そろそろオリジナルな展開が入ります。メイビー。
城館を辞した後、特務活動を開始したⅦ組。記念すべき初の要請は【猫の捜索】が選ばれたようだ。難易度もそう高くなさそうだし、取りかかりとしてはいいと思う。話を聞きに依頼者の元を訪ねれば、いなくなったのは仔猫。飼い主である女の子が涙ぐみながら必死に説明してくれた。
そんな姿を見てしまったユウナの気合いがスゴいことになっている。クルトやアルティナもそれにつられた訳ではないだろうが、必ず探し出す、といった様子を見せた。
捜索の過程で、空港付近で出会ったワイルドな服装の女性。纏う雰囲気が一般人のそれとは異なっていたが、上手く隠しているためか生徒達がそれに気づくことはなかった。…まぁ、警戒だけはしておこう。
無事に迷い混んだ場所を突き止め、飼い主である女の子にも協力して貰って依頼は達成された。
直に感謝を伝えられたことにやりごたえを感じたのか、その後もハイペースで任意の依頼を片付け、今は大聖堂からの依頼である《エリンの花 》を集めるため、採取場所であるという《イストミア大森林》に足を踏み入れた所だ。
「うわぁ…雰囲気ある所ねー!」
「僕もここまで来たことは初めてだが…これはスゴいな」
「何かが出てもおかしくなさそうですね」
それぞれが感想を出しあっているが、この気配は……油断できそうにもないな。
「どうやら、上位属性が働いているようだ。こういった所では魔獣も普段より強力になっていることが多い。各自、気を付けて進むように。」
俺からの忠告に、上位属性が働くという言葉に覚えがない様子を見せたクルトから質問を受ける。
「その、上位属性が働くとは?七耀の属性に当てはめれば、時空幻のことを指しているのはなんとなく理解できますが、それがこの場所にどう作用していると?」
ユウナも疑問を持ったらしく、クルトの言葉に同意するように頷く。それに答えようとするが――。
「所謂、霊的な力が働いている空間のこと。と言われていますね。普通では考えられない現象などが起きやすく、幽霊のような存在も確認されることがあるようです。」
アルティナが代わりに答えてくれた。幽霊という言葉にユウナが怯えを見せたが、目標である花は奥に咲いているらしいので、我慢してもらうしかない。
「それは……もしかして、調査対象の謎の魔獣に原因が?」
それは違うと思う。謎の魔獣の正体は十中八九、人形兵器だと思うが、あれにはそんな能力はないはずだ。
「いや、この森自体がそういった場所なんだろうな。魔獣が強力になった原因は謎だが、 例の魔獣とは無関係だろう。」
「……断定しますね。となると、教官は例の魔獣の正体に"当たり"がついている。ということですか。」
流石に鋭いな。その通りだが、今、ここで話すことじゃない。先にやるべきことを済ましてしまうべきだ。
「……一応はそうだな。だが、今はそれよりも依頼を遂行するために先へ進もう。」
依頼を優先するように促すと、俺と同じく心当たりがあるアルティナ以外の二人は少し不満そうだったが、言われたことも理解できたのかで大人しく指示にしたがってくれた。
凶暴化した魔獣といっても、これまでの三週間近くを、俺と訓練を重ねた生徒達が苦戦するような事態には遠く、大司教から教えられた群生地と思われる場所までそう時間はかからなかった。
青く色付いたラベンダーの香りが漂っているが、どこかで覚えのある匂い。これは……クロチルダさんの香水と同じ?この花から作られているのか。
「教官?」
足を止めて考え込んだ俺に、アルティナが声をかけてくる。
「ああ、すまない。依頼にあった花で間違いないだろう。早速採取を――。」
それぞれで分担し、採取を行ってもらおうと指示を出しかけた所で、周りの気配が一変する。
「その前に――総員、戦闘準備。」
離れた場所から草を掻き分けてこちらへ向かってくる音がする。それも複数。かなりのスピードだ。俺からの警戒指示に三人の緊張も高まる。
それぞれが武器を構えた時、現れたのは大型の蜘蛛を模した魔獣。俺達を囲むように陣取っていることから、知性も高いと推測できる。
「蜘蛛ぉ!?」
「かなりの数だな……どうしますか?教官。」
「問題ない、このまま迎撃だ。――各員、背後には気を付けて、各個撃破に務めてくれ。」
「了解。――迎撃を開始します。」
多少手強いとは思うが、今の彼らの力量であれば問題なく対処できるだろう。
予想通り、魔獣の迎撃は問題なく完了した。その事を労り、今は依頼物である薬草の採取を行ってもらっている。俺は念のためとして、周りを警戒する役目だ。もう心配はないと思うが、上位属性が働いている以上、油断は出来ない。
「よしっ!!採取完了!」
「ああ、こんなものだろう。」
「ミッションコンプリートですね。」
手早く行動を済ませた三人が戻ってくる。
「お疲れ様だ。じゃあそろそろ――」
セントアークへ戻ろうと提案しようとした瞬間のことだった。胸の鼓動が急に激しくなる。これは……『鬼の力』が反応している?一体なぜ?
