童顔系腐男子監督生は現実逃避中   作:深生

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※※Attention※※

●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。

それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。

まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。

今回は

・ヴィル運動着
・アズール式典服

のパーソナルエピソードのシナリオバレがございます。
ご注意ください。
時間軸はマシュマロよりふわふわです。

●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。

また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。



Ep8.童顔系腐男子監督生の気になる関係と化粧水

 

なんで俺だけがこんなに責められなければならないんだろう。

親友の彼女を寝取ったお前も、彼氏の親友と浮気したお前も、なんで「自分は悪くありません」って顔しているんだろうな。

なぁ、悪いのは本当に俺だけなのか?

責める声、立ち去る足音、1人残された現実が「そうだ」と肯定してくる。

頑張ったのに、努力したのに。全て踏みにじられて、奪われて。

それもこれもすべて俺のせい。何もかもが自業自得。

なら、俺が信じてきたものは、いったい何だったんだろう。

遠くで何かが軋む音がした。

 

:  :  :

 

「…………ぅぐ、」

またしても最悪な目覚めだ。

何の夢を見ていたかは覚えていないけど、ものすごく不愉快な気分になる夢だったってのはなんとなく感じる。

時計の針は午前5時を指している。あぁー……なんかデジャヴ。前も似たようなことあった気がする。

「……起きるか」

寝直す気分に離れず、もそりとベッドから這い出る。枕元ではグリムが腹を出してぴすぴすと鼻を鳴らしながら寝ていた。

魅惑の胸毛が俺を誘っていたが、ぐっと堪える。前に一度寝ているグリムの胸毛に顔を埋めたら寝ぼけて火を吐かれたからな……。危うく髪の毛がパンチパーマになるところだった。

起きてるときにツナ缶詰んでモフらせてもらおう。

「……散歩でも行くかぁ」

歯を磨いて顔を洗い、真新しい運動着に着替える。校舎の外とはいえ学校の敷地内を私服でうろついてるのを先生方に見つかった時に面倒だからな。

ぎぃ、と蝶番が軋んだ音を立てる。そろそろこの扉も油を差しておかないと開かなくなりそうだ。

「どこに行くかなぁ」

敷地内は一通り見て回ってるし、目的地もない。さてどうしたもんか。

朝からロードワークやる趣味なんてな……あ。

そうだ、と思い出してメインストリートの方へと足を向ける。

俺の記憶が正しければ、前に目撃したのもあそこだったはずだ。

グレート・セブンの石像の後ろに隠れて待っていると、軽快な足音が2つ、聞こえてきた。よっしゃビンゴ!

そろりと覗き見れば、サバナクローの運動着を身に着けたジャックと、ポムフィオーレの運動着を身に着けた金髪の青年が並んで走っている。

来たな美女と野獣……! もしやと思ったがやっぱり今日も一緒にロードワークしていたらしい。

早朝デートは健在……ってことか。マジでどういう関係なんだろうな。めっちゃ気になる。朝食ん時にジャックに聞いてみようか……。

「ユウ? なにやってんだそんなところで」

「ほぎゃあ!?」

バ、バレテーラ……。

声をかけられたら逃げるわけにもいかない。あくまでも偶然を装おう。さすがに「気になるCPの早朝デートを確認したくて隠れてました」なんて言おうもんなら社会的に死ぬ。それ以前にジャックの冷たい視線を感じて死ぬ。

「よ、ようジャック、偶然だな。ロードワークか?」

「ああ。日課だからな。お前もか?」

「いや、俺はただの早朝散歩だよ。と、ところでジャック、その人は……?」

「ああ、この人は、」

「ちょっとアナタ」

「ヒェィ!?」

ジャックとのやり取りを横目で見ていた金髪の青年が、俺の顔を見るなり大股で近づいてくると、がしりと顎を掴んできた。

待って待って、思ったよりでかい! ジャックの横にいるからわからなかったけど、俺よりもでかい! あと力つっっっっよ!!!

