逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫   作:ハマグリ一派

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3話 やらなければいけないことなら手短に

「ねえ、買っておいてって頼んだ醤油はどこかしら?」

「……棚の中」

 

 そう、なんて言いながら心理定規(メジャーハート)は棚から醤油を取り出し、鍋に付け足していく。それを見て呆れた。

 

「なんで飯作ってんだお前」

「その子がご飯食べたいって言ったからよ。なら、作ってあげるのは当然でしょ?」

「お前の言う当然が俺にはわからねえよ……」

 

 前回のコイツは飯なんか作るキャラではなかったはずだ。いくらなんでも変わりすぎではないか?

 

「つーか、なんで割烹着なんて着てるんだ?まさかそれ自前か?」

「当然でしょ?最初は物の試しだったんだけど、なんかエプロンよりこっちの方が気が引き締まるのよ。それに如何にも家庭的な女って感じがしてギャップを感じるでしょ?」

「確かに、和洋の濃いところを掛け合わしたギャップが凄まじいな」

 

 和の割烹着に洋の派手なドレスなど、個性のぶつかり合いもいいところである。

 スプーンに手を添えながら味見する姿は、その整った造形もあって様になってはいるが、如何せんその服装の個性が突出し過ぎていた。

 

心理定規(メジャーハート)さんの料理は美味しいですからすごく楽しみっス」

「……そうなの?」

「ああ、お世辞抜きで本当に美味いぞ。垣根さんが羨ましいですよあんな綺麗な人に通い妻してもらってるんですから」

「頼んじゃいねえよ」

「……垣根通い妻して欲しい?」

「聞いてたか?俺は一度も頼んじゃいねえって言ってんだろ」

 

 そんなピントがずれたことを言っているのは、廃墟で拾ってきた中学生らしき少女、(ゆずりは)林檎。

 キャミソールにジャージという、こちらもよくわからない格好をしている。

 このアジトに連れてくるまで爆睡していたが、目を覚ますと腹が空いたと言い。こうして食卓に着いて俺たちと一緒に食事の完成を待っている。

 彼女は心理定規(メジャーハート)に寝癖を直してもらったボブカットを、首を傾げると同時に揺らしながら、眠たげな目をしてこちらを見てくる。

 ……今の会話で首を傾げる要素なんてあったか?

 

 いや、そんなことよりもコイツらには言わなくてはならないことがあった。

 

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 そう、今の俺は暗部じゃない。ある程度情報を知っている俺が情報収集など無駄でしかないし、わざわざ学園都市の闇に縛られる必要はない。

 権力などは表の奴らと交流を持てばいいだけだ。学園都市二位なら何もしなくても勝手に寄ってくる。そして、そいつらと恙無く会話する社交性はあった。

 コイツらと出会ったのは当然だが暗部関係の理由ではない。普通に表で生きていたら偶然や必然の巡り合わせでこうして顔を会わせることになった。

 

「別にいいんじゃないっスか?別に暗部の人間が表の人間と付き合っちゃいけないなんてルールはないですしね」

「それに今さらじゃない?ここ私たちの集合場所でしょ?」

 

 それを聞いた彼は深くため息を吐いた。彼自身もその事を否定できなかったからだ。

 ここより前に俺は『スクール』のときのような密談とは違った理由で、隠し家を持っていた。

 単純に一人だけのパーソナルスペースが欲しかったために、俺はそこを憩の場所としていたが、この二人の登場でそれは一変する。

 

『ここのキッチン狭くない?』

『あん?そんなもん大して広さ要らねえだろ』

『あなたも料理するならもう少し欲しいじゃない?』

『……もしかして俺とお前が一緒に作る想定してんの?その想定意味あるか?』

『あるわよ。それに大は小を兼ねるとも言うし。大きいに越したことはないわ。あなたもそう思うわよね?』

『え?いや自分は特に──』

『ね?』

『ハイ、ソウッスネ』

『……おい、誉望(よぼう)。お前どうした?いくらなんでもコイツの言いなりにもほどがあるだろうが』

『まあ、ちょっと以前にお話ししてね。昔話や色々なことを聞かせてもらったわ』

『ちょっと待て。お前それ能力使って──』

『さあ、来月には新居に移りましょうか。まずは物件探しね』

『おい、ここの家主はこの俺だからな?』

 

