閃剣へ至る英雄   作:エアリック

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是非が分かれる展開になると思います。
ご気分を害してしまいましたら、申し訳ございません。



16話

 黒い髪は全てを燃やし尽くした後の灰のように色を変え、理性的な輝きを保っていた瞳は、怒りに支配された焔の赤へと変貌する。それが、力を利用した姿を見た人が抱く感想だった。

 急に姿を変えた存在に、分校生徒も驚きを隠せない。まぁ、不気味だよな。だが、敵を前にその隙は致命的すぎる。……何も伝えずに使った俺が悪いんだが。

 まずは、この人形兵器達を片付けてしまうことにしよう。高台にいる二人はその後だ。

 

「──灰ノ太刀、滅葉」

 

 納刀音が不自然なほどに大きく響く。辺りに展開していた敵個体は、その全てが同時に爆発音をあげてその機能を停止させた。

「……うわっ!? ……な、何だ? 急に爆発しやがった……」

「……こっちもよ……」

 相対していた生徒達は何が起きたのか理解できていないようだ。技が見えていなかったのなら、その反応は当然だろう。

「……なっ!?」

「へぇ……?」

 高台に立つ二人には流石に見えていたようだが、呆けている場合じゃないぞ。

「アルティナ。後始末は頼む」

「……っ……、了解です」

 傍にいるアルティナにこの場の後始末を頼んで、俺はあの二人のもとへ駆ける。

「……っ! 来ますわよ!」

「あははははっ! 楽しくなってきたなぁ!」

 それを確認して、武器を構え直す二人だが──遅い。既に回り込んだ二人の背後から先制を仕掛ける。

「七の型──飛燕」

「な、後ろっ!?」

「うっそ!?」

 地を這うように回転しながら足元を薙ぎ払う。不意を打ったといっても、相手も実力者だ。この程度、避けられるのはわかっている。しかし、上に避けた二人に次の攻撃を避ける手段はない。回転の力を利用して飛び上がり、叩き付けで追撃する。まともに攻撃を受けた二人は大きく体勢を崩す。だが、まだ終わりじゃないぞ。

「螺旋擊っ!!」

 俺が放てる中でも一撃の威力は断トツに高い、螺旋の型の一つ。二人の姿勢からではそれを防ぐことはできず、踏ん張りも効かないため、その身体は大きく吹き飛ばされた。少なくないダメージを負わせた感触。

「終ノ太刀──暁」

 ならばと容赦なく攻撃を続ける。二人はもう致命傷を避けることで精一杯といった様子だ。最もまともに反撃させるつもりなど持ち合わせていない。言葉通り"身の程"を知ってもらおう。

「……ここ……まで……とは」

「……これ……やば……」

 展開は一方的となったが、ここで手心を加える必要など無い。死にはしないだろうが、この地での目的達成は諦めてもらう。

「これで終わりだ──閃技、秋―」

 止めの技を放とうとした時、背後から抱き止められた。良く見れば太刀を持つ手にも、誰かの手が置かれている。これは──。

「──そこまでにしておくが良い」

「ん。ちょっと怖いよ、リィン」

「あはは……珍しく切れちゃってるね」

 かつての仲間達が文字通り身体を張っていた。流石にこれを無理矢理振りほどいて攻撃することは躊躇われる。

「ラウラ、フィー、エリオット……どうして?」

 彼女達の行動が理解できない。なぜ止める。こいつらは今までも好き勝手にやってきた。なら返り討ちに遭っても、仕方ないじゃないか。

「らしくないぞ、リィン。……今のそなたは、学生の時に一番忌み嫌っていた姿ではないのか?」

「ま、敵の勝手な理由で生徒達が狙われたからっていうのは、リィンらしいけどね」

「確かに。でも……ちょっとやり過ぎかな。ほら、みんな怯えちゃってるよ」

 別に怒りに身を全て任せた訳じゃない。不思議と心は落ち着いていたし、むしろ制御はできていたと思う。だが結局、俺がやったことは力による暴力での支配。

 ……そうか、俺はまた間違えたのか。

 鬼の力が解除されていくのを感じると共に、とてつもない疲労感が襲う。少し、解放しすぎたようだ。あのまま止めてもらわなければ、以前のように鬼化したままとなっていたのかもな。どこか他人事のようにそう思う。

《奥伝》を授かっておきながら、俺はまだこんなにも情けない。……申し訳ありません、老師。

「……すまない……ここを……任せていいか……」

 俺からの弱音を聞いた彼らは、少し嬉しそうな表情を浮かべた。

「うん、少し休むがよい」

「ん。後のことは適当にやっとく」

「安心して休んでよ」

 ああ、何も疑ってないよ。ありがとう……止めてくれて。

 

