逆行しても俺の未来はメルヘン冷蔵庫   作:ハマグリ一派

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題名は特に思い付きませんでしたm(;∇;)m


9話 新歓コンパとは

 遡ること二日前。

 彼らはよく眠る(ゆずりは)がベッドで眠ったあとに、机で他愛ない話をしていた。それは、お互いの近況であったり、最近の学園都市の変化や趣味などだ。

 そんな会話をしていると、思い付いたように少女が一つ提案をした。

 

「ねえ、そう言えばまだ彼女の歓迎会してなかったわよね。やらないの?」

「あん?歓迎会?」

 

 予想外のことを言われ聞き返す垣根。それに頷いた彼女は続けて話し出す。

 

「ほら、彼女。まだ幼いからそういうことした方が喜ぶんじゃないかって思うんだけど」

 

 新しくこのメンバーの一員となった(ゆずりは)林檎に対し、歓迎会をするという心暖かい提案だった。『暗闇の五月計画』の被験者だった彼女は、歓迎会のような迎え入れられる経験は一度もない。そんな彼女が三人からそれを受ければ、喜ぶだろうということは簡単に予測することができる。

 

 この言葉は彼女が(ゆずりは)を思いやる純粋な優しさ……だけではもちろん無い。

 これは彼に対する彼女のアピールなのである。

 

 彼女の方向性としては家庭的な一面を見せ付け、大人びた気配りと包容力を見せ付けることにある。そして、彼の表での生活を調べ上げ、彼に特定の女の影が無いことは既に彼女は特定していた。

 つまり、現時点では自分自身が誰よりも優位に立っていることを、彼女はそのデータと彼の動向から確信していた。

 しかし、それに甘んじていては彼が新しい女を引っ掛けに行ってしまうことが、あり得ることを彼女は懸念する。

 そのためのアピール。

 ただ三歩後ろを歩くだけではなく、彼の不足。あるいは、鈍感なところをカバーできる女になること。そうすれば、他の女と話しても物足りなくなるのは自明の理。

 女の一面と彼の人間性の理解者となること。これが彼女の推し進める計画だった。

 

「良い案だと思いますよ。自分は賛成です垣根さんは?」

「いいんじゃねえの?ここでいいならわざわざ場所を押さえる手間も必要もねえし」

「じゃあ、決まりね」

 

 パパッと手短に決める心理定規(メジャーハート)。その決断力と行動力は垣根からしても流石の一言だ。まさに、彼女の術中である。

 

「でも、俺の知っている歓迎会とは違うものになりそうっスね」

「あら、どういう意味かしら?」

「自分の知っている歓迎会って、店借りて適当に摘まめるものとドリンク用意するやつしか知らないんスよ」

「ああん?別にそれでいいだろ」

 

 垣根は誉望(よぼう)が言い出したことに疑問の声を上げた。それに彼は簡潔に答える。

 

「いや、それだといつもの外食と同じっていうか、品物のグレードが下がってるんで大したインパクトは無いですし、それこそいつもの食卓の方が(ゆずりは)は喜ぶ結果になるんじゃないっスかね」

「なるほど、確かにそうね。皆で食卓を囲んで食べるのはいつもの日常でしかないから、それで歓迎会というのも何か違うかもしれないわ」

「インパクトなんざいらねえだろ。歓迎会って銘打って適当に飲み食いして騒げば済む話だろうが」

「でも、彼女『暗闇の五月計画』の被験者だったんでしょう?こういうことされるのも初めてだろうし、気を使うなんてことも知らないから、そこら辺の事情は容赦無くズバズバ言っちゃうわよ?」

「あー、それは想像できるっスね」

 

 (ゆずりは)は社会とは断絶された実験施設にずっと居たため、社交辞令のような対応をすることができず、年相応に思ったことや感じたことを言ってしまう傾向がある。そんな彼女に「用意してもらったんだからそれで満足しろ」とは、(一名を除いて)とても言えない彼らだった。

 

「でも、それじゃあどうします?一般的なやつじゃウケが悪いのは目に見えてますよ?」

「そうね。なら、飲み食いをするということは変えずに、出される品物を変えるというのはどうかしら?」

「品物っていうとあいつが喜びそうな物か?あいつの場合飯食わせときゃ何でも満足するだろ」

「その中でも、適した料理というものがあるのよ。立食会では食べやすい料理ばかりで、スープ系の料理は基本的に無いでしょう?料理は味だけではなくて振る舞うときの状況も大事なのよ」

「出す料理のジャンルが一品一品めちゃくちゃなお前が言うと、説得力ゼロだな」

 

 軽口を叩き合いながらも彼女は企画に肉付けしていく。

 

「子供が好きそうな品物を多くするのはどうかしら?私って今まであなた達の舌に合わせていたから、あの年代が好きそうな物って碌に作ってなかったし。あとは、飾り付けなんかも増やして誕生日会と同じくらいにすれば、それなりのものになるんじゃないかしら」

