バイブ書道   作:プリン

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バイブ書道 23

同一八三〇 船渠 朧

 

 

 

 最初はみんなカニさんに興味深々だったけど、最近はそうでもなくなった。海防艦の子たちがいまだにツンツンしてくるけど……。

 

 カニさん。昔はお風呂に入るとどこに居るんだかわかんなくなっちゃったけど、今は底に足をついて身体を浮かせられるようになった。見てるほうからすれば分かりやすいけど、全身が浸からなくなったのは、寂しいかもしれないな。とも思う。

 

 あの戦い。那珂さんはすっかり治ったみたいで、鎮守府のそこかしこで歌ってるのを見かける。やっぱり修理ってすごい。あたしも、一回の入渠ですっかりよくなった。

 

 だから、艤装は無事でも、一番損傷したのは潮ちゃんだと思う。はやく元気になるといいんだけど。

 

 あの戦いのとき、あたしは向こう見ずな突撃をして返り討ちに遭った。カニさんを頼りにして。でも、カニさんがあそこまで戦えるなんて知らなかった。なんでカニさんが戦えるなんて思ったんだろう。それにあのとき、カニさんの爪の感覚があたしにも分かった気がするし、あたし自身がカニさんを動かしていた気もする。いや、カニさんと完全に一体化していたような……。

 

 そんなはずないけど、それはとっても怖い。制御できないから、いつカニさんに主導権を持って行かれるかもわかりっこないし。それに、ありえないけど、意識が一緒になったらもうカニさんと触れ合うことだってできなくなる。

 

 一心同体の相棒っていうのも、実はけっこう怖いのかな。

 

 ねえ、カニさん? 

 

 甲羅をつついてみる。カニさんは大きくなっただけじゃなくて、いろいろ変わってしまったのかもしれない。もっと大きくなりたいとか、もっと強くなりたいとか。カニさんの感覚がわかるようになったのは、カニさんがあたしとお話したかったからなのかな。

 

 あんまりじっとしてると茹でガニになっちゃう。そろそろ上がろう。

 

 

 

同二〇〇〇 工廠 漣

 

 

 

 工廠。ときによっては不夜城だけど、今日は薄暗いですな。注文が少なかったのか、あかっしーが漣と会うために片付けてくれたのか。

 

「漣さん! お待たせしました! 会心の出来です!」

 

 奥から台車を引いて現れるあかっしー、その荷台には、青いビニルシートがかけられている。

 

「それではご覧ください!」

 

 シートを剥がすと現れたのは、漣の伸長の肩まではあろうという、長大な二本の砲身、そして、ヘッドドレス、ふりふりのエプロン。これでご奉仕しなかったらサギ罪で問答無用で裁判所を通り越して刑務所に入れられるわね。ニーソまである。

 

「これが……漣XX!」

 

「ハリボテですけどね。見た目はカンペキでしょ? 早く着てみてくださいよ!」

 

 

 

 *

 

 

 

「いいじゃないですか! すっごく似合ってますよ!」

 

「でしょう? 漣はなんでも似合いますから」

 

 フィッテイング用の鏡に映し出されるのは、例の設計図で見たとおりの漣XX。両肩から伸びる対地砲撃用の砲。絶対に強い。そして衣装。黒セーラーとメイドを複合させた、漣好みのもの。ヘッドドレス、カワイイ! 髪飾りと干渉しない配慮、涙を禁じ得ないもの。エプロン、安定感のあるもの。フリル、最高! 全て愛さずにはいられないもの。ウサギさんの乗り込む砲、飛ばないもの。

 

「それ、流石に飛ばすのはハリボテじゃあ無理ですからね。スワンボート式の推進器でもつけますか?」

 

「(・∀・)イイ! それから射角の調整ができれば完璧ですな」

 

 ウサギさんは不満そうだけど、初見殺しさえできれば問題ないですし。

 

 ……浮かれちゃうけど、これは所詮偽物。これを着て敵と戦えないのはちょっと残念な気もするけど。

 

