●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。
それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。
まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。
今回は
・3章【深海の商人】
メインストーリーのシナリオに沿ったお話となっています。
まだ読まれていない方はご注意ください。
出来れば本編読了後にお読みいただければ幸いです。
●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。
また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。
「……ウ、ユウ!」
身体を揺すぶられて、ハッと我に返る。目の前には心配そうに眉を下げたジャックがいた。
「ジャ、ジャック……?」
「変なところで突っ立てるんじゃねぇよ。……まさか、オクタヴィネルの奴らになにかされたのか?」
「いや……そうじゃない。ちょっと、考え事してて。他の奴らが出てくる前に帰ろうぜ」
「……ああ」
来た道を戻って、オクタヴィネル寮から出る。
……あの手紙が、何かの間違いではないとするのであれば。俺はもうここに来ることはないんだろう。そう思うとツンと鼻の奥が痛くなった。
多分、イソギンチャク集団と言う名の下僕がたくさん手に入ったから、必要のない人員を切ることにした。そしてそれが俺だったという話なんだろう。
自惚れていたんだろうか。俺は……自分のことを、モストロ・ラウンジに必要な人間だと思っていた。
けど実際は、そんなことなくて。
胃がぐるぐるする。歩いている最中、チラチラとジャックがこちらを伺っているのがわかったけど、申し訳ないがおしゃべりをする余裕がなかった。
行よりも長く感じた廊下を歩ききり、鏡舎へと繋がる鏡をくぐる。ほんの少しだけ、息がしやすくなった気がする。
それじゃあ、と適当な別れの言葉を告げて鏡舎を出る。が、何故かジャックはサバナクロー寮の鏡の方へは行かず、俺のあとを付いて来る。
「ジャック? サバナクロー寮に戻んないのか?」
「オンボロ寮まで送ってく」
「え」
え、なに……この突然のデレ。俺いつの間にジャックのカノジョになったんだ……?
乙女ゲームを始めた覚えはないぞ???
「こ、これがほんとの送り狼……!」
「何言ってんだお前」
「いって! 叩かなくてもいいだろ!」
「うるせぇ! アホみたいなこと言ってる暇があるならさっさと行くぞ!」
「はいはい。……なぁジャック」
「なんだよ」
「俺、そんなひどい顔してる?」
送り狼発言をしたとき、ジャックは一瞬だけ、ほっとしたような安心した表情を見せた。
ジャックにも悟られてしまうほど、わかりやすい表情をしているんだろう。
「別に。……勘違いするなよ。まだ、その……寮に戻るには早い時間だと思っただけだ」
「……悪いな」
ふん、とジャックが鼻を鳴らして歩き出す。
本当にいい奴だよ、お前は。グリム達に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。……今度やろうかな。
心配ばかりかけてもいられない。なるべく普段通りの表情を装ってジャックと話しながら、オンボロ寮へと戻っていく。
「あっ! そうだエースとデュースの荷物!」
「それなら俺が寮に戻る時にハーツラビュル寮に寄って行ってやるよ」
「うわーまじで? ありがとな、ジャック。そうだ、せっかくだし茶でも飲んでけよ。この前いい茶葉もらったんだ。それに、あの馬鹿があのあとどうなったのか聞いておきたいしな」
「それなら……邪魔するか」
ほんの少しためらった後、ジャックが頷く。茶はいいとして、茶菓子はなんかあったかな……この前もらったクッキーでいいか。
なんて考えているうちにオンボロ寮へとたどり着く。ぎぃ、と蝶番が軋む音を立てて扉が開いた。
「おかえりユウ坊。大荷物だなぁ」
「ただいま~。客が来てるんだ、悪いけどお湯だけ沸かしてくんない?」
「おお、客か! いつもの奴らじゃないんだな。ゆっくりしていけよ」
出迎えてくれたゴーストの1人にお茶の準備を頼む。入れよ、とジャックを招き入れようと振り向けば、信じられないようなものを見る目で見られていた。
「お前、あれゴーストだろ……」
「え。うん、そうだけど」
「確かあいつら、オンボロ寮に勝手に住み着いた悪戯好きのゴーストって聞いてたんだが……」
「その通りだな。けど、仲良くなれば気のいい奴らばっかだぜ?」
「変な奴……」
「うるせっ」
ジャックを談話室に案内して待っててもらい、自分とグリムの荷物を自室に置いた後キッチンへ向かう。
やかんのお湯が沸騰したのを見計らって火を止め、用意したポットにお湯を注いで一度温めておく。
その間にもう一度夜間を火にかけて、棚にしまっておいた紅茶缶を取り出す。今日の茶葉はラ・フランスのフレーバーティーだ。
ポットの中のお湯を捨てて、ティースプーンで2杯分茶葉をポットに入れたあと、もう一度沸騰したお湯を勢いよく注ぎ込んで、すぐに蓋をしめる。蒸らし時間は……3分か。
茶菓子は……いいやめんどくさい。相手ジャックだし、箱のまま出そう。
ポットとクッキーの箱とティーセットをトレーに乗せて談話室へと戻った。
「お待たせ」
「その匂い……洋梨か?」
「おっご名答。今日はラ・フランスのフレーバーティーにしてみたんだ」
蓋を開けてティースプーンでくるりと中身をひとまぜし、茶漉しを使ってティーカップに注いでいく。
なるほど、ジャックはラ・フランス……というより洋梨が好きなのか。顔こそむすっとしているが、耳がぴくぴくとせわしなく動いているし、尻尾はぱたぱたと左右に揺れている。実にわかりやすい。
「ほい。熱いから気をつけろよ」
「お、おう。いただきます」
「どーぞ召し上がれ。あ、クッキー面倒だったからそのまま持ってきた。適当に出して食っていいよ」
「……これ、箱に『グリム』って書いてねぇか?」
「しっらねー。食おうぜ」
箱を乱暴に開封してクッキーを取り出し、一枚つまんでかじりつく。うん、うめぇな。
「―――それで? あの馬鹿どもあの後どうしたんだよ?」
「実力行使で契約書を破るって話になったんだが……あのアズールって奴も、あとから出てきた奴らも強くてな。一度引くことにした」
後から出てきた奴ら……十中八九ジェイドとフロイドだろう。あの3人が揃ったなら、イソギンチャク集団がどれだけの数がいようとまず負けることはないだろう。
引くと判断したジャックは賢明だ。
「しっかし……あんだけの人数がテストで良い点取るためにアズールと契約するとは……」
「それでまんまと騙された、ってわけか。上位50位に入ることが条件だったようだが、あれだけ大量の生徒と契約していればほとんどの契約者が50位からあぶれることになる。最初からアズールはそれを狙ってたってことか」
「だろうな……。これ、おそらく初犯じゃねー気がする。去年とか、似たようなことやってたんじゃねぇ?」
「その通り!!!」
「ウワッ!?!?!」
突然隣で大声を出され、びくりと肩をすくめる。いつの間にか、俺の隣に学園長が座ってクッキーを食べていた。
いや、いつから居た? というか勝手に入ってくるなよ!!
