童顔系腐男子監督生は現実逃避中   作:深生

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※※Attention※※


このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。

それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。

まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。

今回は

・エース実験着

のパーソナルエピソードのシナリオバレがございます。
ご注意ください。
時間軸はマシュマロよりふわふわです。

●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。

また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。



Ep10.童顔系腐男子監督生の授業風景とテスト勉強

 

硝子張りの温室に足を踏み入れると、むっとこもった緑と土の匂いが押し寄せてきた。

魔法薬学室の左側にそびえるドーム状の植物園は。普段であれば寄り付く生徒もおらず閑散としている。温室ではあるが各植物の自生環境に合わせて温度調整がされているため、暑すぎるということもなく、むしろちょうどいい温度が保たれている。

レオナがここを昼寝場所として好んでいるのも納得がいく。

最も、今日に限って言えばこの場所は昼寝に適している環境であるとは言えない。

「2年生と合同授業だなんて……何をするんだろうな」

「さぁな~」

「……すぴー……」

「おいコラグリム、人の頭の上で寝るな」

いつもの面子で今回の授業の担当であるクルーウェル先生の到着を待つ。

今日の魔法薬学は植物園での1・2年生合同授業だ。とはいっても、5クラス×2学年はさすがに多すぎるということで、ABC組とDE組で時間を分けられてはいるが。

それにしても人が多い。しかもいつもと違って皆実験着だからか余計に大きく見える。白は膨張色だもんなぁ……。どいつもこいつもいかつく見える。

ちらりと横に視線を向ければ、真面目な顔で授業開始を待つデュースと、いかにもかったるいですみたいな表情をしたエースが並んでいる。

は~~~~~癒される。エスデュが並んでるだけでこんなに癒されるのはなんでだろう。健康に良すぎて困惑するわ。

白衣……と言えばやっぱりお医者さんごっこが定番だな。医者×患者も患者×医者も、医者×医者も美味しい。エスデュならどれがいいかな。個人的には医者エースと患者デュースの無知シチュなんだけど。

「本日は1年生と2年生の合同授業を行う。課題はマンドラゴラの採集だ」

いつの間にか本鈴が鳴っていたらしく、クルーウェル先生がパシッと自分の手のひらに短鞭を打ちつける。

どうやら1年生と2年生でペアを組んで授業を行うらしい。できれば知り合いがいいんだけど……ラギーがB組だったはずだから、自由に組んでいいんならラギーのところに行くか。

「うげ、マンツーマンかよ。合同授業は人が多いから途中で抜けてもバレないと思ったのに」

「残念だったな、エース。俺もせっかく教えるなら真面目に指示に従ってくれそうな奴が良かったよ」

はぁ、とため息を吐きながら近付いて来たのはジャミルだ。どうやらエースのペア相手のようだ。

ペア相手指定されてんのかぁ。知り合い以外が来るんなら、出来るだけ俺に興味がないというか関心がない奴だといいんだけど。

しっかしジャミルが1人でいるのってなんだか新鮮だな。顔を合わせる時にはいつもカリムが一緒にいたから、常に2人でいるもんかと……いや、この前イデアが拉致られた時はカリム1人だったな。

