ハーメルが最後に名前だけ登場
作者だけかもですが、遊撃士の設定忘れられている気がします。めっちゃ国に介入してますよね…
世界の危機だからセーフなのかな
将軍閣下の熱き抱擁を華麗に避けたエリオットは、いい笑顔で要件を告げた。俺やラウラなどの旧知ではよく知った光景であるため、苦笑いする程度だが……初めてとなるユウナやクルトにとっては、衝撃的なことだったらしく驚きの表情を浮かべている。
ひとつ誤魔化すように咳払いをしたあと、クレイグ将軍は俺達を見渡し、厳しい表情を作り出す。
「──本来は招かれざる客だが、まずは話を聞くとしよう」
それはⅦ組の関係者か、それとも《灰色の騎士》である俺にか、どちらに向けての言葉だったかは分からない。だが、少なくとも軍人としての彼にとって、俺達の訪問は歓迎できない事のようだ。
「……我らがここに来た目的をおおよそ察せられているようですね」
「……無論だ。この地の安寧を守ることは正規軍の義務だからな。善からぬ輩が彷徨いているとなれば、調査は当然のこと」
やはり、正規軍は既に結社の動向を掴んでいる。なら、何故動かないのか。既に領邦軍は治安維持も満足に行えない程に縮小されてしまっている。正規軍が動かなければ──!? まさか……それが狙いか? 頭の中で欠けたピースが埋まっていく。
「此処に来てやっと腑に落ちました。軍……いや政府は待っているんですね? ──貴族勢力が根を上げることを」
俺から飛び出した言葉。その内容に全員が反応する。将軍と中佐は驚愕、仲間達は呆然と、それぞれで異なったものだったが、将軍達の反応を見る限り当たりか。
「もはや治安維持すら成り立たない領邦軍に、この地で起きる問題まで対処できる余裕はない。結局、最後は正規軍を頼ることになる。──領地を守れない領邦軍はその存在を疑問視されるでしょう」
ここまで言ってしまえば、他のみんなも納得した様子を見せ、俺の言葉を先読みしたように続けた。
「間違いなく市民からの反発は高まるであろうな。只でさえ内戦で貴族勢力の評判は悪い」
「ま、領邦軍の縮小は更に進むね。そしてそれは、そのまま領地の責任者である貴族にも影響が出る」
「最終的には貴族の存在そのものまで、疑問視されることになるかもしれないね」
立て続けに言葉を続けた三人。ほぼ俺と同じ結論まで一気に持っていく。足掛かりとなる情報さえあれば、このくらいは慣れたものだ。
「……す、すごい。あっという間に……」
「これが……"Ⅶ組"……」
「……経験値の差を痛感しますね」
生徒組はその手際や経験の差といったものを、自分達と比べてしまっているようだが、俺達もいきなり出来た訳じゃない。特別演習を通して成長させてもらった賜物だろう。
こちらの考えを否定しない将軍。やはり、帝国に生きる者として、どこか後ろめたさがあったのかもしれない。敵対してしまったとはいえ、元々は領邦軍も帝国の地を守る同胞なのだから。
将軍も同様のことを仰っている。それでも"軍人"である我らは勝手に動くことは許されないのだとも。
ならばせめて情報だけでもというラウラの主張にも、反応は芳しくない。……妙だな。思えば侯爵閣下は穏健派で、現政府とも足並みを揃えている。そんな彼を追い詰めるメリットなど政府にはないんじゃないか?
