童顔系腐男子監督生は現実逃避中   作:深生

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※※Attention※※

●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。

それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。

まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。

今回は

・3章【深海の商人】

メインストーリーのシナリオに沿ったお話となっています。
まだ読まれていない方はご注意ください。
出来れば本編読了後にお読みいただければ幸いです。

●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。

また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。



Ep11.童顔系腐男子監督生の期末テストと黄金の契約書【起】

 

ざざん、ざざんと波の音がする。

透き通った青い海面が太陽の光を浴びてキラキラと光っている。

ぼんやり海を眺めていると、右手をぎゅっと握られた。甘えるように指先を絡めてくる。

これはあの子が俺に構って欲しいときの癖だ。

どうしたの、と聞こうと横を向き――ひゅっと息をのんだ。

俺の隣にいるはずの彼女の顔は、黒いクレヨンでぐちゃぐちゃに塗り潰されたかのように真っ黒だった。

「ひっ……」

反射的に手を振り払い、一歩後退る。

これは、誰だ。俺は確かあの子と………………あの子って、誰だっけ?

誰よりも大切で、何よりも慈しんで、この身すべてを掛けて愛していたはずなのに。

その感情は覚えている。けれど、どこを探しても俺の記憶の中から彼女がぽかりと抜け落ちていた。

膝から力が抜ける。その場にへたり込んで、顔が見えない誰かを見上げる。

白魚のような華奢な指が俺に人差し指を突き付けた。

 

「お前のせいだ」

 

:  :  :

 

カリカリと紙の上をペンが走る。

元いた世界と違い万年筆のようなペンで答案用紙に書き込むのは物凄く緊張する。少しの書き間違いも許されない。いや、二重線引っ張ればOKなんだけど。

最後の問題を解き終わったところで、ちらりと教室の壁掛け時計を盗み見る。

長針が指す数字に、あと10分の猶予があることを知る。よし、さっきわかんなくて飛ばしてた問題見直すか。

……。

…………あ、もしかして、こういうことか?

急いで手を動かし、今しがた閃いた解答を書き込む。間に合ってくれよ……!