「はぁー……。今年もアーシェングロットくんの”商売”を止めることができませんでした」
わざとらしいため息を吐きながら学園長はちらりと伺うように俺に視線を向けた。
あっ(察し)。これ絶対まーーーた解決してくれとか言われるやつだ。
本題に入る前にゴースト達に頼んで追い出してもらうか……。
どうにかして追い出してやろうと算段を着けていたのだが、大変残念なことにジャックが学園長の話を聞く姿勢に入ってしまった。
ジャックごと追い出すわけにもいかない。……やっぱり聞くしかないのか。
: : :
「……と、いうわけでユウくん。こんなことはやめるよう、アーシェングロットくんを説得してくれませんか?」
あったまいてぇ……。
学園長から聞かされた話は俺の予想を超えるものだった。
ア、アズールあいつ……。なんで生徒が学園内でカフェなんか運営できるのかと思いきや生徒人質に取って脅迫と言う名の交渉してたのか……。
けど、まぁ……。
「お断りします。騙される馬鹿共が悪い」
「そう言わずに……」
「いやだって、最初から自分でちゃんとやってりゃ問題なんて起きなかったはずだろ。それを自分が楽するためだけに怪しい取引に手を出して、結果痛い目見てる。自業自得と呼ばずに何と言えと?」
「まぁそれはそうなんですが」
生徒達が馬鹿で自業自得である、というのは学園長も認めているらしい。教育者がそれでいいのかと思わなくもないが、事実だからしょうがないわな。
「……そういえば、最近。やけに運動着やら教科書を買い替えてますよね、君」
「それが、なにか? グリムが部屋でうっかり炎を吐くことがあるから、ボロボロになりやすいんですよ」
「学用品と言うのは高いでしょう。この件、引き受けてくださるのであれば私の方で工面して差し上げますよ」
「……」
確かに学園長の言う通り、指定の運動着だの教科書だのは高い。下手したら毎月のグリムの食費よりも嵩んでいる。そこを援助してもらえるのは、正直ありがたい。
「……わかりました。やれるだけはやってみますよ」
「そうですか、引き受けてくれますか! さすがユウくん、私が見込んだ監督生です!」
「し、白々しい……」
「なんのことでしょうねぇ。じゃ、私は忙しいのでこれで失礼。くれぐれも頼みましたよ」
ばさりとマントを翻し、学園長は颯爽と出口へ向かって行く。
ジャックに「玄関まで送ってくる」と断りを入れてその背を追いかけた。
「学園長、あの」
「運動着や教科書の件、まだ他の人には言っていませんよ。……いいんですね?」
「! ……ええ、まぁ。自分でなんとかできるんで」
「それは結構。しかし……君はもう少し、他人を頼る方法を覚えてもいいのでは?」
「今でも十分、皆には頼らせてもらってるし助けてももらってますよ」
「……そうですか。では、私はこれで」
バタン、と扉が閉まる。あーあ、めんどくさいこと引き受けちゃったなぁ。
1人でやるのはかったるいし、ジャック一緒に付き合ってくんねぇかな。
談話室に戻って冷めた紅茶を流し込む。
「学園長、本当に神出鬼没だな。……で、具体的にどうするつもりなんだ?」
「どうする、っつてもなぁ……」
「説得して素直に止めるような奴じゃないだろ、あれ」
「ジャックだいせいかーい。花丸をやろう。うーん……まずはアズールと、その周辺に関する情報集めでもしてみるか」
アズールを止められるような情報はないか、と思い出そうとして。俺自身、アズールの事をそこまでよく知らないことに気付かされた。
2年生で同じボードゲーム部でオクタヴィネルの寮長で、モストロ・ラウンジの支配人。そんな肩書ばかりしか知らない。
プライドが高いとかああ見えて努力家であるとか、意外と表情が豊かであるってことも知ってはいるが、今回の件にはあまり関係はないし。
「ああ。狩りの基本は相手をよく知るところから、だ。お前、わかってんじゃねーか」
「それほどでも。けど時間かかるかもな、これ」
「いいんじゃねぇか? エース達も少しくらい痛い目見て反省した方がいいしな」
「それな。……うん、よし。アズールの説得はしてみる。けど、生徒の解放って言うよりは学園長脅さないでやってくれって方向にしよう」
「それでもしあいつらが助けを求めてきたらどうすんだよ」
「その時は『俺達が悪かったです二度としません。助けてください』って土下座して頼み込んでこない限りはほっとく」
「お前……本当にこの学校の生徒らしくなってきたな……」
「そりゃあまぁ、通ってるからな」
さて、と立ち上がった。見ればジャックのティーカップの中も空っぽになっている。
「ジャック。おかわり、いるか?」
「いや。そろそろ夕方のロードワークの時間だからな」
「ストイックだねー。じゃあまた明日」
「おう」
ジャックを玄関まで見送り、大きく息を吐く。立っているのも億劫すぎて壁に背中をつけてズルズルと座り込んだ。
グリム達の件もモストロ・ラウンジの件も、想像していたよりダメージがきっつい。
俺の注意を聞いて、ちゃんと勉強したからこそあの点数が取れたんだと思って嬉しかった。
モストロ・ラウンジにとって俺はなくてはならない存在なんだと思ってた。
でもどちらも勝手な期待でしかなかった。
わかっている。信じて期待した俺が悪い。ラギーの時に痛感したじゃないか。
「……それでも」
それでも俺は、信じていたかった。
: : :
「よう」
「お、おはよう……?」
朝早くに来客を告げるチャイムが鳴った。こんな早くに誰だと思って出てみれば、制服姿のジャックが立っているではないか。
お、お迎えイベントが発生してる……? 昨日もそうだけど、俺いつの間にジャックルートに入っていたんだろうか。この世界は実は乙女ゲームだった……?
「えーっとぉ……?」
「勘違いするなよ。学園長直々の命令だから、遅れたりしたらまずいと思って迎えに来ただけだ。別にお前の様子が心配だったからとかじゃねぇからな」
あっ違うわこれ。乙女ゲームじゃなくてギャルゲーだ。ツンデレ幼馴染みヒロインが迎えに来てくれるやつ。
つまりこれはときめきサバナメモリアルというわけだ。ぜひ主人公は俺以外でお願いしたい。俺は実況生配信するから。
「グリムはどうしたんだ?」
「まだ寝てる。昨日も夜遅くまで馬車馬……馬車猫? の如く働かされてたみたいだな」
俺が普段モストロ・ラウンジから帰って来る時よりも遅くに戻って来て、そのままベッドに直行した姿はなかなか哀れだったが、もとはと言えば自分が蒔いた種だ。しばらくはほっておこう。
せめて俺に一言相談してくれればよかったのに。
「サバナクローのイソギンチャク生えてた奴らも同じだな」
「へぇ、サバナクローもいたのか……レオナやラギーの反応は?」
「すげぇ呆れてたな」
「まぁあの2人ならそうか……。……エースとデュース、今日は首輪嵌めて来るかもな」
「首輪? …………ああ、リドル先輩か」
厳格で真面目なリドルのことだ。エース達がしでかしたことを知ったらそれはもう烈火の如く怒るだろう。隠そうにも、頭のイソギンチャクが奴らの罪の象徴だ。
「俺まだ準備途中なんだけど、よかったら談話室入って待っててよ」
「悪いな」
「いいえー。そうだ、ジャック朝食まだだよな?」
「ああ」
「じゃあ食べてけよ」
元々今日は学校の大食堂じゃなくオンボロ寮の方で食べるつもりだったし、グリムの分やゴーストのおやっさん達の分もある。今更1人くらい増えたところで手間は変わらない。
……ゴーストが食べたものってどこに行くんだろうな?
