童顔系腐男子監督生は現実逃避中   作:深生

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※※Attention※※

●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。

それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。

まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。

今回は

・3章【深海の商人】

メインストーリーのシナリオに沿ったお話となっています。
まだ読まれていない方はご注意ください。
出来れば本編読了後にお読みいただければ幸いです。

●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。

また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。




Ep13.童顔系腐男子監督生の期末テストと黄金の契約書【転】

 

何かが軋む音がする。

重い瞼を持ち上げると、見慣れない天井が見えた。驚いて飛び起きれば、暖色を基調とした調度品が目に飛び込む。

どこだ、ここ。と立ち上がりかけて部屋の中から聞こえるグリムのものとは違う寝息に、昨夜からレオナの部屋に泊まっていたことを思い出した。

「はぁ~~……びっくりした……」

枕元に置いていたスマホを手に取る。液晶に表示されている時刻は朝の5時。

最近本当にこのくらいの時間に起きるようになったんだよな。俺も若くないってことなのか……?

いやいやまだピチピチの21歳だし。確かにこの学校の奴らよりは年上だけど、十分若いし。

二度寝したら起きられなくなりそうだ。薄手のブランケットにくるまって寝ているグリムを敷布団の上から避けて、布団を畳んで部屋の隅に寄せる。

開放感しかない大きな窓……いやこれ窓っていうのか? 外との境がブラインドしかないんだけど。まぁいいか。

外は既に日が昇り、ブラインドの隙間から日の光が差し込んできている。

さてどうするか。あんまり他所の寮をうろつくのもどうかと思うし、何よりあんまり顔を合わせたくないのもいる。

けどこのままじっとしてるのもな~……。

ぐるりと部屋を見回す。脱ぎ散らかされた衣服に、積み上げられすぎて雪崩れた本の山。クローゼットと引き出しはどちらも半開きで、中から服が飛び出している。

き、汚い……。こりゃラギーも愚痴るわけだ。

「……」

そわそわする。ここ3ヶ月間オンボロ寮の片付けをずっとやってきたからか、こうも散らかっていると片付けたくて仕方がねぇ。

いやでもほらあれだ、俺達がここに泊まらせてもらう条件のひとつにレオナの身の回りの世話があったし。やっても文句は言われないだろう。多分。

とりあえずあちこちにぶん投げられている衣服を集めて色物やらシャツやらに選り分けておく。

クローゼットと引き出しから飛び出ていた服を畳んだりハンガーに掛け直し、雪崩れた本は積み直す。

……これ、何時間で元の状態に戻るか見ものだなぁ。

「ウィーッス! はよッス!」

「ラギー。おはよう、早いな」

「あれ、起きてたんスか。……って、あれ? レオナさんの部屋が……」

「貴重品には触らないようにしたんだけど……まずかったか?」

部屋を見回したラギーが無言でこちらへ歩み寄ってくる。

え、え、やっぱ勝手に色々触るのはまずかったか。

……それともあれか? これはオレの仕事なのに!!! っていう嫉妬?

レオラギ? それともラギレオなの? どっちだとしても美味しいから話を詳しく聞きたいんだが……。

戸惑う俺の手をラギーががしりと握った。

「マジ助かるッス!! ったくレオナさん、何回言っても服脱ぎ散らかすのやめてくれねーし……」

「お、おお……。ほら、身の回りの世話しろって言ってたし……」

「レオナさんに委縮しないで動ける奴って少ないんスよねー。ユウくん、このままオンボロ寮に帰れなかったらサバナクローくれば? オレは大歓迎ッスよ!」

「ラギー……。……それ、自分が楽できるからだろ」

「シシシッ。当たり前じゃないッスかぁ」

お得意の意地の悪そうな笑みを浮かべたあと、ラギーは迷わずレオナが寝ているベッドへと近づいていく。

BL漫画によくありがちな寝ぼけて相手をベッドの中に引っ張り込むイベントが発生するんじゃないかと期待して見ていたが、ラギーに数度肩を揺らされたレオナはぐるるる、と低く唸ってブランケットの中へもぐっただけだった。つまんね。

「ユウくんもグリムくん起こして。間に合わなくなるッスよ」

間に合わなくなるって何にだ? とは思ったが、サバナクローにはサバナクローのルールがあるだろうし、大人しくラギーの言葉に従ってグリムを起こすためにブランケットを剥いだ。

「ほーらグリム、朝だぞ~」

「むがっ、もう朝? ……って、まだ6時なんだゾ!」

「サバナクロー寮はマジフトの朝練があるッスよ。君達もこの寮に来たからには参加してもらうッス」

「えぇ……それって強制?」

「もち」

うぇえ……。朝練とか何年振りだよ。朝練だけで今日一日分の体力使い切りそうな気しかしないんだけど。

まだ眠い、と駄々をこねるグリムを宥めながら朝練後の自分の姿に思いを馳せる。

一限目ってなんだっけ。魔法史だったらワンチャン寝るわこれ。

「レオナさん! ほら、二度寝しないでください!」

「ラギーのヤツ、子分のくせに親分の足掴んでベッドから雑に引きずりだしてるんだゾ」

「え? うわマジだ……」

グリムが指し示した先では、レオナの両足を抱えたラギーがレオナをベッドから引きずり下ろしているところだった。

それでもまだ起きないとか寝汚いにもほどがあるだろ。

「ほら、ユウくんさっさと顔洗って着替える! 時間は有限なんスから!」

「はぁい。ほら行くぞグリム」

「ふなぁ……」

ラギーから借りたフェイスタオルをグリムの分と合わせて2枚持ち、事前に教えてもらっていた洗面所へと向かう。

寮全体で行う朝練ということもあり、既にほとんどの寮生が起きてきているようだ。

慎重に周囲を確認しながら進んでいると、後ろから肩を叩かれて思わず身体がビクついた。

「うわっ!? ……ってジャックか~。はよ」

「お、おお……。おはよう。何やってんだ……?」

「顔洗いに行こうと思って。ジャックもまだなら一緒に行こうぜ」

「……ああ」

ジャックがいるならまぁ大丈夫だろ。さっさと顔洗って着替えないと。

 

:  :  :

 

「もう無理……動けない……」

壁にべたりと背を付けて座り込む。いや朝からこんなに動いてケロっとしてるサバナクローのやつらすごいな……?

グリムは朝練が始まる前まではぐだぐだと文句を言っていたが、始まってしまえばテンション高く動き回っていた。くっそ裏切り者め。

「ユウくん体力無さすぎじゃないッスか?」

「……るせぇ……」

「ありゃ。これは重症ッスね」

あっつい……。いくら11月とはいえ、運動した後は体温が上がる。他の奴らみたいに運動着の袖や裾を外してしまえばいいんだろうけど、それはちょっとできない事情がある、見せられるものじゃないしな。

今にも溶けそうな顔をしていたら、見かねたラギーが水が入ったボトルを手渡してくれた。ありがてぇ。

「んぐっ……ぅえ、ごほっ、」

「あーあー。勢いよく飲むから。大丈夫ッスか?」

「お、おう……」

「ユウくんも上脱げばいいのに」

「……知ってるだろ、お前」

「まぁ、そッスけど。っていうか、なんでそんなに嫌なんスか? グリムくんは置いといて、あの2人なら……」

「それが嫌なんだよ。……保証もないしな」

「……ふぅん。ま、オレはもらえるモンもらえればそれでいいんで、いつでも連絡待ってるッスよ」

「言っとけ」

シシシッ、と笑うラギーを手を振って追い払う。色々と考えなければいけないことはあるけど、今一番重要なのはアズールとの契約をどうクリアするかだ。それ以外全部後から考えよう。

「ユウ、朝練終わったんだゾ! 朝メシ食べに行くんだゾ!」

「その前にシャワー浴びてくぞ」

メシ~! と暴れるグリムの首根っこを掴んで連行する。毛が多い分汗を流さないでそのままにしておくと雑巾みたいな匂いするからな。

サバナクローのシャワールームは混みそうだし、校舎の方の使うか。

「ジャック、俺達校舎の方でシャワー浴びてくわ」

「わかった。なら準備出来たら食堂の前で待ち合わせるか」

「……おう。そうだな」

一瞬宇宙猫顔しちまった。どうやらジャックの中で俺達と一緒に朝飯食べるのは決定事項らしい。

これ、どっちかと言えば俺がジャックに攻略されてるのか……? ときめきサバナメモリアルじゃない……?

ジャックが主人公の乙女ゲーム……? 攻略対象は俺様系メインヒーローのレオナに頼れる(?)先輩のラギー、高嶺の花のヴィルかな。俺は現在の好感度を教える友人Aポジションでいいよ。

「ユウ~! さっさと行くんだゾ! オレ様もう腹ペコなんだゾ!」

「はいはい。わかったから大人しくしてろよ」

一度レオナの部屋に戻って着替えと風呂道具とグリムを抱えてサバナクロー寮を出る。

朝練後とはいってもまだ登校時間まで時間はあるからか、校舎へと続くメインストリートは閑散としていた。

「あ゛―……これあと2日もあんの? 無理なんだけど……絶対明日筋肉痛で動けねぇよ」

「だらしない子分なんだゾ。そんなんで来年どーすんだ」

「来年?」

「来年こそエキシビションじゃなくてちゃんと寮としてマジフト大会に出るんだゾ!」

「ああ……」

そういやなんか言ってたなぁ。

……来年か。来年の自分がどうなってるかわからないから、グリムの決意に言葉を返すことができなかった。

元いた世界に帰る方法が見つかって帰っているのか、それとも見つからずここに残っているのか。

もし元の世界に帰る方法が見つかったとして。それが急を要さない方法であるのであれば、せめてグリムがナイトレイブンカレッジを卒業するまでいてやりたいんだけど……。

帰らなきゃいけなくなったその時は、エースとデュースにグリムを託すか。あの2人なら途中でグリムを放り出すことはしな……しない、よな……?

