立ちの男。

 

「ほう、リベリオンを選ぶとは、貴様も見る目があるのう……」

 

 初春が、何やら満足げに笑う。

 

「えっ、私」

 

 別に、これが観たかったわけじゃないんだけど。でも、選ぶ感性を誉められるほどの作品なら、まあ断る理由も無いし、これでいいか。

 

「なんだ、リベリオンか。まあ、観れば改めてマトリックスの良さが実感できるだろう。悪くない」

 

 若葉の言を聞くに、それ程良くもないのかしら。

 

「何を言うか。マトリックスにガン=カタがあるかえ?」

 

「そんなもので、評判が覆るわけでもない」

 

 初春と若葉が争い出すと、初霜が「こういう時こそ、審議によって決めるのでは」と、ごくまっとうな提案をする。と。

 

「子日は、曙ちゃんに決めてもらったらいいと思うなぁ」

 

 子日の一言で、優劣談義に向かっていた空気が一変した。

 

「そうじゃ。まずは見せればよい」

 

「賛成だ」

 

 初春が段から降りると、隊形ごと左向け左して、窓を背に廊下側の壁を見る方向になった。

 

「始めようぞ」

 

 その言葉に合わせ、天井からスクリーンが降りてきた。部屋の電気が消える。

 

 そして、闇の中に、英字が浮かび上がった。

 

 

 

同一七二九 七駆居室 漣

 

 

 

 あー、今日の収穫は木曾氏からの情報だけですな。必死こいてご主人様の進退について漁っても、ご覧のありさまなんてね。ご主人様、案外抜け目がないのかも。今後は一人でやりきるという方針を変えたほうがいいのか……。まあ、考えてもしょうがないし、今はマターリするしかありませんわな。にしても、皆様帰りが遅くなっちゃって。

 

 なんて言ってたら、足音。ゆっくり、おずおずした感じ。潮たそですね。

 

「ただいま。今日は漣ちゃんだけ?」

 

「そう、みんな仕方ないのよホント。アンタも連絡寄越さないし、お母さん心配してたのよ」

 

「ふふ、ごめんね、お母さん」

 

 あれ、潮、雰囲気変わった? ほんと、知らないうちにみんな成長しちゃって、まあ。こんなとき、冗談で返すのってあまり得意じゃなかったと思われ。

 

「冷蔵庫にプリンあるから、チンして食べなさい」

 

「あれ、朧ちゃんのじゃなかったかな」

 

「朧のものは漣のもの、曙のものも漣のもの。潮は漣のもの」

 

「えっ」

 

「ふふ、よいではないか、よいではないか」

 

 呆気に取られている潮っちの後ろに回りこみ、腋の下に手を通す。今じゃ鎮守府は荒れ放題、ボヤボヤしてると後ろから──

 

「いただきィ!」

 

 バッサリだ。今回も漣の勝ちね。

 

「ひゃ、ひゃあああああっ」

 

「グヘヘ……こんな体してエロくないわけないもんなぁ……漣が教えてやるから……」

 

 いや、エロくないことくらい知ってるけどね。……ン? でも最近は毎晩毎晩あんな声出してたわね。そんなことより潮っぱい気持ちええわぁ。疲れた体に効く。一家に一台。いや、誰にもあげないけどね。潮ちんは。まぁ、漣よりぼのの方が必要としてるのかもしれませんが。あー気持ちいい。いや、そんなんじゃなくて。

 

「ねーぇ。潮……?」

 

 耳元に囁くと、「ひゃ」と小さく呻く潮。あぁ……もっと抵抗しなきゃあ……潮っぱいを揉むのはやめても、手は置いたまま、続ける。

 

「夜、何してんの」

 

「それは……」

 

 答えてくれない潮タソ。まあ、そうなるな。

 

 あまり問い詰めてもイクナイのかもしれないわね。朧ネキのほうがこういう、ゆっくり話し合うとか上手そうだし……。でも、ままよ! 