「大食堂程ではないかもしれないけど、味にはそこそこ自信があるぜ?」
「いや、さすがにそこまで世話になるわけには……」
「デザートに洋梨のゼリー用意してんだけど」
洋梨、と言った瞬間頭の上の狼耳がピンと立ち、ぶおんと音が鳴るほどふさふさの尻尾が大きく揺れた。顔は仏頂面で感情が読みにくいけど、尻尾と耳がものすごく分かりやすすぎる。
「残念だなーせっかく用意したのになー」
「……そこまで言うならしょうがねぇ。食っていってやるよ」
勘違いするなよ、と牙を剥く姿さえ今の俺にとっては癒しだ。
ジャックを談話室に案内した後オンボロ寮のキッチンへと向かう。
何が良いかな。俺達は適当でもいいけど今日はジャックというお客さんもいる事だし、少しくらい朝から豪勢にいってもいいか。
冷蔵庫から鶏の胸肉、ベーコン、トマト、レタス、卵を取り出す。鍋に鶏肉とたっぷりの水を入れて火にかける。
鍋が沸騰するまでの間、トマトを輪切りにしレタスは洗って一口大にちぎる。ついでにトースターに食パンを2枚セットしてレバーを下げておく。
2口コンロありがとう、とキッチンを改修してくれた学園長に感謝しながら空いたコンロの上にフライパンを置いて火にかけ、温まって来たところでサラダ油を引き卵をひとつ割り入れる。
透明な白身部分がうっすら白く変わってきた辺りで黄身を潰して広げておく。そしてその上にベーコンを2枚ほど乗せて塩コショウを振り、フライ返しでぐるんっとひっくり返した。と、同時にカシャンと音を立ててトースターから食パンが飛び出る。パンは後回しだ。
フライパンの中に少量の水を入れて蓋をし、少しの間蒸し焼きにしておく。
その間に沸騰した鍋の火を中火にしておき、更に茹でる。フライパンの方は蓋を外して再びフライ返しでひっくり返して焼き色を付けた後、皿に移す。
まだ鍋の方は時間があるな。トースターから焼けた食パンを抜き取りまた2枚入れてレバーを下げたところでちょうど鶏肉が茹で上がる時間だ。火を止めて鶏肉を取り出し、スライスしていく。
「おい」
「あれ、ジャック。どうかしたのか?」
「じっと待ってるのは性に合わねぇ。何か出来る事はあるか?」
「は? いい子かよ……。じゃあ、俺が指示するから挟んでってもらっていい?」
「おう」
冷蔵庫からバターとマヨネーズ、ケチャップを取り出して作業台の上に置き、その横に出来上がった具材とパンを並べる。
「じゃあまずはパンにバター塗って、それからマヨネーズ。出来たらそっちの……ベーコンエッグ乗っけて」
「……よし、出来たぞ」
「うんじゃあ次、その上からケチャップ適量かけて。濃い目の味が食べたいなら多めにかけた方が良いよ」
「わかった」
ジャックに指示を出しながら追加のベーコンエッグと食パンを焼いていく。
「それが終わったら新しい食パンを上に乗せて、さっきと同じくバターとマヨネーズ。で、終わったらレタス、トマト、鶏肉の順番に乗っけてって」
「塗るのは片面だけでいいのか?」
「うん。で、乗せ終わったら何も塗ってない食パンを置いて、軽く上から押してくれ。……潰すなよ?」
「潰さねぇよ! ……出来たぞ」
「じゃあしばらく置いといて。ほら一杯食べたきゃ手を動かせ~」
最初は恐る恐る……といった雰囲気のジャックも、2つ3つと作るうちに段々手馴れた様子を見せ始める。
よし、挟むのはもう全部ジャックに任せて、俺はひたすら具を量産しよう。
今回は食い盛りが1人追加されてるからな。余ったところで昼飯用に持っていけばいいし。
適当に雑談しながら作り続けていたら、とうとう材料の方が先に尽きてしまった。
しまった、ここまで作るつもりはなかったのに。途中からモストロ・ラウンジで働いてる時と同じノリになったのが原因だな。
「……」
サンドイッチを切る手が止まる。
あの場所に立つことはもうないんだという現実を改めて感じた。
ああ、もう。だめだ。昨日からずっとこんな調子だ。いくら何でも引きずり過ぎだろう。
何が何だかよくわからないが、とにかく、俺はアズール達の不興を買う何かをしてしまったことは確かだ。そうじゃなきゃこんな一方的なことしてくるはずがない。
だから、多分、きっと。
俺が悪い。
: : :
山盛りになったクラブハウスサンドは、グリムとゴーストのおやっさんの分以外そのほとんどがジャックの胃の中へ消えた。
朝からあの量食べれるなんて、さすが男子高校生。若さだな。
「おいユウ、あんな量で足りるのか?」
「足りる足りる。俺、元々朝はそこまで食べない派だから」
あのあと学校に行かなきゃいけないギリギリの時間になってグリムは起きてきた。
朝食を食べ損ねたとスンスン鼻を鳴らす姿が俺の中の庇護欲を刺激する。くそぅ、小動物には弱いんだよ俺。
しょうがない、と学校に行く道すがらグリムの口にサンドイッチを放り込んでやった。
4切れも食わせりゃギリギリ昼まで持つだろう。俺の4倍は食っている。
若干元気が出たグリムを1年A組の教室に放り込んで、今はアズールの情報を集めるためにジャックと2人で2階の外廊下を歩いていた。
「アズールの監視中に腹の音を鳴らすなよ」
「大丈夫だって。それにしても……授業サボってまで、マジで来てくれるとは思わなかったわ」
「学園長直々の命令なんだ。サボりも多めに見てくれるだろ。それに、負けっぱなしは気に食わねぇ」
「いや、昨日の勝負はほら、足手まといもいたろ」
「それでも、だ。あいつはいろんな種類の魔法を操ってやがった。あの強さに秘密があるなら、俺も知っておきたい」
うん、真面目というかストイックというか。いいねいいね、お兄さんこういうの嫌いじゃないよ。
スマホのメッセージを確認する。昨日のうちに情報通のケイトに頼んでアズールが所属する2年C組の時間割を調べておいてもらったのだ。
ケイトにまた借りが出来たな……どっかでちゃんと返さないと。
「1限目は……音楽だって」
「ってことは講堂か。行くぞ」
生徒がいなくなった廊下を突き進み、講堂に辿り着く。音を立てないよう扉を小さく開いて中を覗き込めば、タイミングよく授業が始まるところだった。
「お、アイツ歌うぞ……やたら歌がうめぇな」
「マジだ。知らんかったわ……」
教卓の前に立ち、高らかに課題曲を歌い上げるその姿はプロの歌手のようだ。
楽器ができるとは聞いたことはあったが、歌まで上手いだなんて知らなかった。
先生も他の生徒達も聞き惚れている。音楽の授業のたびにこの歌声を聞くことが出来るやつらがちょっと羨ましい。
「……って、何考えてんだ」
「どうした?」
「いや……大丈夫だ」
ブンブンと頭を振って、先ほどの考えを頭から締め出す。
そのまま2限目、3限目と教室を移動しながら授業中のアズールの様子を観察していくが、どの授業も完璧にこなし、弱点どころか欠点のひとつも見えてこない。
正しく“優等生”そのものだった。
「アズールの奴、まさに完全無欠の優等生って感じだな」
「ジャックもそう思う?」
昼休みに入り、食堂へ向かったアズールを追いかけて俺とジャックも食堂へ向かう。アズールを視界から外さないように交代で食事を取りに行き、食事中も姿が見えて、かつ、それなりに離れた席を陣取った。