治まるどころか、より激しくなる鼓動につい胸を押さえて膝をついてしまう。それを見た生徒達からは心配する声が上がるが、答える余裕がない。
『……おや、結界に反応してしまったようじゃの。』
――遠ざかる意識の隅で、女性の声が聞こえる。
『ふむ……。聞いていたよりも支配が強まっているようじゃ。』
聞いていた?支配?古めかしい口調の女性から無視できない言葉が紡がれる。だが、それを問い質そうとしても声が出ない。顔を上げれば、生徒達は時が止まってしまったように、不自然な体勢で制止している。視界は赤く染まっており、何もかもが異常な様子となっていた。
『しかし、同時に安定もしているというよくわからん状態じゃな……。何かしたのかお主?』
腑に落ちないといった表情を浮かべるのは、金の髪に赤い瞳を持つ少女にも見える女性。見えるというのは、確かに見た目は少女なのに、その存在感はまるで人ではない様に感じたせいだ。それこそお伽噺に出てくる《吸血鬼》と言われても違和感がないと思えるほどに。
『まぁよい。――此れより先はまだ早い。いずれ合間見えようぞ《灰の
言葉が終わると同時に不思議な感覚が終わる。視界も元に戻り、いつの間にか胸の鼓動も治まっている。
「……リィンさんっ!」
近くでアルティナが焦ったように声をあげている。クルトやユウナも俺の急な変調に慌てている様子がうかがえた。
「…すまない。もう、大丈夫だ。」
俺のある事情を知ってしまっているせいか、普段では考えられないほどに動揺しているアルティナを落ち着かせるために、俺は声をかける。
立ち上がり笑みを浮かべる俺を見て、心配そうな様子は消えないが、少なくとも落ち着きはしたようだ。それを確認できたので、残りの二人にも同じように心配をかけてすまない、と謝罪した。
「ま、まぁ、大丈夫って言うなら取りあえず信じますけど……。無理はしないでくださいよっ!?」
「何らかの事情がある様子。……自分では力になれるかわかりませんが、ご相談していただけたら。」
二人とも俺の事を思ってくれて言ってくれているのがわかる。いずれ話すことになると思うが、もう少し時間が欲しい。
「ああ、ありがとう二人とも。もちろんアルティナもな。」
「……リィン教官のサポートが私の任務ですので。」
アルティナにも改めて礼を述べた後、少し時間を置いて森林を出るため動き出すことにした。俺は直ぐにでも動こうと言ったのだが、生徒達がそれを頑なに認めず、小休止を取る様に強制されたためだ。……心配かけてしまったのは教官として失格だな。気を付けよう。
イストミア大森林を抜け、大司教に依頼物を届けにセントアークへ戻った俺達を迎えたのは、教会から響く弦楽器の旋律。
「うわぁっ、素敵な音色ね〜〜!」
ユウナがその旋律に自然と笑顔を浮かべる。
「教会から聞こえてくるが、何処かの楽団でも来たのかもしれないな。」
「見事なものですね。」
クルトやアルティナも素直に感心している。俺はというと、聞こえてくる華やかな響きに、実習前に通信で会話した旧友の姿が思い浮かんだ。
「教会に行くことに変わりないし、そのついでに演奏も聞いていこうか。」
提案には文句ないようで、生徒達はこの演奏をしている者に対する純粋な興味。俺は懐かしい再開となることをどこか確信した歓喜。それぞれの思惑は異なるものの、全員が少し足早になりながら教会へと入っていく。
結果として予想通りの人物が、観客を魅了する演奏を行っている。その姿を確認し、こちらを振り向いたアルティナだが、俺は首を横に振ることで知らなかったことをアピールする。偶然ではないと思うけどな。
やがて演奏は終わりを迎え、盛大な拍手に包まれながら演奏者は観客に対して深々と礼をする。その際にこちらに気づいたらしく、目があった時に片目を瞑って合図をしてくる。不思議と様になっているが、俺がやったら失笑ものだろう。ふと、そんなことを考えていると、合図に気付いたクルトから質問が飛んでくる。