「──さて、そなたたちはどうする? まだやると言うのなら、今度は我らが相手となろう」

「リィンが削った結果のおこぼれって感じだから気が進まないけど、仕掛けてきたのそっちだし」

 ラウラとフィーがダメージが抜けてない結社の二人に対して武器を構える。

「……不覚を取ったことは認めましょう」

「アハハ、お姉さんとも妖精とも遊びたいのは確かだけど……ちょっと無理かなぁ……」

 両者は傷ついた身体に鞭打って、こちらとの距離を開ける。流石にこのまま続けはしないようだ。

「フン……どのみち、この地を叩くのは今夜限りです。残りの期間は大人しく引きこもって演習とやらを進めればよろしいですわ。

 ──この地で起こる、一切のことに目と耳を塞いで、ね」

「……負けたくせに偉そう」

 フィーがボソッと呟いたのが聞こえてしまったのか、女性剣士は顔を険しくして続ける。

「うるさいですわよ! 小娘っ!! 

 ハッ!? ……コホン、それでは第Ⅱ分校のみなさま、ごきげんよう。

 ──リィン・シュバルツァーは覚えてやがれっ、ですわ!」

「はぁっ、しまらないなぁ。じゃあね、第Ⅱ分校のみんな。"戦争"じゃなくてよかったね?」

 それぞれの足元に浮かび上がった転移陣によって、どこかに移動したのだろう。二人の姿はこの演習地から消え去っていた。

 

 それを見ていることしかできなかった俺は、太刀を地面に刺し、それを支えに何とか倒れ込むことだけは回避している状態。といっても片膝はついてしまっている。

「──リィンさんっ!!」

 そこにクラウ=ソラスに乗って空中を移動してきたアルティナが近づいてきた。力を使ったことで起きた、あの時の事を思い出しているのかもしれない。その表情は普段では考えられないくらいに感情が現れている。

「……大丈夫とは、言っても無駄か」

「当然ですっ! 何でこんな無茶をっ―いえ、それは後にしましょう。まずは身体を休めないと……」

 彼女の戦術殻が近づいてくる。このまま俺を運ぶつもりのようだが、そこまでして貰うわけにはいかない。

「いや、歩くくらいなら問題ない。──後始末はどうなってる?」

「……ミハイル教官とトワ教官が主導して、人形兵器の残骸の処理や鎮火作業などを行い始めたところです」

 流石に動きが早い。各クラスで忙しいはずだし、俺もⅦ組に指示を出さなきゃな。

「クルトやユウナは? 他のクラスと行動してるのか?」

 先に指示が出ているなら、それに従ってもらおう。あちらの状況がわからないため、そっちのが間違いがない。

「いえ、二人もまもなく──あ、来ましたね」

 アルティナが見てる方向を向くと、話題に出した二人がこちらに向かって走ってくる。

「リィン教官っ!!」

「……ご無事ですか?」

 かなり急いできたのだろう。だいぶ息が上がっている。……それぐらい心配かけたってことだな。改めて自分の行動が間違っていたことを意識させられる。

「怪我はないさ。──見たと思うが、少々"特殊"な体質でな。体力の消耗が激しいから、なるべく使わないようにはしてたんだが……驚かせてしまってすまない……」

 二人には初めて見せることになったので、戸惑いも大きいと思う。それに、自分達の教官がこんな体質では不安にもなるだろうから。

「そ、そんなことないですよっ!」

「……僕たちは混乱するだけで何も出来ませんでした。教官がああしてなければ、被害は増えていたかもしれません」

 気を使わせてしまっているな。……他の生徒達も見てしまっただろうし、説明が必要になるかもしれない。

 少し気まずい雰囲気となってしまった所で、黙っていたラウラが声を出した。

「……色々と話すことは多いだろうが、一旦戻るとしようか。ここにいてもどうしようもなかろう」

 それに真っ先に同意したのはフィー、続いてエリオット。

「そだね。リィンも休ませなきゃだし」

「まずは、負傷者の治療かな」

 率先して演習地へと足を進める三人の背中を見ながら、俺も生徒達に声をかける。

「ラウラ達の言う通りだな。──俺たちも戻ろう」

 それに黙って頷く彼らだが、アルティナだけは早く休めと目で訴えてきている。──これは、機嫌を直してくれるまで時間がかかりそうだ。

 

 演習地に戻って最初に動いたのはエリオットだった。

「うーん。やっぱり怪我人の治療が間に合ってないね。じゃあ、早速──」

 持っている魔導杖をヴァイオリンに変形させる。前から思っていたが、その変形って自由すぎないか? 