自分の考えを言葉にしながら、考えをまとめていく。積極的な姿勢を見せない正規軍や鉄道憲兵隊。政府の思惑もあるのだろうが、それ以上に、このサザーラントには何かがある。
「──恐らくは結社が敷いた拠点の場所こそが問題で、手が出しにくい。そんな理由があるんじゃないですか?」
俺の出した結論に、将軍は感嘆の声をあげる。
「流石は《灰色の騎士》と言うべきか。一年に及ぶ政府からの要請は、お主の見識を広めたようだな」
確かに色んな経験を積ませてもらった。それが全て自分にとって良いものだったかは疑問が残るけどな。
「……多くの事件で表と裏を見てきたのは事実です。ですがそれ以上に、トールズで、Ⅶ組で学んだことが自分の視野を広げてくれました」
二年。言葉にしてしまえばそれだけの期間。だがそこでの経験は、これまで生きてきた人生の何倍も密度の濃い時間だった。今でも鮮明に思い出せる、入学式でのヴァンダイク元帥による祝辞。
それはトールズ出身者であれば誰もが知る理念。
「"世の礎たれ"──多くの矛盾や対立を抱えながら変わろうとしている帝国ですが、進む道は険しいでしょう。そんな中でも良い未来を掴むための支えとなる。……そんな意志を貫くためにも、どうか俺達に"道"を示してはもらえないでしょうか?」
俺の言葉に衝撃を受けたかのように将軍の表情が固まる。帝国を憂う気持ちは彼も同じはず。明らかに軍拡を強めている政府の姿勢。それが意味することを考えれば、それは帝国だけではなく、大陸を巻き込んだ騒動に発展しかねない。
「……思えばもう二年となるのか、お主達Ⅶ組との付き合いも。当時から比べて、この場にいない者を含めても……何と頼もしく、眩しくなったものだ」
「……同感です、閣下」
届いたのだろうか、俺達の思いは。
「わかった──そなたらに"道"を示そう」
将軍が中佐に指示を出したのは、それからすぐのこと。どうやら何かしらの書類のようだが。とにかく感謝を述べなければならないだろう。
「感謝いたします──閣下」
「礼には及ばぬ──しがらみにばかり捕らわれていた自身の不甲斐なさを痛感した所だ。やはり、ヴァンダイク元帥や"彼"のようにはいかんな」
彼……? 誰のことだろうか。少し気になったが、ナイトハルト中佐が将軍に羊皮紙のような書類を渡したことで、それを聞く機会を逃してしまう。
将軍がなにやらを記述している姿を見ていると、ナイトハルト中佐から説明を受けた。
「──結社がこの地に築いた拠点。恐らく帝国でも最高レベルの"国家機密"に関わる場所だ」
「…………っ! そこまでですか……」
衝撃的な事実に全員が言葉を失う。何て場所に拠点を……って、それ遊撃士であるフィーが知ってもいいのか?
「ちょっと待ってください。……フィー、遊撃士としては、このケースはどうなんだ? 確か『国家権力への不干渉』って規約が有ったはずだが」
「あ…………」
指摘されて初めて気付いた、といった様子のフィーは、これまでにないくらい真剣な表情で考え込んでしまった。なんかぶつぶつ言っている。
「……クラウゼルはその場所に入らぬ方がよいかもな」
中佐も考えたようだが、只でさえ帝国では行動を制限されている遊撃士だ。この上で国家機密を知ってしまうのは、今後の活動に支障が出るかもしれない。
そんな心配をしていたところで、考えがまとまったのか、フィーが顔をあげる。
「ん。多分アウトだけど、私はリィン達と一緒に行くよ」
「……フィー……、それは……」
折角、最年少で正遊撃士になれたのに、俺のせいで──。
「勘違いしないでね、リィン。確かに遊撃士として活動してきて、楽しかったし、やりがいもあった。──でも、Ⅶ組とは天秤にかけられない。私は、私に居場所をくれたトールズⅦ組として動きたい」
これは説得は無理だな。俺も同じような立場なら悩みはするが、最後にはⅦ組を選ぶだろう。そんな俺が何を言っても説得力がない。
「……すまない、フィー」
せめてもの気持ちと謝罪をするが、それを受けてフィーは首を横に降る。
「違うよ、リィン」
こちらを見てくる彼女は何かを待っているような態勢──ああ、そうか。
「ありがとうな、フィー」
感謝の気持ちを述べながら、彼女の頭を撫でる。学生時代はたまにやっていたことだ。彼女も懐かしくなったのかもしれない。
「……ん」
だってその顔は、後悔なんて見られないほど穏やかな笑顔だったのだから。
「──あー、良い雰囲気のところすまんが、閣下がお待ちだ」
中佐から声をかけられて、慌てて将軍へ向き直る。待ちぼうけとなった彼だが、その視線は優しかった。
「──良い仲間を持ったようで何よりだ」
「ええ、Ⅶ組は俺の"誇り"です」
