●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。
それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。
まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。
今回は
・ラギー式典服
のパーソナルエピソードのシナリオバレがございます。
ご注意ください。
時間軸はマシュマロよりふわふわです。
●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。
また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。
授業終了の鐘が鳴る。ぐぅ、と大きく伸びをすれば肩やら腕やらがバキバキと音を立てた。週最後の授業が終わったこともあり、教室内はどことなく浮ついた雰囲気が流れている。
「おーいグリム、授業終わったぞ~」
「んにゃ……っ!? やっと終わったんだゾ……」
机に突っ伏してたグリムを起こせば、にゃむにゃむと小さな手で目をこすりながら体を起こした。本当にふかふかのぬいぐるみみたいな身体だよな。
「……」
「ユウ? ……ふな゛ぁーーーーー!?!」
グリムの身体を鷲掴むと、そのふさふさした胸毛に顔を埋めて思いっきり吸った。
……癒しじゃん……。猫吸いってよくネットで聞いたけど、こんなに癒されるならもっと早くに知りたかった。
俺としてはまだまだ吸い足りないのだが、グリムが暴れ出したため中断せざるをえなくなってしまった。むぅ残念。
「なっ、なっ、なっ……なにするんだゾ、ユウ!」
「何って……猫吸い……?」
「オレ様は猫じゃない!!」
シャーッと牙を剥いて威嚇されたので、今日はもう無理そうだ。また今度だな。あとでイデアに自慢してやろ。
エースもデュースも今日は部活があるとかで早々に教室を出て行ってしまっている。俺の方はと言えば、今日はボドゲ部の活動もモストロ・ラウンジのシフトもなければ、学園長からの仕事もない。完全にフリーな日だ。
昼にリリアから声がかけられていないってことは、飲み会もなしか。
「グリムはこのあとどーすんの?」
「オレ様は今日は見たい番組があるからすぐにオンボロ寮に帰るんだゾ」
「ふーん」
この前イデアから中古価格で譲ってもらったテレビにグリムは最近夢中になっている。俺もたまに見るけど、やっぱり自分の知っている番組や芸能人が皆無で、なんとなく見なくなってしまっていた。
しかし、どうやら本格的に暇なのは俺だけのようだ。変に残っても面倒なことになるだけだろうし、俺もグリムと一緒に寮に帰るかな。帰ったところで別にやることないんだけど……それか、図書館にでも寄ってみるか?
さてどうしようか、と考えている最中に「じゃあ後からナ!」とグリムは教室を出て行ってしまった。この薄情者め。
のろのろと荷物をまとめていると、開きっぱなしになっていた教室の入口から鮮やかな海の色が見えた。ターコイズブルーの髪を揺らして教室を覗き込んでいたのはジェイドだ。1年生の教室に来るなんて珍しい、と思っていると、ジェイドは俺の方に向かって小さく手招きした。なんだなんだ?
「ジェイド。どうかしたのか?」
「お休みの日に大変申し訳ないのですが、モストロ・ラウンジまで来ていただいてもよろしいでしょうか」
「いいけど……何があったんだ? 誰か体調不良者でも出たのか?」
もしそうだとしたら大変だ。病欠の穴埋めであれば前のバイト先でよくやっていたし、
「いえ……ユウさんは今年が初めてですので、事前に説明した方がいいかと思いまして」
「……? わかった」
詳しくはラウンジで、というジェイドの言葉に従い、連れ立ってオクタヴィネル寮を目指す。俺は今年が初めて、ってことは、なんか季節柄の特需日でもあるのか?