「……カリム1人にして、大丈夫なのか?」

「言うな……考えないようにしているんだ……」

純粋に疑問に思ったことを口にすれば、ジャミルは顔をしかめて手を額に当てた。

ああ、やっぱり心配なんだな……。けど、カリムの面倒を見てると授業にも支障でそうだもんな。

「せめて……しっかりした1年生がペア相手だといいな」

「ああ……」

じゃあ俺達は向こう側でやるから、とジャミルはエースを連れて割り当てられたマンドラゴラの育成場所へと向かって行く。

周囲にいたクラスメイト達が次々と2年生に連れられて各々の場所へと散っていく中、何故か俺のペア相手である2年生がなかなか来ない。

もしかしてあれか、余ったのか俺。2人組を作れなかった奴は先生とペアだぞーとかそういう処刑みたいなことになったのか……はは……悲しい……。

でも余ったものはしゃーない。クルーウェル先生のところに行くか、と歩き出そうとしたところで、後ろから腕を引かれた。

「ようやく見つけましたよ」

「アズール」

振り向いた先にいたのは少し不機嫌そうな表情のアズールで。

なんとなく、そういえばアズールには引き留められてばかりだなと思った。

「もしかして、アズールが俺のペア相手?」

「ええ。この僕が指導するからには、完璧にこなしてもらいますよ」

「おっ。それは心強い」

誰が来るかと内心戦々恐々としていたんだけど、アズールなら安心だ。

授業中何かあってもしっかりフォローしてくれそうだしな。

「おーいグリム、一回起きろ~」

「んにゃ……もう授業終わったんだゾ?」

「残念ながらまだだ。これからマンドラゴラ抜くから、耳栓つけような」

「勝手にするんだゾ……」

「はいはい」

頭の上から一度グリムを降ろして、きちんと塞がるように大きな耳の中に耳栓を詰めてやる。

いつも思うけど、グリムの耳から出てるこの炎みたいなのなんなんだろうな。実際に燃えてるっぽいけど、触っても火傷しないし、ほんのり暖かいくらいだ。

耳栓をつけたことで、いよいよ寝るにはちょうどいい環境が整ったんだろう。起こしたときには薄く開いていた目は完全に閉じられ、すよすよと安らかな寝息を立て始めた。

ったく、お前1匹で留年しても知らねーからな。

「……あ。アズール、見て見て」

「なんですか?」

「グリムの奴、舌を仕舞い忘れてやんの」

「……本当に、こう見るとただの猫ですねぇ」

「だよなぁ……。あ、そうだ。ネコ科と言えば、レオナも寝る時舌を仕舞い忘れることあんのかな?」

「ッグ!」

吹き出しそうにあったのか、アズールが自分の口元を咄嗟に押さえた。レオナが舌仕舞い忘れた状態で寝てるのを想像したんだろうな。

ツボに入ったのか背を丸めてブルブルと震える背中を撫でてやると、アズールは実験着のポケットからスマホを出して操作しだした。

「アズール? どうし……ングゥゥゥッ、ッッッ!」

もしや保護者(ジェイド)に通報でもする気じゃないだろうなと覗き込んだ瞬間、画面をズイっと見せられて腹筋が崩壊した。

画面に映っていたのは隠し撮りのような角度の、レオナが寝ている姿。余程深く眠っているんだろう。その口からはちらりとピンク色のものがはみ出している。

「ッ、~~~くっそ、え、これ、なに……どうしたの……」

「たッ……たまたま、ジェイドが、植物園で……。いつか何かあった時にと、保存していて……」

「な、なるほどぉ……」

思い出し笑いだったのか。

しっかしまぁ……良く撮れたなこんなの。レオナは警戒心強そうだし、寝ているとはいえ近寄ったら起きるんじゃ……。

「あ」

写真をまじまじと見ていると、見覚えのあるスニーカーが見切れているのに気付いた。

これは、ラギーがいつも履いてるやつだ。

ふ~~~~~~ん???? そういうこと?????

ラギーが傍にいるからぐっすり眠れるレオナおじたんということですかな????

何そのラギーに対する信頼。ヤバヤバのヤバじゃん。言葉よりも行動で示すタイプなのな。

自分に害があるのであればラギーが知らせるだろって思ってるってことでFA?

くっそぉなんでこう不意打ちかましてくるんだよサバナクロー!