……リドルにも先に話を通しておくか……。

「朝に身体を動かすの気持ちよかったし、オレ様達も今度から朝練するんだゾ!」

「やぁだよ。俺は朝から動きたくない。やりたいならゴーストのおやっさん達とやってろ」

校舎のシャワールームに着いてもブーブー文句を言うグリムをシャワーで丸洗いしてタオルで雑に乾かした後、俺も手早くシャワーを浴びる。

髪の水気をドライヤーで飛ばして制服に着替えながら脱衣所にかけられた時計に目を向ける。……グリムが暴れるから思ったより時間がかかったな。

先に一旦サバナクロー寮に戻って登校準備してから食堂に向かったら遅くなるかな。グリムも抱えてるし。

先にメシ食って、ジャックにグリム預けて俺だけ取りに戻ったほうがいいか。

「よし、行くぞ~グリム」

「待ちくたびれたんだゾ!」

ちらほらと生徒の姿が見え始めた廊下を、荷物とグリムを抱えて早足で進む。

大食堂の扉が見えたところでぎくりと足を止めた。

大食堂の前には、ジャックがいる。が、何故かレオナとラギーもいる。

……え、俺これからこの面子でメシ食うの?? 緊張……はしないけど。レオナとラギーだし。

ただこれ、悪目立ちしそうだよな~……はぁ。

「おーっす、待たせたな」

「おせぇ」

ぐるる、と唸るレオナをラギーが宥め、サバナクローの3人と連れ立って食堂へと足を踏み入れる。

朝の早い時間だからかまだ人は少ないが、それでもやはり他の生徒から注目を集めているようだ。

「レオナさん、何食べます?」

「肉」

「適当に野菜も盛って来るんで食べてくださいね~」

「おい、ラギー ……チッ」

朝から濃厚なレオラギを浴びてもうすでにお腹いっぱいなんだが???

なんでこいつら息をするようにいちゃつくの? わっかんねぇ……。

「ユウ! オレ様達もメシを取りに行くんだゾ!」

「はいはい、焦るな焦るな」

グリムにせかされてビッフェに並び、あれもこれもと欲張ろうとするグリムを諫めながら皿に食事を盛りつけて席へと戻る。

ジャック、俺、グリムの順で横に並んで食事を取り始める。向かい側はレオナとラギーだ。

「そういえばお前ら……なんであのタコ野郎と取引なんて馬鹿な真似しようと思ったんだ。おかげで俺の部屋が狭くなっただろうが」

「部屋をちゃんと片付ければ広くなると思うぞ」

「あ?」

「こらこらユウくん、朝っぱらからレオナさん煽んないで」

「つい……。で、アズールと契約した理由だよな。まぁ、そこのイソギンチャク狸を見てもらえればわかると思うんだけど……」

ガフガフと朝食を掻き込んでいるグリムの方にちらりと視線を向けながら昨日一昨日とあったことをかいつまんで説明していく。

その途中、耐えきれなくなったようにレオナが笑い出した。

「ハハハ! コイツはいいな。背筋が寒くなるぜ」

「うるせぇ。俺だってバカ共はほっときたかったわ」

「しっかし、ユウくんいいんスか? 確かアンタアズールくんのところでバイトしてるでしょ」

「……………………契約する前の日に、クビになった」

「は?」

「俺だってわけわかんねぇよ……。俺が気付かないうちに、なにかやらかしたんだとは思うんだけど……」

「……ふーん」

ラギーが考え込むようにして黙り込んだ。なにか心当たりと言うか、実はアズール達から相談されていたりとか……?

もう前のような関係に戻れるなんて都合の良いことは思ってないけど、俺が何か不快な思いをさせていたのならちゃんと謝りたい。

「ラギー。なにか心当たりとかあるのか?」

「いや? むしろなんでユウくんクビにしたんだろって考えてるんスよ。理由がないよなって」

「でも理由がないことなんてしないだろあいつら」

「そうなんスよねぇ~……」

「だから、やっぱり俺が気付かないうちになんかやらかしてたんだよ」

「そーなんスかねぇ……」

納得いかない、といった表情を浮かべていたラギーだが、レオナが皿に盛られた野菜を端に避けるのを見て、そちらの方へと意識を向けた。

……やっぱ、そう都合良く理由知ってるわけないかぁ。そうだよな。そりゃそうだ。何を期待したんだろうな、俺は。

「そういえば、2人とも今回の試験でアズールとは取引しなかったんスね。レオナ先輩とか、一番楽したがりそうなのに……あっ」

口が滑った、と言わんばかりにジャックは慌ててなんでもないと言いなおした。

「そうかぁ? レオナは面倒くさがりだけど、頭はいいだろうし必要ないだろ」

「まぁ、そりゃそうだけどよ……」

俺達の会話を聞いていたレオナがぴくりと眉を上げて、そのあと軽くため息を吐いた。

「ばーか。誰が好き好んであんなインチキ野郎と何度も取引するか」

「何度もってことは、前にも……ああ、マジフト大会の時のか」

「……背に腹は変えられなくて取引したことはあるが……毎度ロクな条件じゃなかった」

レオナは苦虫を噛み潰したような表情で不機嫌そうにぐるる、と喉を鳴らした。どうやら俺に負けず劣らず無茶な条件を出されたようだ。レオナの言葉にラギーもうんうんと頷いている。

「ちょっと無茶なお願いもホイッと叶えてくれるし実力がある魔法士なのは確かなんスけど」

「あいつそんなすごい奴だったのか……」

「逆にユウくんはアズールくんのことなんだと思ってたんスか」

「え? ……顔が綺麗で頭が良い上司兼友達……?」

そのどっちも、もう失ってしまった関係の名前だけど。

「そもそも取引ってのは、欲しいものがあるほうが不利に決まってる。頭の回らない草食動物が軽い気持ちで契約すりゃあの手この手でカモられるのがオチだ」

「カモで悪ぅござんしたね」

「わかってんじゃねぇか。それでどういう達成条件なんだ? 話のタネに聞いてやる」

「えぇと……なんか、3日後の日没までにアトランティカ記念博物館とやらから写真を盗ってこい……って……」

「「……………………」」

「えっなに。なんだよ、その『ご愁傷さま……』みたいな顔!」

レオナもラギーも、うわぁ……と憐れむような眼をこちらへと向けてきた。ラギーだけじゃなく、レオナもそういう顔するってことは、ロクなもんじゃないんだろう。

どういうことだ、と2人を問い詰めるも要領を得ないというか……いや違うな。これ、面白がられてんな?

「俺マジで困ってんだけど……?」

「ならこんなところで油売ってないでさっさと行動を起こせ。時は金なり、だぜ?」

「いや、お前らが微妙な反応するから、行動しようにもめっちゃくちゃ不安になってきてんだけどぉ!?」

美術品でもなんでもない記念写真を盗ってくるならなんとかなるんじゃないかという楽観的な考えは砂と化した。なんせあのレオナとラギーがこの表情をしているのだ。絶対なにかしら困難な問題があるんだろう。

知ってることを吐け、とレオナ達に詰め寄る前に、グリムとジャックが「早く行くぞ」と席を立った。

「あっ、ちょっと待て、クソ!」

「いってらっしゃ~い」

ラギーの愉快そうな声を背に受けながら、エースとデュースの元へと向かうグリム達を追いかけるべく駆け出した。

 

:  :  :

 

エース達を無事に確保し、5人で鏡の間へと向かう。闇の鏡の前まで来て、4対の目は俺の手のひらに乗せられた蛍光黄緑に輝く瓶へと向けられていた。

「このアズールがくれた魔法薬、本当に水の中で呼吸出来るようになるのか?」

「多分……でもやな色してんなぁ……」

蛍光色に光る薬って、アメリカのお菓子じゃあるまいし。口に含むのに物凄い抵抗がある。

「疑ってても始まらねぇ。とりあえず飲んでみるしかねぇだろ」

「んじゃ、せーのでいきますか。せーのっ!」

エースの音頭で、それぞれ魔法薬を口に含む。

まず感じたのは、強烈な生臭さ。そして次に土の味。単体でもきつい味が口の中で混ざりあっている。

つまり。

「ぅおぇえええ~~~~~ッ、ま、まっずい……!!!」

吐き気を必死に堪える。口に手を当ててないと胃液ごと全て戻してしまいそうだ。

「うげぇぇ~~干しガエルと腐ったキノコを混ぜたみたいな味がするんだぞ!」

「どんな例えだ。食ったことあんのか、それ」

そこまで言って、ジャックが嘔吐いたように息を吐き出した。

「魔法薬のマズさって割と深刻な問題だと思うんだけど、なんで大人はみんな放っとくんだろーね」

「味より効き目のが大切なんだろ。ん……なんだ?」

ぐ、と苦し気な声を出してデュースが口元を抑える。

未だ酷い味が後を引いてそちらにばかり気を取られていたが、じわじわと息苦しさを感じ始めてきた。どうやら薬を飲んだ全員が同じように感じているらしい。息をするのもやっと、という雰囲気だ。

「闇の鏡よ! 俺達を珊瑚の海へと導きたまえ!」

ジャックが絞り出すような声を上げて、闇の鏡へと念じる。途端、闇の鏡の中心が波紋のように揺らめき、光輝き出した。

空気を求めるように鏡面へと身を投じれば、一瞬の眩しさのあと、どぷんと身体が水中へと落ちた。

「っ……!!」

まずい、息が! と思ったのも束の間の内。かぽりと開いた口から泡が飛び出す。……苦しくない。

「マジで水の中で息が出来てるんだな」

「だな……この薬は本物ってわけか」

半分ほど中身が残された瓶を軽く振る。こんな魔法薬を作れるなんて、わかってはいたけれどアズールは相当優秀な魔法士らしい。

「うわ、一面の珊瑚礁、すっげー眺め! ケイト先輩が見たら「マジカメ映え~」とか言って撮影しまくりそー」

「わかるわ~。連れてきてやりたかったな……とりあえず撮っておくか」

そんな場合じゃないことは重々承知しているが、一面の珊瑚礁を海底から見るなんて 滅多に出来る経験ではない。マジカメで撮影しようとポケットに手を入れたところで、はたと気付く。

水中ってことは、機械類まずくね?