「あ、忘れてました。この装備を一気にパージできるように、固定具と服は全部爆破できるようにしておいてください」

 

「はい? 何するつもりですか? 勿体ないじゃないですか」

 

「それはサプライズだから言えませんね……。提督への」

 

 嘘ですけどね。嘘を嘘と見抜けない人には難しい、って南雲司令も言ってたわよ。

 

 

 

十二月七日 〇九四五 本館 大広間 潮

 

 

 

 大広間。人がまばらで、呼び出しを聞き間違えたんじゃないかと不安になります。別室の後片づけの最中に放送があったんです。

 

『長門だ。突然だが、全艦娘、時刻ヒトマルマルマルに本館大広間に集合。緊急の連絡だ。繰り返す! 全艦娘はヒトマルマルマル、本館大広間に集合!』

 

 一体何の用事なのでしょうか。こんな放送をかけるのだから、きっと、大変なことに違いありません。

 

 大広間は本当に広くて、そこにずらりと椅子が並べてあります。この鎮守府には二百人くらいいたはずだから、数はそれくらいでしょうね。一番前の舞台には演台と椅子があります。何人かお話されるのでしょうか。

 

「隣、失礼するわよ」

 

 あ、曙ちゃん。さっきまで走ってたようで、ジャージ姿です。汗ばんで、全体的に火照ってますね。

 

「もう大丈夫なの?」

 

 右隣りに座った曙ちゃんが聞いてきます。

 

「ありがとう。もう全然大丈夫だよ。多分戦えると、思う」

 

「そう。それを聞いて安心したわ」

 

「心配させて、ごめんね」

 

「本当よ。あたし、毎日潮の部屋の前でうろうろしてたんだから」

 

 曙ちゃん、そんなにも心配して……。と思って曙ちゃんを見ると、顔を真っ赤にしてあたしの後ろを睨んでる。そこには、いつの間にか漣ちゃんが座っていました。

 

「ホント、潮が隣に寝てないと寂しくてしょうがなかったんだから」

 

 曙ちゃんの真似をしながら続ける漣ちゃん。

 

「適当なこと言うなイチゴ女!」

 

「サーセンww」

 

 そんな話をしている間に、ヒトマルマルマルになりました。

 

 長門さんが入ってきて、演台の後ろに立ち、話し始めます。……やっぱり、椅子がないと緊急会議らしさが足りない気がします。

 

「全員揃ってはいないかもしれないが、時間だ。始めさせてもらう。話すのは、鎮守府の運営について。……勿体ぶることもあるまい。提督が居なくなった後、この鎮守府をどうするかだ」

 

 やっぱり、漣ちゃんの言っていたとおり、提督は辞めちゃうのでしょうか。

 

「な、何を言ってるんデース! 提督が Fire されるとか retire するとかって話ですか?」

 

 案の定、金剛さんが立ち上がり、長門さんに食って掛かります。

 

「わからないが、いつまでも居るとは限らない。否、居なくなることは決まっているじゃないか。いざという時の備えのために、今から話し合おうと言っているんだ」

 

「むぅ……人がいなくなった後の話をするのは縁起が悪いというか、フキツ! Bad fortuneを呼びそうデース…… でもdamage controlが大事なのもわかりマース……」

 

「そうだ。ダメージコントロールの重要性は誰もがわかっているだろう。覚悟や気迫で弾が避けられないように、いくら願えども提督を留めおくことはできない。去った後、混乱することが無いよう、準備が必要だろう」

 

「それで、どういうプランがあるクマ? 新任の提督がとんでもない無能とかパワハラ上司とか、今の提督以上のセクハラ野郎とかドのつく畜生とかじゃない限りは、球磨は一向に構わないクマ」

 

 室内がざわつきます。球磨さんは、提督以外から指示を出されるようになっても平気なんでしょうか。──ざわめきの中には「セクハラって何」とか「提督以上に肉欲に囚われている殿方が居るなんて、恐ろしいのであります」「まあ指揮は問題なかったような気がする」「誰も沈んてないし」なんて、好き放題言ってるのが聞こえます。

 

「案がある訳ではない。私は全員に伺いを立てたいだけだ」

 

「だぁかぁらぁ、本題から話すクマー」

 

「提督が居なくなったら、私が提督の意思を継ぎ、皆の指揮を執ろうと思う。今のうちに皆の合意を得たい」

 

 ……どういうことでしょうか。長門さんが提督の代わりに? 

