逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫   作:ハマグリ一派

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題名変えました


2話 Re:ゼロから始める異能力生活

 とある廃墟に彼らは訪れていた。かつてはマンションかなにかだったのだろうが、今では使われておらず電気や水道が止まっていることはもちろん、壁などが崩れてしまっている始末だ。

 そんな廃墟に複数の少年たちがぞろぞろと入ってくる。彼らが欲しがるような物はなに一つあるはずがないのだが、彼らは目的のものが見付かったような表情をしていた。

 

 それもそのはず、彼らが求めていたのは目の前にいる一人の少女なのだ。

 

「コイツが依頼のガキか?」

 

 そう言ったのは高校生ぐらいの少年だ。

 彼の周りには同じような雰囲気の少年たちが側にいる。彼らはこの街で無能力者集団(スキルアウト)と呼ばれているチンピラたちだ。

 そんな彼らは一人の女の子を取り囲んで、得意気な表情をしていた。

 

「なんでも珍しい能力だとかで、こいつ使ってなんかの実験するらしいな」

低能力者(レベル1)の能力なんざ実験して、なんの意味があんだか」

「頭のいい科学者様の考えてることなんざ、俺たちに分かるわけねえだろ。さっさとコイツ連れてくぞ」

 

 彼らの役目は少女の回収。達成すれば大きな依頼料が手に入る手筈となっている。少年たちからすれば少女は金のなる獲物でしかない。

 依頼を達成するために金髪の少年が少女の細腕を掴むと同時に、後ろからよく通る気だるげな声音が届いた。

 

 

「……めんどくせえな。さすがに偶然ってわけでもないよな?これも俺が通らねえといけねえ通過点ってわけか?」

「「「ッ!?」」」

 

 

 バッ!と勢いよく彼らは振り返る。彼らの表情は動揺や疑問で彩られていた。

 それもそのはず、ここの表には見張りも用意し、万全の状態で少女の確保に臨んでいる。そのため、なんの物音一つ出さずにここへ入ってくる者など不可能であるはずだ。

 しかし、そこには確かに人影があった。その人物は場違いにもどこかやさぐれた様子で頭を掻きながら話し出す。

 

「あー、そういや、時期もここら辺だったか。……適当に入ったつもりだったんだが、もしかしたら無意識に記憶を辿っちまったか?

 俺の中にある未練がこの場に足を運ばせた……か。ハッ、くだらねえ。それさえも馬鹿馬鹿しい」

 

 その人物は崩れた瓦礫に腰を置いて、どこか投げやりな様子だった。見た目がホストのような男のため、その態度が余計に浮いている。

 

「な、なんだお前ッ!?いつからそこに居やがった!?この廃墟の出入口には見張りが居たはずだ!」

 

「そんなもん俺ならどうとでもなんだよ。一瞬あれば事足りる。だが、まあ安心しろよ。

 もともと俺は一階上の部屋で寝ていただけだ。その見張りの奴には何もしちゃいねえどころか、会ってすらいねえよ」

「寝ていたって……こんな廃墟でか!?」

「ほー、つまり金がなくて不法侵入したっつうことか」

「馬鹿が。別にホームレスってわけじゃねえよ。それこそ高級ホテルに毎日宿泊できるだけの金ならある。ただアジトに戻るのがめんどくせえから時間を潰してただけだ。

 ……そこでお前らがぎゃーぎゃー騒ぐから、おちおち寝ることもできずに、こうして仕方なく下まで来てやったんだよ。足を運んでやった俺に平身低頭で感謝しろ」

「は、はあ?……なに言ってんだコイツ……」

 

 廃墟で寝ているような変人が急に俺様ムーブをしてきて、武装無能力集団(スキルアウト)の面々はたじたじだ。何故こんなにもこの男は堂々としているのだろうか。

 そんな中で少年たちのリーダーのような話し出す。

 