「……えっ、これ、どういう状況なんだろうな……?」

「なにが?」

「いやぁだってさ、魔法薬で息は出来るようになったじゃん。でも、服とかスマホとかはそのままじゃん……」

「「……」」

確かに、と誰かが呟く。見る限りだと俺達が着ている服は水で濡れてぐっしょり、という様子はない。闇の鏡に飛び込む前と同じだ。エースとデュースの目元のスートも健在だ。

「……細かいこと考えるのやめよーぜ」

「そうだな」

早々に考えるのをやめた。この辺気にしたら深淵を覗く気がする。

深淵を覗くとき、また深淵もこちらを覗いている。無駄にSANチェック受けて発狂したくない。俺は何も気付かなかった。うんうん。

水を掻き分けながら進んで行くと、やがて遠くに大きな建物のような影が見え始めた。

「あれ、アトランティカ記念博物館じゃね?」

「そう……だと思う」

紫がかった白の、一見して見ると城のような建物の周辺には、下半身が魚の尾びれの形をした奴らがたくさんいた―――人魚だ。

「人魚……か? マジで水の中で生活してる奴らがいるなんて」

ジャックが驚いたような声音で呟く。ジャックだけではなく、エースもデュースも物珍しそうな表情で海の中を泳ぐ人魚を見つめていた。

俺が居た世界では人魚と言えば想像上の生き物だったけど、こっちでもそうだと思われてた感じなのかね。

「さて……」

博物館の入口らしき場所には警備員だと思われる男性の人魚の姿が見える。ここに侵入して、写真を盗むのか。中には博物館の客もいるだろうし、どうするかなぁ。

ゆらり、と黒く長い影が2つ。俺達を追い越すように頭上を通った。

え、と上を見上げようとして、ちょうど博物館を背にしてその黒い2つの影の正体が俺達の前を塞ぐように降りてきた。

「あ~~~~♡ きたきた、小エビちゃん達」

「ごきげんよう、みなさん。いかがです? 海底の世界は」

聞き覚えのあるその声と呼び名。けれどその姿は馴染みがなく、最初何が起きてるのか脳が理解をしなかった。

「フ、フロ……イド……? ジェイド……?」

「正解で~す」

暗いターコイズカラーの尾をゆらゆらと揺らしながら、目の前の人魚達は愉快そうに笑った。

髪と目の色は、そのままに。肌は顔と胸元だけ青白く染まっており、それ以外は尾と同じ色をしている。耳があった場所にはヒレのようなものが突き出していた。

「おま、えら……まさか……人魚だったのか?」

「そうだよ~」

「え、でも、足が……」

「地上にいる時は魔法薬で姿を変えているんです。この尾ビレでは陸を歩けませんからね」

「ってか、めちゃくちゃ長!? 身長……いや、全長何メートル!?」

「ウミヘビかなにかか!?」

「残念、ウツボでぇす」

ウツボォ!? とデュースが叫ぶ。俺も叫びたい―――「ウツボがそんな緑色してるか!」と。

……オーケーわかってる。これは現実逃避だ。ツッコミどころはそこじゃない。いや、まぁ、新事実だからそれでもいいとは思うんだけど。

そんなことより。

「オマエらなにしにきたんだゾ!」

俺の気持ちをグリムが代弁して叫ぶ。流石俺の相棒だ。

グリムの言葉に、フロイドが声を上げて笑った。どうにも嫌な予感しかしないし、最低な予想しかできない。

「そんなの、オマエらの邪魔しにきたに決まってんじゃん」

だよなぁ……。それ以外でここに2人が来る理由がない。

こうやって契約条件達成の確率を下げに来る。アズールがインチキ野郎と呼ばれてる理由にも納得いったわ。

「そう簡単に条件をクリアされては困りますから」

「あーそうかよ……」

ガシガシと頭を掻いたあと、身構えた。それと同時にエース達が胸ポケットからマジカルペンを引き抜く。

エースの魔法が水を切り裂きながらジェイドとフロイドへ飛んでいったのを皮切りに、戦闘が始まった。

勢いよく炎を吐こうとしたところで、自分の炎魔法はアズールに取られていたことを思い出して慌てふためくグリムを抱き寄せて、少し離れた位置まで退避した。

魔法の撃ち合いになれば、俺に出来ることなんて何もない。マジフト大会の時の、砂煙舞う中リリアに言われた言葉を思い出す。

魔法が使えないのであれば、下がっている他ない……わかってはいるけど、しょうがないとは思うけど、悔しくて情けない。

「いでよ、氷よ! せやっ!」

「そんな魔法じゃ、全然当たんないよ~」

デュースが放った氷塊は目標であったフロイドから大きく逸れる。続けて放たれたエースの攻撃も、ジェイドには届かない、どころか変な方向へと逸れた。

「嘘っ。オレがあんなハズしかたするなんて……」

「チッ、どいてろ。俺がやる! オラァ!! ……なにっ!?」

ジャックの攻撃も、やはり見当違いの方向へと飛んでいく。それを見たジャックが驚いたように目を見開いた。

「アイツらに魔法が当たる直前で、勝手に軌道が変わってる!?」

「へぇ、ウニちゃんは良く見えてんじゃん」

「やはり、陸の獣は目がいいんですねぇ」

フロイドとジェイドが楽しそうに嗤う。

「……ユニーク魔法、か?」

「小エビちゃんあったりぃ~。オレのユニーク魔法『巻きつく尾』は……お前らの魔法が失敗するように、横から邪魔出来ちゃう魔法なんだー。面白いでしょ」

ちっとも面白くねぇ! と俺の腕の中に居たグリムが小さな拳を振り上げて怒鳴った。

つまり、だ。どれだけ魔法を撃とうがフロイドがユニーク魔法を使っている限りは全て逸らされるってことか。ジェイドの口ぶりから、気分で精度にムラがあるようだが……今は絶好調ってところか。チクショウ。

「一旦引くぞ!」

3人も同じことを思ったのか、俺の言葉に頷いて身を翻し、来た道へと駆け出していく。

フロイドもジェイドも追ってくる気配はない……追う必要もないと思ってるんだろう。俺が条件を達成するにはあの2人の後ろにある博物館に入らなければならない。それすら、今は出来ていないんだから。

「くっそぉ、これでもくらえ!」

「アハハ、何度やったって同じだよ!」

エースが悔し紛れに放った魔法さえもフロイドは逸らし……え。

「ユウッ!」

「ッ、!」

フロイドによって逸らされた魔力の塊は、故意か偶然か俺の方へと飛んできた。避けようとして、水中でうまく身体が動かず避けきれない。ゴリ、と嫌な音がして左肩に激痛が走る。

「がッ……!?」

「ユウ、しっかりしろ!」

かくんと膝から力が抜けた俺の身体をジャックが支える。そしてそのまま脇に抱えるようにして走り出した。ジクジクと痛む肩越しに後ろをちらりと振り向けば、大きく目を見開いたままのフロイドが見えた。

その顔が迷子の子供のようで。何か声を掛けようか、と口を開いたところで、ざばりとジャックが鏡面から飛び出した。

一瞬にして景色が水中から鏡の間へと様変わりする。どうやら学校に戻って来れたようだ。

「はぁ、はぁ……お、お前ら無事か?」

「なんとかね……。って、そうだ、ユウ!」

「俺もヘーキ。さっきのは掠っただけだし」

「平気なわけないじゃん! 見せろよ、手当してやるからさ」

エースの手が俺のブレザーにかかった。

 

「やめろッ!」

 

バシン、と乾いた音が鏡の間に響いた。手を払い除けられたエースが目を丸くして俺を見つめている。エースだけじゃなく、デュースもジャックも驚いたようにこちらを見ていた。

