閃剣へ至る英雄   作:エアリック

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初めまして、エアリックと申します。
閃の軌跡Ⅲ開始時点で剣聖となる強化リィンでの再構成ものです。オリジナルな展開を入れつつ、原作を辿るように書いていければと思います。
初投稿なのでチラ裏にする程度のチキンです。
基本リィン視点で進めます。
1話あたり5000文字程度を目安に投稿予定です‼️
アンチ・ヘイトは念の為ですが、そんな展開になるときはなります。


1話

 七曜暦1206年3月、エレボニア帝国某所。

 日の光も陰る鬱蒼とした森の少し開けた場所。そこで二人の人物が向き合って対峙していた。

 両者の手には帝国では珍しい、剣にしては細身の刀身。実戦に使うよりも嗜好品としての趣で知られる東方由来の太刀と呼ばれるものだ。それを互いに下段に構えている。

 一方は黒髪の凛々しい顔立ちをした青年。もう一方は既に老人と言っていいだろう、白に染まった髭を携えた男。ぶつかり合うには些か不釣り合いとも思える二人だが、力では勝っていると思える青年の方がどこか余裕がなさそうにしている。

「リィンよ、これが最後の試しとなる。より危うくなったその鬼の力……。見事御してみせるがよい」

「……はいっ!」

 老人からの言葉に答えた青年は、集中するためか目を閉じ始める。

 

 ……まだ俺にこの力を御せるとは思っていない。だが、老師はそれでも敢えて制御しろとおっしゃっている。

 脳裏に浮かぶのはつい最近のこと。北方戦役と呼ばれる帝国軍によるノーザンブリアへの侵攻。そこで町中に放たれた人形兵器から住民を守るべく解き放った鬼の力だったが、結果的に暴走を引き起こし、数日間寝込むこととなってしまい、避難誘導に加わっていたサラ教官やアルティナ、クレア大尉にも心配をかけさせてしまった。

 老師は出来ないことを無理にやれと言う方じゃない。出来ると思ってくださるから言っているんだ。……なのに自信がないのは、俺に迷いがあるからか。

 使った結果、また暴走するだけなら自業自得と思える。情けなくはあるがそれが今の自分なのだろう。しかし、こんな俺を後継者として見初めてくれた老師の期待を裏切る形になってしまうのは嫌だった。

 そんな思いを悟ったのか改めて老師から言葉が発せられる。

「心配することはない。既にお主は内戦を通して大きく成長した。身も心もな。良き縁に恵まれたのは聞かんでも解る」

 その声色は慈しみに満ちている。弟子の成長を心から喜んでいるようだ。

「だからこそ此処で立ち止まってはならんのじゃ。役目に迷うこともあろう。じゃがそれを乗り越え、自らの決意に揺るぎない芯を通すためにも、お主はそれを制御できねばならぬ」

「……っ!!」

 ……そうだ、そうだった。あの煌魔城でのクロウの言葉が俺達Ⅶ組の背中を押してくれた。

 ただ、ひたすらに前へ──。

 皆が今自分にできること、それぞれが考え答えを出した。結果として学院でのⅦ組は解散となったが、それでも俺達は繋がっている。前を向いて進んだその先に、再び道は重なると信じて。

 寂しくなかったと言えば嘘になる。あの最高に輝いていた時間を取り戻すために内戦を戦ってきた。一人学院に残ったことも後悔はない。だが、心の片隅で俺の選んだ道は正しかったのか不安に思うこともあった。堂々と前を向いて歩んでいる皆に比べて、俺は流されただけなんじゃないかと。

「昔からそうやって自身に否定的なところは変わらんのぉ……。まぁ、驕れるよりかはマシじゃがな。……改めてになるがな、リィン。精神的にも成長したお主が見出だした道を不安に思うことはないのじゃ」

「老師……、ですが俺は……」

 俺の心の迷いや不安など老師は容易く見破ってしまう。そこに驚きはないけれど、こうも簡単にばれてしまうのはやはり俺が未熟であることに他ならない。

「やれやれ……。ならば言い方を変えるとするかの。よいか? お主が信じる仲間が信じるお主を信じよ」

「っ!!」

 ……やはり老師には敵わないな。こうして迷いを抱えている俺を、いつも優しく、厳しく導いてもらってきた。……そうだよな。最後の別れの時、皆はどんな顔をしていた? 情けない俺を心配しているような顔だったか? 