「こら、そこ! 早く移動してマンドラゴラの採集を始めろ」

「あ、やべ」

「ユウさんのせいですよ」

「なんで俺のせいなんだよ」

「貴方があんな話題出したからでしょう!」

ぎゃいぎゃい言い合いながら割り当てられた採集場所へと向かう。

他はもう始めているペアもいるから、急がないとな。

 

:  :  :

 

「よいしょ、っと」

アズールに教わった通り、耳栓をしっかり嵌めてゆっくりとマンドラゴラを引き抜く。

まさか生きているうちに『マンドラゴラを引き抜く』なんてイベント経験するとは思わなかった。すごいなツイステッドワンダーランド。文字通り不思議の国だ。

採集したマンドラゴラを袋に放り込んできっちりと口を閉じる。これで指定された数は取り終えたな。

「悪いなアズール、グリム持っててもらって」

「構いませんよ。しかし起きないですねぇ」

俺がマンドラゴラを抜いてる間、寝ているグリムはアズールに持っておいてもらったのだがこいつ起きる気配がない。さすがの図太さだ。

「あ、ちょっと待て、そのまま持ってて」

「え?」

アズールがこちらにグリムを渡そうとするのを制して、そのままグリムの耳から耳栓を抜く。

片手で持った状態でも出来るけど、最近重くなったからなー、グリム。意識がある時ならともかく、完全に寝てる時はバランスもとりにくいしちょうどいい。

「これでよし、と……」

顔を上げれば、至近距離でアズールと目が合った。

異世界ならではのカラフルな髪色や目の色には慣れたつもりでいたけど、こうして間近で見ると、やっぱり珍しいと感じてしまう。

青みがかった銀髪に青灰色の瞳。顔が綺麗な奴じゃないと許されない配色だよな。

「あ、あの……なにか?」

「んー……いやぁ、やっぱ綺麗だよなって」

「は、」

「目の色なんか特に宝石みたいだよな。なんだろ……セレスタイト……いや、色の濃いエンジェライトあた……いてててててててて!?!?」

「ふ゛な゛ぁッ!?」

元カノの影響で宝石に詳しくなっていたから、アズールの瞳は何系だろうななんて考えながらまじまじと見つめていたら、突然アイアンクローをかまされた。

ぱっと見細いのになんでこいつこんな握力つぇえんだよ!?!?!