 そんなこんなで物件を探す羽目になり、こうして新しく別の隠れ家に住みかを移した。そして、憎らしいのが以前の場所よりも快適であったことだ。

 そんな経緯があったためか、この隠れ家で一番の発言力があるのは彼女である。

 

「(まあ、それはともかく、……いや、放っておくのもどうかとは思うが。それよりもコイツだ)」

 

 ぼけ~、としている(ゆずりは)林檎を見る。彼女とは前世でただの他人ではなかった。俺にとって苦い記憶の一つだ。

 

「(前回は一方通行の演算パターンを知るという理由があったが、今回は別にそれは欲してねえ。俺にとって得があるか無いかと言えば微塵も無いわけだ)」

 

 冷静にそう判断する。つまり彼女を助けることは無駄骨でしかない。だが、俺はこうも考えた。

 

「(だが、今回は奴らのやり口を知っている。つまり、今の俺ならそれを打ち砕くことは楽勝だ。だったら、くだらねえ筋書きをぶち壊すのも悪くねえ)」

 

 垣根はそう結論付けた。その他に沸き上がった淡い感情の一切を意識的に無視して。

 

「はあ……、めんどくせえな」

「?……何が?」

「なんでもねえよ」

 

 そう言って(ゆずりは)の小さな頭を乱雑に撫でる。撫でられた彼女は目を白黒させて、何をされたのかわかっていないようだ。

 そういえばこんな抜けた奴だったな、と垣根は懐かしく感じる。

 そんなどこか穏やかな彼の思考に、割り込むように皿が机に置かれた。

 

「できたわよ。はい、肉じゃがとコーンポタージュと炊き込みご飯」

「いや、だから和と洋の個性ができすぎだろ」

「この和洋折衷とか知ったこっちゃねえ!って感じが、如何にも心理定規(メジャーハート)さんっスよね」

誉望(よぼう)、お前毒されてねえか?つーか、それ感想としてどうなんだ?」

「ふっ、そう褒められると悪い気はしないわね」

「マジで?お前の琴線が俺にはさっぱりだよ」

 

 そんなことを言いながら食卓に並び共に朝食を取る。すると、(ゆずりは)林檎が興奮しながら声をあげた。

 

「垣根!これおいしい!すごいっ、すごいおいしい!」

「おー、そうか。よかったな」

「うん!すごく甘い!プチプチ!」

 

 そんなことを言いながら、コーンポタージュを掻き込むようにして食べる。前回はともかく記憶がある今の俺なら、何故こんなにも(ゆずりは)林檎が食事で喜びを見いだしているのかわかった。

 

「(毎日味気ないレーション以下の食事しかしてねえなら、この反応も当然か)」

 

 俺は注がれたコーヒーを飲みながら記憶を掘り返す。そして、あることを思い出して斜めで椅子に座る誉望(よぼう)に尋ねる。

 

「おい、誉望(よぼう)。それでどうだった?」

「むぐっもぐっ、んんっ……ごくっ。そうですね垣根さんが言った通り彼女を捕まえようとする人間がいるみたいです。まあ、彼女『暗闇の五月計画』にいた一人らしいんで不思議じゃないですけど。

 それで、俺が調べたところ不審な動きをする奴が居ましたが、どうもそれが警備員(アンチスキル)なんっスよね。

 他にそれっぽい動きをする奴もいないみたいですし、コイツらで確定でしょう。……おっ、噂をすれば表にその警備員(アンチスキル)たちがぞろぞろと」

 

 誉望が出したタブレットには警備員(アンチスキル)の使用している装備を奴らは装着している。だが、俺は液晶に映る顔に身に覚えがあった。

 

「(警備員(アンチスキル)からつま弾きにされた奴らで組織された、過激派集団である『DA』。

 その中でもはみ出し者の殺し暴力なんでもありの暴徒共。それが奴ら『DAアラウズ』とかいうカス共の正体。俺が知っているムカつく顔が幾つかある。わかってはいたがこれで確定だな)」

 

 はあ……、とため息を吐くと垣根は席を立つ。それを見て誉望は垣根に問い掛ける。

 

「垣根さん行くんですか?なんなら俺が行って片付けてもいいっスよ」

「……あー、魅力的な提案だがここは俺が行く。お前は情報収集してくれたしな。ここで動かなかったら何もしないにもほどがあるだろ。……それとお前は増援が来るかどうか見張っといてくれ」

