逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫   作:ハマグリ一派

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7話 黒幕たち

 とある研究施設のその一室に、リクルートスーツの上から白衣を身に包んだ女性が椅子に座っていた。彼女は椅子に寄りかかり一人言を呟く。

 

「うーん、今回の第二位へ『悪意』を注入するのは失敗でしたかねえ?前回もそれといった反応はなかったので望み薄でしたが、まさか未元物質(ダークマター)を臓器にして遠隔から動かすとは。

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 疑問を浮かべるが理解ができない。そういう風に仕向けていたのだから当然だ。

 そんな彼女にゴールデンレトリバーが近付く、その犬は彼女のペットではない。それこそ、彼女が唯一この世界で敬う存在である。

 

「ほう、彼は君の想定の範囲外へと飛び出たか」

「あ、脳幹先生!」

 

 パッと椅子から立ち上がりその犬に駆け寄る。その犬は背中から折り畳みのアームを展開し、葉巻に火を着けると口に加えて煙を吹いた。

 そして、またしても機械を通して彼の声が発せられた。

 

「彼は学園都市に『未元物質(ダークマター)の超能力を宿す能力者』として設計されたはずだが、以前から既定の路線を外れる傾向がある」

「そうなんですよ。すごく気持ち悪いですよねー。設計図通りに組み立てたはずなのに不具合が発生するなんて、はっきり言ってあんなのただの不良品ですよ不良品」

「そう言ってやるな唯一くん。私からすれば彼の不可解さは嫌いではない。まあ、奴からすれば不愉快な事かもしれんがね。

 そして、個人的な話になるが彼の能力を私は気に入っている。あらゆるものを生み出せる物質は、科学者としても私の趣味とも合致して好奇心をくすぐってくれる珍しいものだからな」

「いつものあれですか?」

「ああ、ロマンがあるのはそれだけで魅力的だ」

 

 彼の名前は木原脳幹。

 始祖たる『木原』という枠組みを作り出した、科学者たちにより生み出された人の知識を持つゴールデンレトリバー。

 アレイスター=クロウリーの右腕でもある彼には、一人の弟子がいる。

 それが、彼の目の前にいる、木原唯一。

 彼女は一見地味な冴えない女性にしか見えないが、その実他の木原とは別格なのは、()()木原脳幹の側にいることからも察せられる。

 科学者でありながらロマンチストという、『木原』にはあり得ない要素を持つ者が木原脳幹であり、『木原』を研ぎ澄ませた残虐性を持つのが木原唯一と言った具合だろうか。

 

「いっそのこと、助けた(ゆずりは)林檎と彼の回りにいる友人たち全員を殺してしまえば、既定路線へと乗り上げてくれますかね?そうなれば、いくら彼でも完全に無視はできないのでは?」

「唯一くん」

「はいはい、わかってますよ。無駄な犠牲はナンセンスなんですよね。でも、結局は合理性や効率性を最終的に取るなら、それって意味があることなんですかね?」

「私たち科学者はすべからくロマンチストでなければならない。その感情こそが人と獣を分ける一線だと私は思ってる。最後には『木原』らしい外道な選択をすることになっても、その追及は切り捨てはならない美点だと私は思う」

「……ふーむ、何回聞いても理解はできるんですけど、ピンとこないですねー。私と先生が一つだけ噛み合わないところです。先生のそういうところ好きではあるんですけど」

「何、これは感性の問題だ。君に強要はしないさ」

 

 木原唯一は尊敬する脳幹の感性が分からずに唇を尖らせて拗ねた。尊敬する人(?)に近付きたいと思うのは、一般的にも自然なことだろう。

 彼女は先程の話題へと話を戻す。

 

「でも、何かはする必要がありますよね?このままではもったいないですし。それに、ただ消すよりも面白そうな変化をしてくれそうですしね」

「うむ、奴の計画(プラン)にもそれは組み込まれているはずだ。間違いなくそれは(まぬが)れんだろう」

「はあ……、やっぱり気に入りませんねえ……。先生があの男の下に付くなんて間違ってます。原型制御(アーキタイプコントローラー)さえなければ先生が頂点に立ってもおかしくないのに……」

「私を買い被り過ぎだよ唯一くん。それに、この街の『王』は奴だ。それを否定しても意味がない。そして、私は奴の計画に賛同している。とはいえ、これも善悪で言えば悪で、好悪で言えば好ましいだけでしかないのだろうがね」

 

 そう言った彼らはその場をあとにする。

 学園都市の深奥にいる木原として彼らにはやることが多いのだ。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 窓の無いビル。

 この街の象徴するシンボルの一つにしてこの街の主の根城だ。巨大なビーカーの中で逆さまで浮いている『人間』は、抑揚の感じられない声で言った。

 

「ふむ、未元物質(ダークマター)の設計図から外れた異常な行動は変わらず、か」

 

 その声は男にも女にも聞こえ、若い声にも年老いた声にも聞こえる不思議な声音だった。

 

「私の計画(プラン)は例え失敗したとしても別の道筋を辿り、最終的に目指す到達点へと辿り着くように組まれているが、ここまでのイレギュラーばかりの存在の扱いは果たしてどうするものか。

 悪意を持つならば御し易く、善意を持つならば誘導してやればそれで済むが、そのどちらも関心を持たないとはな」

 

 正確には違うだろう。(ゆずりは)林檎を助けた以上は再び助けようとはするはずだ。失敗すれば慟哭を上げるほどに取り乱すかもしれない。

 しかし、例え仮に(ゆずりは)林檎を彼が失ったとしても、憎しみに駆られて動くとは考えられなかった。

 

「それは、彼のこれまでのあり方から推察できるが、私が言っているのはそんなデータで計れる程度のことではない。

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 だからこそ、無理だと断じる。

 彼は自分と同じように何かを到達点と定めている。それを崩さなければ自暴自棄になることはないはずだ。

 己が自らの目的のためにこの科学の街を作り上げたように、彼も周囲の人間が誰もいなくなったとしても、自らの望みを叶えるために一つのことだけに邁進するだろう。

 そのことを、アレイスター=クロウリーは自らの歩み身に付けた人生観を基に導き出す。

 とはいえ、230万人を科学の街に閉じ込めたこの『人間』が、その程度のことで自重などするはずもない。

 

「だが今は、揺さぶるだけにしても時期尚早だろう。そして、あくまで彼は一方通行(アクセラレータ)を失ったときの第二候補(スペアプラン)。そこまで急ぐ理由はない」

 

 そう結論付けると、酷薄な笑みを浮かべ最後にこう締め括った。

 

 

「学園都市第二位、未元物質(ダークマター)。いや、我が同類よ。いつまでも傍観者でいられるとは思わぬことだ」

 

 




アレイ☆に仲間意識持たれてるていとくん
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