バイブ書道   作:プリン

27 / 30
バイブ書道 25

同一四五五 曙

 

 

 

 鼓動が早くなる。

 

 緊張してるっていうの。普段の戦闘の方が、よっぽど危ない筈なのに。

 

 でもそれは、今の私が勝ちに貪欲になれてる証拠。

 

 岸に集まったみんなが、こっちを見てる。誰も私が勝ち残るなんて思ってないんだろうけど。大番狂わせよ。喜んで貰えるわ。

 

 私自身、勝ってどうしたいのかはいまいちわからない。戦うからには勝たなきゃ、とは思うけど。

 

 負けるのは嫌。勝ちたい。それはいつだって思ってるけど、理由なんて考えたことも無かった。戦闘だったら当然よ、負けたら帰って来れないんだから。

 

 でも、今は? 

 

 朧は勝つことで実現したい目標がある。漣も、潮も。普段ははっきりしない潮まで、何か望みを叶えるために戦ってる。

 

 私が勝ちたいのは、負けたくないって意地からなのか、それとも、負けることへの恐れからなのか。どっちだとしても、後の三人ほど立派な目的のためじゃない。

 

 潮。あんな落ち込んでたけど、頑張って立ち直った。しかも、この間の会議。こんな大事なことを自分で決めて、あまつさえそれを人前で話すなんて、想像できなかった。いつも振られる仕事の意図なんて、私は考えたことも無かった。本当に驚いた。素直に、すごいと思った。

 

 わからない。私は勝つべきじゃないのかもしれない。

 

 でも、これまでの努力はなんだったのか。これまでずっと、埋もれないように、私の存在を示すために、使ってもらえるように、がむしゃらに頑張った。

 

 いきなり勝ちを譲ったら、それも台無しなんじゃないの? 

 

 ──いや、できない。

 

 勝てば私が決められるんだ。そのための新しい技だってある。

 

 その時、無線にノイズが入った。朧の声。

 

「朧です。みんな、聞こえる? 集まったら、まとめてやられる。曙とあたし、漣と潮の小隊で行動。それぞれ合流したら、いつも通り回避しつつ攻撃」

 

 周波数は、部屋に集まったときに決めておいた。結局、最初は共同作戦。個人戦で長門に勝てるとは思えない。無線が傍受される可能性は、最初から無視。長門さんがそんな小細工をするとは思えないから。

 

「曙、了解よ。漣たちは?」

 

「ほいさっさー」

 

「潮、了解」

 

 この期に及んでもまだブレない漣。大物なのは認めてあげるわ。

 

 先に見える、長門の影を見つめる。ビッグセブンは、腕を組んで、迎え撃つ構え。

 

 強いのは知ってる。でも、あたしがただ撃ってくると思っているなら。

 

 その常識が命取りよ。

 

 もう一度、長門を見据えたその刹那。潮騒を割いて、号砲が響く。

 

 戦闘開始。

 

「朧! 突っ込むわよ、全速で一時方向」

 

 主機がうなる、あっという間に最大船速。足元の海が飛び散る。

 

「みんな、まっすぐ動くと偏差射撃のいい的になる! 今だって長門はこっちを狙ってるはず。常に回避運動を心がけて」

 

 朧は長女らしく、てきぱきと指示を出す。漣が続く。

 

「許せ潮、犠牲になってくれ……」

 

 は? 唐突すぎて、全く意味がわからない。

 

「ちょっとアンタ! 一体何のつもり?」

 

 朧を完全に無視した発言を、何のためらいもなく自信満々に飛ばしてくる漣。まさか、無線が受信できなくなってるの? 漣は長門の右隣、丁度私と反対側。長門を狙えるのに、長門じゃなくて潮を見ている。

 

「聞く耳持たぬ!」

 

「ふざけてんじゃないわよ! やめなさい!」

 

 漣は、返事をせず、一直線に潮に突っ込んでいった。

 

 轟音。それに遅れて、さっきまで私が居た位置に着弾。長門は待ち構えるのをやめ、すでに回避運動をしつつ、私達に砲撃を加えている。

 

「漣! まだ許してあげるから、戻りなさい!」

 

