閃剣へ至る英雄   作:エアリック

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ミハイル少佐は最初から大分印象変わりますよね


4話

 予想外の二人の登場に思わず溜め息をついてしまった俺の反応を、オーレリア将軍は面白そうに眺め、からかうように声をかけてくる。

 「おや、会って早々にその反応とはな、シュバルツァー。共に北方戦役で肩を並べたというのにいささか冷たいのではないか?」

 「予想外の大物の登場に驚いただけですよ…。お久しぶりです、オーレリア将軍。北方戦役ではお世話になりました。」

 俺の態度が悪かったのは確かなので、言い訳をしつつ、将軍の隣にいるシュミット博士にも声をかける。

 「シュミット博士もお久しぶりです。内戦ではお世話になりました。」

 「ふん。私が欲しかったのは騎神のデータであり、それの研究結果を貴様等がどう使おうと知ったことではないがな。」

 相変わらずのスタンスにある意味で安心してしまう。しかし、シュミット博士が分校に赴任するとは………まさかな。

 「失礼ですが、こちらに赴任したのはヴァリマールの研究を取引にでも使われましたか?それならば、博士がここに顧問として赴任するのも納得ですが。」

 「ほう……?」

 まるで教官陣には興味がないと言わんばかりの態度の博士だったが、俺の発言に少し興味を覚えた様子を見せる。

 「少しは考えるようになったか。確かに貴様の騎神を好きに研究していい、といった条件で私は協力している。特別顧問となったのはそのついでだ。少しは生徒となる者達へ私の知識を教えてやることになるが、それも最低限だ。あくまで私の興味は貴様の騎神にある。」

 博士の歯に衣着せぬ物言いに、主任となるアーヴィング少佐は頭が痛そうだ。まぁ、授業自体はしてくれそうだし、それで良しとするしかない。

 「オーレリア将軍も領邦軍の管理などでお忙しい筈ですが、こちらに赴任しても大丈夫なんですか?」

 「ふふ、将軍職は北方戦役が終わると共に辞した。後の事はウォレスに託したため、私自身は忙しくはない。そんな折に、ここの分校長への打診を受けてな。まぁ『敗軍の将』たる私に鈴を着ける意味も含んでそうだが…?」

 そう言ってアーヴィング少佐の方へ意味ありげな視線を送る。視線を向けられた彼も居心地が悪そうにしながら、意見を述べる。

 「……それは邪推というものです。今の帝国に貴女以上の人材など多くは存在しません。そんな貴女を遊ばせている余裕など無いだけでしょう。」

 「ふふふ……。まぁそういったことにしておこうか。これ以上アーヴィングをつついても仕方あるまい。理解できたか、シュバルツァー。」

 「ええ、……ですから先程から続いている試すような真似はやめてください。精神的にキツいです。」

 そう、オーレリア将…分校長は登場してからずっと俺に向けて剣気による先読みを仕掛けてきている。気を抜くとすぐにでも襲われそうだ。…というより、指向性を持たせた剣気ってどうやってるんだか。

