限定版買ってない作者が悪いんですけどね…。
昨夜の事後処理を見届けたあと、事情を知るみんなから、無理矢理ヴァリマールの中で休まされた。少しでも消耗を回復させろと言われてしまい、俺に拒否権は無かったからだ。
『──目覚めたか、リィン』
「ああ。すまないな、マナをこんなことに使わせてしまって」
搭乗者の傷を癒す効果は、彼が貯めたマナを消費する。力を存分に振るうためにはその存在は不可欠。それをつまらない理由で使わせてしまったことを謝る。
『フフ、気にすることはない。活動回数も減っているためか、今回使った分を考慮してもまだまだ余裕がある』
それならば良かった。彼を使おうとしてもマナがなくて無理、といった展開は避けられそうだ。使わないにこしたことはないんだけどな。
「俺も回復したし、今後のこともみんなに相談したい。……そろそろ降りるとするよ」
実はヴァリマール側からロックが掛けられてしまい、許可なく出れないのだ。満場一致で決まった処置に少し傷ついた。
『うむ、確かに回復はしているようだ。──よかろう』
搭乗口のハッチが開き、そこから飛び降りる。最初はこの高さに少し躊躇いもあったが、慣れてしまえばどうってことはなかった。
『起きたら伝えてほしいと言われたことがある。──目覚め次第ブリーフィングルームまで、とのことだ』
「……了解だ。すぐに向かう」
窮屈そうな態勢で待機をしている彼に振り向き、伝言の事を含めて改めて礼を言ったあと、列車のブリーフィングルームがある車両を目指して歩き出す。
間もなくして着いた先では、各教官陣の他に壁を背に寄りかかっている人物が目に入った。朝早くからご苦労なことだ。
「──来たか、シュバルツァー」
待機していた中から代表して、ミハイル主任が声をかけてくる。
「ええ。昨夜は申し訳ありませんでした。──お待たせしてしまいましたか?」
結構な時間を待たせてしまったなら、無理矢理起こしてくれても良かったのだが。
「ううん……少し前にみんなに指示を出したところだから、そんなに待ってないよ」
「ユウ坊達には簡単な指示ですませといた──この話し合い次第で取る行動も変わるだろうからな」
それは助かった。彼らだけ待機となっては居心地も悪かっただろう。仕事を振ってくれたランドルフ教官に礼を告げる。
簡単に教官全員に挨拶を済まし、本題とも言うべき人へ振り向き声をかける。
「おはようございます、レクター少佐……結局、こうなったわけですか」
意地の悪い言い方になってしまったが、それも仕方ないと思ってもらおう。
「意地悪いこと言うなよ──俺だって来たくて来た訳じゃないんだぜ?」
おどけるように言う少佐だが、実際にはこれも想定の範囲内だったはず。──どこまで読んでいるのやら。
「? ……よくわかんねぇが、さっさと話を済ましちまおうぜ。──はっきり言う、応援を呼ぶべきだ」
ランドルフ教官は、レクター少佐がここにいる理由が理解できていないようだが、それはトワ先輩やミハイル主任も同じだろう。いや、ミハイル主任は打ち合わせ済かもしれないが。
「──それはできん」
苦い表彰でランドルフ教官の提案を蹴る主任。それを受けてトワ先輩も抗議する。
「そ、そんなっ!? せめて、鉄道憲兵隊だけでも動かせないんですかっ!?」
「それは流石に笑えねぇな……。サザーラントを火の海にするつもりか?」
ランドルフ教官がキレそうな様子を見せている。猟兵だったからこそ、その怖さを知っているためだろう。
──だから、さっさと情報を出してほしい。俺の視線に気付いているはずのレクター少佐を改めて睨む。俺のイラつきを感じた彼は、肩を落として、ようやくその口を開いた。
「怖いお兄さんが睨んでくるからもう言っちまうが、アンタが言うような事態にはならない。──星座の本隊は別のヤマに当たってるようだからな」
レクター少佐の言葉にミハイル主任も続く。
「昨夜報告をあげたが、それを受けても領邦軍と第Ⅱの現有戦力で事足りる。そう判断したようだ──エレボニア帝国政府がな」
政府の決定、つまりギリアス・オズボーン宰相の意向。赤い星座の本隊は合流せず、結社もそこまでの戦力を投入していない。ならば問題などない、そう言いたいのか。
「……くそがっ…………」
「で、でもっ……」