言われてみれば、なんとなく、いつもよりも学校全体が騒がしい気がする。週末だから、っていう雰囲気でもなさそうだし。どちらかと言えば、学園祭の前の雰囲気に似ている気がする。そわそわしているというよりは、活気があるって感じだ。
何かあるのかと聞こうとしたところで、ジェイドの方が先に口を開いた。
「そういえば、この前はご馳走様でした」
「なんかあげたっけ?」
「じゃがいものポタージュを作っていただきました」
「あー……リリアんとこ行った時のか。お粗末さまでした」
「大変美味しかったです。……アズールが貴方を引き込んだ理由がよくわかりました」
「お褒めの言葉どーも。口にあったならなによりだ」
前半は味の感想だから、まぁわかる。でもなんでアズールの名前がここで出てくるんだ……?
…………ハッ。もしかして、これは、ジェイドが俺に嫉妬してる、のか……!? まさかのジェイ→アズだった!? アズールによく褒められているのは自覚していたけど、まさかそれで嫉妬される日が来るとは……。
安心しろよジェイド、俺はBLで言う当て馬モブだ。お前と俺とじゃ勝負にすらならねぇよ。主に顔面偏差値で。……言ってて悲しくなってくるな、これ。
うんうん、と頷きながらジェイドの肩を叩く。俺は応援するぜ!
「……何か?」
「いやなんでもない」
: : :
ガラスの向こう側でゆらりと揺れる海藻に目が釣られる。いつ見てもオクタヴィネル寮は綺麗だな。水族館好きの俺としては、何時間でもいたくなってしまう。
モストロ・ラウンジへと続く廊下をジェイドと連れ立って歩いていると、オクタヴィネル寮生からの視線がビシバシと刺さる。いつもの事だけどなかなか慣れないなこれ。
大方寮生達の憧れである高嶺の花のジェイドと一緒に歩いてるキングオブモブの俺が気に食わないとか、そんな理由……だと俺が楽しい。
「俺達のジェイドさんに近付きやがって……」みたいな。ジェイドもかなり整った顔立ちだもんな。十分にあり得る。うん。モブジェイもアリだな……。
「アズール、戻りました」
「おかえりなさい、ジェイド。ユウさんもお休みの日にわざわざありがとうございます」
「いや、別にいいよ。ちょうど暇だったし。それでどうしたんだ?」
アズールに促されるままソファに腰掛ける。いつ座ってもモストロ・ラウンジのソファは座り心地が良い。これ、結構な額がしそうだな。汚さないよう気を付けないと。
これを、とアズールが差し出した書類を手に取って見れば、一番上に「第××回全国高校生陸上競技大会開催のお知らせ」と書かれている。
「陸上大会?」
「ナイトレイブンカレッジでは、毎年高校生陸上の全国大会が行われるんです。この時は校内施設も外来者に開放されます」
はー、なるほどな。インターハイとかそういうやつか。元居た世界ではこういう大会ってどっかの競技場借りてやるもんだけど、こっちの世界では学校のグラウンド使ってやるのか。まぁ、広いもんな、ここのグラウンド。
……待てよ。グラウンドだけじゃなくて、校内施設も解放される、とな?
「あー……つまり……ここも?」
「ええ。モストロ・ラウンジの大切な儲け時です」
にっこりと極上の笑顔を浮かべるアズール。なるほど。それは確かに事前説明が必要な内容だ。去年の売上とか、その大会がどのくらいの規模とか。特需日は事前に備えておかないと大変な目を見るのは前のバイトで経験済みだ。
「この日、貴方にはキッチンの全般指揮を任せます」
「………………はッ?」
ちょっと待て。とんでもない事言いだしたぞこいつ。俺が、なんだって?
「ホールと受付、会計は僕とジェイドで指揮するので……」
「待て。待て待て待て。アズール、ストップ!」
「なんです?」
いや、「なんです?」じゃねーんだわ。いきなり何言い出しやがる。
「あのな? 俺ただのバイトだぞ? しかもまだ始めて3ヶ月も経ってない、いわばペーペーだ」
「そうですね。ですが普段の仕事ぶりから出来ると判断しました」
「うん、そうじゃなくてな???」
俺はいわばポッと出の新人。オクタヴィネル寮の奴らのほうが長く働いてるし、経験も積んでいる。そんな中で特需日の責任者なんかやってみろ、不満が出るだろ!