「動物言語も理解できるだけじゃなく自身で話せて、難しい魔法薬の調合も完璧……それ以外の言葉がねぇ」
「確かに」
たった3科目分だけ見ても、アズール・アーシェングロットという男は完璧であった。
ここからどうやって説得に持ち込むか……。何かしら弱みなりを知っていれば容易だったかもしれないが、これじゃあまず高所のテーブルに着くことすらできない。
「ところで……お前、昼もそれだけで足りるのか」
「うん。今日そこまで動いてないし、頭も使ってないから」
そう言ってモソモソと菓子パンを齧れば、ジャックは呆れたようにため息を吐いた。
もう成長期も終わってるからね~、俺。栄養とか特に気にしなくてもいいんだよ。
「ふな゛ぁあ~~~~……早速アズールのヤツにこき使われてへとへとなんだゾ~」
「オクタヴィネル寮の掃除、ラウンジの給仕、購買に使いっ走りまでさせやがって」
「僕なんか、今日は朝6時に呼び出されたぞ」
俺とジャックの対面に、どかどかと座ってきたのはグリムとエーデュースもとい、イソギンチャク三連星だ。
「よ~ぉ、この馬鹿3人衆。よくもまぁ昨日の今日で俺のところに顔が出せたもんだな?」
グリムはまぁ、相棒だし小動物虐待反対派だから最低限顔は合わせるし面倒は見るけど、お前らは別だぞエースとデュース。
ぎろりと睨みつければ、俺が怒ってるのを感じたのか2人がう、と小さく呻く。
「勘弁してよ、ユウ~~……。俺達がかわいそうじゃねぇの?」
「自業自得の馬鹿共に、俺が同情するとでも?」
「ローズハート寮長に怒られて、反省文も書いたんだ……」
「それが? リドルが正しい」
ふんと鼻を鳴らして一蹴してやれば、エースとデュースはわかりやすく肩を落とした。
……これはちょっと、大人げなかったかな。
こいつらもまだ16歳。この間義務教育が終わったばかりの子供だ。
目先のことに囚われて失敗することもあるだろう。人はそこから成長する。俺達大人はその手助けをする……と言うのがあるべき形だ。
「……はぁ。ったく、お前らは……」
どうしようもないなぁと苦笑した、その瞬間。
ぞわりと肌が泡立つのがわかった。この感覚には覚えがある。
———本能的な恐怖だ。
「おや、」
柔らかな声と共に、肩に手を置かれる。
聞き覚えのある声だ。振り返り、視線をエース達から斜め上へと上げる。
「どうなさったんです。暗い顔をして」
「あはは。ココ、イソギンチャクの群生地じゃん」
「ジェイド……フロイド、」
鏡合わせのような容姿の2人組……ジェイドとフロイドがそこに立っていた。
ジェイドもフロイドもその端正な顔に笑みを浮かべたまま、俺達を……いや、俺を見下ろしている。
……実は、声を聞いた瞬間、恐怖を感じながらもほんの少しだけ期待はあった。
もしかしたら、もしかしたら……手助けとはいかないものの、何かアドバイスをくれるんじゃないかって。
そんな俺の身勝手な期待は打ち砕かれた。
2対のオッドアイに浮かぶ色は、獲物を見つけた捕食者の色。
俺もその他大勢と同じく、彼らにとっては餌のひとつなんだと突き付けてくるその眼差しに、一周回って笑いがこみ上げてきた。
「何か、悩み事を抱えているようにお見受けしますが……」
「……そうだな、悩んでるよ」
ブーブーと文句を言うエース達とそれを黙らせるフロイドのドスの利いた声をBGMに、にこやかな笑顔を浮かべたジェイドと向き合う。
「もしかしてユウさんのお悩みは……このおバカなイソギンチャク達についてではありませんか?」
「むしろそれ以外にあると思うか?」
「さぁ……どうでしょう。ユウさんは色々と考えていることが多そうな方なので」
「いや? そんなことはねぇよ……で? 何時に行けばいいんだ」
「察しが早くて助かります」
「……ユウ?」
ジャックが心配そうに声をかけて来る。
大丈夫、と目くばせをひとつ投げてジェイドに向き直った。
「そこにいるイソギンチャク達を自由にしたい、と言うのであれば、夜9時過ぎにモストロ・ラウンジへおいでください。美味しいお茶を用意してお待ちしています」
「……そりゃ楽しみだ」
「待ってるねぇ、小エビちゃん」
笑みを浮かべてジェイドとフロイドはアズールがいる方向へと去って行く。
大きく息を吐いた。もう、こうなりゃ腹を括るしかない。
幸いにも俺とアズールの間の雇用関係は断ち切られている―――双子の様子を見る限り、俺はもう同僚でも友人でもない。顔見知り、くらいが妥当か。なら、もういいか。
「えーっと、つまり……ユウは、今夜アズールのところ行く、のか?」
「そんで、もしユウがアズールと契約して、勝負に勝ったら……」
「結果によっては、オレ達自由になれるってこと!?」
「「「頼む、ユウ!! アイツに勝ってくれ!!」」」
ずい、とイソギンチャク3人組が身を乗り出してくる。
調子のいい奴らだ、とジャックが呆れた顔で呟く。まったく本当にその通りだ。
「……その前に、俺に何か言うことあるよな?」
「「「すみませんでしたぁ!」」」
ぶるんと3本のイソギンチャクが揺れて、俺の前に頭が下げられる。
やっぱこのイソギンチャク卑猥だよな、修正線入れないと準備会にNG食らうぞ。
「反省しました! だからこの通り!」
「もう二度としないと誓う!」
「オレ様達を助けて欲しいんダゾ!」
「……はぁ」
「いいのか、ユウ」
「ん。もういいよ。もういい」
「……チッ。仕方ねぇ。お前、なんか抜けてて危なっかしいからな。俺も付いてってやる」
「やっぱりときめきサバナメモリアルじゃん……」
「は?」
「いやごめんなんでもない。頼りにしてるぜ、ジャック」
: : :
ジェイドとの約束の時間の15分前に鏡舎を訪れれば、すでにジャックがオクタヴィネル寮の鏡の前で待っていた。
「悪いな、ジャック。待たせたか?」
「いや。……ネクタイはどうした?」
「ああ。寮で一回外した時あと、つけるの忘れてて。まぁいいだろ、授業とかじゃないんだし」
「それもそうだな。ッシャ、行くか!」
「おう!」
とぷんと鏡面に身を浸し、オクタヴィネル寮へと足を踏み入れる。
今までは美しくて見るだけで心が躍ったこの場所も、今となってはただ息苦しさしか感じない。
今夜のモストロ・ラウンジも盛況のようだ。席はほとんど埋まり、忙しなく給仕スタッフが歩き回っている。その頭には、イソギンチャクが生えている。
「こっからはマジで敵の縄張りだ。気を抜くんじゃねぇぞ」
「敵……そっか、そうだな。うん、向こうのペースに乗せられないよう気を付けろよ」
一歩中に入った瞬間、待ち構えていたかのようにふらりとフロイドが姿を現した。
「あー、小エビちゃ~ん。いらっしゃい~。それにウニちゃんも来たんだ」
「だからウニじゃねぇっつってんだろ!」
「どうどう。落ち着けジャック。敵のペースに乗せられるなっつったばかりだろ」
「……ふ~ん……」
きゅっとフロイドが目を細める。
機嫌が急降下した時に見せるその表情に咄嗟に身構えたところで、靴音が近付いて来た。
