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フォドラ。女神が創り、育て、見守ると言われている地。
遥か昔より、女神信仰のある豊穣の土地である。だが、天下太平と言えるような、誰もが満足して平和に暮らせるような土地ではなかった。
その原因の一つが、女神が下界の人間に与えたとされる紋章の力。富、武勇、権力など、様々な力の象徴とされている。
この紋章は、時に人々に安寧や豊穣をもたらし、時に人々に災禍や戦火をもたらす。
故に、人々にとって紋章という存在は力の証明と結論づけられたのである。政治においては権力を、戦においては武力を、思慮が求められる場合は知力を。紋章を持つものたちは、いつでも他よりも優遇される存在だった。
力の証明である紋章はやがて、フォドラにおける人間制度にも組み込まれていった。紋章を持つものは優遇され、それまでのフォドラにおける人間制度は崩壊していった。
才能至上主義は薄れていき、紋章を持つ者が貴族や官僚になるといった、紋章至上主義の世の中が訪れてのだ。個人の才能の有無や技術力、頭脳、武力などはおおよそ否定され、紋章を持つ者こそ、才能に優れた者であり、頭脳明晰であり武力も併せ持つと言った固定観念が定着し、貴族制度が腐敗、本当に有能な人材は、その力を発揮できぬまま一生を終えるといったことが普通となり、フォドラの大地は、発展とは裏腹に幾度も停滞を繰り返していった。
女神に創られ平和であるはずだったフォドラは、皮肉にも、女神が人々に対して与えたとされる紋章によって、その平和の日々は崩れ始めていった。
アドラステア帝国、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟。戦火に呑まれたフォドラの大地は、元はアドラステア帝国一国であったが、後にこの三大国に分裂し、自国の文化や歴史、価値観といった互いが信じる物を胸に、互いに争い合う群雄割拠の時代が幕を開けたのだ。
そこには、忿怒、憎悪、狂喜など様々な感情が生まれ、後のファドラの未来を形作る上で重要な転換点となり、また、神々や宗教との関わり合いも生まれ、複雑に絡み合い、互いの信じる物のための戦いが幕を開け、様々な物語が生まれた。
その物語には、必然的に一人の人間が存在した。
名をベレス。しがない傭兵団の団員であり、後にフォドラの中心地と言うべき場所である、ガルグ=マク大修道院で教鞭を振るった一人の教師であり、また後の三大国と密接に関わり、フォドラを安寧と平和に導いた英雄の一人である。
だが、その物語の結末は、一人の異端児によって変えられてしまう運命にあった。
この物語は、英雄ベレスの物語ではなく、後の三大国の一つである、ファドラの東に位置する有力貴族による共同体、レスター諸侯同盟を始まりとする一人の少女の物語である。
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レスター諸侯同盟。それは、王を定めず有力貴族によって統治されている共同体の名前である。
同盟の盟主は、リーガン家という貴族の家が務めている。だが、同盟の意向は決してリーガン家の意向だけというわけではない。
同盟の方針は円卓会議という議会で決定するという方針を取っており、円卓会議での議決権を持つのは、レスター諸侯同盟において、最も有力な貴族とされている五大諸侯である。
五大諸侯、すなわち五つの貴族の家のことである。リーガン家、グロスタール家、ゴネリル家、コーデリア家、エドマンド家の五つの貴族の家を指す。
家により、特色などは異なってはいるが、共通しているのは紋章を持つ者が存在しているということである。
アドラステア帝国やファーガス神聖王国に比べて新興勢力と言えるここ、レスター諸侯同盟でも紋章の重要性は依然として重視されている。貴族たちは、その派閥、そして力を蓄えるために、やはり紋章の有無こそを第一として考える紋章至上主義の者たちであった。
そんなレスター諸侯同盟に、運命の娘が生まれた。帝国暦1161年2月3日のことである。
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レスター諸侯同盟は、フォドラの大地の東に位置する。その中で、「フォドラの喉元」と呼ばれる場所が存在している。フォドラの最東端よりさらに東、フォドラの外にある隣国パルミラとの領界にある険しい山岳地帯のことである。
隣国のパルミラは度々ここを越えてフォドラに侵攻してくるため、フォドラの三大国家であるアドラステア帝国、ファーガス神聖王国、レスター諸侯同盟の三国が共同で「フォドラの首飾り」と呼ばれる要塞を築いた。
