同一八〇八 七駆居室 曙
「ったく、何この散らかしようは……」
帰ってきてみれば、座布団はひっくり返ったり散らばったり、漣の荷物……紙? まあ、なんか撒き散らされたり。誰が掃除すると思ってんのよ、これ。
「本日はどちらに?」
「初春型の。また映画よ。というか、アンタ達こそ何してたの」
「そんなことより、ぼの、うしをたその夜のハッスルの件、解決しましたぞ」
「ハッスル?」
今朝話し損ねたこと、漣がなんとかしちゃったんだ。喜ぶべきなんだろうけど、なんだかモヤモヤする。正直、潮に姉らしいことがしたかった。ウソ。したかったじゃなくて、最近ずっとしようとしてるのに、なんだか空回りしがちで。今度こそ、と思ってたところはあった。
素直に喜べない私って、自己中かしら。
「そ。良かったわ。ホント、五月蠅かったんだから。それで、どうなったの」
まあ、解決されたならいいんだけど、どう解決したのかが知りたいわ。漣の方が存外私よりお姉さんらしく対応しだとしたら、なんだか屈辱。
「やっちゃえバーサー艦!」
は?
「……潮、潮殿~」「え、あたし」「あそこで行ってくれなきゃ……」「ごめんね、油断してたかも」ってなんか揉めてるけど、また漣、打合せせずに潮にネタ振ったわね。そんなのうまくいく訳無いし、また潮、謝らなくていいのに謝ってるし。
「それで。何したかったの」
尋ねると、潮が正座した。謝る? 何を? いや、それは「やっちゃう」じゃないわよね。
「背中を向けて、そこに座ってほしいな」
「はぁ……で、何すんの」
言われた通り、潮の前に座る。すると、肩にいつもの手。小さくて、あったかい。
「首がだいぶ凝ってるね。テレビの位置を直したほうがいいのかも」
「そう?」
両肩の間から頭蓋骨と首の間まで、じっくりさすられると、手の熱と摩擦でやさしく温まっていく。そうして、十分リラックスしたところで、また肩。
「良いわね、潮のはやっぱり」
「そうかな、良かった」
円を描くように、また肩をさすると、揉みが始まった。親指が、肩のつぼを狙い撃ちしていく。指先は肩の山頂を乗り超えて、鎖骨の隙間から筋肉を踏みしめる。
「潮」
「あっ、痛かったかなあ」
「ううん。すごく気持ちいい。アンタ、やっぱ才能あるわ」
才能なんて呼んでいいのだろうか。潮の体温が染み込んでくる感覚が心地よいのは、潮を好きだから。それだけが理由かもしれないけど、それを表現する言葉は無かったし、そのまま伝えるのは恥ずかしくて。
「よかった」
でも、なんとか言葉にできた分だけでも、受け取ってもらえてよかった。
「キタコレ! ぼのデレ、頂きました!」
「あっ……うるさいわ! というか、この位のこといつも言ってるわよ!」
漣が居たの、気持ち良すぎて忘れてたわ……この、こういうときだけ閉まりの悪い口をしっかり閉じるてんだから!
「怒ってばかりいるといろいろ凝りますぞ! 軽量化された人体のアドを自分から手放すのはオススメできませんな。あ、乳の成長を押さえるために普段からキレ散らかして?」
「言ったわね! 胸なら大して変わらないじゃないこの万年イチゴパンツ!」
「ハァ? かわいいでしょイチゴパンツ! 見せたろか?」
「お腹いっぱいよ、出撃したとき大抵丸出しになってるし。あ、見せたくてわざと被弾しに行ってるんだったわね。悪かったわ、勘違いして」
よし。久しぶりに言ってやったわ! 今日は気持ちよく眠れそうな気がする。
「てめー! こっちが大人の対応してりゃつけあがりやがって! 潮! アレを使うのよ!」
「えっ? あ、曙ちゃん、いくよ」
「な、何?!」
アレって何よ。そう聞く間もなく、潮の手は私の肩に触れていた。触れただけのはずなのに。
「お゜っ? っひ!」
なによ、これ。出そうと思っても出せないような声。いや。肩に当たってるものは、何なの。肩の凝りが取れるとかじゃなくて、肩をぜんぶ気持ちよさに変換されてしまったような。
「ほおっ、おおおつ、ほ?」
「え、mzk……漣、さっきこんな顔してたのか……衝撃映像……」
こんなって、どんな。でも、なんか肩から上全部の筋肉が操作できてないような、あっ、体が、体が取れちゃった!
