●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。
それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。
まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。
今回は
・トレイ実験着
のパーソナルエピソードのシナリオバレがございます。
ご注意ください。
時間軸はマシュマロよりふわふわです。
●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。
また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。
モストロ・ラウンジは今日も忙しい。
稼ぎ時である寮対抗マジフト大会が終わったとはいえ、元々学園内でも人気のある場所だ。平日でも客入りは良い。
「3番テーブル赤蟹のフリット上がったぞ!」
「追加オーダーお願いします!」
「おーい1年。誰でもいいから倉庫から調味料の追加持ってきてくれ!」
優雅なホールに比べてキッチンは戦場だ。怒鳴り声とはいかないまでもそこそこ大きな声が四方八方飛び交っている。
そんな中で、俺はと言えば。
「……よし、こんなもんかな」
パレットナイフ片手に、スポンジケーキに生クリームを塗っていた。
いつもならデコレーションケーキなんて作らないのだが、今日だけは特別な事情がある。
モストロ・ラウンジで誕生会を開くグループが、バースデーケーキを依頼してきたのだ。
いや、それくらい麓の街にでも出てもっと良いところで買って来ればいいじゃん……と思ったんだが、客から追加で料金をもらっている以上、注文には従わざるを得ない。
かくして俺は支配人たるアズールの指示のもとにこうしてデコレーションケーキ作りに勤しんでいる。
もうね、今すぐハーツラビュル寮に駆け込んでトレイを連れてきたい。
そもそも俺は料理専門だ。レシピさえあればケーキでもある程度作れなくはないが、デコレーションケーキは難易度が高すぎる。
今日だけ、とアズールに頼み込んでスマホを厨房に持ち込み、レシピや作成動画を見ながら必死で手を動かした。そのおかげでどうにかこうにかスポンジケーキはちゃんと膨らませることが出来たし、生クリームを綺麗に塗りつけることも出来た。もちろん、スポンジケーキの表面に、はけでシロップをうつことも忘れない。
我ながら上出来だと思う。
あとは昨日のうちにスライスして蜜漬けにしておいた各種果物を挟んで、上からクリームを塗って……、…………あれ?
………………果物が、ない。
冷蔵庫の中にしまっておいたはずの、果物が入ったタッパーが消えていた。
「おーい、誰かここにしまっておいたタッパー知らない?」
「えっ? さぁ……その冷蔵庫、ケーキを作る用に材料を分けておくからって、昨日からジェイドさんとユウさん以外触ってないと思いますよ」
もうすっかり仲良くなったオクタヴィネルの2年生がそう答えてくれる。
おっかしいな。確かに昨日、俺とジェイドで材料の確認がてら果物の下処理をした時にはあったのに。
タイミングよくオーダーが途切れたため、手が空いた厨房メンバーで果物の蜜漬けが入ったタッパーの捜索をするが見つからない。
コンポートとかでもない、ただの果物の蜜漬けだ。間違って他のお客さんに出したとは思えない。
「え、やばいなこれ……? ちょっとジェイド呼んできてくれ」
もし万が一見つからなかった場合、すぐにでも購買に果物を買いに行ってもらわなきゃいけなくなる。
小口現金を管理しているのはジェイドだ。どういう手を打つにしろまずはあいつに相談するのが一番だろ。
なんせ、誕生会は今日の夜だ。発注なんかじゃ間に合わない。
「ユウさん、どうかしましたか」
「悪いなジェイド。今日使うはずの果物が見当たらなくて……」
「あれがですか? 昨日はありましたよね……」
「だよな? どこにいったんだ……?」
「あれ〜。ジェイドと小エビちゃんなにやってんのぉ?」
ジェイドと記憶の照合をしていると、気の抜けたような声が厨房に入ってきた。
「フロイド。ちょうどよかった、なぁ……、………………………………………………………………………フロイド、その手に持ってるもの、なんだ?」
「これぇ? なんかそこの冷蔵庫に入ってたやつ。めっちゃうめぇ」
ええ。そうだろうね、そうだろうよ。
それは昨日、俺とジェイドが試行錯誤しながら『蜜漬けでありながら生クリームと合わせて食べてもくどくならない、後味がさっぱりするよう調整に調整を重ねた』果物の蜜漬け。
すなわち俺達が探し続けていたものだ。
「フ、フ、フロイドォォォオオオオオッ!」
「うわなに、びっくりした」
「おま、お前それ、なんで食ってんだ!?!?」
「えー。なに、食べちゃダメなやつだったの」
「あったりまえだろぉ!? 何のために冷蔵庫分けておいたと思ってる!」
「食べちゃダメって書いてなかったじゃん」
「書かなくてもわかるだろ! ていうか昨日お前が寮に帰る前に俺、説明したよな!?」
「そうだっけ。覚えてなーい」
「やめっ、食べ続けるなバカッ!!」
話している間にも、タッパーに入った果物がフロイドの胃の中へと消えていく。
うぉぉおおこの馬鹿野郎!! その味出すのにどれだけかかったと思ってんだ! 予備のシロップなんて残ってねぇし、ほぼ偶然の産物なんだからレシピもねぇ!