 「全くだぜ…。俺に向いてねぇのは助かるが、威圧でどうにかなりそうだ…。」

 俺の言葉にランドルフ中尉も直接被害を受けている訳ではないが、分校長から発せられる剣気に気づいていた様子で、やや疲れた表情をしている。

 「……えっ!?」

 「分校長……。」

 「ふん……。」

 他の教官方は気づいていなかった事から、一定レベルの武力を持った人物にしか感じ取れないものだったのだろう。本当にどうやっているんだか…。

 「ククク。いや、すまんな。まさか少し見ない内にここまでになるとは思いもよらなんだ。試してみたくもなるだろう?」

 その言葉と共に剣気が霧散する。やっと一息つけるな…。

 「いや、普通はなりませんよ。」

 「シャーリィみてぇなこと言うお人だな。おっかねぇ。」

 ランドルフ中尉も流石にこの人の行動には呆れているようだ。…同じような人物に心当たりがある辺り、クロスベルでも苦労したのかもしれない。

 「しかし、シュバルツァー。まさかとは思ったが…『至った』な?」

 「っ!?」

 あれだけでそこまで見抜くのか。もとから人外じみていたが…流石は『黄金の羅刹』。

 「貴方相手では誤魔化せませんね…。ええ、今月始めに奥伝を授かりました。」

 「ほう。八葉の奥伝、つまりは《剣聖》となったと。……ククク、これはこれは分校での楽しみが増えたというものだ。」

 《剣聖》の言葉で周りの教官陣から驚く気配を感じたが、それよりも今後の分校生活で、この人の相手を定期的にやらされそうで怖い。

 「と言っても時期を早めた上での奥伝です。他の剣聖の方や実力者には一歩も二歩も劣りますよ。」

 「謙遜するな。八葉の頂きに昇る者は即ち《理》に至ると聞く。その若さで至ったことを誇るがよい。しかし、これは是非とも仕合ってもらわなくてはな。」

 この人は……。どこまでも強者を求める姿勢、羅刹とはピッタリすぎる異名だな。

 「あぁ〜と、俺はそこまで詳しくはねぇんだが、剣聖ってぇとあれか?アリオスの旦那と同レベルってことか?」

 それは言い過ぎだ。彼とは経験も技量も比べるまでもない。もちろん俺が劣るという意味で。

 「流石にそれはありませんよ。かの《風の剣聖》とは同じ流派の皆伝という意味で同じだけで、剣士としては彼に遥かに劣ります。」

 クロスベルに限らず有名すぎる《風の剣聖》。遊撃士としてもその実力は高く、S級への昇格を何度も断っていると聞く。一度脱退したそうだが、今は復帰しているようだ。

 もう一人であるカシウス師兄も既に剣は放してしまったが、それでもなお高い実力を維持している。あのレベルまでいくと得物は関係ないのだと思い知らされる。そんなお二人に比べれば俺なんてまだまだひよっこだ。

 そんな俺の説明を、分校長は獰猛な笑みで、ランドルフ中尉とトワ先輩は興味深そうに、アーヴィング少佐は『剣聖だと…?改めて評価をしなおさなくては…。』なんか大変そうだな。シュミット博士は変わらず興味はなさそう。

 そういったことで荒れてしまった初顔合わせだったが、アーヴィング少佐、もとい主任によってクラス編成や担当科目などの各自の分担が割り振られていく。しかし、これは――。

 

 特務科Ⅶ組:

  担当:リィン・シュバルツァー

  生徒:

   ・ユウナ・クロフォード

   ・クルト・ヴァンダール

   ・アルティナ・オライオン

 ※基本科目はⅧ組、Ⅸ組と合同とする。

 

 「おいおい……。何だよこのクラス分けは?」

 「特務科って……リィン君が居るからですか?」

 Ⅷ組とⅨ組を受け持つランドルフ中尉とトワ先輩からも疑問の声が上がる。三人という少ない人数に加え、敢えてⅦ組を冠する特務科。この意図は、明らかに自分を意識されて作られている。

 そんな疑問に答えたのは分校長となるオーレリア将軍だった。

 「その通り。このクラスはシュバルツァーを含めた四人で小隊とし、特別実習では他のクラスとは離れて特務活動を行ってもらう。なに、シュバルツァーならば慣れたものだろう。」

 この発言にアーヴィング主任は重苦しい感情を込めて補足する。

 「シュバルツァーには全体的な演習でのサポートを期待していたんだがな…。」

 どうやら分校長から鶴の一声で決まったクラスのようだな。こうなると生徒…と言ってもアルティナはわかるので、残りの二人も特別な理由がありそうだ。

 クルト・ヴァンダールはその名の通り、帝国での二大流派であるヴァンダール流の関係者だろう。昨年、これまで独占してきた皇族の守護役を解任されたが、セドリック殿下と同じ年頃の息子がいた筈だ。本校に行かなかった理由はその辺も含まれているのかもしれない。

 そしてユウナ・クロフォード。クロスベル軍警学校出身。わざわざクロスベルから帝国の分校へ進学して来るとは思えないため、何らかの事情があるのだろう。ランドルフ中尉も確か軍警学校出身の筈だが、流石に年も離れているし知り合いということはないだろうが、一応聞いてみるか。