「朧、もう漣を頼らないでやるしかないでしょ。釈然としないけど、長門を倒しさえすれば朧にとってはチャンスじゃない。二人で片付けるわよ」

 

 

 

 

 

 

「許せ潮、犠牲になってくれ!」

 

 え、どういうこと。

 

 漣ちゃんが、長門さんじゃなくてあたしの方に向かってきます。

 

「ちょっとアンタ! 一体何のつもり?」

 

「聞く耳持たぬ!」

 

 朧ちゃんと曙ちゃんが止めても、漣ちゃんは迷いなくこちらに来ます。

 

 そんな。裏切ったの、漣ちゃん。どうすればいいの。頭が真っ白に──。

 

「漣! まだ許してあげるから、戻りなさい!」

 

「朧、もう漣を頼らないでやるしかないでしょ。釈然としないけど、長門を倒しさえすれば、朧にとってはチャンスじゃない。二人で片付けるわよ」

 

 朧ちゃんと潮ちゃんは、二人で長門さんを倒すつもりみたいです。

 

 いや、まだ、漣ちゃんが本当に裏切ったとは限らないし。まず無線を……。

 

「うしを、お姉ちゃんの話は聞かないとダメよ」

 

 漣ちゃん……? 話って、どの? 何の話? 

 

 漣ちゃんはこちらに砲を構えて、直線からあたしを中心にした回避運動に……。

 

 どん。砲撃です。砲撃? 

 

 嘘ですよね。何か作戦があるに決まってる。

 

 ざぶん、という音に遅れて、大きな揺れ。至近弾……? 

 

 撃ったんですか。漣ちゃんが、あたしを。そんな。嘘。

 

「漣ちゃん、冗談でしょ?」

 

 そんなはずない。頭は混乱し続けています。でも、身体は潮自身を守るために、覚悟を決めたようです。右腕は砲を持ち上げて、漣ちゃんに照準を合わせて、足は回避運動をし始めています。

 

「おい、決闘しろよ」

 

 もう、無線なしでも声が届く距離です。

 

「漣ちゃん、あんまりふざけてると怒るよ」

 

 漣ちゃんが斉射した四本の魚雷を、速度を落としつつ進路を変えて、なんとか躱します。

 

「さすが我が妹ね! でも姉を、この漣を、撃てる?」

 

「撃てるよ。演習でも撃ってる!」

 

 漣ちゃんは、しつこく潮の左を取ろうとしてきます。

 

「確かに。今の所カットで。でも今日はどう? 潮が引き金を引いたら、漣の夢が終わるわ。それでも変わらない? 潮は漣の夢を、撃てる?!」

 

 ひどい。漣ちゃん、ひどすぎます。

 

「なんでそんなこと聞くの! なんで!」

 

 おかしいです。演習で解決するなら、こんなつらいことになるわけないのに。

 

「撃てないならそこまでね。ウシシ、最近変わって来たかなって思ったけど、結局潮は潮。優しいだけ。そう、負けるのが潮の運命よ!」

 

 そんな。そんなそんな。そんなこと、ない。

 

「今回も勝ちを譲りなさいな! 潮は優しいって評判は守れるわよ!」

 

 言い切ると同時に砲撃。また足元が揺さぶられます。至近弾。

 

 撃たなきゃ、撃たなきゃ負けちゃう。

 

「まだ撃たない。艤装の性能がよくたって、中身がこれじゃあ宝の持ち腐れよね」

 

「そんなこと!」

 

「撃ってから言うのね! だから潮は潮なのよ!」

 

 漣ちゃんが急停止。慌てて潮も停止します。

 

「ほーら撃ってみ! 漣の心臓はここだ!」

 

 漣ちゃんは、機関を止めて、全く動かず、自分の左胸を指しています。

 

「漣ちゃん、何を」

 

「最後のチャンスをあげるってんの! 三つ数えたら、この強そうな肩の砲で撃ちます。これ、試し撃ちしてないからどうなるかわかんないのよね。いくよ、三……」

 

 本当に、撃っていいんでしょうか。罠じゃないの。だとしても、こんなの。

 

「こんなのおかしいよ。せめて戦ってよ。なんでこんなことするの?」

 

「二……」

 

