●お話に関して
このシリーズは「もしも21歳腐男子が監督生としてナイトレイブンカレッジによばれたら」という作者の妄想を形にしたお話です。
ゲーム内の監督生とは言動・思考が異なることが非常に多いので注意してください。
それに伴い一部キャラクターの発言・シナリオ展開の改変・捏造がございます。
苦手な方はすぐにブラウザバックいただきますようお願いいたします。
まだ出てきていない設定に関しては自己解釈・捏造を多々入れておりますので、ご注意ください。
今回は
・イデア制服
・カリム運動着
のパーソナルエピソードのシナリオバレがございます。
ご注意ください。
時間軸はマシュマロよりふわふわです。
●監督生に関して
監督生の名前は『ユウ』固定です。
そこそこキャラが濃い目なので、苦手な方はご注意ください。
中の人が雑食性なので、ユウくんも雑食性の腐男子です。推しCPはあります。
また、このシリーズでは今後不快な描写が出てくる可能性がございます。
別途注意喚起させていただきます。
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。
机に向かい続けて固まった身体をぐぅ、と伸ばすと背骨が変な音を立てて鳴った。
ぐ……そろそろ本格的に何か運動でもした方が良いかもしれない。
このままだと運動不足待ったなしだ。……いや、もう手遅れか……?
さて、この後どうするかな。週末の、しかもモストロ・ラウンジでのバイトも無い放課後は久しぶりだ。溜まった洗濯物の処理とか分からなかったところの復習とかもいいけど、こう、パーっと遊びたい気分だ。
「ユウ」
「デュースか。どうかした?」
「いや、珍しいなと思って。いつもはすぐに教室を出ていくだろう」
「ああ、なるほど。今日はバイトが無いからどうしようかなーって考えてたんだよ」
「そうだったのか。……それなら、外出許可を取って麓の街に行かないか?」
「おっいいね。そういえば俺、麓の街に遊びに行ったことないかも」
「決まりだな。おいエース、ユウも一緒行くって」
ちょっっっっっっっと待った。待って。それさぁデートだったんじゃないの???
待て待て待て俺は推しCPの間に挟まりたいとかそういう趣味はないぞ? むしろ空気とか天井とか壁になって推しCPをそっと観察したいタイプだ。
ほらデュースよく見てみろ! 「おー」とか言ってるエースの目を!
あれは間違いなくデートを邪魔されて落胆してる目だ! 俺にはわかる!
「オレ様ももちろん行くんだゾ!」
「いいけど、問題は起こすなよグリム」
「デュースに言われたくないんだゾ! この前不良と喧嘩してリドルに怒られてたの知ってるんだからな!」
「う゛っ……なんでそれを……」
いやデュースお前そんなことしてたのかよ。相変わらず喧嘩っ早いというか血の気が多いというか……。
あれよあれよという間に俺とグリム、エースとデュースの3人と1匹で麓の街に行くことが決定した。
ごめんな、エース……お前達のデート、守れなかったよ……。
手早く荷物をまとめてみんなと一緒に教室を出る。明日明後日と休みだからか、廊下や教室に残っている生徒は多い。部活へ急ぐ奴もいればのんびり喋ってる奴もいる。
あー、この空気感なっつかしいな。THE高校って感じ。ここ最近ずっと授業が終わる→モストロ・ラウンジに向かうばっかりだったからなぁ。
「そういや、オレらはリドル寮長んとこ行くけど、ユウの外出許可って誰がすんの?」
「オンボロ寮には寮長もいないだろうし……学園長じゃないか?」
「多分そうだと思う。だとしたら……」
オンボロ寮に戻ってから外出許可を取りに行くよりも、先に学園長から許可をもらってから戻って、その後合流した方が早いな。
「俺、先に学園長に外出許可取りに行ってくるからグリムは荷物持って先に寮に戻ってて。エース、デュース、鏡舎で待ち合わせでいいか?」
「オッケー」
「わかった」
「さっさと来ないとユウだけ置いていくんだゾ!」
「いやグリムの分の外出許可も取りに行くんだからな?」
「じゃあ後から、」とグリム達と別れて、学園長室を目指して廊下を進んでいく。
麓の街か。なにがあるんだろうな。できればスーパーとか、食材売ってる店に行ってみたい。購買にはない調味料とかがあるかも……いや購買以上に品揃えがいい店なんて、あるのか……?