最後の一文を書き終えた瞬間、がらんがらんと大きく鐘が鳴った。

「そこまでだ仔犬ども。お利口にペンを置いて、答案用紙を前へ回せ」

クルーウェル先生の宣言に、ピンと張りつめた静寂が解かれ、ざわめきが教室内に戻ってきた。

「まに、あ、ったぁ……」

後ろの席から回ってきた答案用紙の上に自分のものを重ねて前の席の奴に渡す。

あー……ようやっと期末が終わったよ。勉強漬けの日々ともこれでおさらばだ。

「このクラスの期末テストはこれで全科目終了だな」

集まった答案用紙をチェックし終えたクルーウェル先生がそう言った途端、歓声が上がる。元気だなー、みんな。お兄さんは久しぶりのテストにもうクタクタだよ。

「おすわり! はしゃぐのはまだ早い。テストの結果が悪かったバッドボーイどもはクリスマス休暇を補習で棒にふることになるから覚悟しておけよ。では、解散」

クリスマス休暇、か。やっぱりこっちにもクリスマスはあるんだな。

…………あの頃は、春休みのヨーロッパ旅行に向けて資金稼ぎのために働いて、それで……たまたま早く上がれた日があって。

最近会えてない寂しいってメッセージがあったから、お詫びも兼ねていいところのケーキ買って会いに行って、それで………。

「ユウ!」

「うわっ……どうしたエース」

「テストが終わったってのに暗い顔してどーしたよ」

「え? いやまぁ、ちょっと……難しい問題いくつかあったなって」

「あーね。でもま、オレは今回自信あるよ」

「僕もだ」

「ぐっふっふ、オレ様今回ばっかりは一味違うんだぞ!」

「へぇ。3人ともすごいじゃん」

エースはともかく、デュースとグリムが胸を張って「自信がある」なんてよっぽど勉強したんだな。

グリムも今日は朝まで勉強してたっぽいし。ようやく真面目になってくれて安心だわ。

「そういや、ユウとグリムって別々に試験受けてるのな」

「うん。魔法使わなきゃいけないテストならともかく、座学なら勉強すれば俺でも出来るし」

「しんっじらんねぇ。自分から受けなくてもいいテスト受けるとか、ユウって実はマゾ?」

「なんでそーなるんだよ。勉強は学生の本分だろ」

茶化すエースの額にデコピンをかまして黙らせる。

誰がマゾだ。俺は自分が必要だと思ったから勉強してテストを受けてるだけだ。

……初回の小テストをグリムだけに任せたらとんでもない点数を叩き出されて、「あっこのままだと俺も馬鹿扱いされる」と危機感を抱いたのが、理由のひとつでもある。

俺とエースのやり取りを横目に荷物をまとめていたデュースが立ち上がった。

「さて、試験も終わったことだし陸上部に顔を出すか」

「オレも久々に思いっきりバスケして身体動かしたい気分。んじゃ、今日はここで解散ってことで」

「んー、俺も一回ボドゲ部に寄ってくかな。グリムも来るか?」

「オレ様夜通し勉強してたから眠くてたまんねぇ。先に帰ってるんだゾ」

「オッケー。道端で力尽きないようにな」

グリム達と別れてボドゲ部の活動場所である教室へと向かう。

期末テストが終わったという解放感からか、廊下を歩く生徒達の話し声の声量はいつもよりも少し大きい。

……なんか、今回のテストやけに自信がある奴らが多いんだな。そんなに簡単なものじゃなかったと思うけど……。

うーん、俺の勉強が足りなかったのか? 今度からは、テスト前はもうちょいシフト減らしてもらうかぁ。

「おっす~」

「ユウ氏おつ~」

ボドゲ部の活動場所として割り当てられた教室の扉を開けば、先に来ていたイデアがスマホから顔を上げた。

「今日は俺らだけ?」

「そうみたい。アズール氏、なんか用事あるからって言ってましたけど」

「ふぅん。ラウンジの方は明日から営業再開だし……まぁ、あいつも寮長やってるんだしそっち方面かもな。ところで今日はなにやる?」

「ちょい待ち。ソシャゲのイベントが今日からなんで走らせて」

「おっいいぞ。じゃあ俺はテストの自己採点でもしてるかな……」

「うわーユウ氏真面目~。そんなキャラでしたっけ?」

「学費出してもらってんのに留年したらやばいだろ」

それに、未だ元の世界に戻る方法は見つかっていない。もし万が一、帰ることが出来ないという結論が出てしまった場合、せめて学と手に職をつけておかないと。

学生であるうちは学園長の庇護の下にいれるけど、卒業したらそういうわけにもいかなくなるだろう。

 

“――――――――。”

 

「――え?」

耳元で誰かに囁かれたような気がして、顔を上げる。周囲をぐるりと見回しても、スマホの画面に視線を落としてゲームに熱中しているイデアしかいない。

「イデア……いま何か言ったか?」

「え? 特になにも……。な、なになにやめてよそういうホラー展開によくありがちなこと言うの! ユウ氏そういうのなんていうかわかります?」

「フラグ立てたとしても回収せずに折るから安心しろよ。……勉強のし過ぎでちょっと疲れてるのかもな」

ぐぐ、と腕を伸ばせば背骨が嫌な音を立てた。くそ、全身痛いな。

自己採点する気分でもなくなったし、イデアもイベントで忙しそうだ。今日はもう帰るかな。

「イデア~。俺やっぱ今日もう帰るわ。イデアはどーする?」

「拙者は……も、もう少し人が減ってからじゃないと寮に戻れないから……」

「あぁ、なるほど……鏡舎までで良ければ送って行ってやろうか?」

引きこもり気味のイデアでも、期末テストだけは出席せざるを得なかったんだろう。で、寮に戻ろうにも人が多い時間は何があるかわからないから戻れない、と。

余程この前カリム達陽キャ集団に捕まったのがトラウマになっているようだ。

「は? 神かよ」

俺の提案にイデアは血色の悪い頬を僅かに上気させて頷く。

毎回いろんな奴ら見て思うけど、どんだけ身体がでかくても態度がでかくても、こいつらはまだまだ未成年の子供なんだよなぁ。

俺も世間様から見れば若輩者だけど、それでもここにいる奴らよりは年上だし。それなら年長者らしく守ったりサポートしてやるのも役割の内だ。

「ほれ行くぞ」

「ま、待って」

イデアを連れて鏡舎へと向かう。イデアは10cm近くでかいってのに俺の背中に隠れようと身を縮こませていて、そっちの方が目立つんじゃ……と思わないでもないが、指摘するのはなんか可哀そうだからやめておいた。