俺には勿体ないほどな。そんなこと言ってしまうと叱られてしまうので、口には出さない。
そして将軍が渡してくれたのは一通の許可証。何でもその場所に立ち入るには、サザーラント州の最高責任者二名の許可がおりて、初めて可能となるということらしい。
「ドレックノール要塞司令、オーラフ・クレイグの名をもって、許可証をしたためた。これを持って、もう一人の責任者を訪れるがいい。
セントアークにいるサザーラント州統括、ハイアームズ侯爵閣下の元へな」
"道"は開けた。それをどう活かすかは俺達次第だ。まずは侯爵閣下にお会いして、国家機密と言われる場所の立ち入り許可も貰う。できればそこの情報も。だがその前に──。
「ううっ……あたし達完全に空気だったわね……」
「仕方ないさ、僕たちはまだまだ未熟。今は教官達の行動から学ばせて貰うしかない」
「……教官達も二年前は私たち同様、学生になったばかりのはず。追い付けないとは思いません」
彼女達をどうするか、か。学生の身に国家機密レベルの情報を与えてしまうことが、後にどんな影響が出るか。いっそ、ここで演習地に──。
「何を考えておるのか何となく察しはつくが、やめておくが良い」
俺の考えていることを察知したラウラから忠告を受ける。しかしだな。
「いやいや、ここで解散とかしたらあとが怖いよ? リィン。──僕たちも結構な無茶してたんだし、その経験を教官として導いてあげるべきじゃないかな」
「ん。ここまできちゃったら面倒見るべき」
俺以外はみんな賛成か……こうなると無理に戻させるのも苦労しそうだ。仕方ない、いざとなれば《灰色の騎士》として、今後の不利とならないように、頼んでみるしかないな。
「……ところで、フィー。そなた先程は上手くやったではないか」
「……なんのことかな。別にラウラやミリアムみたいに、再会のハグができなかったことなんて気にしてないよ?」
「……あははっ! リィンも相変わらず大変だねぇ」
いや、笑い事じゃないんだが。俺達から見れば戯れと分かっていても、剣呑な雰囲気を出す二人に、生徒達が真に受けてしまっている。だから、いつもの二人に戻ってくれ。
ドレックノール要塞を後にし、セントアークに戻ろうとしている道の途中、馬上で結社の拠点として怪しそうな場所を共有した。
ラウラと再会したパルムの南にある場所。あのときは詳しく調べなかったが──。
「確かに……やけに厳重でしたね」
「ああ、私も怪しいと思う。……まぁ、それを調べるためにも、まずは侯爵閣下から許可を貰わねばなるまい」
ラウラの言葉にごもっともと返して、馬を加速させる。いったいこの地で何が起きたのか、それを知ってしまうのが少し怖いと何故か思ってしまった。
セントアークに着いた俺達は、ハイアームズ侯爵閣下にお目通りを願い、それが受け入れられたため、一日ぶりとなる再会を果たしていた。
将軍より受け取った許可証を差し出し、事情を説明する。その説明を受けた侯爵閣下からは大きなため息が溢れた。
「まさか"あの地"を拠点にしていたとはな──いや、我々にも手が出せない彼の地だからこそ、か」
「……閣下……」
その表情は痛ましいもので、普段の穏和そうな雰囲気は消え去っている。閣下のその様子にセレスタンさんから心配そうに声がかかる。
「こ、侯爵閣下でも手が出せないって……」
「……かなりヤバイ事情みたいだね」
重くなった場の雰囲気に呑まれかけている生徒を一瞥し、改めて閣下へと質問を投げる。
「できれば、事情を説明していただけませんか? ──生徒を含め、この場にいる全員が覚悟は出来ています。そうだな?」
「「「っ!? ……はいっ!!」」」
「無論だ」
「ん」
「うん、大丈夫」
俺の言葉で、気持ちを切り替えることが出来た様子の生徒達。級友達は最初から問題ない。
そんな俺達の様子を見て、侯爵閣下は気を重そうに言葉を発した。
「ひょっとしたら、君達も耳にしたことがあるやもしれぬな──"ハーメル"という名前を」
……俺は覚えがないが、他のみんなはどうだろうか。エリオット、ユウナ、アルティナは俺同様に覚えがない様子だが、他の三人は少し異なるらしい。
「父から聞いた覚えがある。災厄が不幸にして起こった、と」
「私も……どこでだったかな? ……団長からだったかも」
「……兄から聞いた気がします。愚かな者達の被害者だと」
共通しているのは、その名前を持つ場所で不幸が起きたことだけ。それを聞き終わったところで 侯爵閣下は説明を続ける。
「パルムを南下した先に、封鎖された廃道がある。……"ハーメル"とはその先にあった村の名前だ」
村に不幸があった、ということだろうか。しかし、それだけでは終わらない気がする。何となくだが、これは帝国の闇に繋がる話なのだと不思議と理解できてしまった。