十一月二十二日 七駆居室 曙
意味わかんない。編成の意図はいいとして、漣の態度が。
*
出撃を告げたのは、いつも通り大淀の放送。
『連絡いたします。以下の艦娘は執務室まで出頭のこと。軽巡那珂、駆逐艦朧、曙』
ここまでは、いつもの出撃。でも、ここからが少し不自然で。
「潮、若葉、初霜。以上六名。繰り返します」
漣が――ハブられた。
*
クソ提督は、いつも通り偉そうに座ってた。
「キス島だ。駆逐艦なら大抵出撃したことのある任務だ。守備隊はもう撤退した筈だが、敵の跳梁が著しいようだからまた行って貰うぞ。出撃は明朝〇六五〇。編成は、旗艦、那珂ちゃん、随伴艦、順に朧、曙、潮、それから若葉と初霜だ。いつも通り、大破したら撤退してもらう。質問は」
すかさず手を挙げ、尋ねる。
「なんで漣が居ないの」
「別に七駆の四人をバラバラに採用することだってあるだろう」
「それはそうだけど。三人っていうのは初めてだから」
私が食ってかかっても、クソ提督は淡々と返す。
「たまたまだ。ついでに言うと、若葉はこの海域に愛着があるようだし、初霜は若葉との連携に慣れている。そして、旗艦を軽巡にする都合、七駆を全員採用することはできなかった。誰か漣と替えて欲しいか?」
「なんだ。そんなに漣がいいなら若葉が替わろう。別に、訪れる機会はきっとまたあるだろうからな」
「姉さん、そしたら私も替わらないといけなくなります。それに、曙さんも、そこまでということはないでしょう?」
こうやって言われると、あたしが駄々をこねてるみたいでバツが悪い。そういうんじゃないの、あたしが聞きたいのは。
「なんで漣じゃなくて私なのよ」
「カン、かな。特に意図はない。理由が無きゃやってくれないか?」
「いや、別にいいけど」
なんでだろう。あたし、漣を差し置いて選ばれたんだから、喜んでもいい筈なのに。漣だって、選ばれなくたって気にしなさそうだし。
「あのう、潮も質問、よろしいでしょうか」
潮も何か、今回の選出に違和感があるのかも。
「なんで那珂さんだけ、那珂ちゃんって呼ぶんですか?」
「そりゃあ那珂ちゃんは那珂ちゃんだろう」
*
「いやぁ、練度もだいたいトントン、編成の都合もあったなら、外れるのはやむなしでしょうな。それともぼのは漣が選ばれるべきだと?」
で、帰ってきたら漣はこれ。
「まあ、そう言えなくもないわね」
「いやあ、ご主人様はひいきなんてしない人なんですよ。それじゃダメなの?」
なんて、ケロッとしてるんだから、訳が分かんなくなってくる。私自身、わけのわからないことでカッカしてたのかもしれない。ううん。
「どうしてかしらね、漣を選んで欲しかった気もするのよ」
「ほう、何でまた。活躍すればクソご主人様のお褒めにあずかれるのに」
それはそうだけど。私も整理がつかないうちに、朧が引き継いだ。
「曙ちゃんの気持ち。わからないでもない、かな。漣ちゃんくらい長く付き合ってても、提督の特別にはなれないんだって、それが虚しくなるんじゃないの」
「特別なんて……」
別にどうでもいい。どうでもいい筈なのに。
「朧、そんなこと言われて泣かされたわけ」
「……それとは別。そのことはもう忘れて。気にしてないから」
気にしてないわけない。とは言えないから、忘れてあげるしかない。潮は、きょろきょろと私達三人の顔色を窺っている。何か言いたげなような、何もわかってないような。
「まあ、漣は明日も普段通りおさむぽでもします。わたっしは~元気~」
むしゃくしゃする理由はよく分からないけど。漣に、もっと悔しがって欲しかったと心のどこかで思っていたなら、あたしは性悪なのかも。でも、朧の言う通り、クソ提督に誰かを特別扱いして欲しいとしたら、それは――浅ましいの?