ま、まぁあってもなくても覗いてみる価値はあるだろう。グリム達にはなんか作ってやるって言えば言いくるめられるだろうし。
「ん……?」
廊下の先に、青く燃える髪を持つ人物が見える。あんな特徴を持つのは学園広しと言えども1人しかいない。イデアだ。
珍しいな、今日はちゃんと授業に出てたのか。
ボドゲ部の部室以外で滅多に見ない知り合いの姿に、声をかけようかと近づいたところで足を止める。
イデアの正面にいたから気が付かなかったが、誰かが一緒にいるみたいだった。
お前、俺やアズール以外に友達いたのか……。良かったなぁ……お兄さんほっとしたよ。
友達と話してるなら邪魔はしちゃいけな……。
「そうだ、ジャミルの飯を食いに来いよ!」
あっ(察し)。
これ友達と歓談じゃねーわ。陰キャが陽キャに絡まれてるシーンだわ。
こそこそと近くの柱の陰に隠れて様子を伺う。
どうやらカリムがいつものテンションでイデアを食事に誘ってるようだ。それをイデアがどうにかして断ろうとしてるけど……うーん無理だろうな。俺でも断り切れなかったし。
「あれっ、イデアくんとカリムくんじゃん。珍しい取り合わせ~」
「おやおや、ムシュー達。なんだか楽しそうだね」
▼陽キャ の ケイト と ルーク が 現れた !
偶然通りがかったんであろうケイトとルークが輪に加わっていく。うっわぁ……どんどん逃げ場なくなってってんじゃん。陽キャ包囲網こっわ。
イデアには大変悪いけど、このまま見なかったことにしよう。声なんてかけようもんなら、どう考えても巻き込まれる。
すまん、イデア。俺はグリムをモフりながら推しCPのデートを心行くまで眺めたいんだ。
不運なことに奴らは俺の進行方向にいる。バレないようにと顔を反対側に向けながら、存在感と足音を極力消してそろりそろりと進んでいく。気分は忍者だ。
「おや、そこにいるのはトリックスター・ユウくんじゃないか!」
こそこそと集団の横を通り抜けようとした時、腕を掴まれる。その先には輝かしい笑顔のポムフィオーレ寮生の姿が。
ルゥゥウウウウウクハントッッ!!!
「よ、よう、奇遇だな……」
腕まで掴まれている以上、無視はできない。白々しく笑いながら空いた片手をあげて挨拶をすれば、イデアの瞳に一筋の光が灯った。
やめろやめろそんな目で見るな!! 俺はこれからお前を見捨てる男だぞ!!!
「あれ、ユウちゃんじゃん。今帰り?」
「あ、ああ。そうだけd」
「じゃあユウもジャミルの飯食って行けよ!」
うん、言うと思った。カリムならそう言うと思ってたよ俺。
断ろうと口を開いたところで、陽キャの包囲網を抜けてイデアがしがみついて来た。
「ちょうど良いところに!ユウ氏助けてこの人達話が通じないんですけどぉ!!」
「落ち着けイデア、今に始まったことじゃないだろ」
「その通りですけどぉ!」
「あと悪いな。カリム、俺この後用事あるから行けねぇんだ」
「!?」
「なになに、ユウちゃんまたアズールくんのところでバイト?」
「いや、今日はグリムとエースとデュースとで麓の街に遊びに行くんだ」
「!?」
「おや、そうなのかい。君と食事を共にできないとは、残念だよ」
イデアの視線が痛い。ついでに背中も痛い。爪を立てるな馬鹿野郎。
そういうことだから、とイデアを引き剥がしにかかる。しかしなかなか離れない。こいつこんなに力があったか?
「おいイデア、離せって!」
「嫌でござる嫌でござる陽キャの巣窟に1人で行゛き゛た゛く゛な゛い゛!!」
「うぉぉおお離せ!! 俺にはエースとデュースを見守るって言う使命があるんだよ!!」
ベリィ、と音が出るような勢いでイデアを引き剥がし、そのままカリムの方へパスする。
「カリム、イデアのこと頼んだ! そいつ駄菓子とか栄養バーみたいなもんしか食ってないからしっかり食べさせておいてくれ!」
「おう、わかった! ジャミルにいっぱい作ってもらうな!」
「じゃあなカリム、イデア、ケイト、それにルーク!」
「ユ゛ウ゛氏゛ぃ゛!!」
すまん、すまんイデア……! 余裕があれば、あとからスカラビア寮に骨は拾いに行ってやるからな……!
