バイブ書道   作:プリン

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バイブ書道 1

同一〇一六 寮(秋雲居室) 朧

 

 今日も今日とて、秋雲ちゃんの部屋の畳に寝転がっている。

 

 クーラーの中で畳。むさくるしさを感じながらの方が畳のありがたみが分かる、なんて言う子も居そうだけど、あたしはこれでも十分さわやかで、板張りよりいいと思う。

 

 でもなんで秋雲ちゃんの部屋なんだろう。七駆みんなの部屋の畳も一緒なのに。

 

 畳で寝るだけならどこでもいいのに、どうしてここに来ちゃうのかな。何故なら、今はそういう気分だから。……多分。

 

 そんなことを考えていると、ここでしかできないことをしなくちゃいけない気がして、本棚に並ぶ色々なタイトルを眺めて、少女漫画を手に取った。秋雲ちゃん曰く「資料」なのだけれど、今あたしが読んでいるようなもの以外はとにかく……うーん、自由って言えばいいのかな。彼女の頭の中には、こんな不思議な世界が広がっているのかな。夢は夢、現実は現実で、ここに書いてあるような……おかしな……自由なことは考えていないのかな、普段は。とにかく、秋雲ちゃんはあたしよりは物知りなはず。あたしはずっと、この足でたどり着けて、この目で見られるものしか知らないから。

 

 来る日も来る日も果てしない水平線を見ているけど、わかることはそんなに多くない。

 

 ずっと、わからないなりに、うまいこと自分の中に収めることしかしてなかった。

 

 漫画なんて女々しいものを読んだところで、戦うために生きているあたしたちにとって、何の意味があるのか分からなかった。

 

 でも、彼女に読ませてもらう本は何でも楽しかった。絵柄も、それ以外の雰囲気もみんな違ったけど、どんな話にも誰か──恋人、家族、友達、先輩、他人、生きている人、もう居ない人、最初から片思いの相手。世代を超えるロマンス、宇宙を滅ぼす愛、とるに足らない恋、片思い、好きでなくとも思いやる気持ち。──とにかく、誰かが誰かを好きだった。そういう話を一杯読んだから、なんとなく人を好きになるとどうなるか、想像はした。そしたら、やたら決まった子や姉妹に入れ込む子のこともなんとなくわかったし、これまで名前も付けられなかった気持ち──漣ちゃん達とか、提督とか、他ならぬ秋雲ちゃんとかへのよくわからない気持ちも、なんとなく、これかな、とわかってきた気もする……多分。

 

 そんな風に、あたしが知らないものがどんなに多かったか、あたしが気にしなかったものにどんな意味があったのか。彼女と関わるようになって初めて分かったことも結構ある。こんな広い、とてつもなく広い世界に思いを巡らす子が居たと知ったとき、驚いたというか、羨ましかったというか……とにかく、計り知れない子がいたものだと思った。

 

 ……秋雲ちゃんのおかげな気がするのは、本当に秋雲ちゃんに教えてもらったからなのかな? 

 

 いつだったっけ。「前世の記憶」、なんて言葉で、昔あったことと今のあたしたちの考えや行動、好き好きについて空母の人が説明してた気がする。でも、あたしがこんな、彼女に尊敬? 感謝? を覚えてしまうのも、そんな大きな力に操られているからなんだろうか。漣ちゃんたちを大事に思うのも。

 

 きっと、それはそれでいいんだ。

 

 運命って言葉もよく見かける。きっと、そうとしか説明できないこともあるんじゃないかな。まあ、あんまり運命、運命ばっかり言う作品は、適当なお話だな、なんて思っちゃうこともあるから、それでいいってわけでもないのかな。

 

 考えが詰まると、急に自分が漫画を読んでいたことを思い出して、視線に意識を返した。

 

 そのページでは、なぜか主人公の男の子が、目を閉じてぐったりした女の子を抱きしめ、天を仰ぎ叫んでいる。きっと悲しいシーンなんだろう。だけど、ずっと上の空だったせいで全然流れが分からなくて、かなり前までページをめくることになった。

 

 あたしたちも、ぱらぱらと時を巻き戻せないかな。なんだかわからないけど、それくらい悲しいこともあった気がする。そうじゃなくても、これからしたくならないとも限らない。ううん、戻せなんてしない。こうやって、できっこないことまで考えちゃうのは──

