閃剣へ至る英雄   作:エアリック

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アガットがハーメルに入っていい理由を無理矢理考えました。
でも分校生はさすがにダメだと思います。
ティータファンの方には先に謝っておきます。


20話

【ハーメル】という過去に在った村の名前。侯爵閣下がいうには、その村は十四年前に起きた山津波に巻き込まれ、全滅したことに()()()()()とのことだ。そして、その直後に帝国軍によるリベール侵攻が始まったらしい。俗に言う《百日戦役》と呼ばれる侵略戦争だ。

 突然発生した山津波に村が呑み込まれたと思えば、その直後に他国への侵略。最終的にリベール王国と帝国での講和条約が結ばれ、戦争は終結した。そして、この時に講和へと尽力した人物こそ──ギリアス・オズボーン。後の宰相となる彼が明確に台頭してくるのはこの時からだったはず。まさか……これすらも? 

 俺の疑問をよそに、ラウラが侯爵閣下へ自信の疑問をぶつける。ハーメルの説明の際に違和感のある言い回しがあったからだ。

「……村が山津波によって全滅。しかし、"事になっている"とは?」

 その疑問に答えは返ってこなかった。侯爵閣下 から聞けたことは、語ることができないというもの。中佐からは最高クラスの国家機密になると言われ、事情を知ると思われる侯爵閣下からは、話すことはできないと答えられた。この事は帝国史の"影"であり──それはあまりにも忌まわしく、哀しいものだとも。

 

 その後セレスタンさんによって用意された、廃道の鍵を受け取り、侯爵邸を後にする。

 ハーメルの件に関しては、高位の遊撃士ならおおよその事情は知っているらしい。だが、知った事実を決して公・巷間にしないこと。場合によっては、国家反逆罪に問われかねないと伝えられた。

 無用に話すつもりはないだろうが、生徒達にもきつめに言い聞かせる。学生が知り得ていい情報ではないからな。……やはり、これも俺が言っても、説得力がないのは言うまでもない。

「だけど、おかしくないですか? ……ランクが高い遊撃士なら国の裏側にも詳しいかもですけど、今回のこともそっちに聞けって言うのは……何て言うか、丸投げって感じが」

 ユウナはそれがずっと疑問だったのだろう。侯爵邸を出て少し離れたらすぐに声をあげた。

「……恐らくだが、名称程度ならギリギリ許容範囲で、その真実を他者へ漏らすことは許されないんだろう。だからこそ閣下は、遊撃士と敢えて言ったのさ」

「……? ……??」

 生徒達に限らず、ラウラ達も俺の答えに理解できていない様子だな。まぁ、周りに気配もないし構わないか。

「閣下はフィーが遊撃士となったことをご存じのはず。あの場で高位の遊撃士なら知っていると言ったのは、フィーを通して問題解決のために遊撃士を頼れということ」

 一度言葉を区切る。上手く説明できているかわからない上に、この考えが合っている保証もない。だが、あそこで急に遊撃士の存在を話題に出したのは少し不自然だ。遊撃士に喋らせてもいいなら、他の方法で俺達に内容を伝えることはできるはず。

 ここまで言ったことで、フィーが合点が言ったと納得の声をあげる。

「そっか。この地を統括する責任者からの指示なら、民間人の保護や地域の平和を最優先する遊撃士は、国家権力に対しても介入が可能になるはず」

「ああ。なら、その過程で協力者に情報を話しても、解決のために必要だったと言える。……かなり強引な手段だが、これなら俺達に事情を説明しても許される。そんなところだろう」

 かなりこちらに都合よく解釈してしまっている上に、万が一の場合は閣下にも迷惑をかけてしまうことになるのが申し訳ないが。

「……そんな意図が……」

 先程の会話がそこまでの意味があったことを把握できなかったことに、ショックを受けているクルト。だが、そこまで落ち込む必要はない。元々鋭い視野を持つ彼のことだ。少し経験を積めば、これくらいのことは出来るようになる。それに合ってるかわからないぞ。

「……私もこういったことはまだまだ勉強不足だな。どうにも言葉の裏を読むような謀の類いは苦手だ」

 ラウラは真っ直ぐだからな。こういったことには根本的に向いてない。それこそが彼女らしいのだから、そのままでいてほしいと思うのは俺の我儘か。

「とにかく、まずは演習地に戻ろう。事が事なだけに、一度報告はしておきたい」

 俺の提案に全員から了承の言葉が返ってくる。報告が終われば、すぐにでもあの廃道へ向かうつもりだ。準備だけは万全にしておかないとな。

 