フォドラの大地は西、南、北の三方を海で囲まれており、東は唯一陸続きとなっている。
フォドラの首飾りは、外観から分かる通り、東からの外敵からの守りの拠点と言える場所である。
だが、この屈強な要塞は、隣国パルミラに限らず、陸続きからの東からの外敵、すなわちフォドラの大地以外のあらゆる国家や軍を仮想敵国としていることがわかる。
このことは、アドラステア帝国とファーガス神聖王国がレスター諸侯同盟と共同で作成に当たったことからも明らかである。レスター諸侯同盟に比べて、東からの危険が比較的に少ないと言える二国が、東からの守りを固める意味合いで要塞を作ったことは、それだけフォドラ外への恐怖というものが見て取れる。
隣国パルミラからの防衛線といえるフォドラの首飾り。この要塞の存在するフォドラの喉元と呼ばれる山岳地帯、及び要塞を守護するのは、レスター諸侯同盟における、五大諸侯がうちの一家、ゴネリル公爵家である。
このゴネリル公爵家にも紋章を持つ者が誕生した。帝国暦1161年2月3日のことである。その者の名はヒルダ。本名をヒルダ=ヴァレンティン=ゴネリルという。ゴネリルの小紋章を身に宿し、この世に生を受けたのである。
そしてもう一人、帝国暦1161年2月3日、つまりヒルダとほぼ同じ時刻に生まれた者がいた。その者の名はバーバラ。本名はバーバラ=ヴァレンティン=ゴネリルという。ヒルダとほぼ同じ時刻にこの世に生を受けた娘である。つまり、ヒルダとは双子の関係にあたる者だ。
先に生まれたヒルダが姉、後に生まれたバーバラが妹という姉妹関係が生まれた。
だが、双子でもヒルダとバーバラの間には似て非なる部分が存在していた。
成長するうちに顔つきなどは似てくるものであるが、一つだけ二人の間でどうしても変わらない、そして違う物が存在していたのである。
そう、紋章の有無である。
姉のヒルダはゴネリルの小紋章を宿し生まれてきた。だが、妹のバーバラは紋章を持たずに生まれてきた。
紋章を宿さない、その上性別が女であることを考えると、貴族間での関係構築の道具にもならないだろう。戦場に立つのも兄がいたため問題なく、ゴネリル家の継承者としてと、兄と姉がいたため、悪徳貴族の視線で見てみるとバーバラは役立たずという存在になってしまう。
故にバーバラは、ゴネリル家ではいない、存在しないものとして扱われる・・・・・
筈だったのである。他の貴族家に生まれていたらどうなっていたかわからないが、現ゴネリル家の当主であるヒルダとバーバラの両親は貴族であって貴族でないような性格をしていたため、バーバラは邪魔者とされることなくゴネリル家の娘として育てられた。
それこそ、ヒルダやバーバラが生まれると目に入れても痛くないというほど可愛がり、愛情を注いだ。そこには、紋章などという邪魔な物は介入せず二人とも平等に愛され、すくすくと育っていった。
ヒルダはゴネリルの小紋章を持ったためかどうか定かではないが、言葉を喋り始めたり、文字を読み書き始めるのにもさほど時間がかからなかった。早熟な子供であり、甘やかし愛を注いだ両親の期待以上の成長を見せた。
成長して髪が伸びると、その髪も美として両親、特に父と兄から綺麗可愛いだの耳にタコができるくらい言われた。印象に残るピンクの髪色は、ゴネリル家ではヒルダを表す色として、ヒルダ専用の小物などはどれもピンクで統一された。
一方のバーバラ。彼女はヒルダとは対照的に紋章を持っていなかったため、そこまで期待されてはいなかった。だが、彼女は良い意味で周囲を裏切った。
ヒルダ以上に早熟であり、3歳の頃には意思疎通ができ、魔導書を読むほど文字の読み書きができた。ヒルダと比べるとそこまで活発的と言える幼少期ではなかったものの、目には確かな知性を宿し貴族の末女としては、優秀すぎるほどであった。
成長するにつれ、その容姿にも磨きがかかっていった。ピンク色の髪を持つヒルダに対して、バーバラの髪の色は夜空を思わせるような濃い黒の髪。ゴネリル家では黒がバーバラを表す色としてヒルダと同じように使われた。
だが、バーバラの凄さは早熟さだけではなかった。彼女の聡明さは、両親が思っていた以上のものであった。
一を聞いて十を知る。バーバラは全てにおいてそれを実践できる存在であった。
幼少期より、文字を理解した後は数多くの本を読んだ。魔導書、戦術書、歴史書など様々な書物を読み、知識については、経営学や政治学、帝王学といった学問を修めぐんぐんと吸収し成長させていった。
5歳になる頃には、バーバラの天性のセンスは学問などの分野以外でも輝き始めた。