「それはいいかもしれないっスね。とはいえ、自分は誕生日会だとかそういうのしたことないんですけど、垣根さんはどうっスか?」

「あー、無い訳じゃないがめんどくせえ記憶しかねえな」

「?何かあったの?」

「他の奴の誕生日会だってのに、クラスの女共が群がって来てな。邪険に扱えば扱うで余計に喜ぶ始末だ。そのときは男女半々だったはずなんだが、女子としかしゃべった記憶しかねえ」

「ふーん、大変だったのね」

「そのときに、二次会だかで俺を連れ出そうとしたり、ふざけたノリ作ってキスしようとしてきた女もいやがったな」

「………………………………………………………………へえ」

「ひぃっ!?」

 

 垣根は前を向いていたため気付かなかったが、彼女と対角線となる席に座っていた誉望(よぼう)は、その瞳に映る剣呑さを直視することとなった。

 誉望(よぼう)は暗部に身を置いており、様々な悪意をその身に直接浴びている。その誉望(よぼう)があらかじめ気構えをして無かったとはいえ、こうもあからさまに震えがったことから、どれ程凄まじいプレッシャーだったのかを察することができるだろう。

 

「それでしたの?キス」

「そんな馬鹿な女に触れさせるほど俺は安くねえよ。適当に流して帰った」

「もしかしてヘタレた?」

「バーカ、単純にボーダーラインに達してなかっただけだ。あの程度じゃ俺には釣り合わねえ」

 

 垣根はそう言って紅茶に口を付ける。彼にとって本当に眼中に入ってもいない相手だったのだろう。そして、その答えを聞いた心理定規の反応も分かりやすいものだった。

 

「(はあ……、その顔を垣根さんに見せれば進展の一つや二つはすると思うんですがね)」

 

 いつもの飄々とした態度とは違い、安堵し穏やかな笑顔を浮かべる少女を見ながら、誉望(よぼう)は内心でそんなことを思った。

 ……まあ、弱味を握られているため、思うだけで迂闊なことは言えないのであるが。

 

 そんなわけで決定した(ゆずりは)林檎歓迎会。主催は心理定規(メジャーハート)が取り仕切り、残る男衆がそのサポートという手筈だ。

 (ゆずりは)は眠ったとき以外は垣根の側から離れないため、基本的に暗部が無いときは二人が準備を進めて、垣根が(ゆずりは)を部屋から離れさせる役目になった。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 そうして迎えた当日、歓迎会の日がやって来た。

 一旦、垣根が(ゆずりは)と共に外出し、二人の準備が終わり次第に再び戻る段取りだ。

 

「……あれ?暗い?」

「あいつら用事あるって言ってたからな。もう、帰ったんだろ」

「残念。心理定規(メジャーハート)の料理楽しみにしてたのに」

 

 夕飯のためにお腹を空かせて帰ってきた(ゆずりは)は、彼女のご飯が食べれなくてがっかりしていた。彼女も垣根達同様に数日で胃袋をがっちりと掴まれていたのだ。

 とはいえ、たまに作り置きをしてくれる心理定規(メジャーハート)のことを思い出し、(ゆずりは)リビングへと駆けた。

 

 それを見て垣根は懐に入れているクラッカーを取り出す。

 

 そう、この瞬間まで全て彼らの計画通り。

 全ての段取りを(ゆずりは)に察知されないように完璧に遂行した彼らは、無事にその時を迎える。

 ガチャッとドアノブを捻る音と共に、小さな身体が部屋の中へと入った。そして、何故か灯りが付けられていない部屋に、パッと突如光が灯る。

 

「わっ!」

 

 そして、スパパパンッ!!と、鳴り響くクラッカーに驚き、(ゆずりは)は目を真ん丸にする。ヒラヒラと舞う紙吹雪を見ながら呆然とする彼女を見て、三人からそれぞれの笑みが溢れた。

 それは心からの笑みであったり、苦笑であったり、不敵な笑みであったりと様々なものであったが、そこに嫌悪のものは何一つ無い。

 混乱する彼女にその三人からとある言葉が送られた。

 

 

「「「(ゆずりは)林檎、仲間入りおめでとう」」」

 

 

 その言葉に「え?」と固まる(ゆずりは)であったが、リビングの壁に付けられた布を書かれた物を見て、その文字を言葉にする。

 

「歓迎会……?」

 

 呟く(ゆずりは)の後ろから垣根が言葉を発する。

 

「お前がここに来て1週間は経ったからな。それで、お前の歓迎会を開くかって話になったんだよ。まあ、主催はそこの心理定規(メジャーハート)で、俺と誉望(よぼう)はそのサポート程度しかしてねえけどな」

「ふふっ、驚いてくれたようで何よりだわ。でも、これだけじゃないわよ?」

 

 今回の主催者である心理定規(メジャーハート)に背中を押され、テーブルの置かれたリビングに移動すると、彼女の瞳が一際輝くものがそこにはあった。

 

「すごい!おいしそう!すごい!」

 

 そこには、豪勢な料理がところ狭しと並んでいた。この光景を見れば一大イベントであることは一目瞭然だ。そして、その料理を作った料理人はもちろんこの人。

 

「そんなに喜んでくれて嬉しいわ。腕によりをかけて作ったから味わって食べてね」

 