「了解」

 

 そう伝えると垣根は翼を出してベランダから降りた。

 数十階の高さだが彼にはこの程度問題にもなりはしない。その後ろ姿を見たあと残った彼らは会話を続ける。

 

「……垣根さんって普段から「めんどくせえ」やら「かったるい」なんて言ってますけど、基本的に誰かに丸投げってしませんよね」

超能力者(レベル5)になるくらいだから元から勤勉なのかもしれないわ」

「つまり、普段の言動はあくまでもフリでしかないと?」

「それはどうかしら?もともとは勤勉で頂点まで登り詰めたけど、何か一つの切っ掛けで自堕落になるなんて、全く無い話じゃないでしょ?

 例え今現在、一切のやる気が無いんだとしても、そこまで登り詰めた事実は変わらないしね」

「なるほど、肝心なところは自分でやるのは勤勉だからっスか」

「単純に他の誰かよりも自分の能力を信じてるだけかも。超能力を除いたものも含めてね。それに、敵勢力を鎮圧するのは私達の誰よりも効率がいいし」

「確かに、垣根さんなら危機的状況なんてなるはずがないですしね。迅速に終わらせるなら自分が出るのが一番、ってことっスか」

 

 そんなことを話していると下から大きな物音と悲鳴が聞こえたが、すぐに収まった。そして、ベランダから純白の翼をはためかせ彼が帰還する。

 

「お疲れ様です垣根さん」

「おう、……ったく雑魚の相手はめんどくせえ……。殺さねえように手加減するこっちの身にもなれってんだ」

「……殺さないの?」

「しねえよ。あいつらは表の連中、それこそ警備員(アンチスキル)に引き渡せばそれで終わりだからな。気絶させておいたから逃亡するなんてまず不可能だろ」

「それと、垣根さんが予想した通り増援が来ましたね。あらかじめ配置しておいた警備システムと呼んでおいた、警備員(アンチスキル)で来ることもできないみたいっス。彼らはその結成理由から力業でどうにかしようとする傾向があるみたいですけど、ここまで先手を打たれればそりゃあ何もできませんよ」

 

 席に付き途中であった朝食を再開させながら、垣根は誉望(よぼう)に聞いた。

 

「それで首尾はどうなっている?」

「順調っス。奴らの車に付けた発信器から経路は割れてます。隊員の一人に付けた盗聴器も正常に稼働してますよ。

 ですが、さすがにこれはバレるんじゃないっスかね?奴らが大人しく依頼主のところにまで帰るとは思えないですし」

「だとしても、何かしらの尻尾は掴めるはずだ」

 

 今回の騒動を引き起こしたのは木原相似。コイツが『DAアラウズ』たちを洗脳し、奴らを自分の手足として使っていた。そして、洗脳とは掛けていくほどに強度を増す。

 ならば、当然かけ直す可能性は高い。それこそ遠目にも学園都市第二位の力を見せ付けられ、恐怖や驚愕に追い込まれたのならば。

 そして、洗脳するときに自らを主として設定する場合、専用の装置も使うだろうが自分の姿や声を直接聞かせるのが一番効果的だ。暴れるしか脳の無い馬鹿にすると、そいつらが出した被害が管理下にある自分のせいになっちまうしな。

 だから、必ず直接会い洗脳をかけ直す。正義やらなんやら小気味良いセリフで、あいつらの自尊心を掻き立てるようにしてな。

 

 そして、誉望(よぼう)の端末に反応があった。

 どうやら、餌にまんまと引っ掛かったようだ。

 

「自分は部屋に籠って情報収集してきます。ここまで情報があるなら完璧に炙り出してみせますよ」

 

 それから20秒ほどで彼は部屋から出て、木原の居場所を特定した。その情報を手にし彼は再び空へと羽ばたくべく、ベランダへと躍り出る。

 それを見て彼女は垣根が何をするかを察したようだ。

 

「……垣根」

「林檎、ちょっと待ってろ。──すぐに終わらせてくる」

「うんっ!」

 

 そう言って彼は飛翔する。

 木原相似は気付いていないだろう。自分の行いが眠れる獅子を起こしたことに。このとき彼の結末は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……林檎ですって?」

 

 そして、垣根帝督も気付かない。自分の安易な言動が虎視眈々と狙う女豹の琴線に触れたことに。同じく彼の結末も決まったのであった。

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