おんぶおばけのイデアを背中に張り付けながら校舎を出てメインストリートを抜け、鏡舎へとたどり着く。

「着いたぞ」

「はぁー……緊張した」

「そんなに緊張しなくても……一応学校の敷地内なんだし」

「ユウ氏は陽キャの皮を被れるからいいかもしれないですけど……生粋の陰キャである拙者にとっては自室以外全部どこもダンジョンと変わらないですし……」

「ダンジョンは言い過ぎじゃ……いや、突然カリムが飛び出してくるのか……」

「ほんと面倒なエンカはごめんだ……」

はぁ、とため息を吐いてイデアは背中を丸めたままイグニハイド寮へと続く鏡へと歩いていく。

「あの……あ、ありがとう、ユウ氏」

「ん? いーって、気にすんな。じゃあな、イデア」

「うん、じゃあ」

ひらりと手を振れば、イデアも控えめに手を振って鏡へと消えていく。

さて、俺も帰るか。

「おや、奇遇じゃな」

「ぉわっ! ……びっくりした……いきなり話しかけるなよ、リリア」

「ふふふ、すまんな」

ちょうど校舎から戻ってきたのか、制服姿のリリアが目を細めて笑っていた。

リリアの制服って、特注なのかね。特にズボンとか他の人達よりもやたら刺繍が多くて豪華だし、腰回りも特殊なつくりになってるっぽいし。

「ユウ。テストも終わったことだし、今夜どうじゃ?」

リリアがぐい、とグラスを傾ける仕草をとる。ううん、魅力的なお誘いだ。

ここしばらくはバイトとテスト勉強とで飲み会を控えていたからな……。

でも空耳が聞こえるくらいには疲れてるみたいだしな……どうしようか……。

「珍しいワインが手に入ってな、これを逃せば次いつ手に入るかわからん代物なんじゃが……」

「行くわ、行く行く。めっちゃ行く。飲みたい!!」

リリアが珍しい、次いつ手に入るかわからないなんて言うってことは相当な代物なんだろ。行かないなんて選択肢はない。我ながら単純だなー。

「では今夜、いつもの時間にな」

「おう!」

帰る前に購買寄ってつまみ用の材料買って帰るか。

 

:  :  :

 

「ぅうえー……」

テスト明けで休みの日だからって、飲み過ぎた。

二日酔いなんて滅多にならないんだけど、今回は高くて珍しいワインということもあり調子に乗って飲み過ぎた。頭は痛いが後悔はない。めっちゃ美味しかったしお土産で3本ほどワインもらってきちゃったしな!