 「ランドルフ中尉。この生徒について心当たりあったりしますか?」

 「ん?あぁん?おいおい……なんでユウ坊が分校に来てんだよ!?」

 「いや、俺もそれは知りませんが……彼女をご存じなんですか?」

 軍警学校で知り合ったのだろうか。いや、もしかしたら彼が所属していた――。

 「あぁ、前の職場でちょくちょく遊びに来てた子だ。軍警学校に入ったのは知っていたが…。」

 かつての職場。つまり特務支援課繋がり、か。じゃあ、なおさら帝国に良い感情は持っていないだろうことは想像できるが、余計に進学してきた意味がわからないな。 

 「それはそうと、俺もここでは教官だからな。……どうせなら階級じゃなくて、教官って呼んでくれや。そっちがいいなら呼び捨てでも構わないぜ?」

 「いえ、流石に呼び捨ては遠慮しますよ。」

 思っているよりもフレンドリーに接してくれているが、眼の奥には探るような感情も含まれている。……当然だな。去年のクロスベル戦役では、所属していた部署のリーダーである『彼』と俺は戦っているわけだし。

 「真面目だねぇ…。まぁいいさ。これからよろしく頼むぜ、シュバルツァー教官。」

 「ええ。こちらこそよろしくお願いします。ランドルフ教官。」

 ――その後も細々とした役割について主任が説明を行っていったが、特に問題がある内容ではなかった。

 「さて、これで伝えるべきことは全てだが……分校長は何か有りますか?」

 主任から声をかけられた分校長も特に言うことはないのか首を横に振る。

 「では、各自明日から励んでもらいたい。――解散。」

 

 解散を告げられ分校から出た俺は、教官陣も住むことになる学生寮へ向けてリーヴスの景色を眺めながら歩いていた。

 「トリスタもいい所だったけど、ここもいい雰囲気だな。」

 町の住人たちは軍の施設ができたことで戸惑いも大きいだろうが、そこは今後の活動で納得してもらえるように頑張っていけばいいだろう。

 利用することが多くなる商店の場所などを記憶しながらゆっくりと歩く。明日からは生徒たちの荷物を各部屋に配置したり、分校内の設備を整えたりと忙しくなる。

 今日は外食で済ませるか……。ちょうど食事処も見つけたので、これ幸いと店へと入ろうとすると、背後から声をかけられた。

 「リィン君っ!」

 聞きなれた声の方向に振り向けば――。

 「あれ?」

 視界には予想していた人物の姿が見えない。幻聴にしてははっきりと聞こえたのだが……。

 「もうっ!!下だよ、下!」

 その声に従って視界をずらせば、そこには先ほどまで一緒に説明を受けていたトワ先輩の姿が。

 「絶対にわざとでしょ!リィン君はいつからそんなに意地悪になったのかな!?」

 頬を膨らませ怒ってますアピールをしているトワ先輩。それも似合っているだけで怖くはないが、やり過ぎると後々怖いことになるので素直に謝ることにする。

 「すみませんでした。ちょっとふざけすぎましたね。」

 「……うんっ!素直に謝ってくれたので許してあげる!」

 「はは、ありがとうございます。――所で俺に何か用ですか?」

 わざわざ声をかけてきたのだから、何かしらの用事があると思うのだが。

 「あ、そうそう。これからごはん食べるなら一緒にどうかなって!」

 食事処に入ろうとした俺を見て判断したのだろう。こちらとしても断る理由はないので、その提案をありがたく了承する。

 「ええ、こちらからお願いしたいくらいです。」

 「えへへ、そっか。じゃあ、そうしよう!」

 目の前の扉を開けて、空いてる席へと座り食事を注文する。程なくして先に飲み物が届いたことでまずは乾杯の挨拶。

 「じゃあこれから教官としてよろしくってことで!乾杯っ!!」

 「ご指導よろしくお願いします、トワ先輩。乾杯。」

 久々に会ったことで話は弾み、これまでの活動や今後の展望など、時間を忘れて楽しみながら、リーヴスでの一日は過ぎていった。

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