イデアの断末魔をBGMに、俺は学園長室へと走り出した。
: : :
「おお~~!」
ヨーロッパ風の街並みに、つい歓声を上げてしまった。
和風建築が多く立ち並ぶ街の出身としては、漫画や映画でしか見たことのない景色に興奮するのも仕方がないと思う。
その上魔法士養成学校のお膝元と会って、魔法に関する品を売る店がすごく多い。端から端まで見てみたい。途中ホグズミ、まで頭に浮かべたのはなかったことにしておいた。
「ユウ、ユウ! オレ様あの屋台で売ってるヤツ食べたいんだゾ!」
「待て待てグリム、食べ歩き始めたら店の中に入れないだろ。だから先にあっちの店に行こうぜ」
「うーわー……田舎者丸出し……。おいデュース、離れとこう、ぜ……」
「エース! あれを見ろ! マジホイの専門店だ!」
「ってお前もかよ!! あーもう!」
今濃厚なエスデュの気配がした!!!!!!
ぐりんと声をした方向へ首を回せば、マジカルホイールと看板が掲げられている店に嬉しそうに駆け寄るデュースと、呆れ顔でそれを追いかけるエースの姿が見えた。
っっっっはぁ~~~~~~~!!! エスデュがデートしてるぅ……!
行動がもう解釈一致。五体投地して崇め奉りたい。興奮して走り出すデュースとそれをやれやれ感出しつつも追いかけるエース。もうね、追いかけるってところが愛だ。
「ユーウー! はーやーくー!」
「悪いグリム、これで好きなもん食ってていいから」
懐から引っ張り出した財布から数枚マドル札を取り出して握らせると、グリムは歓喜の雄たけびを上げながら屋台の方へとすっ飛んで行った。
よしよし、そのまましばらく戻ってくんなよグリム。俺は推しCPの街デート観察に忙しい。
おっ、デュースがエースの手を引っ張ってマジホイ専門店に入ってった。いいぞいいぞもっとやれ。
さて、俺はどうしようか。このまま店の外からエスデュのデートを見守るのはさすがに怪しすぎるから一旦やめるとして。グリムの食べ歩きに合流するか1人でフラフラするか。どっちもいいなぁ、なんて考えていると、ガヤガヤと騒がしい声が近付いてくることに気が付く。
パッと声の方向へ向ければ、俺と同じ制服を着た学生の集団が俺の方に向かって歩いてきていた。
「……げっ」
眉間に皺が寄る。素早く近くの建物の陰に身を潜ませた。
うーん……近付きたくないのがいる。通り過ぎるまで隠れて待つか。
「……ユウさん? 何をしているんですか、そんなところで」
「!? 、ッ!」
「え、ちょっと……!」
咄嗟に声をかけてきた人物の腕を掴み建物の陰に引きずり込む。
突然のことに抵抗する相手の身体を壁に押し付けて、口を手のひらで塞ぐ。
「悪い、少し静かにしててくれ」
小声で懇願すれば、コクコクと頷いてくれる。
学生特有のざわめきと靴音が遠ざかるのを待った後、ようやく掴んでいたの身体を解放した。
「悪かったなアズール」
「……全くですね」
俺に声をかけてきた人物――アズールは、口が塞がれていて酸欠気味なのか顔を若干赤らめて睨みつけてきた。うーん申し訳ない。
「僕だったからよかったものの、人によっては通報されますよ」
「いやぁ、返す言葉もねぇわ。……ちょーっと、顔を合わせづらい奴がいてな、隠れてたんだよ」
「……貴方がそんなことを言うなんて珍しいですね」
少し驚いたような表情を見せた後、アズールは建物の陰から少しだけ身を乗り出して、今通り過ぎた集団を観察し始めた。
「おい……!」
「あれは……マジフト部ですかね。エペルさんもいらっしゃいますし」
「……エペル?」
