逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫 作:ハマグリ一派
ちなみに、二話と題名をトレードしました
これは遡ること数週間前のこと。とある病院の手術室からその男は現れた。
「手術は無事終わったね?」
そう言いながらマスクを外したその医者は、垣根に話し掛けてくる。
「流石の腕だな。余りにも速すぎてミスを疑っちまいそうだ」
「僕に限って患者を苦しめる手術をするとでも?ここは僕の戦場だ。その場でそんな醜態は晒さないとも。
それに、君も自分の目で僕の手術を見ていたはずだけどね?」
ここに来たのは
治るのならば確立した医療技術に頼る方が正常だろう。と、なれば誰を外科医とするか。
半端な腕の医者は論外として、学園都市の上層部の息のかかった医者では、
「(そこで俺が選んだのがこのカエル顔をしている医者だ。
その後、
とはいえ、推測でしかなかったためにこうして手術には立ち会ったが、やはり不審な点は見付けられなかった。つまり、無事に手術は成功し
「僕としては君の能力が彼女の中に入っていたことから、その副作用も考えてちゃんと君の能力である
「ハンッ、どんなに腕があろうがただの町医者風情が、この俺の能力のデータを取れるだなんて思ってんじゃねえよ。その技術に敬意を評して今回は不問にしてやるが、その分不相応な望みはさっさと捨てることだな」
「……やれやれ、仕方ないね」
ため息を吐いた彼を無視するかのように、垣根は背を向けて歩いていく。
そんなカエル顔の医者から離れながら周りを見れば、なおさら不信感が湧いてくる。
「(
……いや、中にはどんな技術が使われているのか分からねえもんが幾つかある。
俺の
当時はもしもの時のために暗部に存在する医療についても、粗方頭の中に意図通り詰め込んでいた。そんな暗部にどっぷり浸かった俺が、一度も見ていない機材がある時点であの医者は普通じゃない。
あれがアレイスターの手によるものなのかどうかは知らないが、暗部の影がちらつくなら下手な情報は与えないに限る。これ以上面倒くせえことはゴメンだ)」
そして、その三日後。
◇◇◇◇
彼は珍しく学園都市の街を一人で歩いていた。今日はちょうど家に
「(本来ならそんな事情なんて知ったことじゃねえがな。何てったってあそこは俺の家だし)」
正論中の正論であり正義は誰の目から見ても彼にあるのだが、彼は今こうして太陽の下を歩いている。これは別に言いくるめられた訳でも、紳士として女性を優先したわけでもない。
前世では暗部として老若男女関係無く、必要とあれば消してきた。今さらそんなチャチなことに彼は頓着はしない。しかし、ならば何故家を空けたのか。それは彼が握る携帯電話にある。
「しばらく学校にはこの頃行って無かったな。面倒くせえことこの上ないがこれが普通ってやつか」
同級生の男からメールが幾つか来ていたのだ。特に親しくした覚えはない相手だが単位
学校に行く意味があるかと言えば全く無い、と彼は答えるだろう。学校生活など彼にとっては下らなく、表で何も知らず生活してるクラスメイトには関心を向ける気にもならない。
「(
他の奴等との出会いも多かれ少なかれこんな感じだからな。
だからこそ、彼としては自分のことを放っておいて欲しいのだが、どいつもこいつもやたらとクセが強く、説得するのにも無駄なエネルギーを使うのは目に見えていた。
「(特に
そして、次に来やがった
……まあ、あいつの言った通り
やる気が起きない彼は、楽をできるならば楽をしたいという欲求に素直である。そのためならば、一線を越えることが無い限り別にどうこうするつもりは無い。
※ちなみに、
通学路を歩いていると朝の時間もあり、通行人が多く行き交っていた。文字通り学園都市であるため、学生が大勢居ることは当たり前なのだが、彼からすれば鬱陶しいだけであった。
「(どいつもこいつも夢だの希望だのと、馬鹿みたいな面を晒しながら夢物語を吐きやがる。この街に来た時点で研究者共からすりゃあ
脳ミソを平気な顔で弄るような奴等が、整えた街や未来がイカレているくらいは、馬鹿でも推測するくらいはできるだろうが……。