十一月二十三日 一三四〇 工廠 漣
と言う訳で、謎の漣XXについて、早速直撃です! おとなしく留守番している漣ではないのでね。
「おいすー^^」
「あっ、漣ちゃん! おいすー!」
明石氏。ピンク髪同盟の二号だから仲がいいのだ! 嘘。付き合いが長いだけヨ。
「声が小さい! もう一丁!」
「はいはい、それでご用事は? 制服の相談ですか」
制服のときはずいぶん打合せしたのですよ。お風呂に入ったら改造した部分ごと治るようにするには骨を折ったのです。でも、
「今回は違いますぞ。新規実装艦のスポイラー情報です」
「えっ、何ですかそれは……情報源は?」
「信頼できる友人です」
いろいろ考えても、誰だか見当がつかない様子の明石氏。そうよね、書類だとか情報だとかに触れられるのは明石氏自身、提督、大淀氏くらいしかいませんし。
「それで、どんなのなんです?」
疑いを滲ませつつも、興味は抑えられないのも、やはり工作艦ゆえ、ってとこでしょうかね。
「ちょっとだけヨ。ほれ」
こないだの封筒。さて、嘘バレか本物か。鑑定やいかに!
明石氏は、微動だにせずに書面を眺める。
「……へぇ、成程成程……。うん、うん……」
数十秒ほどして、裏面をちらりと見ると、書類を封筒に戻して返してきた。
「これだけ見ても、改装プランなのかどうかはわかりませんね。ほら、あるのは正面の図だけですし。諸元だって全然書いてませんし、細かい寸法もわかりません。軍関係で見つけた本物だとしたら、デザイン案みたいなものでしょう。そうでなければ、信頼できる友人って方がガセ掴まされたか、でっち上げたかでしょうね」
なるほど、役に立たないかパチモンってことですな。この漣が一杯食わされるとは……。
「でも、凄くかっこいいじゃありませんか。本物だといいですね。名前はどうかと思いますが」
「スイーツに男のロマンは分からんでしょうな」
「よくわかりませんけど、今凄い私のことバカにしませんでした? とにかく、この名前のせいで信憑性がだいぶ薄れてるところありますよね。あと、技術的に可能か、っていうのと、かつて艦船に搭載されていた兵器とあまりにも関係ない威力のものは積めないですからね。両肩の砲は艦娘スケールで常識的な威力に修正されるんじゃないかと。それか、本当に救命用の丸太を装備させられるか」
それはちょっとダサすぎない? でも、確かに艦と関係ないのはすぐ禁止カードになったりエラッタされたりするものね。書いてある通りのスペックを発揮したら、そう遠くないうちに「すみません、【漣XX】が陸上型深海棲艦に異常なダメージを弾き出す現象は修正しました!」なんて電文が届くでしょうな。でも、それはそうと、
「飛んでる砲台とか、ふえるうさぎちゃんとかは問題ないのです?」
「わかんないけど、いいんじゃありませんか? はっちゃんの魚雷は本から出てくるけど問題ありませんし、初春さんの艤装は一部浮いてますし。艦載機の変形も不思議な力で行われてるようですから、物理的におかしいことには何も問題ないかと。仮にその絵が実物として素直に解釈するなら、動物型オプションの増設に関する技術革新があったとみるのが妥当でしょうね」
明石氏、ハナからあり得ないって言わないところがギジュツシャとしてのセージツセーを伺えて好感が持てますよね。自分が出撃するとき以外はあんまりネガティブなこと言わないのもポイント高いです。
「とりあえず、うさぎさん増設の方法がわからないことには、その通りの改装を施すことはできませんね。なにより勲章とか、提督とその上の承認とか、手続きの手間は相変わらずネックですから。今のうちに提督のお手伝いとかしてポイント稼いどいたらどうですか?」
うん、こういうちゃっかりしたところ、恋愛強者って感じですな。スイーツめ。冗談よ。
「はあ……。まあ、ちょっと希望が持てましたは。トンクス」
「はっきりしたことが言えなくて、ごめんなさいね。とりあえず。しっかり練度上げておきましょうよ!」