もぞもぞとブランケットから顔を出す。ベッドの横にあるサイドテーブルへと手を伸ばし、目覚まし時計を掴んだ。

……もう10時か。今日は昼からシフトが入ってる。二度寝している暇はなさそうだ。

枕元ではグリムが穏やかな寝息を立てている。テスト明けだし、起こさないでおいてやろう。

「おお、ユウ坊。今日もバイトか?」

「真面目だなぁ~」

「育ち盛りの奴がいるからなー」

オンボロ寮に住み始めの頃こそゴースト達の度重なる悪戯に辟易としたものだけれど、3ヶ月も経てばお互い良好な関係を築くことが出来た。

今では掃除や洗濯、料理みたいな簡単な家事も手伝ってくれるようになって大助かりだ。

俺はバイトでいないことが多いから、その間に家事やグリムの相手をしてくれるのは助かる、本当に助かる。

学園長にも再三強請ってオンボロ寮の中の風呂もキッチンも直してもらった。あとは経年劣化で傷んだ家具の交換くらいだけど、さすがにそこまで甘えることはできない。

グリムのツナ缶代も馬鹿にならないし、ボロボロになった服や靴も買い替えなきゃいけないからしっかり稼がないとな。

「よーしテストも終わったし今日も稼ぐぞ~!」

「頑張れユウ坊~」

「グリ坊はワシらに任せておけ~」

「よっし。じゃあいってきまーす」

ちょっとした荷物と、クリーニングから戻ってきたばかりの服が入った紙袋を持ってオンボロ寮を出る。

ぽかぽかとした日差しが気持ち良い。今日がバイトじゃなかったら、弁当でも作ってグリムと一緒に散歩がてら校内でピクニックしたかったな。

ぼんやりとそんなことを考えながら鏡舎へと足を踏み入れ、オクタヴィネル寮に続く鏡をくぐった。

「おはよ~」

「おはようございます、ユウさん。お早いですね」

更衣室替わりに使わせてもらってる倉庫でコックコートに着替えて、ギャルソンエプロンを巻きながらホールに顔を出せば、すでにジェイドが開店準備を始めていた。

「遅れるよりはいいだろ。今日は確か予約あったよな?」

「ええ、16時から。料理はお任せだそうです」

「お任せってのが一番やりにくいんだよな~……指定してくれれば楽なのに……」

せめて好きなものや嫌いなもの、アレルギーなんかは教えておいてもらえるとやりやすいんだけどなぁ。

ぼやいても仕方がないか、とため息を吐いたところでジェイドが一枚の紙を差し出してきた。紙には今日の予約者グループの情報……主に食の好みが細かく記されている。

「こちらをどうぞ」

「……ジェイド、お前読心術が使えるのか……???」

「まさか。必要になるかと思ってまとめておいたんです」

「そっか。ありがとな!」

……調べたとか情報を集めたとかじゃなくて、まとめておいた、かぁ~~……。

ジェイドの奴どこまで生徒の情報握ってんだろ。

怖いけど気になる。けど、聞いたら後悔する気がする。

君子危うきに近寄らず、だ。ここはさらっと流しておこう。

「そういえば、その荷物は……?」

「え、ああ、そうだ」

ジェイドに指摘されて、片手に紙袋を持っていたことを思い出した。

「アズールに渡しといて欲しいんだ」

「これは……うちの寮服、ですか?」

「ああ。この前ポムフィオーレに届け物する時にアズールにもらったやつなんだけど、」

「…………確か、ユウさんのサイズに合わせて作っていたと記憶していますが」

「なんだ、ジェイドも知ってたのか。着てはみたんだが……ちょっと、な」

ヴィルにもサイズが合っていないと言われたから直そうと思ったんだけど、裾上げならともかく胴回りや腰回りはさすがに自力じゃ直せない。

かといって服を直せる奴にも心当たりはないし、ならいっそアズールに頼んだ方が早いかなって思って持ってきてみたんだけど……。

「……わかりました。アズールにお渡ししておきますね」

「うん、よろしく」

皆まで言う前に、察してくれたのかジェイドが紙袋を受け取った。

やっぱりコイツ読心術が使えるんじゃね? ちょっと、でそこまで察せるのは超能力レベルでは……。

「おはよぉ、小エビちゃん」

「ぐぇッ。フロイド……いきなり圧し掛かってくんな……」

「だぁってぇ、小エビちゃんの頭がちょうどいい位置にあるのがいけないんじゃん」

「俺の! 頭は! ひじ掛けじゃねぇ! この顔面600族! 股下13km!」

「なぁにそれ、悪口のつもり? あは、小エビちゃんのクセに生意気~」

「ひゃめれ!」

後ろから両頬を掴まれ左右にぐにぃと伸ばされる。普通に痛いし何より屈辱だ。

離せ離せと暴れているうちに続々と他のオクタヴィネル寮生が集まり出す。

やべ、仕込みしないと。

フロイドも開店時間が近付いてきているのに気付いたのか、「じゃあねぇ」と俺の両頬を解放し、フラフラとドリンクカウンターの方へ歩いて行った。

くっそー、好き勝手しやがって……。いやまぁ、ほどほどに手加減はしてくれてたと思うけど。フロイドなら俺の頬くらい千切れそうだし。

「じゃあジェイド、予約の客が来たら教えてくれな」

「え、ええ……わかりました」

一瞬遅れて、ジェイドから返答が返ってくる。珍しいこともあるもんだ。

俺が渡した紙袋見て何か考えてたみたいだけど……もしかして、アズールが俺に寮服を渡したことに、嫉妬していた……とか……!?

陸上大会の説明に呼ばれた時も同じことを考えた覚えがある。

やはりジェイ→アズなのでは……!?

なんだよあれから1ヶ月以上経つじゃん進展してないのかよ! アズール気付いてやれよ!! ジェイドが可哀そうだろ!!!

「ジェイド……頑張ろうな……」

「? はい」

俺は応援してるからな、何時でも相談して来いよ……!

心の中でエールを送りながら、キッチンの方へと向かった。

 

:  :  :

 

……なんかここのところ、みんながおかしい。

何がおかしいと言われれば色々あるけれど、まず、グリムとエースが喧嘩しなくなった。

いつもならグリムがエースの菓子パン盗み食いして、怒ったエースがグリムを追い回して最終的に魔法を使った大喧嘩に発展するのに、この1週間それがない。

それになんだかソワソワしてる気がする。クリスマス休暇前だから、ってわけでもなさそうだ。

「なぁデュース、なんかおかしくね?」

「なにがだ?」

「いや、最近さ。グリムとエースが喧嘩してもすぐに自分達からやめるじゃん。なにかあったのかなと思ってさ」

「確かにそうだな……でも特に心当たりなんて……」

「だよなぁ……。……あ、そういえば。デュース最近魔法ミスっても大窯出さなくなったよな」

「えっ!? あ、ああ……そ、そうだな……」

物凄くわかりやすく肩をびくつかせて、デュースが視線を逸らす。

これは……マジでなにかあったな……?