 

 がらがら、という引き戸の音が、あたしの意識を身体に返した。

 

「おかえり、秋雲ちゃん。最近忙しいの?」

 

「うぇ、なんで?」

 

 彼女はいつもあっけらかんとしているけど、この部屋で見聞きしたものからはちょっと想像できなかった。やっぱり秋雲ちゃんは、想像は想像、現実は現実って割り切ってるのかな。でも、だったら現実の時間とか体力とか、あと集中力なんかをこんなに想像に費やせないと思う。

 

「座布団の周りだけ、どんどん散らかってるから。立て込んでるの? 執筆」

 

 本人に聞いたことはない。きれいな絵を描くのが好きだからか、それとも憧れを形にしたいのか、はたまた描くことにはあたしも知らない何かがあるのか。そんなこと、まだあたしにはわからなかったから。

 

 そして、彼女はあたしのそんな気持ちなんか知らなくて。

 

「うぅ~んバレちゃったかぁ。やっぱり気遣い慣れてると違うね、お姉ちゃ~ん」

 

 いつもこんな調子なのは、何かしら抱えてなのか、それとも、そんな難しいこと最初から考えてないからなのか、どっちなのかな。なんて考えてると、ちょっと怖いから、聞かない。秋雲ちゃんの笑顔が何か隠してたら……。でも、全然わかんないのも、怖い。

 

「うん、締め切りが近付いてるのもそうだけど、提督からもシナリオ頼まれちゃってさ~ぁ? そっちはゴメン、ダ~メだぁ」

 

「ダメ、って?」

 

 彼女が急に言うことで、さっきまでの考えはどこかに押し流されてしまった。よく呼ばれてるとは思ったけど、一体どうしちゃったんだろう。

 

「や~、提督にさ、ディルド、バレたじゃん?」

 

「バレたね、うん」

 

 ディルドっていうのは、あの……まあ、とにかく彼女がたくさん買い込んでたやつ。それを買ったのがバレた、とは言っていたけど、それからのことは知らない。

 

「あの件さぁ、秋雲さんがなんとかするって言ったんだ。余裕と思うじゃん?」

 

「うん……何で?」

 

 自信満々で能天気……に見えるのも秋雲ちゃんのすごいところだけど、何で余裕なのかはちょっとわからない。

 

「いやほんと自信作なんだってば! 見てよこれ! 聞いてよこれ!」

 

 そう言ってどこからかタブレットを取り出すと、なんかすごく……なんというか、目に悪そうな、うるさい文字で「提督救済プロジェクト」と書かれたページを見せてきた。

 

「じゃ、いっくよ~」

 

 そして、秋雲ちゃんはページを擦った。うん、絵はすごい。

 

「ね? これが通用しないなんて! こんながんばったのに」

 

「ごめんね秋雲ちゃん。それ、全然わかんない……」

 

 なんでそれでいいと思ったのか。何かすごい計らいがあったのかと思ったけど、何も思いつけなかった。彼女はやっぱり、本当に能天気なだけなのかも。

 

「あのね、秋雲ちゃん」

 

「うぇ?」

 

 さっきの発表について急に思い当たって、秋雲ちゃんを見る。

 

「この絵……」

 

 手を伸ばすと、秋雲ちゃんは当たり前のようにタブレットを渡してくれた。スライドをめくって、さっきの明石さん(多分)が提督(多分)を……苛めて? いる絵に戻る。

 

「これ……」

 

「あっ、朧ちゃんには早かったかな? しっかりしなきゃね、ゾーニング」

 

 彼女は何か心配しているみたいだけど、あたしが言いたいのはそんなことじゃない。その絵をよーく見て、何か変だと思った。それは──

 

「朧ちゃん、これはね……」

 

 秋雲ちゃんが何か説明しようとしてるみたいだけど、それはあたしの言おうとしてることとは関係ない。多分。

 

「提督、我慢するときこんな涎垂らすかな。もっと歯を食いしばると思う……多分」

 

 秋雲ちゃんは、ちょっと上目遣いで、きょとんとしていた。 

 

 

同一一一八 寮(七駆居室) 漣

 

 お、足音が扉の前で止まった。

 

 この足音はまぎれもなくアネキだね! 