「その話が本当か嘘かはわかんねえが、バレちまった以上ただで帰すにはいかねえな」

 

 そう言うと同時に彼らは懐から刃物を取り出した。この状況は想定外のはずだがその躊躇の無さから、彼らにとって刃物を使うことに一切の躊躇いはないほどに慣れたものなのだろう。

 

「……はあ、本当にめんどくせえな。だがまあ、暇潰しぐらいにはなるか」

 

 そう言うと彼は自らの能力を解放し、バサッ!と、純白の翼が背中から生まれた。三対になるように広がったその現実味のない光景に少年たちは呆然とする。思わずと言った調子で無能力者集団(スキルアウト)が呟いた。

 

「つ、翼……?」

「な、なんだそりゃあ……?これも能力か?」

「お前ら程度じゃあ百年かかっても、一割ですら理解できるもんじゃねえよ。俺の未元物質(ダークマター)はな」

 

 その言葉に少年たちは激震が走る。

 

「お、おいッ!未元物質(ダークマター)つーと、まさかコイツはッ!?」

 

 その反応を見て、どこか辟易としながらその少年は名乗り上げた。

 

 

「学園都市第二位の超能力者(レベル5)垣根帝督だ。……めんどくせぇから一撃で倒されてろ」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 俺が再び表層に出てくれば何故か子供時代に戻っていた。この俺の頭脳を持ってしても微塵も理解できない。

 だが、どうやらこのおかしな状況は本物のようだ。科学者共が脳内の電気信号を操作して見せている幻覚でもないらしい。

 そして、この状況を理解するため思考を回している途中で、おかしな物が記憶として残っていることに気が付く。

 

「(どうして俺の中に俺の身体を乗っ取ったあのクソ野郎の記憶がありやがる?)」

 

 垣根の記憶には垣根の身体を奪い去り、自分の存在を塗り潰した存在の歩んだ道のりが残っていたのだ。

 子供の世話に生きる喜びを感じる垣根帝督など、吐き気がすることこの上ないが、これも状況を理解するための大事なピース。それも含めて計算するとある事実が浮かび上がった。

 

「(()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 生前、()の垣根帝督に魔術の知識は全く無いが、()の垣根帝督は魔術のことを知っていた。科学と魔術の境界線が曖昧なものになったのだから、それも当然の帰結だ。

 その馬鹿げた可能性があるならば仮説を立てることはできる。

 

「(俺は脳から心臓までの全ての身体の構造を、未元物質(ダークマター)へと代替した。

 身体を未元物質(ダークマター)のみで形作っていた俺の存在は、俺の能力である未元物質(ダークマター)そのものと同義だ。

 つまり、脳まで未元物質(ダークマター)へと変質させた『垣根帝督』の記憶の全ては、能力である未元物質(ダークマター)そのものに記憶されてるんじゃねえのか?

 本来なら本体である俺から主導権を奪い去った以上、俺の人格は消え去るのが道理であり、奴の記憶があるなんてことには万に一つもありえねえ。

 だが、子供に戻ると同時に俺が歩んだ記憶と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())」

 

 本来なら考えるまでもなく、あり得ない想定だっただろう。しかし、垣根の記憶には確かに魔術の存在があったのである。

 そして、彼はその馬鹿げた事柄を他のどの能力者よりも早く受け止める。

 それができたのは彼には未元物質(ダークマター)という、この世には存在しない物質を扱っている能力者であったからだ。物理法則ではあり得ないはずのフィルターを受け入れる下地が他の能力者とは違い、彼には既に備わっていた。

 彼の頭脳はその仮説にさらなる肉付けをしていく。

 

「(例え、俺の人格そのものが消えても奴の未元物質(ダークマター)と、俺の未元物質(ダークマター)は全く同種の同じものである事実は変わらない。こうして俺の下に奴が使っていた未元物質(ダークマター)が記憶とともに、世界を(さかのぼ)ってきても不思議じゃないわけだ)」