「あ……、わ、悪い……」

「……びっくりした~……そこまで拒否んなくてもいーじゃん」

「悪かったって! ちょっと驚いて。……エースったらいきなり脱がせようとするから……!」

わざとしなをつくって恥じらうような動きをして見せれば、げぇ、とエースが嫌そうな表情を浮かべた。

「気持ちわりぃからやめろって! ……マジで大丈夫なの?」

「おう。掠っただけって言ったろ。もう痛みもだいぶ引いたし」

「ならいいんだけど……」

よしよし、上手く誤魔化されてくれたようだ。ジャックは物言いたげに鼻をひくつかせてるけど、ま、保健室に行くって言えばそこまでうるさく言わないだろ。

「ま、念の為保健室には行っとくわ」

「付き添うか?」

「大丈夫。それより3人はこれからどうするかの対策先に立てといてくれる? 正面突破は難しそうだし」

「そーね。じゃ、こっちは自称情報通のケイト先輩とかにも話聞いてみるか」

「俺もサバナクローに戻ってラギー先輩達に相談してみるか」

「じゃあ、ジャックちょっとグリム預かっててくれよ」

「わかった」

それじゃあ、と鏡舎へと向かう3人+1匹と別れて、俺は保健室の方へと足を向けた……ま、行かないんだけど。

 

:  :  :

 

「はぁ……、ッ、」

鏡の間から充分離れたところで、空き教室の中へと身体を滑り込ませる。ブレザーの内ポケットに入れておいたピルケースから錠剤を一粒取り出し口に含んだ。

水が欲しいところだが、生憎と持っていない。口の中に広がる苦みに顔を顰めながら、無理やり飲み込んだ。

「……あ゛~……」

心配してくれていたみんなに嘘を吐いた罪悪感と、熱を持った痛みと、知られたくないというプライドがごちゃ混ぜになって思考を掻き乱す。

「どーっすかな……」

壁に背をつけてズルズルと座り込んだ。窓の外からはグラウンドで行われている体力育成の授業に勤しむ生徒達の声が聞こえてくる。

おそらく、だけど。

ある程度監視はされているんだろう。じゃないといつ来るか分からない俺達を博物館の前で待ち伏せているのは効率が悪い。

鏡の間の近くに1人寮生を伏せさせて俺達が来たら連絡をさせて自分たちが向かった方が楽だろうしな。

水中に入ってしまえばあの双子の独壇場だ。多少の時間差なんてすぐに埋められる。

ぎしりと軋む音がした。

バァン、と大きな音を立てて、突然空き教室の扉が開く。すわ何事かと扉の方を向けば、スラリとした長身のシルエット。

「フロイド……?」

珊瑚の海で会った時とは違い、人間の姿をしたフロイドは、俺の姿を視界に入れるとほんの僅かに顔を顰め、開いた扉を乱暴に閉めるとズカズカとこちらへ歩み寄って来た。

はは、足が長いから逃げる暇すらねぇ。

「なにやってんの」

「作戦練ってる。どーやりゃお前ら出し抜けるかなって」

「……ふーん」

フロイドはつまらなさそうに俺を見下ろし、深くため息を吐いて頭をガシガシと掻く。そしてそのまま無言で俺の右隣へと腰を下ろした。

……え? なんで?

「……小エビちゃんさぁ」

「お、おう……?」

「…………ソレ、痛くねーの」

「ソレ……? ああ、肩か。薬飲んだし、そもそもそこまで深手じゃねぇよ」

そう言うと、フロイドはきゅっと引き結んでいた口元を少し緩めて、「そっかぁ……」とどこか安心したような声を出した。

気にしてたのか、コイツ。まぁ、どんだけ態度がアレでも図体でかくても、まだ17歳だもんな。

「お前のせいじゃないよ、フロイド。だから気にすんな」

座っているからいつもより近くなったフロイドの頭を右手でガシガシとやや乱暴に撫でる。

「よしよし、フロイドは心配してくれたんだよな~。いいこいいこ」

「ちょ、やめろって……!」

口では文句を言うものの、怪我人である俺に気を遣ってか手は出してこない。

1分ほど文句を言われながらも撫で続けていたら、そのうち諦めたのかされるがままになっていた。こうしていると、ウツボの人魚っていうか大型犬みが強いよなぁ。

「……小エビちゃんはさぁ」

「ん?」

髪の毛さらさらで羨ましいな~と思いながらしばらく撫で続けていると、ふいにフロイドが口を開いた。異なる色彩の瞳がじっと、何かを探るような目でこちらを見つめる。

「オレ達といるの、嫌だった?」

「……は?」

何を聞かれたのか、最初わからなかった。どうして今そんなことを聞くんだろうか。

その意図がわからない。

フロイドの顔は真剣だ。少なくとも、コイツの中では今のこの状況に関係する質問なんだろう。なら、疑問こそあれど、その質問には素直に答えるべきだろう。

「嫌なわけないだろ。楽しかったよ、お前らといるのも、モストロ・ラウンジで働くのも」

楽しかった、と過去形を使ってしまったのは少し嫌味たらしかっただろうか。けど、実際過去の事であるのは確かだ。あの場所に戻ることはもうないだろうから。

フロイドは俺の言葉を聞いて顔を明るくして、しかしすぐに不満そうに口をへの字に歪めた。

「じゃあ、なんで辞めたの」

「…………へ?」

今度こそ、思考が停止した。今、なんていった?

「……俺、自分から辞めるなんて言ってない、けど……?」

「え?」

「俺、なんかアズール達の不興を買うようなことやらかして、だから辞めさせられたんだと思ってたんだけど」

「は? 冗談きっついよ。だってジェイドに服返したんでしょ」

「服……?」

なんのことだ、と記憶の中を漁って、試験後にアズールからもらったオクタヴィネルの寮服を直してもらうためにジェイドの渡したことを思い出した。

…………ちょっと待て。まさか、それか?

「いや、確かにジェイドに服は渡したけど……」

「ほら! 小エビちゃんの嘘つき!」

「待てって! 返したつもりはない! あの服、でかかったんだよ!」

「……は?」

「主に腰回りがゆるくて、ヴィルにも指摘されたし直したかったんだけど服の直し方なんて知らないし。だからアズールに任せるのがいいかなって思って、そのつもりで渡したんだけど……」

「……それ、ほんとぉ……?」

「嘘ついてどーすんだ……ぅおあ!?」

言い切る前に、フロイドがガシリと俺の腰に両手を回した。そして顔を顰める。

「確かに……小エビちゃん、前より細くなってんね」

「だろ? ……いや、まさかそんな風に勘違いされてたとは……」

てっきりあれだけの会話でわかってもらえたのかと思ったけど、よくよく考えればそんなわけがなかった。

俺のために作った服を突き返された時のジェイドの心情を想像すると、申し訳なさしかない。これはいらない、と言われたようなものだ。そりゃ、辞めるんだって勘違いするのもわからなくもない。

……ああ、なんだ。全部俺が悪かったんじゃないか。俺の言葉が足りなかったせいで、今、こんなことになってるんだ。軋む音がする。

「なぁんだ、アズールとジェイドが勘違いしてただけぇ? じゃあ小エビちゃん、戻って……」

「それは出来ない」

「……あ゛?」

フロイドが言い終わる前に食い気味に言葉を重ねれば、フロイドの機嫌がわかりやすく下降する。その落差たるや。人を殺せそうな眼力に怯みそうになるが、ここははっきり言わないといけない。

だって俺のせいだから。

「……戻れねぇよ、もう。俺は、グリムやエース達を助けるって決めたから。だから、……お前は、お前達は俺が打ち砕かなきゃいけない”敵”だ」

すっとフロイドの顔から感情の色が消える。食堂で俺に声を掛けてきた時と同じ目だ。捕食者の目。その目の色が恐ろしくて、視線を床に落とした。

「ふぅん」

地を這うような声が響く。ぶわりと肌が泡立つ。本能がここから逃げろ、と警鐘を鳴らしていた。

「オレらの敵って言うならさぁ―――ここで絞められても、文句ないよねぇ?」

「フ、フロ……ぅぐ、ッ、ッ、!?」

フロイドの右手が伸びてくる。避けるよりも早く、その右手は俺の喉を潰すように首へと掛けられた。長い指が気道を絞め上げる。ぎちりと軋む音がする。

ちかちかと視界が明滅する。遠ざかる意識の向こう側に、何かを見た、気がした。

自分の部屋、散らかったテーブルの上、投げ出されたスマホ。窓の外にちらつく雪。ああ、これは……。

「……なんで、……」

フロイドが喉から絞り出したような声音で呟く。

急に息苦しさが消えた。一気に空気が肺へと入ってくる苦しさでじわりと涙が滲んでくる。

酸素不足でぐらぐらと揺れる脳内に耐えきれず、身体を丸めるように蹲る。ドスドスと怒ったような足音が遠ざかり、続いて乱暴に扉が閉じられた。

「ッ、はっ、はっ……」

耳に残っているのはさっきの声。泣きそうな声だった。フロイドを傷つけた。

追いかけて、謝って、許されなくても謝り続けて。それすら出来ない。

手を差し伸べようとしていたのを、拒絶したのは俺だ。勘違いでも何でもない、俺が選んだ。俺のせいだ。謝る権利なんてない。

意識的に深呼吸して、息を落ち着ける。いつの間にか窓の外は日が傾き、空の端がオレンジがかってきている。

「……戻らないと」

選んだ場所に。

 

:  :  :

 

 