「痛い痛い痛い! ギブ!ギブギブ!」

「なっ、なっ、なにが起きたんだゾ!?」

「~~~ッ、 もう課題である採集は終わったので、僕は失礼させていただきます」

ようやく解放されたと思ったら、少し怒った口調でアズールはそう言って足早に去って行った。

え、えぇ……俺なんか怒らせるようなこと……いや、男が男に至近距離で顔を覗き込まれたら気持ち悪いか。あとからラウンジ行った時に謝っとかねぇと。

「ユウ、いったい何があったんだ!?」

「悪い悪い、グリム。ちょっと手を滑らせただけだ」

アズールが俺の頭を掴む際に地面に落とされて混乱しているグリムを抱えあげて、落ち着かせるようポンポンと背中を撫でるように叩く。

今回ばかりはほんとに悪いことをした。まさかアズールがあんなに怒るとは思わなかったし、俺が顔を覗き込まずさっさとグリムを受け取ってればよかった。

「シシシッ、見てたッスよ~」

「ラギー」

何故か愉快そうにラギーが声をかけてきた。その手にはマンドラゴラがぎっしりつまった袋を持っている。

「やるね~ユウくん」

「なにがだ?」

「アズールくんをあそこまで動揺させるなんて、なかなか出来ないッスよ」

「動揺ってか、怒らせただけだと思うけど……なんだよラギー、その顔は……」

こいつマジで言ってる? みたいな顔される理由がわからない。

どう見てもあれは怒ってたろ。アイアンクローしてくるくらいだし。

「俺のことよりラギー、お前のそれパンパンだけど、どんだけ詰め込んでるんだ?」

「ああ、これ? ユウくんとこのゴースト達にマルシェで売りたいからマンドラゴラ採ってきてくれって頼まれてるんスよ」

「マジか。うちのが悪いな」

「いーえー。これも貴重な小銭稼ぎの場なんで♪」

「よーやるわ……」

小遣い稼ぎってことは売上の何割かをもらうって契約でもしてるんだろう。じゃなかったらラギーがタダ働きするとは思えない。

……ゴーストが金稼ぎ? と疑問に思わないでもないが、ここはツイステッドワンダーランド。まぁ、色々あるんだろ。

「そーいや向こうはどんな感じか様子を見に行かないと」

「様子? ……ラギー、もしかしてペア相手の1年生ほっぽり出してるんじゃないだろうな……」

「まさか。人聞きの悪い。オレのペア相手の子は手際がいいからもうとっくに採集終わってるんスよ」

「ふーん、ならいいけど……」

「いやぁ今回のペア相手がエペルくんでよかったッスよ。余計な手間とか全然かかんなかったし」

「…………………………それってポムフィオーレの?」

「そうッス。なんだ、ユウくんエペルくんのこと知ってたんだ」

「えー、ああ、うん、まぁ……」

「? …………はッ。ユウくん、まさか……」

「まさか、なんだよ。ふざけたことを言ったら大声でクルーウェル先生呼ぶからな」

「うへぇ。それは勘弁ッス。……っと、いたいた」

特にやることもないし、誰かを探しているらしいラギーについて植物園の中を歩き回る。

目的の人物が見つかったのか、ラギーが声を上げる。……あれは、エース、か?

「エースくん、結構時間経ったけど調子は……って、もうこんなに収穫したんスか!?」

「へへ、まぁね~。なかなか速いっしょ。……って、あれ。ユウじゃん。お前もラギー先輩の手伝いしてんの?」

「んにゃ。暇だからラギーについてってるだけ。エースは手伝ってんの?」

「おう。最近ちょ~っと懐が寂しくてさ」

「なるほどなぁ。バイトがしたいなら紹介してやるのに」

「いらねぇよ。オレはちょっと稼げればいーの」

「もったいない」

エースなら器用だし人当たりもいいし、キッチンでもホールでもやっていけそうなんだけどなぁ。

臨時ヘルプとかでもいいからやってくれないかな、と誘おうとしたところで、エースが収穫したマンドラゴラが詰められた袋を見ていたラギーが感嘆の声を上げた。

「初めてのマンドラゴラ収穫でこのスピードはすごいッスねぇ。もしかして、学年で一番じゃないッスか?」

「え? ホントに?」

学年で一番、と言われたエースがわかりやすく顔をにやけさせた。

「ホントにホントに。手足に似た独特の根茎も一切傷つけていないし、かなり高値で売れそう。助かるッス!」

「まー、そこはさすがオレっていうか、昔から物覚えが良いって言われるんですよね~。やろうと思えばもうちょい速くもできますよ」

「マジッスか!? そしたらオレより速いかも! いや~、1年生に負けるとか面目丸つぶれッスわ」

「へへ、ちょっと待っててくださいよ。たくさん採ってくるから!」

ラギーの言葉に気を良くしたのか、珍しく満面の笑みを浮かべたエースはマンドラゴラ収納用の袋を手に、まだ手が付けられていない畑の方へと駆け出した。

「ほどほどにしといてくださいよー! 今度っから依頼がオレじゃなくてエースくんにいっちまう!」

「……おいラギー」

「なんスか? ユウくん」

「あんまおだててエースを調子乗らせんなよ……何かやらかしたらどーすんだ」

「え~? なんのことッスかねぇ? オレは上級生らしく、後輩のエースくんを褒めただけッスよ~?」

「声が笑ってんだよなぁ!」

あんなにわざとらしいラギーのおだてにも気付かず乗せられるなんて、エースもまだまだだな。

……それにしても。ラギーとエースか……。

やんちゃな後輩エース×世渡り上手な先輩ラギー……うん、ありだな。

いやいやいや、俺はエスデュを推すと決めたじゃないか……!!! いやでも俺別にCP固定過激派ってわけじゃないし。そもそもエスデュだって俺の妄想だしな。

つまり、エーラギ妄想をしてもかまわないってわけだ。うん。

「……ん?」

ラギーが顔を上げた。頭についた焦げ茶色の大きな耳がぴくぴくと動いている。

猫みたいで可愛いな。今度マドル積んだら触らしてくんねぇかなー。

「どうした?」

「今、エースくんがいる畑の方から悲鳴が聞こえたような……?」

あっ(察し)。

知ってるか、ラギー。それってフラグっていうんだぞ?