あれですよ、と指を指した先には薄紫色の髪の、周囲の学生たちより2回りは小柄な少年の後ろ姿……この間、ポムフィオーレ寮で見かけたあいつの姿があった。
「……あー、あいつ、エペルっていうのか……」
「彼と何かあったんですか?」
「いや別に……」
何かあったというか、出来るだけ相手に俺を認知されたくないというか、なんというか。
気になる存在であることは間違いないんだけど。
「とにかく。悪かったなアズール。背中とか大丈夫か?怪我してないか?」
無理やりではあるが話題を逸らそうと試みる。この件に関しては何か追及されたとして、答えられないし答えたくないからなぁ。
「平気ですよ。そこまでやわじゃありません」
「よかった。お前に怪我させたとなったら、ジェイドとフロイドに保健室送りにされそうだからな……」
魔法も使えない、その上圧倒的体格差がありかつ2人がかりで来られたらひとたまりもないぞ。
「よくお分かりで。……さて、では行きましょうか」
「へ?」
「この僕を一時的にとはいえ拘束したんです。お詫びがあってしかるべきでは?」
「え、いや、俺友達と来てるし……」
「おや、そうですか。……ああ、なんだか背中が痛くなってきたような……」
「おっま……」
いたた、とわざとらしく痛がる振りをするアズールの目は笑っている。くっそ。脅しやがって……。
はぁ、と短くため息を吐いてスマホを取り出して、エースとデュースに『先輩に捕まった、しばらく別行動するからグリムをよろしく』と短くメッセージを送っておく。
「わかったよ。それで、何が望みなんだ」
「難しいことではありませんよ。敵情視察に付き合っていただきたいだけです」
「カチコミの間違いじゃなくて?」
「カ……?」
「いやなんでもない。アズールが敵情視察って言うことは、モストロ・ラウンジ関係か」
「ご名答。良い茶葉を出す店があるらしいのですが、あいにく提供される日が決まっているようでして」
「なーるほどな。それが今日だと。あー……確かに、今日のシフトなら、アズールは抜けられてもジェイドとフロイドは無理だな」
「そうなんですよね。いくつか種類があるので1人ですべて試すのは厳しいと思っていたのですが、無事人員が確保できて安心しました」
ついでだから軽食メニューやデザートも頼んでみましょうか、とアズールが微笑む。
それ、お前はひと口だけ食べて残った分全部俺に押し付ける気だろ……。
カロリーとかめっちゃ気にしてんの知ってるんだからな。
「はいはい、支配人様に付き合わせていただきますよ」
もしやばそうならグリム探してきて残り物食わせよ。
: : :
「あ゛~……もう無理」
アズールに連れられた先でしこたま食わせられた挙句、別れた後グリム達にも付き合わされて心身ともにくったくただ。
「ユウ、マグロメンチカツ美味かったんだゾ! オレ様またあれが食べたい!」
「そんなホイホイ買い食いなんて出来ねぇよ。今度似たようなもん作ってやるからそれで我慢しろ」
鏡舎前でエースとデュースと別れ、オンボロ寮へ続く道を歩く。やがて見えてきた仮初の我が家の前に、青い炎が見えた。
イデアかと思ったが、それにしては人影は小柄だし髪も広がるような長髪ではなく、トーチに灯る炎のように短く逆立っている。
「あ、帰ってきた!」
謎の訪問者がはっきりと見えてきたところで、子供特有の甲高い声が響き渡る。
足に当たる部分から青い炎を噴射して近づいて来た人影…………足に当たる部分から青い炎を噴射して!?!?!
え、どういうことなの!?!?! 俺の見間違い!? ってか、どう見ても子供型のロボなんだけど!?