なるほどね。でも、励ますために言ってるだけで、これはいつまで経っても実装されないと思ってたほうが良さそうね。
同一五三五 七駆居室 漣
「妹よ! 私は帰ってきた!」
……返事はナシ。そうよね。今日はみんな出撃だもの。大丈夫です。漣、お留守番には慣れているので。慣れているので……。
いつからだったかしらね。出撃しない日ができたのは。
いつからだったかしらね。ご主人様と話さない日ができたのは。
まあ、どっちももう、慣れっこだから、いいんですが。
――それより、皆が無事に帰ってくるといいのですが。なんだかんだ、キス島は難関海域のひとつ。うちのご主人様は誰かが大破したら帰らせる方針だし、心配ないだろうけどね。とはいっても、小破でも中破でも、ケガだってしてほしくないけど。
それはそれとして。木曾氏はちょっと焦りすぎでしょ。コトを構えるも何も、長門氏に鎮守府を引き継ぐ意図があるかだってわからないのに。漣を味方につけるったって、あの設計図が本物かもわからないのに。
はぁ。漣、何がしたかったんだっけ。もともとはご主人様を引き留めたかったような……。それで、提督いなくなる説を検証しようとして、木曾氏に目を付けられて、ナゾの図案に踊らされて……。
いつもそう。なんでこんな、回りくどいことして、ますます遠ざかってしまうんだろう。
「ハァ……」
畳に寝転ぶ。潮の机には、例のバイブラシ。隠す必要がなくなったからって、こんな堂々と置いとくのは自重すべきでは。
……。なんか、暇だなぁ。
膝立ちで、潮の机ににじり寄って、ただ筆とバイブを結んだだけのそれに手を伸ばす。筆は、丁寧に洗って干したんでしょ、固まることなく広がっている。きっと、チクチクして気持ちいい。指で触ってもこれなんだから――
手を伸ばしたその時、いつになくけたたましい音でドアが開く。
「うわあぁぁああああぁ!?」
なんつータイミング!
「ちょっと漣! 潮が! 潮が!」
ぼのが、うしうしを担いで帰ってきた。うしうしはというと、何故が頭から制服まで真っ赤で、ぼーっと遠くを見ている。目が据わっているような。
「どっどどうしたのうしをクン! ぼの?」
血? いや、艦娘の霊的防御がしっかりしている間は血なんて出ないハズ。実際、うっしーのどこにも傷は見当たらない。
「すいか……」
「すいか? 海にすいかは無いでしょ」
「すいか……。すいか……」
何かわからないけど、SAN値をがっつり持って行かれたっぽい?
「……おk、わかったから、誰か説明よろ」
同〇八二〇 北方海域 キス島沖 朧
鋼の靴が、冷たい海を引き裂いていく。聞こえるのは、削られる海の悲鳴、艤装のうなり、海鳥の声と……飛沫の音。那珂さんの縄が水面を打つ音だ。
「那珂ちゃんストリング、皆も練習したら?」
どうなっているんだかわからないけど、那珂さんは縄跳びをしながら一五センチほど空中に浮いてる。あの縄で、それだけ強く海面を叩いているって説明してたけど、とてもそんなことができるとは思えない。
「練習って、普通に縄跳びしてたってそれができるようになるとは思えないんだけど」
曙ちゃんの言う通りだと思う。でも、那珂さんはそれ以上の説明はしてくれなくて、何度聞いても「でも那珂ちゃんはそれだけしかしてないよ~?」としか言ってくれない。
「その、那珂さん」
「那珂ちゃんのことは那珂ちゃんでいいってば」
潮ちゃんと那珂ちゃんは、ずっとこんな感じ。べつになんだっていいと思うんだけど、二人にとってはそうでもないみたい。
「那珂ちゃんさん、敵がまだ、見当たらないの、おかしくないですか」
呆れ笑いの那珂さん。潮ちゃんの言う通り、そろそろ敵の勢力圏のはず。
「思うに、那珂、朧。おまえたちの見た目の異様さにうろたえているんじゃないか。浮いてるのと異常に大きい蟹。距離を取りたくなるのも無理はない」