この街に居るだけで危険がいつやって来てもおかしくねえってのに、自分には悲劇なんて起こるはずないなんて、なんの確証もない楽観視で現実から目を背けていやがる)」
暗部に居た彼からすれば表の世界は余りにも温すぎる。余りにも無防備に無警戒と見ているだけでイラついてくるのだ。
その矛先が本当に歩く人間に向いているのか、それともそんな環境を作り出しているこの街に向けているのかは、本人ですら分からない。
そんなことを考える彼の眉がピクリと動く。
「……チッ、めんどくせえ。どいつもこいつも学園都市第二位って言う肩書きだけしか見ねえカスしかいねえのか」
そう言うと彼は持っていた携帯をポケットに仕舞い、今まで歩いていた進行方向から意図的に外れた。それは表の世界から隠れるようにも見えた。
しかし、それに気付く者は誰もいない。きっとそれこそが彼と表に居る人間との明確な違いなのだろう。
「(暗部を匂わしているあの身のこなしや目線の向け方は、雑魚中の雑魚でしかねえ。
ハァ……、随分と舐められたもんだ。暗部に堕ちないようにするとこんな馬鹿の相手もしなくちゃなんねえとはな。つーか、もしかして第三位もこんな雑魚に絡まれてるのか?)」
同じ
「(周りに合わせることが当たり前っていう感性はよくわかんねえな)」
彼からすれば『暗部に堕ちないようにするため』と『詰んでるから全てどうでもいい』、という前提条件がなければ歯向かう敵は軒並み捻り潰している。
とはいえ、格下を相手にして殺すことはごく稀だが、御坂美琴のように怪我とならないよう気を付けながら、能力を使用するほど気にしてはいない。
こちらを害しに来たのだからそれくらいは甘んじて受けろ、というのが彼の考えてある。
「(まあ、ストレス発散ぐらいには利用できるか。いや、それさえもできなかったら流石に半殺しにしてもいいな)」
裏路地に入りながらそんなことを考える彼に不安や焦りなど一つもない。これは彼が想定していた事柄の一つでしかないからだ。暗部のやり方は当然熟知しており、そこに属している人間の思考などわざわざ推測する必要も無い。
彼にあるのはわざわざ学校に向かおうと出歩いたにもかかわらず、こうして余計な手間に時間を割くことになった人物に対してのイラつきだけだ。
だからこそ、気付くのが遅れた。
「(…………待てよ。この裏道はおかしくねえか?)」
それは暗部組織『スクール』のリーダーを務めた男の経験則から来る直感だった。だが、その直感を裏付ける要素がどんどん積み重なっていく。
「(目線の動きや身のこなしは三下もいいところだ。この場所をコイツが利用するのは身の丈に合わねえ。ここは暗部の人間だからこそ分かるが、造りが作為的に作られてやがる。
路地裏にあるマンホールの数からして普通の倍はあることから、あの中に本来とは別の用途で活用するための何か……それこそ足をつかないようにするための逃走経路なんかがあるはずだ。
……だとすると、このあからさまにある窓の奥にも何か仕込んでやがるな?……チッ、つまりはまんまと誘い込まれたってことか)」
次の曲がり角で追い付くところまで接近していた垣根は、急に動きを止めて周囲の気配を探る。そして、その結果はすぐに弾き出された。
「……おい、これはなんの真似だ?」
「おやおや、見ない間に随分と怒りっぽくなってしまったようで。こんなものちょっとしたお茶目の範囲内でしょう?」
垣根の背後から女性の声が聞こえてくる。それは、あの垣根帝督が背後を取られたということに他ならない。つまり、当然の話だが暗部の下っ端などではない、かなりの実力者であることの証明だった。
そして、垣根はそれが誰なのか知っている。
垣根に近付いてくるパジャマ姿で車椅子椅子に座るその人物は、前世で垣根の
暗闇のように影が差したその目を歪ませ、彼女はまるで食事に誘うような軽い調子で垣根に言葉を投げ掛けた。
「それとも、昔のように私に『諦め』させて欲しかったりするのでしょうかー?それはそれで、胸が高鳴りますねー。
私としても
科学を悪用しようとする異分子であり人格破綻者の血統、『木原一族』。その一人である木原