嫌な予感がしてきた。どういうことかと問い詰めようとしたところで、始業の鐘が鳴りクルーウェル先生が教室へと入ってきた。

ほっとしたようにデュースが姿勢を正す。

「よし仔犬ども、授業を始めるぞ。行儀よくおすわりしろ。今日はまず、テストの返却を行う」

クルーウェル先生って生徒の事を仔犬扱いしてくるわ短鞭持ってるわで典型的な「ドSキャラ」だよな……。こういう手合いは攻めと決まっている、が。

個人的には女王様受けも好きなんだよなぁ……。マウント取る受けだぁいすき。

そのうちクルーウェル先生関連のCPについても色々考えたいところだ……。

「次、ユウ!」

「あ、はい」

いつの間にかテスト返却が始まっていたらしい。名前を呼ばれ、席を立つ。

近くでみるとやっぱり顔が良いな。それにめっちゃ良いにおいがする。

年齢的には俺よりちょっと上くらいだと思っているんだけど、数年後自分がこんな大人になれるかと言われればNOと言うしかない。

「こちらの世界の事には不慣れだろうに、よくやったな」

「ありがとうございます」

返された答案用紙には赤ペンで90と書かれている。

よっしゃ、とついガッツポーズを取ってしまう。最後に悩んだ問題に関しては残念ながら不正解だったけど、ここは後からクルーウェル先生に質問しに行こう。

ウキウキとテスト用紙を折りたたみながら席へと戻れば、先に返却が終わっていたグリム達が答案用紙を見せ合っていた。

「やった! 92点!」

「88点! お、俺が80点以上を取れる日がくるなんて……」

「見ろ、ユウ! オレ様85点なんだゾ!」

「お、おお!? みんなすごいな!」

かなり自信があったみたいだし、真面目に努力した結果が出たんだろう。努力が報われている姿を見るのはなんとも心が温まる。

デュースなんか感動のあまり、一人称が俺になってるし。

「ユウは何点だった?」

「俺? 俺も良かったよ」

皆がかなり余裕ありそうだったから自分の勉強が足りないのかとヒヤヒヤしていたけど、多分俺以上にみんな頑張ってたから余裕そうに見えてたんだろうな。

「お前達今回はかなり勉強したようだな。小テストの時に比べてかなり……いや、だいぶ、ちょっとおかしいくらいに平均点がアップしている」

全員分のテストを返却し終わった後、クラスのみんなを褒めようとして、何か思うところがあったのかクルーウェル先生は怪訝そうな顔をして首を傾げた。

とはいっても、魔法でカンニング対策しているとテスト前に宣言もしていた。単に全員が休暇を潰されたくなくて頑張っただけじゃないのか?

「え、おかしいって……どういうこと、先生?」

「魔法薬学のテストは全学年が平均点90点を超えている。魔法史もなかなか良い結果だったとトレイン先生に聞いているぞ」

「へぇ。今回特別に難易度下げたとかじゃないんですよね?」

「もちろん」

「じゃあやっぱみんな頑張ったってことじゃないですか?」

「そうだな……。成績優秀者、上位50名は廊下に名前が貼りだされるから楽しみにしておけよ」

ぱしり、と短鞭を鳴ってテスト返却から通常授業へと切り替わる。

俺が通ってた学校にもあったな、成績上位者の貼り出し。俺は得意不得意がはっきりしていたから総合順位こそ載らなかったけど、科目によっては載ることもあった。

貼り出された順位表の写メを撮って親に見せれば、その月ちょっとだけお小遣い増えたから、結構必死になって勉強してたんだよなぁ。

「……ん?」

なんだか静かだなと思えば、グリムやエース、デュースを始めとしたクラスのほとんどがなぜか青い顔をして黙り込んでいた。

「……グリム? どうした、変なものでも食って腹が痛いのか?」

「ふにゃッ!? べ、別になんでもないんだゾ……」

「それならいいけど……」

いつも騒がしい奴らが静かだとなんだか妙な気分になる。

……授業開始前にデュースに対して感じた嫌な予感と同じ予感が、むくむくと湧き上がってきた。

こ、これ絶対なんかあるやつだ……! 間違いない。

せめて俺は巻き込まないでくれよ、と祈りながらテキストを開いた。

 

:  :  :

 

ホームルームの終了を知らせる鐘が鳴った途端、クラスの生徒達が我先に教室を飛び出し廊下へと駆け出して行った。

あまりの勢いに、クルーウェル先生も珍しく驚いたような表情をしている。

「……ユウ、今日の放課後は何かあったか?」

「いえ、何もなかったと……あっ、期末テストの順位発表はありますね」

「ああ、それがあったか……しかし、何をそう急ぐ必要が……?」

「さぁ……?」

グリムもエースもデュースも荷物ほっぽり出してるし。しゃーねぇな、持ってってやるか。他の奴らは知らん。

3人分の荷物をまとめて持ち、教室を出る。結構重いな……。

「ユウ」

「ん? ああ、ジャック。B組もホームルーム終わったのか」

「おお。……その荷物、どうしたんだ?」

「三馬鹿が置いていったやつ。順位表のところにいるだろうから、持って行ってやろうと思って」

「相変わらずバカみてぇにお人よしだな」

「友達思いって言ってくれよ……お?」

呆れたような視線を向けてきたジャックが、俺の腕の中にある荷物をひょいと持ち上げる。

「なになにジャック、優しいじゃん」

「大荷物抱えたままフラフラ歩いて、他の奴にぶつかったら迷惑だろうが」

「あー、まぁそうね」

そこジャックが気にするところじゃなくない……? こいつほんといい奴だな。

世が世ならツンデレ系ヒロインとして一世を風靡してるぞ。

その場合の相手役は誰だ……? やっぱレオナか?

レオジャク、うん。ありだ。めっちゃ見たい。

「うわ……」

鏡の間の前の廊下は人でごった返している。麓の街のベーカリーが来ている時の食堂でもここまでじゃない。あまりの人の数に俺もジャックもドン引きしていた。

「な、なんなんだこりゃあ……」

「さ、さぁ……?」

何かおかしなことになってるのはわかる。朝から感じていた嫌な予感もずっとしている。

だけど、それがどういう理由かがさっぱりわからない。

「グリム達はどこだ?」

「あっちにいるぞ」

ぐい、とジャックが俺の袖を引く。文字通り頭ひとつ飛び抜けた身長のジャックはすぐに3人を見つけられたらしい。

人波を掻き分けてグリム達がいる方へと向かう。

途中途中絶望した悲鳴のようなものを上げている奴らがいて、ますます困惑した。

赤点とったっていうんならまだしも、50位以内に入らなかったってだけで普通あんな反応するか?