「響いて! レメディ・ファンタジア!」

 奏でられる音色が演習地全体に広がる。それは範囲内にいる者、全てを癒す旋律。彼が得意とする回復支援だ。

「こ、これって……」

「広域回復……だが、この演習地全て……だと?」

 心地よい演奏が終わると、傷を負っていた生徒達も、それが無くなっていることに気付き、周りの作業に加わろうと動き出した。

「うん。こんなところかな」

 その結果に本人も満足そうな様子だ。多分、状況を理解できなくて、取りあえず作業に加わったって感じだと思うが。

「相変わらず面妖な……」

「ん。Ⅶ組でトップクラスにエリオットの技が意味不明」

「ええぇっ!? ふ、二人ともそれは酷いよっ!」

 呆れる二人に本人は抗議の声をあげる。すまん、エリオット。俺も君の技だけはよく分からない。オーバルエネルギーを使っているとは聞いているんだが。

「でもでもっ! スゴいですよ、エリオットさん! みんな元気になってますし!」

 ユウナがフォローに入る。彼女としてはそんな気持ちはなく、純粋にそう思っているだけかもな。

 

 演奏に気がついて、こちらに近寄ってくるのは分校の教官陣。口火を切ったのはやはりと言うか、知り合いでもあるトワ先輩。

「エリオット君。ありがとう、助かったよ! ……それに、ラウラちゃんにフィーちゃんも久しぶりだね!」

 声をかけられた三人も嬉しそうだ。

「お久しぶりです会長」

「かいちょーは変わんないね」

「ご無沙汰してます」

 それぞれが挨拶を交わしているなか、俺は謝罪と報告のために、ミハイル主任に声をかける。

「勝手な行動を取り、申し訳ありません」

「……いや、あの状況では正直助かった。シュバルツァーの行動により、生徒達の被害はかなり軽減されたと言っていい」

 思ってもいなかったことを言われたので、少し拍子抜けしてしまう。その態度が気に入らなかったのか、不機嫌そうに言葉を続けた。

「何だ、私に文句でも言われると思ったか? 

 ……今回の襲撃、結社を舐めていた私のミスでもある。いうなればミスをカバーしてもらったのだ。文句など言うわけがないだろう」

「いやぁ〜、初日から仕掛けてくるのは読めねぇでしょうよ。こればっかりは防ぎようが無かったと思いますがね」

 主任の言葉にランドルフ教官がフォローを入れる。俺も彼の意見と同意見だ。そして、恐らくはそこを結社は狙ったのだろう。

 演習初日の夜。誰もが一日を無事に終えられそうだ、と少し気が緩む。そこに奇襲をかければまともな対応など出来はしない。そう読んだんじゃないだろうか。

 ともあれ、やつらは去り際に再び演習地を襲うことはないと言い切った。その事を含めての報告を行う。

「忌々しいっ! ……とにかく事態を収拾して、生徒達は早めに休ませねばなるまい。シュバルツァー、旧友に手伝って貰うのは構わんが、あまり馴れ合わないように」

 それを受けて主任は苛立ちを隠せずにいたが、それよりも優先すべきなのは、この現状を回復させることと判断したようだ。忠告を残して、場の片付けを行っている者達へ指示を出すために戻っていった。

「やれやれ……難儀だねぇ、あの人も。

 ──そういや、お前さんは大丈夫なのか? あの化物娘どもを一方的に攻めてたにしては、相当消耗してたみてぇだが。何か変身してたしよ」

 ランドルフ教官から質問を受けるが、彼はあの力を使った場合の事情を知らないのだから当然の疑問だ。

「まぁ……大丈夫って訳でもないですが、あれは言ってしまえば俺の"異能"です。身体能力などを跳ね上げる代わりに、かなり体力を使います。普段は使わないようにしてるんですが、頭に血が昇ってしまって……まだまだ未熟ですね」

 簡単にだが説明をする。俺自身、まだよく分かっていないのもあるため、うまく説明ができないのだ。

「おいおい……分校長とやりあえるだけでもやべぇのに、更に上があんのかよ。帝国ってのは恐ろしいねぇ」

「ハハ、そちらこそ。……まだ上はあるでしょう?」

 上手く隠してはいるが、ランドルフ教官も奥底に閉じ込めている何かがある。それが何かは知らないが、それを解き放つことは無いんじゃないかとも思えた。

「……油断ならねぇな。ま、お互い頑張ろうや」

 見抜かれたことを少し悔しそうにしていたが、彼も指示を出すために、担当する生徒達が集まる場所へ戻っていく。

 

 それから俺もⅦ組へ指示を出し、早く休めと苦情を受けながら事後処理を見守る。傍には手伝いを終えたラウラ達もいる。

「──事態が動き始めてしまったな」

「そうだね……」

「それも全貌が全く見えない。嫌な感じ……」

 三人とも各地を回りながら、何かが裏で動いているのは察知していたようだ。そして結社が去り際に仄めかした、この地で何かが起こるという言葉。

「ああ。──明日は少し忙しくなりそうだ」

『凪』は終わった──分校長から言われた言葉が脳裏に甦る。その言葉の意味を俺はようやく理解させられたのだった。

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