 

 タイムリープなのかは知らないが、こうなっている以上は科学よりかはオカルトの方が可能性としては高いだろう。

 とはいえ、なんの因果かこうしてやり直す機会を手に入れた。ならば、有効活用するのは当然のことだ。

 垣根はこれからのことをシミュレートしながら、最善手を考える。

 

「(アレイスターは最後には破滅することは記憶からわかる。なら、そのときに学園都市を掌握すれば俺の野望は叶ったも同然。俺がすべきは第一位をぶっ潰すことだけだ。

 そのためには暗部での地位や力はもちろん、奴をぶっ潰すために能力を一早く成長させ………………ん?()()()()()())」

 

 あらゆる可能性を算出していくとあることに気づく。能力の成長。彼はその到達点がどういうものかを知っていた。

 

「(ち、ちょちょちょちょっと待てっ…………第一位を倒すには通常の未元物質(ダークマター)の使い方じゃ話になんねえのは確かだ。あの無限の可能性にまで行き着かなきゃ、押しきることなんざ不可能。

 そして、白カブトムシに精神の主導権を奪われないよう、万全の状態で望んでぶっ殺したとしても、どうしても無くならねえ問題がある。──あの化け物女だ)」

 

 西洋のお伽噺に出てくるような魔女の帽子と、水着のような物にマントを羽織った埒外の怪物。あのときの記憶も垣根は当然持ち合わせていた。

 

「(未元物質(ダークマター)の無限の可能性まで行き着いた俺を、ああも簡単に片手で制しやがった化け物。

 当然あの状態になれば目を付けられるに決まっている。そうなれば俺が辿る道は破滅だけだ)」

 

 どんなに計算してもあれには勝てないと結果が出てしまう。それほどの化け物だった。あの第一位が遥かに見劣りしてしまうほどに。

 そして、懸念事項は学園都市の外だけではなかった。

 

「(学園都市での俺の価値は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。つまり、俺じゃなくてあの白カブトムシでもいいってことだ。

 実際にアレイスターの奴はそれで良しにしていたみたいだからな)」

 

 険しい顔をしながら、垣根はその事実を噛み締める。

 

「(俺の身体は未元物質(ダークマター)そのものに代替しちまったから、第一位みたく脳ミソに電極ぶっ刺そうがなんだろうが、電磁パルスそのものが変質しているから効くわけがない。

 が、それも既存の話でしかねえ)」

 

 学園都市の闇に身を置いてきた垣根は、この街の悍ましさをよく知っている。

 

「(あの状態の俺には普通の人間に流れている電気信号とは違った、未元物質(ダークマター)特有のものが流れちゃいるが、逆に言えばその電磁パルス自体を解析されちゃあどうしようもない。

 木原唯一は俺が産み落とした未元物質(ダークマター)を、改造して自分の手足のように使っていたみたいだしな。解析される可能性もゼロじゃない)」

 

 そうなれば自分は未元物質(ダークマター)を吐き出すだけの、マシンへと変えられるだろう。そうなってしまえば自分の未来は冷蔵庫しかない。

 

 以上のことから、垣根は一つの結論に達した。

 

 あれ?これってどうやっても無理じゃね?と。

 

 そして、今まで考えていた策略や私情が叶わないという事実が、さっきまで見えていなかった一つの答えを浮かび上がらせた。

 これまでの思考がまるで無意味だったかのようなシンプルな理屈。

 最初に一方通行(アクセラレータ)を殺そうとした理由はなんだったのか。それを思い返せば当然のように出てくる疑問だった。

 

 

「(つーか、そもそも俺に第一候補(メインプラン)になる必要があるのか?)」

 

 

 考えてみればそういう結論になるのは必定である。

 