やっとのことで3人のところに辿り着く。グリム達は驚愕の表情で貼り出されたもの――1年生の順位表を見つめていた。

俺とジャックもつられて順位表を見て、目を剥いた。

「な、なんだこれ!?」

成績優秀者のうち、上位30人以上が500点満点。あり得ないだろ、こんなの。

1人か2人ならまだわかる。うちの高校にもそういうやつらはいた。

けど、30人以上はいくらナイトレイブンカレッジが優秀な魔法士を養成する学校だとしてもおかしい。

しかし、結果は結果。おかしいとはいえ現実は500点満点が大量に出ている。

「…………オレ様、50位以内に入ってねーと『契約違反』になっちまうんだゾ!」

「……は? グリムなに言って……」

「え……『契約』って、グリム、まさかお前……」

「エース、その顔はお前ももしかして……」

「え、え。なに、お前らどーしたんだよ……」

グリムの発言を切っ掛けに、グリム▪エース▪デュースが互いに顔を見合わせる。

その瞬間、ぽん、とポップコーンが弾けるような音が響き渡った。

それは目の前にいるエースたちだけではなく、周囲……主に悲壮な顔で順位表を見詰めていた生徒たちからも同じような音がしている。

「え、な……。…………お前ら、それ、なに」

グリム達の頭から、なんか生えてた。

水色の根元から上に上がるにつれ紫色に変化した茎。てっぺんには短い触手のようなものが無数についたそれは、どこからどう見ても、イソギンチャクだ。

「ふな゛っ!? な、なんじゃこりゃ~~!? 頭にイソギンチャクが生えた!」

恐る恐る自らの頭の上を触ったグリムが悲鳴を上げる。

遅れて自分達にも生えてることに気付いたのか、周囲も騒ぎだした。

「おいユウ、これはいったい……」

「さ、さあ……?」

俺にも何がなんだかさっぱりわからない。わからないが、ずっと感じていた嫌な予感はまだまだ継続中で。

おそらくこれだけじゃ終わらないんだろうな、という諦めにも似た気持ちでいっぱいだ。

「ユウ、ジャック、お前達も契約を……って、イソギンチャクが生えてない、だと!?」

「ユウはともかく、ジャックは見た目のわりに超真面目クンかよ!」

「はあ? 何言ってんださっきから。っつーか、お前ら頭のソレ、なんなんだ?」

「何をどーすればそんな愉快な見た目になるんだよ」

ていうか、ソレ、形的にこう……卑猥なブツに見えなくもないぞ。修正入れなくて大丈夫か??

「コレは、その……ふな゛っ!? なんだぁ!?」

躊躇いながらもグリムが口を開いたその時。頭の上のイソギンチャクがピクピクと動いたかと思うと、まるでなにかに操られるかのようにグリムが歩き出した。

……グリムだけじゃない。エースもデュースも、周りにいたイソギンチャクが生えている生徒全員が同じ方向へと引っ張られるようにして歩き出す。

…………なんかこういうゲームあったな、昔。頭から花が生えた謎の生き物操るやつ。

「なんて間抜けな絵面だ……」

「とりあえず1枚撮っとくか。ケイトに見せてやろ」

ぞろぞろと歩いていくイソギンチャク集団を写真におさめる。なんとも汚い絵面だ。笑えはするけどマジカメ映えはしなさそうだな。

ケイトと、ついでにリドルとトレイとラギーにそれぞれ今しがた撮った写真を送信する。

タイトルは『イソギンチャク集団の大行進』かな。

「さて、じゃあ追いかけるか。行くぞジャックー」

「は? なんで俺まで。俺には関係ないだろ」

「乗りかかった船って言うだろ。それともなんだ。ジャック、お前もしかして怖いのか?」

「……はぁ?」

「いやいや。正体不明の現象に関わるのが怖いんなら仕方がない。怖がりなジャックくんがいなくても、俺1人で行くさ」

「誰が臆病もんだって?」

「さあ? 誰だろうな?」

にぃ、と口の端を吊り上げるように笑って見せれば、ジャックは苦い顔でガシガシと頭を掻いたあとため息を吐いた。

……自分で煽っといてなんだが、これだけでこっちの思惑に乗ってくれるなんてちょっと心配になる。

ジャック、変な奴に騙されそうになったら俺に言うんだぞ。

「……チッ、お前もだんだんこの学園の空気に染まって来たな」

「お褒めの言葉ありがとう」

「誉めてねぇよ。仕方ねぇ。少しだけなら付き合ってやる」

「さっすがジャック。頼りにしてるぜ」

「うるせぇ。俺はこの変な現象の原因が何か気になるだけだ。別にお前のためでもアイツらのためでもねぇからな」

くれぐれも勘違いすんなよ、とジャックが釘を刺すように言ってくる。

だからさぁ、なんでお前はそう、一昔前のツンデレヒロインムーヴかましてくんだ……。俺がやれやれ系主人公だったらラブコメ始まってたぞ。

そういうのはレオナとかラギーとかヴィルとかにやってくれ。俺は通行人Aでいい。

「はいはい、わかってるよ。じゃあ行くぞ」

 