 馬を走らせ演習地に戻ると、それに気付いたトワ先輩とミハイル主任が近づいてきた。探す手間が省けたか。

「リィン君っ! 要塞から戻ってきたんだね!」

「わざわざ戻ったということは、なにか進展があったか?」

「ええ、お話しします」

 どうやらⅧ組は哨戒を兼ねた機甲兵訓練に出たらしく、ランドルフ教官の姿は見当たらなかったが、現状の情報を二人に伝える。

「ハーメル……前に何かの資料で読んだことがあった気がする」

「フン……よりにもよってあの地に拠点を築くとはな……」

 ミハイル主任は事情を知るようだな。可能であればこの場で聞きたかったが、語る権限がないと言われてしまった。ただ、パルムに赤毛の遊撃士が向かったらしく、その人物に聞けとのことだ。

「アガットだね。こっちに来たんだ」

 彼はA級なので確かに知っているのかもしれない。……ミハイル主任は知っていることを確信している感じなので、きっと何かあるのだろうな。

 それよりも──。

「……普段行動を締め付けている割に、こういう時だけ遊撃士を頼るのはどうかと思いますが……」

「…………言うな。その代わりと言っては何だが、この件で上層部からの謀略はないと保証しよう。……我々軍人、いや、政府でさえもあの地の事を語るわけにはいかんのだ」

 ここまで頑なだと、真相は想像以上に深刻なものが潜んでいそうだな。百日戦役……その発端が開かれる直前に起きたとされている山津波。存在が抹消された村。厳重すぎるまでの村へ繋がる道の封鎖。

 ──まさか、な。状況から考えていくと、一つの仮説が浮かび上がるが、これが当たってしまった場合、帝国の業は計り知れない。

「……? 教官?」

「いや、何でもない。ミハイル主任、トワ先輩、もしもの時はヴァリマールを使うことも想定していますので、その時はよろしくお願いします」

 結社の拠点に侵入する以上、昨夜よりも厳しい戦いが予想される。彼らもこちらが黙っているとは思っていないはずだ。戦力は整えているだろう。

「まかせてっ! みんな、無理だけはしないでねっ!!」

 トワ先輩はみんなに声をかけており、少しみんなの目がそちらに向いた隙に、ミハイル主任だけに小声で話す。

(……ティータ・ラッセルに気をつけてください。先程、ハーメルの名に少しですが反応していました。下手すると口に出してしまうかもしれない)

(ラッセル候補生が? ……なるほど、了解した。ハーシェルにも後で伝えておこう)

 やはり彼女も何か事情があるのだろう。ハーメルに反応したことに驚きはないようだった。そうなると、彼女もリベールで何かに関わっていたと見るべきか。

 まぁ、これ以上は考えても仕方ない。行動を再開しようとすべく、先輩と話している一行に声をかける。

「さて、報告すべき事は終わった。アガットさんが向かったらしいパルムへ俺達も急ごう。あまり悠長にもしてられなさそうだ」

「「「了解です」」」

「ああ……!」

「らじゃ」

「うん、行こう」

 馬を使えば三十分位で着く。アガットさんとすれ違うことはないだろう。

 

 たが、結局パルムで彼と会うことは叶わなかった。既に彼の姿はパルムには無く、俺達は情報が得られぬままハーメルへ続くという廃道の入り口へと辿り着く。

「……ここ?」

 昨夜と変わらず、厳重に鍵がかけられたゲートを目にしたフィーが尋ねてくる。

「──ああ、まずは鍵を外してしまおう」

「あ、手伝いますよ」

 鍵は複数かけられており、外すだけでもそれなりに苦労しそうだが、生徒達が率先して手伝ってくれたおかげで、なんとか全て外すことが出来た。

「……やはり、ここに繋がりやがるか」

 ゲートを開いた時、後ろから男性が近づいてくる。

「アガット、来たんだ」

 既にパルム方面へと向かったと言われていたアガットさんが姿を表す。俺達と違って馬とか使っていないだろうに、体力の消耗は見られない。さすがは高ランクの遊撃士というべきか。