 

「皆さまお静かに。少し私、大淀にお話させてください。現在提督の地位については、『鎮守府等の運営および作戦指揮(以下、あわせて「任務」という)を担う提督は、海軍司令部に鎮守府等の提督に任命された者とする』とあります。また、『提督がその地位または資格を失う等して提督が不在となった鎮守府には、海軍司令部はすみやかに新たな提督を任命するものとする。なお、新たな提督が任命されるまでは、鎮守府運営規則に定める実務経験を有する者が、任務を代行する』とあります。しかも任務の代行については、提督が暫く鎮守府等を留守にする場合にも準用されます」

 

 ええと、大淀さんが言ってるのは、こういう人が提督っていうのと、提督がいなくなったら次の提督が来るっていうのと、じつむけいけんのある者が提督を代行していいって話ですか。

 

「大淀、つまり司令官が不在の時は誰かが代わりに作戦指揮と鎮守府運営をやるということか。いつもやっていることだと思うが、それがどうかしたのか」

 

 那智さん、やっぱり冴えていますね。あれ、潮が思ってたのと何も変わらない気がします。潮も冴えてるかもしれません。

 

「はい。いつもやっていました。

 

重要なのは、次の提督が指名されるまでは、鎮守府の外部から承認を取ることなく、勝手に代行し続けてもよいということです」

 

「勝手になどという言い方からして怪しいが、問題ないのか?」

 

 その答えを、今度は長門さんが引き継ぎます。

 

「それはやってみなくては分からない。だからこそ、提督が居なくなっても司令部に報告を通さず、私が提督を代行し続けてもよいのか伺いを立てるんだ。司令部に正直に報告した方がいいと思う者、新たな提督を迎えたほうがいいという者は構わず言ってほしい」

 

 三度目にして、一番大きなざわめき。でも、みんな嫌そうというよりは、本当にだまっていても問題ないのかをいろいろ話し合ってるみたいです。

 

「球磨はどうでもいいクマ。長門はいい奴クマ。知らない奴より長門がやってくれた方がいいクマ」

 

 いや、それでも何かおかしいような。と思ったそのとき。

 

「異議あり!!!」

 

 皆の視線が、こっちに集まります。声を上げたのは、やっぱり……。

 

「この漣を指し置いて、提督を代行しようとは片腹痛いわ!」

 

 またしてもざわめき。騒々しさが記録更新してしまいました。それはそうですよね。だって、漣ちゃんが一番長く提督といたことだって、最近来たみなさんは知りませんから。

 

「確かに実務経験なら漣の方が長いかもしれない。それで、どうやって決めたい? ここで多数決を採るか」

 

 長門さん、もしかして意地悪を言っているんでしょうか。漣ちゃんと提督の関係を知らない人が居るのを、長門さんもわかってるはずなのに。

 

「すみません。あたしも反対です」

 

 朧ちゃんです。朧ちゃん、演台のすぐ前に座ってたみたいです。頭の蟹がかなり目立ちますね。立ち上がっただけでそこかしこで話声がします。

 

「提督は、提督がいなくなった後のことはあたしたち自身で考えるのを望んでいます。あたしたちにいろいろ勉強させようとしたのも、多分そのためです。だから、提督が居なくなってもこの鎮守府を継続させるのは、提督の望むところじゃありません。多分」

 