利用されないため自分なりに選んだ道だったが、それすらもあの人の掌ということなのかもな。いいだろう、だったら利用された上で何が目的かを推測するだけだ。
何とか状況を変えようと思案する二人を横目に、俺はこの雰囲気を変えるためレクター少佐に向き直る。
「──
発言の意図が読めない教官陣。だが、これで彼には通じるはずだ。
「……へぇ。だが、いいのか? ──北方戦役で懲りたと思ったが」
「貴方達のやり方に納得することはないでしょう。ですが、迫る危機に対して何か出来ることがあるなら、俺はそれを見過ごすことはできない。──トールズ出身者であり、何よりⅦ組の一人として」
敢えてこの状況を作ったことは、理解できた。何故俺であるのかは不明だが、これもあの人が戯れに与えた試練なのだろうか。──この程度、乗り越えて見せろと。
その先に何が待っているのか、そんなものはわからない。圧倒的に情報が不足している。ならばいっそ、踊ってしまえ。糸で操られている最中で見えてくるものがあると信じて。
「ククッ……上等だ。じゃあ昨年末以来だが、"儀式"を始めようか」
少佐から出た"儀式"という単語で、周りも気が付いたようだ。これから何が行われるのかを。
「【灰色の騎士】リィン・シュバルツァー殿。帝国政府からの"
──この地で進行する《結社》の目的を暴き、これを阻止せよ」
「その"要請"、しかと承りました──」
突き出された帝国政府からの要請書を受け取り、了承する。……やってやるさ、俺は一人ではないのだから。
それを見つめていた教官陣はそういうことか、と納得している。
「ヤバくなったら"要請"って形で解決させんのか……。この状況で断れないのも計算の内かねぇ?」
「ええ……。いつも要請の時は、こういった状況を突きつけられていたみたいで……」
「これが、【灰色の騎士】を動かせる政府唯一の……」
こうなってしまうと、分校の教官としてではなく、個人として動くことになるからな。ユウナ達はどうすべきか……連れていくって言ってしまったし、置いていくわけにはいかないか。と、すると昨日みたく特務活動の延長として活動していく感じがベストか。
今後の予定を頭の中で組んでいっている時、ブリーフィングルームと車輌を繋げる扉が開いた。
「その"要請"。我らも手伝わせてもらおう」
そこに現れたのは、昨日再開したかつての級友達。もしかしたら、あのまま演習地に泊まったのかもしれない。……よく許可が降りたな。
しかし、三人が協力してくれるとなると心強い。生徒達も共に行動することで得られるものもあるだろう。
だが、その提案に待ったがかかる。
「……待て、部外者は遠慮して貰おうか」
ミハイル主任はどうやらそこまでの介入は許すつもりはないらしい。だが、その言葉にフィーが言葉を返す。
「これは政府からリィン個人への要請のはず。なら、貴方の許可は必要ないよね」
「……ぐっ……」
真っ当すぎる意見だった。……あのフィーが、そこまで。成長したんだな。
「何らかの思惑で正規軍も動かしたくない様子。それではリィンも大変でしょうし、僕たちがフォローしますよ」
「まぁ、そもそも情報局や鉄道憲兵隊の少佐殿に、我らの行動を制限する権限などないがな」
エリオットもラウラも結構言うなぁ。言われっぱなしの主任は……何ていうか、御愁傷様だな。本人としては軍人である以上、一般人である彼らの介入を嫌っただけなんだと思うが。
「確かに、止められる権限はカケラも持っちゃいないなぁ……」
こちらの少佐は飄々としたものだ。ここで何を言っても、離れた場所で合流されたら止められないし、早々と諦めたのだろう。‥最初から止める気など無かった可能性も高い。
「みんな……だが、いいのか? 予定とかもあるだろう?」
再開できたことには作為的なものを感じるが、それはあくまでも顔を会わせることが目的だと思っていた。
「何を言っているのさ。僕たちがここに集まったのはこの為なんだよ?」
「理不尽な要請を独りで成し遂げてきた我らが"重心"。学院に残り続けたそなたを皆、気に掛けていたのだ。
それぞれが納得して決めたこととは言え、独りにしてしまったのは我らだからな……」
「因みに、第Ⅱの演習地と日程はとある筋から教えて貰った。そこで都合がつくメンバーが集まった感じ」