 漣ちゃん、どうなるかわからない改装までして、勝ちたかった筈なのに。でも……。

 

「一!」

 

 でも、このまま避けずに撃たれるくらいなら……。やるしか、ありません。

 

「う……うううううううう!」

 

 こんなの、嫌だけど。引き金は、全然重くなくて。いつも同じ砲声と炎がはじけます。撃つ方だって怖いのに、漣ちゃんは一切逃げませんでした。

 

 鈍い、爆発音。同時に、新調したばかりの制服の切れ端と、肩の砲がはじけ飛び、破片を撒き散らしながら、漣ちゃんが水面を転がっていきます。

 

「漣ちゃん!」

 

 装備の成れの果てでできた道の最後で、漣ちゃんは仰向けに浮かんでいます。

 

 顔は煤だらけで、髪もあっちこっちに跳ねています。セーラー服もコゲコゲです。いつもの制服を下に着ていたんですね……。

 

「ウボァー……。やっぱできる子じゃない、潮」

 

「どうして……」

 

 漣ちゃんは、空を見上げたまま、深くため息をつきました。

 

「潮、優しすぎるから。漣は、潮のそんな所も大好きなのですが、その優しさに勝てないと、長門氏に勝つのは難しいと思いまして」

 

「そんな……」

 

 そんなことを伝えるために、自分の夢をなげうったの? 漣ちゃんは、また顔を傾けて、潮の顔を見ました。

 

「漣のことはいいから、早くお姉ちゃんたちを助けてやりな! 漣の分まで……」

 

 そうだよね、最後まで残らないと。

 

「ありがとう、漣ちゃん。潮、頑張るよ!」

 

 早く行かなきゃ。朧ちゃんは、曙ちゃんは、大丈夫でしょうか。

 

 

 

 

 

 

「朧、もう漣を頼らないでやるしかないでしょ。釈然としないけど、朧にとってはチャンスじゃない。二人で片付けるわよ」

 

 曙ちゃんはこういうときは冷静で助かる。うん、今は潮ちゃんを心配するときじゃない。長門さんを、なんとかしないと。

 

「大丈夫。じゃあ、長門さんを中心に回避しつつ砲撃。魚雷を撃つときは、常に長門さんの進行方向を狙って撃って。あたしは後ろを狙うから」

 

「いや、私は長門に肉薄するわ。北方でもやれたんだから、今度だって」

 

 そうやって話している間にも、長門さんはこちらを砲撃してくる。四一センチの主砲。当たったらひとたまりもない。

 

「それ、朧は見てないんだけど!」

 

「だったらなおさら、今見せてあげるわ! 朧は、常に長門の後ろを取って援護して!」

 

 曙ちゃんは、両手に持った砲を構えると、長門さんの方に突進していく。何度かの雷撃も、ことごとく命中しない。今までお互いの被弾はない。

 

「私はちゃんと躱すから、構わず打ち込んで!」

 

 長門さん、さすがにこの距離だと当てづらいのかも。手で艤装を扱う駆逐艦の方が有利な気がするけど、海戦の方法論を完全に無視した動き。

 

 長門さんは曙にかかりきりだから、あたしは回避をせず、狙いを定めるのに専念できる。

 

 いける。これなら。

 

 後ろめたさも若干あるけど、今は躊躇していられない。

 

 じっくり狙って、長門さんの後ろあたり、曙ちゃんを避けるとき、足を置くだろうところに魚雷を放つ。雷跡はゆるやかにカーブしつつ、長門さんの元へ。

 

 もらった。

 

 命中すると確信した、その時。

 

 長門さんに当たる前に、全ての魚雷が炸裂する。

 

 信管が甘すぎるっていうの? でも、妖精さんの整備にミスがあるとも思えない。すぐにもう一度魚雷を発射して、ダメ押しの砲撃。

 

 砲弾は、長門さんの艤装を直撃。でも、響くのは甲高い金属音で、有効打になってないことがわかる。

 

 やっぱり、魚雷じゃなきゃダメなのか。

 