フロイドからタッパーを取り上げようと手を伸ばしたがひらりとかわされる。
俺を見たフロイドが、にやりと口角を吊り上げた。
「こ、のっ! 返せ!」
「あはは、小エビちゃんオレと遊びてぇの?」
「んなわけあるかこのぉぉおおおお……!!!」
フロイドがふざけてタッパーを上へと持ち上げる。
元の身長差が15cm以上はある上に、体格に見合った手の長さも加わればまず届かない。17歳で191cmとかデカすぎだろ! 縮め!!
「……フロイド」
ヒュッと息を呑む。厨房内の空気が一気に氷点下まで下がったような気がした。
地を這うような声で自分を呼んだ双子の片割れに、さすがにまずいと思ったのかフロイドが恐る恐る声がした方――ジェイドの方へと顔を向ける。
「ジェ、ジェイド?」
「少々悪ふざけが過ぎるようですね」
あっこれジェイド怒ってるやつだ。激おこだ。
幸い、矛先はフロイドの身に向いている。俺がすべきは刺激しないように、その場を離れることだ。
「ユ、ユウさん。これどうすれば……」
「……とりあえずアズールに報告して。最悪厨房が使えなくなる可能性があるから、そうなる前に止めてもらわんと」
残念ながら俺は魔法を使えないし、体格でも大きく差がある。
あの2人が全力の喧嘩を始めたら、保健室送りになるのはまず間違いなく俺だ。
わかりました、と怯えながらもオクタヴィネル寮生はアズールに報告に向かってくれた。
業務に支障が出ない程度に、フロイドを正座させて叱りつけているジェイドから他のキッチンのメンバーを遠ざける。
……こうして見ると、ジェイドがフロイドを制御しているように感じるけど、実際はどんな力関係なんだろうな。夜はジェイフロなのか、フロジェイなのか……。
個人的にはどっちも美味しいと思うんだけどどうなんだろうな、ははは。
……アズール、早く来てくれ……。
: : :
「まったく……フロイドには手を焼かされる……」
「同感」
あのあと飛んできたアズールも加わり、寮長副寮長に説教されたフロイドはおとなしくホール業務に従事している。
問題の果物だが、時間ギリギリまでジェイドが心当たりを片っ端から当たってくれることになり、制服に着替えて足早にモストロ・ラウンジを出ていった。
「しっかし……ホールは久々だから緊張すんだけど……」
「初めてここに来た時以来でしたっけ」
「そうそう。あのあと料理出来るってんでキッチン配属になったし」
ホールの中心人物であるジェイドが抜けた穴は大きい。というわけで、モストロ・ラウンジ入店直後以来久しぶりに俺がホールに出ることになった。
元々今日の俺はケーキ作りに専念する日だったから、キッチンの人数は揃ってるしな。
「それでは、ジェイドが戻ってくるまでの間よろしくお願いしますね」
「支配人の仰せのままに」
恭しくお辞儀をして、ホールに出る。
キッチンも忙しいがホールもまた別種の忙しさがある。特に今日はジェイドの代わりとしてこの場に立っているワケでして。
オーダーを受けたり料理を運んだりしながらもホール全体を観ながら困ってるスタッフがいないか、滞ってるものがないか、済んだ食器の下げ忘れがないか等々確認していかなきゃいけない。
目が回りそうだ。平日でさえこんな感じなのに、よくもまぁラギーは陸上競技大会の時あんなに動けたな。尊敬するわ。
俺はやっぱり無心で手を動かすキッチンの方が向いてるなぁ。
「すみません、注文いいですか」
「はい、どうぞ」
値新しいオーダーを取りながら、ちらりと壁に掛けられた時計を見る。
げ、もうこんな時間か……。万が一果物が手に入らなかった場合に備えてチョコレートケーキとかに切り替えるにしても、そろそろキッチンに戻らないとやばい。
「ユウさん!」
取ってきた注文をキッチンに流したところで、ジェイドが駆け込んできた。
その手に瑞々しいイチゴが入った籠を抱いている。
「よっしゃナイスタイミングだジェイド!」
イチゴがあるんならショートケーキが作れる。ショートケーキなら誕生日の祝いにもぴったりだろ。
着替えるのがあまりに面倒過ぎて、カマーベストと蝶タイをカウンター裏に脱ぎ捨ててキッチンに入る。後ろからアズールが何やら文句を言ってたが、聞こえないフリをした。
汚れたら後で責任もってクリーニングしてやるから!