「どう生活したらこんな顔色になるわけ? うちの新ジャガ達が入学してきた時の方がマシじゃない。イモ以下よ」

え……なんで俺いきなり罵倒されてるの……?

「ヴィ、ヴィル先輩。そいつは……」

「まずその目の下のクマをなんとかなさい。あとは食生活も改善することね。栄養が足りてないわよ。せっかく元々の素材自体は悪くないんだから、きちんと自分を磨きなさい。たとえ寮が違うとしても、このアタシと同じナイトレイブンカレッジの生徒である以上、みっともない姿は見せないで」

「は、はい……」

なんだこの美人圧と勢いがつっよい……。

勢いに気圧されて頷くと、満足したように俺の顎から手が離れる。

「わかったならいいわ。次にアタシの前に出る時にはマシな顔を見せることね」

それじゃあアタシは寮に戻るわ、と言いたいことを言って満足したのか鏡舎の方へと歩き去って行く。

な、なんだったんだ今の……?

「大丈夫か、ユウ」

「ジャック……今の誰?」

「あの人はポムフィオーレの3年生のヴィル・シェーンハイト先輩だ」

ポムフィオーレなことは運動着で察してたが、この前植物園で会ったルークといい、さっきのヴィルといい、これまた強烈なキャラクターが揃ってんな……。

「でも意外だな。ジャックがああいうタイプと知り合いだなんて」

「ああ……昔馴染みと言うか、家が近所でな。ここに入学して再会したんだけどよ」

「待って」

「?」

まっっっっっって。家って実家ってことだよな??

それすなわち幼馴染って言わない?? 近所に住む綺麗なおネエさんってやつじゃん!! 性癖歪むわ!!

ジャクヴィル……昔かわいがっていた年下の狼の少年が、再会したときには自分の身長を大きく越すグッドルッキングガイに成長していましたってか!?

ッはーーーーー恋しか始まらない。

「お、おい……気分でも悪いのか?」

「いや……大丈夫だ。それよりもあの人すごい美意識の高さだったな」

「え? ああ、そうだな。あの人のこだわりはすげぇと思うぜ。この前式典服の着こなしを手ずから教えてもらった時も……」

「待って」

「?」

ま゛っ゛て゛? 式典服の着こなしを?? 手ずから教えてもらって??

どういうことなんだ……手ずからって、着せてもらったってこと?

ジャックが? ヴィルに? 服を着せてもらったってこと??

はぁ~~~~~~~萌えすぎてキレそう。語彙力溶けるわこんなもん。

着せてもらったってことは、一旦脱いでるってことだろ? 脱ぐようなことを……シたのか……!?

俺が思うよりもこの2人は進展しているのかもしれない……。

「お前本当に大丈夫か?」

「だ……大丈夫……」

ちょっと萌えの供給過多で心臓痛いけど。

こちらを気遣うように伺うジャックに、申し訳なさが募る。

ごめんな。こんなにいい奴なのに、腐れ妄想の餌食になんかしたりして……。

「……はぁ。ロードワークの邪魔して悪かったな。俺もそろそろ寮に戻るわ」

「いや、別にいい。じゃあまたな」

「おう」

知りたかった関係がようやくわかったことだし、今日は一日良い日になりそうだ。

:  :  :

 

授業も終わり、グリムやエース、デュースと別れてモストロ・ラウンジへ向かう。

マジフト大会の時に口走った約束は、満面の笑みを浮かべたアズールに渡されたシフト表できっちり守られていることがわかった。つまり、鬼シフトだ。

まぁ、しばらくは死ぬほど忙しくなるようなイベント事が予定されていないだけまだいい。

「おっすー……って、あれ? ジェイドだけ?」

更衣室でいつもの作業着に着替えてホールに足を踏み入れると、開店前の準備をしているジェイドがいた。いつも一緒に準備しているはずのフロイドの姿はない。

「ええ……フロイドですが、今日はちょっと。立てなくなってしまったもので」

「……?????」

ンッ!? 立てなくなってしまったもので??