「ほあい! ほあい!」
「ぼのが習ったことのない英会話を! なぜなんですか? 現場の潮さん!」
「曙ちゃんがピリピリしちゃうの、潮が危なっかしいからだもんね。ごめんね。このくらいしかお返しできないけど、がんばるね!」
やだ、こわい。これ以上揉まれたら心も外れそう。
「あら、あっひ、えええ」
「あ、首も凝ってる。ちょっと、押してみるね」
ちが、どこに、どこ、おぅ、あ、ああああっ
「ほ! お──────? ──────っ!」
「あ、手ごたえ、ありです。ここ、気持ちよさそう」
だめ、だめ、だめだめ
「えいっ!」
「オ゜っ? あ────」
──────
*
あれ、聞いたことのある声がする……。
「きれーな顔してるだろ、死んでるんだぜ、これ」
「いや、そんなこと……でも、人間って脳みそ揺らさないほうがいいんだよね? どうしよう、曙ちゃん、曙ちゃん!」
「死んでないわ! 馬鹿!」
あ、私、何してたんだっけ。何で私、床に転がってるの。潮、潮に……。そうだ、潮に肩を揉んでもらって……。
「あ、思い出した。なんか、おかしいくらい気持ちよかった……。でも潮、アンタほんとにおかしいわよ」
「やっぱり、そうなのかな。漣ちゃんは実際にやってみてもダメだったね」
「漣の全力でも、敵わず。くぅー……」
ええ? いや、無理でしょ。でも、潮にはできたってことは、私もやろうと思えば……。
「やめとけ、ぼのぉ……こいつはやっぱり特別なんだ……」
特別、か。
確かに、潮は特別よ。
改二になれるのは、私達姉妹四人の中で潮だけ。名に負う艦船の殊勲、活躍、逸話なんかから推し量って、まだのびしろがある艦娘だけが改二に改装できる。というのは過去の話で、今は史実にない、艦が「こうなっていたら」艦娘は「こうなるだろう」という、いわば願望から艦歴をでっちあげて、それを基に艦娘を改装する技術が確立されたらしいけど、そのへんってほんとに謎なのよね。装備は運用可能だった艦に対応する艦娘にしか扱えないとか、駆逐艦は艤装以外の装備を三種類しか持てないとか、編成によって辿り着けない海域があるとか、私達の戦いにはいろいろと法則がある。でも、それは時折変わってる。でも、私は四種類目の装備が持てるようになったし、海域ごとの艦隊編成の影響もたまに変わるみたいだし。クソ提督は「レギュレーションが変わったんだな」なんて、うんざりした顔で言ってるけど、私達のほうがよっぽど迷惑してるわよ。
ま、レギュレーションとやらはいつ変わるかわからないし、私だって、今やってみてできないとは限らない。そう思って、こっそり手を握って力を込めたけど、拳は普通に震えるだけだった。
漣は、潮とバイブ書道のいきさつを話し終えると、「いやー、実験したいことがありまして、ちょいと失礼」と、部屋を出て行った。靴で土間を打つ音がした。靴べら、使うように言ったのに。
潮が、じっ、とこっちを見ている。焦茶色の瞳。睫毛も髪も黒。クソ提督や、ほとんどの艦娘たちと同じ、この国ではありきたりな色。
「どうしたの、私ならもう大丈夫よ」
失神してたから、心配なのね。声をかけると、「あ、よかった」と、安心した様子だった。
同一八四五 七駆居室 漣
「ただいマグロ、二夜連続ぅうう?」
なんじゃこりゃあ!
本当に、なんじゃこりゃあ、としか言いようがない。
「カニさん、忘れちゃったの? ……潮だよ、怖くないよ」
「カニさん、潮よ。あたしの妹。大丈夫、大丈夫だから」
あ、ありのまま、(ry 帰って来たら、朧の頭に乗ったタカアシガニが潮を攻撃していた。何を言ってるか(ry
「い、今北産業!」
「三行?