あくまで俺は他の寮のアルバイト。そのスタンスを貫かせてほしい。
「無理だろ。普通に考えて」
「僕の判断に間違いがあるとでも?」
「いやだから、そうじゃなくて!」
助けを求めてジェイドの方を見れば、腹の内が読めない笑顔を浮かべていた。あ、この顔助けてくれないやつですね。
実力を買ってくれているのは正直嬉しい。でもそれとこれとは別の問題だ。俺は今まで通り出しゃばらず、隅の方で楽しく働いていきたい。働き始めて3ヶ月で責任者になりました! みたいな出世街道驀進展開なんていらないんだわ。
「……そういえば」
にんまり、という言葉が如く、アズールが口の端を吊り上げる。なに。嫌な予感しかしないんだけど。だらりと背中に冷や汗が流れ落ちる。
「……なんだよ」
「この前、リリアさんの部屋に遊びに行くと言っていましたね?」
「そうだけど……」
「聞くところによると、2人で朝まで楽しく何かを飲んでいらっしゃったとか」
「…………」
「ここはどこかお分かりですか?」
「……ナイトレイブンカレッジ。高校、だな……」
「さすがに寮とは言え学園の敷地内で、まずいのでは?」
ぐぅ…………なんでこいつワインのこと知ってんだ!?
ニコニコと人の好さそうな顔で笑ってるけど、これ、了承しなかったらバラすぞってことだろ……。
俺は成人してる、けど、この世界でそれを証明するものは無い。停学ならいい方、悪けりゃ退学の可能性もある。
脳裏に小さな相棒の姿がよぎる。あんなに熱望して、条件付きとはいえようやくこの学校に入学できたのに、俺のせいで退学になるのは……。
「……わかった、わかったよ! やればいいんだろ!」
「快く引き受けて下さり、僕も嬉しいですよ」
がくりと膝を付き、ヤケクソに叫ぶ。あーーー……やるって言っちゃったよ……。なんでこんなことに……。
ホールにいた他のオクタヴィネル寮生の視線が突き刺さる。へーへーごめんないさねー余所者が重要な役目に抜擢されちゃって!
ぐぅう……今度から、リリアと飲み会する時はディアソムニア寮の厨房借りるようにしよ……。
: : :
イベント当日の朝は早い。
去年の売上と今年の来客予想数から考えて、早い段階で仕込みを始めないと間に合わない。そう判断し、俺は前日からオクタヴィネル寮のゲストルームを借りて泊まり込みで仕込みを始めていた。
ちなみにグリムはエースとデュースにお願いして、オンボロ寮に泊まってもらって面倒を見てもらっている。夜朝昼と三食分のご飯は用意してきたし、リドル達への根回しもしたし、大丈夫だろ。今頃仲良く夢の中のはずだ。くっ……俺も雑魚寝する推しCP+毛玉を見たかった……!
ぎりぃと歯噛みしつつ、ぺちぺちと頬を叩いて気持ちを切り替える。
今回は普段のモストロ・ラウンジとは違い、女性向けのメニューが多くある。
特にケーキなどのスイーツ系は作るのに時間がいるから、ある程度作り置きできるものはしておかないと。オクタヴィネル寮生の中でもお菓子作りが出来る奴らを選抜してもらい、集まった生徒達に指示を出しながら自分の手も動かす。
誰だ前日にメニュー増やすとか言ったやつ!! 俺だ!! メニュー表見てついうっかり「さっぱりしたデザート、欲しくね?」って言ったな!! チクショウ自業自得だ!