 

「お母さんにも内緒? そんな、人に言えないようなことする子は、めっ、よ?」

 

「えっと……」

 

 困惑している潮ちん。でも、突然「あ、もういいんでした」と言って、手をほどいてこちらに向きなおると、「ちょっと、あっち向いて座ってほしいな」と、要求してきた。何のつもりですか? いや、ほんとに何をしようと。でも、面白い。後ろを向いた漣に何をしてくれるのか。お手並み拝見じゃ。

 

 漣の魂胆はわからない潮が、肩をさすってきた。あ、これは肩たたき、そして肩たたきの延長に入るやつでつか? 誰じゃ、マイプリンセス潮に変な教育を施したのは。とっちめてやる。それはそうと、時折胸が当たるのが、たまらん……。

 

「じゃあ、いくよ」

 

「はにゃ?」

 

 突然の謎の宣告! それも驚くけど、急に雰囲気が頼もしくなったような、一体何をするつもりなの? まさか、私にひどいことする──

 

 そんなこと考えてる間に、何かが始まった。潮の手に、ふるえ? それが、漣の肩を揺らす。なんだか、筋肉の一本一本の連結を剥がしているような、不思議な感覚。もう、筋の一本一本が持ち場を離れて自由になっていくような。それでいて、痛みは一切なく、抵抗感もなく。なんだこれ、なんだこれ。

 

「んに゛いい?」

 

 すご、というか、何、体にバイブを仕込んでるの? それともブルブルの実のバイブ人間なの? 

 

「漣ちゃん、今日は凝ってる。何かお仕事してたの?」

 

「わ゛い」

 

「ごめんね、どっちかわからないよ」

 

 いや、わからんならやめれば、いややめないで、ナニコレ、これが夜のお勉強の成果って言うの? 

 

「ここ、どうかな」

 

 潮さんは楽しそうだわやう、ひ、え、気持ちいい、きもちい。うん、もう、助けて、潮にバラバラにされ、いや、バラバラにして、くんっ? あ、やべえ、チョー気持ちいい。

 

「ひょう、に゜もちっ」

 

「ここが気持ちいいんだ。頑張るね。こんなに喜んでくれるなんて、潮、嬉しいな」

 

「い、いあ、ゆぃ?! ゑ! んく゜ぅ、うふ、あっ」

 

 あっ、スゴ、おオ、あっ、んえ。 はい。

 

「漣ちゃん、こんなに喜んでくれたことあったっけ。いつも、色々助けてもらってばっかりだから、こんな喜んで貰えて、本当に、よかった」

 

 いひ、お、んぇ、ほ ぁん。

 

「──ね。──から」

 

 あ? ????? 

 

 *

 

「漣ちゃん、漣ちゃん」

 

「ひぇ……? あ、オワタ? い、今の何、秘孔?」

 

 潮てゃんだ、あ、帰って来れたんだ。いや、おかしいだろ。

 

「この手。夜、バイブ書道の練習をしてたら、いつの間にかできるようになったんだよ」

 

 手を猛烈に痙攣させる潮たそ。あ、そりゃそうよね、バイブ書道だもん。いやいや。

 

「ならねぇYO! てか、バイブ書道ってなんだYO!」

 

 それ。それでしかない。いきなり何を言い出すの。バイブ書道ってなんだよ。まあ、オナホ華道があるならアリなの? んなわけない。妹の日本語がわからない件。

 

「それは、話すと長くなるんだけど……手が震えて字がうまく書けないのを直そうと」

 

「したらそんな風に? いやいや……」

 

「いや、バイブラシならできるんです。これで練習すれば、もう緊張には負けません」

 

「あと2時間、オペレーターを増やして対応します。『0120-8乙8-8乙8』まで、今すぐお電話を! みたいな言い方で」

 

 って、うしをが筆にバイブがついた謎の道具を取り出してるし。あ、「うしを」なかなか呼びやすいわね。メモメモ。

 

「じゃあ、夜の音はこれだったってこと?」

 

「うん。がんばったんだけど、音も消せるように。でも、やっぱり聞こえてたんだ」

 

 いやふつう頑張りようがないから、そんなの。どこにどう力を入れたら、そんな早く動くかな。気になるけど、聞いたところで「え? 力を入れすぎたら、みんな、震えないかなぁ」とか、言うんだろうな。きっと。

 

「それ、何をどうしたらやれるの? 漣、気になります」

 

「じゃあ、これ、貸してあげるね」と、バイブラシとかいうのを渡してくるウシヲ。うん、これは筆。でも、バイブのせいで重心がかなり高い。ベイブレードならクソザコね。字を書くにも、安定感がなさすぎる。こんなので練習したって、ふつうの筆の扱いが上手くなれるとはとても思えません。──いや、「ありえない」はありえない。試してみないことには。

 

 カチ。

 

「あ、スイッチの場所知ってたんだ」

 

 バイブが唸りを上げて震える。震えるぞハート、燃え尽きるほどヒート。じゃあ、手を! 

 

「んに゛いいいいい!」

 

「漣ちゃん! がんばれ! がんばれ!」

 

 これだけの、力を、加えれば! 筋肉も、限界を、超える! 普通だったらそんなことできない。かもしれないけど! 普通って何よ! 何より! 