 艶やかな声音に暖かさを乗せながら、心理定規(メジャーハート)(ゆずりは)に料理を勧める。

 

「にしても、歓迎会に七面鳥やホールのケーキとか、いくらなんでも雑食すぎやしないか?適当にピザとかで良かったんじゃねーの?」

「私も最初は子供の好きそうな料理にしようと思ったんだけど、彼女はそもそも歓迎会自体をイメージでしかないだろうから、こういう場で出されるような物を出して上げた方が喜ぶんじゃないかと思ってね。思い付く限りの料理を作ってみたわ。

 あと悪いけどピザってまだ上手く作れないのよ。及第点は取れてるんだけど、やっぱり専用の釜じゃないと上手く焼けないのかしら?」

「いや、何で自前前提なんだよ。宅配でいいだろ宅配で。つーか、ピザまで作れるようになったのかよ。どこまで行く気だお前」

「違うわ及第点よ。まだ披露できるまでになっていないから、出来ないと同じよ」

「でも、心理定規(メジャーハート)さんの及第点って相当高いっスよね。それで下手な料理店を軽く凌駕してますし、ぶっちゃけ最近は外食のレストランで物足りなくなってますよ俺」

 

 見るからにそういったものは外食で済ませそうな少女は、同年代ではとても張り合うことが出来ないほどに、女子力が天元突破していた。

 色々突破しているせいで、本職ですら冷や汗を掻くほどの傑物になっているのは、純粋な彼女の才覚によるものか、はたまた少年によせる想いの強さからか、それともその両方か。

 

「よくもまあ、自分から疲れることをしようと思うもんだ。いくら家事を極めようが暗部の仕事で使えるもんでもねえだろうに」

「そうでもないわよ?ターゲットが日常生活で残した手かがりとなる物も、以前とは段違いに分かるようになったし、家政婦とかで潜入する任務とかもそつなくこなすことができるから、どっちかっていうとプラスになっているわよ」

 

 暗部での仕事は知っているものの、『スクール』以外での彼女の活動を特に把握していなかった垣根は、「ふーん、そういうものか」と、素直に受け取る。

 実際には住み込みなどすれば、ここに多く立ち寄れることが少なくなってしまうため、そう言った依頼は受けてはいないのが実情である。

 では、何故そんなことを言ったのか?単純な話だが先ほどの内容はあらかじめ用意していたカバーストーリーなのだ。というのも、少女が花嫁修業をしていると言っても訝しむだけだろうし、最悪別に惚れた男が居るだのこうだのになったら、面倒にも程がある。

 そのことから、暗部の仕事との関連性を示唆しつつ、話をでっち上げた方が角が立たず穏便に技術を向上させることができる。

 

「(胃袋を掴むことは基本中の基本。味の好みはもちろん、純粋な技術や知識の向上も必要なことだもの。他の男ならいざ知らず、彼の場合だと分りやすい努力アピールは逆効果になりかねない。

 実際の実力を付けることはもちろんだけど、努力の研鑽は言葉の端々から滲み出るぐらいじゃないとね)」

 

 その技術は想いの強さで語れるレベルを逸脱しているのだが、そのことに不満を持つ者は当然おらず、彼女もより高みに昇ろうと努力をし続けたため、誰も彼女の行動に疑問を抱くことはなかった。

 常に余裕を持ち、飄々と立ち振る舞う少女が恋慕の情に振り回され、努力の鬼と成り果てているなど誰も察することなどできなかったのだ。

 能力開発のときですら、ついぞ必死さを抱かなかった彼女が、男と付き合ってもいない段階で、死ぬ気で花嫁修業をしていたなど誰が想像できるだろうか。

 なまじ表ではその努力を見せないことが、周囲を趣味の範囲内だと勘違いさせた。

 

 こうした経緯の(もと)、女子力MAXの怪物が生み出されたのである。

 

 そのことを一番関係の薄い(ゆずりは)に察せられるわけもなく、目についた料理をひたすらに口へ掻き込む小動物と化していた。

 

「垣根!垣根!これすごいおいしい!私これ食べたことない!」

「お前の場合ほとんどのもんを食ったことねえだろうが。食い意地張って喉詰まらすなんて馬鹿な真似はするなよ」

「それじゃあ、私達も食べましょうか。量は彼女だけじゃ食べきれないほどに用意したことだしね」

 

 面子が面子のため賑やかに騒ぎ出すということはなかったが、四人仲良く食事をするその光景は心暖まるものだった。それこそ、その半分が暗部所属の者だと、勘繰る者はまずいないと断言できるほどに。

 年相応に楽しむ彼女達の緩やかな時間は、彼らの穏やかな会話と共に学園都市の街並みの一つとして、確かにそこにあったのだ。彼らは思い出に残る大切なこの1日を忘れないことはないだろう。

 そんな彼らの時間を邪魔しないかのように、ゆっくりと日は落ちていったのだった。

 

 

 

 

 

 しかし、そんな彼らの空間に割り込むかのように、玄関からチャイムが鳴る音が響いた。




『垣根捕獲計画』──稼働中。

果たして誰がやって来たのか。次回に続く
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