不快になられたらすいません
ラウラの助力が得られる以上、俺が無理することはない。恐らく彼女一人でも対処は可能だろうが、そこは男の意地って奴だな、うん。
「秘技――裏疾風っ!」
通常の疾風による高速移動からの斬擊に加え、更に衝撃波による追撃を行う、弐の型でも習得までの敷居は高い分、トップクラスの威力を誇る秘技。俺の力量ではそこまでの範囲を持たないが、大型の人形兵器相手なら十分だろう。
実際に技を受けた相手の動きはかなり鈍っている。そんな隙を彼女が見逃す筈もなかった。
「砕け散れっ!――獅子連爪!」
瞬時に間合いを詰めて飛び上がり、上段から豪快に叩きつける彼女らしい剛剣による一撃。
弱った人形兵器がそれに耐えきれる道理はなく、その身を爆散させていく。それが治まった時、既に目の前に陣取っていた人形兵器の群れはその姿を消していた。
「………へ?……」
「…アルゼイドの……絶技…」
「…リィン教官もですが、以前と戦闘力が違いすぎるような……」
それぞれが起きた現実に対して理解しきるのに精一杯であるのに対して、現状を作り出した俺と彼女は武器をしまい、互いに距離を縮めていく。
「久しぶ――」
こちらから声をかけようとしたのだが、それは突然の彼女からの抱擁によって遮られた。
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
それに一番驚いたのは俺ではなく、ユウナだった。いや、ちょっとラウラさん?
戸惑っている俺の気配を察したのか、抱擁は解かれなかったものの、この行為に対する説明を始めてくれた。
「この程度は我慢するがよい。文を交わしていたとはいえ、こうして顔を合わせるのは久しいのだから。…しかし、正直見違えたぞ。」
「はは、すまない。でも君も凛とした雰囲気は変わらないが、とても綺麗になった。」
心からの言葉だったのだが、言われた本人は嬉しさと諦めの感情が混じっているように見える。
「……なるほど、そこは変わってないようだな。まさしくリィンだ。」
そう言って、抱擁を解いてくれる。俺は変なことを言ってしまったのだろうか。学生の頃から似たような視線を送られることが多くなったが、未だに良くわからない。
ぶつぶつと何かを呟いているラウラと見つめ合っていると、放置されていた生徒達から声がかかる。
「あ、あの〜。この人はリィン教官のお知り合いってことでいいんですか?」
「…お噂はかねがね。」
「お久しぶりです。…早速ですが先程の行為についてエリゼさんに報告するので、弁明をお聞きしましょう。」
それを聞いて、一つ咳払いをした彼女は彼らに向き合って返事を返す。……アルティナが何かおかしいことを言っているが、誰も突っ込まないのか。俺は聞いても無視されるから諦めた。
「フフ、見知った顔もいるが改めて名乗らせてもらおうか。
レグラム子爵家が息女、ラウラ・S・アルゼイドという者だ。そこの朴念仁とは以前のⅦ組でのクラスメートでもある。見知りおき願おう、後輩殿達。
……ああそれと、アルティナだったか。この件に関しては許可を得ているゆえ、エリゼ嬢に報告は必要ないぞ。」
簡単な自己紹介を後輩となる彼らに行ったのだが……だから最後は何なんだ?俺の知らない所で独自の連絡網があるみたいだ。
その後パルムのヴァンダール道場へ戻り、現時点でお互いが知り得たことを共有する。
「そうか……結社がな。」
「ああ、何かしようとしているのは間違いないと思う。それが何なのかはまだ掴めていないが。」
彼女も結社の厄介さは承知している。内戦でも随分と振り回された。
「相変わらずか。奴等の厄介な点はそこであろうな。事が起こらぬと、その目的すら不明なままだ。」