「おかえりなさい、オンボロ寮のユウさん!」
「ぉ、あ、おう……ただいま……?」
おそらく、イデアの関係者だとは思う。右胸に掲げられた紋章はイグニハイド寮のものだし、目がイデアと同じ黄水晶の色だ。
「えーっと、イデアの関係者、だよな?」
「うん! 初めまして、僕はオルト・シュラウドっていうんだ。よろしくね!」
「よろしくな、オルト。で、なんでここにいるんだ?」
「兄さんを捜してて……。珍しく授業に出たと思ったら、まだ戻ってきてないんだ」
「兄さん……イデアか。あー……まだ解放されてなかったのか、あいつ」
俺達が街に出てから結構な時間が経っているのに寮に戻ってないってことは、まだカリムんところだな。
「おそらくスカラビア寮にいると思うぞ」
「えっ、スカラビア寮に? 何しに行ったんだろう……」
「イデアが自発的に行ったというよりは、カリム達に連れていかれたというか……迎えに行くなら一緒に行ってやろうか?」
見た目が8割ロボとはいえ、話した感じオルトはまだ子供みたいだし、このまま放っておくのはちょっと気が引ける。
「えっ、いいの?」
「えぇー……オレ様疲れたんだゾ」
「そう言うなってグリム。うまくいけば美味いもん食えるかもしれないぞ」
「本当か!? ならさっさと行くんだゾ!」
「はいはい、現金な奴……。ほらオルト、行くぞ」
「! うん!」
オルトに向けて手を差し出せば、一瞬目を丸くしたあと嬉しそうな表情で俺の手を掴んだ。
こういう反応を見ると、やっぱり中身は子供っぽいけど……ま、今度イデアに聞けばいいだろ。
「にしても、イデア捜すのになんで俺のところに来たんだ?」
「兄さん、最近ユウさんの話をよくしてくれているんだ。だから、兄さんと仲が良いなら行先も知ってるかなって……」
「なるほどな。つーかイデア、俺の話してるのかよ……」
どういう内容かちょっと気になりはするけど、聞いたら聞いたで気恥ずかしい思いしそうだし、万が一この会話がイデアにバレたらあいつ爆発四散しそうだ。やめておこう。
: : :
オルトを連れて鏡舎にあるスカラビア寮へ通じる鏡をくぐる。
臙脂を基調とした建物や調度品の数々は前に来た時と変わっていない。
いやしっかしなんでどの寮も高そうなものばっかり置いてるんだよ……。オンボロ寮以外で安心して歩ける寮はないのか。
「確か談話室は……こっちだったな」
「ユウ、知ってるのか?」
「前に来たことあるからなぁ」
談話室に近付くにつれて、人の声や陽気な音楽が聞こえ始める。
食事とは言ってたけど、予想通り宴に発展してるみたいだ。
…………イデア、パリピ陽キャのオーラにあてられて蒸発してないといいんだけど。
「美味そうな匂いがするんだゾ!」
「おいこらグリム!」
中に入った途端、ぴょんとグリムが肩から飛び降りて近くに置いてあった大皿へと顔を突っ込む。
あーあー……誰が汚れたお前を洗うと思ってんだ。あんまりひどいと洗濯機に突っ込むからな。
オルトは手こそ離さないものの、興味深そうに周囲を見回していた。他の寮に来る機会なんて、友達でもいない限りそうそう無いから珍しいんだろう。
……そうなんだよなぁ。機会は少ないはずなんだよなぁ。俺、あと行ったことがない寮はイグニハイドだけだぞ。なんでだ。
「おっす、邪魔してるぞ」
「ユウ! 来てくれたのか!」
談話室にいるスカラビア寮生の中から、見知った顔――寮長であるカリムを見つけ出して声をかける。
「来たっつーか、イデアを迎えに来たってほうが正しいかな」
「こんにちは、カリム・アルアジームさん!」
「よぉオルト! お前も来てくれたんだな!」
「あれ、知り合い?」
「うん! 前に一緒に遊んでくれたんだ」
へぇ。いつもジャミルに面倒みられてる側だと思ってたんだけど、自分自身も面倒見は良い方なのか。
「カリム・アルアジームさん、兄さんはどこにいるの?」
「イデアか? えーっと……」
「イデアくんなら向こうだよ」
トントン、と肩を叩かれて後ろを振り返れば、水がはいったコップを片手に持ったケイトが手を振っていた。
「ケイトもまだいたのか」
「うん。ルークくんはご飯食べ終わったら帰っちゃったけどね。オレは、まぁ……イデアくん放って帰るわけにもいかないしね」
こっちだよ、とケイトの案内について談話室の隅へと足を向ける。人の輪から外れたそこに、イデアの姿があった。
「イデアくんお待たせ。お水持ってきたけど飲めそう?」
「あ、ああ、あり、がとぅ……」
ケイトに声を掛けられ顔を上げたイデアの表情をげっそりとしていて、肌もいつもより数段白くなってしまっている。