:  :  :

 

「いやだ!! ぜっっっっっっっったいに行かない!!」

ぞろぞろと歩いていくイソギンチャク集団を追いかけながら、ハーメルンの笛吹男の童話みたいだなぁ(笑) とか考えていた。

その考えは、奴らの目的地がわかった瞬間、粉々に砕け散ったが。

必死の形相でこれ以上進むのを拒否する俺に、ジャックが怪訝そうな表情を浮かべた。

「何言ってんだ。行くぞって言ったのはテメェだろうが」

「ああ言ったよ! 言ったさ!! その点については俺が悪かったと思ってる。ごめんな!!」

あの時は割と軽い気持ちだった。どうせその内巻き込まれるんだから、早い段階から関わっておいた方が良いだろと思ってたんだ。

けど、行き先がわかった以上関わりたくない気持ちしかない。マジで何やらかしてくれたんだあの馬鹿どもは!!

「悪いと思ってんならとっとと行くぞ」

「いぃやだぁ~~~……」

悲しいかな。体格も腕力も、俺とジャックの間にある差は絶望的だ。俺の抵抗なんてジャックにしたら子供とそう変わらないだろう。

ジャックは俺を引きずりながらイソギンチャク集団が吸い込まれていくもの――各寮に繋がる鏡舎の鏡のうちの1枚へと歩を進める。

その鏡には見覚えがある。ありすぎる。なんならほぼ毎日のように通っていると言っても過言じゃない。

タコの足とウツボらしき魚の意匠が施された鏡。潜り抜けて辿り着く先は水中にある、オクタヴィネル寮だ。

「マジかよ! すげぇな、ナイトレイブンカレッジって!」

こぽこぽと大小の泡が浮かんでは弾ける。サバナクローとは真逆の景色に、ジャックがふかふかの尻尾を振って歓声を上げた。

うーん反応が初々しくてかわいい。普段は硬派を気取っているジャックも、珍しい景色には年相応の反応を見せて大変微笑ましいなぁ、ははは。

……ここまで来たらもう腹をくくるしかない、か。

「……ゴホン。仮にも別の寮の縄張りに入るんだ。お前も浮かれてねぇで、用心しろよ」

「残念ながら浮かれてるのはお前だけだぞ。俺はもうここ慣れたからな」

「なんだ、来たことあんのか?」

「来たことあるっていうか、ここ、バイト先だから……」

イソギンチャク集団を追い抜くように足早に進んで行く。どこに向かっているか、誰に会いに行くかなんて予想できてるからな。

生徒達が口々に叫んでいる名前は、よく慣れ親しんだもの。アイツがいる場所なんてひとつしかない。

予想通り、イソギンチャク集団は俺のバイト先であるモストロ・ラウンジに入っていく。

胃が痛くて吐きそうだ。

「なんだこの場所は? サ店みてぇな……」

「モストロ・ラウンジ。オクタヴィネル寮長を中心に運営されてるカフェだよ」

「まさかバイト先って、ここか?」

「おう……」

普段は落ち着いたジャズが流れているホールも、今は頭からイソギンチャクを生やした生徒達のざわめき声だけしか聞こえない。

200人近くいるだろう。いったいこんだけ集めて、何しようってんだアイツは……。

グリム達を探して辺りを見回しているとと、ぱちんと指が鳴った。それを合図にひとつを残してホールの照明が全て落とされる。

「これはこれは。成績優秀者上位50名からあぶれた哀れなみなさん」

靴音を鳴らして、まるでスポットライトのようになった照明の下へ1人の男が姿を現した。芝居がかった口調は聞き慣れず、別の誰かである、と錯覚しそうだ。

でも、俺がこの声を聞き間違えることはない。

アズールは口こそ微笑みの形を作っていても、集まった生徒達を品定めするかのような目で見下している。

「ようこそ。『モストロ・ラウンジへ』。みなさんは僕のことはよ~くご存じでしょうが、改めて自己紹介を。僕は、アズール・アーシェングロット。オクタヴィネル寮の寮長であり、カフェ『モストロ・ラウンジ』の支配人であり、そして……」

一息間を置くと、先ほどよりも凶悪な、見下していることを隠そうともしない笑みを浮かべた。

「今日から君たちの主人になる男です」

「何言ってんだ?」

「……なんだって?」

主人って……いつの間にそういうプレイに目覚めたアズール……。お前もクルーウェル先生のように短鞭持って躾がどうとか言い出すのか……?

……似合うなぁ。

「君たちは僕と勝負をして、負けた。契約に基づき、これから卒業までの間、僕の下僕として身を粉にして働いてもらいます」

……なるほどな。なんとなーく、うっすらだけど事情が見えてきた気がする。

契約内容と勝負の勝敗に関する報酬のいかんによっては、止めに入った方がいいのか……?