 

 なんでって? 他の姉妹はもう部屋にいるから! じゃなくて、ぼのは競争でもしてるみたいにドカドカ上がってくるし、お客さんだったら戸は叩いてから開くから。潮? いつも重いもの運んでるみたいにモタモタしてるのが潮よ。あ、そういえば漣たちよりちょっと重い物をお持ちかも。 って、ちげーよ! いつもつつましいからゆっくりなの、俺たちの潮タソは。うーん、やっぱ響きがイマイチね。ていうかタソは古いよ、タソは。「ぼの」くらいしっくりくればいいんだけど。とにかくあの、ぼでーに似つかわしくない、このつつましやかな態度が野郎どもにはたまらなかったりするんだろな、やっぱり。

 

「ただいま」

 

「乙! 通い妻のお帰りだね!」

 

「はいはい」

 

 うーん、この時折見せるツンがたまんないね! 普段優しげだから……やさツン? ま、漣はさり気ないやさしさとか気付いてもらえなそうだから、採用は見送り、ね。

 

「で、今日も秋雲先生のお手伝い? 進捗、ど・う・で・す・か?」

 

 そういえば、秋雲氏のところで何やってんだろ。ま、姉妹以外に興味持ったら入れ込むかもね。なんか、兄弟と親友の距離感って違う希ガス。ほかの子たちで兄弟以外とべったりなのは……あんまり居ないね。これは我々系とはちがった関係と。フーン。

 

「きょうは別に。描いてなかったよ」

 

 じゃあなんで行ってたのかなぁ? やっぱこれ、新たな関係性ってやつ? 流石だな俺……ら、じゃないね。

 

「でも漣ちゃん、知ってる? 提督、居なくなるかもしれないんだって」

 

 え? ちょっと待ってよ。ご主人様が? 

 

「何それ! 聞いてないわよ」

 

 危うく取り乱すところだったところ、華麗にカットイン! いいぞ! ぼの! 

 

「ほんとだったとして、ぼのは反抗的だから教えて貰えないんジャマイカ?」

 

「う……うっさいわね!」

 

 や、ぼのは本当に可愛いなぁ! ご主人さまもこんな好き好きオーラカオスMAXぼのたんをスルーするほどおにちくじゃないって! でもやっぱ、やめれないよね、ぼのいじり! あ、これなんかぼんじりっぽい。

 

「とにかくどういうことなの、朧!」

 

 そうそう。問題はそこ。でも、そうやって慌てるからいじられるってこと、学んだほうがいいゾ☆

 

「なんかね、秋雲ちゃんがそういう話を聞いたみたい」

 

 へぇ。でも「聞いたみたい」レベルの噂に俺は釣られ──

 

「間違いないの?」

 

 ホントぼのは流石だは! やっぱ姉妹だと以心伝心なのかな? あ、ぼのぼの言ってるけどぼのもネーチャンなのよね。

 

「対面で、提督から聞かされた、らしいから、聞き間違い……ってことは無いんじゃないかな……多分……」

 

 残酷でも大事なことはゆっくりはっきり言うのがぼろネキの生真面目さよネ。

 

「嘘……嘘よ。ありえないから!」

 

 出た! ぼのの瞬間沸騰だ! ご主人様に見せてやりてぇよ! この顔! 漣だったらもう提督辞めてもいいね! ま、ご主人様は辞めないし辞めさせませんけど☆

 

「ぼの、まさか問い詰めようなどとお考えなのでは?」

 

 でも、ここでうろたえたっていいこと無いって。

 

「そうよ、悪い?」

 

「ぼのが聞いたって仕方ないと思うよ? 又聞き情報だし、ご主人様にシラを切られたらぼのはどうやって問い詰めるのかな?」

 

 ここまではさっき漣自身でやろうとして考えたってのは内緒な! 

 

「ッ……でも我慢できる?」

 

「ま、やりきれないことないことなくもない気がしなくないけどね。でもご主人様が本気なら漣たちが何やったって仕方ないよ」

 

 これ正論! なんの解決にもならないけどね~。

 

「じゃあどうするのよ」

 

「スッ」

 

 ここでスッて自分で言っちゃうのが漣よ! で、なんなのかって? 

