逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫   作:ハマグリ一派

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4話 今日だけ本気出す

 木原相似(そうじ)は興奮していた。用意していた撒き餌にターゲットが引っ掛かったからだ。

 

「ふふっ!これで第二位は今回の騒動に介入してくるでしょう!ああ、楽しみだなあ!(ゆずりは)林檎を捕まえたあと洗脳してぶつけたら、一体どんな結果が待っているんだろうっ!」

 

 (ゆずりは)林檎は『暗闇の五月計画』で使われた実験体の一人である。

 『暗闇の五月計画』とは学園都市第一位である一方通行(アクセラレータ)の、精神性や演算方式を意図的に他者へ植え付けるとどうなるかを調べた実験だ。

 その他者の人格を歪める非人道的な実験は、とある実験体の暴走で幕を閉じることとなるが、その実験は幾つかの結果を残してもいた。

 

 その一人が(ゆずりは)林檎。

 彼女は普段の能力強度は低能力者(レベル1)程度しかないが、多大なストレスを与えることによって、飛躍的に出力が増加する珍しい能力者だった。

 そこに目をつけたのがこの木原相似だ。彼は代替を得意分野とする木原であった。そのため、彼は(ゆずりは)に洗脳をかけ、一方通行の代替となるように変えるつもりなのだ。

 一方通行はベクトル操作。つまり、あらゆる力の向きを支配する能力者である。

 そのため、一方通行(アクセラレータ)の演算パターンであり、念動力(サイコキネシス)というエネルギーを加えて物を動かす力に彼は目を付けた。

 彼女を一方通行(アクセラレータ)の代替品として、生み出すために。

 

 しかし、その計画は明確に動き出す前に頓挫することとなる。

 

 

「は?」

 

 

 それはなんの前兆もありはしなかった。

 物音がしたわけでもなく、衝撃を感じた訳でもない。それこそ、何もないからこそ不自然だった。彼がそう感じるのは当然だ。

 

 突然日の光を遮っていたはずの天井そのものが、脈絡もなく消え去ったのだから。

 

「ッ!一体何が起きたんですかっ!?」

 

 彼の頭上にパラパラと砕けたコンクリートが落ちる……()()()()()()()()()

 この世界から消滅したと言われた方が納得できるほどに、不自然なほどに跡形もなく消え去っていたのだ。

 そこには始めから無かったのではないかとすら思えるほどに、綺麗に切り取られた天井があった。

 わかりやすい違いはたった一つ。

 天井があっただろう壁の縁に人影がいたことだ。

 

「よお、カス共。この俺にちょっかい出して無事でいられるとは思ってねえよな。久し振りに本気を出してやるよ」

 

 そう言って彼は三対の翼を広げた。

 その不自然に発光する翼に、太陽の光で今まで見えなかったその顔が僅かに照らされる。

 翼を出す能力とその顔つき、そして今回ここで出てくると思わしき該当する能力者は一人だけ。

 木原相似(そうじ)は驚愕しながらその人物の名前を叫ぶ。

 

「まさか学園都市第二位、垣根帝督ですか!?あり得ない!そこまで即座に対応できるわけがッッ!!」

 

「ハッ、馬鹿が。お前の常識でこの俺を計れると思うなよ?」

 

 まるで開戦の合図のように彼はその純白の翼をさらに広げる。そして、歌い上げるようにその言葉を言った。

 

 

「俺の未元物質(ダークマター)に常識は通用しねえ」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「くッ!これが学園都市第二位……!やはり、この程度の代替()では足りませんか!!」

 

 盾にしていた『DAアラウズ』が次々に吹き飛ばされていく。このまま全員無力化されれば、残るは能力を持たない科学者が一人。そんな彼にこの状況を好転させる力はない。

 それもそのはず、木原相似(そうじ)にとってこの展開は予想外も予想外だった。前もってそういう兵器を用意しておく暇はなかった。

 

 彼は考える。今回の襲撃は入念に手配し、予期されることなどあり得なかったはずだ。警備も一般的なシステムに過ぎなかった。まさか、それを常に改造し備えていたとでも?