「今のを見る限り、あの人も教官のお知り合いですか?」
あの人も。というのはセントアークでヴィヴィにも既に会っているからだろう。相変わらずの性格だったので、彼らは少し面食らったようだが。
「ああ。だけどヴィヴィと違って、彼は二重の意味で君達の"先輩"と言えるな。」
「へ……?」
俺の答えに意味がわからないと疑問を浮かべるユウナ。まあ、この意味が理解できるのはこの場ではアルティナだけだろう。俺の意を汲んだように説明を行ってくれる。
「彼はトールズ卒業生という意味ではあの女性と同じですが、同時にリィン教官が所属していたクラスである《Ⅶ組》のメンバーでもありました。二重というのはそういうことでしょう。」
「Ⅶ組の……。ちなみにお名前は?」
アルティナからの説明に納得の表情を浮かべたクルトは彼の名前を聞いてくる。
「彼の名は『エリオット・クレイグ』。最近帝都でデビューした天才演奏家って評判の人物だよ。俺の友人であり、かけがえのない仲間の一人さ。」
少し誇らしげに言ってしまったが、まぁ本当の事だしな。これくらいはいいだろう。
エリオットには場が少し落ち着いたのを見計らって挨拶をした。アルティナ以外は初めての会合となるので自己紹介も簡単に。こちらも活動の途中であり、彼もこの後に子供達に演奏方法を教えるらしいので、あまり時間は割けなかったからだ。既に教会の部屋からは子供の楽しそうな声と拙い旋律が響いている。
俺達も大司教に依頼物を納品したことで、セントアークでの依頼は完了となる。残るは重要事項案件である魔獣の調査だけ。そこで俺はクルトとユウナに"謎の魔獣"の心当たりについて共有しておくことにした。
「さて例の魔獣だが、恐らくは《人形兵器》と呼ばれる物だろう。」
存在を知っているかどうかはともかく、その性能については多岐にわたり、下手な魔獣よりも遥かに危険な物であることも伝えていく。そして、それらをよく利用する組織について。
「き、聞いたことあるかも…。クロスベルにも出たって……。でも、そうだとすると《結社》が絡んでるってことですかっ!?」
「少しですが兄達から聞いたことがあります。凄腕が集まり暗躍している犯罪組織…でしたか。内戦に関わっていたとも。」
クロスベルでは例の大樹事件にも関わっていたから、それならばユウナも知ってておかしくない。クルトもミュラー大佐など軍上層部なら誰でも知っている重要事項なので、話題として触れていても当然だろう。
「ああ。ただ、今回の事に奴等が関わっているとは断言は出来ない。内戦の時に放たれたのが稼働しているという報告もあるらしいからな。」
「そのようですね。更には、闇のマーケットに兵器を売り捌いている噂まであります。」
俺の考えにアルティナが追加で情報を補足する。
「な、何て迷惑な奴らなのよ……。」
「……想像以上に厄介な存在のようですね。」
思っていた以上の規模感の組織だったことにげんなりとした雰囲気を出すユウナ。クルトは自分が考えていたよりも悪辣な組織らしいと思い直したようだが、多分それでもまだ甘い気がする。ブルブランとかいるしな。
断言は出来ないと説明したが、引っ掛かっていることはある。空港出口付近で遭遇した女性。只者じゃないのは間違いないはずだが、仮に彼女が結社の関係者であるなら――。
「君達に確認しておく。この調査の結果次第では、それこそヴァリマールを使うことすら視野にいれる必要が出てくる。そんな事態になった場合、俺はこれまでのように君達のフォローをする余裕は無いだろう。」
一度言葉を切る。いきなり大きくなった話に全員が真剣な表情で俺を見つめている。
「それでも、俺と行動を共にするか、離れて待機するか。
――半端な覚悟では、命を落とす。良く考えて決めてくれ。」