若葉ちゃんの言うとおり。……多分。那珂さんの話ばかりしていたけど、あたしの頭にも大きなカニさんが乗ってるから、まあ、異様だとは思うけど。七駆のみんなはもう知ってるし、那珂さんは「イカツイけどかわいい」と評してた。若葉ちゃんは「的が大きくなったようだが、支障はないのか」と、全然動じなかったから、びっくりしてたのは初霜ちゃんだけ。
「あっ!」
不意に那珂さんが進撃を止める。その場に留まると、ホバリングのようになった。
「どうした。敵襲か?」
若葉ちゃんが、やおら張り詰めた雰囲気を纏う。
「ううん。索敵機出し忘れてた。テヘッ☆」
「冗談では済まないぞ、この小規模の部隊、奇襲に遭ったらただごとでは済まない」
「でも、腕を伸ばさないと発艦させられないし、縄を振るの辞めたら着水しちゃうしぃ」
「宙に浮くのが索敵より大事なわけがあるか!」
「姉さんあとです! 二時の方向から砲撃、来ます!」
そんなことを言っているうちに、敵はもう、すぐそこまで来ていた。私達五人が急いで戦闘隊形を組んでるのに、那珂さんはまだ縄跳びをしてる。
「ちょっと那珂! もう縄跳びしてる場合じゃないわよ!」
曙ちゃんの抗議を聞いて、那珂ちゃんはようやく正面に向きなおる。
「注目! ここからが那珂ちゃんストリングの本領発揮です!」
敵の斉射の散布界の真っただ中で、何を考えているのか、那珂さんはひたすら縄跳びをしている。手出しできない。庇いに行ったら私の被害もタダじゃすまない。良くて中破、下手したら大破で撤退もあり得る。
そんな中でも、那珂さんは迫りくる砲弾を睨んで縄跳びをしていた。
あわや被弾、とその時、那珂さんの縄が回転数を上げ、風切り音が響く。
水面に、明らかに飛来した砲弾より多い数の波紋ができる。
おかしい。
那珂さんは、縄で砲弾を両断し、叩き落としていた。
「はい! じゃあ、客席ダイブの時間です!」
そのまま、縄跳びしながら敵艦隊に突っ込んでいく那珂さん。敵艦の抵抗の砲弾は、那珂ちゃんストリングに弾かれてバラバラになり、水面に叩きつけられたり、空中に弾き飛ばされたりする。あたし達の方に破片が飛んできて、急いで散開する。
「プレゼント、ありがとー!」
接近する那珂さんから逃げ遅れた駆逐ロ級は、縄に触れると、スパッと真っ二つになった。それからは一瞬。
那珂さんが通り過ぎたあとは、死屍累々と化した。
「招待しなくても、ファンを歓迎するのがアイドルなんだよ~!」
同一〇〇五 北方海域 キス島沖 朧
それから、更にもう一部隊深海棲艦が現れたけど、それも那珂ちゃんストリングには手も足も出ないままスクラップにされた。
圧倒的。その一言。あたし達は、ただついていくだけ、本当にクルージングをしているだけになった。
楽ちんではあるけど、どこか腑に落ちない。でも、潮ちゃんはもっと引っかかるものがありそうだった。
「斬られた敵の人たち……痛そう……」
「砲弾が当たっても、きっと痛いよ」
慰めるためにそう言ったけど、潮ちゃんの言わんとすることもなんとなくわかる。遺体が消滅してくれないと、こうも後味が悪いんだ、なんて。敵の事情なんてここしばらく考えていなかったのに、急にそんなことを想った。
「いずれにせよ、無力化できている。あの戦術は悪くない」
若葉ちゃんは、特に面食らう様子もなく水面を滑っている。
「いや、姉さん驚かないんですか、あんなのを見て」
対する初霜は、困惑しきり。うん、これが普通の反応だと思う。
「そんなことより、いつもならこの辺りで戦艦ル級が出没している。無敵の盾にも思えるが、気を付けろ。慢心は危険だ」
「心配いらないって! 那珂ちゃんストリングは無敵だから!」
確かに無敵かもしれないけど、これまで索敵一切無しで最短航路を進んでいて、何もないのは運がよかったとしか思えない。
「いや心配するでしょ! 索敵機無しの私達に対して、敵戦艦の索敵範囲は長大無辺。突然砲撃されたら私達はひとたまりもないのよ! 那珂が大丈夫でも、あたし達が大破したらそこで終わりなのよ! わかってる?」