とある筋というのは俺の想像している人で間違いないだろう。あの時から俺たちの繋がりは絶えていない。その事実が、何より嬉しかった。
「ありがとう、三人とも。……政府からの要請。ヴァリマールを使うことすら視野に入れる必要がある案件だ。
──みんなの力を貸してくれ」
俺からの協力要請に、彼らは力強く頷いてくれた。
「──っと、そういやユウ坊達はどうすんだ? 第Ⅱ分校としちゃ、カリキュラム優先なのかね?」
「う〜ん、やっぱり危ないから、こっちでみんなと演習の方がいいですよね」
……まずい。俺は悪くないのだが、間違いなくそれを伝えたら俺が責められる。どうしたものかと悩んでいる俺を救ってくれたのは、意外にもミハイル主任だった。
「……いや、Ⅶ組はシュバルツァーに同行させる」
「えっ? いいんですか?」
流石にトワ先輩もこれには驚いたようだ。
「ユウ坊達には悪いが、荷が重いと思いますがね」
顔見知りであるユウナをわざわざ危険な場所に連れていくことに、ランドルフ教官も少し不満があるようだ。
「特務活動の一環として同行し、今回の要請で行った内容を偽りなくレポートとしてまとめさせ、提出して貰う」
要は監視として同行させる、ということだろう。まぁ、これは断れないな。聞いたランドルフ教官は呆れているが。
「また分かりやすいことで……」
「フン、これくらいはしてもらわねばな。異論無いな? シュバルツァー」
「ええ、承知しました」
ラウラ達と共に列車から出ると、すぐにユウナ達が近づいてくる。ずっとこっちに注意を向けていたのかと思うくらい反応が早い。
「リィン教官っ!!」
「……会議は終わったようですね。それで、今日の予定は?」
「……アランドール少佐がこのタイミングで来たということは、例のアレがあったのだと推測します」
それが朝から気になっていたらしい。まぁ、アルティナは気付くよな。
「その通りだ。俺はさっきレクター少佐から政府からの要請を受けた。……今日は教官としてではなく、個人として動くことになる」
「「「……っ……」」」
個人として動く。つまりⅦ組の活動はないということだ。それを理解したからこそ、彼らはなにも言えないでいる。決定的な言葉を聞きたくないのだろう。
「……ミハイル主任から連絡事項がある。
『Ⅶ組特務科は、リィン・シュバルツァー一行に同行し、その活動内容をレポートとして提出せよ』──以上だ。悪いがすぐにでも出発したい。急いで準備をしてきてくれ」
「へ?」
「……ということは?」
「了解です……準備をして来ます。ユウナさん、クルトさんも行きましょう」
アルティナが二人の手を取り、引っ張るようにして列車へ向かっていく。クラウ=ソラスを使っているわけでもないのに、その足取りは力強い。
「ふふっ。アルティナちゃんだっけ? 随分懐かれてるじゃない」
エリオットがからかうように言ってくるが、本人に聞かれたら叩かれるぞ……クラウ=ソラスで。
「どーせ、リィンがあれこれ構ったからだと思うけど」
「昨日会った時の会話から察するに、エリゼ嬢とも親しいようだな。……一度、彼女を含めて話し合いの場を持たねばなるまい」
もう気にしないことにした。きっと俺には理解できない事だろうから。
「それは置いておくとして、まずは情報を集めたい。何か良いアイディアとかあるか?」
今後の動きを決めるためにも、どこかで情報を集める必要がある。そんな俺の質問に答えてくれたのはフィーだった。
「なら、まずセントアークに行こう。良い場所を知ってる」
心当たりがあるらしい。そういえば彼女の進路は──。
「成程、フィーの就職先の施設ということか」
同じように検討をつけたラウラが言葉をこぼす。確かにそこなら普通では手に入らない情報があるかもしれない。
「お待たせしましたっ!」
元気よくユウナが駆けてくる。他の二人は少し早足という程度だが、それでも普段よりは急いでいる様子だ。
さて、じゃあまずはセントアークだな。……問題は馬二頭に対して人数が七人いることだが、それはどうにかしよう。
結社の思惑、昨日遭遇した謎の男性。まだまだわからないことばかりだが、これまで通り全力で立ち向かうだけだろう。それがきっと道を切り開く唯一の道になると信じて。
こうして不穏な雰囲気が漂う、特別演習の二日目が幕を開けたのだった。