 

「……秘書……検定……?」

 

「そ。ご主人様オススメメニューにあったゾ☆ 見てない?」

 

 でもこれでわかっちゃったよね……ご主人様オススメメニューはご主人様が自分が消えても漣たちが困らないように用意したんだってこと……。くぅ~。泣かせてくれるぜ……。

 

「あ、朧もやる。TOEIC780点」

 

 それ990点満点で偏差値で決まるとかいうやつ? 難しいのかな? 偏差射撃はするけど、偏差値なんてワカンネ。

 

「ン、これまで散々戦わされて、今度は勉強しろって、よく素直に聞けたものね。命令を聞かせ続けた挙句、今度は命令できなくなる前にいろいろやらせようと? 勝手すぎよ」

 

「でも、提督がいなくなるじゃん? 漣たち、他の提督に拾われなきゃお役御免かもしんないじゃん? で、戦いしかできませんなんて言って、何ができるの?」

 

「……」

 

 やっぱりぼのは我々のぼのたそだ。ここで「選ばなきゃ仕事くらいあるし!」なんてこと言わないから地の性格出ちゃうよね。もしスレた解答したらぶっとばしてやるから☆

 

「ね? やることは何も変わんないの。鎮守府は今日も平和です。あ、平和だったらこの鎮守府もないか」

 

 そ。それは間違いないの。だからぼのはそんなイライラしなくていいの。うん。

 

「漣ちゃん、本当に提督がいなくなっても平気?」

 

「……んなわけねぇだろ☆」

 

 やっぱばれるよねー、ぼろネキには。

 

「だよね」

 

「だよねって何よ!」

 

 ぼの、もう何に怒ってるのか自分でもよく分かってないんじゃ? 

 

「はい! 慌てても無駄です! 以上! レス不要! はやくもこのスレは終了ですね」

 

 ま、漣は勝手にさせてもらうけど! 

 

「そういえば潮ちゃんは?」

 

 お、いい質問ですねぇ。

 

「ご主人様にお呼ばれですよ」

 

「そうそう。……なんか最近、あのクソ提督誰も彼も呼び出しすぎじゃない? 大淀とか、あきつ丸とか、秋雲とか……」

 

 はいきましたぼんじりチャンス! ほんっと、ぼのはみんなを裏切らないね! 

 

「あー、漣にはわかっちゃったなー」

 

「何?」

 

 ここでしっかり何か察してそうに笑います。

 

「ほら、ご主人様っていなくなるんでしょ?」

 

 さっきの含み笑いとここで静かに耳元で囁くことがポイント。テストに出るよ。

 

「最後に遺伝子だけでも……キャー///」

 

「は……」

 

 おや、曙選手のぱっちりおめめがさらに丸くなると──

 

「はあああああああああああああ? ありえない! 不潔よ! あんのクソ提督!」

 

 ぼのフェイス大炎上! なぜカメラは回っていないのか! いやーびっくり! ぼのマスクがまるで苺みたいに赤くなっちゃったぁ! おいィ? 苺を漣の専売特許なんだが? それはさておき、この機を逃す手はないよっ☆

 

「潮ちゃんはなぁ……男ゴコロをくすぐるアレがあるからなぁ……そんなえっちな身体をしてる潮が悪いんだぞ!」

 

 二連撃! 

 

「あのセクハラドスケベ提督……!」

 

「どうどう、提督はそんなことしないから、多分」

 

 ネキの救援ktkr! でもまだまだ続くゾ☆

 

「それはどうかなぁ? ご主人様最後のチャンスだよ? しおしおも帰ってきたら既にオトコを知って自信満々に……」

 

「私行ってくる!」

 

 まだまだ……と言いたいところだけど、まぢで行かれたら困るもんね。

 

「あー、正直スマンカッタ。だから凸はやめてね」

 

「むうう……潮……」

 

 めっちゃ挙動不審になってる! けど窓枠に座って貧乏ゆすりはさすがにおかしいぞ! 艦娘っておもしれー! 

 

 ……でも、漣、鎮守府最古参として黙ってるわけにはいかないのよネ。できることもしないうちに諦めるのは、うん、イケてない! 諦めたらそこで試合終了、だもんね!  

 

 




秋雲改二ですって!?
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