 違う。こんな俺でも信じてくれていたから、笑って再会を約束できたんだ。そんな俺がこんな所で足踏みしてしまっては、彼らの思いを裏切るだけだろうっ!! 

「老師。やはり自分はまだまだ未熟です」

「ふむ……?」

「ですが、そんな自分でも支えてくれている周りの為にも、こんな『鬼の力』程度に負けてはいけない。これに奪われていいと言えるほど、──もう、『俺』の存在は軽くない……!」

 内戦以降、鬼の力の支配は強まってきている。まるで何かに求められているように、俺という存在を上書きしようとしている。

 正直それでもいいと思っていた。俺が犠牲になることで問題が解決するのだろう。なぜかそんな確信めいたものを感じる。

 だけど、老師の言葉が気づかせてくれた。俺が一人で犠牲になることは、俺を信じてくれた仲間に対する裏切りではないのか、と。

『人が人に影響を与え、支え合い、互いを生かし合う──』

 神気合一に目覚めた時に理解した筈の境地。あの時は分かっていたつもりだったけど、それは驕りだったな。俺は守られていたけど、なにより自分を守るつもりがなかった。自分を大切にできない存在が、他の存在を守れるはずもなかったんだ。そんな大前提を理解できていなかった。

『リィン……ッ!!』

 内戦を通して大事な存在となった彼女。思い返せば、不安げな顔ばかりさせてしまっている。彼女だけではない。他のⅦ組のみんなにもそんな顔させてばかりだった。

 彼らが前へと進んだ原因の一つは、俺のこの考えを理解していたからなのかもしれない。一人で抱え込むバカを抑えるために、それぞれがすべきことを見つけたのだろう。守ってるつもりが、守られている。……俺はいつもこうだな。

 だけど、安心してほしい。俺はもう、俺という存在を見捨てない。皆が信じてくれたリィン・シュバルツァーは、此処にいる。

「おぉぉぉぉぉっっ!!」

 鬼の力に頼るのではない。鬼の力を使えるまでに鍛えた自身の身体を、精神を信じ、闘気として練り上げる。誰かを守るためだけじゃない。自分を含めた皆を守るために、『今』を奪おうとする『敵』を打ち払うために! 

「はあぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 赤い、焔を思わせる闘気を吹き上がらせたそれは、確かに鬼の力を利用したそれよりも力強くはない。だが、力を利用したときに見られた髪や瞳の変化は見られないにも関わらず、確かにリィンの身体を強化していた。

「……見事」

 老師と呼ばれていた老人が、その様子を見て頬を緩ませている。弟子の成長を何より喜んでいるようだ。

「ならば先ほどの言葉、そしてその闘気が見せかけでないことを示すがよい」

 その言葉と同時に老人から清廉とした力強い威圧感が増す。

 対峙したリィンに動揺は見られない。鞘に納めた太刀に手を添え、抜刀の構えをとる。

「……参ります」

 宣言が終わるや否や、リィンの姿が消失する。そう見えるだけの速度で瞬時に間合いを詰めたのだ。しかし、老師には視認できているのか、下段に構えた太刀をピクリとも動かさない。攻撃に合わせて迎撃する格好だ。

《──無念無想。我が八葉……此処に煌めけ!》

「……むっ!?」

 リィンの声が響いた瞬間、その闘気が膨れ上がる。あくまで姿は見えないものの、老師が攻撃を弾いたと思われる音から、リィンによる攻撃は行われている。

 その強い剣閃の衝撃で大地は抉れ、それは老師を中心に蓮の花が描かれているようにも見える。

《──八葉一刀、刻閃刃っ!!》

 姿を見せたリィンが太刀を翻し納刀する。同時に地に描かれた蓮の花が赤く煌めき、焔となって老師を飲み込む。それは突如咲いた蓮の花が対象者ごと再び閉じようとする姿を幻視させた。

 