『朧の
カニが
大きくなって潮がやばい』!」
答えたのは、ぼの。なすすべもなく、部屋の角に避難してる。
「見りゃわかるってえの! 何が起きたのよ!」
ぼのがヘッタクソな三行で答えているうちにも、潮がカニさん? にタッチを試みては、カニが潮の手を挟もうとしてる。フェンシングかな? いや、危ないって。ぬこタッチの比じゃない。
「話したら長くなる、多分! カニさんやめて! 潮も、とりあえず作戦会議にしよう」
「いや、でも、これじゃあ、話し合いどころじゃないよ。ひゃっ」
うお、潮殿がしゃがんで、間一髪、カニの鋏を避けた。手を伸ばさず、ただ近付いただけでもダメなのね。いや、これは困りましたな。でも、何人をも近づけさせないっていうのは、多分レギュレーション違反だからないは。
「これ、潮以外も攻撃するの?」
「私は大丈夫だったけど! でもまた潮が近付いたら、そのうち巻き込まれるわ!」
あ、潮以外なら大丈夫なのね。
「おk。完全に理解したわ。潮はすみっこでお茶でも飲んでなさい。ぼの!」
「何よ! ロクなことじゃないわね!」
「なんかヒモ、くれ」
クイクイ、とサインを出す。このとき、手のひらは下にすること。お化けみたいに指が下を向くようにやると、カエレ! って意味になるんだって。これ豆な。
「ヒモ? あー。あった、これでいい?」
ぼのが取ったのは……よりによって漣のイヤンホホ! ぽまえ人のものを!
「よかない! けど、仕方ないね」
よし、ここまでは漣のシナリオ通り。あとはうまく近づくこと。
「おぼろん、後ろ向いて!」
「わかった!」と言いつつ、もう右脚を軸に信地旋回しているおぼろん。ターンピックの整備がいいな。今だ! 真後ろを向いてから、こちらを向くと隙になる! 畳を削っても、飛び込む! 踏み込みだけで十分!
「もちつけ甲殻類!」
あとは、脚を縛り付ける! 出荷されていく同胞の気持ちを教えてくれるわ!
あとは一瞬。計算通り、鋏を合わせた右側五本の脚にケーブルを渡す。脚の下に手を通す瞬間。攻撃してきたら? でも、そんなことはなく。きゅっ。
「磨鎖鬼、見てる?! ケーブル屋の漣って呼んでいいわよ!」
「誰? というか、あたしの頭、今どうなってるの?」
「頭のカニさんの脚を、漣が縛ってやりましたぞ!」
そう。ぼろろんの頭の上に鎮座する蟹は、縛られた右脚を踏ん張っています。……まずいわね。音も、ひじょーにまずいお。
「漣ちゃん! 朧の頭からみちみち音がする! 大丈夫じゃないって、多分!」
朧が抗議してるけど、今はそれどころじゃない。
「や、朧はなんとかなるよ。絶対大丈夫だよ。でも、漣の……」
その時、ミシッ……と、ひと際大きな音が、アカン!
ブチィ!
「漣のイヤンホホー!!」
はらりと、生き別れになったイヤホン本体とピンが畳に落ち、乾いた音を立てた。いい奴だったのに、イヤンホホ……。イヤンホホとの思い出が頭を駆け巡る──。
──思い出、特になかったわ。
てへぺろ。でも、イヤンホホはイヤンホホよ!
「この、この甲殻類!」
「カニさんをいじめちゃ、だめです!」と潮は止めるけど。
「そいつが先に手え出してきたんだお! 藻前、悔しくないのかお!」
でも、潮っちの言う通り、暴力はイクナイ。でも、ぼろの話すら聞かない甲殻類と、どうすれば……? 漣は、あいつと対話できない……。
「漣! なんかあるんじゃないの! うさぎとか!」
「ぼの! そんなの! ……すっかり忘れてたわ。ありがと」
いっけねー。相棒をすっかり忘れてたわ。なんか、いつも肩にいるから最近は重みすら感じないのよ。これが本当の絆……。
「うし! 行くぞうさちゃん! ぼねえさんは動かないで!」
左腕を伸ばすと、うさぎは腕を走って、手の甲に乗った。目配せすると、こちらに視線を返す。それを右手で掴む。うさぎがなんか驚いてるけど、気にしない。これにて、準備完了!