「じゃあここは、ツアー敢行しちゃいますか!」
曙ちゃんの指摘を無視して、前方に突っ込んでいく那珂さん。たまにジグザグに動くのは、狙い撃ちされるのを警戒してるのかも。
と、その時、水面の弾ける音を掻き消す砲撃音。
「音を出してまで那珂ちゃんに認知して欲しいのかな? キャハッ☆」
砲弾の向かってきた方向に、全速力で滑走する那珂さん。
「続きましょう。流れ弾を浴びない距離で、囲まれないように気を付けてください」
あまりに急な突撃でも、初霜ちゃんは冷静にそれをバックアップしようとする。
「握手のときはー、ちゃんと列を守らなきゃダメなんだよ☆」
そんなあたしたちのフォローも、敵の抵抗も無視して、那珂さんの無慈悲なローラーは適をスライスしていく。軽巡も、重巡も。
二隻現れた戦艦ル級の一方が、数十メートルの距離から主砲を浴びせようとする。それも、ぺちんぺちんと弾き落とされる。必死の形相で抵抗しようとしていたル級も、那珂さんとぶつかることはなく、バラバラの輪切りになって海に浮かんだ。海を赤黒く染めたのは、油。そう、きっと油。
「遅くなってごめんね! 最後尾の方、おっまったせー!」
さっきより、一層縄の回転を速め、破壊を帯びた球となった那珂さんが、最後のル級に突進していく。
その時、ただ旋回しつつ迎撃しようとしていたル級の動きが変わる。推進方向はそのままに、那珂さんの正面に捕らえられないよう、少しずつ左右にずれていく。そのままル級の撃った主砲は、やっぱりすっぱりと切り落とされ、弾かれる。
でも、見えてしまった。さっきの砲撃は、縄の端のほう、回転半径が小さいところに当たっていた。
「これ、まずいよ、多分」
何をしようとしているのか、なんとなくわかってしまった。
「みんな、那珂さんのところまで全速前進、那珂ちゃんストリングが破られる!」
「えっ、朧ちゃん。なんで?」
皆、よくわかっていないみたいだけど、一応ついてきてくれる。猛進しつつ説明する。
「那珂ちゃんストリングの弱点は縄の取手、回ってないところ。ル級はそれに気付いたみたい」
あたしが説明しきったとき、丁度ル級の砲撃が那珂さんの手元、グリップに直撃し、縄がはじき落とされた。那珂さんが水面に尻餅をつく。縄を持つために主砲を持っていなかった那珂さんは、今は丸腰も同然。しかも、至近距離で戦っていたせいで、逃げる猶予もない。
「あ……、待って待って!接触はNGだから!」
後ずさりつつ、艤装の高角砲や機銃をがむしゃらに打ちまくる那珂さん。でも、有効打を与えられるわけもなく。
「いけない、ここからでも援護を!」
「駄目だ。ここで撃ったら那珂に当たる」
那珂さんは、ついにル級に追い付かれた。ル級は、右手で那珂さんの首を掴み、吊り上げる。あたし達との距離は、まだ数百メートルはある。
砲声。至近距離の砲撃が、那珂さんの腹に打ち込まれた。那珂さんの服は跡形もなく爆散した。普段の戦いではあり得ない距離の砲撃。
ル級が那珂さんの顔を砲に近付ける。
「顔を!? やらせるか!」
「やめろ曙、無為無策は死にに行くのと同じだ」
「アンタは知ってるでしょ、近距離の戦いならあたしに分があるわ」
言うが早いか、那珂とル級のもとに疾走する曙ちゃん。
でも、単騎で突出したらいいように撃たれるだけ。敵の増援だって来てるかもしれない。ここは。
「あたしも那珂さんを援護する。潮たちは待ってて」
「待て、行くなら一斉のほうが的を散らせる。曙に追い付いて複縦陣だ」
「あたしに構わないで!」
曙は、あたしたちに構わず、機関全速で突貫していく。
と、撃ち漏らしか増援か、駆逐ロ級四、雷巡チ級一、軽巡ホ級一の敵部隊が一〇時の方向から現れた。那珂さんをなぶり殺しにするつもりなのか。
「わらわらと……雑魚はあたしが面倒見るから、アンタ達は那珂を助けに行って!」
曙ちゃんは、向きを変え、敵部隊に正面から突っ込んでいった。