幸い、お菓子作りに選抜された面子だけではなく他のキッチンのメンバーも俺の指示をちゃんと聞いて動いてくれるやつらばかりでありがたい。
「ユウさん」
「んあ、アズール?」
お菓子作りの仕込みも終わり、料理関係の仕込みの指示はキッチンで長く働いてるオクタヴィネル寮生に任せて束の間の休息をとっていると、キッチンの入口からアズールの呼ぶ声が聞こえてきた。
「キッチンの進み具合はいかがですか?」
「まぁ多分なんとかなるかな。ホールの方は?」
「こちらの準備も完了しました。それで、会わせたい方がいるので一度来ていただけませんか」
「……? おう」
誰だろ、会わせたい奴って。オクタヴィネルの誰か……ではないよな。それなら事前に顔合わせの場を設けてるだろうし。
ちょっと出てくるわ、と近くにいた金髪のオクタヴィネル寮生に声をかけてアズールの後ろを着いて行く。
ひらひらと長い裾が揺れる。朝に会った時は制服だったけど、いつの間にか式典服に着替えていたようだ。そういえば、今日は全員式典服で給仕するって言ってたな。
女性ウケがなんとか。まぁでも確かにその通りだ。
「やっぱりいいよな、その服。アズール美人だし、似合ってる」
「……はい?」
ぴたりとアズールが足を止めて、振り返る。
式典服は黒と紫という暗く成りがちな色合いをしているけれど、裾や襟に施された豪奢な金糸の刺繍が暗さを払拭し、高貴さを演出している。
うん、これいくらくらいするんだろうな。俺も一着だけ持ってる(目を覚ました時に着ていた)けど、値段は恐ろしくて聞けてないし、普段は箪笥の奥底に防虫対策して眠らせてある。
俺が着たところで馬子にも衣装程度だけど、アズールみたいな顔が良い奴が着ると一味違う。うーん顔面格差社会。
「ジェイドとフロイドも顔良いし背も高いからビシッと決まるし、モストロ・ラウンジの雰囲気にも合うしな」
「あ、ああ、そういう……。我ながらいいアイデアだと思いますよ」
ふふんとアズールは胸を反らす。これで顔が良い奴のブロマイド作って売ればそこそこ売れるんじゃないか? とも思ったが、口に出すのはやめておいた。流石に未成年の一般人の写真を売りさばくのは肖像権とか青少年保護法とかその辺がやば……こっちにそういう法律あるのか……?
しかし、俺だってせめてもう少しタッパがあれば、見栄えも良くなると思うんだけど……悲しいかな、いくら童顔であろうと21歳。第3次成長期なんて夢のまた夢だ。
「あれ? アズールくん。その人って……」
アズールに連れられてモストロ・ラウンジのホールへと来てみれば、そこにはずらっと並んだ式典服姿の生徒達。
その中に1人、見覚えのない人物がいた。
金色にこげ茶混じりの髪、その上にはピコピコと動く三角形のケモ耳。くりっとしたスカイブルーの目が俺を値踏みするように見つめている。あの耳、本物か……?
「オンボロ寮のユウさんです。普段からここでバイトとして働いてもらっています。ユウさん、こちらはサバナクロー寮のラギーさん。忙しい時にヘルプで来ていただいているんですよ」
「あ、どうも。俺はユウ。よろしくな」
「はー。あんたが噂のオンボロ寮の監督生なんスね。俺はラギー・ブッチ。ここにはちょくちょく働きに来てるッス」
よろしく、と差し出された手を握り返す。コミュ力ありそうな奴だな。それにいい奴っぽい。アズールがわざわざ紹介してくれるってことは、仲良くなっといても損はないってことだろ。
しっかし何の動物なんだろう、とラギーの頭の上で動いているケモ耳を見つめる。うーんもふもふ。……獣人系で気になる点と言えば、やっぱり尻尾だよな。どういう構造になってるんだろう。やっぱりズボンに尻尾用の穴とか空いているんだろうか。
……それってちょっと、いやかなりえっちだな……??
