そして、この後の展開は―
彼にとってそれは不幸中の幸いなのか、コカビエルはかろうじて生き残っていた。
本能的に大量の氷と光力で防御を行っていたらしく、胴体に深い切り傷を負っていたが、かろうじて致命傷は避けていた。
そして地面に墜落するコカビエルを見て、バルパーはあきれているのが動揺しているのかわからない表情を浮かべていた。
「……技術の出所から言って、可能性はあるとは知っていたが………それはデュランダルの間違いではないのかね?」
「いや、正しくそれはエクスカリバーだよ。ただし、貴様の想像通りこの
それに答えたのは、スピネル・G・マルガムだ。
苦笑を浮かべたスピネルは、ぽんと肩に手を置いた。
「……すまん、間に合ったがこれでは乳は吸えんな」
「……俺は、至ったけどもうダメかも」
『オイ相棒! そんなあほな展開はマジでやめろ!!』
赤毛のスピネルに謝られながら、赤い鎧のイッセーが崩れ落ち、赤龍帝ドライグが気を持ちなおさせようと声を張り上げる。
割とシュールな光景がそこにあった。
「いやいやいやいや、ちょっと待ってやぁ!」
思いっきりツッコミを入れたフリードは間違ってない。
というより、意味が分からない。
「この世界じゃないってどういうことだよ、おい!」
「その辺については後で監獄にでも叩き込んでから説明してやろう。まあとりあえず、先ほど麻宮が使ったのは、まごうことないアーサー王が使っていたエクスカリバーだよ」
フリードにはっきりと告げながら、スピネルはそして続ける。
「ついでに言おう。……もうお前たちのサーヴァントも撃破できたが、どうする?」
その言葉に、フリードとバルパーははっとなって振り返る。
そこでは―
「……思ったより弱いんだけど。サーヴァントってこんなに弱かったっけ、義姉さん」
―背中に車輪を翼のように一対取り付けたパワードスーツが、謎の成人男性を叩き潰していた。
首があらぬ方向に捻じ曲げられた男が、光の粒子となって消えていく。
鰐もまた、光とともに消えていく光景は、B級パニック映画でありそうな展開ではある。
そして、それを成したパワードスーツから少年の声が響く。
『……で、スピネル義姉さんも言ってたけど、どうするんだよ?』
その声が向けられるのはバルパーとフリード。
すでにコカビエルとバーサーカーは倒され、戦力は一気に低下している。
更に赤龍帝が意気消沈しているとはいっても禁手に疑似到達しており、こちらは強大化しているのだ。
普通に考えれば、まず間違いなく趨勢はひっくり返っており―
「……へぇ。コカビエルを一撃で叩きのめすとは、やるじゃないか」
―さらに、そこに白が舞い降りる。
先ほどの約束された勝利の剣に吹き飛ばされた結界の向こう側。そこから白い鎧が舞い降りた。
その鎧に気づいて、スピネルが苦笑を浮かべる。
「スマンなヴァーリ。すでにコカビエルは倒された後だ」
「みたいだね。やれやれ、コカビエルはこの体たらくだし、どうも倒したのは赤龍帝というわけでもなさそうだ」
スピネルにそう言われて苦笑する白い鎧の宝玉が、ほのかな輝きを放つ。
それと同時に放たれる声は、鎧の中のものに対してなだめるような声色だった。
『そういうな。先ほどの魔力の放出、主神であろうと楽には出せないほどだったからな。いかにコカビエルと言えど、あれを不意打ちで食らえばどうしようもあるまい』
「なるほど。そういう意味では素敵な競争相手がいるということか」
鶴来はそっと距離をとったが、そこは余談。
そして、何より警戒するべきは―
「……それで? どうするのかしら?」
リアスはほのかに魔力を見せながら、フリードとバルパーに言外に選択を迫る。