「おや……これはこれは。早速のご来店ありがとうございます。ようこそモストロ・ラウンジへ。ご利用方法は……」
「茶番はいい。アズールと……支配人と話がしたい」
「ふふふ……かしこまりました。ただ、今、支配人は別のお客様のご相談を受けておりまして。しばらく店内でお待ちいただけますか?」
「わかった。来いジャック」
「お、おう……」
こちらへ、とジェイドに案内された席に座る。メニューを渡そうとするジェイドを手で制して、一番安いドリンクを2つ頼む。
「そちらでよろしいのですか?」
「今無職だから、出来るだけ出費は抑えたいんだよ」
嫌味を込めてそう言えば、僅かにジェイドの眉間に皺が寄る。
しかし次の瞬間には何事もなかったかのように給仕のイソギンチャクを呼びつけた。
「イソギンチャクさん、こちらオーダーお願いします」
「悪いが、ドリンクを運ぶのが先だ」
「混んでるんだし、注文くらいアンタが取れっての!」
近くにいたイソギンチャク……というかエースとデュースが不満げにジェイドに言い返した。
ぐるりとホールを見渡せば、忙しなく動いているのはイソギンチャクだけで、オクタヴィネル寮の寮服を着ている奴らは数人もいない。その数人も会計や席案内くらいで、とても忙しそうには見えない。
エース達の反応に、ジェイドは眉間にシワを寄せてマジカルペンを取り出した。
「イソギンチャクの分際で、口答えとは良い度胸ですね」
「いでででで!!」
「イソギンチャクを引っ張るのはやめろ!」
ジェイドがマジカルペンを一振りすると、途端にエース達の表情が苦痛に歪む。
どうやらアズールだけではなく、ジェイドもある程度イソギンチャクを操ることが出来るようだ。
「僕はアズールに新人指導を言いつけられていますから。口答えする生意気な新人に躾をしなくては」
「にしたってこれはやり過ぎじゃないか? 指導じゃなくて虐待の間違いだろ」
「部外者である貴方には関係のないことですよ」
ちくり、と胸にジェイドの言葉が刺さる。……いや、このくらいで怯んでたら、アズールと話しなんて出来やしない。
「そうだな。俺は部外者……いや、客だ。客の前で新人いびりはどうかと思うぜ?」
「人聞きの悪いことをおっしゃる。粗相をしたならその場で躾けるのが道理でしょう」
「なになに、小エビちゃん。逆らうの? 言う事聞かない困ったちゃんは、オレ達が絞めていいことになってるんだよねぇ~」
尖った歯を見せて笑いながら近づいてきたフロイドに、ジャックが威嚇する様にグルグルと唸る。
「新人いびりを見せられて気分が悪いって言ってんだよ」
「じゃあ、お前らがコイツらの代わりに店を手伝ってくれんの?」
何言ってんだ、と言おうと口を開いたところで「あっそれいい。それでいこう!」とエースが乗っかって来た。
こ、こいつ……。せっかくこっちが助けてやろうとしてんのに更に巻き込んでくるつもりか。
いっそこのまま見捨てて帰ったろか。
「てめ、何勝手に決めてんだ!」
「真面目に働いてくれるなら、僕らは誰でも構いませんが……」
立ち上がったジャックを、エースとデュースが挟んでひそひそと耳打ちしている。
ここで俺じゃなくてジャックを選ぶところがほんと嫌だこいつら。
俺とジャックなら、ジャックの方が丸め込みやすいって確信していやがる。
予想通り、というか。エース達の話を聞いたジャックが仕方ない、と頭を抱えて頷いた。
「はぁ……」
ぐるりとホール内を見回す。ホールの給仕よりもこれ、多分キッチンの方が人数足りてないだろ。
提供済みのドリンクとフードの数が少ない。料理が出来るイソギンチャクをキッチンに回しているんだろうが、あそこは一朝一夕じゃこなせない。
ブレザーを脱いで軽く腕まくりをする。真面目に働くなら誰でもいいって言ったのはジェイドだ。
「ジャック、お前はホールで給仕。俺はキッチンに行くからな。止めるなよ」
「……それは、」
「誰でもいいんだろ」
「……ええ、確かにそう言いましたね」
「じゃあ文句は言うなよ?」
「……」
意味ありげに投げられるジェイドの視線を振り払い、勝手知ったるキッチンへと足を踏み入れた。
「ユ、ユウさん!?」
流石に中はイソギンチャクだけではなく、何人か見知ったオクタヴィネル寮生がいた。
まぁそりゃそうだろうな。洗い物や皮むきなんて雑事だけならまだしも、味付けはイソギンチャクにやらせるわけにもいけないだろう。
「よっ。あ、勘違いするなよ。戻ってきたわけじゃなくて、ただのヘルプだから。……今日限りだ」
「……そうですか。じゃあ、よろしくお願いします」
ざっと見て、明らかに手が足りてない場所に手を貸しに行く。
……グリムはもう自分の体をスポンジ替わりにしてるんじゃないかってくらい泡まみれだった。
うちの子可愛いな~。この状況じゃなかったら写真に撮りたかったな。
「よし、やるか」
: : :
「……こんなもんか」
ひっきりなしに飛んできたオーダーも落ち着いてきている。溜まっていた注文は捌ききったし、このくらいでいいだろ。
ホールへ戻るために手を洗っていると手紙を渡してきたオクタヴィネルの2年生が何かを覚悟したような表情で近寄ってきた。
「ユウさん、やっぱり戻ってきてくれませんか」
「え……?」
その言葉に妙な引っかかりを感じた。
俺の認識ではアズール達の方から切られたことになっているが、オクタヴィネル寮生の言い方じゃ、まるで俺が自分から進んで辞めたように聞こえる。
「待て、俺は———」
「ユウ、こっちも落ち着いて来たぞ」
デュースがキッチンの出入り口から顔を覗かせる。数瞬迷って、「悪い」と一言オクタヴィネル寮生に謝り、ジャックの方へと向かった。
優先順位はしっかり決めないといけない。じゃないと、どっちつかずになってしまう。
二兎追うものは一兎も得ず。今なによりも優先すべきなのはアズールとの交渉だ。
ホールに戻って捲くっていた袖を戻して、ブレザーに腕を通した。
「うんうん、かなりいい感じに捌けたじゃん♪ 」
ありがとねぇ、とフロイドが上機嫌そうにジャックの頭をわしゃわしゃと撫でた。
ジャックが「やめろ」とフロイドの手を払いのけようとしたところで、ホールに拍手の音が響き渡る。
「あれだけの混雑を捌ききるとは、見事なヘルプです」
「アズール!」
「…………」
今にも飛び掛かりそうな勢いのジャックを手で制し、一歩前へ出た。
寮服に身を包んだ目の前の男は、もうきっと俺の知るアズールではない。
海の魔女の如き慈悲深い心を持つ、オクタヴィネル寮の寮長。アズール・アーシェングロットだ。
「大変お待たせ致しました。VIPルームの準備が出来ましたので、どうぞこちらへ」
アズールに促されモストロ・ラウンジの奥にある通路を通り、VIPルームへと足を踏み入れた。
壁をぐるりと囲む本棚に、アズールの執務机の後ろには大きな金庫。
俺にとっては慣れた光景だが、初めて入るジャックはその光景に圧倒されていた。
「―――それで? 僕に相談というのは?」
「2つある。1つはエースとデュース、それにグリムの解放。もう1つはイソギンチャクの自由を盾に学園長への交渉を行わないことだ」