サバナクロー寮に戻る頃にはもう日が暮れていた。周囲を警戒しながら鏡舎の鏡をくぐって、談話室へと急ぐ。

「ユウ!」

「やっと戻ってきたんだゾ~!」

「悪い悪い、保健室で爆睡してたわ。んで、どうよ?」

「それが……」

ジャックが眉間に皺を寄せる。その向こう側ではレオナとラギーがにやにやと口元を歪めていた。あ、うん、なんとなく察したわ。

「あの2人はジェイドとフロイドのこと、知ってたってことか」

俺の問い掛けにジャックは頷いた。だから食堂であんな反応したってことか。

教えてくれればよかったのに……とは思うが、マジフト大会の意趣返しだとしたら、まぁ、黙るしかないわな。

「相変わらず意地が悪いヤツらなんだソ!」

「まぁまぁ、落ち着けよグリム。怒りは思考を鈍くするだけだぞ」

俺がグリムを宥める一方、ジャックは悔し気に拳を握り、そこにはいないアズールを睨みつけるように眦を吊り上げた。

「アズールのヤツ、最初から邪魔するつもりで契約を持ちかけたってことか?」

「当たり前だろーが」

ハッ、と笑って吐き捨てたのを、ラギーが拾って続ける。

「リーチ兄弟はアズールくんの手下で、契約者から担保と代償をきっちり取り立てることで有名ッス。契約の達成条件をクリア出来ないよう邪魔をしてくるって噂もね。……ユウくん、あそこでバイトしてたのに知らなかったんスか?」

「俺はほとんどキッチンから出ることなかったしなぁ」

「なんて卑怯なヤツらなんだゾ! うぅっ……。ユウが負けたら、オレ様ずっとアズールにこき使われちまうのか?」

イヤなんだゾ! とグリムが半泣きで縋りついてきたのをひょいと抱えてあやすように小さい背中を撫でてやる。毛並みがゴワゴワだ。全身をスポンジみたいにしながら皿洗いしてたもんな。

「大丈夫だ、グリム。俺がなんとかしてやるから」

「…………」

「レオナさん?」

いつの間にかにやにや笑いをやめたレオナが何かを考えるような表情でじぃっと俺へと視線を注ぐ。ラギーがその様子を見て不思議そうに声を上げた。

「アズールのユニーク魔法は『黄金の契約書』」

「へ、」

「『特別な契約書にサインを取り付ければその対象から能力を1つ取り上げられる』。しかも、契約違反が生じた場合、違反者はアズールに絶対服従状態にされちまうって話だ」

「発動条件が難しい魔法ほど、効果は大きいって言うけど……タチ悪いッスよね~」

「……」

「取り上げた能力は契約書に封印されていて、アズール本人はいつでも使えるらしい」

つらつらとアズールのユニーク魔法に関して話し出すレオナとラギーに、警戒心がふつふつと沸き始める。これが他の奴だったらまだ素直にへぇ、と受け入れられたかもしれないけど、相手はレオナとラギーだ。なにか裏があるとしか思えない。

「!! じゃあ、アズールが難易度の高い魔法を何種類も使いこなしてたのは、まさか……」

ジャックは俺と違ってレオナ達の言葉を素直に受け入れ、驚愕している。うーん素直。そのままのお前でいてくれ。

「十中八九、契約者から担保として奪った能力でしょーね」

「なんて奴だ! なにからなにまでインチキってことじゃねぇか!!」

「ユニーク魔法自体が超レベル高いんで、全部インチキとも言い切れないッスけど」

「俺も能力を担保に取引したことがないからどういう理屈かはよくしらねぇが」

「え、ならレオナはなにを担保にしたんだ?」

「え? それなら、レオナ先輩はなにを担保に取引を?」

俺とジャックの声が重なる。レオナは不機嫌そうに唸り声を上げて「思い出させるな」と言った。その表情から見るに、これ以上追及したら機嫌を損ねそうだ。

「……で、だ。その特別な契約書がある限りアイツとの契約は継続する。だからアズールは、言葉巧みに契約を持ちかけ……」

「達成不可能な条件でサインをさせる……ってわけッス」

「アズールに勝つ一番の方法は、”契約しない”ってことだな……ハッ」

馬鹿にしたように鼻を鳴らすレオナ。なぁるほどな。つまり俺達の、いや、俺の勝ち目は限りなく低いってことか。

……それでも、俺はこの状況を、アズールをどうにかして打ち破らなければならない。

どうしよう、と俺の腕の中で目を潤ませる相棒を助けてやらなきゃいけないからな。

……いやぁ、まぁ、コイツの場合自業自得だからそこまでする必要も無いかもしれないけど。

とにかく。もう賽は投げられた。あとはどうにかこうにか進んでいくしかない。

「……契約を達成するには、アトランティカ記念博物館から写真を取って来るしかない。けど、博物館は海の中だし、水中ではジェイドとフロイドにはどうしたって勝てない……」

「ユウ?」

ジャックの心配そうな呼びかけには応えず、ぶつぶつと呟きながら今まで起きた出来事を並べ立てていく。視界の端でレオナが再び愉しそうに目を細めた。

「契約の達成条件をクリアすること自体が物凄く難しい……なら、契約そのものをどうにか破棄すれば……?」

「そうだなァ。もし俺がお前の立場だったら、まずなんとかして契約書を破る方法を考えるぜ」

「ああそうか。契約魔法自体は契約書を土台にしてるから、それを破っちまえばいいのか」

「でも、あの契約書は無敵なんだゾ!?」

「はぁ……お前ら、本当に脳みそがちいせぇな」

「他人のなりすましとか、詐欺にあっさり引っかかるタイプッスねぇ」

「現にグリムは詐欺というかアズール達に引っかかってるだろ」

「そうだったッスね」

「ふな゛っ! ユウはオレ様とレオナ達、どっちの味方なんだゾ!?」

「事実を言ってるだけだろ。……っていうか、なんでグリムもジャックも契約書が絶対破れないって思ってるんだ?」

そもそもそこが疑問だったんだよな。

ジャック曰く、攻撃が効いてなかったという。ふむ、それは俺がブチ切れてモストロ・ラウンジから出てったあとの話か。俺が知らなくて当たり前だ。

けど……とジャックが言い募る前に、ラギーがハッタリの可能性を指摘した。

ま、多分そうだろうな。リドルにせよレオナにせよ、完璧なユニーク魔法なんてない。どこかに隙はあるだろう。

「あの『黄金の契約書』にも必ず弱点はある……。海の中でリーチ兄弟に挑むより、地上で契約書の”弱点”を暴くことを目指したほうがまだ勝算は高い……ってことか」

「そういうこと。ま、地上でもあの3人に付け入る隙があるかっつったら、あるとは言い切れねぇけど」

「でも、なんかそれって反則くせぇな」

「向こうの妨害だって反則みたいなもんだろ」

「そうだな。大体、アイツらはなにも知らない草食動物を騙して、身ぐるみ剥ごうって悪党だぜ。遠慮する必要がどこにある? 卑怯だろうが場外乱闘だろうが、契約が無効になりゃこっちの勝ちだろうが」

ふふん、と笑みを浮かべるレオナを、ラギーが「骨の髄まで卑怯者!」と褒め……それは褒めてるのか? いやでもレオナは満更でもない顔してるし、ラギーは笑ってるし、この2人の間では誉め言葉なんだろう。

「お前ら、さては前回の反省してないな?」

「言ったろ? 俺はいつだって全力を尽くす、ってなァ」

「わっるい顔。手段は問わないってか」

「……目には目を、歯には歯を、か」

よし、とジャックは腹を括ったらしい。残り2日で、どうにか契約書を破れればいいんだけど、レオナもラギーも協力して動いてくれないみたいだし。引き続きエース達と一緒にアズールを監視してチャンスを狙ってってとこか……。なんとか……なるかぁ?

 

:  :  :

 

「おいユウ、これなんだかいい匂いがするんだゾ!」

もう寝る、というジャックに合わせて、俺達は部屋の主よりも先にレオナの部屋へと戻ってきて寝る準備をしていた。とは言っても布団を敷くだけだけど。

……なんで朝片付けたのに、また散らかってんだ……? 赤ちゃんかアイツ……。

しょうがない、と朝と同じように服をまとめたり本を積み直したりしていると、グリムがどこからか琥珀色の液体が入った瓶を持ってきて匂いを嗅いでいた。

「おいグリム、あんま勝手にいじるなよ。あとで怒られるのは俺なんだからな」

「これだけいっぱいあれば、ちょっとくらい飲んでもバレないんだゾ!」

「おい馬鹿、やめろって!」

制止も聞かず、グリムが手近にあったグラスに液体を注いで舐めた。ら、ぶっ倒れた。

「グ、グリム!?」

きゅう、と目を回しているグリムに駆け寄り小さな身体を揺さぶる。なにかやばい魔法薬とかだったらどうしよう。

「大丈夫か、おい、グリム!」

「へへへ……なんだかいい気分なんだゾ……」

「……は?」

マジでなに飲んだんだ、とグラスに鼻を近付ける。ふわりと香る芳醇な匂い。おい待て、これ、嗅いだことあるぞ?

中に入っていた液体を舐めるように口に含む。口の中に広がるアルコールの辛さとほのかな果実の甘味。

これ…………ブランデーだ!!!