タイミング良くジャミルがラギーに声をかけているのをしり目に、俺はその場から忍び足で離れる。嫌な予感しかしない。

「どうしたんだゾ?」

「逃げるぞグリム。多分厄介ごとに巻き込まれる」

「厄介ごと? ……なぁユウ、エースがこっちに向かって走ってきてるんだソ」

「げっ!」

「せ、先輩、ユウ、助けて~っ!」

グリムが示した先から、エースが必死の形相で走ってくるのが見えた。そしてその後ろには色とりどり(全部泥が付いてくすんだ色だけど)のマンドラゴラがエースを追いかけるように走っ……。

「マンドラゴラって走んの!??!!??!?!」

「気持ち悪いんだゾ!!!!」

「そうッスよ。マンドラゴラは自走するって授業で習わなかった? ユウくんもエースくんも、ちゃんと先生の話聞いてなきゃダメッスよ~」

「さらに言うなら、マンドラゴラはある程度意思を持った動きをするからな。収穫したら、きちんと袋に詰めておかないといけないんだ」

「へぇ。そうなんだ。ラギーもジャミルもよく覚えてんな」

「ちょっ、3人とものんきなこと言ってないで助けっ……うわわ、背中登ってくる~っ!」

「うわ、気持ちわり」

蟻に集られた飴のごとく、エースはマンドラゴラ達によじ登られていた。

どうせ欲張って袋がパンパンになって溢れそうになるくらいまで詰め込んだんだろ。自業自得だぞ、エース。

「俺の言いつけを守らないからそうなるんだ。反省したか?」

「した! しました! したから助けて!」

……ふむ。ジャミエーもありじゃね?

 

:  :  :

 

「あー……つっかれた……」

あの後結局エースからマンドラゴラを剥がすのを手伝わされた。ったく、小遣い稼ぎするのは構わないけどもうちょい考えてやれよなぁ。

午後の授業も終えて所用を済ませたあと、節々痛む体を引きずってモストロ・ラウンジへと向かった。

どんなに疲れていようが身体が痛かろうが、一度入れたシフトが無くなることはない。

ラウンジにいたアズールに授業でのことを謝れば、なんだか微妙な顔をされてしまった。

もう怒ってるわけではなさそうだけど……変な顔してたってことは嫌だったんだろう。今度から気を付けないと。

「そーいや、モストロ・ラウンジってテスト期間中どーなんの?」

熱したフライパンにバターを落とす。じゅわ、と溶けだしたバターが焦げる前に、えのき、まいたけ、しめじ、そのほかわからないけどおそらく食用のキノコを加えて手早く炒める。

「テスト期間中はさすがに営業してないですよ。俺達も勉強しなきゃいけないんで」

「アズールその辺うるさそうだもんな」

「当たりです」

へへ、と横で海鮮ピラフを作っているオクタヴィネルの2年生が笑った。

やっぱそうなのか。財布的には痛いが、そも学生の本分は勉強だ。俺もすでに学生と言うには年齢がちょっとアレとはいえ、ここではぴかぴかの新入生。テストは疎かにできない。

キノコがしんなりしてきたのを確認し、準備していた和風だしと醤油を加えて混ぜる。味見用のスプーンの先にソースをつけて味を確かめる……なんか足りないな。塩コショウでも入れとくか。