すなわち、投降かこのまま殺されるか。
禁手の二天龍が二人がかり。さらにデュランダルと聖魔剣。この時点で、エクスカリバー一本でどうにかできる問題を越えている。
フリードもそれを理解しているのか、逃げるタイミングを探っているようだが探り切れてないのが実情だ。
そんな中、バルパーは冷静な表情を浮かべていた。
「……ふむ。データは十分に取れたのは事実だ。なら、次があればもっと面白いこともできそうだな」
「この状況下で何言ってんだこのジジイッ! 俺たちちょっとマストダイなんですけどぉ!?」
フリードが食って掛かるのも当然の窮地と余裕だが、バルパーはそれでも冷静だった。
「落ち着けフリード。とりあえずエクスカリバーを貸してくれ。すべてはそれからだ」
「……ん? いいけどさぁ、最期にエクスカリバーふるってみたいってオチだったら怒るよ?」
フリードが渡しながらそういうのも当然ではある。
バルパー・ガリレイはエクスカリバーに対するあこがれから、エクスカリバーの使用者を人造することに成功した一種の傑物。執念の恐ろしさを体現する男といってもいい。
だからこそ、詰みの状況下でせめて願望をかなえようという考えなのかと思ったその瞬間、擬態の力で触手となったエクスカリバーが、フリードの腰に巻き付いた。
「ではな。また会おうかフリード」
「……はぁい?」
そして首を傾げたフリードが軽く百に分身し、そして一斉に別々の方向に投げ飛ばされた。
投げ飛ばされたフリードの分身は、軽く100m以上吹っ飛んで、崩壊した結界の向こう側へと消えていく。
「……なんですって!?」
「意外だな。奴をそこまでかばうとは」
リアスはその行動に目を見開き、スピネルは舌打ちはしつつも冷静にバルパーに視線を戻す。
バルパーがフリードを自分より先に逃がすとは思っていなかった。
そういう人情とは無縁と思っていたし、フリードは精々優秀な駒程度の認識だったからだ。
「これは効率の問題だよ。すでに
そんなことを言いながら、バルパーはエクスカリバーを軽く振るう。
「ふむ。いい剣だ。ふるってみるとこんなものかとも思えるが、やはり長年の夢がかなうのは気分がいいな」
「そうか。なら、ここで終わるといい」
そこに、木場祐斗が聖魔剣を構えて切りかかる体勢になる。
祐斗からすれば、バルパーは恨むべき怨敵だ。
個人的に許せる相手ではないし、これだけのことをした手合いを逃す理由もない。
下手に生かしておけばまた被害者をうむこともわかっている。逃がす理由が存在しない。
「まあ投降してもたぶん極刑だしねー。最後に思い残しがないようバトる?」
「……何なら俺が相手するぜ。部長のおっぱいを吸えない悲しみと、木場やその友達を苦しめた怒りも、まとめてぶつけてやる!!」
イルマとイッセーはそう言いながら前に出るが、その首根っこをスピネルと小猫がつかんで引っ張った。
「「ぐえっ!?」」
「……事実だが下手な挑発はやめろ。あと殺すな。エクスカリバーの件について、そいつには聞き出したいことがあるんだ」
「……その二つを同列にしないでください、変態ドラゴン先輩」
当然のツッコミを入れられる中、祐斗は聖魔剣で切りかかるために腰を落とす。
聞くわけがないと思いつつも、然し最後の一線を踏み越えるために警告も入れようと判断する。
どうせ聞かないからこそ、この男の引導を渡す。そのための一種の通過儀礼として、祐斗は口を開いた。
「エクスカリバーをおいて投降しろ。さもなければ今度こそ―」
「そんなに欲しいのならくれてやろう」
その瞬間、空高くにエクスカリバーが放り投げられた。
―え?