尻尾穴……つまり、サバナクロー寮生の制服を普通の生徒が着た場合、そこから……なるほどな。今度熟考しよう。
「あ、あのぉ……? ねぇアズールくん、この人どうしちゃたんスか?」
「すみませんね、彼、突然ぼーっとし始めることがよくあるんです」
「えぇ……?」
「ほらユウさん、ラギーさんが困ってますよ」
「え、あ、悪いな」
いかんいかん、また自分の思考にトリップしてたわ。流石に今の状態で「尻尾どうなってんの?」なんて質問は出来ない。まずはラギーと仲良くなって、そのあと尻尾穴についての真実を追及していこう。
「多分オレ忙しい日にまた来ると思うんで、よろしくお願いするッスよ」
「こちらこそ」
「さて、挨拶も済んだことですし、ユウさんは戻っていただいて結構ですよ」
「はーい、頑張ってきまーす」
「ええ、お願いしますね」
ラギーや他の生徒達にじゃあなと手を振って、キッチンへと戻る。よしよし、特に問題は起きていないな。本番もこの調子で頼むぞ~。
: : :
……なんて甘い考えが通じるはずもなく。
「3番テーブルできました!」
「スープ切れそうです!」
「8番テーブルオーダー入ります!」
キッチンは戦場と化していた。今日のモストロ・ラウンジの客入りは俺の想像を遥か超えていた。キッチンのメンバーは誰一人として手を抜くことはなく、効率良く手を動かしている。
だけどそれを上回る量の注文が来るから、徐々にではあるが俺を除いた他のキッチンメンバー全員が混乱し始めているのが感覚的に伝わってきている。
どうにか空気をリセットさせたいところだけど、いかんせん俺自身手を止めることが出来ない。俺が手を止めれば、それだけで全体の流れが崩れてしまう。
なんとかしないと、と思いながら魚を捌いているとキッチンの入り口からアズールが顔を覗かせた。様子を見に来たんだろう。
目が合ったのでやばい、と口パクで伝えると、コクリとアズールが頷いて去っていく。どうにか伝わったかな。
考えられる流れとしては、一度注文を落ち着けるために待機列を切るか、一気に片付けるためにキッチン側に人を回すか。どちらであれアズールが上手いこと采配してくれるだろう。
「っし、お前らァ、気合入れて手ェ動かせよ!」
自分にも周囲にも気合を入れるために声を張る。はい、と元気の良い返事をしてくれるこいつらは最高だ。
しばらくしてホールから2人、助っ人がやってきた。アズールであれば待機列を切る方向に舵取りすると予想していたが、外れたな。
「ユウくん! 料理よりも先にドリンク作らせて!」
キッチンとホールの間、出来上がった料理を受け渡すデッシュアップから身を乗り出したラギーが叫んだ。今回はアズールじゃなくてラギーの采配ってことか。
アズールが許可を出したってことはそれなりに勝算はあるんだろう。
「わかった!」
すぐに何人かをドリンク専属係に回し、俺は調理の方を進めていく。もう余計なことは考えず、ひたすらに手を動かしていく。助け舟を出してもらった以上、俺も結果を出さなきゃいけない。
たった2人、されど2人。助っ人の効力はすさまじく、溜まっていた注文がどんどんと捌けていく。それに伴いキッチンのメンバーも落ち着きを見せ始めてきた。
よし、これならもう2人をホールに返しても大丈夫だろう。
「2人ともありがとう! こっちはもう大丈夫だからホールに戻っていいぞ!」
「はい!」
助っ人2人がホールの方に戻ったのを確認し、厨房内に喝を入れながらひたすら手を動かして、動かして……。
閉店時間を迎えたときには、ほぼ全員が立っているのもやっと、という雰囲気だった。
「っあ゛~~~~~……つっかれた……」