「ユウさん1年生だから知らないでしょうけど、期末テストで赤点取ったらウィンターホリデー返上で補習なんで気を付けてくださいね」

「うえぇまじか……真面目に勉強しねぇと……」

味を整えて、先に茹でで湯切りまで終わらせたパスタをフライパンに投入する。焦げ付かないように注意しながら全体をよく絡め、火を止める。

「……しっかし、なんでここ、キノコ料理のメニュー多いんだ? 海鮮系はまぁわかるけど……」

「あー……それはその、副寮長が……」

「ジェイドが?」

「部活兼趣味で、よく山へ行かれるんです。その時に採集してきたり、ご自分で育てたものをモストロ・ラウンジに卸してるんです」

「山男だったのかあいつ……」

なんだか想像がつかないな。

出来上がったパスタを器に盛り吐ける。料理は見た目から。客に出して金を取る以上、盛り付け1つも料理としての価値の一部だ。

「ほい、キノコのバター醤油パスタ上がり!次は?」

「キノコのガーリックソテーです」

「またキノコかよォ!!!!」

どんだけキノコ好きな奴が多いんだ!!!

ぐちぐち言っててもしょうがねぇ。今やるべきは口を動かすことではなく手を動かすことだ。

気持ちを切り替えて黙々と手を動かしていく。オクタヴィネルの奴らと話しながら働くのも楽しいけど、頭ん中空っぽにして手を動かす方が時間が早く過ぎる、気がする。

最低限調理ミスやオーダーミスがないようにだけ注意しながら延々料理を続けていれば、あっと言う間にラストオーダーを迎えていた。

「もーやだ。おなかすいた……」

閉店作業を終え、ホールにあるカウンターテーブルに突っ伏した。すでにアズールはVIPルームの方へと引っ込んでいる。

最後に拭いておけば、文句は言わんだろ。

「なぁに~? 小エビちゃん、お腹空いてんの?」

珍しく最後まで残っていたフロイドが声をかけて来る。

悪いなフロイド。おにーさん今日は色々あったから疲れて相手出来ねーんだわ……。

「おう……。あ、もしかして今日フロイドが店閉め当番か? 悪いな、もうちょいしたら復活すると思うから……」

「ちげぇけどぉ。お腹空いてんなら、オレがなんか作ってあげようかぁ?」

「フロイドが?」

料理できるのか、と言いかけて、そういえばアズールがジェイドもフロイドも料理が上手いって言ってたな、と思い出した。

ジェイドはともかく、フロイドは気が向かないと頼んでも作ってくれなさそうだし、いい機会かもしれない。

「フロイドがいいなら、頼もうかな」

「いいよ。小エビちゃんにこの前もらったヤツ美味かったし。今日はトクベツに作ってあげる」

この前の……ああ、タコ飯か。感想効くの忘れてたけど、この様子だとお気に召してくれたようだな。

キッチンの方へ消えていくフロイドを見送って、ぼんやりと大きな水槽を眺める。

硝子の向こう側を悠々と泳ぐ魚を見てもまず調理法を考えてしまうあたり、職業病かもしれない。

「お待たせェ」

「お。ありがとな、フロイド」

しばらくして、フロイドが湯気の立つ皿を持って戻ってきた。

皿に盛られたのはトマトソースのパスタだ。具も最低限のものしかない、賄い飯という言葉にぴったりのものだ。

「いただきます…………うっま!!!」

フォークでパスタを絡め取り口に含む。単純な味なはずなのに、めちゃくちゃ美味い。これはアズールも褒めるはずだ。俺が作ったのより全然美味いじゃん!