 またしても、みんな衝撃を受けてるみたいです。「料理本を下さったのも、いつか料理で食べていけるようになれというメッセージだったんですね!」という、凄く誤解していそうな声も聞こえてきますが。

 

「そうか。すると朧は、提督が居なくなるなら鎮守府は解体したほうがいいと。しかし、深海棲艦を根絶する前に提督が去るということも考えられるだろう。その場合、戦い続けたい者のための場所は残しておくべきだと思うのだが」

 

「……あたしはそうは思えません。艦娘は、轟沈や解体で減ることはないくせに、次から次へと新しい鎮守府が開設されるせいで、どんどん増え続けていると聞いています。いずれ戦いがなくなるのなら、なるべく早いうちに戦わなくていい生活に慣れたほうがいいのかなって。提督が居なくなった時が、多分あたし達が戦いを忘れるべき時です」

 

「成程。提督の存否と結び付ける必要があるとは私には思えないが……。それはさておき、朧は鎮守府を永続させようという姿勢自体に反対なのだな」

 

「そういうことです。多分」

 

 朧ちゃんも提督も、そんなこと考えてたなんて知りませんでした。って、すぐ右で手が挙がっています。

 

「私も反対。提督の辞めた後のことなんて、クソ提督がもう何か考えているかもしれないのに、こうやってコソコソやるのが理解できないわ。ダメコン、って譬えはわかったけど、今のこの集まり、なんか胡散臭いわ」

 

 ……曙ちゃん、相変わらず、ずけずけと言いますね。

 

「曙の言うことは、提督から直接指示されたときにはそちらを優先する、で済む話に思えるが。初めに金剛の言っていた通り、直接聞かれれば提督は気分が悪いだろう」

 

「……別にアンタを疑っちゃいないけど、提督が指示を残さなかったときに火事場泥棒的に代理に収まろうって魂胆が見えて気に入らないわ。あたし、何も決めないに一票」

 

 曙ちゃんらしいというか。素直じゃないのが。

 

「さて。対案も出尽くしただろうか」

 

「まだ、です……!」

 

 あ、あれ。いや、何か言わなきゃとは思っていましたが、まだあまりまとまっては……。

 

 潮が話し出しただけでざわつくのは、ちょっと恥ずかしいですね。潮が普段あんまり前に出ていかないからだと思いますが……。

 

「あの、提督の代わりなんて、わざわざ用意する必要あるんでしょうか。提督は、あの、あたしたちにもたまに、あたしにはサインとか小さなお仕事でしたが、いろいろあたし達にやらせていたと思います。たまに秘書艦をやったことのある方もいると思いますが、そのときにもいろいろ見せてくれたことと思います。ので、えーっと。潮達がそれぞれの経験を生かしていけば、提督が居なくなっても鎮守府は回ると思うんです」

 

 みんな、潮のほうを見て話を聞いてくれています。ああ、顔が熱いです。ちょっと恥ずかしいけど、頑張って話さないと。

 

「作戦だって、普段出ていくような海域は、大破した子が居たら撤退っていう簡単なルールでやっています。装備や編成も、話し合いながらやれるんじゃ、ないかなって……」

 

 賛成が多いか反対が多いか、よくわかりませんが、みんなの様子からして半々くらいに感じます。

 

「そうだな。潮の言うやり方も悪くはないのだろう。だが指揮命令の上下がはっきりしていないと混乱が起きる。それに、誰かが決断しないことには組織は動かないんじゃないか」

 

「それは……やってみないとわからないので。いち意見として、そういう発言、です。あの、候補に入れていただけたら。失礼しますっ」

 

 多分、思った通りのことを言えたと、思います。

 

 でも、座ってから周りを見てみると、やっぱりざわざわしていて。

 

「提督は居てもいなくても一緒ってことデースか?」「これまでずっと艦隊運営と指揮が属人的にならないよう準備してきたとしたら、ゆくゆくはそうなるということかと……」「責任の所在が分からなくなるから賛同しかねるが……」と、また色々議論しているみたいです。