「お疲れ様です、皆さん。おかげさまで本日の売り上げは今期最高となりましたよ」
「アズール、まだドリンク余ってるだろ、料金は俺の給料から天引きでいいから、こいつらに振舞ってやってくれ」
「おや、太っ腹ですね」
「ほぼ休憩なしでやってんだ。足りないくらいだろ……」
「だ、そうですよキッチンの皆さん。よかったですね。ついでにホールのソファを使うことを許可しましょう」
アズールの言葉を聞いたキッチンのメンバーは、歓声を上げて思い思い好きなドリンクを持ってホールに向かって行く。
全員出ていったのを確認すると、崩れ落ちるかのようにその場にズルズルと座り込む。まっじでしんどかった……。やべー、足がガクガクしてるよ。こりゃしばらく立てないな。
「ぎゃっ!?」
キッチンの壁に背を預けて脱力していると、ふいに首筋に冷たいものが当てられて、思わず叫ぶ。顔を上げれば瓶ジュースを持ったラギーが、いたずらが成功した子供のような笑顔を浮かべて立っていた。
「シシシッ、すげー声」
「ラギーか……お疲れさん」
「ユウくんこそお疲れ様ッス。これどーぞ」
「さんきゅー……」
ラギーから受け取ったジュースを一気に喉に流し込む。
はぁあ……生き返る。他の奴らは水分補給なりはさせてたけど、俺はさすがに途中で抜けれなかったからなぁ。昼飯も食べてないけど、もう食べるという行為すら億劫になるほど疲れた。今すぐにでも眠れそうなくらいだ。
「さっきの指示出しありがとな、ラギー。注文捌くのに必死になりすぎて、ドリンクだけ先出しするっての思いつかなかったわ」
「どーいたしまして。こっちもユウくんがすんなり指示を受け入れてくれる人でよかったッスわ」
ラギーはキッチンの隅に置いてある丸椅子を持ってきてその上に座った。コックコートの俺と違って、ラギーも式典服を着ている。流石にその服でキッチンの床には座れないよな。
「ラギーはよくここ手伝ってんの?」
「イベント事とか、アズールくんに呼ばれた時だけッスね。普段は別のバイトかな~。ユウくんはここの専属なんスか?」
「そ。シフト制だし時間の融通結構きくし、ちゃんと働いてればそれなりに出してもらえるから働きやすくって」
「いいなぁ。オレもレオナさんのお世話さえなけりゃあもっと安定したバイトできるんスけど……」
「レオナさん?」
「うちの……サバナクローの寮長ッス。ユウくん確か1年スよね? 入学式で見てると思うッスよ」
「入学式はちょっと色々あって、あんまり覚えてないんだよなぁ……」
そもそも、俺ほとんど入学式出てないし。主にグリムとかグリムのせいで。最後に闇の鏡の前に引っ立てられたのは覚えてるけど、あの時は混乱してて周囲の状況なんか見てる余裕がなかった。
ふーん、とラギーは呟き、すぐにニッと笑顔を作る。
「まぁ、次の寮対抗マジフト大会で絶対見れると思うんで!」
かっこいいっすよ、うちの寮長! とラギーは笑ったあと、「それじゃ俺はこれからレオナさんのお世話があるんで!」と言って帰っていく。
……ちょっと待ってくれ、ラギー! どういうこと!? 寮長を個人的にお世話してるの!? それどういうお世話の内容か聞かせてくれない!? 場合によっては根掘り葉掘り聞きたいんだけど!
追いかけようにも疲れでヘロヘロの足は動かず、べしゃりとキッチンの床に突っ伏した。
ち、ちくしょ~~~!! 次会ったら聞かせろよ~~!! ついでに尻尾穴についても!!
……次に会ったら、がまさかあんなことになるとは。
ユウ
今回だけかと思ったら、キッチンの時間帯責任者にさせられてた監督生。
やったねユウくん!バイト仲間が出来たよ!(フラグ)
自分が無意識にしゃべってることが誰かにぶっ刺さってることを知らない。