「しかもうっま……!」

上級者は甘みをまろやかな口当たり、とかいうらしいが、まさしくこれがそうだ。

久々に飲んだワイン以外の酒に頭が一気に馬鹿になる。とくとくと瓶の中身をグラスに移し、ぐびぐびと飲んでいく。

わかってる、ブランデーはこういう飲み方するもんじゃないって。香りと味を楽しむものだって。

でも、久しぶりにブランデーにテンションが上がった。

「っくぅ~~~~~めっちゃうめぇ……」

「そうだろうなァ。夕焼けの草原の一級品だからな」

「なぁるほど、どおりで美味いは……ず……」

「どうした?」

ひぐっ、と喉が鳴る。いつの間にか部屋の主であり、このブランデーの持ち主であるレオナが後ろに立って、獲物を前にした獣の目で俺を見下ろしていた。

「俺のものに手を出すたぁ、いい度胸じゃねぇか」

「え、えーと。ははは……」

どうやってこの場を収めるか。味見とか興味がわいて、とかそんな言い訳は出来ない。なんせ今しがた自分で注いで一気飲みしたところだ。レオナがどこから見ていたかわからない以上、下手なことは言えない。

助けを求めるようにレオナから視線を外したところで、オンボロ寮から持ってきた自分の鞄が目に入った。

あ。

「悪かった! 代わりにこれで手を打ってくれないか?」

鞄の中に手を突っ込んで目当てのものをレオナの前へと突き出す。

リリアからもらった、珍しいワインだ。タルトを盗んだらタルトを返す。酒を盗み飲んだら酒を返せばいい。……と、思ったんだけど。

「あ? ……おい、なんでテメェがこんな上等な酒持ってやがる」

「これはリ……知り合いにお土産でもらったんだよ」

リリアからもらった、と言いかけて、そういやコイツマジフト大会の時リリアに盛大に煽られてたなと思い出して咄嗟に誤魔化した。

ここでリリアの名前を出してへそを曲げられるのは俺にとって非常によろしくない。

上手く誤魔化せたかはわからないが、レオナはワインの瓶をまじまじと見つめた後、ため息をひとつ吐いて俺の手から瓶を取り上げた。

よかった、どうやらこれで見逃してくれるようだ。

「おい、なにぼさっとしてやがる。こっちに来い」

「は?」

「イケるクチなんだろ。付き合えよ」

レオナはワインの瓶と自分用のグラスを持って、窓際にある椅子にどかりと腰を下ろし、小さめの円形テーブルを挟んだ向かい側の椅子を顎で指し示した。

一緒に飲め、ってことなんだろうか。

「さっさとしろ」

「わかったよ……しかしお前、一応学生だろ。いいのかよ」

「ここじゃ俺が法律だ」

「あっそぉ……」

もーいいや。レオナがいいって言ってんだし。酔い潰れたグリムを布団の上に置いてから、指し示された椅子に座り持っていたブランデーをグラスに注いだ。

「乾杯しとくか?」

「気色わりぃ」

とか言いつつ、レオナはグラスを掲げる。チン、とガラスとガラスがぶつかる高い音が薄暗い室内に響き渡った。

口の中を湿らせる程度に飲んだブランデーは、元居た世界でも飲んだことがないくらいまろやかな口当たりで、いくらでも飲めてしまいそうだ。これ、いい気分になってぱかぱか飲んでたら危険だな。

同じようにワインを口に含んだレオナは軽く眉を上げている。尻尾がゆらゆらと揺れてるのを見るに、どうやら口にあったようだ。ゆるりと細められたエメラルドの瞳が俺の方へと向けられる。

「……で?」

「は? なにが?」

「その肩、どうした」

「……なんのことだ?」

「ハッ。俺の鼻を誤魔化せると思うなよ」

「まぁ、そうだよなぁ……。魔法の流れ弾でちょっとな」

「鈍くせぇヤツ」

「うるせぇ」

レオナが空になったグラスを差し出してくる。へいへい、お酌しろってか。

「どっちにする?」

「ワイン」

「オッケー。ブランデーもうちょいもらっていいか?」

「好きにしろ」

自分のグラスにもおかわりを注ぐ。ここまでちゃんと飲むならなにかおつまみ用意すればよかったな。……いや、本当は明日に備えて寝るつもりだったんだがな。

ぽつぽつと他愛のない会話をしながらグラスを傾ける。リリアと飲む時とは違う、静かな雰囲気。こういうのもたまには悪くない。

「にしても、どういう風の拭き回しだ?」

「え? なにが?」

「今回の件だ。テメェには直接関係ないだろう」

「あー、まぁね。最初はさぁ、俺も見捨てるつもりだったよ。他人の努力の上澄みだけ掬って楽しようとする奴らなんか、大嫌いだ」

「……」

ぎゅ、とグラスを握りこむ。琥珀色の液体に映った自分は酷い顔をしていた。

グリムへもエースへもデュースへも、許せない気持ちはまだある。でもそれ以上に情がある。本当に困ってて心から俺に助けを求めるのであれば、答えなければいけない。俺はあいつらよりも年上で、大人だから。大人は子供を手助けするものだ。

「……でも、ま。あいつら友達だし。だから……」

「本当にそれだけか?」

「へ……?」

レオナの鋭い眼光が俺を射貫く。ドキリと胸がいやにざわめいた。

含むところなんてないのに、レオナはなにかを探ろうとじっと俺を見つめてくる。

なにもない、なにもないはずだ。だって。俺は。

ぷかりと泡みたいに脳内に浮かび上がったとある気持ちを追い払うように、グラスに残っていたブランデーを一気に飲み干した。アルコール度数が高い酒を一気飲みしたことで酔いが勢いよく回り、ぐらりと視界が揺れる。

「ぅ……」

「おい馬鹿、なにやってる」

テーブルの上に突っ伏しそうになった俺の身体を、間一髪で伸びて来たレオナの腕が支えた。あぶない、あぶない。

「わ、るい。たすかった」

「酒が零れたらどうしてくれる。誰が掃除すると思ってんだ」

「……ラギーだろぉ……?」

「ったく……。オラ、立て!」

無理やり立たされて、敷いておいた布団の方へと引きずられていく。途中苛立たし気な舌打ちが何度か聞えてきた。ああ、これは明日の朝めちゃくちゃに怒られるやつだなぁ。とどこか他人の事のように考えていた。

「意外と面倒見がいいよな……あれか、甥っ子がいるからか……」

「グルル……それ以上喋んな」

「はは、照れてんのかぁ? 可愛いところもあるじゃん……。レオナは卑怯だし性格悪いし横暴だし傲慢だしもっとしっかりしろよって思うけど……」

「喧嘩売ってんのか?」

「レオナは、」

何かを、言った気がする。でも覚えていられない。ゆらゆらと酩酊した意識が深いところへと落ちていく。

やけに冷静な頭の一部が囁いた。そのまま、目を逸らし続けろと。自覚したらきっと、後悔すると。

わかってる。だから、わざと一気に飲んだんだ。誰にも、自分にも知られないようにするために。

 

“――――――――。”

 

ぎしりとなにかが軋む音がした。

 

:  :  :

 

状況を、整理しよう。昨日寝る前になにをしたか思い出そう。

確か昨日は、うん、レオナの部屋でブランデー見つけて。そんでもって成り行きでサシ飲みすることになった。ここまではきっちり覚えてる。

問題はそのあとだ。

途中から記憶が曖昧になってる。何か言われて、ブランデー一気して酔いが回って崩れ落ちた、ような、気がする。多分。

「……おれぇ、夢小説は専門外なんだけどぉ……?」

がっしり肩に回された褐色のたくましい腕。頭の上で聞える規則的な寝息。

これ、うん、あの、うん。どう解釈してもレオナの抱き枕にされてるな……?

いやいやいやいや。マジでなんでこうなった。どうした。俺にやることじゃないだろう。ラギーにやってくれ。そしたら心の底から「朝チュンじゃん!」って喜べるんだ。

このままじゃやばい。起こしに来たラギーに誤解される。

「ぐぬぬぬ……この、」

レオナの腕を持ち上げようとするけど、鍛え上げられた腕はなかなか持ちあがらない。

筋トレ、始めるかなぁ……。ははは……。

あまりの自分の非力さに遠い目で現実逃避を始めた俺の耳に、扉が開く音が届いた。

「はよーッス。レオナさん、ユウくん、グリムくん。朝ッ……」

まん丸に見開かれたスカイブルーの瞳が、ベッドの上の俺とレオナを捉える。

しばらくの沈黙のあと、ラギーが口を開いた。

「えぇと、腰、朝練に支障ありそうッスか?」

「誤解だッ!!!」

ラギーの協力でなんとかレオナの腕の中から抜け出て、誤解だ、何もなかったと訴える。俺のあまりの必死さに、ラギーは信じてくれたようだ。俺は俺じゃなくて、お前とレオナがデキてて欲しいんだよ!

起きてきたレオナに昨日の質問をしたら、とんでもなく微妙な顔をしたあと目を逸らされた。いや、俺マジでなにやったの?