全員がそう思うのも当然というぐらいの、まさに虚をつく行動だった。
ある意味今回の戦いの中心にいたといってもいいエクスカリバー。そしてそれに対する執着心でここまでの騒ぎを起こしたバルパー・ガリレイ。
そんな二つの組み合わせから起こったこの流れだからこそ、誰もが一瞬とはいえ注意散漫になる。
そして、その瞬間にバルパーは木場達を通り越して全員の位置取りから見て中心点へとたどり着き―
「ではな。なかなかに興味深い実験だったぞ」
―その言葉とともに、爆発した。
……アブねぇ。まさか自爆するとは思ってなかった。
あいつは一昔前の特撮の悪役か。せめて必殺技を受けてから爆発しろってんだ。
俺がそんなことを思いながら起き上がると、同じタイミングで起き上がる人がいた。
「痛た……。まさかそういう方向で来るとは、イルマさんビックリだなぁ」
と、起き上がるのは助っ人で現れたとか言うイルマとかいう女。
俺はエクスカリバーをぶっ放すための準備に忙しかったし、あれは結構消耗するからちょっと意識を向けきれなかったんだよなぁ。残ってたバルパーとかフリードとか、あと白龍皇とか気を付けないといけないのが多かったし。
ま、とりあえずいったん終わった感じだし、ちょっと一言言っといたほうがいいか。
「お互い何とか無事っぽいな。あとあんたのおかげで準備ができたようなもんだし、感謝するぜ?」
俺が手を差し出すと、イルマは振り返った。
その光景を、俺は一生忘れない。
「うん、ありがとう。イルマさんも、結構守れて良かったよ」
その笑顔が、どこかほっとしている表情が、うれし泣きのようにも見えるその表情が―
「………あのっ!」
―それを我慢させてくれず、俺はどうしても尋ねた。
「ん、なにかな?」
その人は不思議そうな表情をして、だけど笑顔で促してくれる。
だから俺は、それを聞く。
「―俺たち、どっかであったことないか? なんていうか、十五年以上ぐらい前」
可能性はあるかもしれない。
堕天使側なら堕天使である可能性はあるし、ラルドが言うにはスピネルは転生堕天使技術を作ってるから、少しぐらいはいるだろう。
髪の色は全然違うし顔つきも違うと思うが、どこか似た印象を感じるし、何より物心ついた時だから何かしらの覚え違いとかあいまいな部分が変な補完がされたことがあるかもしれない。
だから、もしかしてと思った。
そして彼女はそれに対して目を見開いて―
「………新手のナンパ? このイルマ・クリミナーレさんは産まれてから17年間ヨーロッパ育ちで、日本に来たのはカルンウェナンに入った二年前ぐらいだけど?」
―残念だけど、違う気がする。
俺が日本から出たのは小学校に上がるぐらい。そしてあの記憶が俺の最初の記憶である以上、なら会ってるわけがない。
だから、ちょっと残念だ。
だけど―
「………でも……よかった、かな?」
―その表情は、本当に感慨深げで―
「ちゃんと守れて、笑顔でいてくれて」
―本当に報われたといわんばかりの、そのほっとした表情は―
「……なんていうか、救われたかな」
―本当に、きれいだと思ったから―
「――あんたに惚れた。友達から始めないか?」
―つい言ってしまった。
そしてイルマの表情が固まる。
うん。衝動的に何言ってんだ俺は。
一目ぼれって確かにドラマチックだけど、つまり相手のこと何も知らないんだよな。友達からって言えたのはなかなか俺も頑張ってるけど、それでもちょっと失礼だったか。
いや、そもそも俺は教会の戦士で、相手さんは神の子を見張る者の人員だ。どっちかが寝返らないとまずいけど、俺から願えるのは義理に反する。
だからイルマがこっち側に来てくれないと困るんだけど……
「……あ~。私もスピネルを裏切る気はないんだよね~。そっちは鞍替えする?」
ですよねぇ~。
「……それじゃ、俺も無理だな。教会には拾って世話してくれた恩義があるし、まっとうな信徒はたくさんいるからそういう裏切りはちょっと」
義理を捨て去るのはどうかと思う。
教会側がどっぷり腐敗してるならまあ義理なんて知らないけど、別にそういうわけじゃない。問題のあるやつやロクデナシもいないことはないけど、基本的に大半の構成員は善良だから、追放されるならともかく自分から抜ける気にはなれない。
それに、さ。
「……何より相棒を裏切る気はないんでな。残念だけど、縁がなかったってことかね」
あいつを裏切るのは、いやだな。
それに、いまあいつはかなり追い込まれてるだろうしな。
それをほっとくようなやつになったら、あの彼女に顔向けできない。
何より俺が放っておけない。
その様子を見たイルマは、苦笑しながら手を差し伸べる。
「そっか。手放しちゃだめだし、思い上がりで理解した気にもならないように気をつけなきゃだめだよ?」
そんなアドバイスに苦笑しつつ、俺も手を伸ばす。
「そうだな。ま、無理しない程度に頑張るさ」
握手を交わすと、なんかお互いに照れて頬が赤くなった。
「んじゃ、イルマさんは事後処理に行くから。縁があったら姉のように慕ってくれていいよ?」
「オーライ。じゃ、俺も相棒のフォローに行ってくるさ、イルマ
俺の呼び方に、イルマ姐さんはくすっと吹いた。
それがかわいくて、いろいろ疲れが吹っ飛んだのは内緒だ。
そう、この日こそが俺の運命の再始動。
俺はこの時、運命と再会した。
と、言うわけでエクスカリバーは回収できたけどかなりモヤッとするところもあったりなかったり。
そして、ついにであったメイン主人公と真の主人公。