 

「(いや、あそこのマンションの警備システムは、他の設置場所同様に本物の正規員の警備員(アンチスキル)が定期的に整備していたはずです。それに細工するとなるとあらかじめ予測していたとしか考えられない!)」

 

 考えれば考えるほどにわからない。だが、事実としてここに彼はいる。ならば、現実逃避など科学者としてあり得ない。

 

「……くくっ、どうやら僕の負けのようですね」

「当然の結果だ」

 

 この惨状を見ればどちらが勝者なのかは語るまでもなかった。しかし、木原相似(そうじ)の目に絶望の色は無い。

 

「しかし、僕はあなたの弱点を知っている」

「ほお?」

 

 垣根の片眉がピクリと上がる。それを見た木原相似(そうじ)は口を三日月に曲げて言った。

 

「あなたは人を殺せない。殺したことがない。今まで何度もそう言った場面があったにも関わらず、ただの一度もね!

 他人なんてどうでもよさそうな顔をして結構お優しいんですねっ!」

「……」

「それを僕は活用させていただきます。例え、あなたに再起不能なほど痛め付けられて、身体の到るところが機能不全のように陥ることになろうとも、代替して代替して代替して代替して、必ずまた僕はこの研究を続けましょう!だってそれが科学者なのですからっ!」

 

 その狂気に満ちた顔からは、これから振るわれる暴力の恐怖は微塵も感じられない。彼を突き動かすのは他の木原同様、溢れ出る知識欲。

 そのためならば他人の人生はおろか、自らの人生すら犠牲にすることをいとわない。それが、彼ら『木原一族』だ。

 そんな異常極まる狂気をぶつけられた垣根は、ため息を吐くと同時に視線を木原相似(そうじ)に向け、吐き捨てるように言った。

 

 

お前、この俺を舐め過ぎじゃねえか……?

 

 

 そのときの垣根の顔と声を聞いて、木原相似は総毛立った。頭よりも先に全身が警鐘を鳴らしたのだ。

 

「(なッ……何ですかこの気迫はっ!?これが人を一人も殺したことがない人間が発するプレッシャーであるはずがないッ!それこそ、何十人と殺したような人間であるかのような──……)」

 

 木原相似(そうじ)の額から汗が一つ流れる。集めていた情報と違う。何かがおかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼がそうなるのも仕方ないだろう。彼の思考を読むには未来からやって来たという前提条件が必要になる。そして、それを彼が知ることは未来永劫あり得ない。

 

 彼はいつものやる気が無い瞳から、怪しい色を浮かばせて木原相似(そうじ)を見下ろす。

 

「さすがは木原。()()()()大したムカつきぶりだ。やっぱテメェに次の機会なんて与えるわけにはいかねえようだな」

「ッ……それじゃあどうします?僕を殺して暗部にでも──ッ!?」

 

 木原相似(そうじ)が言い終わる前に、彼の翼は振り下ろされた。爆音とともに粉塵が噴き上げられたが、奇跡的に木原相似(そうじ)は健在だった。

 その事実よりも先に彼の優秀な頭脳は、相手の意図を読み取ろうとする。

 

「(くッ……!何だ?まさか、目く)」

「──目眩ましなんて思っちゃいねえよな?」

「ッ!?」

 

 その声は木原相似(そうじ)が思っているよりも近くから聞こえた。粉塵のせいで視界はゼロだが、おそらく二メートルも離れていないはずだ。

 声だけが聞こえる状態で彼は変わらずに話続ける。

 

「この俺が自ら砂にまみれるなんてあり得ないが、敗北したあとさらに敗北を積み重ねて、そして次は負けた相手に頭を下げて頼み込もうってまでに墜ちに墜ちた俺だ。

 この程度でプライドがどうとか馬鹿らしいとは思わねえか?」

 

 木原相似にはまるで理解のできない話だったが、それでも、自らの終焉まで刻一刻と近付いているのは彼には理解できた。

 

「常識なんてものはな覆すためにある。それを俺の未元物質(ダークマター)で証明してやるよ。じゃあな実験体(モルモット)。──俺の可能性の礎となれ」

 

 彼が考えていたのは珍しく不可思議な現象を起こし続けた『未元物質(ダークマター)』ではなかった。科学者としてではなく、木原相似(そうじ)という人間が抱いた純粋な疑問。

 

 この男は一体何だ?