「ユウ、ぼーっとしてどうしたんだゾ?」

「えっ、ああ。今日は流石に授業に出ないとなって」

「えーッ!」

「文句言わない。ジャック、また昼休みな」

「おう」

ぶうたれるグリムを荷物ごと抱えて教室へと向かった。まだ早い時間だからか教室内にクラスメイトの姿はない。後ろの席を自分の分とエース達のぶんキープしておく。

なんとなくだが、あの2人今日遅くなりそうな気がするからな。

予想通り予鈴ギリギリに教室に飛び込んできたエースとデュースを、取っておいた席に座らせる。

何か言いたげな2人を制止して「昼休みに」と言えば同時にコクリと頷いた。

眠気を噛み殺しながら授業を耐え、昼休みを告げる鐘が鳴ると同時にエース達を引っ張って教室の外へと出て、昨晩の話を聞かせる。

エースもデュースもなるほど、と頷いていた。語尾に「卑怯だけど」と付いてはいたけど。

「うるせ~! もう卑怯だとか言ってる場合じゃねぇんだゾ!」

「手段を選べるほど俺達に余裕はないからな」

「それに、卑怯って言うならアズール達だって同じだろ。最初から邪魔するつもりで海の中に写真を取りに行けっつってきたんだ。レオナ先輩は確かに卑怯者だけど、頭はキレる天才司令塔だ。チャレンジして見る価値はあると思う」

「なんか卑怯って言葉が飽和してきたな……」

デュース、お前飽和って言葉知ってたんだなと言いかけて飲み込んだ。

「リーチ兄弟はウツボだったけど、アズールも海の中ではあんなカンジなんかな」

「そういえばレオナ先輩はアイツをタコ野郎って呼んでたような」

「ってことは……アズールはタコの人魚か? ……タコって、魚か?」

「さぁ……?」

「それより、契約書ってどこにあるんだろうな」

「ああ、それならなんとなく検討はついてるぞ」

え、と見開かれた目が4対、俺の方へと向く。

何度か足を踏み入れたことがある、VIPルーム。十中八九あそこだろ。今思い返せばアズールが商談と言ってたのは生徒達との契約の事で、その時もVIPルーム使ってたしな。

大切なものなら持ち運びする際のリスクを極限まで無くしたいだろう。俺ならそうする。

「モストロ・ラウンジのVIPルームだ。あそこに金庫あったろ」

「言われてみれば……確かに怪しいな」

昼休みであれば人もいないだろう、と満場一致で校舎を出て鏡舎へと向かうことになった。周囲を警戒しながらオクタヴィネル寮の鏡へと入っていく。

ここからは一番慣れているヤツが先導するべきだろう、と主張し先頭を買って出た。

この中の誰よりも通ったこの場所が、もう懐かしい。オクタヴィネル寮に来るのはこれで最後になるといいんだけどな。

「右よし、左よし。野郎ども、オレ様に続くんだゾ!」

「まだ誰もいねぇみたいだな」

「……」

あんまりにもあっさり着きすぎて、拍子抜けだ。てっきり見張りくらいは立ててるかと思ったんだが。……落ち着かないな。

「金庫は暗証番号と鍵の二重ロックか。かなり厳重だ」

「流石に俺も暗証番号まではわからないからな」

「……!! 誰か来る!」

突然ピン、と耳を立てたジャックが短く警告を口にした。

他寮に忍び込んでいるなんて言い逃れができない状況だ、来ているのがアズールじゃないとしても、隠れる必要がある。

でもこの部屋に隠れる場所なんて……あそこくらいしかないか。

「こっちだ!」

3人を引っ張って、大きな執務机の後ろへと身を滑り込む。ガチャリとドアが開く音がするよりも早く、それでもギリギリのタイミングで全員が身を隠すことが出来た。

「さてと……」

入ってきた人物が漏らした声は、1日振りに聞く声だった。アズールだ。

机の陰からこっそりとその背を盗み見る。アズールは金庫の前にいくつか手元で操作したあと金庫を開いた。

そして、中から取り出した『黄金の契約書』を数えてほくそ笑んでいる。

青年誌に出てくる悪徳金融会社の社長みたいなことしてんな、アイツ……。

しばらく数えた後、満足したらしい。再度契約書を金庫へ戻してVIPルームを出ていく。

アズール、アイツまさか昼休みごとにこんなことしてんのか?

「………………フゥ~」

執務机の裏から這い出して、一息吐く。見つからなくてよかった……。

「……待て! 見ろ、テーブルの上に1毎契約書が置きっぱなしになってるぞ」

「マジか、ラッキ~♪ 拝借して、破けるかどうか試してみようぜ」

……そんな、都合の良いことあるか? あのアズールが、そんなミスするか?

あり得ない。

「ッ、待て! それ罠だ!」

止めるよりも先に、俺を除いた面子の手が契約書に触れた。瞬間、閃光が飛び散った。

「「あばばばばばばばばば」」

「あぁ~……言わんこっちゃない……」

どうやらアズール以外が触れたら電流が流れるようになっていたらしい。

……もしくは。

「おやおや、電気ナマズの攻撃でもくらったように震えて……。無様ですねぇ、みなさん」

当たりか。VIPルームにアズール、そしてジェイドとフロイドが踏み込んできた。

3人とも隙無くマジカルペンをこちらに向けている。

「てめーら、気付いてたのか!」

「当たり前でしょう。机の下から丸見えでしたよ、そのフサフサの尻尾がね」

あっちゃあ……。ジャックの尻尾をしまうのを忘れてたか。いや、それがなくてもアズールはきっと俺達に気付いていただろう。と、言うよりは俺達が忍び込むのを予測していたと言った方が正しいか。

「どうやら君たちは契約書を盗もうとしていたようですが……実は、僕以外が触れると電流が流れる仕組みになっているんです」

残念でしたね、とアズールが笑う。本当か、それともハッタリか。

オクタヴィネルの3人は顔にこそ笑顔を浮かべているが、その目は笑っていない。

ここで捕まってしまえば、リミットである明日まで拘束される可能性すらある。なんと隙作って逃げねぇと……。

後ろ手で執務机の上を漁る。ちょうど書類の束が指先に触れた。

「……お、らぁッ!」

迷ってる暇なんてハナから与えられていない。書類の束をひっ掴んで、ボールを投げる要領で振りかぶってアズール達の方へと投げた。

俺達の方へと足を踏み出したジェイドとフロイドの前に舞い散る書類。

攻撃力に期待はしていない。一瞬でも隙が出来て、ついでに目くらましにでもなれば。

「―――今だッ!」

俺の意図に気付いたジャックが胸ポケットからマジカルペンを引き抜き、アズールへ向けて魔法を放つ。それが合図となり、魔法の撃ち合いが始まった。

今度は巻き込まれないように、出来る限り壁際に寄る。魔法が使えない俺の優先度は低い。ジェイドがちらりと視線を寄越したが、すぐに逸らされた。

その時の目が、まるで憐れまれているようで。

知らず知らずのうちに拳を強く握りしめていた。俺だって、俺だって魔法が使えれば。

「クソッ、召喚魔法は得意じゃねーけど……出でよ、大釜!」

「おまっ、僕の真似するな!」

エースがマジカルペンを振り、デュースのように大釜をフロイドに向けて召喚する。

「昨日も言ったじゃん。そんなん当たんねーよ! 『巻きつく尾』!」

フロイドが打ったユニーク魔法は、大釜を確かに逸らした。が、逸れた大釜はまさかの金庫に打ち付けられた。みしりと金庫が大きく揺れた。

「フロイド!! どこに向けて魔法を打ってるんだ! 金庫に向けて逸らすやつがあるか!!」

アズールの怒号が飛ぶ。平常時の慇懃無礼な敬語ではなく、素の怒鳴り声だ。

余程金庫に傷を付けられたのが癇に障ったらしい。

「あ、ごめーん」

対するフロイドはまったく気にしておらず、軽い調子で謝罪を口にした。

しかしアズールはそれを無視して金庫に駆け寄りダイヤルや蝶番をチェックしている。

……これは、もしかするとチャンスかもしれない。

くい、とジャックの制服の裾を引く。

「もしかしたら、このあと隙が出来るかもしれん。俺はグリム抱えるから、エースとデュース引っ張ってって」

「……! わかった」

いつでも動けるように身構えておく。

金庫を確認し終わったアズールがフロイドを激しく叱責した。……今だな。

「ジャック、行くぞ!」

「おう!」

「「えっ?」」

予定通り俺はグリムを抱えて、ジャックは両手でそれぞれエースとデュースの手を引きVIPルームを飛び出す。

すぐに追いかけてくるかと思ったが、遠ざかるVIPルームの入口からはアズールの怒鳴り声が聞えてくるだけだ。

鏡面から転がるように飛び出た時、全員の息が上がっていた。

「はぁ、はッ……ここまで来れば……」

「大丈夫だろ……」

それでもこの場に留まり続けるのは危険だ。小鹿の様にガクガクと震える足を叱咤して、校舎の方へと歩を進める。

「ふぅ、ヒヤッとしたな」

「もー。ジャックがデカいから」

「なっ……お前らより鍛えてるだけだろうが!」

「はいはい。今日はここまでにしようぜ」

「貴重な1日を棒に振っちまったんだゾ」

「夜にもう一度レオナ達に相談してみるか……あんま期待しない方がいいだろうけどな……」

落胆するグリム達を宥めながら校舎へと戻る中、ふと感じた違和感に内心首を捻っていた。

なんだろうな、この喉に小骨が引っかかったような感じ。もうちょっとで、わかりそうな気がするんだけど。

 

:  :  :

 

「いてて……ったく、手加減くらいそろそろ覚えろよ……」

冬の日没は早い。放課後グリムと一旦別れてから野暮用を済ませていたら、いつの間にか外は暗くなっていた。

さっさと帰らないと……と駆け足で進み、寮が見えてきたところで気が付いた。

「あー……クセでこっち来ちまった……」

目の前に聳え立つのは仮宿であるサバナクロー寮……ではなく、オンボロ寮。急いでいたからか無意識にこっちの方に来てしまったようだ。

遠くから見るオンボロ寮には灯りが灯っている。おそらく、オクタヴィネル寮の奴か哀れなイソギンチャク共が寮の中を片付けているんだろう。ゴーストのおやっさん達、無事だといいんだけど……。

「あと1日、か……」

いつまでもサバナクロー寮にはいられない。なんとしてでもあの場所を取り戻さなければ。

「ん……? なんだこれ」

気付くと黄緑色の光が周囲をふわふわと舞い踊るかのように飛んでいた。

蛍……にしては季節が外れすぎてないか?