「アレしなければならない! なんだっけ、えっとアレ! 世界は! こんなに簡単だってことを! おりゃ!」
投げつけるように、うさぎを投げつける。
「何投げつけてんのよ!?」
「いや、慌てなさんなって、ぼの。うさぎはそんな簡単に氏ぬようなやつじゃない」
ほら。うさぎはちゃんと朧の制服の襟にしがみついてる。ちゃんと?
「すごいプルプルしてるじゃない! やっぱりもっと優しくしてあげた方がよかったのよ!」
「漣ちゃん、ひどい……うさぎさん! 頑張って、ください!」
うしぼのがなんか言ってるけど。でも。
「でも、漣はうさちゃんを信じる!」
「えっと……、あたしはまだ動いちゃだめなの?」
朧がじっとしている間に、うさぎは襟をじりじりとよじ登っていく。ゆっくり、ゆっくり……。あ、このシチュは。
「ふふーふー、ふふーふー♪」
「あ、『ロッキー』じゃない。初春のオススメよ。って、アンタね」
「うさぎさん! 諦めちゃダメです!」
「ねえ、あたしの上で何が起きてるの? カニさんは無事? うさぎさんも」
その時、漣達は奇跡を目の当たりにしたのです。うさぎさんが襟を昇りきったとき、カニさんが、後ろ脚を降ろして、うさぎさんがそれを掴む。
「あとちょっとです! うさぎさん! ファイトー!」
「いっぱああああつ!」
「ちょ、漣のセリフが無い。えー、トランザム!」
「な、何? よくわかんないけど、がんばれ!」
そう、憎しみをぶつけ、奪い合うだけでは対話はできない。甲殻類が歩み寄ることによって、この対話は成立した。
漣も、いつか深海棲艦と。深海棲艦にも情けをかけてしまう潮のことも、笑ってちゃいけませんな。ほら、うさぎをその背に乗せたカニさんが、こっちに来る。
「相棒! ずっと待ってたのよ!」
両手を開いて、迎えにいくと、カニさんも両手を上げた。
「そのポーズは威嚇ね」
「mjk」
あいつら、漣への憎しみで理解しあったのか! よせ! 憎しみは何も生まない!
そんなの知るか、とばかりに、カニさんが距離を詰めてくる。
のし、のし。歩数は少ないけど、歩幅が大きいから結構なスピード。これはかなりのプレッシャーね。どうしよ、そろそろ壁まで追い詰められてんだけど。こうなったら。
「逃げるべし! 横にしか動けないわが身を呪うのね、甲殻類!」
強行突破、真横を抜ければ、あとは簡単なはず。カニさんの、横。既に腕が広げられて、漣の退路は完全に断たれている。すごいディフェンスだ……。かくなる上は。
「あの……スマソ。ごめん。許して。サーセンした」
甲殻類に土下座なんて! 艦娘の恥!
その時。つんつんと頭をつつかれる。カニさん?
「漣を、許してくれぶっ」
いてて。顔を上げた瞬間、うさぎさんが頭に蹴りを放ってきた。いや、いい加減許してやれよ……。
「漣ちゃん、大丈夫? ごめんねうさぎさん、漣ちゃんも悪気があったわけじゃなくて、あの。……色々雑なだけだから。ね?」
「自業自得よ。なんで潮が庇うの?」
潮が漣を介抱しにやって来た。ならば。
「漣の、作戦成功でつ……」
「本当だ。カニさん、もう大丈夫ね。多分」
「え、どうして?」
「ぼの、作戦の目的、忘れてんじゃねぇか……?」
「それは……。そうだ、潮とカニさんの、和解!」
「蟹と和解せよって看板……近所に……ガクッ」
「どうしたの漣、しっかりして!」
「漣ちゃん? カニさんのために、ここまでして……」
「そんな、漣ちゃん! いや、潮の心臓マッサージなら!」
ちょ、いくら心配してもらっても構わないけど、うしを(うまい・へた・うしを)の手で心臓マッサージなんかされたらどうなるかわからん!
「やめろまじで沈む!」
慌てて顔を上げると、すぐにうさぎの蹴りが入った。
「ぶっは!」
いてえ。まあ、漣が悪かったんだし、仕方ないのか……な……?