「よく手に入ったな。購買に売ってたのか?」
「いえ。植物園に行きトレイさんから分けていただきました」
…………トレイ?
え、トレイ植物園でイチゴ育ててるのか……。よく知ってたなジェイド。
……ていうか……イチゴってことはこれ、トレイが育てた理由ってリドルに食べさせるためなんじゃ……?
そんなトレリドの波動を感じるイチゴ使っていいのか!? 本当にいいのか!?
マジで言ってる? 今すでに間に挟むためにイチゴ切っちゃってるけどもう返せねぇからな??
これが原因でトレリドが破局の危機を迎えたら申し訳なさMAXでフロイドを捌くしかなくんるんだが??
……いや、待てよ。女王のイチゴを勝手に譲った配下にお仕置き……なんてこともあるんじゃなかろうか。
つまりは、リドトレ。
っはーーーーーーーーアリ寄りのアリ!!!!!
「イチゴの量は足りそうでしょうか?」
「ああ、これなら問題なく完成させられるわ」
「それはよかった。では続きをお願いしますね」
「おっけ~」
低温の冷蔵庫にしまっておいた土台部分を取り出してスライスしたイチゴを均等に並べる。
それが終わったら上から生クリームを乗せてパレットナイフで均して、上からスポンジケーキでサンドし、次の段も同じようにスポンジケーキの表面に軽くシロップをうったあとクリーム・イチゴ・クリーム・スポンジケーキと重ねていく。
……よし、ここまではOK。
ふぅ、と小さく息を吐いてパレットナイフを握る手のひらに力を込める。
正直中身はある程度ぐちゃっとしてても見栄え的に問題はあまりない。でも、ここからの作業は別だ。
動画で見た動きを脳内で反芻しながらシロップを塗ったスポンジケーキの上に生クリームを乗せる。
まずは上と側面全体に薄く下塗りを施す。それが終わったら今度は先ほどよりも多めに生クリームを乗せ、全体の本塗りをしていく。
偏らないように、かつ滑らかになるように。細心の注意を払いながら進めていく……あっ、ちょっと足りねぇ。クリーム追加するか。ケーキだし甘くてなんぼだろ。
上と側面すべてが白く塗られたら、余った生クリームを星形の口金が付いた絞り袋の中に移して、ケーキの淵に一周、ぐるりと絞る。
あとは切らずに取っておいたイチゴと、「happybirthday」と書かれた楕円形のチョコを乗せれば完成だ。
「あ~~~……できた……間に合ってよかった……」
時計を見れば予約の時間30分前。マジでギリギリだったな。
「ユウさん、進捗はいかがですか?」
進捗確認Bot、間違えたアズールが厨房に顔を出す。
「安心しろよ、完成した」
「それは何よりです。まったく。フロイドには後からきつく言い聞かせておかないと……」
「あー……あんまりしつこく言ってやるなよ? ジェイドに相当絞られてたし」
「甘いですねぇ」
「もう終わったことだし、何とかなったからなぁ。あんまガミガミ言うのもかわいそうだろ? ……それに、拗ねて仕事しなくなったら面倒だし」
「貴方、それが本音でしょう?」
「ははっ、バレたか。ケーキはどうする?」
「とりあえずは冷蔵庫の中に入れておいてください。会の最後に出す段取りなので」
「うーい」
出来上がったケーキの上からガラス製のケーキカバーをかぶせて冷蔵庫にしまう。
さすがに、あれだけ怒られてまた手を出すほどフロイドも馬鹿じゃないだろ。
……念のため、食うなって張り紙しておくか。
「この後どうする? もっかいホール出た方がいい?」
「いえ、今日はもう上がりでいいですよ」
「いいのか? じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな」
もちろん使った道具を一通り片付けた後でだけど。
ああ、そういえば。イチゴが2つだけ余ったんだよな。何かに使うには少ないし、取っておくくらいならいっそ。
「アズール、口開けて」
「は、んむぐ、!?」