「…………ん? お前は……」

「あれ、ツノ太郎」

ざり、と石畳を踏む音が背後から聞えて、振り返れば見覚えのある奴がそこにいた。

烏の濡れ羽色、という言葉がぴったりな黒髪に不健康そうな肌の色。

マジフト大会前に出会った、顔がめちゃくちゃ良いディアソムニアの厨二病くんだ。

「ツノ太郎? ツノ太郎とは、……まさか僕のことか?」

「あ、やべ。……好きに呼べっつったのはそっちだろ」

「それは……そうだが……。ふっ……ふふ、ははは!」

ぎょっとしていた顔をみるみるうちに崩して、ツノ太郎は笑い出した。

お気に召した、というよりは予想外過ぎて思わず笑ってしまったって感じか。

「この僕をツノ太郎とは! 本当に恐れを知らないとみえる」

こいつ、さては「おもしれ―女」って言って√に入るタイプのキャラだな? だから夢小説や乙女ゲームは専門外なんだけど俺。

「まあいい。好きに呼べと言ったのは僕だ。その珍妙なあだ名で僕を呼ぶことをお前に許す」

「えっいいのかよ。じゃあ今度廊下とかで会ってもそれで呼ぶから、怒るなよ?」

「もちろんだ。僕はそこまで狭量ではない」

それなら遠慮なく呼ばせてもらおう。あっ、そういえばリリアにツノ太郎のこと聞くの忘れてたな。本名とか学年くらいなら知ってるだろうし、次に飲み会した時こそ聞くか。

「……ところで、ここ数日寮の中が騒がしいようだが、お前達の他にも寮生が入ったのか?」

「あ、あー……まぁ、ちょっと色々あって……」

「ふむ。なんだ、話してみろ」

俺が言いづらそうにしているとツノ太郎は「早くしろ」とせっついてきた。どうやらコイツの中で俺達の事情を聞くことは決定事項らしい。

身内の恥を晒すようで情けないが、ちょっとやそっとじゃツノ太郎は引かないんだろう。

「……実は、」

これまでにあったことをところどころ端折りながらツノ太郎に説明していく。

ふんふん、と相槌を打ちながら俺の話を聞いていたツノ太郎は、全部を聞き終えるとしばらく考え込むようなそぶりを見せた。

「なるほど……そうか。では、きっと明日の日没後にここはアーシェングロットの所有物となり騒がしい生徒達の社交場となるだろう」

「いや、いやいやいや! まだ達成出来ないって決まったわけじゃねぇからな?」

なんでこいつ俺が負ける前提で話してんだ! そりゃ、まぁ、負ける可能性の方が今は高いし、打開策や解決策は何一つ持ってないのは事実なんだけど。

「…………。ところで、この寮の壁には、見事な彫刻のガーゴイルがあるな」

「は??」

いきなり何の話だ? 天然の人か? ガーゴイルとか今この場では世界一どうでもいいんだけど?

「ガーゴイルというもは、一見禍々しい姿をした怪物の彫刻に見えるが、実は、雨水が壁面を汚さぬように作られた雨どいの一種なんだ」

「あ、続けんのね」

真顔で話すから、これが冗談でガーゴイルの話を始めたのか本気で話してんのかわかりづらいんだよなぁ……。

「見た目こそ恐ろしいが、あれらは屋敷を大切に慈しむ存在……ということだな」

「ふーん。見た目の割に良い存在、ってことか?」

「目に見えるものとその実態は時として真逆なこともある。……この場所が毎夜騒がしくなるのは僕も遠慮願いたい。せいぜい足掻いて、寮を守ってみせるがいい」

だったらお前も協力してくれよ、と言う前にツノ太郎は前と同じようにファンタジックな効果音をさせながらその姿を闇夜に溶かした。

マジで……なんだったんだ……?

首を傾げながら、オンボロ寮に背を向けて鏡舎の方へと歩き出した。

 

:  :  :

 

「ただいま~」

「おかえりユウくん。遅かったッスね。早速だけど、働いてもらうッスよ!」

サバナクロー寮まで戻って来たところで、鉢合わせたラギーに引きずられてレオナの部屋へと連行される。

朝振りに入ったレオナの部屋はそれはもう散らかっていた。待て待て。俺今日の朝にも一回片付けてるはずなんだけど?

「毎度毎度……なんで1日と経たずにこんな散らかせるんだよ」

「ユウくんもっと言ってやって」

「うるせぇ。宿代分、きっちり働け」

「アズールにもこき使われ、レオナにもこき使われ……オレ様、もうボロボロなんだゾ。とほほ」

「元はと言えばグリムがアズールと契約したからだろ。ほら、あとからブラッシングしてやるから。ツナ缶も買ってきてあるぞ」

「ユ、ユウ~~!」

部屋中に散らかっている脱ぎっぱなしの服を回収して、ラギーが持ってきた洗濯カゴに片っ端から突っ込んでいく。色物とか白物は後からラギーが分けるだろうから、特に気にせず入れる。それが終わったら無造作に投げ捨てられてる本を拾って本棚へ収めていく。

「にしても、なんでツノ太郎はあんな話し始めたんだ……?」

思い返してみれば、あれはツノ太郎なりのアドバイスだったのかもしれない。じゃなけりゃ手に負えない天然ってことになる。…………その可能性もなくはないけど。

目に見えるものと、その実態は真逆なこともある。

なんだか引っかかる。そう、今日の昼にモストロ・ラウンジから逃げ出したときに感じたものと同じだ。

「こーら、ダメ。それはオレが狙って……じゃなかった。なくなったら、すぐにバレるんスからね」

ラギーの声が聞えて、そちら側へと視線を向ける。どうやらグリムが机の上に無造作に放り出されてた高価そうなアクセサリーを盗もうとしたらしい。

あ、あいつ……。後から教育的指導だな。

「レオナさんも、貴重品を出しっ放しにするのやめろっていつも言ってんのに。盗られてからじゃ遅いんスよ!」

「るっせぇな。俺のおふくろか、テメェは」

おふくろっていうか奥さんじゃない? はー、こんな時までレオラギ見せつけてきますわ……。切羽詰まった状況じゃなきゃ、心行くまで妄想するのに。

「別に盗まれたって大したもんじゃねぇし。どうだっていいだろ。俺から盗む度胸があるヤツは、盗めばいい」

「大したもんだから言ってんスよ!」

レオナにとっては大したものじゃなくても、ラギーから、というか世間一般的に飛んでもない金額がするアクセサリーなんだろう。

貴重品なんだから、簡単に盗めるようなところに…………。

…………。

「……待てよ?」

アズールの契約書は、絶対破れない。その上、アズール以外が触れたら電流が流れる仕組みになっている。

嘘か真かはわからないが、それがもし本当であるのであれば。

見かけと実態は真逆。

「あ、あ、ああーーーーーーーーーッ!!!」

「うわっ!」

「びっくりしたんだゾ……。ユウ、どうかしたのか?」

「金庫なんて必要ないんだ!」

「はぁ……?」

「あの黄金の契約書、アズール以外が触れないし破れないんなら、金庫にしまう必要なんてない! 盗めないんだから!」

「……ハッ! ハハハ! そうか、なるほどなァ!」

俺の言葉の意味をいち早く理解したレオナが笑い声を上げる。

「テメェ、面白いこと考えるじゃねぇか」

「レオナが貴重品放り出しっ放しにしてるおかげで違和感の理由がわかったわ!」

「おい、それは褒めてんのか、それとも貶してんのか?」

何の話だ、と目を丸くしてるグリムとラギーにレオナがかいつまんで説明した。

最初は怪訝そうな表情をしていたが、説明が終わるころには2人とも「なるほど」と膝をたたいた。

「無敵の契約書の弱点がわかった今、さっそくオクタヴィネルに殴り込みに……」

「問題がもう1つあるッス」

「ふなッ?」

「ユウくんの予想が当たってたとしたら、リーチ兄弟が必ず妨害してくるはず。正直、金庫よりすげー攻略が難しいと思うんスけど」

「ああ、それについては既に作戦思いついたからいけると思う。なっ、レオナ!」

我ながらさわやかな笑みを浮かべていると思うのだが、俺の笑顔を見たレオナは物凄く嫌そうに顔を顰めた。失礼な奴だな。

「オイ。お前が今なにを考えてるかだいたいの予想がつくが……俺は、絶対に手を貸さねぇぞ」

「ふぅん。お前にも関係があることだし、利益だってあると思うぞ?」

「あん?」

レオナを手招きして呼び寄せて、焦げ茶色のふわふわの耳にヒソヒソと耳打ちする。途端、レオナの表情が一変した。

例えるなら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔だ。いつも余裕そうな奴がこういう顔をするのを見るのは、気分がいい。

声は最小限に、かつ距離を取ったからか聞えなかったらしく、ラギーとグリムは不思議そうん表情を浮かべている。

「な。協力してくれるよな、レオナ?」

「テメェ……」

グルル、と怒りで喉をならしてはいるが、それ以上の言葉は飛んでこない。

頭の良いレオナならおそらく乗ってくるはずだ。

にぃ、と口の端を吊り上げる。今の俺は、ナイトレイブンカレッジの生徒に相応しい悪い顔をしていることだろう。

「さて、作戦会議しようぜ!」

 




ユウ
なにか思いついた監督生。
サバナクローに来てから乙女ゲーみたいなイベントが度々発生してることに頭を悩ませている。
俺はBLが好きな腐男子なの! と声高に叫び出したい。
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