学園長は「やめるように説得してくれ」と言われたが、多分、やめさせることはできない。
その要求に見合う対価を俺自身が持っていないからだ。この身など掃いて捨てる程度の価値しかないのは既に理解している。
だから、学園長には大変申し訳ないが2つめはおまけだ。目的をグリム達3馬鹿の解放だけに絞れば、取引内容次第では、まだ何とかなるかもしれない。
「はっはっは、これはまた……突然横暴なことを仰いますね」
「……前口上はどうでもいい。俺はここに取引する気で来たんだ。さっさと契約内容を話せよ」
「!? おい、お前なに考えてんだ!?」
「お前だってそのつもりであいつらを寄越したんだろ。回りくどいのは好きじゃない」
ほう、と小さくアズールが頷いた。天青石のような瞳がじぃと俺を射抜く。
「僕と取引をしたいと? 面白いことを仰る」
「別に面白いことを言ったつもりはないけどな。慣れてんだろ、寮長サン」
わざと挑発するように口の端を吊り上げるように笑って見せた。
こういうのは相手のペースに呑まれず、余裕あるフリをするに限る。たとえ本当は余裕がなくたって、そうである、と相手に錯覚させなければならない。
ふぅむ、と小さくアズールが唸る。
「あなたが僕と取引したいのはわかりましたが……しかし困りましたねぇ。確かユウさんは魔法の力をお持ちでない」
「……そうだな」
俺に魔法の力があれば、どんなに良かったか。
「美しい声もなく、一国の跡継ぎというわけでもない。ほんとうにごく普通の人間だ。それだけ大きなものを望むのでしたら、相応の担保が必要です」
「なら……」
2つ目はいい、1つ目だけならどうだと口を開きかけたところで、にぃとアズールの顔が困り顔から笑顔へと変貌する。
「……ああ。あなた、ひとつだけ見合うものを持っているじゃないですか」
「は……?」
「ユウさんが管理しているオンボロ寮の使用権、ですよ」
「……!!」
こういう時にばかり冴える自分の頭が憎らしい。
すべて、すべて。この時のためだったのかもしれない。いつから……もしかすれば、最初から。
きっと、ずっとアズールはオンボロ寮が狙いだったんだ。だからまず使用権を持つ 俺を引き込んだ。
そして手に入れるための算段が付いたから、いらないものを切り捨てた。
全部、それだけだったんだ。
ぎちりと絞めつけられるように心臓が痛む。真実なんて、いつも苦いものだ。
浅くなる呼吸を無理やり整える。2回目だ、取り乱したりはしない。
「わか、」
「その話、乗ったーーーー!!!」
バーンッ、と大きな音を立ててVIPルームの扉が開く。
驚いて入口の方を向けば、全身泡まみれになったグリムが右前足を大きく突き出して立っていた。
「グ、グリム!? いつからそこに……!」
「も、もうこんな生活嫌なんだゾ、ユウ! オレ様の気は食洗機じゃねぇってんだ!」
「よしよしグリム。落ち着けって」
ふ゛な゛ぁ゛! と泣き喚くグリムを抱き上げてよしよしと背中をさすってやる。
……めっちゃ制服に泡が付いたけど、乾かせば何とかなるだろ。
「グリムさん。従業員が仕事をサボって立ち聞きとは感心しませんね。フロイドつまみ出しておしまいなさい」
「はぁ~い」
フロイドの腕がぬぅと俺の腕の中に居るグリムへと伸びてくる。それを避けるように身体を反転させフロイドへと背を向ければ、短い舌打ちが聞えた。
「まぁまぁ、待ちなさい2人とも。ユウさん、唯一の寮生であるグリムさんがこう仰っていますよ」
「……グリムが言わなくても、そのつもりだ。……お前だって、最初からそのつもりで俺に近付いて来たんだろ……」
「……? 今何か仰いましたか?」
「なんでもない。契約の条件を話せよ」
ジャックが制止をかけるが、俺が持っているものなんてどうせそのくらいだ。
相手がそれを望むのであれば差し出すしかないんだ。
「おい、ユウ! 本気かよ」
「本気だよ。それくらいしか俺にはない」
「だからって……」
「いいんだ、ジャック。もう、いいんだ」
「……チッ」
ジャックが俺を心配してくれていることは痛いほどわかっている。
本当いい奴だよ、お前は。
「この契約の達成条件は―――『3日後の日没までに、珊瑚の海にあるアトランティカ記念博物館からとある写真を奪ってくること』!」
「……は?」
「俺達に美術品を盗んでこいっていうのか!?」
予想外の条件に目を見張る。達成困難なものを投げられるとは思っていたけど、まさか泥棒のような……いや、奪ってくる時点で正真正銘間違いなく泥棒だ。
美術品、の言葉にアズールはいいえと首を横に振った。
なんでも、奪ってきてほしいのは美術品ではなく、アトランティカ記念博物館の入り口に飾ってある写真パネルだという。
10年前に撮影された、歴史的価値など一切ない、王子が来館した記念に撮られた写真。
なんでそんなものを……? という疑問は残るが、美術品を盗んで来いと言われるよりかは遥かにいい。
珊瑚の海、すなわち海底にあるその博物館へ行くための魔法薬が机の上に置かれた。
「さぁ、どうします? 僕と取引し、契約書にサインしますか?」
「……わかった。契約する」
「いいでしょう! ではこの契約書にサインを」
アズールの懐から金色に輝く一枚の紙が取り出された。
キラキラと燐光を放つソレに、横に置かれた羽ペンで持ってサインをした。これで後戻りはできない。
「ふふふ……確かに頂戴しました。これで契約は完了です」
満足そうな顔で頷くアズールに、ため息をひとつ吐いた。
負けられない、と思う気持ちはある。しかしそれ以上に疲れた。もう何もかもを投げ捨てて……かえりたい。
でもそうも言ってられない。この腕の中に居るふわもこのぬいぐるみのような相棒とか、人を散々面倒ごとに巻き込んでくれるくせに悪びれない、大切な友達のためにも頑張らなくちゃいけない。
学園長はそのついでだ。
「ジェイド、フロイド。お客様のお見送りを。3日後を楽しみにしていますよ」
: : :
鏡舎で別れたジャックは最後まで心配そうな顔でこちらを伺っていた。
そんな顔するなよ、と肩を叩いてサバナクロー寮へつながる鏡へと送り出す。
そうしてグリムと2人、オンボロ寮へ 戻ってきた……のはいいんだけど。
「ほう、ここがオンボロ寮。中には初めて入りましたがなかなか趣のある造りですね。学校からも近いですし、モストロ・ラウンジの2号店にぴったりの立地です」
「ここ、ゴーストが住んでるんでしょ? 面白そうでいいなー」
「で、オメーらはなんでココまで付いてきてるんだゾ……」
モストロ・ラウンジを出た後もオクタヴィネル寮を出た後もジェイドとフロイドは俺達の後ろを付いてきて、オンボロ寮まで入り込んできやがった。
物珍しそうにオンボロ寮の中を眺めていた双子は、グリムの言葉に対して当たり前のように笑った。
「だってこの寮を担保に、アズールと契約したじゃん」
「ユウさんは他の皆さんと違い、契約時に能力を預けて頂く事ができませんでしたから。代わりに、この寮を没取させて頂きます」
「は、はぁ!? 」
「にゃにぃ~~~~!?」
待て、そんなこと聞いてないぞ!?