 ならばもう一回。四本の筋が、長門さんに向かっていく。これも命中コースなのに、また手前で爆発。どうなってるの? あたしの知らない、魚雷対策が? だとしたら砲撃が頼りだけど、効き目はさっき見た通り。戦闘不能に追い込むには、どれだけかかるかわからない。曙ちゃんは、一瞬たりとも止まることなく、超至近距離で一撃離脱を繰り返してる。でも、動き続けるばかりに、曙ちゃんの攻撃は狙いが定まらない。砲声が聞こえても、放たれた弾は海面に飛び込み、二人は飛沫を浴びているだけ。長門さんはひたすら後退して、曙ちゃんがうまく近付いても、簡単に捌いてみせる。遠くから見たら、まるで猫と戯れてでもいるみたい。

 

 ──勝てないの? 

 

 いや、そんなことない。曙ちゃんはあの日、深海棲艦の部隊ひとつを一人で撃退したって。どういうやり方かは知らないけど、何か方法があるんだ。それに、潮ちゃんが戻ればこっちは三人がかり。ひたすら打ち込めば、どんな艦でもいつかは沈む。

 

 それにあたしには、カニさんだっているんだ。カニさんが居れば勝てる。

 

 あの長門にだって勝ってみせる。勝って、深海棲艦を根絶やしにするんだ。

 

 

 おかしい。肉薄しなきゃ本領発揮できないのに、全然それができない。怖いわけじゃない。近付くことさえできれば……。

 

「そう簡単に懐に入らせはしないさ」

 

 見抜かれてる? 長門の主砲は、私を照準に収めようと重々しく動いている。

 

 四一センチの巨砲。改装して三連装になって、ますますいかめしくなった。掠れば中破は固いでしょうね。止まったら、やられる。

 

「なめないで!」

 

 長門の右舷を目指して突撃。長門の視界の外を目指しつつ、朧との挟撃を狙う。長門の艤装は、体の左右のユニットそれぞれに、回転する砲台が二基ずつある。反動制御の都合、砲台は真後ろには向けられないとは思うけど、ユニット自体が動かせるなら、全周を射撃できると考えたほうが良さそう。

 

 とはいえ、肉眼の視野の外に逃れたほうがまだ命中させにくいはず。この距離なら、電探なんて関係ない。

 

「いっけえ!」

 

 そのまま、後ろ手気味に射撃。砲撃の余韻が、手首に響く。でも気にしない。この体は、滅多なことでは壊れやしない。

 

 弾は長門の手前に着水。長門に塩水を浴びせるだけに終わる。回避しながらだと、どうしても当てづらい。至近距離じゃなきゃ。

 

「その姿勢は無理があるだろう」

 

「メイク落としを手伝ってあげただけよ」

 

 このやり取りの最中に、朧が魚雷を発射。距離を取ろうとする長門を、魚雷の進路上に誘い込む。砲撃にはめっぽう強い戦艦でも、魚雷なら。

 

 静かに近付いた魚雷が、ついに私の視界の端に現れる。よし。このままなら直撃。と、その時。長門が片足を水面に沈めた。靴の調整? 

 

 しかし、長門が小波を起こした途端に、水中で轟音、海面がはじける。

 

 魚雷を誤作動させた……? 

 

「今の、どういう手品?」

 

「手品ではなく、技だ」

 

 魚雷など無かったかのように、長門は涼し気な顔でこちらを狙っている。

 

 もっと近付かないと。

 

 どこか、どこか、あの艤装の死角を見つけないと。

 

 砲身を見て、次の動きを予測、平面の位置関係だけじゃなくて立体的にも、一番効率的な回避コースを……。

 

 立体的。至近距離を想定していないが故の死角。

 

 見つけた! 

 

 狙いすましたかのように、再び朧の魚雷。流石。

 

「効かぬわ」

 

 朧が完璧な軌道で放った魚雷も、長門があの動きで破壊する。弾けた海が、雨のように降り注ぐ。──今だ! 