「ああ。タイタス門方面からこっちに向かって、大量の人形どもを運んだ形跡を見つけてな。侯爵から仕入れた情報の裏付けにはなるだろ」

 なるほど、それは確かに重要な情報だ。これでこの場所の先に奴らが拠点として構えているのは、ほぼ間違いない。

「弱体化した領邦軍の目を盗んで拠点にしたんだね……」

「この場は何かしらの"禁忌"に触れるようだしな。《身喰らう蛇》──要らぬ知恵だけは働くようだ」

「ロイドさんからも聞いてはいたけど、厄介すぎるでしょ……」

「国際犯罪組織、でしたか。あれほどの手練れと技術力なら納得ですね……」

 それぞれが奴らの手腕を嫌々ながら認める。実力は高いんだよな……性格の面で問題がありすぎるのと、手段が褒められたものではないので、結局理解は出来ないが。

「ああ……厄介な連中だぜ。昔からな」

 彼も心底同感なようで、その表情は苦い薬を飲んだかのように歪んでいる。

「……ぬけぬけとこの先の場所を利用するとはな」

 ミハイル主任の言った通りか。彼はこの先に在ったというハーメルのことを知っている。

「失礼ですがアガットさん。自分達はここの情報をまるで知りません。……どんなことがあったのか、ご存じでしたら教えてもらえませんか?」

「それは……しかしな」

 俺の提案に渋る様子を見せる。これは話せないという感じではなく、話したくないといった感じだ。

「……俺はここに来るまで、手に入れた情報から一つの仮説を立てました。それを聞いて訂正してくれるだけでも構いません」

 そう言うと、彼を含めた全員が興味深そうにこちらを見てくる。

「……いいぜ、言ってみな」

 

 では、と前置きして演習地で思いついてしまった仮説を言葉にしていく。

「この先に在ったと言われているハーメルという村。山津波によって全滅したと言われましたが、これは違う。……帝国による何らかの手段で存在を消された可能性」

「…………え? ……」

「馬鹿なっ!!」

「そんなっ……!」

 驚きの言葉があちこちで上がったが、アガットさんは続きを目で促している。

「何らかの災厄が起き、それを相手によるものと訴え、侵略を行う。……俺は一年程前に、似たような経験をしています。ノーザンブリアが併合された《北方戦役》で」

「……あ…………」

 話に聞いた百日戦役の開戦の流れ。経緯は違えど、それはあの北方戦役の流れと酷似している。

「あれがとある貴族の暴走ということは、内戦関係者なら誰もが知っていること。だが帝国政府は、ケルディック焼き討ちの実行犯である猟兵、そしてそれを匿う自治州へ責任を求めた」

 当然、自治州は反発し賠償金は払わない。だが、それを待っていたかのように投入された機甲兵団。戦力差はどうしようもなく、首都ハリアスクを皮切りに次々と占領され、最終的に自治州は帝国へ併合された。

「同じように、帝国政府はハーメルであった何かの責任をリベール側に求めたのでは? 当然断られる事を想定して。目的である、侵略を開始する大義名分を得るために」

「……なんという……」

 ラウラがあまりの非道さに呆然としてしまっている。勿論これが当たっているという保証はないし、むしろ当たっていないでほしいと思う。だが、それも期待薄かな。事情を知るはずのアガットさんから否定の言葉が返ってこないからな。

「……あのおっさんはさすがに桁が違うだろうが、八葉一刀流の剣聖ってのはみんな頭が切れるのか?」

 カシウス・ブライト師兄か。老師に一と七の型を伝授され、最終的には一の型を極めた兄弟子。今は剣を捨ててしまわれたそうだが、それでもなお、各方面の武人から注目されている。軍に復職されたと聞くが、その事も大きいのだろう。

 それはそれとして、アガットさんは俺の仮説に対して補足をいれる。

「大体は合ってる。俺も聞いた話だがな」

 そうして語り始めてくれたのだが、確かに俺の仮説は大体はあっていた。だが、それでも詳しい内容となると、帝国が犯した罪の重さに胸が痛くなる。

 この事件を契機に一気に台頭し、今なお帝国の実権をほぼ手中に収めている彼は、いったい帝国をどうしたいのか。

 ――胸の痣が大きく脈動したように感じた。

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