う゛……、罪悪感がひどい。いくら用事があって急いでいたとはいえ、コミュ障のイデアを陽キャの群れに突っ込むのはかわいそうだったか。
「兄さん!」
オルトが嬉しそうにイデアに飛びついた。まさかオルトが来ているとは思っていなかったのか、イデアの目が見開かれる。
「オ、オルト……?」
「迎えに来たよ、兄さん!」
「な、なんでここに……連絡してないのに……」
「ユウさんに教えてもらったんだ!」
「え、ユウ氏……?」
さび付いたブリキ人形のようなぎこちない動きで、イデアが俺の方を見上げた
一度見捨てた手前ばつの悪さを感じる。
「よぅ」
「ユ、ユウ氏!!!!!」
「うわッ!?」
お前そんな声出せたの、ってくらいの大声を出したイデアが俺の腰にしがみついて来た。
「助けてここ怖い怖い怖い陽キャしかいない怖い怖い怖い」
「だぁーーー!!! わかったから離せ! 俺が悪かったから!」
よっぽど恐ろしかったんだろう、イデアは怖い怖いと呟きながらぎゅう、と腕に力を込めてくる。ヒョロそうに見えても18歳男子。思いのほか力が強くギリギリと締め上げられる。
な、中身出そう……。
「ちょーーっと! ストップストップイデアくん! ユウちゃんの顔色がやばい!」
そろそろ逆流しそう、という住んでのところでケイトがイデアを引きはがしてくれた。
ありがとうケイト、お前は俺の恩人だ……。
「もー。イデアくんってばユウちゃんが来てくれたからって喜びすぎだよ」
「いやこれ喜んでるのか?」
どう見ても怯えてるようにしか見えないんだけど……。
はいはい帰るよー、とケイトがイデアに声をかけながら半ば引きずるように立たせる。
「なんか手馴れてるな」
「イデアくんはクラスメイトだからね。絶対出席しなきゃいけない講義の後とか、たまーにフリーズしてる時があるから」
「そうだったんだね。いつも兄さんを気にかけてくれてありがとう、ケイト・ダイヤモンドさん!」
「いえいえ~」
……なるほどな! 理解したわ。コミュ障陰キャと世話焼き陽キャのカップリングってことだな?
ケイイデであろうとイデケイであろうと、ケイトの方がぐいぐい押してイデアのパーソナルスペースに入り込んでいくんだろ。でもってイデアは最初そんなケイトに怯えて鬱陶しがるんだけど、ある日突然自分に話しかけてこなくなったケイトに対し最初は「清々する」とか言ってるんだけどでも次第に寂しくなってきて、そのあと「なんで来ないんだ」って理不尽な怒りを抱きはじめて…………みたいな。少女漫画じゃん。
まさに押してダメなら引いてみろ。これどっちがどってでも通じるので最高だね。
「じゃああとはそれぞれの寮に戻るだけだし、大丈夫かな?」
「うん、ありがとうユウさん、ケイト・ダイヤモンドさん!」
「気にしなくていーよ。じゃあオレはこの辺で。また明日ね!」
いつの間にかスカラビア寮を出て各寮へ続く鏡が並んだ部屋へと戻ってきたようだ。
それじゃあね、とケイトは一足早くハーツラビュル寮へと続く鏡を通って帰っていく。
宴という陽キャの集いから解放されたイデアは先ほどよりも若干顔色が良くなっており、今はオルトと手をつないだ状態で、ジトっと俺の事を睨みつけていた。
「イデア。マジで今日は悪かったな。今度なんか奢るわ……」
「拙者を見捨てた恨みは恐ろしいですぞ、ユウ氏。次のボドゲ部の活動の時は覚悟しておくんですな」
「だから悪かったって言ってんじゃん」
「誠意が感じられませんなァ」
「厄介なクレーマーかよ……」
「ふふッ」
オルトが堪らない、というように笑いだす。
「兄さんにユウさんみたいな友達がいて、安心しちゃった」
「ヘッ!? ユ、ユユユユユウ氏と僕が友達!?」
「素が出てるぞイデア。……俺はそのつもりだったけど、違うのか?」
「ヒュッ…………ユ、ユウ氏がいいなら……別に、いいけど……」
イデアは顔を青くしたり赤くしたりリトマス試験紙みたいな反応を見せた後、ボソボソと呟くような声でそう言った。
うん、こういうところもやっぱり似てるな。高校時代のコミュ障友達の鈴木くんに。
「じゃあそういうことで。そろそろ俺も帰るわ。またな、2人とも」
「あ、うん……ま、また」
「さようなら、ユウさん!」
イグニハイド寮の鏡の前に立つ2人に手を振って鏡舎を出る。
今日も騒がしい1日だったなぁ。
…………。
………………あ。
スカラビア寮にグリム忘れてきた。
ユウ
久しぶりに友達と街で遊ぶという体験ができて楽しめた監督生。
ついでに推しCPのデートを至近距離で楽しめてホックホク。
改めてイデアと友情(?)を再確認した。
謎に交友関係が広がっている。