「確かに謀略に関しては情報局並みですね。」
しれっと自分が所属していた部署が謀をしていると暴露している。実際にはまだ所属はしたままな気もするな。
「……アンタねぇ…」
「君がそれを言うのか……」
クラスメートの二人も、アルティナの暴露癖には慣れ始めてきているが、やはり急に言われると驚きが先に来てしまうようだ。
あらかたの情報は伝え終えたところで、ラウラは稽古の指導に戻り、俺達も演習地に戻るために道場を後にした。
「ここから演習地まで徒歩で二時間くらいでしょうか?」
「ああ。馬なら30分かからないくらいで着くだろう。」
「日没前には戻れそうねー。お腹すいたなー。」
初めての特務活動は無事に一日目が終了。人形兵器を相手にしたのだから、疲労も相当のものだろう。繋がれた馬の元に着いたときには、みんな気が緩んでしまっている。
「今日は夕飯を取って早めに休むといい。
――ただし、今日の特務活動の内容をまとめたレポートを提出してから、だが。」
スパルタだとブーイングがあがるが、協力してやればそこまで時間はかからないはずだ。頑張ってもらいたい。
午後8時。夜営の準備を生徒主導で行い、それぞれが割り振られた役割を全うしている中、俺たち教官陣は、活動初日の振り返りを行っている。
成果としては上々であり、なにより《結社》が何かの思惑をもって行動しているのが判明したのは大きいだろう。
「全く厄介な……」
ミハイル主任も事態が大きくなったことに愚痴を思わず溢してしまっている。
「結社が絡んでいる以上、この戦力だけで対処は難しいと思います。ここは応援を要請するべきでは?」
俺からの提案に、トワ先輩やランドルフ教官も同意見のようだ。
「シャーリィがいるとなると、星座の連中も待機してると思うべきだぜ。ガキどもには手に余る。」
「通信網の構築は完了しています。今なら領邦軍や正規軍司令部ともコンタクトは可能です。」
それぞれ結社の厄介さを知るからこそ、応援の必要性を訴える。だが、主任の判断は異なるようだ。
「展開された人形兵器の数も少数。その目的も解明していない状況で応援は呼べん。」
あくまで第Ⅱの戦力で事を済ませるつもりらしい。
「そんなっ!?あの組織はそんなに甘く見ていい相手じゃありませんっ!」
「ハーシェルの言うことも理解できる。……だが、そのための第Ⅱであるというのも弁えてもらいたい。」
トワ先輩の抗議にも理解は示すが、その姿勢は崩さない。機甲兵や装甲列車を擁し、演習地を構築した今の状況は、生徒達が未熟といえどそれなりな戦力となっている。その事を説明した上で主任は言葉を続けた。
「国際規模とはいえ、所詮は犯罪組織風情。対処は容易い――」
《アハハ、それはどうかなぁ……?》
主任の言葉を遮るように唐突に響く女性の声。これは昼間の――!?
「――この声はっ!」
声に反応し、席を立ち上がった瞬間のことだった。空気を裂くような飛行音が聞こえて来たと思えば、すぐ後に爆発音が続く。
「これはっ!?」
「――《
急いで外に出てみれば、砲撃によって煙をあげている機甲兵。列車にも損害が出ている。
「――危ないから、機甲兵から下がって!!」
近くにいる生徒達へトワ先輩が指示を出す。生徒達は突然の事態に理解が追い付いていないのか、行動できずに立ち竦んでいる。
襲撃者の姿を探す俺達だが、俺が気付くとほぼ同時にランドルフ教官もその存在を見つける。
演習地から少し離れた場所の丘。その頂上に二人の人影が確認できた。一人は昼間出会った女性――彼女がシャーリィとランドルフ教官が呼んでいた人物。そしてもう一人は内戦でも遭遇した女性剣士。パルムの宿酒場で聞いた淑女風の女性は彼女のことだったか…!