慌てふためく俺とグリムをよそに、ジェイドとフロイドは楽しそうに言葉を紡ぐ。
「お約束を果たしていただくまで、この寮は一時的にアズールのもの。従って、おふたりには直ちに退去して頂かなくてはなりません」
「身支度を整えるくらいの時間は上げるからさぁ」
「正式にここがアズールのものになった際は私物はすべて廃棄させていただきます。そのつもりで、身支度なさってくださいね」
「っ~~~~~~!」
カッと頭に血が上る。
俺から居場所を奪っておいて、さらに家まで奪って。
それだけに飽き足らず、この場所で築いたものすべてを投げ捨てられる。
そんな権利どこに、と叫び出しそうになった時、自分の冷静な部分が囁いた。
お前のせいだ、と。
すぅっと一気に血の気が引く。そうだ、俺のせいだ。俺が何かをして、仕事を辞めることになって。
この場所を追い出されるのだって俺がこうなる可能性を考えずに契約書にサインをしたせいじゃないか。
全て自分のせい。俺が悪いのに誰かのせいにするのは間違ってる。
「……わかったよ」
ジェイドとフロイドが何故か息を呑む音が聞こえた。
自分の表情がわからないけど、どうも相当に酷い顔をしてるみたいだ。
「ほらグリム、早くツナ缶持ってこいよ。捨てられたくないだろ」
「ハッ! そうだ! オレ様のツナ缶!」
グリムを床に下ろすと、風邪の様にキッチンへと駆けて行った。
静かにこちらを見つめる2対のオッドアイから逃れるように、自室へと入り込んだ。
部屋の中にある荷物をかき集めても、勉強道具と着替え、小物くらいだ。これならなんとか持てるか。
「これは……」
部屋の隅に置いておいた、アズールからもらったオクタヴィネル寮仕様のハットと靴、畳まれたストールに目を向ける。
もらってからついぞ1度しか身に付けなかったもの。これは、置いていこう。
あいつらが処分してくれるはずだ。
……ああそうだ、隠しておいたリリア秘蔵のワインも持って行かなきゃな。こればっかりは誰にも譲れない。俺の日々のうるおいだ。
ボロボロになった教科書や運動着とかは……まぁ、ベッドの下でいいか。ゴミだしな。
あらかた荷物をまとめ終わり、ジェイドとフロイドに見送られオンボロ寮を出る。
冬の風がビュウと強く吹いた。さて、これからどうすっかなぁ……。
特に行くあてもない。リリア辺りなら頼み込めば泊めさせてくれるか……?
「……ウウ、今日からこの寒空の下野宿かぁ……辛いんだゾ」
「最悪、クルーウェル先生に頼み込んで実験室でも借りるか……ま、今日はもう帰ってるだろうし野宿は免れないけど……ん?」
バタバタと慌ただしい足音が近づいてくる。
何かと思えば、鏡舎へと続く道の方から人影が3人分俺達の方へ駆け寄ってきていた。
走るのに合わせてびょんびょんと左右に揺れるイソギンチャクが2本と、イソギンチャクに両脇を挟まれた立派な三角の耳。
「おーい、ユウ、グリム!」
「エース、デュース。それにジャックまで!」
「ふなっ! オマエ達、もしかして助けにきてくれたんだゾ!?」
「んー。グリムはともかく、ユウが宿無しになるのは、まぁ、オレ達にも原因があるし?」
「むしろ原因そのものだけどな」
「悪かったよ! ……それでまぁ、野宿して風邪でもひかれると寝ざめが悪いっつーか」
「オメー、ホント素直じゃねぇなあ」
うるせ~とグリムをつねるエースを横目にデュースが「1年生の4人部屋で良ければ」と提案してくれた。
リドルの許可も取ってきているらしい。怒られただろうに、2人ともなんだかんだでいい奴だよな。俺のことノー躊躇で面倒事に巻き込んでくるけど。
「お前ら、4人部屋にさらに1人と1匹を押し込めるつもりか? ハーツラビュルに空き部屋はねぇのかよ」
「ウチの寮は退学者も留年者もいないから常に満員状態なんだ」
「……なら、サバナクロー寮に来るか?」
なんですと?