「あ、え、そ、そうなんだ……大丈夫なのか?」

「少々無理をさせてしまいましたが……おそらく明日には動けるようにはなっているかと」

俺は今、自分がどんな表情をしているかわかる。スペキャ顔だ。

ジェイドの言い方だと、その、ジェイドがフロイドに無理をさせた結果立て失くしたって聞こえるんですけど、あってるんだよな?

これ現実? 本気で言ってる? 俺の妄想じゃなく?

ヤンチャ×紳士でフロジェイかな~~って思ってたんだけど、そっちなんだ!? ジェイフロなんだ!?

い、いっがーーーい! いやでも美味しいな?? 日常生活では振り回されているジェイドが??? ベッドの上ではフロイドを振り回してるの???

ヤンチャしたフロイドが夜にジェイドにお仕置きされてそう……いや、もしかして、お仕置きされたいがために色々やらかしてる可能性もあるのか……?

「ははぁ……、なんかよくわからんが大変だな、ジェイドもフロイドも……」

「急な追加発注依頼でしたからね」

「追加発注?」

まさかジェイフロのハm……いやいやそんなわけないだろう。落ち着け俺の脳内。

しかし急な追加発注依頼でフロイドが立てなくなるってどういうことだ? なんかやばい場所にやばいもん取りに行かされて疲れてるってことなのかな……。

「フロイド大丈夫なのか? なんか食べやすいものでも作ろうか?」

「……! いえ……そうですね、では閉店後に作っていただいてもよろしいでしょうか?」

「任せとけ。フロイドに好き嫌いとかはあるか?」

「好きな食べ物……タコ焼きですかね」

いきなり男子高校生っぽいものが出てきたな。タコ焼きが好きってことは、なにかタコを使ったものがいいかな。タコか……食べやすさで言うんなら、たこわさ茶漬けとかがあるんだけど、こっちでたこわさまだ見たことないんだよなぁ……。

米も炊飯器もある世界観なら、どこかにありそうな気はするんだけどな。

「ん、わかった。なんか考えておくよ」

「よろしくお願いします」

話がひと段落したところで、ジェイドと別れて俺の持ち場であるキッチンへ移動する。

既に何人かのオクタヴィネル寮生が準備を始めていたので、挨拶もそこそこに俺も準備に加わった。

「今日って確か変な予約とかなかったよな?」

「はい。席のリザーブはありましたが、メニューの指定はなかったはずです」

「ならよかった。昨日発注した食材届いてる? 確か結構ギリギリだったろ」

「今朝届いていたので、所定の位置にしまってあります」

「マジ? ありがとな。あとは~……大丈夫そうか」

ひとつひとつ不備がないかを確認しておく。開店前に確認しておかないと、いざって時に準備するのが大変だからな。

この前のバースデーケーキ作りの時もえらい目に遭ったし、今後はああいうことが無いようにしないと。

「よーしじゃあ今日も気合入れて行くぞ!」

「「はい!」」

……なんで他寮の俺がキッチン仕切ってるんだろうな……?

そんなつもりなかったんだけどなぁ……。

 

:  :  :

忙しいと時間があっという間に過ぎていく。

気が付けばラストオーダーの時間になっていた。ドリンクの追加注文くらいしかなく、キッチンのメンバーの内約半数は既に後片付けを始めている。

そろそろいい頃合いだな。

洗って水に浸けておいた米をザルへ移し、水切りをする。

水切りしている間に、先に蒸しておいたタコ足と油抜きしておいた油揚げ、生姜を冷蔵庫から取り出す。

タコ足はぷりっとした食感が楽しめるようぶつ切りに。油揚げは細かく刻んで、生姜は千切りにして全て同じボウルに移しておく。

作り置きしておいたかつおだし・砂糖・料理酒・醤油・みりん・塩を混ぜて、濃さを確認しながら水を適量加えて味を調整する。

……いやマジで、何であるんだろうな、醤油とみりん。

人名とか建物名とかがTHE洋風です! ここはヨーロッパです! みたいな雰囲気出しておきながら、オムライスみたいな和洋食とかタコ焼きみたいな日本のジャンクフードがあったりする。