 

「成程。潮の意見も良くわかった。これまで時折放任気味にしていたのも、秘書艦をたまに変えていたのも、自分が欠ける状況を見越してのことで、もはや我々だけでも鎮守府を運営できるし、提督の代わりを用意する必要は無い。ということだな」

 

 さっきのみんなの反応からして、失礼だと怒られそうな気もしましたが、長門さんは声を荒げるでもなく、淡々と復唱してくれました。

 

「はい、ありがとうございます。あたし自身よくわかりました」

 

「案がこれだけなら、検討に入ろう。それぞれに反対意見、賛成意見のある者は──」

 

「待った!」

 

 長門さんの話に漣ちゃんが割り込みます。今の話、止める必要なんて何も無かったと思うのですが。漣ちゃん、こんなに話し合いの場で積極的になる人じゃなかったと思うのですが。大勢のときに仕切ったりしゃべったりしている印象はありません。それだけ今回の議題には興味があるんですね。……やっぱり。

 

「御託はいらねえ! ここは決闘者らしく、決闘(デュエル)で決着つけるしかないっしょ!」

 

「でゅえる……?」

 

「はぁ?」

 

 長門さんも曙ちゃんも知らないみたいです。潮も知りません。

 

「決闘デース。このくらいのEnglish、皆聞いたことあると思いマー……What? 決闘?」

 

「でゅえる位は知ってはいる。が、漣よ、決闘(デュエル)でどうするのか決めると? あと、私は決闘者なのか」

 

「そう、決闘(デュエル)すなわち演習! 漣たちの対峙する場には戦いの風が渦巻く! 永遠にな! あと、長門氏もこれから決闘(デュエル)するから決闘者(デュエリスト)です」

 

 演習で決めるというのは、ちょっと物騒な気がします。

 

「いや、気分を害したらすまないが……。あえて言わせてもらおう。演習では私が圧倒的に有利なのではないか?」

 

 それ以前に、長門さんの言う通りです。あたし達が長門さんと互角に戦えるとも思えません。昼戦が終わるまで逃げ続けるというのも、難しいんじゃないかな……。

 

「漣は一向に構わんッ! ハンデがつくのは勝利フラグですぞ。それに、ここにお揃いの皆様が決闘でいいなら、それでいいじゃん! はい、決闘(デュエル)反対の人!」

 

 ……誰も反応しません。

 

「鎮守府のルールなんて勝手に決めてくれればいいクマ。長門たちがドンパチしてるのを見てたほうが投票より楽しいクマ」

 

 球磨さんの言葉に、那智さんが続きます。

 

「球磨の言い方はいささか不謹慎だが、概ね賛成できる。戦って決めたなら双方に遺恨も残りにくいだろうし、場合によっては今後私達が従うべき相手が決まるのだ。私達とて、未来の上司の力はあらかじめ見極めた方が、話を聞く気にもなるだろう」

 

「久々の娯楽でち! ガス抜きでち!」

 

 えっと、みんな決闘させる気満々ですね。

 

「静粛に! ……ではルールだが、このままでは私にあまりにも有利、著しく不公平だ。漣には何か考えがあるのだろう?」

 

「そんなもん……あるよ。三人以上ならバトルロイヤルっしょ!」

 

「ばとるろいやる?」

 

 今日の漣ちゃん、やっぱりいつもに増してよくわからないです。

 

「全員敵同士の生き残りゲームです! 参加者が五人なら、正五角形になるように決闘者を配置すればいいのでは」

 

 そうすれば、みんな同じ距離だからとっても公平なような。あっ、長門さんの左右の人はとっても不利ですね。くじ運で勝負が決まりそうな気がします……。

 

「結局駆逐艦がひたすら不利ではないか。 私は四対一でも構わないぞ」

 