「で、漣、実験って?」
「お、忘れてた忘れてた」
土間に行って、ネタを回収。それは……。
「スイカとスマホ、ね。でも、スイカなんてあったの」
そりゃ、もうじき秋なのに急にスイカが出て来たら驚くわよね。
「執務室の模様替えを頼めば、なんでも出てくるわよ。ぼろぼろのカニさんみたいなカニも」
「その呼び方は嫌」
姉貴からの抗議に、サーセン、と軽く頭を下げつつ、ほれ、とスイカを渡す。そして。白露から借りたスマホで、例の動画を流す。
「これが本当の、連射の力だ!」
画面には、ポロシャツのおじさん。彼の目の前には、スイカ。
「すいか……」
「今から潮名人がそれをやるんだから、ちゃんと観るのよ」
そして、おじさんが指を小刻みに震わせると。
パァン!
「ひゃああ!」
スイカが爆発し、真っ二つになった。
「ね、すごいでしょ」
「あたしが押しても、スイカは壊れなかった。執務室から湧いてくるスイカも、ちゃんと丈夫なんだと思う。多分」
「じゃ、潮、やってみ。ぼのはスイカ支えたって」
「はいはい。どうせ爆発なんてしないわよ。アレも綺麗に二つになってたし、どうせインチキよ」
なんて言ってるぼのも、スイカから顔を反らしちゃって。ほんとはできると思ってんじゃないの?
「えっと、もう初めて、いいでしょうか」
動画を撮影するボローニャ。しゃがんでスイカを掲げて支つつ、顔は反らすぼの。そして、司会はこの漣です。
「さぁて! 世紀のチャレンジ! 仕込み無しの一発本番! 挑戦者は潮ちゃん! ところで潮ちゃん、何歳?」
「えっと……?」
「あ、ごめんね(笑) 潮ちゃんはスイカ好きなの?」
「すいかですか。大好きです」
「やっぱり? 見るからに好きそうだもん(笑)」
「そうかなぁ……? でも、浜辺でみんなで食べたすいかは、特に美味しかったです!」
「浜辺でみんなで!? 凄いね……」
「いいから早くしなさいよ! この姿勢疲れるんだから……!」
え、このインタビューが好きな方々も居るんだけどな。まあ、仕方ないか。
「じゃあ潮ちゃん、お願いします!」
「もういいんだ。じゃあ、行きます!」
すぅ、と息を吸うと、手を震わせるうしを。音なんて聞こえないから、触っているだけとしか思えない。でも、信じてなかったぼのが一番実感するんじゃない? 振動を顔で受けそう。
でも、一分ほど指を当てても、変化はない。
「何も起きないじゃない」
「できるできる絶対できる! 本気になれば、全てが変わる! わよ!」
漣の熱血応援に合わせて、うしうしの顔が真剣みを増す。
そして、その時は訪れた。
「やっぱ無理ね」と、ぼのが呆れ気味に呟いた、その時。
──ドンとも、ボンともつかない轟音。
戦艦の主砲のような。あるいは、それが命中したときのような。
スイカは、被弾したときの艤装よりずっと無残な姿に、ウシオ=サンのバイブ・ジツにより、スイカは爆発四散! ナムサン!
そして、粉々になったスイカは、部屋中に降り注ぐ。しゃくしゃくした果肉も、夏の風物詩たる縞模様の皮も、邪魔っけな黒い種も。スイカが毒を持ってなくて良かったな。持ってたらおまいら死んでるぞ。
「さっすが潮! ほんとに初めてなの?」
駆け寄って誉めてあげても、シ朝は茫然としてる。その顔も、服も、まんべんなくスイカまみれで真っ赤。完全にヤンデレヒロインって感じね。ぼのも、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔で、さっきのポーズで固まってる。オブジェかな? 手の上には、皮が一かけらのっかってる。おぼろおねえちゃんは、かろうじてスマホを持って、スマホから視線を外して、肉眼でこっちを見ている。頭には、大きな果肉の塊。襖も畳も、赤いしぶきで、R-18G必至の地獄絵図。
下を向くと、ごろごろと果肉が落ち、スイカ汁がたらたらと垂れてく。
やたら大きくなったカニさんが、果肉をせっせと拾って食べている。と、ここである事に気付いちゃった。
「果肉を食べるカニさん。……スベった?」