まずは容姿。元々双子であり、同世代の中ではヒルダもバーバラも可愛いと言える見た目でありレベルの高い物だったと言える。だが、バーバラの精神レベルがさらに向上するにつれて、容姿についても可愛いと言える物ではなく、美しいと言える物に変わっていった。それはバーバラの努力によるものであり、子供以外の他人、特に家族に舐められないようにしようとした結果である。将来的には、魔性の女と呼ばれるような美しさを持つことが十分予想できる。
また、魔法の使用や武器の扱いなども訓練し始め、度々戦を経験するために戦場を見渡すこともあった。
それだけの知識を自分の頭の中に詰めれば、バーバラ程の頭脳の持ち主なら嫌でも理解することがある。
5歳という子供にしては、私は出来ることが多すぎる。はっきり言って異常ではないか?そんな思考が彼女の中で生まれる。だが、家族のみんなは普通に愛を与えてくれる。では異常なのではない。だったら私はなんなのだ。
そう考えた彼女の中では結論が出た。私は天才だと。ただの天才ではない。武、知、政、美、どれをとっても同世代で私よりもうまく出来る人間はいないだろうと。私は生まれながらにして天才であり、天才の中の天才であると。
そして彼女は考えた。そんな私は、これからの先の人生で何をすれば良いのかと。
両親からは、姉との差別も受けずたくさんの愛をもらった。兄さんや姉さんに協力して、このゴネリル家をもっと大きくすることも悪くない。私にはその力がある。
だが、そんなことは有能な貴族であれば誰でも出来るだろう。私ならレスター諸侯同盟の盟主に育てることも難しくないだろう。
であれば私は何をすれば良い。私にしか出来ないこととは何なのか。
そんなことを五歳の少女であるバーバラは考えていた。
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ゴネリル卿は考えていた。最近愛しい娘であるバーバラが何かに悩んでいると。
大人であるゴネリル卿から見てもバーバラが天才だということは一目でわかる。何をやらせても完璧にこなすし、覚えることがあればその場で全て覚えてしまう。まさしく十年に一人の逸材と言えるだろう。
幼児期から類稀な才能を発揮していた。首が座るのも立ち上がるのも意思疎通を図ることも、想定していたよりはるかに早く成長していった。
また、常人よりも好奇心旺盛であったことも覚えている。それは今でもそうなのだろうが。
会話ができるようになってからは目につくものから「あれは何?」 「これは何?」と休む暇もなく聞いてきたものだ。そんな娘の一面も可愛いと思ったので素直に教えてあげていたものだ。
転機は本当の出会いであろう。本について「これは何?」と聞かれた時、私は正直に答えてしまい良いのか悩んだものだ。本は、この子の成長の助けに必ずなると確信していた。だが、今後私に何も聞いてこなくなるのでは?という小さな恐怖心も存在していたのだ。
本について教えたことは今となっては大正解。その後、ゴネリルの家にある本について読んでいたのだが、ゴネリルの家にある本では足りなくなる部分の物もあり、「この本を読んでみたい。」 「あの本が欲しい。」とよく聞いたものだ。
まさか、帝王学や経済学、政治学といった、私たちでも専門的に教えることが難しいようなことも理解しているというのには多少驚いてしまったが。知識だけで言えば、私やホルストよりも上と呼べるものもあるだろう。
バーバラは、武力についても申し分なかった。天は二物を与えずという言葉があるものだが、バーバラはまさしく天から二物を与えられた子だ。紋章などなくても、そこらの貴族には負けない力があるだろう。
レスター諸侯同盟では、弓術が発展していた。私もそれに倣いバーバラにはまず弓術を始めさせた。
覚えるまでは大変だったかどうか定かではないが、今ではほとんど百発百中。下手な兵士よりもうまい腕前だろう。
魔法についても凄まじい才能の持ち主だった。魔導書を開き、平然とサンダーの魔法を発動させたことは素直に驚いた。
将来的には何をさせても成功するだろう。政治家、魔道士、弓兵など、候補は様々であるが、何でもできるだろう。
だが、危険な道にはいって欲しくないものだ。これはバーバラだけでなく、ヒルダにも言いたい。まだ訓練と呼べるようなことはさせていないが、ヒルダの紋章がそうさせる日がいずれ来るだろう。
そんな何をさせても上手くいく天才が珍しく悩んでいるのだ。これは両親からすれば素直に嬉しいことだ。娘の悩みを聞いてあげるのも家族のつとめ。力になれるかどうかは分からないが聞いてあげよう。
「バーバラ。最近何かに悩んでいるのではないか?」
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このゴネリル卿の一言が、バーバラと呼ばれる少女の人生を左右することとなるのはまだ誰も知らない。