「え、やべぇ。フロイド天才かよ。めっちゃうめぇ」

「そぉ~? なんかあったの適当に混ぜただけなんだけど」

「いやほんと、美味いよ。適当にってことは、相当センスと舌がいいんだろうな」

むぅ。ちょっと敗北感。

でもこればっかりは天性の才能だろうし、俺は俺のやり方で研鑽を積むしかない。

「はぁ~……美味い……」

「小エビちゃん大げさ~」

そう言いつつも、フロイドは目を細めて笑った。

体格と言動で誤解しがちだけど、こういう表情を見るとフロイドも年下なんだよなぁと思う。17歳。やべぇ、4つ下じゃん。俺が高校1年生の頃にはまだ小学6年生だ。

「ごちそうさまでした。ありがとな、フロイド」

「…………!?」

直前まで考えていたことが行動に反映されたのか。俺はほぼ無意識にフロイドの頭をぽん、と撫でていた。

…………やっちまったァ。

カウンター席に座っていて、立っているフロイドといつもより目線が近いからか、つい、思わず。

やべぇなぁ……と恐る恐るフロイドの様子を見て見れば、予想外に満更でもない表情をしていた。

聞いたことがある。身長が高い奴は頭を撫でられることに慣れていないと。

……俺はどちらかと言えば壁になりたい派だから、別の奴で想像しよう。

フロイドの頭を撫でて勝ち誇った顔をするリドルと、リドルに撫でられて驚きつつも満更でもないフロイド。

いやぁアリですわ。全然アリ。めっちゃアリ。フロリドだとしてもリドフロだとしても美味しいことには変わりない。

「小エビちゃんおもしれーことすんね」

「いやすまん。ついうっかり」

「別にいーけどぉ。アズールに自慢しちゃお」

ヘラリと笑ってフロイドが皿を回収してキッチンへと向かって行く。

なんでアズールなんだ……?

……もしかして、あれか。アズフロってことか。俺に撫でられたことを自慢して、アズールの嫉妬心を煽ろうって魂胆か。フロイドおそるべし。

「はー……腹も膨れたし、寮に戻って勉強しないと……」

期末テストの範囲はまだ出てないけど、ある程度予想つけて勉強始めておかなきゃな。

脳内で単元の確認をしながらテスト範囲について考えていると、突然背後からがしりと頭を掴まれた。

「へ、」

声を上げる間もなく頭を引かれ、無理やり上を向かされる。

明と暗、二色の金の瞳が俺を見下ろしていた。

「フ、フロ、イド……?」

「ねぇ、小エビちゃん。もしかしてぇ、なんか困ってる事とかあるぅ?」

「は、え……?」

「例えばァ、期末テストとか」

「えっと……まぁ、困ってるというか、勉強しないとなぁとは思ってるけど……」

「じゃあさぁ、アズールに相談してみなよぉ」

にぃ、とフロイドの口が三日月の様につり上がる。特徴的なギザギザの歯がちらりと見えた。

確かにアズールなら頭もいいし、なんならヤマ掛けも得意そうだ。

先生方の出題傾向とかも読みつつ完璧なテスト範囲解答集とかお出ししてきそう。うわ、想像できる。

それがあれば勉強も楽になりそうだ。

「いや、遠慮するよ」

「……なんで?」

「確かにアズールならテスト範囲とか出題傾向とか完全に読んで対策立ててくれそうだけどさぁ。結局それってアズールの力であって、俺の力じゃないだろ。俺、勉強はちゃんと自力で努力して身に付けたいタイプなの」

あと、そろそろ首が痛いんだけど。ぺしりと腕を軽くたたけば、フロイドは眉をひそめて俺の頭を解放した。

しばらく上を向かされていたからか、首が痛い。首がつったらどうしてくれるんだ。

「つまんねぇの」

口を尖らせて、フロイドはそのままモストロ・ラウンジを出て行ってしまった。

なんだったんだ、いったい……?

まぁフロイドの暇つぶしとか気まぐれだろ。それかアズールにわざと頼らせて、さらに貸しを増やしたかったのか。

いずれにせよ俺は勉強は自分の力で頑張りたいタイプだし、関係ない。

……これがグリムとか、エースとかだと乗りそうだなぁ。

注意しておくように言っておくか。

 

 

そんな俺の親切心は、見事に裏切られることになるのだが。

 




ユウ
毎日コツコツ勉強して、テスト前の一夜漬けとかはしないタイプ。
最近アズールへの距離間が近かったなと反省中。気を付けよう。
嫌な予感ほどよく当たる。

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