「(俺の野望はアレイスターと交渉することじゃなく、『学園都市統括理事長』に対しての直接交渉権だ。別にそれが統括理事長であるならアレイスターである必要はねえ。

 そして、第一位の野郎はどうやらアレイスターのやり方とは違ったやり方をしていたらしい。なら、俺がすべきことは全てが終わったあとに奴へコンタクトを取れば済むんじゃねえの?)」

 

 一方通行(アクセラレータ)には殺意も憎悪もある。しかし、その部分を無視できれば自分の長年の宿願が叶うのもまた事実であった。

 アレイスターに喧嘩を売るだとか、未元物質(ダークマター)の極地へと至った自分を片手で掴んだあの化け物女の対策など、無駄でしかないではないか。

 それに気づいたとき彼はどうなったか。

 

「なんだそりゃ、馬鹿馬鹿しい。結局はそのときまで待てばいい話じゃねえか。…………あー、かったりぃ」

 

 彼からやる気の三文字が消失した。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「それで?あの子は誰?一体何があったのかしら?」

 

 そして、現在。

 俺の前には腕を組んで仏頂面の少女がいた。派手なドレスと華やかな顔付きからホステスのような印象を受けるが、彼女が醸し出すミステリアスさや上品さから彼女の思慮深さを察することができる。

 そんな彼女の能力にして通り名は心理定規(メジャーハート)。他人との心の距離を自由に操作できる恐ろしい能力者にして、俺がリーダーをしていた組織にいた構成員の一人だ。

 

 そんなかつての仲間の一人だった彼女のことは、俺もどんな人間であったのか当然知っている。

 もちろん全てを知っているなどと言えるような仲でも無いが、俺が彼女に抱いていたイメージは、飄々とした態度をしながらも絶対に自分の価値を落とさない強かな女、だ。

 

 それがどうだ?

 

 その彼女から信じられないようなプレッシャーが出ていた。彼女を何がそんなに突き動かしているのかはわからないが、めんどくさい状態になってしまったのはわかった。

 俺はそれを見ながらかったるそうに声を出す。

 

「だから言ってんだろ。廃墟に居たから拾ったってよ」

「垣根さんそれ余計に問題です」

 

 そう答えたのは誉望(よぼう)万化(ばんか)。頭にシャンプーハットのような機械を装着して能力を発動する念動力者だ。

 俺たち三人はシックな椅子や机が置かれた広い空間の中で談笑していた。というよりも、俺が一方的に問い詰められていた。

 

「あなたが来ないせいで暗部の仕事がなかった私のオフが、無意味に終わってしまったわ。埋め合わせの一つでもないのかしら?」

「馬鹿か。誰がそんな約束したんだよ。どうせ荷物持ちさせながら俺に金払わせる気だったろこのキャバ嬢が」

 

 前世ではビジネスライクの関係性でしかなかったが、何故かこの世界の心理定規(メジャーハート)はやたらと俺に絡みたがる。

 何か企みがあるかもしれないと警戒はしているのだが、さっぱり意図が読めない。前回も読めた試しはないが今回に限っては意味が不明だ。

 その理解不能な女は細い指を口許に添えて、伏し目がちに呟く。

 

「あら?そう言った依頼は受けてないしやる必要もないわ。あなただけの特別よ♡」

「ふざけんな」

「まあ、それはそれでいいとして──あの子は誰?」

 

 また、話が戻った。

 別に話を流そうとしたわけではないが、めんどくさい展開になったと俺は思う。何が彼女をそんなにも掻き立てているのだろうか?垣根はもう自分にはないそんな熱量を持つ彼女にため息を吐く。

 

 最初は幸運だと思った現象が無意味で価値などほぼ消失したものだと気付き、それからは灰色とも呼べるつまらなくめんどくさい日々。

 適当に過ごしていたはずが何故か前回の知り合いと再び出会い、以前よりもカロリーを使う間柄となった。彼はこれからの自らの人生と周囲の人間関係を思い返して、いつものあの言葉を呟いた。

 

 

「はあ……、めんどくせえ」

 

 

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