振り返ったアズールの口にイチゴを1つ突っ込んだ。ぎょっと目を丸くしていたが、一度口に入れたものを吐き出すのは抵抗があるのだろう、眉間に皺を寄せてもぐもぐと咀嚼していた。
それを見ながら、俺も残ったイチゴを口に含む。
うーん美味しい。今度トレイにお礼で何か持っていこう。
「……いきなり何を、」
「2個だけ余ったんだよ。使い道ないし、だったら食べちゃおーっと思ってさ」
「だからって、なんで僕にまで……」
「つまみ食いだって怒られるの嫌だし。アズールも食べれば共犯ってことで怒らないだろ?」
そう言ってヘラリと笑えば、アズールは苦虫を噛み潰したかのような表情でため息を吐いた。勝ったな。
「じゃあここ片付けたら俺は上がるな。明日は……休みか。明後日はいつも通りでいいのか?」
「ええ。もし時間変更があった場合はこちらから連絡します」
「りょーかい。じゃあな」
ひらひらと手を振りながら厨房を出ていくアズールを見送り、視線を調理台の上へと戻す。
よし、使った道具を洗って片付けたら帰るか。
: : :
「……ん? あれは……ジェイドか?」
次の日の放課後。見慣れた長身が足早にどこかへ向かっていくのが見えて、ほんの少しの興味から追いかけることにした。
アズールとはボドゲ部でちょくちょく会うけど、ジェイドもフロイドもモストロ・ラウンジ以外ではほとんど会わないんだよな。普段何してるのかちょっと気になる。
「ユウ、どこに行くんだ?」
「ちょっと知り合いがいたから声かけて来るわ。グリムはどうする?」
「オレ様も行くんだゾ! 子分の知り合いに挨拶してやるんだゾ」
「はいはい」
グリムを肩に乗せたままジェイドの後を追いかける。
着いた先は植物園だった。
植物園か……またレオナが昼寝してたりすんのかな……その場合、ラギーもいるってことで、良質なレオラギレオが吸える可能性ワンチャン……?
行くか。
ガラス張りの温室はとても広く、多種多様な植物がそれぞれの区画ごとに育てられている。空調設備が整っているのか、通常の温室とかで感じるようなこもった空気は感じられない。
若干の土のにおいと、熱すぎず寒すぎない室温。なるほど、レオナが昼寝場所に選ぶのも納得できる。
話し声が聞こえてくる方へ足を向ければ、そこにいたのはジェイドと白衣姿のトレイ、そして見知らぬ金髪の青年だった。
「あっ、メガネ!」
「こらグリム!」
こんな時だけ目ざといなぁ!
トレイを見つけたグリムが俺の肩から下り、トレイの足元へと駆けて行く。
グリムが声を上げたことに寄り、必然的に注目は集まるわけで。
「あれ、ユウ。それにグリムも。どうしたんだ?」
「よ、ようトレイ。偶然だな!」
偶然を装って3人の輪の中に入る。
ジェイドがじっと俺を見た後、意味ありげに笑った。……これ、追いかけてきたことバレてんな。
「おやおや。もしやキミで噂のオンボロ寮の監督生かい?」
「え、ああ……そうだけど」
「会うことが出来て光栄だよ。私はポムフィオーレ寮3年のルーク・ハントという。ムシュー、名前を聞いても?」
「ム……なんて?」
「悪い、ルークはちょと変わってるんだ……」
ちょっとどころじゃなくない? だいぶ変わってない?
ツノ太郎といいコイツといい、この学校個性の殴り合いが過ぎねぇ?
「俺はユウだ。その……ムシューとかいう呼び名はやめてもらえると助かるんだけど……」
「ユウくんだね! よろしく頼むよ!」
「聞いちゃいねぇ……」
このルークとかいうやつも一筋縄じゃいかないようだ。
遠い目をしている俺の横で、ジェイドが「ご所望の品です」と大きなケーキ箱を手渡していた。
「おっ甘いにおいがするんだゾ! オレ様にも食わせろ!」
「悪いな、グリム。これは今度の何でもない日のパーティで出す特別なイチゴタルトなんだ。ケーキが食べたければ、このあとは寮に寄ってくれたら焼いてやるよ」
「本当か!?」
トレイがジェイドに所望したイチゴタルト……それって、もしかして昨日のイチゴと引き換えにってことか?