過ごせば過ごすほど謎が深まるツイステッドワンダーランド。

深く考えてはいけないのかもしれない。

水切りが終わった米を内窯に移して合わせ調味料と具も投入する。

計量カップで水の量をきっちり計って加え、内窯を炊飯器にセットし炊飯ボタンを押した。

「あれ、ユウさん何やってるんですか?」

「フロイドとジェイドの……この時間だと夜食になるのかな? それを作ってる」

「へぇそうだったんですね。見慣れないもの色々と使ってるから、新メニューの考案かと思いました」

「さすがにこれはちょっとここで出すには庶民的だからな~」

炊きあがるまでには時間がある。俺も後片付けの方に加わろう。

しかしなんでオクタヴィネル寮生は学年に関係なく俺に敬語を使ってくるんだろうな?

溜まりに溜まった皿やらカトラリーやら調理器具を黙々と洗っていく。食洗器があれば楽なんだけど、さすがにそこまでの設備は揃えられなかったらしい。

でもあれ意外と場所取るし、寮内の限られたスペースしか使えないとなれば絶対に必要な物ではないからかもな。

閉店時間も過ぎて、キッチン内の片づけは大半終わった。残りは食材の在庫を確認して、必要なものをジェイドに伝えればいいだけだし、炊き上がる時間までまだ少しある。これなら俺1人でも十分だろ。