「それは漣たちの思惑次第ってことヨ。例えば、なんとしても自分の意見を通そうと思ってるなら、まず長門さんを狙えばいいし、長門さんの意見が漣のよりマシだと思ってる人がいるなら、長門さんじゃなくて漣を狙えばいいし、ってわけ。理に適ってるでしょ?」

 

 漣ちゃんの顔を見ながら、暫く考えている長門さん。

 

「……。そうか、それも考慮のうえで姉妹一斉に。いいだろう。ビッグセブンは四対一程度で負けはしないさ。漣の他は、いいのか?」

 

 長門さんが、朧ちゃんのいるところとこちらを見ます。

 

「朧はそれでいいです」

 

「曙もよ」

 

 えっ、あの、皆がいいって言うなら、戦力差については問題無いんですよね。

 

「潮も、大丈夫です」

 

「では先ほど言った通りの形式で演習を行う。五角形の各辺は一キロメートル。この距離なら、索敵機の有無は関係ないだろう」

 

「いやー高潔。すごいなー憧れちゃうなー。弾着観測射撃ができないんじゃあ戦艦の魅力半減だし、索敵性能の勝負になったら漣たちが圧倒的不利だものね。いいっすよ」

 

「待ちなさい」

 

 曙ちゃんです。

 

「索敵から始まる決闘って、あまりにも締まらないし、逃げに徹する必要だってお互いないでしょ。それに、長門さんは長射程な分再装填に時間がかかるし。全員が直接狙える距離、二〇〇メートルでいいわ」

 

 曙ちゃん、それは大胆すぎませんか。言っていることはもっともですが、それはあたし達には有利なのかな……そうですね。あたしたちが合流するには、いいかもしれません。

 

「私は構わないが。他の三人は」

 

 三人とも、異論はありませんでした。

 

「時刻は。そもそも昼夜から決めなくてはならないが」

 

「だってお。でもみんな観戦したいみたいだし、決闘(デュエル)なら正々堂々よね。漣はヒトゴーマルマルでいいわよ」

 

「いいのか? 制限時間を設けて、過ぎたら生き残りだけで夜戦の部をやるというのも考えられるが」

 

 確かに普段の演習では、生き残ったら必ず夜戦もやりますよね。夜戦はやったほうが絶対に駆逐艦には有利ですが……。

 

「私は昼だけでカタをつけるわ。それでいいわよ」

 

「朧も別に、構わないけど。それに決闘の仕切り直しをするの、締まらないと思う」

 

「えっ? だったら潮も、いいです」

 

 なんでみんな、自分に有利なはずのルールを手放してしまうのでしょうか。

 

「……わかった、ではヒトゴーマルマルに出撃ドックだ。待機位置の準備は大淀とやっておこう。これにて、この会合は終了とする」

 

 長門さんが演台から離れると同時に、やっと終わったという調子でみんな帰っていきます。青葉さんと球磨さんは、激励の言葉をくれましたが。

 

 なんだかすごいことになってしまいましたが、なんでなのかは漣ちゃんに聞かなきゃわかりませんね。

 

 

 

同一〇四五 本館 大広間 長門

 

 

 

 皆が帰っていく。

 

 はっきり言ってこの会議の展開は予想外としか言いようがない。もちろん反対する者は居るだろうと思ったが、ここまでの内容で、よもや決闘で決めるなど。しかも、提督がこの鎮守府の安定に心を砕き、運営にそこまでの冗長性を確保していたとは。これまで秘書艦を務めていて、何たる視野の狭隘さか。恥じ入るばかりだ。

 

 それに球磨をはじめとする大抵の艦娘たち、あまりにも誰が上に立つかに無関心ではないか。これでは提督の日ごろの苦労も報われない。

 

 それより何より、彼女たちだ。私をまず倒して、それから姉妹同士戦おうという。何が彼女らに、そんな悲壮な決意をさせたのか? それ以上に彼女らの言いよう。

 

「陸奥よ。私はこうも露骨に反対されるほど、彼女らから嫌われていたのか……?」

 

 

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