「シャーリィ!てめぇ!!」
「あははっ!久しぶりだねぇ、ランディ兄…!」
ランドルフ教官が怒鳴り付けた女性は、それを意に介さず、まるで普段通りのように挨拶を行う。片手に持っている対戦車砲が、この襲撃の実行犯であることを物語っていた。
「あんたは――。」
「久しぶりですわね――《灰の
《身喰らう蛇》が第七柱直属、《鉄機隊》筆頭隊士のデュバリィです。」
そこで言葉を区切ると、全員を見渡すように一瞥してから言葉を続けた。
「短い付き合いになると思いますが、第Ⅱとやらに挨拶に参りましたわ。」
それを受けて、隣にいる女性…シャーリィも同様に己の紹介を始めた。
「執行者No.XVII――《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド
よろしくね、トールズ第Ⅱのみんな」
場違いにも自己紹介など始めたが、こちらはそれどころではない。ランドルフ教官は更に従妹であるという彼女を問い詰める。
「てめぇがいるってことは…まさか、叔父貴も来てんのかっ!?」
「やだなぁ…こんな楽しい仕事、パパに譲るはずないじゃん。少し戦力は借りたけど、あくまで個人的な暇潰しかなぁ。」
楽しい?暇潰し?――なんだ、それは。
「問答無用の奇襲、一体どういうつもりだっ!?」
声が荒ぶってしまう。だが、こちらの感情など知ったことではないといった態度で、彼女達は俺からの質問に答える。
「――決まってるじゃん」
シャーリィと呼ばれた女性が対戦車砲を放り投げ、赤に染められた武装を取り出す。先端の楕円形をした部分についた刃が、唸りをあげながら高速に回転を始めた。あれが彼女の武器か。
「《テスタロッサ》…!」
ランドルフ教官は流石にその武器を知っているようだが、その表情は暗い。強力な武装であることがそれで理解できた。そこにデュバリィが言葉を続ける。
「勘違いしないでください。私達が手を出すまでもありません。」
彼女が剣を掲げると、その場に現れたのは今日の演習で戦った人形兵器の群れ。演習地入り口からも続々と侵入してくる。
「ここに来たのは挨拶と警告――。
あなた方に"身の程"というものを思い知らせるためですわっ!!」
「あははっ!それじゃあ、歓迎パーティを始めよっか!」
心底楽しそうに笑っている紅の戦鬼。
「我らからのもてなし、せいぜい楽しむといいですわ!」
常にこちらを見下す態度を変えない筆頭剣士。
なんなんだ、アンタ達は。
――身の程を知れ?パーティを楽しむ?何を言っている。
Ⅷ組はランドルフ教官が既に指示を出している。Ⅸ組の担当であるトワ先輩も同様だ。それぞれの生徒が必死に恐怖を隠しながらも、与えられた指示を全うしようと努めている。
「リィン教官っ!!」
「僕たちはどうすればっ!?」
クルト達も俺の指示を待っている。何をすればいいか?そんなものは決まっている。Ⅶ組であれば遊撃が妥当だ。彼らを率いてⅧ組、Ⅸ組をフォローするように動けばいい。
そうだ、やるべきことは理解している。ならばそれを実行するだけ。
「ちっ……どこからここまでの戦力を…。」
ミハイル主任も全体を見渡して、的確に指示を出している。
「Ⅶ組は遊撃をっ――?シュバルツァー!何を突っ立っているっ!?」
Ⅶ組にも指示を出そうとした主任が、動こうとしない俺に対して罵声をあげる。
「リィン教官ってばっ!!」
「教官っ!僕たちも加勢しないとっ!」
「……あ…」
生徒達からも再び催促の声があがる。だが、今の俺の思考はそれどころじゃなかった。
――黙って聞いてれば、勝手なことを。そちらの都合で好き勝手に犯罪行為を繰り返し、訳のわからない計画とやらの予定に邪魔ならば、問答無用の襲撃。それでいてこちらを無知の存在であるかのように見下す。自分達が強者であることを疑っていない。
――
どれだけアンタ達は偉いんだ?その計画とやらは無関係な人を巻き込んでまで達成しなきゃいけないことなのか?この理由も話もせずにただ受け入れろと?こんなことをされて楽しめ?暇潰し?身の程を知れ?
――ああ、そうか。なら、こっちも思い知らせてやる。アンタ達が思っているほど……アンタ達は強くないってことを!
だから、
何が原因で俺の身に宿ったのかはこの際どうでもいい。俺を支配しようとしても構わない。
その上で俺はお前の支配を拒絶する。してみせる。みんなが信じてくれた俺という存在を、お前ごときが簡単に奪えると思うな!
「神気合一っ!!」
瞬間、俺を襲う圧倒的な狂気。今まで抑圧させていた分、その反動は大きいようだ。
――だが、それがどうした?
そんなもの、生徒達やこの地に住む無関係な人々の尊厳が汚されてしまうことに比べれば、大したことじゃない。その程度なら、大人しくしていろ。
さあ、覚悟してもらおうか、結社の二人。八葉一刀流、漆の型《奥伝》――リィン・シュバルツァー、参るっ!!