キッチンメンバーに先に上がるように告げて、冷蔵庫に貼られているクリップファイル片手に各食材の在庫をチェックしていく。

「お疲れ様です、ユウさん」

「ジェイド」

在庫チェックが終わったところで、タイミング良くジェイドがキッチンに入って来た。

こいつ、いつも図ってんのかってくらいタイミングが良いんだよなぁ。スーパー秘書の名は伊達じゃないってことか。

「ちょうど良かった、これ在庫表な」

「ありがとうございま」

す、とジェイドが言いかけたところで炊飯器が炊き上がりを知らせる甲高い音を響かせた。

ビクリとジェイドの肩が揺れる。

「悪い、驚かせたな」

「いえ……何か作っていたのですか?」

「ん? ああ、言っただろ。食べやすいもの作るって」

「そういえば……本当に作ったんですか」

「おう。約束したからな」

しゃもじ……は流石にないので大きなスプーンを軽く水洗いし炊飯器の蓋を開ける。うん、いい匂い。

上に乗った具が全体に散るよう混ぜれば完成だ。

「よし、出来だぞジェイド! タコ飯だ!」

「たこ……めし……?」

「俺の故郷の料理だな。洋風に言うとパエリアみたいなもん……か? 味は全然違うだろうけど」

ほれ味見、とスプーンに1口分によそったタコ飯を差し出す。

恐る恐るといった様子でスプーンを受け取り口にしたジェイドの顔がパッと明るくなる。どうやら口にあったようだ。

俺より身長が高くて顔つきや雰囲気が大人っぽくても、こういう表情を見るとまだまだ17歳の高校生だなぁと思う。

今でこそ学年はひとつ上だが、本来であれば俺の方が年上だ。年下は可愛がってやらないと。

「食べたことの無い味ですが……美味しいです」

「だろ? ラウンジで出すには洒落っ気が足りないけどな」

炊飯器から洗ったボウルにタコ飯を移して、ラップをかける。

冷やしておいた昆布だしと麦茶をそれぞれガラス製のティーポッドに入れて、茶碗や丼……はないのでサラダボウルとスプーンをそれぞれ2個用意した。

「……それはお茶と、なんですか?」

「こっちが昆布だし、こっちが麦茶っていうお茶。タコ飯はこのまま食べても美味しいけど、冷茶漬けにしても美味いから」

本当はここに柚子胡椒なんかがあると最高だけど、ないものはしょうがない。

…………サムの店にはありそうだな。今度覗いて見てみるか。

麦茶のパックが売ってたくらいだからなぁ。

ちなみにこの麦茶、俺が休憩する時飲む用に自費で買ってこっそり作り置きしてあるものである。

バレてそうだけど何も言われてねぇしいいかなと。

「量多めに作ったんだけど、アズールも食うかな」

「あ……いえ、アズールにタコはちょっと……」

「? 苦手なのか?」

「苦手……と言うわけではないのですが。あまり出さない方が良いかと」

「うん……? わかった」

ならちょっと寮多いし、残りはおにぎりにして持って帰って、グリムにでも食わせるか。

「俺まだ残ってるし、店閉めやっておくからフロイドのところに持ってってやってくれ」

「おや、よろしいのですか」

「この後寮に帰って寝るだけだし、ちょっとくらい遅くなっても門限とかないからな」

「なるほど……。では店閉めついでに1つ、お願いしたいのですが良いでしょうか?」

「?」

 

:  :  :

 

ステンレス製の円形トレーにティーセット一式を乗せ、普段はあまり立ち入ることのない奥の廊下を進んでいく。

ひと際重厚な扉を2,3度ノックするが返事がない。なるほど、ジェイドが言ってたのはこういうことか。

「アズール、入るぞ」

片手に乗せたトレーに気を付けながら扉を開けると、ホールにあるものよりも質の良い革張りのソファに腰かけ、書類に目を通しているアズールがいた。

集中しているらしく、俺の声には気づいていない。

ジェイドに頼まれたのは、VIPルームで今日の売り上げ集計をしているアズールに紅茶を持っていくことだった。

売り上げ集計中のアズールは呼びかけても気付かないことが多いらしい。

事実、横でカチャカチャとお茶の準備をしている音がしても、アズールの目線は手元にある書類とテーブルの上に置かれたマドル札の束から離れない。

こーして黙ってるのを見ると、顔面偏差値の高さにおののく。

今朝見たヴィルも相当な美人だったけど、アズールも負けてない。

というかこの学校本当に、ほんっとうに顔が良いやつが多すぎて目の保養を通り越して眩しさで目が痛くなる。

まずいつもつるんでるエスデュ……エースとデュースからして顔がいい。この2人に挟まれた時のいたたまれなさがやべぇ。俺を挟んで会話をするな。見つめ合うと素直におしゃべりできないわけじゃないだろう!!

俺は推しCPの間に挟まる趣味はねぇ。

「ん、」

前のめりになるアズールのその左側、ひと房だけ垂らされた横髪が目に留まった。

邪魔そうだな、これ。

すいっと髪を指で掬って耳にかけてやる。

その一瞬でアズールが驚いたように飛びのいて、ソファから落ちた。

「……!? ……!?!??!」

「お、おい、大丈夫かアズール」

「え、あ、は、はい……え、ユウさん……?」

「なんか悪いな、驚かせたみたいで……」

「い、いえ……」

珍しい。ここまで表情を崩しているアズールを見るのは初めてかもしれない。

ソファから落ちたのがよほど恥ずかしかったのか、首まで赤くなっている。

ずり落ちた眼鏡を指で元の位置に押し上げながら、アズールはソファに座り直した。

「……はぁ。お見苦しいところを見せました。それでユウさん、なぜこの部屋に貴方がいるのですか?」

「ジェイドに頼まれてな。はい、これ」

ティーポッドから紅茶を注げば、ふわりと華やかな香りが広がる。

「うわ、これ絶対いい茶葉だろ。こんなもん俺に淹れさせんなよな~……専門外だ」

「香りでわかるだけ充分すごいと思いますが……ああ、これはこの前手に入れたものですね」

「ひと口飲んだだけで銘柄も分かる方がすごくねぇ? 香りでなんとなく上等か上等じゃないか分るよりもずっとすごいだろ」

「買い付けした時に一度飲んでいますから。……それで? ジェイドはどうしたんです」

「先に帰した。フロイド体調悪いんだろ?」

「体調……まぁ、そうですね。この前よりも多く搾りましたから……」

……ナニを搾ったのアズールくん?? え、嘘だろアズール……お前も加担してたのか……? フロイド総受けアンソロジーでも発売するのか……?