「はぁっ、はぁっ」

 自身の強化に加え、唐突にイメージできた自分なりの八葉。その技を放つにはまだ早かったのか、身体にかかる負担は大きかった。

 だが、これまでに感じられなかった何かを掴んだ手応えはある。これが今の自分に出せる全力であるのに間違いはなかった。

 しかし現れていた焔が消え、その中心になんともない老師の姿が現れたのは流石としか思えない。―いったいこの人はどこまで高みにいるのだろう。

「想像以上に素晴らしい技じゃった。お主の八葉、確かに儂が見届けた」

 どこか誇らしげに見えるのは自分の欲目だろうか。疲労した頭では判断ができない。

「カシウスともアリオスとも違う、お主だけの八葉。鬼の力に頼らず、この技を放てたその技量。──よくぞここまで成長した」

「……ありがとうございます。何よりのお言葉です、老師」

 失望させるような事態にはならなかったようで感心する。少し誉められすぎな気もするが、やはりこうして認めてもらえることは何よりも嬉しいものだ。

「何よりも、──『至った』ようじゃな?」

『理』。武の極致に触れたものはそれに至ると言われている。先ほど感じたこれがそうなのかは分からないが、これまでと違う感じ方をしたのは確かだった。

「これがそうなのか自分にはまだ分かりません。しかし、自身の剣の在り方についてはもう間違えることは無いと信じられます」

 今まで靄がかかったような状態であったと錯覚するほどの冴えを感じる。この事に高揚しているのは間違いないのに、自然と穏やかな心地がする。

「よいよい。お主の立ち振舞いからもそれは感じておる。──最後の試し。これにて終了とする。勿論、結果は言うまでもないじゃろう」

 最後の試し。これを合格したものは『皆伝』とされ、一人前として認められる。

 そして、八葉一刀流の『皆伝』とは即ち──。

「リィン・シュバルツァー。ここに七の型、皆伝を授ける。これより『剣聖』を名乗るがよい。弟子をとるのも自由とする。──そして、いつか儂の八葉を真の八葉として完成させよ」

「っ!? ……リィン・シュバルツァー、確かに承りました!」

 

「老師はこれからどうなさるのですか?」

 試しを終えたあとのこれからの予定を伺う。俺はこの後トールズ第Ⅱ分校の教官として赴任が決まっているため、その準備などを行わなくてはならない。急に訪れられた老師との試しが行われたために、何も用意ができていない状態なのだ。

「東方面で龍脈が荒れておっての。暫くはそちらにかかりきりになりそうじゃな。試しを強行したのもそういった事情があったのもある」

 東方面か。あちらでは荒れた大地が多いと聞いているが、龍脈が影響してるのだろうか。自分ではまだその辺りは理解が及んでいないため、お力になれそうにもない。

「そうですか。お時間があればユミルに招待させていただきたかったのですが、お忙しいのであれば、無理を言うわけにもいきませんね」

 決して連絡が取れてなかった言い訳をしてほしい気持ちはない。……怒ってるだろうな、皆。

「気持ちだけ受け取っておこうかの。なに、全てが終わればゆっくりさせてもらうつもりじゃ。その時を楽しみにしておるぞ」

「承知しました。老師もお気をつけて」

 そうして、老師は歩いて共和国方面へと向かっていった。歩きで行ける距離では無いと思うが、どこかに交通手段でも用意されているのだろう。

 

 老師と別れたあと、俺は移動のために鉄道を利用しようと駅に向かって歩いていた。

「俺も赴任のための準備を始めなきゃな。まずは──―っ!? この気配は!」

「──対象を捕捉。拘束します」

 すっかり見慣れた戦術殻に腰掛け、最近までパートナーを組んでいた少女がこちらを睨みながら突っ込んでくる。不穏な言葉も発しているようだが、連絡できなかった自分が悪い。それに、どうやら少女だけではないようだな。

「総員、確保っ!!」

 涼やかな声の号令と共に押し寄せてくるのは、鉄道憲兵隊だろう。押し通ろうとすればできると思うが、非はこちらにあるので抵抗はしない。

 こちらに抵抗する気がないと分かったのだろう。押し寄せてきた隊士達もそこまで力を込めて拘束するようなことはなかった。

 ここまではいい。問題は──。

「急に連絡も無く、姿をくらませたこと。それに対して弁明はありますか?」

「説明を要求します」

 近づいてきたクレア大尉とアルティナ。怒りのオーラをばらまいているこの二人にどうやって納得してもらえるか、だな。

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