「トレイ、昨日はありがとな。イチゴ分けてくれてめっちゃ助かった!」
「そうか、ユウはモストロ・ラウンジでバイトしてるんだったっけか。別に大したことじゃない。困ったときはお互い様だろう?」
「いやでもマジで助かったからな。今度俺からも礼をさせてくれ」
「いいって……と言っても、ユウは納得しないか。楽しみにしてるよ」
「待っててな。……ところで。このタルト、特別だって言ってたけど高価なやつとかなのか?」
あのトレイがリドルのために育てたイチゴと引き換えに所望した品だというなら、それなりに値が張るとか、希少価値が高いとかなのかな。
「こちらは麓の街にいる有名なパティシエが作ったイチゴタルトなんですよ」
「へぇ。ちょっと興味あるな……見てみるだけでもいいか?」
「もちろん」
トレイが片手でケーキ箱の底を持ち、ゆっくりと箱から髪を取り出す。
わお、とルークが感嘆の声を上げた。
「美しい……! イチゴが瑞々しい輝きを放っていてまるで磨き上げられたルビーだ!」
「語彙力えっぐ……。いやそれにしてもすごいな、これ。見ただけで相当いいものだってのがわかる」
「ユウ! オレ様もこれが食べたいんだゾ!」
「馬鹿言うなグリム、俺は月々のお前のツナ缶代だけでカツカツだ」
実際には言うほど金がないわけではないが、この世界での後ろ盾が学園長しかない以上、もしもの場合を考えてきっちり貯金しておかないと。
いつ、何が起こるかわからない。出来る限りの準備をするに越したことはないし、突然買わなきゃいけないものが出た時借金とかしたくない。
「ねぇ、トレイくん。確かにジェイドくんが買って来たタルトは凄く美味しそうだけれど、良かったのかい?」
「なにがだ?」
「キミが愛情を込めて育てたイチゴで作るタルトのほうがリドルくんは喜んだのではと思ってね」
それな。
ルークの言葉に深く頷いた途端、耳を疑うような言葉がトレイの口から飛び出した。
「はは、まさか」
「「「えっ?」」」
俺とジェイドとルーク、3人の声が重なる。……ジェイド、お前そんな表情も出来たんだな。
驚いて固まっている俺とジェイドを置いて、いち早く回復したルークがトレイはリドルがイチゴタルトが好きだからイチゴを育て始めたのではないか、と問う。
それに対し、トレイは肯定しつつも「リドルの舌はそれほど肥えていない」と言い切った。
「正直、過程とか愛情とかはどうでもいいと思っている。寮長の暴君スイッチが入らないことが最優先。それですべて世は事もなし、ってね」
わ、悪い顔だ……! 俺もジェイドと同じく、トレイは特別な相手に愛情たっぷりの料理とか食べさせたい派だと思ってたんだけど……!?
え、えー……。食わせ者眼鏡じゃんトレイ・クローバー……。
これは攻め様待ったなしですわ。ハーツラビュル寮のママかと思いきや総攻めダーリンじゃん……。
「おっどろいた……。なんか意外だな……」
「ええ、本当に……。トレイさんへの印象が変わりました……」
「…………いやなんでそんなに楽しそうなんだよ……」
ちらりとジェイドの顔を伺えば、それはそれは楽しそうにジェイドが口角を吊り上げていた。い、意味わかんねぇ……。
「第一印象というものはあてにならないな、と思いまして」
「まぁ、わからんくもないが……。……ってか、気になってたんだけど、よくトレイがここでイチゴを育ててるって知ってたな」
「ああ、それですか。僕も趣味で植物園に来ることがあるのですが、頻繁に姿を見かけていまして。何をしているか気になったので、観察していたんですよ」
「へ、へぇ……」
なるほどな??? それってつまり、ジェイドはトレイが気になってたってことだよな??
つまり、なんだ……? ジェイド→トレイのフラグが立ってるってことなのか?
うんうん、そうかそうか。ジェイド、ちょっとお兄さんとお話ししないか?
内容はもちろんお前がトレイをどう思ってるかだよ!!! 聞かせてくれ!!
俺は目の前に下げられたクソデカ釣り針に食いつかずにはいられない生き物なんだ!!
「それでは僕はこれで」
待てよジェイド、ジェイドォオオオ!!!
俺の内心の叫びも虚しく、ジェイドは颯爽と去って行く。
せめて、せめて2人の馴れ初めだけ教えてくれ……!
「ねぇ、トレイくん。ユウくんは一体何をしているんだい?」
「ああ……ユウはぼーっとしてることが多いんだ。今回もそれだろう」
「おいメガネ! 水やりなんてさっさと終わらせてオレ様にケーキを作るんだゾ!」
ユウ
今日も今日とてモストロ・ラウンジで働く鉄腕アルバイター。
マジフト大会後は週6でバイトしている。労働基準法ってこっちの世界にもあるのか疑問。
仲良くなったオクタヴィネル寮生達に転寮を勧められているがうまく断っている。