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「よお、帰ったぞ」

 

 ガチャッ!と、玄関の扉を開いて入ってきたのは垣根帝督。この家の主だ。

 彼は何事もなかったかのように、再びこの空間へと帰ってきた。そんな彼を待ちわびていた者がいる。

 

「垣根!」

 

 普段は大人しくマイペースな(ゆずりは)が垣根に駆け寄る。そんな彼女に続くようにしてこの部屋に馴染んでいる二人が近寄る。

 すると、誉望(よぼう)が驚愕して大きな声を出した。

 

「って、垣根さん!?一体どうしたんですか!?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 帰ってきた垣根はかすり傷を負い服も所々焦げていた。他の能力者ならばそれもあり得ただろうが、相手は他でもないあの学園都市第二位、垣根帝督だ。

 たかが科学者一人と洗脳され暴徒と化した武装集団。その程度の相手に遅れを取るなど考えられない。

 その信じられない姿に誉望(よぼう)は驚き、目を見開いていた。彼にとって垣根帝督という男がどれほど強いかは、身をもって知っている。だからこそ、その事実が受け止められなかったのだ。

 

「あー……なんだ。ちっとばかし舐めてたみたいだ。木原ってやつをよ。まさか、あの状況で反撃を食らうとはな」

 

 彼はそう言って服を叩いて付いている塵を落とした。

 

「奴に対して恐怖と苦痛を与えて黙らそうとしたんだがな。奴にも意地があったらしい。俺がわざと攻撃を外したのをみると即座に自爆して、俺を含めた辺り一帯をまとめて吹き飛ばした。

 あと少し未元物質(ダークマター)の展開が遅ければ、俺も奴と同じことになっただろうな」

 

 その言葉に動揺が走る。木原一族は外道ではあっても科学者でしかない。戦闘員でもない彼らがそこまでやるとは、ここにいる誰一人として思ってもみなかった。

 

「垣根さんがそこまで……木原一族、噂には聞いたことがありましたけど、そこまで彼ら腹を括っているとは思ってなかったっスね」

「ああ、だがおかしな点が一つある」

「おかしな点?それって?」 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの場には残った炎と粉塵、そして特殊な装備に守られていた『DAアラウズ』しか残っていなかった。つまり、木原相似(そうじ)の痕跡は何一つなかったのだ。

 

「脅すためとはいえ粉塵で姿を隠したのは失策だったな。あいつがああいう手札を隠し持ってたのなら、そんなヘマはしなかったんだが。どうやら奴を見くびっていたようだ。

 これじゃあ、あいつの生死がどうなったのか確認が取れねえ。これからは奴の生存も考慮しなくちゃいけないだろう」

 

 そう言って彼はドスンッ!と、いつも使っているソファーへ乱雑に腰を下ろす。その様子から彼が不機嫌なことを察することができた。今までは彼の自制心でそれを隠していたようだ。

 

 彼は不機嫌である。

 それは余程の鈍感でなければ気付いて当たり前だ。暗部で生きてきた者がその程度の機微に気付かないはずがない。だが、それに違和感を持つものがこの場にいた。

 ()()はそれについて言及しようとするが、彼に片手で制される。

 

「あー、悪いが何も言わないでくれ。俺もこれからに関することで考えなくちゃならねえんだ。それでも足りねえなら暗部に関わること以外で、お前の言うことを一つ聞いてやる」

 

 そう言って彼は彼女を黙らせた。その向けられた目と仕草からこれ以上の深入りは絶対に無理だと彼女は理解させられる。

 その様子から彼は彼女だけに伝わるようにしていた、張り詰めていた雰囲気を崩し、(ゆずりは)林檎に目を向けた。

 

「悪かったな林檎。奴を確実に潰すことができなかった」

「ううん、垣根が無事ならそれでいい」

「……」

 

 その見上げられた視線から垣根は一瞬だけ目を逸らした。だが、再び彼女を見据えて言葉を投げ掛ける。

 

「それでだ。お前どこか安全な場所に心当たりはあるか?」

「……ない。私ずっと表の世界にいなかったから……」

「なら、俺のところに来ねえか?」

「え?」

 

 その言葉に彼女は伏せていた顔を上げた。

 

「今回俺はお前を襲う奴らを潰すつもりだったが、俺のミスで最悪な形で幕を閉じちまった。生きているのなら影で奴が暗躍しねえとも限らない。お前を助けるなら身近にいる方が確実だ」

「本当に……?本当にいいの?私……垣根の側にいてもいいの?」

「嫌か?」

「ううんっ……!私、垣根の側にいたいっ!」

「よし」

 

 そう言うと、垣根はいつしかのように彼女の頭を撫でくり回す。それは前と同じく女の子を相手にするものではなく、まるで動物にでもするような手つきであった。

 だが、前回と違うところを挙げるのならば、今回は(ゆずりは)が目を(つぶ)りながらも、微笑みを浮かべていることだろうか。

 彼女は今までしていなかった嬉しそうな表情で、彼の手を受け入れていた。

 

 こうして、彼女は温かな空間の中で彼らの一員として加わったのだった。




まだ、杠林檎を巡る話は終わらないです
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