 

「キングゲイナーなら、できる! ふうんっ!」

 

「なに? まだうちに来てない、海外艦の子?」

 

 あなたが提督ですか。King Gainer 級、USS King Gainerっていうのが、艦の名前です。分かったら、早く出してください! 

 

 ……そんな艦娘おらんわ! とにかく指先から二の腕、肩まで、全力でプルプルさせる! バイブの音に勝てるくらい、全力の上の全力! これなら! 

 

 ミシッ。

 

 ……ん? 

 

「あっ、あ……漣ちゃん、漣ちゃん!」

 

 潮、反応遅っ。じゃない、じゃない。バイブ電源切、ヨシ。筆破損、亀裂確認、中破。戦闘困難。謝罪準備。脚腰、正座、ヨシ。頭、土下座、ヨシ。台詞ヨシ。謝罪準備ヨシ。ご安全に。

 

「すまぬ、こんなつもりでは……」

 

 あれ、誰のか知らないけど、借り物じゃないといいな……。

 

「だいじょうぶ、このくらいなら、普通に使う分には問題ないから。けど、これ、秋雲ちゃんに初めて貰った、大事なものだから」

 

 見るからにしゅんとする潮殿。悲しいはずなのに、漣を責めるのが申し訳ない、そんな雰囲気で、最初に弁償とか、でかい艦娘への謝罪とかを考えたのが恥ずい……てか、心が痛い……。

 

「それは本当にすみません。もう二度としません」

 

 貰いものだったなら、弁償はしないで済みそう。でも、普通に申し訳ねぇっすわ……。

 

「……ん、待たれよ。バイブごと貰ったの?」

 

 これ、重大機密かもしれませんぞ。軍から追われる身となって、宇宙規模の逃避行を始めることになるかもしれない。ゆくゆくは、支援してくれる貧弱一般人との交流で忘れていた愛情を思い出したり。追っ手の究極艦娘(PF)と戦って、奇妙な親近感を覚えたり。彼らとの冒険の果てに、漣は漣の出生の秘密を知ることになるのね……。

 

 却下。バイブが重大機密って、ただの欲求不満っぽいし、漣は「バイブ!」とか叫びたくはありません。

 

「うん、秋雲ちゃんが昔使ってたんだって。もともとは違うことに使ってたみたいだけど」

 

「えっと、何話してたっけ。あ、バイブ筆か! いや、バイブはそりゃ違うことに使ってたんでしょうね」

 

 いや、首傾げてんじゃねーよ。かわいいから別にいいけど。てか、秋雲先生は他人ん家の娘に何あげてんねん。

 

「とりあえず、それ、もう組み合わせないならお母さんが預かっときます!」

 

「ええ? そんなことしたらバイブ書道の練習ができなくなっちゃうよ」

 

「いやしなくていいでしょ。バイブに合わせて震える練習する、それで字を書くときの手の震え改善します? しないでしょ。その時間で緊張しない精神力を身に着ける。それが世界レベルですよ。だって字の上手い艦娘バイブ書道してますか。本田はそう思います」

 

 これまでやってきたことがムダだったなんて言ったら悲しむと思うけど、ここで言わなきゃ延々とバイブ書道し続ける。それは間違った努力だから、軌道修正しないと。

 

「その話なんだけどね、漣ちゃん」

 

「ん?」

 

 怒られたり泣かれたり、自失されたりする覚悟はあったけど、また予想外なこと言う? 

 

 何するかと思ったら、はにかんで。

 

「練習してから、まだ提督の前で書いてませんでした」

 

「ズコー! まあいいや可愛いから! あっ」

 

 うしをの笑顔で思い出したぞ! 言っておかなくては! 呼吸困難にさせておいて、好き放題をまた言うから。

 

「漣は潮とご一緒できて、いつも楽しいですぞ。だから、漣が何かしてあげたとしてもそんな恩に着ることないのです」

 

「……うんっ」

 

 そう答えた潮ちゃんの笑顔が、やっぱり眩しくて。本当に、お世辞とか姉馬鹿とか抜きにかわいくて。そうやって、綺麗に笑えるような喜びって身近には無かったなあ、なんて。いけない。ちょっと、羨ましいがPOPしてきた。

 

「あ、そこで待っててくだされ。ちょっと持ってきたいものが」

 

 と、畳を立ち上がったまさにその時、襖を開いて現れるのはあの艦娘~!! 

 

 

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