言い値で買います。買わせてください。

「そうだ、ユウさんこの後のご予定は?」

「この後? まぁいい時間だし、寮に戻って寝るけど」

「もしよろしければ寮にお戻りになる前に、ひとつ、寄ってほしいところがあるのですが」

「別にいいけど……どこ?」

「ポムフィオーレ寮です」

「前言撤回していい?」

俺にはわかるぞ! 絶対めんどくさい用事だ!!

会ったことあるポムフィオーレ寮の生徒は2人しかいないけど、どっちもキャラ濃かったし会いたくねぇ行きたくねぇ。

回れ右して逃げようとした俺の肩を、アズールが掴む。

ははは、デジャヴ~~~。

「ユウさん僕に借りがありますよね?」

「ぐぅう……喜んで……行かせていいただきます……」

「ありがとうございます。ではこちらに着替えていってくださいね」

「……え?」

これを、と渡されたのは紙袋に入ったオクタヴィネル寮の寮服一式だった。

ハットにストールまできっちり揃っている。

「僕からの使いですから。怪しまれないようにするために必要かと」

「いやでも借りるわけには、」

「ご安心ください。ユウさんにぴったりのサイズで仕立ててありますよ」

「???? 俺オクタヴィネル寮生じゃないけどぉ????」

どういうことなの?? っていうかいつの間にサイズ測った??

紙袋をニコニコと下笑顔で押し付けてくるアズールに引く気はないらしい。このままだと寮に戻るのが遅くなるな……。仕方がない。アズールにはマジフト大会の時の借りもあるし、大人しく従おう。

ゲストルームを使わせてもらって着替える。うーん、上はピッタリサイズだけど、ズボンの胴回りが少し大きいな。ベルトで締めればいいか。

「おや、お似合いですね」

「そりゃどーも。で、ポムフィオーレ寮に何しに行くんだよ」

「これを渡してきてほしいんです」

コトリ、と机の上に置かれたのはおどろおどろしい青緑色の液体……液体? が入った瓶だった。見るからに禍々しさしか感じないんだけど……?

「え、なにこれ……えっぐい色してんだけど……」

「化粧水です」

「なんて?」

「僕特製の化粧水です」

「……これが?」

見るからにどろりとしたそれは、錬金術や魔法薬学の材料にしか見えない。

めっちゃ身体に悪そうな色してるけど……でもまぁアズールが作ったものだし……大丈夫、なのか……??

「ええ。かのポムフィオーレ寮長も大絶賛の一品です」

「……ってことは、俺はこれをその寮長サマとやらに届けに行けばいいってこと?」

「ええ、その通りです。それではお願いしましたよ。僕はまだ売り上げの集計が全て終わっていませんので」

「おう……あ、ティーセットはどうする?」

「僕が下げておきますよ」

「ん、わかった。じゃあ行ってくるわ。また明日な」

「ええ、よろしくお願いします」

ポムフィオーレ寮出たら、どっかで着替えてから帰らんと。

こんな格好で帰ったらグリムに何言われるかわかったもんじゃねぇ……。

 

:  :  :

 

「うっわ……」

鏡を抜けた先、そびえたつ白亜の城を見た途端帰りたくなった。

え、えー……。ハーツラビュルもメルヘンだったけど、こっちはガチ御伽噺です!! って感じの見た目してやがる……。どこもかしこも高そうなもの多いんだろうな……嫌だぁな行きたくねぇ……。

とは言っても引き受けたものはこなさないと、あとでアズールに何を要求されるかわかったもんじゃない。

覚悟を決めてポムフィオーレ寮の中へ足を踏み入れる。

しん、と静まりかえっているのは夜もいい頃合いだからだろうか。それにしても静かすぎないか……?