「ちょっと待った! こんなん詐欺だろ!」

「たしか君は、1年生のエース・トラッポラさんでしたね。詐欺だなんて人聞きの悪い。僕は契約通り君に完璧なテスト対策ノートを渡したはずですよ」

………………はぁ?

「しっかりこなせば、90点以上は取れたはずだ」

「ああ。確かに取れたぜ92点!」

「…………」

「お、おい、ユウ……。その、大丈夫か?」

「なにが」

「……顔。ひでえ面してんぞ」

ジャックが小声で話しかけてきた。この状況で俺に話しかけてくるくらいだ、今の自分は相当ひどい顔をしているんだろう。

「……別に、大丈夫」

エースがアズールに異議を申し立てたのをきっかけにグリムやデュース、他の生徒達が文句を言い始める。

イライラする。どいつもこいつも自分勝手なことばかり。

「さっきから黙って聞いてりゃ……どいつもこいつも気に入らねぇ!!!」

ジャックも似たような気持ちだったのか、我慢できずに群衆の輪から飛び出していく。

まさかジャックが追いかけてきているとは思わなかったんだろう。グリム達がばつの悪そうな顔をした。

「ん? 君は……頭にイソギンチャクがついていませんね。今はスタッフ・ミーティング中です。部外者はご遠慮いただけますか?」

ジャックが怒りで喉を鳴らし、アズールに食って掛かった。

マジフト大会の時と同じく、自分の力を試したいっていう意識が高くて、それを邪魔する奴に対して怒りを露わにしている。

「ユウ、ジャック、オレ様達を助けにきてくれたんだゾ!?」

ジャックと、そして俺を目ざとく発見したグリムが歓喜の声を上げる。

深い深いため息を吐く。

「ジャック―――帰るぞ」

「ユウ!?」

信じられない、と言った顔を向けてくるグリムやエース、デュースをぎろりと睨みつける。

「今の内容で、なんで助けてもらえると思ったんだ? なぁ、グリム?」

「え、だって……ユウはオレ様達を追いかけてきたんじゃ……」

「そうだな。まーーたなんか変なことに巻き込まれてるんじゃねーかと思って追いかけてきたよ。それが、なんだ? 自分が楽したいが為に他人の力に飛びついて、自分の確認不足があったにも関わらずクリアできなかったら文句を言って約束事を反故にしようってか?」

殺気とはまた別の意味で胃がキリキリする。吐きそうだ。

「全員馬鹿かよ。ああ、馬鹿の集まりだったな。悪い悪い。でもな、俺は自助努力もしねぇ、楽ばかりしたがる馬鹿共を助けたがるほどお人よしでもねぇんだわ。わかったら反省して約束通り働け馬鹿野郎」

そもそも俺は、テスト期間の最中に注意したはずだ。うまい話には気をつけろよ、オクタヴィネルの奴らに話しかけられても安易に乗るなよ、と。

それを無視して相談もせず楽するためだけに契約して、失敗したのは自分だ。つまり自己責任。俺が同行してやる義理はない。

今回ばかりは愛想が尽きた。

「アズール、邪魔して悪かったな。それじゃ」

下がる気のないジャックを残し、イソギンチャク集団をかき分けてモストロ・ラウンジの出入り口へと向かう。後ろでぎゃーぎゃー騒ぐ声がするが完全シャットダウンだ。

モストロ・ラウンジを出たところで、馴染みのオクタヴィネル寮の2年生と遭遇した。

ジャックに指摘された通り、ひどい顔をしているのであろう、オクタヴィネル寮生は俺の顔を見るなり小さく悲鳴を上げた。

「ああ……悪い。ちょっと、イラついてて」

「い、いえ……」

「荷物だけ寮に置いてくるわ。今日はなんか特別なことはなかったよな?」

「はい。……あの、えぇと……その。ユウさん」

「? なに?」

「……これを」

差し出された手紙を素直に受け取り、開封する。

便箋にはいくつかの場所と、報酬、そしてその場所の責任者の名前。

それと——――。

「………………、え?」

新しいバイトを紹介するから、そちらへ行ってほしいという旨。

もうモストロ・ラウンジには来なくていいという、簡素な解雇通知。

「ど、え、え……?」

訳が分からない。俺はここを辞めたいと言ったことなんてない。ここが、俺の唯一の職場であり、数少ない居場所のひとつだと思っていた。

オクタヴィネル寮生の方へと顔を向ければ、彼は手紙の内容を知っていたのであろう、気まずそうに目を逸らされた。

すみません、と申し訳なさそうに謝り去って行く背中を見つめながら、俺はしばらくその場所から動けずにいた。

 




ユウ
各方面からの予想だにしない出来事にショックを受けている。
勉強は自分の力でやりたいタイプ。自分で努力せず文句を言う人間も嫌い。
最近胃が痛い。
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