 

「そこぉ!」

 

 機関全速で、長門に突っ込む。砲が一斉にこちらを向くけど、ひざを水面につくように身をかがめる。砲の俯角の限界より態勢を低くすれば、主砲は当てられない。死角を通り過ぎても、速力は緩めない。どんどん身体が近付き、ついに長門から見て左の艤装、主砲の砲身を捕まえる。

 

「私がやりたかったのは、これよ!」

 

 私の砲を、捕まえた方の隣、ユニット上段の砲塔に押し付ける。カキン、と響くのを確認して、砲撃。反動で吹き飛ばされそうなのを、長門の手近な砲身を握りしめて堪える。黒煙で視界が覆われる。

 

 長門が後退する。黒煙は置いて行かれるけど、私は長門を離さない。視界が晴れると、砲塔の天板は、蓋つきの缶をふみつけたかのように、合わせをずらしてゆがんでいた。よし。もうアレは使い物にならない筈。

 

 このくらいじゃ私達が勝つには足りない。もう一発叩き込みたいわね。

 

 今はまたとない好機、ここでありったけを打ち込むしかない。今度狙うのは身体。長門の、お腹。

 

「撃ええぇ!」

 

 引き金を引く。手を伸ばしていないから、ひじでモロに衝撃を受ける。右腕が大きく外に反れる。

 

 ちくしょう。外した! 

 

 飛沫が目に入ってくる。大きい水滴があらたか落ちると、細かい霧が舞い、虹がかかった。でも、今は見とれてる場合じゃないわ。もう一度。今度は反対側のユニットも……。

 

 狙おうとしても、腕が動かない。肘がいかれたかしら。

 

「曙が砲を掴めるなら、当然私も掴める距離だということだ」

 

 えっ。

 

 長門の手は、私の砲を、砲身をがっちり掴んでいる。押そうとしても、引こうとしても、揺さぶろうとしてもびくともしない。でも。

 

「それは……予想済みよ!」

 

 予備は何にでも用意しておくものよね。私の左手には、二門目の砲。すかさず、掴まれた腕を狙って発射。

 

 轟音に続くのは、ばしゃあ、という水音。

 

 この距離で外すなんて。ありえない。

 

「それとて同じだ」

 

 左の砲も、右と同じように摑まれ、強引に反らされている。そのまま手を挙げて、両手を釣られた私と長門が向き合う形になった。

 

 私にはもう、打てる手立てが無くなった。

 

「……流石ね。でも、動けないのは長門も一緒よ。このまま私をぶら下げてれば、今に朧たちが来るわよ」

 

 手を離したら、もう一撃は打ち込める。

 

 ──これで退場するにしても、意地くらいは見せてやるわ。それに、砲門を潰して長門の射界を狭められれば、後の戦いも……。

 

「曙、あの日のキス島で、お前は何も見なかったのか?」

 

 いきなり、何……? 

 

「私が六対一で勝ったところなら……っ、アンタにも、見せてあげたいわ……っ」

 

 完全な無防備、絶体絶命の状況。手足をばたつかせてはいるけど、どこにも当たらないし、抜けられそうな雰囲気は一切ない。

 

「そうか。潮の手の震え、あの威力を見て、曙は何も感じなかったのか」

 

「おかしいと思ったわ。あと、潮のことは心配だったわよ……」

 

 一体何? 何が言いたいの……? 

 

「ならもう一度、今度はその身に焼き付けるといい」

 

 その声と同時に、両腕に衝撃が走った。

 

「うわっ、あ、ああああああああっ!?」

 

 腕、胸、腰、脚。頭。全身まんべんなく、ぶるぶると震える。気持ち悪い、脳みそが、寄せ豆腐のように崩されれるみたいな、関節が、全部外されていくみたいな。

 

「潮が持っていたという、バイブについて調べてみた。あり得ない振動だ。あれを模写できるとは思わなかったが……簡単じゃないか」

 

「はぁっ。あ。あああああああ!」

 

 何、何を? 思考まで揺らされているの。全然わからない……。

 

「提督の貧乏ゆすりを真似て、それを高速にしたら、簡単に再現できた。何事も試してみるものだな」

 

 両手、に、振動とは、別の揺れ。ボン、と、聞いたことも無い爆発音。ねじ、歯車、火薬。機械油の匂い。背中で、一際、大きな、爆発。細切れに、なって、散らばる、服。

 

「曙。恐るべき胆力だ。この長門が健闘を称えよう」

 

 その言葉を最後に、私の意識はかき消えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。