「ボンソワール! いい夜だね!」

「ひぃっ!」

突然後ろから話しかけられてびくりと身体が跳ねる。

慌てて振り向けば、そこにいたのはこの前植物園で出会ったポムフィオーレ寮生・ルークだった。

「ル、ルーク! いきなり後ろから話しかけるなよ!」

「……おや? オクタヴィネルの生徒かと思えばトリックスター・ユウくんじゃないか。いつの間に転寮したんだい?」

「転寮したわけじゃなくて……ただ、アズールの使いだからわかりやすい服装をしてるだけだよ」

「努力の君の使い? ああそうか、君はモストロ・ラウンジで働いているのだったか」

「ろ、ろあ……でぃ?」

「使いと言うことは、我らが毒の君へ例のものをおさめに来たということかな?」

「ろあ、どぅ……なんて?」

「この時間なら本来すでに就寝している時間だが……今日は偶然、ムシュー・姫林檎への指導があったからね。幸運なことにまだ起きているよ」

「…………そっかー。案内してもらってもいい?」

「ウィ! いいとも!」

すげぇ、会話するの疲れる。謎の呼び名もだけど、テンションが高い。とにかく高い。ここにいるのがイデアだったら溶けるんじゃないか、あいつ。

ルークに先導してもらいポムフィオーレ寮の中を歩いていく。予想通り廊下には謎の絵画やら壺やらが置かれており、ぶつかったら最後いくら借金を背負わされるかわかったもんじゃねぇ。

こればかりはルークに感謝だ。案内がなきゃ変なもん触ってた可能性もある。

「失礼するよ! 毒の君、君への客人が来ているよ」

とある一つの部屋をノックしたルークが、返事が返ってくる前に扉を開いた。

そこは大広間の様になっており、これまた高そうな晩餐会用の長いテーブルが置かれている。

机を挟んだ向こう側、そこに2人の人物がいた。

「……、……!?!?」

「ルーク、今は夜よ。もう少し静かにしてちょうだい」

「これはすまない!」

「それで? こんな非常識な時間に来るだなんて……あら。アナタ、今朝の……」

「ど、どうも……」

ジャックゥゥウウウウウウウ!!! おま、おま……ッ、ヴィルがポムフィオーレの寮長ならそう説明しろよな!?!?

クッソビビっただろうが!

「おやヴィル、彼と知り合いなのかい?」

「ええ、今朝ちょっとね。……それにしても……」

「いや、さすがに顔色やクマは一日じゃ消せな……」

「そっちじゃないわ。その着ている服―――ズボンのウエストが合っていないわね? 大方ベルトで無理やり絞っているんでしょう」

「な、なんで……!?」

「不自然な皺が出来ているのよ。みっともないから、早く仕立て直してもらった方がいいわよ」

「は、はい……」

こわ……なんで一目でそんなことわかるんだ……。美意識の塊かよ……。

ヴィルの的確な指摘に震えながらも、俺はその傍らにいる人物から目が離せなかった。

えっと、ここ、男子校だよな……?

「……それで? アタシに何の用かしら?」

「あっ、そうだった……。これアズールから預かってきたものなんだけど……」

瓶に入った化粧水(仮)をテーブルの上に置くと、ヴィルの顔がぱっと明るくなった。

「あら、もう完成したの。さすが仕事が早いわね」

「なるほど、あの化粧水だったのか! 」

やっぱ化粧水なのかそれ……使ってるのか……。

あれを使ってそれだけ綺麗なんだから、効果はあるんだろう。何から作ったんだろうな、あれ……。

ふと、脳内に立てなくなったフロイド、というワードが浮かび上がる。

アズールが言った「搾り取る」……ジェイドが言った「無理をさせた」……。

…………考えんのやーめよッ☆

「あの、じゃあ、夜も遅いんで! じゃ!」

適当に挨拶をして踵を返し、ポムフィオーレ寮から飛び出した。

いやまじで……こんなことってあるのな……。まじか……。

驚いた表情で俺を見ていたポムフィオーレ寮生の顔を頭の中から振り払うように、一路、オンボロ寮へと駆けて行く。

「ただいま、グリム!」

「おう、遅かったな、ユウ……なんでそんな恰好してんだゾ?」

「あ」




ユウ
徐々に外堀を埋められてきているのに気付かないオンボロ寮の監督生。
以前見かけた気になる関係がわかってすっきりした。
ポムフィオーレ寮のとある生徒の顔が頭から離れないらしい。
最近ちょっと痩せた。
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