ときめきサバナメモリアルジャックルートはまだ続いていたようだ。
仕方ねぇ、と頭を掻くジャックに、俺だけじゃなくグリム達も声を上げて驚く。
「ほぉ~~~」
「へぇ~~~。ジャックくんって実は優しいんだ~~~」
「意外な一面なんだゾ~~~~」
からかう対象を見つけた途端結託するのやめろよなぁ……。ジャックがかわいそうだろ。
また古き良きツンデレ発言出るぞ……出たわ。
本当にヒロイン力が高いなジャック……。けどその力を発揮するのは俺相手じゃない。
ぜひともそこのハーツラビュル2人とか、サバナクローの奴らとか、ヴィルとかにしてほしい。
「ジャックの提案の方が、ユウたちもしっかり休めそうだな」
「ウチの寮だと、床に寝るか、オレかデュースのベッドで一緒に寝るかになっちゃうしねー」
「エースとデュースが同じベッドに寝て、俺とグリムにベッドを譲ってくれてもいいんだぞ」
むしろ俺としてはそっちの方がいい。エスデュが同じベッドで寝てるのを天幕になってつぶさに観察したい。
この2人が一緒に寝る時の体勢ってどんなんだろ。エースがデュースを腕枕するのか、それとも逆か。
デュースがエースの頭を抱え込む形でもいいな……。やべ、妄想が止まんねぇ。
明日から忙しくなるってのに、ハーツラビュルに泊まりになんか行ったら寝不足間違いなしだ。
「じゃあ、サバナクローに世話になろうかな」
「じゃあ、さっさと寮に戻るぞ。もう12時近いじゃねぇか……ふぁあ……」
超健康優良児じゃん……。
: : :
鏡舎でエースとデュースと別れ、ジャックと共にサバナクロー寮に足を踏み入れた。
この前のマジフト大会以来だ。からりと乾いた夜の風が頬を撫でる。
もう真夜中だってのに、サバナクローの談話室には寮生達の姿が見える。夜行性の奴らなのかな。
談話室の奥、いっとう上等な革張りのロングソファにだらりと身体を投げ出しているこの寮の支配者の前に立つ。
「よう、レオナ」
「あぁ……? なんで草食動物がここにいる」
「それは俺が、」
ジャックがレオナの前に進み出て、事情を説明する。レオナはつまらなさそうに一通り聞き終えた後、ため息を吐いた。
「却下だ」
「だよな~~……」
「そんな即答しなくても……」
しょぼんとジャックの尻尾が垂れ下がる。レオナは俺とグリムに視線を移した後、再びジャックへと顔を向ける。
「ウチの寮はペットの持ち込みを禁止してる。毛が落ちるからな」
「いやお前自分らの耳と尻尾見てみ?」
どう見てもグリムよりふっさふさなのいるじゃねぇか。特に俺の真横。見てみろよこの立派な毛並み。
グリムは昨日今日と全身スポンジ替わりに皿洗いしてたから毛がゴワゴワだ。あとからちゃんと洗って乾かしてブラッシングしてやろう。
「だいたいな。空き部屋の掃除なんか何か月もしてねぇし、寮生どものがらくた置き場になってんだろ」
「あ。だったら俺掃除しようか? 掃除は得意だし、屋根と壁があるところで寝れりゃあ物置でも別に……」
「……あ、そうだ」
レオナの横にいて話を聞いていたラギーが何かを思いついたらしくにんまりと笑みを浮かべた。
うーんそういう顔するときのラギーは大抵ロクなこと考えてないような気がするんだが???
「ラギー、」
「コイツら、レオナさんの部屋に置いとけばいいじゃないスか」
……なんて?
「「「はぁ!!??」」」
ジャックにグリム、レオナまでラギーの言葉に目を見開いて声を上げた。
いや、いやいやいや。何言ってんだ。俺がレオナの部屋に? 無茶を仰るぞこのハイエナ。
「おい、ラギー。言葉は慎重に選べよ。口を縫い合わされたいのか?」
「だって、レオナさんは部屋に召使がいるのとか慣れっこでしょ? 宿代代わりに、身の回りのお世話は全部ユウくん達にやらせればWin-Winじゃないスか」
ラギー、お前Win-Winの意味わかってるのか? 双方が利益を得られることだぞ。
その提案どう考えても利益が出るのはお前だけじゃねぇか!?
唸り声を上げラギーを睨みつけるレオナの威嚇に動じることなく、ラギーは自身の腕を労わるようにさすり出す。
「いやぁ~、オレ、まだ寮対抗マジフト大会の時の傷が癒えきってないんスよね~」
「嘘つけぇ!」
「いやだなぁ、嘘じゃないっすよユウくん。それに魔法薬を飲んでまで魔法使ったからか、ハードワークはしんどくて」
「……」
「なにせ、レオナさんのために命張っちゃいましたから。ユウくん達がレオナさんのお世話を手伝ってくれれば、治りも早くなる気がするなぁ」
わざとらしく目を伏せるラギーの口元は笑っている。自分が楽するためってのが8割、面白そうだから2割くらいか。
ラギーの言葉の言葉を聞くレオナは段々と渋面を作り、最後には大きく舌打ちをした。
「小賢しい野郎だなテメェは」
「やだなぁ、嘘じゃないッスよ。シシシッ!」
……すげぇ、俺今何見せられてるんだろ。
レオラギ夫婦の力関係について、亭主関白かと思いきやまさかのラギーがレオナをいい感じに尻に敷いてるだなんて。
なるほどな~~~うんうん、めっちゃ好きだよそういうの。
ハーツラビュルに行ったらエスデュの過剰摂取で寝不足になりそうだからサバナクローに来たけど、こっちはこっちでレオラギの過剰摂取で寝不足になりそうだな。
やっぱりリリアのところに行けばよかったか……?? いやあそこはあそこでセベクが物理的にうるさそうだからな……。
「だが、そう簡単にオレの傍に置いといてやるわけにはいかねぇな」
「は?」
レオナが数人の寮生を呼びつける。どうやらこいつらと勝負して勝たないといけないらしい。
その中に見覚えのある顔を見つけて、思わず顔を顰める。
……まぁ、向こうもレオナやラギーがいる手前、妙なことはしてこないだろう。知らん振りしとこ。
「たった3日とはいえ、サバナクローにか弱いお荷物を置いとくつもりはねぇんでな」
「お手柔らかにな」
ここで負ければレオナは容赦無く俺とグリムを叩き出すつもりなんだろうな。
気を遣ってくれたジャックのためにも負けられないが……こんな屈強な奴らに勝てるか、俺……?
残念ながら筋肉なんてほぼない鳥ガラだぞ。
内心焦っていると、ジャックが俺の肩を叩いた。どうやら俺達に味方してくれるつもりのようだ。
マジ助かる……今日からジャックには足を向けて眠れないな……。
「よし、行けジャック! キミに決めた!!」
「言われなくても!」
大立ち回りはジャックに任せて、俺はグリムに指示を出しながら相手の隙を作ること、あと回避に専念する。
いや何あのパンチの速度。あんなのに当たったら俺内臓全部吐き出して死ぬんじゃない?
魔法なんかに当たろうもんならまず間違いなく消し飛ぶ。
どうなることかと思ったが、ジャックの活躍もありどうにか勝つことが出来た。
まだまだ余裕があるのかジャックはけろっとした顔をしていたが、俺は満身創痍で膝をつく。
「あ~~……もう無理……しんど……」
「ありゃりゃ。ユウくん大丈夫ッスか~?」
「これを見て大丈夫だと思うならお前の目は節穴だぞ、ラギー」
「そこまで口が回るなら大丈夫そうッスね!」
くっそこの野郎。
「約束は約束なんだゾ! 3日間寝泊まりさせろっ!」
「チッ……。少しでも騒がしくしやがったら3日経ってなくても即座に外に放り出す。わかったな」
「あいあい……」
「ホッ……とりあえず野宿は免れたんだゾ」
ホッと一息つく。あー、動いたから汗臭い。寝る前にシャワー借りて、ついでにグリムも丸洗いしてやろう。
そのあとは明日からの事を考えないと。アズール達の事だ、一筋縄じゃ行かないのは目に見えている。妨害があることも視野に入れておかないとな。
「……笑うよな」
俺はアズール達にとってカモの1人でしかない。それは理解した。
それでもまだ、俺は3人への情を捨てきれないでいる。
モストロ・ラウンジで過ごした日々を、嘘だとは思いたくなかった。
ユウ
アズールと取引し契約することにした監督生。
なんだかんだ言いたいことも腹立つこともあったが、グリム達が大切。情が深い方。
最近あんまりお腹が空いてない。